説明

サイクリングパンツ

【課題】 大臀筋および大腿筋の働きを補助してペダリングパワーを向上させ得るサイクリングパンツの提供。
【解決手段】 サイクリストが自転車に搭乗する際に装着するための、伸縮性生地からなるサイクリングパンツであって、サイクリストの大臀筋から大腿二頭筋に相当する領域に亘って、他の部分に比べてその面方向での伸縮率が低い高弾性生地を設けている構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリストが自転車に搭乗する際に装着する、サイクリングパンツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運動用衣服として、下記特許文献1が提案されている。ここに開示されている運動用衣服は、運動能力を補助するための特定の筋肉をサポート(保護)するサポート部分が、大臀部を避けるよう設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−214303(特許第3740344号)号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、大臀筋(大臀部)や大腿筋の筋力を充分に利用するようにペダリングを行うことで、サイクリストのペダリングパワー(踏力)が向上することが知られている。しかしながら、上記従来の運動用衣服は、大臀筋や大腿筋の筋力の発揮を補助する構成は有していないから、ペダリングパワーの向上は期待できなかった。
【0005】
そこで本発明は上記課題に鑑み、大臀筋および大腿筋の働きを補助してペダリングパワーを向上させ得るサイクリングパンツの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、サイクリストが自転車に搭乗する際に装着するための、伸縮性生地からなるサイクリングパンツであって、サイクリストの大臀筋から大腿二頭筋に相当する領域に亘って、他の部分に比べてその面方向での伸縮率が低い高弾性生地を設けていることを特徴としている。
【0007】
上記構成において、サイクリストのペダリング動作における大臀筋および大腿二頭筋の体積膨張に応じて高弾性生地がその面方向に伸長し、伸長した高弾性生地は、弾性が高い分だけ収縮方向への大きなエネルギーが蓄積された状態にあり、サイクリストのペダリング動作に伴う大臀筋および大腿二頭筋の体積収縮に伴って高弾性生地がその面方向に収縮する際に前記エネルギーが開放されるから、大臀筋および大腿二頭筋の体積収縮を充分に補助(アシスト)することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のサイクリングパンツでは、サイクリストの大臀筋から大腿二頭筋に相当する領域に亘って、他の部分に比べてその面方向での伸縮率が低い高弾性生地を設けているから、サイクリストのペダリング動作における大臀筋および大腿二頭筋の体積膨張に応じて面方向に伸長した高弾性生地は、弾性が高い分だけ収縮方向への大きなエネルギーが蓄積された状態にあり、サイクリストのペダリング動作に伴う大臀筋および大腿二頭筋の体積収縮に伴って高弾性生地がその面方向に収縮する際に前記エネルギーが開放され、大臀筋および大腿二頭筋の体積収縮を充分に補助することで、ペダリングパワーの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を表すサイクリングパンツの正面図である。
【図2】同サイクリングパンツの背面図である。
【図3】同サイクリングパンツの側面図である。
【図4】同サイクリングパンツの装着状態における脚の筋肉と高弾性生地との関係を示す背面図である。
【図5】同高弾性生地の伸縮状態の模式的説明図で、(a)は伸縮の基準のない場合での模式図、(b)は伸縮の基準を想定した場合の模式図である。
【図6】同サイクリストのペダリング動作を表す側面図である。
【図7】同サイクリストが膝を大きく曲げている姿勢(右足でペダルを踏み込んでいる姿勢)の斜視図である。
【図8】同図7の姿勢から右足がさらに回転した姿勢(右足を戻しつつある姿勢)の斜視図である。
【図9】同ペダルの回転角度と用いる筋肉の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1ないし図9に基づいて、本発明の一実施形態に係るサイクリングパンツを説明する。該サイクリングパンツ10は、主にロードレーサやマウンテンバイクなどのスポーツ走行を目的とする自転車Bに搭乗する際に、サイクリスト(搭乗者)Hが着用するパンツである。サイクリングパンツ10は、サイクリストHが装着してサイクリストHが何らかの動作をして筋肉の形状等が変化することで、該動作に伴ってサイクリストHの体の表面に沿って伸縮する生地で形成されている。すなわちサイクリストHの体の表面に沿う方向が、サイクリングパンツ10を構成する伸縮性生地の面方向に相当する。
【0011】
図1ないし図4に示すように、サイクリングパンツ10は、パンツ本体12と、パンツ本体12に固定された左右一対の肩紐部14とを有している。パンツ本体12は、たとえばポリエステルなどの伸縮性を有する生地が用いられている。なお、図1ないし図3は、生地を伸長させない状態、すなわちサイクリストHに装着されていない状態で描いている。図4はサイクリストHに装着された状態で描いている。
【0012】
パンツ本体12は、前ウエスト部20と、前ウエスト部20と共にサイクリストHの上半身を覆うウエスト開口部26を形成する後ウエスト部22と、一対の脚開口部28の間に位置する股部24とを有している。
【0013】
前ウエスト部20は、容易に目視可能な多数の孔を形成した孔あきメッシュ製の素材で、正面視してU字状に湾曲して形成された前上部分20cと、孔なし素材で形成され股部24に連なる前下部分20dとを有している。前下部分20dは、両側部で縁部分まで延びている。
【0014】
後ウエスト部22は、一対の肩紐部14と一体形成されている。後ウエスト部22は、肩紐部14が連なって、容易に目視可能な多数の孔を形成した孔あきメッシュ製の素材で形成された後上部分22aと、孔なし素材で形成され股部24に連なる後下部分22bとを有している。
【0015】
後上部分22aは、後下部分22bに向けてU字状に突出して形成されている。後下部分22bも前下部分20dと同様に側部で縁部分まで伸びている。そして前ウエスト部20と後ウエスト部22との連結部分は、両側部でU字状に大きくえぐられている。
【0016】
一対の肩紐部14は、パンツ本体12の後ウエスト部22からサイクリストHの両肩を経由して前ウエスト部20に至っている。肩紐部14は容易に目視可能な多数の孔を形成した孔あきメッシュ製の素材からなり、前ウエスト部20の前上部分20cおよび後ウエスト部22の後上部分22aと同じ生地で一体的に形成されている。
【0017】
股部24は、一対の脚開口部28の間に位置し、サイクリストHの太腿H2および股H3を覆うように形成される。股部24は、前後のウエスト部20,22から脚開口部28が若干前方に向くように縫製されている。股部24において、サイクリストHの股H3に相当する領域(両裾の中間部)には、サイクリストHの股H3を保護するパッド部Pが設けられている。パッド部Pは、股H3の前後に亘るよう股部24に設けられており、サイクリストHの股H3を自転車BのサドルSとの摩擦等から保護するクッション材(図示せず)が生地裏に固定されている。
【0018】
股部24の後ろは、後下部分22bの下側に縫着される臀部生地23によって構成されている。股部24の下は、脚開口部28(サイクリングパンツ10の装着時にサイクリストHの膝上に位置する)を形成している裾部生地25から構成されている。臀部生地23は、裾部生地25と縫製されている。特に裾部生地25は編み生地によって形成されていることで、サイクリストHがサイクリングパンツ10を装着し自転車Bに搭乗してペダル33を回転させた際の装着感の好さを維持することができるようになっている。
【0019】
図2ないし図4に示すように、股部24の臀部生地23の一部が、サイクリストHの大臀筋M1から大腿二頭筋(ハムストリングの一部)M2に相当する領域に亘る、他の部分に比べて伸縮率の低い高弾性生地27から構成されている。高弾性生地27は、他の部分の生地に比べて伸縮率が低いから、逆に伸長した状態では、収縮力は他の部分の生地に比べて強い。この高弾性生地27は、サイクリストHの左右それぞれの大臀筋M1から大腿二頭筋M2の一部に相当するよう、臀部生地23の左右に振り分けて配置されている。各高弾性生地27は左右対称使いされているから、背面視して右側の高弾性生地27の形状について説明し、左側の高弾性生地27の形状の説明に兼用する。
【0020】
図5は、右側の高弾性生地27の、まだ臀部生地23の一部として縫着していない状態での単体図である。図においてX方向は幅方向(左右方向)であり、Y方向は丈方向(上下方向)である。高弾性生地27はX方向およびY方向に伸縮可能であり、さらにX方向成分およびY方向成分を含む方向にも伸縮可能である。なお、図5において実線は伸縮方向の力を受けていない状態を示し、仮想線はサイクリストHのペダリング動作によって最大に伸長した状態を示す。
【0021】
高弾性生地27は、下端辺30と右端辺31と湾曲辺32とにより略三角形状に形成されている。下端辺30は、高弾性生地27の幅方向に沿うよう直線状に形成されており、右端辺31は丈方向に沿うよう直線状に形成されており、湾曲辺32は下端辺30の内端(左端)と右端辺31の上端とを連続するよう幅方向内側に凸となる形状に形成されている。なお、右端辺31と湾曲辺32との交点である三角形の一つの頂点の内角は、鋭角となるよう形成されている。
【0022】
図2ないし図4に戻って、このような高弾性生地27は、臀部生地23の一部として用いられた状態では、湾曲辺32がパッド部P(後部パッド部)の側部を分割するように縫着され、右端辺31と湾曲辺32との交点である三角形の頂点は、後下部分22bと臀部生地23の境界部に位置付けられ、高弾性生地27の下端辺30は、裾部生地25に一致するよう設定されている。
【0023】
このような構造のサイクリングパンツ10は、着用の際には、両脚をパンツ本体12の脚開口部28に通すようにしてパンツ本体12を着用してから肩紐部14を両肩に掛けるようにする。そして、パンツ本体12は全体が伸縮性生地で形成されているから、臀部生地23がサイクリストHの臀部および太腿の裏側にフィットする。
【0024】
このサイクリングパンツ10をサイクリストHが装着して自転車Bに搭乗し、ペダリングを行った結果、ペダリングパワーが向上したことが、体感的に確かめられている。さらに、後述するように、ペダリング中における高弾性生地27において、臀部の周方向(図5における横方向に相当する)における最大伸び率と、臀部および大腿二頭筋を覆った状態での丈方向(図5における上下方向に相当する)における最大伸び率では、周方向の伸び率が丈方向の伸び率を上回っていることが判明した。
【0025】
ここで、サイクリングパンツ10をサイクリストHが装着して自転車Bに搭乗すると、サドルSにはパッド部Pが乗るようになるから、高弾性生地27が、パッド部Pの側部を分割するように縫着されている湾曲辺32の一部領域を基準に伸縮をする場合を想定し、ペダリング動作に伴う高弾性生地27の伸縮態様を、図5に基づいて説明する。
【0026】
サイクリストHは、サドルSに座った状態でペダリングを行う場面が最も多いと考えられる。このサドルSに座った状態をパッド部PがサドルSに固定された状態と想定すると、高弾性生地27は、湾曲辺32がパッド部Pの側部を分割するように縫着されているから、高弾性生地27は該縫着部分を伸縮の基準32aとして面方向に伸縮すると考えられる。すなわち、図のような模式図的には、湾曲辺32の途中にある基準32aに対して面方向に伸縮する。ペダリング中における高弾性生地27において、前述した、臀部の周方向における最大伸び率と、臀部および大腿二頭筋を覆った状態での丈方向における最大伸び率は、具体的には、周方向での最大伸び率が略30%であり、丈方向の最大伸び率が略10%であった。
【0027】
ところで、図6ないし図8に示すように、サイクリストHにおいて、自転車Bに搭乗して自転車Bのペダル33を360°回転させるペダリング(回転運動)に際して、大臀筋、大腿二頭筋、下腿三頭筋、前脛骨筋、半腱様筋、半膜様筋、腸腰筋などを、ペダル33の回転角度に応じて活用するよう努めると、ペダリングパワーが向上することが知られている。
【0028】
また、ペダル33を踏み込む手前(図9を参照して、例えば12時〜2時、あるいは11時〜3時ほどのペダリング領域で、膝を大きく曲げている姿勢)では、大臀筋M1は臀部周り方向に対して外方に体積膨張する(全体としては丈方向長さが縮む)ように変形する。そしてこのペダリング領域は、大臀筋M1の収縮活動が盛んな範囲である。一方で、例えば2時〜8時、あるいは3時〜9時ほどのペダリング領域付近では、大臀筋M1は伸長する(膨張状態の筋肉が収縮する)よう変形する。
【0029】
大臀筋M1がサイクリストHの臀部周りの外方へ向けて体積膨張すれば、大臀筋M1に対応する領域の一部を覆う高弾性生地27は、該体積膨張に応じて臀部周りに沿うよう面方向に伸長することになる。換言すれば、高弾性生地27に、その弾性に応じた面方向での伸長に対する大きな応力(収縮方向へのエネルギー)が発生した状態となる。なお、臀部周りでは、高弾性生地27以外の生地も面方向に伸長することになる。
【0030】
すなわち、ペダリング動作によって大臀筋M1が伸長する際には、予め面方向に伸長している高弾性生地27の応力の補助を受ける(収縮方向へのエネルギーが開放される)ことになる。このため、大臀筋M1がより伸長し易くなる。これによってペダリングパワーが向上するものと考えられる。
【0031】
また、特に大腿二頭筋M2は、図9に示すように、大臀筋M1からの力の受け継ぎが連続的に行われる部位である。そしてサイクリングパンツ10では、高弾性生地27が大腿二頭筋M2の一部も覆うから、大腿二頭筋M2(ハムストリングスの一部)が縮むのを、丈方向で補助する。このため、ペダリングパワーが向上するものと考えられる。
【0032】
要するに、本実施形態のサイクリングパンツ10では、高弾性生地27により、大腿二頭筋M2の収縮補助に加えて、大臀筋M1の収縮補助がなされ、これにより、ペダリングパワーを著しく向上させることができる。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、高弾性生地は、大臀筋および大腿二頭筋に対応する領域に施したが、半腱様筋、半膜様筋に相当する領域に施すことで、これら筋肉の動きの補助をするよう構成することもできる。
【符号の説明】
【0034】
10…サイクリングパンツ、12…パンツ本体、23…臀部生地、24…股部、27…高弾性生地、31…右端辺、32…湾曲辺、32a…基準、33…ペダル、B…自転車、H…サイクリスト、M1…大臀筋、M2…大腿二頭筋、P…パッド部、S…サドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクリストが自転車に搭乗する際に装着するための、伸縮性生地からなるサイクリングパンツであって、
サイクリストの大臀筋から大腿二頭筋に相当する領域に亘って、他の部分に比べてその面方向での伸縮率が低い高弾性生地を設けていることを特徴とするサイクリングパンツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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