説明

サイレントチェーン

【課題】インナープレート、ミドルプレートなどの歯がスプロケット歯に接触して噛み合い始めるときの衝撃を緩和して衝突音を低減することができると共に、噛合い開始時における連結ピンとピン孔とが受ける衝撃を緩和し、チェーンの長寿命化を図ることができるサイレントチェーンを提供することを目的とする。
【解決手段】サイレントチェーン1は、非ガイド列JL、ガイド列GLにそれぞれ配列したインナープレート2、ミドルプレート5の各ピン孔3,6に連結ピン10を挿入して連結してなる。インナープレート2のピン孔は内側方向に拡大された長孔のピン孔3であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチPになっている。インナープレート、ミドルプレートはいずれもスプロケット歯に内股4a,7aで噛合い始め、外股4b、7bで着座する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのタイミングドライブシステム、一般機械の動力伝達手段として用いるサイレントチェーンに関し、詳しくは、サイレントチェーンがスプロケットに噛み合う際、サイレントチェーンを構成するインナープレートの歯あるいはミドルプレートの歯が最初にスプロケット歯に接触するときの衝突音を低減できるようにしたサイレントチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サイレントチェーンは、一対のピン孔と一対の歯(二股状の歯)とを有するインナープレート及びミドルプレートをそれぞれ非ガイド列及びガイド列に複数配列するとともに、ガイド列の最外に一対のピン孔を有するガイドプレートを配置し、非ガイド列に配列したインナープレートとガイド列に配列したミドルプレートとを1枚あるいは数枚重ねで指組状に組み合わせて、ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンをインナープレート、ミドルプレートなどのピン孔に挿入して連結したものである。
【0003】
前記サイレントチェーンには、インナープレート、ミドルプレートなどプレートの歯の形状により種々の噛合いタイプがあり、主なものとして、プレートの歯の内股(内側フランク)がスプロケット歯との噛合いに関与するいわゆる内股噛合い・外股着座タイプのサイレントチェーン、あるいはプレートの歯の外股(外側フランク)がスプロケット歯との噛合いに関与するいわゆる外股噛合い・外股着座タイプのサイレントチェーンなどが公知である(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。
【0004】
前記内股噛合い・外股着座タイプのサイレントチェーンは、各々のプレートの歯がスプロケット歯と噛合うとき、まず、チェーン進行方向前側の歯の内股がスプロケット歯に接触して噛合い始め、この噛合いの進行に伴って噛合い点がスプロケット歯の歯面に沿ってスプロケット歯底側に移動する。
この移動の途上において、内股から外股に噛合いが移行して、外股の両外側フランクが順にスプロケット歯の歯面に沿ってスプロケット歯底側に滑り込み、噛合い終了時に外股(両外側フランク)がスプロケット歯に接触して着座状態となる。この場合、スプロケット歯との噛合い過程でプレートの内股及び外股の両方がスプロケット歯と接触する。
【0005】
また、前記の外股噛合い・外股着座タイプのサイレントチェーンは、チェーン進行方向後方の歯の外股(外側フランク)がまずスプロケット歯に接触して噛み合い始め、そのまま噛合い動作終了まで歯面に沿って噛合い点が移動し、その途上で前方歯の外股(外側フランク)もスプロケット歯に接触して噛合い、噛合い終了時に外股(両外側フランク)がスプロケット歯に接触して着座状態となる。この場合、スプロケット歯との噛合い過程でプレートの歯は外股のみがスプロケット歯と接触し、終始内股は接触しない。
【0006】
従来のサイレントチェーン21の一部断面図を図10に示す。サイレントチェーン21は、一対の円形のピン孔22及び一対の歯(図示略)を有するインナープレート23を非ガイド列JLに配列し、一対の円形のピン孔24及び一対の歯(図示略)を有するミドルプレート25をガイド列GLに配列すると共にガイド列GLの最外に一対のピン孔26を有するガイドプレート27を配置する。
非ガイド列JL及びガイド列GLにそれぞれ配列したインナープレート23とミドルプレート25とを指組状に組み合わせて、ガイドプレート27のピン孔26に固定した連結ピン28を各プレート23,25の円形のピン孔22,24に挿入して形成されている。
このインナープレート23の歯(図示略)、ミドルプレート25の歯(図示略)は、いずれもスプロケット歯に内股で噛合い始め、外股で着座する。
【特許文献1】特開2008−138789号公報
【特許文献2】特開2000−329199号公報
【特許文献3】特許第3076022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のサイレントチェーン21は、図10に示すように、連結ピン28がインナープレート23及びミドルプレート25のそれぞれの円形のピン孔22,24に隙間がほとんど無い状態で挿入されているため、最初にインナープレート23の歯(図示略)、あるいはミドルプレート25の歯(図示略)の内股がスプロケット歯に接触(衝突)して噛み合い始めるとき、接触時の衝撃により衝突音が発生する、という問題がある。
このため、サイレントチェーンの更なる低騒音化が要請されている現状においては、この要請に充分答えられない。
また、連結ピン28とピン孔22,24との間には、接触時の衝撃を緩和するほどの隙間がないため、噛合い開始時における衝撃が連結ピン28とピン孔22,24加わりチェーン寿命が低下する、という問題がある。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みて、最初にインナープレートの歯あるいはミドルプレートの歯がスプロケット歯に接触(衝突)して噛み合い始めるとき、接触時の衝撃を緩和して噛合い開始時における衝突音を低減すると共に、噛合い開始時における連結ピンとピン孔とが受ける衝撃を緩和し、チェーンの長寿命化を図るサイレントチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に係る本発明は、一対のピン孔及び一対の歯を有するインナープレート及びミドルプレートを非ガイド列及びガイド列に複数配列すると共に、該ガイド列の最外に一対のピン孔を有するガイドプレートを配置し、前記非ガイド列に配列したインナープレートと前記ガイド列に配列したミドルプレートとを指組状に組み合わせて、前記ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンを前記インナープレート及びミドルプレートのピン孔に挿入して連結したサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートの一対のピン孔が該インナープレートの内側方向に拡大された長孔のピン孔であると共に、前記ミドルプレートの一対のピン孔が円形のピン孔であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチであり、前記インナープレートの歯及びミドルプレートの歯がいずれもスプロケット歯に内股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座するサイレントチェーン、としたものである。
なお、上記連結ピンは、丸ピンでも、長ピン及び短ピンからなる所謂ロッカーピンでも構わない。
【0010】
請求項2に係る本発明は、前記請求項1に係る本発明のサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートのピン孔が、一対のピン孔が内側にさらに拡大した拡大部で連通した1つのピン長孔となっているものである。
【0011】
請求項3に係る本発明は、前記請求項1に係る本発明のサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートの長孔のピン孔の上辺部が、スプロケット歯に該インナープレートの歯が最初に着座した状態で、該着座しているスプロケット歯先におけるスプロケット外接円の接線とほぼ並行であり、このほぼ並行な上辺部により該長孔のピン孔の拡大部分側の上下間隔が広くなっているものである。
【0012】
請求項4に係る本発明は、前記請求項1に係る本発明のサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートの長孔のピン孔の拡大部の寸法が、チェーン長手方向に隣接する非ガイド列のインナープレート端部間の間隔より大きいものである。
【0013】
請求項5に係る本発明は、一対のピン孔及び一対の歯を有するインナープレート及びミドルプレートを非ガイド列及びガイド列に複数配列すると共に、該ガイド列の最外に一対のピン孔を有するガイドプレートを配置し、前記非ガイド列に配列したインナープレートと前記ガイド列に配列したミドルプレートとを指組状に組み合わせて、前記ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンを前記インナープレート及びミドルプレートのピン孔に挿入して連結したサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートの一対のピン孔が該インナープレートの内側方向に拡大された長孔のピン孔であると共に、前記ミドルプレートの一対のピン孔が円形のピン孔であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチであり、前記インナープレートの歯がスプロケット歯に内股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座すると共に、前記ミドルプレートの歯がスプロケット歯に外股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座するサイレントチェーン、としたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によれば、一対のピン孔及び一対の歯を有するインナープレート及びミドルプレートを非ガイド列及びガイド列に複数配列し、ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンを前記インナープレート及びミドルプレートのピン孔に挿入して連結したサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートの一対のピン孔が該インナープレートの内側方向に拡大された長孔のピン孔であると共に、前記ミドルプレートの一対のピン孔が円形のピン孔であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチであり、前記インナープレートの歯及びミドルプレートの歯がいずれもスプロケット歯に内股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座するので、特に、インナープレートのピン孔が長孔のピン孔であることにより連結ピンに対してインナープレートが移動可能になり、ガイド列と非ガイド列とが相対的に移動可能になるため、非ガイド列のインナープレートの前側の歯(チェーン進行方向前側の歯)あるいはガイド列のミドルプレートの前側の歯(チェーン進行方向前側の歯)の内股がスプロケット歯に最初に接触して噛合い始めたとき、ガイド列が非ガイド列に対して僅かに前方に移動する。その結果、インナープレートの歯あるいはミドルプレートの歯とスプロケット歯との噛合い開始時における衝撃を緩和して衝突音を低減することができる。
【0015】
また、噛合い開始時における衝撃を緩和できるため、連結ピンとインナープレートの長孔のピン孔との衝撃が緩和されると共に、連結ピンとミドルプレートのピン孔との衝撃も緩和されるので、サイレントチェーンの長寿命化を図ることができる。
さらに、インナープレートのピン孔が長孔のピン孔であることにより、長孔のピン孔縁部と連結ピンとの間に隙間ができるため、この隙間により多くの油を保持する。
その結果、チェーンの摩耗伸びを抑制することができる。
【0016】
請求項2に係る本発明のサイレントチェーンによれば、前記請求項1に係る本発明のサイレントチェーンが奏する効果に加えて、前記インナープレートのピン孔が、一対のピン孔が内側にさらに拡大した拡大部で連通した1つのピン長孔であるので、非ガイド列のインナープレートの製造を簡素化することができる。
【0017】
請求項3に係る本発明のサイレントチェーンによれば、前記請求項1に係る本発明のサイレントチェーンが奏する効果に加えて、前記インナープレートの長孔のピン孔の上辺部が、スプロケット歯に該インナープレートの歯が最初に着座した状態で、該着座しているスプロケット歯先におけるスプロケット外接円の接線とほぼ並行であり、このほぼ並行な上辺部により該長孔のピン孔の拡大部分側の上下間隔が広くなっているので、連結ピンが長孔のピン孔の外側端から内側にずれやすくなるため、連結ピンとインナープレートとの相対的移動をしやすくする。
その結果、プレートの歯とスプロケット歯との接触時の衝撃を緩和して噛合いによる騒音をさらに低減することができる。
【0018】
請求項4に係る本発明のサイレントチェーンによれば、前記請求項1に係る本発明のサイレントチェーンが奏する効果に加えて、前記インナープレートの長孔のピン孔の拡大部の寸法が、チェーン長手方向に隣接する非ガイド列のインナープレート端部間の間隔より大きいので、例えば、高速回転時、緩み側でサイレントチェーンがスプロケットに噛み込む際、非ガイド列のインナープレートのピン孔が長孔のピン孔であることにより、噛合い開始時にガイド列がずれて移動するため、インナープレートの内股とミドルプレートの外股がスプロケットの同一の歯の歯面に接触して噛み合うことになる。
その結果、一枚当たりの各プレートにかかる面圧が小さくなり、低騒音化を図ることができる。
【0019】
請求項5に係る本発明によれば、一対のピン孔及び一対の歯を有するインナープレート及びミドルプレートを非ガイド列及びガイド列に複数配列し、ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンを前記インナープレート及びミドルプレートのピン孔に挿入して連結したサイレントチェーンにおいて、前記インナープレートの一対のピン孔が該インナープレートの内側方向に拡大された長孔のピン孔であると共に、前記ミドルプレートの一対のピン孔が円形のピン孔であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチであり、前記インナープレートの歯がスプロケット歯に内股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座すると共に、前記ミドルプレートの歯がスプロケット歯に外股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座するので、特に、インナープレートのピン孔が長孔のピン孔であることにより連結ピンに対してインナープレートが移動可能になり、ガイド列と非ガイド列とが相対的に移動可能になるため、非ガイド列のインナープレートの前側の歯(チェーン進行方向前側の歯)の内股がスプロケット歯に最初に接触して噛合い始めたとき、あるいはガイド列のミドルプレートの後側の歯(チェーン進行方向後側の歯)の外股がスプロケット歯に最初に接触して噛合い始めたとき、いずれの場合もインナープレートのピン孔が長孔のピン孔であることにより、ガイド列が非ガイド列に対して僅かに前方にずれて移動する。
その結果、インナープレートの歯あるいはミドルプレートの歯とスプロケット歯との噛合い開始時における衝撃を緩和して衝突音を低減することができる。
【0020】
また、噛合い開始時における衝撃を緩和できるため、連結ピンとインナープレートの長孔のピン孔との衝撃が緩和されると共に、連結ピンとミドルプレートのピン孔との衝撃も緩和されるので、サイレントチェーンの長寿命化を図ることができる。
さらに、インナープレートのピン孔が長孔のピン孔であることにより、長孔のピン孔縁部と連結ピンとの間に隙間ができるため、この隙間により多くの油を保持する。
その結果、チェーンの摩耗伸びを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施例1を図1〜図5を参照して説明する。サイレントチェーン1は、以下詳述するが、非ガイド列JLに配列した複数のインナープレート2とガイド列GLに配列した複数のミドルプレート5とをそれぞれのピン孔3,6に連結ピン10を挿入し連結して形成される。
【0022】
図1に示すように、非ガイド列JLに配列されるインナープレート2は、一対のピン孔3,3及び一対の歯(二股状の歯)4,4を有し、このピン孔3は円形のピン孔がインナープレート2の中央寄り、すなわち内側方向に拡大された拡大部3aを有する長孔のピン孔3である。
図2に示すように、ガイド列に配列されるミドルプレート5は、一対のピン孔6,6及び一対の歯(二股状の歯)7,7を有し、このピン孔は円形のピン孔6である。
なお、図1、図2における符号4c,7cはクロッチ部である。また、このインナープレート2とミドルプレート5とは外郭形状が同じであり、インナープレート2及びミドルプレート5は、それぞれの歯4、歯7がスプロケット歯に内股(内側フランク)4a、7aで噛合い始め外股(外側フランク)4b,7bで着座する内股噛合い・外股着座タイプである。また、ガイド列GLの最外に配置されるガイドプレート8は一対のピン孔9,9を有する。
【0023】
図3に示すように、サイレントチェーン1は、ミドルプレート5及びインナープレート2をそれぞれガイド列GL及び非ガイド列JLに複数配列すると共に、ガイド列GLの最外にガイドプレート8を配置し、非ガイド列JLのインナープレート2とガイド列GLのミドルプレート5とを指組状に組み合わせて、ガイドプレート8のピン孔9に固定した連結ピン10をインナープレート2の長孔のピン孔3及びミドルプレート5の円形のピン孔6に挿入して連結したものである。
【0024】
このサイレントチェーン1は、図3に示すように、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で、連結ピン10はインナープレート2の長孔のピン孔3の外側端に接触するため、隣り合う連結ピン10,10の中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチPとなっている。すなわち、図3に示すように、非ガイド列JLの連結ピン10,10間ピッチPjとガイド列GLの連結ピン10,10間ピッチPgとが等しく、P=Pg=Pjの関係にある。
【0025】
また、サイレントチェーン1は、インナープレート2の長孔のピン孔3の拡大部3aの寸法eは適宜でよいが、図5に示すように、インナープレート2の長孔のピン孔3の拡大部3aの寸法eを非ガイド列JLのインナープレート2端部間の間隔fより大きく、すなわち、e>fとすることが好ましい。
【0026】
以上実施例1のサイレントチェーン1の構造を説明したが、以下図3、図4を参照して作用効果について説明する。
サイレントチェーン1が駆動側のスプロケット11に巻き付いて、図4に示すように、非ガイド列JLのインナープレート2の歯4とスプロケット歯12とが噛合い始める場合、例えば、図3をも参照すると、最初に、非ガイド列JL(A)のインナープレート2(A)の前側の歯(チェーン進行方向前側の歯)4の内股(内側フランク)4aがスプロケット歯12に接触して噛合い始めたとき、このインナープレート2(A)が前方に推進力を受ける。
そうすると、連結ピン10が長孔のピン孔3内を拡大部3aの方向に移動可能、すなわち、連結ピン10に対してインナープレート2(A)が移動可能であることにより、図3に示すように、非ガイド列JL(A)の各インナープレート2(A)が前方(矢印Y1方向)に僅かにずれて移動し、それに伴って、この非ガイド列JL(A)のうしろに位置するガイド列GL(B)が前方(矢印Y2方向)に僅かにずれて移動し、このときは後続のチェーンも引っ張られる。
その結果、非ガイド列JL(A)に配列されているインナープレート2(A)の歯4とスプロケット歯12との接触時の衝撃を緩和して噛合い開始時における衝突音を低減することができる。
【0027】
ガイド列GLのミドルプレート5の歯7とスプロケット歯12とが噛合い始める場合、最初にガイド列GL(B)のミドルプレート5(B)の前側の歯(チェーン進行方向前側の歯)7の内股(内側フランク)7aがスプロケット歯12に接触して噛合い始めると、このミドルプレート5(B)が前方に推進力を受ける。
そうすると、連結ピン10がインナープレート2の長孔のピン孔3内を拡大部3aの方向に移動可能、すなわち連結ピン10に対してインナープレート2が移動可能であることにより、ミドルプレート5(B)の配列されたガイド列GL(B)が前方(矢印Y2方向)に僅かに移動する。
その結果、ガイド列GL(B)に配列されているミドルプレート5(B)の歯7とスプロケット歯12との接触時の衝撃を緩和して噛合い開始時における衝突音を低減することができる。
【0028】
前記のように、噛合い開始時における衝撃を緩和できるため、連結ピン10とインナープレート2の長孔のピン孔3との衝撃が緩和されると共に、連結ピン10とミドルプレート5のピン孔6との衝撃も緩和されるので、サイレントチェーンの長寿命化を図ることができる。
【0029】
また、図5に示すように、e>fとした場合、例えば、高速回転時、緩み側でサイレントチェーンがスプロケットに噛み込む際、前述したように、非ガイド列JLのインナープレート2のピン孔が長孔のピン孔3であることにより、噛合い開始時にガイド列GL(B)がずれて移動するため、e=fとなったところで、非ガイド列JLのインナープレート2の内股4aと、隣り合うガイド列GLのミドルプレート5の外股7aとがスプロケット11の同一の歯12の歯面に接触して噛み合うことになる。
その結果、一枚当たりの各プレートにかかる面圧が小さくなり、低騒音化が可能になる。
【0030】
連結ピン10がインナープレート2の長孔のピン孔3内を拡大部3aの方向に移動可能であるので、図8に示すように、長孔のピン孔3の縁部と連結ピン10との間に隙間gができるため、この隙間gにより多くの油を保持する。
その結果、チェーンの摩耗伸びを抑制することができる。
【0031】
また、サイレントチェーン1の進行中、フリースパンでの弦振動発生、高速回転時の緩み側のチェーンふくらみ、摩耗伸びによる噛合いピッチの増大など、設計時に考慮していた噛合いから外れて、図9に示すように、撓みhが生じ、トランスファーケースMの軸変形が起こった場合でも、非ガイド列JLのインナープレート2のピン孔が長孔のピン孔3であることにより、その変形に追従でき、強度、低騒音化を維持することが可能である。
【0032】
この実施例1では、サイレントチェーン1が駆動側のスプロケット11に巻き付く場合について説明したが、従動側スプロケットに巻き付く場合も、緩み側のチェーンもそれぞれの歯4,7が内股から噛合い始め、同じようにインナープレート2の歯4、あるいはミドルプレート5の歯7とスプロケット歯12との接触時の衝撃を緩和して噛合い開始時における衝突音を低減することができる。
【0033】
本発明の実施例2のサイレントチェーン(図示略)に用いるインナープレート13について図6を参照して説明する。
インナープレート13は、前記実施例1のインナープレート2の長孔のピン孔3をさらに中央寄り内側に拡大して拡大部が連通した1つのピン長孔14としたものである。
このようにすると、インナープレート13の製造を簡素化することができると共に、前記実施例1のサイレントチェーン1と同等の作用効果を奏する。
【0034】
本発明の実施例3のサイレントチェーン(図示略)に用いるインナープレート15について図7を参照して説明する。インナープレート15は、長孔のピン孔16の上辺部16aが、スプロケット歯12にインナープレート15の歯17が着座した状態で、この着座しているスプロケット歯先12aにおけるスプロケット外接円12bの接線12cとほぼ並行になっているものである。このほぼ並行な上辺部16aにより長孔のピン孔16の拡大部16a側の上下間隔nが広くなっている。
このようにした場合、連結ピン10が長孔のピン孔16の外側端から内側にずれやすくなるため、連結ピン10に対してインナープレート15を移動しやすくする。
その結果、インナープレート15の歯17とスプロケット歯12との接触時の衝撃を緩和して噛合い時の衝突音をさらに低減することができる。
【0035】
本発明の実施例4のサイレントチェーン(図示略)について以下説明する。
このサイレントチェーンは、前記実施例1のサイレントチェーン1のミドルプレートのみ外股噛合い・外股着座のミドルプレート(図示略)に代えたものに相当する。
そこで、便宜的に、実施例1のサイレントチェーン1と共通する部材には同一符号を付して以下説明する。
【0036】
この実施例4のサイレントチェーンは、非ガイド列JLに一対の長孔のピン孔3及び一対の歯4を有するインナープレート2を複数配列し、ガイド列GLに一対の円形のピン孔及び一対の歯を有するミドルプレート(図示略)を複数配列すると共に最外に一対のピン孔9,9を有するガイドプレート8を配置し、非ガイド列JLに配列したインナープレート2とガイド列GLに配列したミドルプレートとをそれぞれ指組状に組み合わせて、ガイドプレート8のピン孔9に固定した連結ピン10をインナープレート2の長孔のピン孔3及びミドルプレートの円形のピン孔に挿入して連結したものである。
このサイレントチェーンは、前記実施例1と同様にインナープレート2の歯4がスプロケット歯12に内股4aで噛合い始め、噛合い終了時に外股4bで着座するが、ミドルプレートの歯はスプロケット歯12に外股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座する。
【0037】
このサイレントチェーンの作用効果は以下のとおりである。非ガイド列JLのインナープレート2の前側の歯(チェーン進行方向前側の歯)4の内股4aがスプロケット歯12に最初に接触して噛合い始めたとき、あるいはガイド列GLのミドルプレートの後側の歯(チェーン進行方向後側の歯)の外股がスプロケット歯12に最初に接触して噛合い始めたとき、いずれの場合も、インナープレート2の長孔のピン孔3により連結ピン10に対してインナープレート2が移動可能であることにより、ガイド列GLが非ガイド列JLに対して僅かに前方にずれて移動するため、インナープレート2の歯4、あるいはミドルプレートの歯とスプロケット歯12との接触(衝突)時の衝撃を緩和して噛合い開始時における衝突音を低減することができる。
【0038】
前記のように、噛合い開始時における衝撃を緩和できるため、連結ピン10とインナープレート2の長孔のピン孔3との衝撃が緩和されると共に、連結ピン10とミドルプレート5のピン孔6との衝撃も緩和されるので、サイレントチェーンの長寿命化を図ることができる。
【0039】
また、連結ピン10と長孔のピン孔3との衝撃も緩和されるため、サイレントチェーンの長寿命化を図ることができる。また、長孔のピン孔3であることにより、長孔のピン孔3縁部と連結ピン10との間に隙間ができるため、この隙間により多くの油を保持することができ、その結果、チェーンの摩耗伸びを抑制することができる。
【0040】
以上実施例について説明したが、多角形運動による上下動を抑制し、弦振動による騒音を抑制する場合、サイレントチェーンとして、長孔のピン孔3を有するインナープレートを周知(特許第3076022号公報、特許第3187802号公報、特許第3108417号公報等参照。)のように、スプロケットとの内股噛合いピッチと外股噛合いピッチとの関係がラックとピニオンとの噛合い理論に基づく関係になるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明実施例1のサイレントチェーンに用いるインナープレートの正面図である。
【図2】ミドルプレートの正面図である。
【図3】実施例1のサイレントチェーンの要部を示す一部断面図である。
【図4】サイレントチェーンとスプロケットとの噛合い状態の説明図である。
【図5】サイレントチェーンの一部正面図である。
【図6】実施例2のサイレントチェーンに用いるインナープレートの正面図である。
【図7】実施例3のサイレントチェーンに用いるインナープレートの説明図である。
【図8】ピン孔に油が保持される状態説明図である。
【図9】サイレントチェーンが撓んだ状態の説明面図である。
【図10】従来のサイレントチェーンの一部断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 サイレントチェーン 2,2(A),2(B) インナープレート
3 ピン孔 3a 拡大部
4 歯 4a 内股(内側フランク)
4b 外股(外側フランク) 5,5(B) ミドルプレート
6 ピン孔 7 歯
7a 内股(内側フランク) 7b 外股(外側フランク)
8 ガイドプレート 9 ピン孔
10 連結ピン 11 スプロケット
12 スプロケット歯 12a スプロケット歯先
12b スプロケット外接円 12c 接線
13 インナープレート 14 ピン長孔
15 インナープレート 16 長孔のピン孔
16a 上辺部 17 歯
P チェーン基準ピッチ Pg ガイド列GLの連結ピン間ピッチ
Pj 非ガイド列JLの連結ピン間ピッチ
JL,JL(A) 非ガイド列 GL,GL(B) ガイド列
e 拡大部3aの寸法 f インナープレート端部間の間隔
g ピン孔3の縁部と連結ピンとの間の隙間
h チェーンの進行方向に対する撓み
n 長孔のピン孔16の拡大部16a側の上下間隔
M トランスファーケース






【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のピン孔及び一対の歯を有するインナープレート及びミドルプレートを非ガイド列及びガイド列に複数配列すると共に、該ガイド列の最外に一対のピン孔を有するガイドプレートを配置し、前記非ガイド列に配列したインナープレートと前記ガイド列に配列したミドルプレートとを指組状に組み合わせて、前記ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンを前記インナープレート及びミドルプレートのピン孔に挿入して連結したサイレントチェーンにおいて、
前記インナープレートの一対のピン孔が該インナープレートの内側方向に拡大された長孔のピン孔であると共に、前記ミドルプレートの一対のピン孔が円形のピン孔であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチであり、
前記インナープレートの歯及びミドルプレートの歯がいずれもスプロケット歯に内股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座することを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項2】
前記インナープレートのピン孔が、一対のピン孔が内側にさらに拡大した拡大部で連通した1つのピン長孔であることを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。
【請求項3】
前記インナープレートの長孔のピン孔の上辺部が、スプロケット歯に該インナープレートの歯が最初に着座した状態で、該着座しているスプロケット歯先におけるスプロケット外接円の接線とほぼ並行であり、このほぼ並行な上辺部により該長孔のピン孔の拡大部分側の上下間隔が広くなっていることを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。
【請求項4】
前記インナープレートの長孔のピン孔の拡大部の寸法が、チェーン長手方向に隣接する非ガイド列のインナープレート端部間の間隔より大きいことを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。
【請求項5】
一対のピン孔及び一対の歯を有するインナープレート及びミドルプレートを非ガイド列及びガイド列に複数配列すると共に、該ガイド列の最外に一対のピン孔を有するガイドプレートを配置し、前記非ガイド列に配列したインナープレートと前記ガイド列に配列したミドルプレートとを指組状に組み合わせて、前記ガイドプレートのピン孔に固定した連結ピンを前記インナープレート及びミドルプレートのピン孔に挿入して連結したサイレントチェーンにおいて、
前記インナープレートの一対のピン孔が該インナープレートの内側方向に拡大された長孔のピン孔であると共に、前記ミドルプレートの一対のピン孔が円形のピン孔であり、チェーンに張力を作用して直線状に真っ直ぐに伸びた状態で隣り合う連結ピンの中心間距離が全て等しいチェーン基準ピッチであり、
前記インナープレートの歯がスプロケット歯に内股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座すると共に、前記ミドルプレートの歯がスプロケット歯に外股で噛合い始め、噛合い終了時に外股で着座することを特徴とするサイレントチェーン。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−71330(P2010−71330A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236760(P2008−236760)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)