サッカロミセスセレビシアエによるジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質の産生を増加させる方法
【課題】酵母によって産生されるジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質、特に組換え分泌タンパク質の収率を増加させる方法を提供する。
【解決手段】タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)酵素は分泌及び細胞表面タンパク質におけるジスルフィド結合の形成を触媒する。ここでは、ヒトPDI又は酵母PDIを調節的に過剰産生する酵母Saccharomyces cerevisiaeの組換え株の構築を開示する。これらの株は、治療面で潜在的に重要なジスルフィド結合をもつタンパク質を極めて多量に分泌する。これらの株は、ジスルフィド結合をもつ種々のタンパク質の産生を増加させる可能性を有する。
【解決手段】タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)酵素は分泌及び細胞表面タンパク質におけるジスルフィド結合の形成を触媒する。ここでは、ヒトPDI又は酵母PDIを調節的に過剰産生する酵母Saccharomyces cerevisiaeの組換え株の構築を開示する。これらの株は、治療面で潜在的に重要なジスルフィド結合をもつタンパク質を極めて多量に分泌する。これらの株は、ジスルフィド結合をもつ種々のタンパク質の産生を増加させる可能性を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え宿主細胞内でジスルフィド結合タンパク質を産生するための新規の方法と、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え酵母細胞とに関する。又、本発明は、ジスルフィド結合をもつ組換え分泌タンパク質の分泌を実質的に且つ予想外に増加させる組換え酵母宿主細胞にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、分泌タンパク質及び細胞表面タンパク質におけるジスルフィド結合の触媒に関わる酵素である。脊椎動物PDIの保存された(conserved)「チオレドキシン様」活性部位を検出するように設計されたオリゴヌクレオチド(WCGHCK)(配列番号:1)を用いて、本発明者らは下等真核生物Saccahromyces cerevliaeからPDIをコードする遺伝子を単離した。クローニングした遺伝子のヌクレオチド配列及び推定読取り枠は、分子量59,082及びpI 4.1の530アミノ酸からなるタンパク質を予測させるが、これらは哺乳動物PDIの物理的特徴である。また、アミノ酸配列は哺乳動物及び鳥類のPDI配列に対して30〜32%の同一性と53〜56%の類似性とを示し、全体的構造が極めて類似しており、特に、各々が反復性である二つの100残基セグメントが存在する。哺乳動物及び鳥類のPDIに対する最も大きな相同は、保存された「チオレドキシン様」活性部位を含む領域(a、a’)にある。N末端領域は開裂可能な分泌シグナル配列の特徴を有しており、C末端の4個のアミノ酸(−HDEL)(配列番号:2)は、該タンパク質がS. cerevisiae小胞体(E.R.)の成分であるということと合致している。この遺伝子(PDI1と称する)の複数のコピーを有する形質転換体は10倍のPDI活性レベルを有し、予測された分子量のタンパク質を過剰発現する。PDIl遺伝子は酵母ゲノム内で非反復性であり、定常期細胞には存在せず、また熱誘導もできない単一の1.8kb転写体をコードする。PDI1遺伝子の破壊はハプロ致死性(haplo−1ethal)であり、これは該遺伝子の産物が生存能力(viability)にとって必須のものであることを意味する。
【0003】
チオール:ジスルフィド交換反応を触媒する酵素であるタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、分泌細胞のE.R.内腔(lumen)の主な常在タンパク質成分である。該酵素の細胞分布、細胞下の位置及び発現特性に関して立証された一連の事項は、該酵素が分泌タンバク質の生合成である種の役割を果たすことを示唆しており(Freedman,1984,Trends Biochem.Sci.9,pp.438−41)、これはその場での(in situ)直接的架橋結合の研究によって裏付けされている(Roth及びPierce,1987,Biochemistry,26,pp.4179−82)。PDIを欠失しているミクロソーム膜が同時翻訳(cotranslational)タンパク質のジスルフィド形成の特異的欠如を示すという発見は(Bulleid及びFreedman,1988,Nature,335,pp.649−51)、該酵素が分泌及び細胞表面タンパク質の生合成の問に天然ジスルフィド結合形成の触媒として機能することを意味する。この役割は、該酵素のin vitroの触媒特性について知られている事実、即ち該酵素がチオール::ジスルフィド交換反応を触媒して正味のタンパク質ジスルフィドの形成、破壊又は異性化を生起させ、且つ多岐にわたる還元され且つ折り畳みのないタンパク質基質においてタンパク質の折り畳み及び本来のジスルフィド結合の形成を触媒することができるという事実と一致している(Freedmanら、1989,Biochem.Soc.Symp.,55,pp.167−192)。該酵素のDNA及びアミノ酸配列は幾つかの種について知られており(Scherens,B.ら,1991、Yeast,7,pp.185−193;Farquhar,R.,ら、1991,Gene,108,pp.81−89)、哺乳動物の肝臓から精製して均質にした該酵素の作用のメカニズムに関する情報も増えている(Creightonら,1980,J.Mol.Biol.,142,pp.43−62;Freedmanら,1988,Biochem.Soc.Trans.,16,pp.96−9;Gilbert,1989,Biochemistry 28,pp.7298−7305;Lundstrom及びHolmgren,1990,J.Biol.Chem.,265,pp.9114−9120;Hawkins及びFreedman,1990,Biochem.J.,275,pp.335−339)。細胞におけるタンパク質の折り畳み、アッセンブリー及びトランスロケーションの仲介物質として現在推定されている多くのタンパク質因子(Rothman,1989,Cell,59,591−601)のうち、PDIは明確に規定された触媒活性を有するという点で希有である。
【0004】
PDIは哺乳動物の組織から容易に単離され、均質酵素は特徴的な酸性pI(4.0〜4.5)を有するホモダイマー(homodimer)(2×57kD)である(Hillsonら、1984,Methods Enzymo1,107,pp.281−292)。該酵素はコムギ及び藻類Chlamydomonas reinhardiiからも精製された(Kaskaら,1990,Biochem.J.268,pp.63−68)。活性は広範囲の起源で検出されており、予備報告では、PDI活性はS.cerevisiaeにおいて検出可能であると断言された(Williamsら,1968,FEBS Letts.,2,pp.133−135)。最近になって、クローニングしたcDNA配列に主として由来する多くのPDIの完全アミノ酸配列が報告された。その中には、マウス由来(Edmanら,1985,Nature,317,pp.267−270)、ウシ由来(Yamauchiら,1987,Biochem.Biophys.Res.Comm.,146,pp.1485−1492)、ヒト由来(Pihlajaniemiら,1987,EMBO J.,6,pp.643−9)、酵母由来(Scherens,B.ら,前出引用文献;Farquhar,R.ら,前出引用文献)及びヒヨコ由来(Parkkoneら,1988,Biochem.J.,256,pp.1005−1011)のPDIがある。これらの脊椎動物種に由来するタンパク質は全体を通して高度の配列保存を示し、いずれも、最初にマウスPDI配列で観察された幾つかの総合的特徴を示す(Edmanら,1985、前出引用文献)。最も顕著なものは、互いに極めて相同であり且つチオレドキシン、即ち隣接Cys残基の間に形成された活性部位ジスルフィド/ジチオール対を含む小さいレドックス活性タンパク質に密接に関連した配列を有する残基数約100の二つの領域がPDI配列中に存在することである。チオレドキシンでは活性部位配列がECGPCK(配列番号:3)であり、PDI中に二つ存在する対応する領域は配列WCGHCK(配列番号:1)を有する(PDI配列中で同定された他の反復領域、モチーフ及び相同性については後で説明する)。
【0005】
PDIに対応するか又は密接に関連した配列は、ジスルフィド結合の形成以外の機能の分析を目的とする研究で同定された。例えば、PDIが、E.R.内の新生(nasacent)すなわち新合成(newly−synthesized)プロコラーゲンポリペプチドの主な翻訳後修飾を触媒する四量体α2β2酵素プロリル−4−ヒドロキシラーゼのβサブユニットとして作用するという事実が立証されている(Pihlajaniemiら,1987,前出引用文献;Koivuら,1987,J.Biol.Chem.,262,pp.6447−49)。また、PDIが同時翻訳のN−グリコシル化のシステムに関与することを示唆する事実もあり(Geetha−Habibら,1988,Cell,54,pp.63−68)、最近では、該酵素が、トリグリセリドを新生分泌リボタンパク質に変換する複合体に関与しているという説も出ている(Whatterauら,1990,J.Biol.Chem.265,pp.9800−7)。このように、PDIは分泌タンパク質の同時翻訳及び翻訳後修飾で複数の機能を果たし得る(Freedman,1989,Cell,57,pp.1069−72)。
【0006】
哺乳動物分泌タンパク質の大多数は、複数の分子内及び/又は分子間ジスルフィド結合を有している。非限定的具体例としては、下垂体ホルモン、インターロイキン、免疫グロブリン、プロテアーゼ及びその阻害物質、並びに他の血清タンパク質が挙げられる。この種のタンパク質は商業的遺伝子工学の主要標的の一つであるが、細菌及び酵母内でのこれらタンパク質の発現における初期の体験では、これらのタンパク質を機能的に活性な組換え産物として得る上で多くの問題があることが強調された。その結果、一般的には翻訳後修飾、特定的にはタンパク質の折り畳み及びジスルフィド結合形成をより深く解明する必要が重視されるようになった。
【0007】
単一の折り畳みドメインを有するジスルフィド結合をもつタンパク質は通常、正確にジスルフィド結合した状態を妥当な収率で形成するために、完全に還元、変性し、次いでin vitroで再生することができる。このプロセスでは、ゆっくり異性化して天然のジスルフィド結合を生起する多くの様々にジスルフィド結合した形態の混合集団が迅速に形成される。該プロセスは、チオール/ジスルフィド酸化還元緩衝液(例えばGSH及びGSSG)及びアルカリ性pHによって触媒される。沈殿及び鎖間ジスルフィド形成を防止するためには、タンパク質濃度を低くする必要がある。通常は、天然タンパク質の生成速度及び実現可能な最適収率はどちらも、分子内ジスルフィド数の増加に伴って低下する。この問題は、各ドメインが折り畳まれてそれぞれの天然ジスルフィド結合を独立して形成しなければならない複数のジスルフィド結合ドメインを含むタンパク質(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子)ではより重大である。
【0008】
in vivoのジスルフィド結合形成プロセスは、翻訳と同時に、又は極めて早期の翻訳後事象として生起する。哺乳動物細胞のE.R.内腔の新生及び新合成分泌タンパク質の研究では、天然ジスルフィド結合が既に形成されていることが判明している。in vivoのプロセスは、分泌細胞内に豊富に存在するタンパク質であり小胞体の内腔面(luminal face)に局在する酵素、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼによって触媒されると思われる[Freedman,R.B.,1984,Trend in Biochemical Sciences,9,438−441]。この酵素はin vitroで、広範囲のタンパク質基質においてチオール:タンパク質−ジスルフィド交換反応を触媒し、天然タンパク質ジスルフィド形成の細胞触媒に必要とされる特性を有する[Freedman,R.B.ら,1984,Biochem.Soc.Trans.,12,939−942]。該酵素の役割を明らかにする別の事項としては、(i)該酵素の組織分布がジスルフィド結合をもつ分泌タンパク質の合成のそれと合致するという事実[Brockway,B.E.ら,1980,Biochem.J.,191,873−876]、及び(ii)多くの系で、存在する酵素の量が、ジスルフィド結合をもつ分泌タンパク質の合成速度の生理学的変化に平行して変化するという事実[Brockway,B.E.ら,1980,Biochem.J.,191,873−876;Freedman,R.B.ら,1983,“Functions of Glutathione:Biochemical,Physiological,Toxicological & Clinical Aspects”,A.Larsson,S.Orrenius,A.Holmgren & B.Mannervik編,Raven Press,New York,pp.271−282;Paver,J.L.ら,1989,FEBS Letters,242,pp.357−362]が挙げられる。
【0009】
該酵素の特徴は、多くの動物源[Lambert,N.及びFreedman,R.B.,1983,Biochem.J.,213,pp.225−234]及びコムギ[de Azevedo,G.M.V.ら,1983,Biochem.Soc.Trans.,12,1043]で解明されており、分子特性及び動力学的特性の顕著な保存が観察された[Freedman,R.B.ら,1984・Biochem.Soc.Trans.12,pp.939−942;Brockway,B.E.及びFreedman,R.B.,1984,Biochem J.,219,51−59]。しかしながら、該酵素は、下等真核生物又は細菌においてはまだ十分に研究されていない。少なくとも一部の酵母分泌タンパク質(例えばキラー毒素)はジスルフィド結合を含んでいるため、酵母と高等真核生物との間の、分泌に関与するメカニズム及び分子成分の高度の相同性は、該酵素又は類似体が酵母内に存在することを強く示唆させる。
【0010】
商業的に重要な哺乳動物タンパク質の発現のための万能宿主(versatile host)としての酵母の使用は、酵母分泌系の限定された能力、及び該能力と高等真核生物のそれとの相違(例えばグリコシル化における相違)によって、ある程度の妥協を強いられる。
【0011】
本発明は、酵素タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え宿主細胞内でジスルフィド結合タンパク質を産生するための新規の方法と、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え酵母細胞とを提供する。本発明は、ジスルフィド結合をもつ組換え分泌タンパク質の分泌を実質的に且つ予想外に増加させる組換え酵母宿主細胞も提供する。
【0012】
発明の概要
ヒト及び酵母タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)をコードするDNAを単離し、プロモーターと転写ターミネーターとを含む発現カセット又はベクターにクローニングする。PDIをコードするDNAを含む発現カセット又はベクターを宿主細胞内にトランスファーすると、該細胞はPDIタンパク質を過剰産生する。これらのPDI過剰産生細胞を、ジスルフィド結合をもつタンパク質の発現のための組換え宿主として使用する。ジスルフィド結合をもつタンパク質の分泌は、PDI過剰産生宿主細胞では、通常レベルのPDIを産生する宿主細胞と比べて実質的に増加する。
【0013】
発明の詳細な説明
酵母におけるタンパク質の折り畳み及び分泌のプロセスは極めて複雑であり、遺伝子研究に基づいて言えば、30以上の遺伝子産物が関与している(Franzusoff,A.ら,1991,Methods Enzymology,194,pp.662−674)。これらの産物としては、ペプチジルプロリルシス−トランスイソメラーゼ、PDI及び他のチオレドキシン様タンパク質、BiP、種々の分子シャペロン(molecular chaperone)(hsp70、hsp60等)、シグナルペプチダーゼ、シグナル認識タンパク質、E.R.への前駆体のトランスロケーションに関与する種々のタンパク質、ERの種々の構造及び機能成分、ゴルジ(Golgi)、並びにまだ特徴が解明されていない分泌小胞及び多くのタンパク質が挙げられる(Franzuoff,A.ら,1991,前出引用文献;Rothman,J.E.及びOrci L.,1992,Nature,355,pp.409−415;Gething,M.G.及びSambrook,G.,1992,Nature,355,pp.33−45)。このような複雑さに鑑みて、単一の成分(即ちPDI)の量が増加するだけで特定の異種タンパク質の分泌が実質的に増加するという可能性は、当業者には極めて想到しにくいことと思われる。そこで本発明は、PDIの量が増加しただけで、例えばアンチスタシンのような分泌タンパク質の量が有意に且つ実質的に増加するという極めて意外な結果を提示した。これは、タンパク質の折り畳み及び/又はジスルフィド結合形成の促進に関連していると思われる現象である。
【0014】
本発明は、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)をコードするDNAを過剰発現させることにより、組換え宿主細胞による組換えタンパク質の産生を増加させる方法を提供する。本明細書中のPDIは、分子内及び分子間ジスルフィド結合の形成を特異的に触媒する酵素を意味する。
【0015】
幾つかの種に由来するPDI遺伝子のDNA配列は当業界で知られている。これらの種の非限定的具体例としては、ヒト、ウシ、ラット、ニワトリ及び酵母が挙げられる。[Mizunagaら,1990,J.Biochem.,108,pp.846−851;Scherensら,1991,Yeast,7,pp.185−193]。
【0016】
PDIをコードするDNAの単離における出発材料は任意の種類の細胞又は組織であってよく、非限定的具体例としては、哺乳動物及び他の脊椎動物の細胞及び組織、並びに下等真核生物の細胞及び組織が挙げられる。ここでは本発明を、組換え酵母宿主細胞内で発現される酵母及びヒトPDIを用いて説明する。当業者には容易に理解されるように、本発明では別の発現宿主、例えば非限定的具体例として哺乳動物細胞、植物細胞、細菌のような原核生物の細胞、昆虫細胞、並びに酵母及び糸状菌類のような下等真核生物の細胞も使用し得る。また、これも当業者には明らかなように、酵母及びヒ卜細胞以外の起源に由来するPDIコーディングDNAの使用も本発明の範囲内に包含される。PDIコーディングDNAの別の起源の非限定的具体例としては、ヒト以外の脊椎動物、例えばラット及びマウス、非脊椎動物、例えば昆虫、並びに下等真核生物、例えば菌類が挙げられる。
【0017】
Rothblatt及びMeyerの方法(1986,Cell,44,pp.619−28)の方法でS.cerevisiaeから調製したミクロソーム膜フラクションは低レベルのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)活性を有していたが、該レベルは音波処理によって8〜20倍増如した。これは、脊椎動物の同じ細胞コンパートメントに存在するPDI(Millsら,1983,Biochem,J.,213,pp.245−8);Lambert及びFreedman,1985,Biochem.,J.228,pp.635−45)及びコムギの同じ細胞コンパートメントに存在するPDI(Rodenら,1982,FEBS Lett.,138,pp.121−4)と類似の酵素が、該酵母の小胞体の内腔に存在することを示唆するものであった。高等真核生物酵素に対して相同の、PDIをコードする遺伝子をクローニングした。高度の保存を示す可能性が最も高い領域は、脊椎動物PDIにおいて高度に保存されており、特に二つの機能性ジチオール活性部位の領域でチオレドキシンに対して極めて強い相同を示すa及びa’ドメインであると思われる。活性部位の共通配列はFYAPWCGHCK(配列番号:4)である(Parkonnenら,1988,前出引用文献)。非還元性30マーオリゴヌクレオチドを酵母コドンバイアス(bias)に基づいて設計し(Sharpら,1986,Nucleic Acids Res.,14,pp.5125−43)、これを末端標識して、マルチコピーYEpプラスミドpMA3a内で構築した酵母ゲノムライブラリーのスクリーニングに使用した(Crouzet及びTuite,1987,Mol.Gen.Genet.,210,pp.581−3)。スクリーンから二つの極めて陽性のクローン(C7及びC10と称する)が回収され、予備制限地図を作成した結果、挿入体サイズはそれぞれ14kb及び14.5kbであり、二つの挿入物は共通の制限部位をいくつか有することが判明した。クローンC7の挿入物を更に分析した。
【0018】
クローンC7が確かにPDIをコードすることを確認するために、酵母S.cerevisiae株MD40/4[α trp1 ura2 his3 leu 2;Tuiteら,1986,E.M.B.0.J.,1,pp.603−608]をクローン7及び親プラスミドpMA3aで形質転換した。SDS−PAGE分析の結果、C7形質転換体は、主要58kDaポリペプチドを過剰発現し、おそらくは約77kDaの第二のポリペプチドも過剰発現することが判明した(第1図)。また、二つの株の無細胞溶解液をPDI活性についてアッセイしたところ、C7形質転換体は10倍のPDI活性レベル(38.6×10−5U/μgタンパク質)を示した。これら二つの事実は、活性部位配列WCGPCK(配列番号:3)を有するS.cerevisiaeチオレドキシンは分子量が約12kDaであるため(Porqueら、1970,J.Biol.Chem.,245,pp.2363−70)、C7クローンがPDIをコードし、チオレドキシンをコードしないという見方を裏付けるものであった。
【0019】
推定上のPDIコーディング配列の位置を決定する(localise)ために、C7クローンを種々の制限酵素で消化し、消化産物をニトロセルロースにトランスファーし、前述の30マー「活性部位」オリゴヌクレオチドでプローブした。この操作では、5kbのBamHI−SalIフラグメントと、それぞれ5.0及び4.5kbの二つの明らかに隣接しているHindIIIフラグメントとが同定された。後者のパターンは、活性部位のコピーを二つ含むPDIについて予測されるであろうように、「活性部位」プローブの標的が二つ存在し得ることを示唆するものであった。二つのHindIII部位からの予備DNA配列分析では、脊椎動物PDIに対して弱い相同性を示す読取り枠(ORF)の存在が明らかにされたが、これらは連続配列ではないため、他にもHindIII部位が存在するに違いないことも判明した。この推測は、詳細な制限地図の作成とDNA配列決定とによって確認された。天然の制限部位とオリゴヌクレオチドプライマーとを用いて、二つの隣接HindIII部位を含む2.5kbのHindIII−EcoRIフラグメントの配列決定を両方の鎖で行った。
【0020】
DNA配列は、予測された分子量59,082の、530アミノ酸をもつポリペプチドをコードすることができる1593bpの単一読取り枠の存在を予測させた(Farquhar,R.,ら,前出引用文献、第2図参照)。該読取り枠は、適度に多いタンパク質をコードする酵母mRNAに典型的なコドンバイアスを有していた(Bennetzen及びHall,1982,J.Biol.Chem.,257,pp.3029−3031)。コドンバイアス指数(codon bias index)の計算値は0.60であった。
【0021】
決定されたヌクレオチド配列の分析は、多数の標準的酵母プロモーター及びターミネーターモチーフを明らかにした(Farquhar,R.,ら,前出引用文献,第2図参照)。これらのモチーフは、読取り枠に対して−100と−128との問に位置する(TA)14配列の一部分としてのTATAボックス相同部位と、位置−201と−238との間のピリミジンに富んだ領域(37ヌクレオチドのうちの34)とを含む。読取り枠の3’末端には、TAA翻訳ターミネーターに続いて、S.cerevisiae内での転写終結及び/又はポリアデニル化のシグナルと仮定される配列(Zaret及びSherman,1982,Cell,28,pp.563−73)、並びに真核生物ポリアデニル化部位(Proudfoot及びBrown1ee,1976,Nature,264,pp.211−4)の両方に対する相同が存在する。
【0022】
該クローン化遺伝子が転写されたかどうかを調べるために、読取り枠に対して内側の800bp HindIII−StuIフラグメントを用いて、二つの異なる炭素源、グルコース及びアセテートで、異なる増殖サイクル段階まで増殖させたS.cerevisiaeの二つの異なる株(MD40/4c及びSKQ2n[α/a adel/+ade2/+his1/+;Gasionら,1979,J.Biol.Chem.,254,pp.3965−3969])から調製した全RNA試料のノーザンブロットをプローブした。指数増殖細胞では、グルコース及びアセテート増殖細胞で単一の1.8kb転写体が検出されたが、非増殖細胞では転写体は殆ど検出できなかった。転写体のサイズは、mRNAの5’及び3’領域内の非翻訳配列の約200ヌクレオチドを考慮に入れて、読取り枠により予測された通りであった。
【0023】
予測されたアミノ酸配列は、下記の理由によって該配列が正にPDIであることを強く示唆した:
(i)予測された59kDaの分子量と、哺乳動物PDIに特徴的なpI(4.1)とを有していた;
(ii)該アミノ酸配列は、BESTFITソフトウェア(UWGCG,University of Wisconsin)によって決定されたように、先に報告された哺乳動物及び鳥類のPDI配列に対して、30〜32%の全体的同一性と、53〜56%の全体的類似性とを示した;
(iii)該アミノ酸配列中の位置58〜65及び403〜410に「チオレドキシン様」活性部位の二つのコピーを含んでいた。また、これらの配列は、哺乳動物PDI内の重複a/a’領域に対して高度のアミノ酸同一性を示す約100アミノ酸のより大きい内部重複(internal duplication)の一部分であった(第2図)。酵母及び哺乳動物PDI配列を並べると(alignment)、a及びa’領域の外側に、大きな相同を示す別の領域が存在することも明らかになった(第2図)。
【0024】
また、コードされたポリペプチドの別の二つの特徴は、これがS.cerevisiae小胞体の成分であることを示唆している。該タンパク質は、推定上の分泌シグナルの特徴を有する著しく疎水性のN−末端配列をコードし(Gierasch,1989,Biochemistry,28,pp.923−930)、四つのC末端アミノ酸は酵母BiPのそれと同じであり(Normingtonら,1989,Cell,57,pp.1223−36)、S.cerevisiaeの小胞体保持シグナルであると報告されている(Pelhamら,1988,EMBOJ.,7,pp.1757−62)。
【0025】
本発明者らは、クローン化S.cerevisiae PDI遺伝子をPDI1と命名した。このS.cerevisiae PDI1遺伝子はゲノム内のただ一つのコピーに存在する。これは、前述の0.8kb HindIII−Stu1フラグメントを種々のゲノム消化産物に対するブロープとして用いる高緊縮ハイブリダイゼーションにより確認された。
【0026】
単一のPDI1遺伝子が生存能力にとって必須であるかどうかを調べるために、HIS3遺伝子[Montiel,G.F.ら,19814,Nucleic Acids Res.,12,pp.1049−1068]を有する1.8kbのBamHIフラグメントがPDI1コーディング配列内のEcoRV部位に挿入されている(第3図)ヌル(null)対立遺伝子を構築した。his 3二倍体酵母S.cerevisiae株(AS3324;[Spalding,A.,1988,Ph.D.Thesis,Uiversity of Kent])を、pdi1::HIS破壊を有するDNAフラグメントで形質転換して、PDI1遺伝子の二つの染色体コピーのうちの一つを前記非機能性対立遺伝子で置換した。三つのHIS+AS33 24形質転換体(Yl、Y2及びY3)を更に調べた。いずれの場合も、二倍体の胞子形成は四分子当たり二つの生存可能胞子を産生しただけであり(第3図)、これらは総てhis−であった。この結果は、致死表現型がpdi1::HIS3突然変異に関連していたことを示すものである。正確な遺伝子置換がHIS+形質転換体Yl及びY2において生起したことは、800bpのHindIII−StuIフラグメントをブロープとして用いる、PstIで消化したプロットされた酵母ゲノムDNAへのサザンハイブリダイゼーションにより確認された。PDI1遺伝子は内部PstI部位を含まないが(第3図)、HIS3遺伝子は単一PstI部位を含むため(第3図)、これでpdi1::HIS3対立遺伝子は簡単に同定される筈である。予測されたように、非形質転換株AS3324では単一の9kb PsIフラグメントが検出されたが、Y1及びY2形質転換体では9kb及び2.2kbという二つのバンドが、由来の異なる二つのバンドからなると推測される9kbバンドと共に検出された。これらのデータは、二つの染色体のうち一方の染色体上のPDI1遺伝子がHIS3対立遺伝子で置換され、このような事象がハプロ致死性であることを立証するものである。
【0027】
酵母PDIをコードするDNAを分子的にクローニングするためには、種々の方法のうち任意のものを使用し得る。これらの方法の非限定的具体例としては、適当な発現ベクター系内でのPDI含有DNAライブラリーの構築に次ぐ、PDI遺伝子の直接的機能発現が挙げられる。別の方法は、バクテリオファージ又はプラスミドシャトルベクター内で構築したPDI含有DNAライブラリーを、PDIタンパク質のアミノ酸配列から設計した標識付きオリゴヌクレオチドプローブでスクリーニングすることからなる。好ましい方法は、プラスミドシャトルベクター内で構築したヒト又は酵母PDI含有ゲノムDNAライブラリーを、酵素活性部位の既知のアミノ酸配列をコードする推定DNAプローブでスクリーニングすることからなる。
【0028】
当業者には容易に理解されるように、別のタイプのライブラリー、及び別の細胞又は細胞タイプから構築したライブラリーもPDIをコードするDNAの単離に有用であり得る。別のタイプのライブラリーの非限定的具体例としては、酵母細胞以外の別のヒト、脊椎動物及び下等真核生物細胞又は細胞系に由来するcDNA及びゲノムDNAライブラリーが挙げられる。
【0029】
当業者には明らかなように、適当なライブラリーは、PDI活性を有する細胞又は細胞系から調製し得る。PDI cDNAを単離するためのcDNAライブラリーの形成で使用するための細胞又は細胞系の選択は、前述の方法を用いて、最初に細胞結合PDI活性を測定することにより実施し得る。
【0030】
cDNAライブラリーの形成は当業者に良く知られている標準的方法で実施できる。良く知られているcDNAライブラリー構築方法は、例えばManiatis,T.,Fritch・E・F.,Sambrook,J.,Molecular Cloning:A Laborartory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New york,1982)に記載されている。
【0031】
PDIをコードするDNAを適当なゲノムDNAライブラリーから単離し得ることも当業者には明らかであろう。
【0032】
ゲノムDNAライブラリーの構築は当業者に良く知られている標準的方法で実施できる。良く知られているゲノムDNAライブラリー構築方法は、Maniatis,T.Fritch,E.F.,Sambrook,J.,Molecular Cloning:A Laboratory Manuel(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New york,1982)に記載されている。
【0033】
前述の方法で得たクローン化PDIは、組換えPDIを産生するために、適当なプロモーターと別の適当な転写詞節エレメントとを含む発現ベクターヘの分子クローニングにより組換え的に発現し、原核生物又は真核生物宿主細胞内にトランスファーし得る。この種の操作を行うための技術は、前出のManiatis,T.らの文献に詳述されており、当業者には良く知られている。
【0034】
本明細書では、発現ベクターは、遺伝子のクローン化コピーの転写と、mRNAの適当な宿主内での翻訳とに必要なDNA配列であると定義される。この種のベクターは、細菌、藍藻、植物細胞、菌類、昆虫細胞及び動物細胞のような種々の宿主内で真核生物遺伝子を発現させるのに使用し得る。
【0035】
特異的に設計したベクターは、宿主間、例えば細菌−酵母又は細菌−動物細胞問のDNAのシャトリングを可能にする。適当に構築した発現ベクターは、宿主細胞内の自律的複製のための複製起点と、選択可能なマーカーと、限定数の有用な制限酵素部位と、高コピー数へのポテンシャルと、活性プロモーターとを含んでいる必要がある。プロモーターは、RNAポリメラーゼをDNAに結合させRNA合成を開始させるDNA配列であると定義される。強力なプロモーターは、mRNAが高頻度でイニシエートされるようにするプロモーターである。発現ベクターの非限定的具体例としては、クローニングベクター、修飾されたクローニングベクター、特異的に設計されたプラスミド又はウイルスが挙げられる。
【0036】
哺乳動物細胞内で組換えPDIを発現させるためには、種々の哺乳動物発現ベクターを使用し得る。組換えPDI発現に適し得る市販の哺乳動物発現ベクターの非限定的具体例としては、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO−pS−neo(ATCC 37593)、pBPV−1(8−2)(ATCC 37110)、pdBPV−MMTneo(342−12)(ATCC 37224)、pRSVgpt(ATCC 37199)、pRSVneo(ATCC 37198)、pSV2−dhfr(ATCC 37146)、pUCTag(ATCC 37460)及びgZD35(ATCC 37565)が挙げられる。
【0037】
PDIをコードするDNAはまた、種々の組換え宿主細胞内での発現のために発現ベクターにクローニングし得る。組換え宿主細胞は原核生物、例えば非限定的具体例として細菌、又は真核生物、例えば非限定的具体例として酵母、哺乳動物細胞、例えば非限定的具体例としてヒト、ウシ、ブタ、サル及び齧歯類動物に由来する細胞系、並びに昆虫細胞、例えば非限定的具体例としてDrosophila由来細胞系、及び組換えバキュロウイルス発現系と共に使用されるSpodoptera frugiperda(SF9)昆虫細胞であってよい。適当なものとして使用し得る市販の哺乳動物種由来細胞系の非限定的具体例としては、CV−1(ATCC CCL 70)、COS−1(ATCC CRL 1650)、COS−7(ATCC CRL 1651)、CHO−K1(ATCC CCL 61)、3T3(ATCC CCL 92)、NIH/3T3(ATCC CRL 1658)、HeLa(ATCC CCL 2)、C127I(ATCC CRL 1616)、BS−C−1(ATCC CCL 26)及びMRC−5(ATCC CCL 171)が挙げられる。
【0038】
酵母活性プロモーターは酵母宿主内でのPDI遺伝子の転写を開始させる。従って、当業者には容易に理解されるように、任意の酵母活性プロモーター配列、例えば非限定的具体例として、GAL1、GAL10、GAL7、PGK1、ADH1、ADH2、PHO5及びGAP491(TDH3)を利用し得る。また、組換え宿主内でのPDIの発現をアッセイするために、適当なアッセイシステム、例えばイムノブロット又はRIAもしくはエンザイムイムノアッセイ(EIA)を使用し得ることも当業者には明らかであろう。
【0039】
S.cerevisiaeは、増殖用炭素源としてのガラクトースの利用に関与している酵素をコードする遺伝子を五つ有している。GALl、GAL2、GAL5、GAL7及びGAL10はそれぞれ、ガラクトキナーゼ、ガラクトースペルメアーゼ、ホスホグルコムターゼの主要アイソザイム、α−D−ガラクトース−1−ホスフェートウリジルトランスフエラーゼ及びウリジンジホスホガラクトース−4−エピメラーゼをコードする。ガラクトースが存在しないと、これらの酵素の発現はほとんど検出されない。細胞をグルコースで増殖し、次いでガラクトースを培養物に加えると、これら3種類の酵素はRNA転写のレベルで、少なくとも1,000倍だけ(GAL5は例外であって、約5倍に誘導される)協調的に誘導される。GAL1、GAL5、GAL7及びGAL10遺伝子を分子的にクローニングし配列決定した。それぞれのコーディング領域の5’側の調節及びプロモーター配列は、1acZ遺伝子のコーディング領域に隣接して配置した。これらの実験で、ガラクトースの誘導に必要十分なプロモーター及び調節配列が決定された。
【0040】
S.cerevisiaeはまた、各々がADHのアイソザイムをコードする三つの遺伝子を有する。これらの酵素のうちの一つであるADHIIは、S.cerevisiaeが酸化的増殖時にエタノールを炭素源として利用する能力に関与している。ADHIIアイソザイムをコードするADH2遺伝子の発現はグルコースにより異化代謝産物抑制されるため、0.1%(w/v)のレベルのグルコースの存在下では発酵的増殖時のADH2遺伝子の転写は実質的に行われない。グルコースが欠失しており且つ非抑制炭素源が存在すると、ADH2遺伝子の転写は100〜1000倍誘導される。この遺伝子を分子的にクローニングして配列決定し、転写の抑制解除(derepression)に必要十分な調節及びプロモーター配列を決定した。
【0041】
アルファ接合因子(alpha mating factor)は、MATα細胞とMATa細胞との間の接合に必要とされるS.cerevisiae性フェロモンである。このトリデカペプチドは、粗面小胞体内に送られ、グリコシル化され、タンパク質分解的にプロセシングされて、細胞から分泌される最終成熟形態となるプレプロフェロモンとして発現される。この生化学的経路は、外来ポリペプチドの発現ストラテジーとして利用されてきた。アルファ接合因子遺伝子は分子的にクローニングされ、プレプロリーダー配列を有する該遺伝子のプロモーターは種々のポリペプチドの発現及び分泌に利用されてきた。また、PHO5遺伝子プロモーターは低濃度ホスフェートによって誘導し得ることが判明した。これは、酵母内での外来タンパク質の生理学的に調節された発現にとっても有用である。
【0042】
アルファ接合因子プロモーターは、表現型的にαである細胞内でのみ活性を示す。S.cerevisiaeにはSIRとして知られている四つの遺伝子座があり、これらはa及びα情報の通常サイレントの別のコピーの抑制に必要なタンパク質を合成する。この抑制事象を妨害する温度感受性(ts)障害が、これらの遺伝子座のうち少なくとも一つの座の遺伝子産物内に存在する。この突然変異体では、35℃での増殖が抑制を阻止し、その結果、アルファ接合因子プロモーターが不活性である表現型的にa/αの細胞が生じる。温度を23℃にシフトすると、細胞は表現型的にαに戻り、その結果プロモーターが活性になる。ts SIR障害を有する株の使用は、幾つかの外来ポリペプチドの制御された発現について説明されてきた。
【0043】
当業者には容易に理解されるように、PDIの発現のための適当な酵母株は広範囲の候補の中から選択される。適当な酵母株の非限定的具体例としては、プロテアーゼ欠失及び変化したグリコシル化能力といったような遺伝子型的及び表現型的特徴を有するものが挙げられる。
【0044】
Saccharomyces属は様々な種からなる。S.cerevisiaeは種々の外来ポリペプチドの組換えDNA仲介発現のための宿主として最も一般的に使用されている。しかしながら、Saccharomyces属の他の種の問の区別は必ずしも明確ではない。これらの種の多くはS.cerevisiaeと交雑することができ、S.cerevisiaeのプロモーターと類似の又は同じプロモーターを有していると思われる。従って、当業者には容易に理解されるように、PDI発現のための宿主株の選択範囲は、Saccharomyces属の別の種、例えば非限定的具体例としてcarlsbergensis、diastaticus、elongisporus、kluyveri、montanus、norbensis、oviformis、rouxii及びuvarumにまで広がる。
【0045】
幾つかの酵母属、例えばCandida、Hansenula、Pichia及びTorulopsisは、唯一の増殖用炭素源としてのメタノールの利用について類似の代謝経路を有することが判明した。この代謝経路に関与する酵素であるアルコールオキシダーゼの遺伝子はPichia pastorisから単離されている。P.pastorisアルコールオキシダーゼプロモーターは単離されて、発現のメタノール誘導に敏感であることが判明した。このような誘導可能プロモーターは、酵母内でのポリペプチド発現に有用である。特に、このプロモーターは、P.pastoris内での異種遺伝子の誘導可能な発現用のプラミド上で活性であることが判明した。この観察は、別の酵母属が活性型のポリペプチドの組換えDNA仲介発現のための宿主として機能する可能性を強調するものである。従って、当業者には容易に理解されるように、PDI発現のための宿主の選択範囲は、Saccharomycetaceae科及びCryptococcaceae料の別の酵母属の種、例えば非限定的具体例としてCandida、Hansenula、Kluyveromyces、Pichia、Saccharomyceopsis及びTorulopsisにまで広がる。
【0046】
発現ベクターは、多くの方法、例えば非限定的具体例として形質転換、トランスフェクション、プロトプラスト融合法及び電気穿孔法のうち任意の方法を用いて宿主細胞内に導入し得る。発現ベクター含有細胞はクローン的に増殖し、個々に分析して、PDIタンパク質を産生するかどうかを調べる。PDI発現宿主細胞クローンの同定は、幾つかの方法、例えば非限定的具体例として抗PDI抗体に対する免疫学的反応性、及び宿主細胞結合PDI活性の存在によって実施し得る。
【0047】
PDI DNAの発現はまた、in vitroで産生した合成mRNAを用いて実施し得る。合成mRNAは種々の無細胞システム、例えば非限定的具体例としてコムギ胚芽抽出物及び網状赤血球抽出物中で効率的に翻訳できると共に、細胞ベースのシステム、例えば非限定的具体例としてカエル卵母細胞内へのマイクロインジェクションで効率的に翻訳できる。
【0048】
当業者には容易に理解されるように、PDIは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、宿主細胞ゲノムに組込まれた組換え発現カセットに由来する組換え宿主内で発現され得る。また、これも当業者には明らかであろうが、PDIは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで自律的複製プラスミド上に存在する組換え発現カセットに由来する組換え宿主内で発現され得る。
【0049】
組換えPDIを発現する組換え宿主細胞は、別の組換え遺伝子の発現のための宿主として使用し得る。本発明の新規の方法は、組換えPDIを産生する宿主細胞内で、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAを発現させることにより、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質の収率を実質的に増加させる。当業者には容易に理解されるように、本発明の方法ではジスルフィド結合をもつ種々のタンパク質が産生され得る。ジスルフィド結合をもつタンパク質の非限定的具体例としては、分泌されるか又は細胞結合状態を保持するタンパク質が挙げられる。ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質の発現のための組換えDNA構築物は、PDIについて詳述した方法によって形成し得る。当業者には明らかなように、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、宿主細胞ゲノムに組込まれた組換え発現カセットから発現され得る。また、これも当業者には明らかであろうが、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、自律的複製プラスミド上に存在する組換え発現カセットから発現され得る。更に、これも当業者には容易に理解されることであるが、PDIをコードするDNA及びジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、同一プラスミド上に存在し得る。ジスルフィド結合をもつ二つ以上のタンパク質が、組込まれたカセットもしくはプラスミド上のカセット、又はこれらの組合わせから同時発現され得ることも当業者には明らかであろう。
【0050】
組換え宿主細胞内でのPDIの発現後は、PDIタンパク質を回収して、タンパク質中のジスルフィド結合の形成を触媒することができる活性型の精製PDIを取得し得る。PDI精製方法は幾つか存在し、使用に適している。天然起源に由来するPDIの精製について前述したように、組換えPDIは細胞溶解物及び抽出物、又はならし培養培地から、塩分画、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイト吸着クロマトグラフィー及び疎水的相互作用クロマトグラフィーを様々に組合わせて又は個々に使用して精製し得る。
【0051】
更に、組換えPDIは、PDIに特異的なモノクローナル又はポリクローナル抗体を用いて形成したイムノアフィニティカラムを用いて、別の細胞タンパク質から分離することができる。
【0052】
PDIに対する単一特異性抗体を、PDIに対して反応性を示す抗体を含む哺乳動物抗血清から精製するか、又はKohler及びMilstein,Nature 256:495−497(1975)に記載の方法を用いて、PDIに対して反応性を示すモノクローナル抗体として製遺する。本明細書中の単一特異性抗体は、PDIに対する均一結合特性を有する単一の抗体種又は複数の抗体種であると定義される。本明細書中の均一結合(homogenous binding)という用語は、抗体種が特定の抗原又はエピトープ、例えば前述のようなPDIと結合する能力を指す。酵素特異的抗体は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマ等の動物、好ましくはウサギを、免疫アジュバントを用いて又は用いないで、適当な濃度のPDIで免疫感作することにより産生する。
【0053】
最初の免疫感作の前に免疫前血清を回収する。許容し得る免疫アジュバントと組合わせたPDIを約0.1mg〜1000mgで各動物に投与する。許容し得る免疫アジュバントの非限定的具体例としては、フロインドの完全アジュバント、フロインドの不完全アジュバント、ミョウバン沈降物、Corynebacterium parvum及びtRNAを含む油中水エマルジョンが挙げられる。最初の免疫感作は、好ましくはフロインドの完全アジュバント中の酵素を、皮下(SC)、腹腔内(IP)又はその両方で複数の部位に注射することからなる。各動物から一定の時間間隔、好ましくは一過間間隔で採血して、抗体力価を測定する。動物には、最初の免疫感作後に、ブースター注射をしてもしなくてもよい。ブースター注射をした動物には、通常、同量のフロインド完全アジュバント中酵素を同一経路で与える。ブースター注射は、最大力価が得られるまで約3週間の間隔で行う。各ブースター感作から約7日後、又は単一免疫感作の後で約1週間毎に動物から採血し、血清を回収し、アリコートを約−20℃で貯蔵する。
【0054】
近交系マウス、好ましくはBalb/cをPDIで免疫感作して、PDIと反応するモノクローナル抗体(mAb)を製造する。マウスは、前述のように、IP又はSC経路で、同量の許容し得るアジュバントに混入した約0.5mlの緩衝液又は生理食塩水中約0.1mg〜約10mg、好ましくは約1mgのPDIで免疫感作する。好ましくはフロインドの完全アジュバントを使用する。マウスは0日日に最初の免疫感作を施し、約3〜約30週間にわたって休息させる。免疫感作したマウスには、リン酸塩緩衝生理食塩水のような緩衝溶液中約0.1〜約10mgのPDIの投与からなる一回以上のブースター免疫感作を、静脈注射(IV)によって施す。抗体陽性マウスに由来するリンパ球、好ましくは脾臓リンパ球を、当業者に公知の標準的方法で免疫マウスから脾臓を除去することによって得る。脾臓リンパ球と適当な融合相手、好ましくは骨髄腫細胞とを、安定なハイブリドーマを形成させる条件下で混合して、ハイブリドーマ細胞を製造する。融合相手の非限定的具体例としては、マウス骨髄腫P3/NS1/Ag4−1;MPC−11;S−194及びSp2/0が挙げられるが、好ましいのはSp2/0である。抗体産生細胞及び骨髄腫細胞を、約30%〜約50%の濃度で、約1000mol.wt.のポリエチレングリコール中で融合させる。当業者に公知の方法で、ヒポキサンチン、チミジン及びアミノプテリンを添加したダルベッコ改質イーグル培地(DMEM)での増殖により、融合したハイブリドーマ細胞を選択する。約14、18及び21日目に増殖陽性ウェルから上清液を回収し、PDIを抗原として用いる固相イムノラジオアッセイ(SPIRA)のようなイムノアッセイによってスクリーニングし、抗体の産生を調べる。mAbのアイソタイプを調べるために、培養液をOuchterlony沈降アッセイでも検査する。抗体陽性ウェルからのハイブリドーマ細胞を、MacPhersonの軟質寒天技術(Soft Agar Techniques,Tissue Culture Methods and Applications、Kruse及びPaterson編、Academic Press、1973)によりクローニングする。
【0055】
初回抗原刺激(priming)から約4日後、プリスタン感作Balb/cマウスに、マウス当たり約0.5mlで、約2×106〜約6×106のハイブリドーマ細胞を注射することにより、モノクローナル抗体をin vivoで産生する。細胞のトランスファーから約8〜12日後に腹水を回収し、当業者に公知の方法でモノクローナル抗体を精製する。
【0056】
約2%のウシ胎児血清を含むDMEM中でハイブリドーマを増殖させてin vitroのmAb産生を行い、十分な量の特異的mAbを得る。該mAbを当業者に公知の方法で精製する。
【0057】
腹水又はハイブリドーマ培養液の抗体価を、種々の血清学的又は免疫学的アッセイ、例えば非限定的具体例として、沈降法、受動凝集、ELISA(enzyme−linked immunosorbent antibody)及びラジオイムノアッセイ(RIA)で測定する。類似のアッセイを用いて、体液又は組織及び細胞抽出物中のPDIの存在を検出する。
【0058】
当業者には容易に理解されるように、単一特異性抗体を製造するための前述の方法は、PDIポリペプチドフラグメント又は完全長さのPDIポリペプチドに特異的な抗体の産生に使用し得る。
【0059】
抗体がアガロースゲルビーズ支持体との共有結合を形成するようにN−ヒドロキシスクシンイミドエステルで予備活性化したゲル支持体であるAffigel−10(Biorad)に抗体を加えて、PDI抗体アフィニティカラムを形成する。抗体は、スペーサーアームとのアミド結合を介してゲルに結合する。次いで、残りの活性化エステルを1M エタノールアミンHCl(pH8)でクエンチする。カラムを水及び0.23M グリシンHCl(pH2.6)で順次洗浄して、非結合抗体又は外来タンパク質を除去する。次いでカラムをリン酸塩緩衝生理食塩水(pH7.3)中で平衡化し、PDIを含む細胞培養上清又は細胞抽出物をゆっくりとカラムに通す。該カラムをリン酸塩緩衝生理食塩水で光学密度(A280)がバックグラウンドに低下するまで洗浄し、次いでタンパク質を0.23M グリシン−HCl(pH2.6)で溶離する。次いで、精製PDIタンパク質をリン酸塩緩衝生理食塩水に対して透析する。
【0060】
以下の実施例は本発明を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0061】
株及び増殖条件
Saccharomyces cerevisiae株MD40/4C(MATα、leu2−3−112、ura2、his3−11、−15、trp1)及びAS3324(MATα/MAT“a”his3/his3、leu2/leu2、ura3/ura3、trp1/trp1)を、YEPD(1%バクトペプトン、1%酵母抽出物、2%グルコース)又はpH5.8緩衝最少培地(0.67%アミノ酸無含有酵母窒素ベース、2%グルコース、1%コハク酸、0.6% NaOH、50μg/mlメソ−イノシトール)に必要な塩基及びアミノ酸を加えたものの中で30℃で増殖させた。
【0062】
S.cerevisiae株JRY188(MATα、sir3−8、leu2−112、trp1、ura3−52、his4;Brake,A.J.ら,1984,Proc.Nat’1.Acad.Sci.USA,81,pp・4642−4646)及びBJ1995(MATα、leu2、trp1、ura3−52、prb1−1122、pep4−3、gal2;Jones,E.W.,1991,Methods Enzymol.,194,pp.428−453)をPDI過剰発現の評価に使用し、適当な実施例に記載のように増殖させた。
【0063】
大腸菌(Escherichia coli)株DH5α(supE44ΔlacU169(φ80lac ZΔM15)hsd R17 recA1 endA1 gyrA96 thi−1 relA1)をプラスミドスクリーニング操作に使用した。
【実施例2】
【0064】
DNA操作
制限ヌクレアーゼ消化及びDNA連結を、酵素製造業者(BCL、BRL)の指示に従って実施した。E.coli形質転換の棲準的プロトコル(Cohenら,1972,P.N.A.S.USA,69,pp.2110−9)及びS.cerevisiae形質転換の標準的プロトコル(Beggs,1978 Nature,275,pp.104−9;Itoら,1983,J.Bacteriol.,153,pp.163−8)を実施した。Holmらの方法(1986,Gene,42,pp.169−73)でS.cerevisiaeからゲノムDNAを製造した。
【実施例3】
【0065】
PDI1遺伝子の単離
高コピー数LEU2−d、2ミクロンベースベクターpMA3a(Crouzet及びTuite,1987,前出引用文献)のBamHI部位にクローニングしたS.cerevisiae株SKQ2n[α/a adel/+ade2/+his1/+;Gasionら、前出引用文献]に由来するDNAの部分的Sau3Aフラグメントを含む酵母ゲノムライブラリーを、PDI1遺伝子についてのスクリーニングに使用した。30マーオリゴヌクレオチド(5’CTTACAGTGACCACACCATGGAGCGTAGAA3’)(配列番号:5)を、高度に保存されている「チオレドキシン様」活性部位(FYAPWCGHCK)(配列番号:4)に対して、但し酵母コドンバイアスを用いて(Sharpら,1986,前出引用文献)合成した。
【0066】
非組込みヌクレオチドから標識オリゴヌクレオチドを分離すべくDE−52クロマトグラフィーを使用して、前記ライブラリーをスクリーニングするために、前記オリゴヌクレオチド50ngを[γ−32p]dATP[Amersham,3000Ci/mmol.]及びT4ポリヌクレオチドキナーゼで末端標識した。次のようなコロニーハイブリダイゼーションにより、約20,000 DH5α組換えコロニーをニトロセルロースフィルターでスクリーニングした:各ニトロセルロースフィルターを、35%ホルムアミド、6×SSC、1×デンハート溶液、250μg/ml変性サケ精子DNA、0.1%SDS中で、37℃で16時間にわたり予備ハイブリダイズした。標識オリゴヌクレオチド(比活性4.8×109dpm/μg)を90℃で3分間変性し、次いで予備ハイブリダイゼーション緩衝液中で2ng/mlに希釈し、フィルターに加えた。37℃で更に16時間インキュベートした後、フィルターを除去し、4×SSC、0.1%SDS中で2分間濯いだ。該フィルターを一晩オートラジオグラフイーにかけた。
【0067】
39個の潜在的陽性コロニーが同定され、これらを前述のスクリーニングに更に2画かけると、その後で10個の陽性クローン(標識付きC1〜C10)が得られた。これらのクローンのうちの二つ(C7及びC10)の制限地図を作成し、クローンC7を後続の研究のために選択した。
【実施例4】
【0068】
DNA配列の解析
配列決定に適した大きさのフラグメントを同定するために、クローンC7を一連の制限酵素で消化し、1%アガロースゲル上でフラグメントを分離し、真空プロッティング装置(Hybaid Ltd.)を用いてGenescreen Plusメンブラン(DuPont)にトランスファーした。次いで、Maniatisらの方法(1982、前出引用文献)に実質的に従ってフィルターを予備ハイブリダイズし、その後、前述のように末端標識し変性した30マーオリゴヌクレオチドプローブを加えた。ハイブリダイゼーションを6×SSC中43℃で24時間実施し、次いで2回の洗浄を200mlの2×SSC中室温で5分間行い、更に2回の洗浄を200mlの2×SSC、0.1%SDS中65℃で1時間行い、最後に500mlの0.1×SSC中で室温で1回洗浄した。次いでフィルターを−70℃で48時間オートラジオグラフイーにかけた。
【0069】
ジデオキシ鎖ターミネーター法(Sangerら,1977,Proc.Nat’l.Acad.Sci.U.S.A.,74,5463−67)を用いて、クローンC7に由来する2.4kbのHincII−EcoRIフラグメントを完全に配列決定した。配列決定に適した制限フラグメントを、Holmes及びQuigleyの迅速な方法(1981,Anal.Biochem.,pp.193−7)を用いて配列決定用に製造したプラスミドDNAとpUC19とにサブクローニングした。更に、幾つかのフラグメントを一本鎖ベクターmp12又はmp13にクロ―ニングした(Messing,1983,Methods Enzymol.,101,pp.20−78)。一連の配列決定プライマー(15〜18マー)を合成した。これらのプライマーは、クローニングベクターのポリリンカー領域、又は予め推定した内部C7 DNA配列にアニーリングする。プライマーのアニーリングに先立ち、プラスミドDNAを0.2M NaOH、2mM EDTA中で37℃で30分間変性し、0.1容の3M酢酸ナトリウムpH5.0の添加によって中和し、3容の95%エタノールで−70℃で15分間沈降させた。[α−32P]dATP(3000Ci/mmol;ICN)を標識に使用して、in vitroの鎖伸長を行うために、T7 DNAポリメラーゼ(Sequences,US Biochemicals)を製造業者の指示通りに使用した。反応を既に記述されている方法で解析した(Bossierら,1989,Gene,78,pp.323−30)。
【実施例5】
【0070】
RNAの製造及び解析
株MD40/4cの指数増殖細胞(5×106〜1×107細胞/ml)又は定常期細胞(2×108細胞/ml)から完全RNAを製造した。30分間の熱衝撃(30℃〜42℃)にかけたMD40/4cの指数増殖細胞からもRNAを抽出した。完全RNAは、本質的にDobsonらの方法(1983,Nucleic Acids Res.,11,2287−2302)に従って抽出した。
【0071】
ノーザンプロット解析を次のように実施した:20μgの完全RNAを20%ホルムアルデヒド、50%脱イオンホルムアミド中で55℃で15分間加熱することにより変性し、次いで8%ホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲル中で分離した。該RNAを真空プロッティングでニトロセルロースフィルター(S&S、B A85)にトランスファーし、該フィルターを10mM トリス−HCl中で5分間煮沸した。ハイブリダイゼーションを、10×デンハート溶液、2×SSC、50mMリン酸塩緩衛液pH6.5、40%ホルムアミド、0.1%SDS、400μg/ml熱変性サケ精子DNA及び1〜5ng/mlのプローブ中で42℃で一晩実施した。フィルターを−70℃で1〜5日間オートラジオグラフイーにかけた。使用したブロープは、PDI1遺伝子に由来する0.8kbのHindIII−StuIフラグメント(Farquhar,R.ら,前出引用文献、第2図参照)、並びにpBR322にクローニングしたS.cerevisiaeの18S及び25SリボソームRNA遺伝子の一部分を含むプラスミドScp7(Dr.B.S.Cox,University of Oxfordから入手)である。これらのブロープは、ランダムプライマー標識(BCL)で製造業者の指示に従って標識した。
【実施例6】
【0072】
P di1::HIS3対立遺伝子の構築
HIS3遺伝子を有する1.8kbのBamHIフラグメントをプラスミドpMA700から放出させ(Montielら,1984、前出引用文献)、1%低融点アガロース(Sigma)上で精製した。該フラグメントのBamHI付着末端を、Maniatisらの方法(1982、前出引用文献)で、dNTPsとDNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントとを用いて充填した。次いでPDI1遺伝子の1.2kb DraI−BgllIIIフラグメントを、プラスミドpUC19のポリリンカー内のSmaI−BamHI部位にサブクローニングした。最後に、HIS3遺伝子を含む充填したBamHIフラグメントを、PDI1コーディング領域内の単一のEcoRV部位に連結した(第3図)。得られたpdi1::HIS3対立遺伝子を3.0kbのSal1−EcoRIフラグメント上に遊離させ、低融点アガロ−ス上で精製し、Itoらの酢酸リチウム形質転換プロトコル(1983、前出引用文献)を用いて二倍体株AS3324をHis+プロトトロフィ(prototrophy)に形質転換するのに使用した。
【実施例7】
【0073】
in vitroのPDIアッセイ
全タンパク質抽出物におけるPDI活性のアッセイを、Hillsoらの方法(1984,Methods Enzymol.,107,pp.281−92)で実施した。
【0074】
基質の調製
スクランブルリボヌクレアーゼ(scrambled ribonuclease)は、ランダムに形成されたジスルフィド結合を含む完全に酸化した混合物である。これは、市販の(Sigma)ウシ膵臓リボヌクレアーゼAから下記の方法で調製する。
リボヌクレアーゼを、50mMトリス−HCl緩衝液、pH8.6、8.9M尿素、130mMジチオトレイトール(還元可能ジスルフィド結合に対して約15倍モル過剰なジチオトレイトール)中30mg/ml(約2.2mM)で、室温で18時間〜20時間、又は35℃で1時間インキュベートする。
【0075】
反応混合物を氷酢酸でpH4に酸性化し、その直後に、脱ガスした0.1M酢酸でSephadex G−25カラムから溶離することにより、還元タンパク質を分離する。280nmで溶離フラクションをモニターし、タンパク質含有フラクションをプールし、天然リボヌクレアーゼを標準として用いて、タンパク質濃度を分光光学的に又は化学的に測定する。
【0076】
還元リボヌクレアーゼの試料を0.1M酢酸で約0.5mg/mlに希釈する。固体尿素を最終濃度10Mまで加え、塩酸サルコシンを0.1Mまで加える(サルコシンは濃厚尿素溶液中に存在するシアネートイオンと反応させるために加えられ、カルバミル化によってリボヌクレアーゼを不活性化し得る)。1MトリスでpHを8.5に調整し、暗所室温で2〜3日間インキュベートする。その間にタンパク質は大気O2によってランダムに再酸化される。このインキュベーションの後で、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)を用いて遊離チオール基を調べると、再酸化が完了していることが判明する(リボヌクレアーゼ分子当たり0.1以下の遊離チオール)。
【0077】
氷酢酸でpH4に酸性化し、0.1M 酢酸中でSephadex G−25から溶離することにより、スクランブル産物を回収する。タンパク質含有フラクションをプールし、1MトリスでpH8に調整し、4℃で貯蔵する。
【0078】
この方法によるスクランブルリボヌクレアーゼの収率は通常90〜100%である。該産物は溶液中4℃で6ヶ月まで安定であり、あるいは、50mM NH4・HCO3、pH7.8中に透析し、次いで凍結乾燥して、−20℃で無期限に貯蔵し得る白色綿毛状固体物質としてもよい。
【0079】
アッセイの手順
基質、スクランブルリボヌクレアーゼは、約2%の天然リボヌクレアーゼ活性を有する高分子量RNAの加水分解開裂では本質的に不活性である。スクランブルリボヌクレアーゼ中の分子間及び分子内ジスルフィドの交換の触媒におけるPDIの作用は、天然ジスルフィド結合、天然配座を回復させ、RNAに対するリボヌクレアーゼ活性を随伴的に回復させる(concomitant return)。このようにして、PDIの活性を、処理中にアリコートが採取されるタイムコース(time−course)インキュベーションによってアッセイし、RNAに対するリボヌクレアーゼ活性を測定する。
【0080】
タンパク質ジスルフィド−イソメラーゼの試料を、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5に、最終量が900μlになるまで加え、10−5Mジチオトレイトール(10μ1の1mMストック溶液、毎日新しく調製)と共に30℃で2〜3分間予備インキュベートする。トリス−HCl緩衝液も使用し得るが、その場合は活性が約25%低下する。次いでアッセイを、スクランブルリボヌクレアーゼの100μlアリコート(10mM酢酸中0.5mg/mlストック溶液、毎日新しく調製)の添加により開始し、インキュベーション混合物を30℃に維持する。より小さい規模で操作する場合は、前述の量を1/10に減少して、最終アッセイ量を100μ1とし得る。10μ1アリコートを0.5分の時点で採取し、その後2〜3分間隔で18分まで採取して、スクランブルリボヌクレアーゼの再活性化についてアッセイする。各アリコートは、30℃で予め平衡化した石英キュベット内で、0.25mgの高度に重合した酵母RNA(50μlの5mg/mlストック溶液)を含む3mlのTKM緩衝液(50mMトリス−HCl緩衝液、pH7.5、25mM KCl、5mM MgCl2)のアッセイ混合物に即座に加える。Perkin−Elmer 356分光光度計(バンド幅2.5nm)のデュアル波長モードを用いてリボヌクレアーゼ活性を30℃でモニターし、A280(ΔA)に対するA260の変化を測定する。RNA加水分解速度(ΔA分−1)は1.5〜2分にわたって一定である。この速度に対してインキュベーションからのアリコートの採取時間をプロットしたグラフは、15分まで直線である。時間推移(time course)の該直線部分の勾配(ΔA分−1分−1)を三つ組みアッセイの線形回帰分析で計算し(相関係数は決まって≧0.99である)、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ活性の測定値とする。
【0081】
ジチオトレイトールのみによるスクランブルリボヌクレアーゼの非酵素的再活性化の速度を測定するために、酵素試料を省略して対照インキュベーションを実施する。これらの速度は通常0.2×10−3ΔA分−1分−1であり、酵素試料のタンパク質ジスルフィド−イソメラーゼ活性の計算で差し引かれる。
【0082】
1単位のタンパク質ジスルフィド−イソメラーゼ活性は、1リボヌクレアーゼ単位/分の速度でスクランブルリボヌクレアーゼの再活性化を触媒する量であると定義される。1リボヌクレアーゼ単位は、1吸収(adsorbance)単位/分のA280に対するA260の変化を生起する量であると定義される。
【実施例8】
【0083】
酵母LYS2又はURA3座にPDI発現カセットを組込むためのベクターの構築
LYS2での組込みのためのベクターを下記の手順で構築した。プラスミドpUC19をHindIIIで消化し、線形ベクターフラグメントをゲル精製した。次いでこのフラグメントをEcoRIで消化し、得られた2.7kbpのEcoRI−HindIIIベクターフラグメントをゲル精製した。該精製フラグメントを下記の合成オリゴヌクレオチドと連結した:
5′AATTGCGGCCGCAAGCTTGCGGCCGC−3′(配列番号:6)
3′−CGCCGGCGTTCGAACGCCGGCGTCGA−5′(配列番号:7)
該オリゴヌクレオチドは、EcoRI付着末端と、NotI部位と、HindIII部位と、NotI部位と、HindIII付着末端とをこの順序で含む。得られたプラスミドpUC−Notは、両端でNotI部位に直接フランキングされた単一のHindIII部位を含む。
【0084】
URA3座に組込むべき発現カセットのターゲッティングのためのプラスミドを下記の手順で構築した。酵母URA3遺伝子源は、YRp10に由来する1.1kbpのHindIIIフラグメントであった[Parent,S.A.ら,1985,Yeast,1,pp.83−138]。プラスミドpUC−NotをHindIIIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化し、1.1kbpのHindIII URA3フラグメントと連結して、プラスミドpUC−Not−URA3を得た。
【0085】
LYS2座への発現カセットの組込みをターゲッティングするためのプラスミドを下記の手順で構築した。酵母LYS2遺伝子を有するプラスミドYIp600[Barnes,D.A.及びThorner,J.,1986,Mol.Cell.Biol.,6,pp.2828−2838]をEcoRI及びHindIIIで消化し、LYS2遺伝子を有する4.5kbpのEcoRI−HindIIIフラグメントを、予めEcoRI及びHindIIIで消化したpUC19にクローニングした。次いでこのプラスミドをPvuII及びBglIIで消化し、LYS2遺伝子を有する3.7kbpのPvuII−BglIIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化した。プラスミドpUC−NotをHindIIIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化し、平滑末端化し、3.7kbpのLYS2フラグメントと連結した。所期の構造を有する得られたプラスミドをpUC−Not−LYS2(pNLとも称する)で消化した。
【0086】
LYS2での組込みのための第二のベクターも構築した。プラスミドYIp600をNcoIで消化し、LYS2タンパク質コーディング配列の大部分を含む3.0kbpのNcoIフラグメントをゲル精製し、平滑(flush)末端化した。プラスミドpUC13をBamHIで消化し、平滑末端化し、3.0kbpのLYS2フラグメントと連結して、組込みベクターpUC13−LYS2を得た。
【実施例9】
【0087】
酵母アルファ因子分泌リーダーに融合したヒトPDIを過剰産生する酵母株の構築
ヒトPDIコーディング配列源は、Pihlajaniemiら(1987、前出引用文献)によって記載されている重複部分的cDNAクローン、p210及びp1であった。ヒトPDI cDNAの5’末端を有するp210に由来する0.45kbpのEcoRI−PstIフラグメントをpUC18にクローニングして、プラスミドpUKC150を得た。次いで該プラスミドpUKC150をEcoRI及びAvaIで消化した(AvaIは成熟ヒトPDIをコードする配列の第三のアミノ酸に対応する位置で切断する)。得られた3.1kbpのベクター主鎖(backbone)フラグメントをゲル精製し、下記の構造のオリゴヌクレオチドアダプターと連結した:
5′−AATTCGTTGACGCCC−3′(配列番号:8)
3′−GCAACTGCGGGGGCT−5′(配列番号:9)
該アダプターは成熟PDIコーディング配列の5末端を再構築し、所望の分泌リーダー配列への成熟ヒトPDI配列の正確な融合を可能にするような位置にHindIII部位を含む。
【0088】
次いで、得られたプラスミドpUKC159をPstIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで処理し、ヒトPDIコーディング配列の残部を有するプラスミドp1(Pihlajaniemiら,1987,前出参考文献)に由来する1.5kbpのPstI−PstIフラグメントに連結して、プラスミドpUKC160を得た。このプラスミドpUKC160をHindII(前記オリゴアダプター内で切断する)で消化し、次いでHindIIIで消化した。その結果得られた、成熟ヒトPDIコーディング配列を有する1.9kbpのHindII−HindIIIフラグメントをゲル精製し、予めStuI及びHindIIIで消化したプラスミドpGS4にサブクローニングした(pGS4はアルファ接合因子(MFα1)プレプロ分泌リーダー配列に融合した酵母GAL1プロモーターを有する;Shaw,K.J.ら,1988,DNA,117−126)。平滑末端化StuI及びHindII末端の間に形成された接合部は、MFα1プレプロリーダー配列とヒトPDI成熟部分との間の正確なインフレーム融合を再構築する(得られたプラスミドはpUKC161と命名した;第4図)。
【0089】
LYS2組込みベクターpNL(pUC−NotI−LYS2)をStuI及びXhoIで消化し、T4 DNAポリメラーゼでの処理によって平滑末端化した。プラスミドpUKC161をEcoRI及びHindIIIで消化し、その結果得られた、GAL10プロモーター−アルファ因子プレプロリーダー − ヒトPDI発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−HindIIIフラグメントをゲル精製し、T4 DNAポリメラーゼでの処理によって平滑末端化した。前記平滑末端化pNLベクターフラグメントと該発現カセットフラグメントとを互いに連結し、該連結混合物を用いてE.coli株ATCC 35691を形質転換した。所期の構造を有するプラスミドを含むものについて形質転換体をスクリーニングし、得られたプラスミドpNL−MFα1−hPDIを多量に製造した。pNL−MFα1−hPDIをNotIで消化すると、両端でLYS2 DNA配列にフランキングされた6.2kbpの発現カセットが得られる。消化したDNAを用いて、スフェロプラスト法で(Hinnen A.ら,1978,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,75,pp.1929−1933)、S.cerevisiae株BJ1995及びJRY188を形質転換した。NotI末端はターゲッティングデバイスとして作用しながら発現カセットを染色体LYS2座に向かわせ、該座で前記カセットが相同組換えを介して組込まれた。形質転換体を、アルファアミノアジピン酸含有固体培地で増殖するものについてスクリーニングした(Chattoo,B.B.ら,1979,Genetics,93,pp.51;Barnes及びThorner,1986,前出参考文献)。このような増殖は、株がlys−であることを意味する。LYS2プローブを用いて行ったクローン単離体のサザンブロット分析で、発現カセットがLYS2座に組込まれたことが確認された。BglIIで消化した染色体DNA調製物は、LYS2プローブとハイブリダイズするバンドについて、5.0から7.8kbpへの所期のサイズ変化を示した。その結果得られた、組込み発現カセットを含むBJ1995及びJRY188関連株を、それぞれBJ1995/アルファ−hPDI及びJRY188/アルファ−hPDI(株#1072A)と命名した。
【実施例10】
【0090】
酵母PDI又はヒトPDIシグナル配列を用いるヒトPDIを過剰産生する酵母株の構築
PDI cDNAクローンp1(Pihlajaniemiら,1987,前出引用文献)をPstIで消化し、ヒトPDI cDNAの3’領域を有する1.5kbpのPstI−PstIフラグメントをゲル精製した。次いで該フラグメントをpUKC150(前記実施例9に記載)のPstI部位に挿入してプラスミドpUKC151を得た。該プラスミドは、完全な全長ヒトPDI cDNAを含んでいる。該pUKC151をHindIIIで消化し、適当なオリゴヌクレオチドアダプター(EcoRI認識配列を含む)と連結して、PDI cDNAの3’末端に位置するHindIII部位をEcoRI部位に変換した。得られたプラスミドpUKC153は、2.1kbpのEcoRIフラグメント上の完全ヒトPDIコーディング配列を含んでいる。該プラスミドpUKC153をEcoRI及びPstIで消化した。その結果得られた、ヒトPDI配列の5’部分及び3’部分をそれぞれ有する0.47kbpのEcoRI−PstIフラグメント及び1.7kbpのPstI−EcoRIフラグメントをゲル精製した。pUC19をEcoRI及びPstIで消化し、2.7kbpのベクターフラグメントをゲル精製し、次いで前述の0.47kbpのEcoRI−PstIフラグメントに連結した。該連結混合物を用いてE.coli ATCC 35691を形質転換した。所期の構造を有するプラスミドを含む形質転換体からプラスミドDNAを製造した。該DNAをAvaI及びPstIで消化し、ヒトPDI配列の5’部分を有する0.38kbpフラグメントをゲル精製した。
【0091】
pUC19をEcoRI及びBamHIで消化し、2.7kbpのベクターフラグメントをゲル精製した。下記のオリゴヌクレオチドを合成した:
【0092】
【化1】
【0093】
オリゴヌクレオチド#15165−220及び15165−249をキナーゼ処理し、次いでそれぞれオリゴヌクレオチド#15165−221及び15165−250とアニーリングした。ヒトPDIシグナルペプチド配列を有するヒトPDIを再構築するために、下記の連結を行った:pUC19 2.7kbp BamHI−EcoRIフラグメントを1.7kbp PstI−EcoRI hPDI3’フラグメント、0.38kbp PstI−AvaI 5’−hPDIフラグメント、並びにアニーリングしたリンカー15165−220及び15165−221と連結した。
【0094】
酵母PDIシグナル配列を有するヒトPDIを再構築するために、下記の連結混合物を形成した:pUC19 2.7kbp BamHI−EcoRIフラグメントを1.7kbp PstI−EcoRI hPDI3’フラグメント、0.38kbp PstI−AvaI 5’−hPDIフラグメント、並びにアニーリングしたリンカー15165−249及び15165−250と連結した。(アニーリングしたリンカーはBamHI及びAvaI付着末端を含み、指示されたシグナルペプチド配列及び酵母5’非翻訳リーダー配列をコードする)。
【0095】
連結混合物をE.coli ATCC 35691中に形質転換し、形質転換体を、所期の構造を有するプラスミドを含むものについてスクリーニングした。オリゴヌクレオチドリンカーとフランキングDNAとを含む領域にわたって延びるDNA配列を、ジデオキシ配列決定法で確認した。酵母PDIシグナルペプチド又はヒトPDIシグナルペプチドをを有するヒトPDIコーディング配列を、それぞれySP−hPDI及びhSP hPDIと命名した。これらのカセットを含むこのようにして得た二つのプラスミド(それぞれpUC−ySP−hPDI[第5図]及びpUC−hSP−hPDI)をSmaI及びBamHIで消化し、その結果得られた、hPDIカセットを有する1.5kbpフラグメントをゲル精製し、平滑末端化した。
【0096】
プラスミドp401(非反復BamHI部位によって分離されたGAL10プロモーター及びADH1転写ターミネーターを含む;第6図)をBamHIで消化し、平滑末端化し、前述のカセットと連結して、それぞれプラスミドpGAL−ySP−hPDI及びpGAL−hSP−hPDIを得た。これら二つのプラスミドをSmaI、SphI及びScaIで消化し、その結果得られた、GAL10p−ySP−hPDI及びGAL10p−hSP−hPDI発現カセットを有する3.2kbpのSmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、次いでLYS2組込みベクターpUC13−LYS2のXhoI部位(平滑末端化した)に挿入した。得られたプラスミドを、それぞれpLYS2−hSP−hPDI及びpLYS2−ySP−hPDIと命名した。
【0097】
組込み形質転換のために、前記二つのプラスミドをXbaI及びSacIで消化して、LYS2フランキング末端を有する線形フラグメントを形成し、該線形フラグメントを用いて酵母株BJ1995及びJRY188を形質転換した。所望の発現カセットをLYS2に組込んだ形質転換体を、BglIIで消化したゲノムDNAのサザンブロットによって同定し、次いでLYS2プローブとハイブリダイズした。得られた株は、BJ1995/hSP−hPDI、BJ1995/ySP−hPDI、JRY188/hSP−hPDI(株#1148)及びJRY188/ySP−hPDI(株#1157)であった。
【実施例11】
【0098】
ヒトPDI又は酵母PDIシグナルペプチドを用いるヒトPDIのC末端HDEL突然変異体を過剰産生する酵母株の構築
小胞体内に常在する酵母タンパク質は通常、小胞体内での保持のためのシグナルであるC末端HDELアミノ酸配列を含む(Pelhamら,1988,前出引用文献)。これに対し、ヒトPDIは、酵母内でのER保持に関しては余り機能しないことが明らかにされた(Lewis,M.J.ら,1990,Cell,61,pp.1359−1363)C末端KDEL配列(Pihlajaniemiら,1987,前出引用文献)を有する。従って、C末端KDELがHDELに変化している改変ヒトPDIを構築することが望まれた。これは下記の方法で達成された。
【0099】
二つのプラスミドpUC−ySP−hPDI及びpUC−hSP−hPDI(実施例9)をEcoRI及びXhoIで消化し、その結果得られた、ベクター配列とhPDI配列の5’部分とを含む4.0kbpのEcoRI−XhoIフラグメントと、hPDIコーディン配列の中間部分を含む0.5kbpのXhoI−XhoIフラグメントとをゲル精製した。次いで下記のオリゴヌクレオチドアダプターを合成した:
【0100】
【化2】
【0101】
二つのオリゴのアニーリングに次いで、該アダプターをXhoIで消化し(EcoRI及びXhoI付着末端が得られる)、二つの別個の反応で、それぞれ5’−ySP−hPDI又は5’−hSP−hPDI配列を含む4.0kbpのEcoRI−XhoIベクターフラグメントと連結した。得られた二つのプラスミドをXhoIで消化し、hPDIコーディング配列の中間部分を含む前述の0.5kbpのXhoI−XhoIフラグメントと連結し、ヒトPDIコーディング配列を再構築するためにXhoIフラグメントが正確な方向で挿入されたプラスミドpUC−ySP−hPDI(HDEL)及びpUC−hSP−hPDI(HDEL)を得た。これら二つのプラスミドをBamHIで消化し、発現カセットを有する二つの異なる1.5kbp BamHIフラグメントをゲル精製し、次いでp401のBamHI部位に挿入して、それぞれpUC−GAL10p−ySP−hPDI(HDEL)及びpUC−GAL10p−hSP−hPDI(HDEL)を得た。これら二つのプラスミドをSmaI、SphI及びPvuIで消化した。得られた二つの2.5kbp SmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、次いで、予めXhoIで消化しておいたpUC13−LYS2と連結し、平滑末端化した。得られた二つのプラスミドpLYS2−ySP−hPDI(HDEL)及びpLYS2−hSP−hPDI(HDEL)をHpaI及びEcoRVでの消化によって線形化し、次いで別個の反応で株BJ1995及びJRY188の形質転換に使用した。Lys−形質転換体を、アルファアミノアジピン酸含有固体培地上で選択した。LYS2座に組込んだ所望の発現カセットを含む単離体を、ゲノムDNAのサザンブロット分析によって同定した。得られた株を、BJ1995/ySP−hPDI(HDEL)、BJ1995/hSP−hPDI(HDEL)、JRY188/ySP−hPDI(HDEL)(株#1268)及びJRY188/hSP−hPDI(HDEL)(株#1267)と命名した。
【実施例12】
【0102】
酵母アルファ因子分泌リーダーを用いるヒトPDIのC末端HDEL突然変異体を過剰産生する酵母株の構築
プラスミドpUKC161(第4図)をBamHI及びClaIで消化し、アルファ因子プレプロリーダー配列とhPDIの5’−セグメントとを有する0.7kbpのBamHI−ClaIフラグメントをゲル精製した。プラスミドpUC−ySP−hPDI(HDEL)(実施例11に記載)をClaI及びEcoRIで消化し、C末端HDEL改変を有するhPDIの3’セグメントを含む1.0kbpのClaI−EcoRIフラグメントをゲル精製した。pUC19をBamHI及びEcoRIで消化し、得られたベクターフラグメントを、0.7kbpのBamHI−ClaIフラグメント及び1.0kbpのClaI−EcoRIフラグメントの両方と連結してプラスミドpUC−MFα1−hPDI(HDEL)を得た。該プラスミドをBamHIで消化し、PDIカセットを有する1.7kbpのBamHI−BamHIフラグメントをゲル精製し、プラスミドp401(第6図)のBamHI部位に挿入して、プラスミドpGAL−MFα1−hPDI(HDEL)を得た。次いで該プラスミドを酵素SmaI、SphI及びPvuIで消化し、その結果得られた、発現カセットを有する2.6kbpのSmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化した。pUC13−LYS2ベクターをXhoIで消化し、平滑末端化し、次いで前述の2.6kbp平滑末端化フラグメントに連結した。得られたプラスミドpLYS2−MFα1−hPDI(HDEL)をHpaI及びEcoRVで消化し、次いで株JRY188及びBJ1995の形質転換に使用した。得られた形質転換体を(実施例9に記載のように)ゲノムDNAのサザンブロットで評価し、所望の発現カセットがLYS2座に組込まれていることを確認した。JRY188形質転換体を株#1279と命名した。
【実施例13】
【0103】
LYS2座の組込み発現カセットから酵母PDIタンパク質を過剰発現する酵母株の構築
完全酵母PDI1遺伝子を有するプラスミドC7(実施例4に記載)をEcoRVで消化し、酵母PDI読取り枠(ORF)のC末端部分(アミノ酸223からORFの末端まで)と3’非翻訳配列とを含む1.3kbpのEcoRV−EcoRVフラグメントをゲル精製し、プラスミドpAT153[Twigg,A.G.及びSherratt,D.,1980,Nature,283,pp.216−218]のEcoRV部位に挿入して、pUK169を得た。次いでプラスミドC7をBanI及びEcoRVで消化し、酵母PDI ORFのアミノ酸6〜222をコードする0.67kbpのBanI−EcoRVフラグメントをゲル精製し、下記の合成オリゴヌクレオチドアダプターと連結した:
5′−GATCCACAAAACAAAATGAAGTTTTCTGCTG−3′(配列番号:16)
3′−GTGTTTTGTTTTACTTCAAAAGACGACCACG−5′(配列番号:17)
該オリゴヌクレオチドアダプターはそれぞれBamHI及びBanI付着末端を有し、酵母PDI ORFのアミノ酸1〜5と12塩基対の酵母5’非翻訳リーダー配列とをコードする。(ATG開始コドンは下線で示されている)。得られた0.7kbpのBamHI−EcoRVフラグメントをゲル精製し、次いで、予めEcoRV及びBamHIで消化しておいたpAT153にサブクローニングして、プラスミドpUKC170を得た。
【0104】
プラスミドpUKC169をEcoRVで消化し、その結果得られた、酵母PDIの前記C末端部分を有する1.3kbpのEcoRV−EcoRVフラグメントをゲル精製し、次いでpUKC170の非反復EcoRV部位に挿入し、それによって無傷の(完全な)酵母PDI(yPDI)遺伝子を再生した。このようにして得たプラスミドをpUKC175と命名した。
【0105】
pUKC175をEcoNIで消化し、yPDI遺伝子を有する得られた2.1kbpフラグメントを平滑末端化し、ゲル精製した。pUC19をSacI及びSmaIで消化し、平滑末端化し、前記平滑末端化EcoNI yPDIフラグメントと連結した。該連結混合物を用いてE.coli DH5細胞を形質転換し、得られた形質転換体を、pUC19ポリリンカー内のBamHI部位がyPDIコーディング配列の3’末端に隣接して配置されるように適当な方向でyPDI挿入体を有するプラスミドを含むものについてスクリーニングした。EcoNIフラグメント上のyPDI ORFの5’末端にはBamHI部位が既に存在していたため、該構築物(pUC19−yPDIと命名)はこの時点で、1.9kbpのBamHIフラグメント上にyPDI ORFを含む。pUC19−yPDIをBamHIで消化し、yPDI遺伝子を有する1.9 BamHI kbpフラグメントをゲル精製し、次いでベクターpUC18−GAL10p(B)ADH1t(ストック#401)(第6図)のBamHI部位にサブクローニングした。得られたプラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1t(第7図)はストック#1015である。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1tをSmaI、SphI及びSacIで消化し、発現カセットを有する2.7kbpのSmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、次いでpUKC171(pUKC171は、予めEcoRI及びHindIIIで消化しておいたpUC19にサブクローニングしたYIp600(Barnes及びThorner,1986,前出引用文献)の4.5k EcoRI−HindIII LYS2フラグメントを含む)の非反復StuI部位にクローニングした。得られたpUKC171−GAL10p−yPDIベクターをEcoRI及びPvuIIで消化してLYS2−GAL10p−yPDI−ADH1t−LYS2カセットを切除し、これを用いてS.cerevisiae株JRY188及びBJ1995を形質転換した。得られたlys−形質転換体を、実施例9に記載のように、ゲノムDNA調製物のサザンブロットにより評価した。LYS2座に組込まれたGAL10p−yPDIカセットを有する各株の単離体が検出された。得られた株をBJ1995/yPDI及びJRY188/yPDI(株#1152)と命名した。
【実施例14】
【0106】
URA3座への組込み発現カセットから酵母PDIを過剰産生する酵母株の構築
プラスミドpUC−Not−URA3(実施例8)をApaI及びNcoIで消化し(URA3遺伝子の一部分を欠失させるため)、平滑末端化した。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1tをEcoRI、ScaI及びSphIで消化し、GAL10p−yPDI−ADH1t発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、前記ベクターフラグメントと連結して、プラスミドpNU−GAL10p−yPDIを得た。NotIでの消化により、pNU−GAL10p−yPDIからURA3−GAL10p−yPDI−ADH1t−URA3組込みカセットを切り出した。得られた線形フラグメントを用いて酵母株KHY107を形質転換した。5−フルオロ−オロト酸含有固体培地上で(Boekeら,1984,Mol.Gen.Genet.,197,pp.345)、ura−形質転換体を選択した。得られたura−形質転換体に由来するゲノムDNAをBg1IIで消化し、GAL10p−yPDI−ADH1tカセット由来の放射性標識したEcoRI−PvuIIフラグメントをプローブとして用いて、サザンブロットにより評価した。所望のGAL10p−yPDI−ADH1t発現カセットをURA3に組込んだ単離体が同定された。単離体K−Y1は、URA3に組込まれた複数のコピーを有していた(株#1136)。単離体K−Y3は、URA3に組込まれたコピーを一つだけ有していた(株#1137)。
【実施例15】
【0107】
組換え宿主内のPDIタンパク質量の評価
酵母株を、3×YEPD液体培地で、23℃で24時間増殖させた。24時間が経過した後、培養物にガラクトースを最終濃度4.8%まで加えた。次いで培養物を23℃で更に24時間再インキュベートした。あるいは、酵母株を3×YEPDで30℃で24時間培養した。細胞を回収し、無菌冷水で洗浄し、同量の3×YEPD−ガラクトース培地に再懸濁させた。酵母株を更に16〜25時間インキュベートし、その後回収し、タンパク質を抽出方法2(下記)で抽出した。
【0108】
タンパク質の抽出:
本質的にMellorらの方法(1983,Gene,24,pp.1〜14)に従い、ガラスビーズ破壊法を用いて、指数増殖細胞又は定常期細胞からタンパク質を抽出した。
【0109】
方法1:25mMリン酸塩緩衝液pH7.0中のPMSF(0.5mM)の存在下で細胞壁のガラスビーズ破壊を行い、次いで凍結−融解サイクルにかけてタンパク質を抽出し、13,000rpmで10分間の遠心分離により可溶性タンパク質を回収した。PEG(固体)、硫酸アンモニウム(0〜80%)又は限外濾過膜(<100kDa)での濃縮の前又は後で、消費培養液の分析により最初に分泌を評価した。タンパク質濃度はBradfordの方法(1976,Anal,Biochem.,72,pp.248−254)で測定した。
【0110】
方法2:方法1に従って、但し培養培地にNaOH及びβ−メルカプトエタノールを(それぞれ最終濃度0.2M及び1%で)加え、氷上に約10分間放置し、その後TCAを最終濃度6%で加えて、細胞内試料を調製した。氷上で30分間静置した後、遠心分離によってタンパク質を回収し、冷アセトンで洗浄し、SDS−PAGEローディング緩衝液に再懸濁させた。
【0111】
50μgの全可溶性タンパク質を、本質的にSchultzらの方法(1987,Gene,54,pp.113−23)に従って、一次元SDS−PAGE(12%ポリアクリルアミド)とクーマシーブルー染色とで分析した。
【0112】
次の条件で電気泳動を実施した:10%SDS−ポリアクリルアミドゲル及びレーン当たり10μgのローディングされたタンパク質(タンパク質抽出方法1)。総てのゲル中でSigma予備染色分子量標準を使用した。ゲルはBioRad mini−Protein IIゲルシステムで操作した。タンパク質濃度を計算せずに、細胞外抽出物をレーン当たり15〜20μlでローディングした。電気泳動の間中、電圧は200ボルト以下に維持した。
【0113】
Biometra半乾燥ウエスタンブロットシステムを用いて、タンパク質をニトロセルロースにトランスファーした。ニトロセルロース膜を5%(w/v)粉乳で1時間ブロックし、洗浄し、1:500〜1:750の希釈度で3時間から一晩にわたり、抗ヒトPDIポリクローナル抗体と共にインキュベートした。膜を洗浄し、ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgGを最終希釈度1:100で加え、インキュベーションを1時間続けた。洗浄後、Amersham ECLキットを製造業者の指示通りに使用して、ブロットを発色した。
【0114】
最初のアッセイでは、株1072Aが分泌hPDIをウエスタンブロットで検出できるレベルで産生することが判明した。使用したECLプロトコルでは、検出レベルは0.05μgの精製ウシPDIであった。この分泌PDIは、100kDaカットオフ限外濾過膜によって保持されたため、二量体であることが判明した。株1072Aと対応するHDEL変異株(1279)とを比較すると、ヒトPDIは両方から分泌されていた。この実験では、最終培養/誘導条件を、増殖温度(℃)及び誘導期間について最適化した。前記二つの株は、23℃で培養し次いで30℃で16時間誘導するか、又は30℃で16時間培養し誘導すると、より高いPDI合成レベルを示した。
【実施例16】
【0115】
酵母内でアンチスタシンを発現させるためのベクターの調製
アンチスタシンは血液凝固因子Xaの強力なタンパク質阻害物質である。アンチスタシン(ATS)は、メキシコヒルHaementeria officinalisの唾液腺から単離された(Nutt,E.ら,1988,J.Biol.Chem.,263,pp.10162−10167)。その後、ATSをコードするcDNAがHan,J.H.らにより単離され、特徴が解明された(1989,Gene,75,pp.47−57)。ATSは、組換え酵母によって分泌された異種タンパク質中の折り畳み及び適当なジスルフィド結合の形成に対する高レベルのPDI活性の影響を評価する上で理想的なリポータータンパク質である。なぜならATSは、タンパク質が生物学的活性を有するようにするために正確な対を形成しなければならない10個のジスルフィド結合を有するからである。
【0116】
発現ベクターpKH4α2(Jacobson,M.A.ら,1989,Gene,85,pp.511−516)を用いて、酵母内でATSを発現させた。前記ベクターは、ガラクトース誘導性GAL10プロモーターと、異種タンパク質の分泌を制御するための酵母MFα1プレプロ分泌リーダー配列とを含む。ATSをコードする配列は、クローンλ5C−4(Han,J.H.ら,前出引用文献)に由来するサブクローニングしたATS cDNAを基質として使用し且つ下記のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で単離した:
1. 5′−ATATGGATCCTGTCTTTGGATAAAAGACAAGGACCATTTGGACCCGGGTGT−3′ (配列番号:18)
2. 5′−TATAGGATCCTTATGATAAGCGTGGGATAAGCTT−3′ (配列番号:19)
これらのプライマーは両方とも、PCR産物のサブクローニングを容易にするためにBamHI部位を含む。第一のプライマーは、酵母KEX2 yscFエンドプロテアーゼ開裂部位(Lys−Arg)N末端を、成熟ATSの第一アミノ酸残基に挿入する(酵母yscFエンドプロテアーゼは該配列中のLys−Arg部位のC末端側で開裂する)。PCR産物をBamHIで消化し、ゲル精製し、次いでBamHI消化pKH4α2に連結して、pKH4α2/ATS(K991)(第8図)を得た。次いでこの発現ベクターを用いて、スフェロプラスト法(Hinnenら,1978,前出引用文献)で、表1に示す酵母宿主株を形質転換した。
【0117】
ロイシンを含まない合成固体培地(Schultz,L.ら,1987;Gene,61,pp.123−133)上で形質転換体を選択し、クローン単離体についてストリークし、これらの単離体を後続の分析で使用した。株は、17%グリセロール含有合成培地中で−70℃で貯蔵することにより保存した。
【0118】
【表1】
+ PDIカセット及び株は次のように実施例に記述されている:アルファ−hPDI、実施例9;ysP−hPDI及びhSP−hPDI、実施例10;hSP−hPDI(HDEL)及びysP−hPDI(HDEL)、実施例11;アルファ−hPDI(HDEL)、実施例12;yPDI、実施例13;yPDI−A1及びyPDI−A3、実施例14。
* 形質転換株はK991アンチスタシン発現ベクターを含む。
【実施例17】
【0119】
アンチスタシンの分泌に関する親株及びPDI過剰産生株の増殖及び評価
K991形質転換親JRY188株と、酵母もしくはヒトPDIを過剰産生する種々の形質転換誘導体とを、下記の方法でアンチスタシンの分泌に関して評価した。指示された株を−70℃冷凍グリセロールストックからロイシン無含有合成寒天プレート上にストリークし、30℃で3日間増殖させた。5mlの3xYEHD[60g Difco酵母抽出物、30g HySoyペプトン、48gグルコース/l]培地を入れた培養管(18×150mm)に小ループ一杯の細胞を接種し、組織培養ローラードラム上で23℃で約18時間インキュベートした。この段階で、ガラクトースを最終濃度4.8%(w/v)で加えて細胞を誘導し、培養物を23℃で更に5日間インキュベートした。次いで、遠心分離で細胞を回収し、清澄化培地上清をアンチスタシン活性のアッセイのために保持し、該活性を因子Xa活性の阻害によって測定した[Nutt,E.ら,1988,前出引用文献]。該実験は三つ組みで実施した。結果を要約して表2に示す。
【0120】
【表2】
【実施例18】
【0121】
JRY188及びHDEL突然変異体形ヒトPDIを過剰産生する関連株によるアンチスタシン分泌の評価
K991形質転換JRY188と、三つの異なる分泌リーダーを有するHDEL突然変異体形ヒトPDIを過剰産生する形質転換誘導体株とを実施例17に記載のように増殖し、清澄化培地上清を、実施例17に記載のように因子Xa阻害アッセイで分泌ATSレベルについて評価した。結果は表3に示す。
【0122】
【表3】
【実施例19】
【0123】
酵母株KHY107及び酵母PDIを過剰産生する誘導体によるアンチスタシンの分泌
K991形質転換KHY107と、酵母PDIを過剰産生する該株の形質転換誘導体とを増殖し、清澄化培地上清を、実施例17に記載のように因子Xa阻害アッセイで分泌ATSレベルについて評価した。結果は表4に要約して示す。
【0124】
【表4】
K−Y1は、URA3に多重コピーGAL−yPDIを有するKHY107である。
K−Y3は、URA3に単一コピーGAL−yPDIを有するKHY107である。
A1、A2及びA3は、平行して評価した指示された株の種々のクローン単離体を示す。
酵母PDIの過剰発現の結果、単離体K−Y3−A1の場合は、ATS活性の分泌が細胞当たりベースで4倍に増加し、容積ベースで約9倍の分泌が観察される。
【実施例20】
【0125】
多重コピープラスミドから酵母PDI又はヒトPDIを過剰産生する酵母宿主株の構築
多重コピー酵母シャトルベクターYEp24(Botstein,D.ら,1979,Gene,8,pp.17−24)は、酵母2ミクロンDNA複製起点と、ウラシル無含有合成培地で選択するための酵母URA3遺伝子とを含む。YEp24をBamHIで消化し、得られた7.8kbpのBamHIベクターフラグメントをゲル精製した(フラグメントa)。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1t(#1015)をEcoRI、SphI及びScaIで消化した。その結果得られた、GAL10p−yPDI−ADH1t発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−SphIフラグメントをゲル精製した(フラグメントb)。プラスミドpUKC161をEcoRI及びHindIIIで消化し、GAL1p−−MFα1プレプロ−−ヒトPDI発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−HindIIIフラグメントをゲル精製した(フラグメントc)。前記三つのフラグメントを平滑末端化し、次いで下記の手順で互いに連結した:(1)ベクターフラグメントa及びフラグメントbを互いに連結してプラスミドYEp24−GAL10p−yPDI(第9図)を得る:(2)ベクターフラグメントa及びフラグメントcを互いに連結してプラスミドYEp24−GAL1p−MFα−hPDI(第10図)を得る。得られた前記二つのプラスミドDNAの大規模CsC1製造を行った。二つの別個の形質転換反応で、酵母株JRY188をATS発現ベクターK991(実施例16)及びYEp24−GAL10p−yPDIもしくはYEp24−GAL1p−MFα−hPDIで同時形質転換した。両方のプラスミドを含む形質転換体を、ロイシン及びウラシルの両方を欠失した合成培地で選択し、単離した単集落(single colony)を同一培地上で再ストリークしてクローン単離体を選択した。二つの元の同時形質転換の各々について5個の前記クローン単離体を、培養管内の5mlの3xYEHD培地に接種し、組織培養ローラードラムで23℃で24時間インキュベートした。24時間が経過した後、ガラクトースを最終濃度4.8%で加え、培養物を23℃で更に5日間インキュベートした。遠心分離によって細胞を回収し、清澄化培地上清を因子Xa阻害アッセイでATS活性レベルについてアッセイした。YEp24−GAL10p−yPDIプラスミド及びATS発現ベクターを含む同時形質転換体は、ATS発現ベクターのみを含む親JRY188株と比べると、単離体に応じて3〜26倍の分泌ATS活性レベルを示した。YEp24−GAL1p−MFα−hPDIプラスミドとATS発現ベクターとを含む同時形質転換体は、ATS発現ベクターのみを含む親JRY188株と比べて、2〜3倍の分泌ATS活性レベルを示した。
【実施例21】
【0126】
所望の異種タンパク質の発現に使用した同一発現ベクターから酵母又はヒトPDIを過剰産生する酵母宿主株の構築及び評価
S.cerevisiae GAL1及びGAL10遺伝子を、分岐型(divergent)GAL1及びGAL10プロモーターとこれら二つのプロモーターのTATAボックスの間に位置する共通GAL4結合ドメインとを含む二つの構造遺伝子の間の領域から分岐的に(divergently)転写した。プラスミドpBM272(Johnston,M.及びDavis,R.,1984,Mol.Cell.Biol.,4,pp.1440)は、この分岐型酵母GAL1−GAL10プロモーターを0.85kbpのEcoRI−HindIIIフラグメント上に含む(HindIII部位に隣接した内部BamHI部位も有する)。このプロモーターフラグメントを使用して、分岐型プロモーターカセットベクターpUC−GAL1/10を構築した。該ベクターは次の特性を有する:非反復EcoRI及びSmaI部位により、この順序で、酵母ADH1転写ターミネーター(0.35kbp HindIII−SphIフラグメント)から分離した酵母GAL10プロモーター。非反復BamHI及びHindIII部位によりADH1転写ターミネーターの第二のコピーから分離した酵母GAL1プロモーター。二つのADH1ターミネーターエレメントの3’末端は、分岐型プロモーター発現カセット全体をSphフラグメントとして単離できるように、SphI部位によってフランキングされている。このプラスミド内のベクター主鎖は、ポリリンカーの代わりに前記発現カセットを有するpUC18である。
【0127】
プラスミドpUC−GAL1/10をBamHIで消化し、ゲル精製してフラグメント「a」を形成した。プラスミドpUKC161をBamHIで消化し、成熟ヒトPDIコーディング配列にインフレーム融合したアルファ因子プレプロリーダーを有する1.9kbpのBamHIフラグメントをゲル精製し、ベクターフラグメントaに連結して、プラスミドpUC−GAL1/10−hPDIを得た。該プラスミドでは、アルファ因子プレプロ−−hPDI融合がGAL1プロモーターの制御下にある。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADHlt(実施例13)をBamHIで消化し、その結果得られた、酵母PDIコーディング配列を有する1.7kbpのBamHIフラグメントをゲル精製し、次いでベクターフラグメントaに連結して、プラスミドpUC−GAL1/10−yPDを得た。該プラスミドでは、GAL1プロモーターが酵母PDIの発現を制御する。このようにして得た二つのプラスミドをEcoRIで消化し、平滑末端化し、それぞれhPDI及びyPDIカセットを有するベクターフラグメントb及びcを得た。
【0128】
ATS発現ベクター(K991)をSalI及びBglIIで消化し、成熟ATSのコーディング配列にインフレーム融合したアルファ因子プレプロリーダーを有するSalI−BglIIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、別個の反応で二つの平滑末端化ベクターフラグメントb及びcに連結した。制限地図で調べて正確な構造を有する得られたプラスミドを、それぞれpUC−GAL1/10−hPDI/ATS(第11図)及びpUC−GAL1/10−yPDI/ATS(第12図)で消化した。これら二つのプラスミドをSphIで消化して発現カセットを遊離させ、hPDI関連又はyPDI関連発現カセットを有するフラグメントを、予めSphIで消化した酵母シャトルベクターpC1/1(Rosenberg,S.ら,1984,Nature,312,pp.77−80)と連結した。その結果、二つのプラスミド、pC1/1−GAL1/10−hPDI/ATS及びpC1/1−GAL1/10−yPDI/ATSが得られた。これらのプラスミドでは、ATS及びPDI関連発現カセットが、それぞれGAL10及びGAL1プロモーターの制御下で同一の高コピー数ベクター上に存在していた。
【0129】
次いでこれら二つの発現ベクターを用いて、酵母株JRY188、BJ1995及び他の適当な酵母宿主株を形質転換した。形質転換体をロイシン無含有培地上で選択し、得られた形質転換体を、上記実施例に記載のように、ATS及びPDIの発現/分泌について評価した。
【0130】
表5(下記)に示す結果から明らかなように、hPDIを過剰産生する単離体は、pKH4α2/ATSのみを含む対照株と比べて数倍高いレベルのアンチスタシンを分泌する。また、酵母PDIを過剰産生する単離体は、対照株と比べて3〜17倍高いレベルのアンチスタシンを分泌した。
【0131】
【表5】
* 23℃で誘導後5日目の収率。
【実施例22】
【0132】
PDI過剰産生酵母宿主株によるアンチスタシン分泌の増加に対する温度の効果
アンチスタシン発現ベクターpKH4α2/ATS及びYEp24−GAL1p−MFα−hPDIもしくはYEp24−GAL10p−yPDIで同時形質転換した株JRY188の選択した単離体を、23℃又は30℃での増殖後にアンチスタシン分泌について評価した。アンチスタシン発現ベクターのみで形質転換した親株JRY188を平行して増殖した。3xYEHD培地で23℃又は30℃で一晩増殖した後、ガラクトースを最終濃度4.8%で加えて細胞培養物を誘導し、23℃又は30℃の適当な温度で更に5日間増殖した。誘導後3〜5日で採取した培地試料を、因子Xa阻害アッセイにより分泌アンチスタシンレベルについて評価した。表6の結果から明かなように、アンチスタシン発現は、PDIを過剰発現する総ての単離体について、誘導後3日目及び5日目の両方で、温度を30℃にした時よりも23℃にした時の方が遥かに大きかった。
【0133】
【表6】
* 種々のhPDI単離体は、アンチスタシン発現ベクターK991及びYEp24−GAL1p−MFα−hPDIの両方を含んでいた。yPDI単離体は、ベクターK991及びYEp24−GAL10p−yPDIの両方を含んでいた。
【実施例23】
【0134】
PDIを過剰産生する組換え酵母株によるマダニ抗凝血ペプチド(TAP)の分泌
マダニ抗凝血ペプチド(TAP)は、血液凝固因子Xaの強力な高選択性阻害物質である[Waxman,L.ら,1990,Science,248,pp.593−596)。TAPはマダニOrnithidoros moubataから単離された新規のセリンプロテアーゼ阻害物質である。TAPは、6個のシステイン残基を含む60個のアミノ酸からなる(Waxmanら,1990,前出引用文献)。TAPは、ガラクトース誘導性GAL10プロモーターと、TAPをコードする合成遺伝子にインフレーム融合した酵母MFα1プレプロ分泌リーダー配列とを含む発現ベクターpKH4−TAPを用いて、酵母内で発現された(Neeper,M.ら,1990,J.Biol.Chem.,265,pp.17746−17752)。このベクターは、プレプロリーダーのアミノ酸79の位置に配置されたBamHIクローニング部位の存在に起因して、少し改変されたMFα1プレプロリーダー配列を含む(Neeperら,1990,前出引用文献)。
【0135】
TAPをコードする合成遺伝子にインフレーム融合した真正(authentic)MFα1プレプロリーダー配列を含む第二のTAP発現ベクターpKH4−3B/TAPを構築した。合成TAP遺伝子を含むプラスミドpKH4−TAP(Neeperら,1990,前出引用文献)を、合成TAP遺伝子の5’末端及び3’末端をそれぞれ改変するために、下記の二つのオリゴヌクレオチドプライマー
5′−TACAACCGTC TGTGCATCAA−3′(配列番号:20)及び
5′−ACTGGATCCG AATTCAAGCT TAGATGCAAG CGT−3′(配列番号:21)
を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で、DNA鋳型として使用した。
【0136】
該PCR反応は、当業者に良く知られている方法(Innis,M.A.ら編,1990,PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,Inc.,San Diego CA)で実施した。得られたPCR産物をT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化し、BamHIで消化し、次いでゲル精製して、TAPコーディング配列の正確な5’末端に平滑末端を有し且つ翻訳終結コドンの3’側に付着BamHI末端を有する、0.2kbpのブラントBamHIフラグメントを得た。
【0137】
ベクターpKH4−3B(Hofman,K.及びSchultz,L.D.,1991,Gene,101,pp.105−111)は、MFα1プレプロリーダーコーディング配列の3’末端に非反復SphI部位を含む。pKH4−3BをSphIで消化し、T4 DNAポリメラーゼで処理して平滑末端化し、BglIIで消化した。得られたブラントBglIIベクターフラグメントをゲル精製し、前述の0.2kbp ブラント−BamHI TAPフラグメントに連結して、ベクターpKH4−3B/TAPを得た。
【0138】
別個の形質転換反応で、酵母株BJ1995、JRY188及びU9を、ベクターYEp24−GAL10p−yPDI及びpKH4−TAPもしくはpKH4−3B/TAPで同時形質転換した。両方のプラスミドを含む同時形質転換体を、ロイシン及びウラシルの両方を欠失した合成培地上で選択し、単離した単集落を同一培地上で再ストリークして、クローン単離体を選択した。種々のベクター/宿主同時形質転換の各々について三つの前記クローン単離体を、培養管内の5mlの4%グルコース含有ウラシル欠失改質5xLeu−培地(5xLeu−Ura−)に接種した。該培養物を組織培養ローラードラム内で30℃で24時間インキュベートした。24時間が経過した後、細胞を遠心分離によって回収し、4%ガラクトースを含む5mlの5xLeu−Ura−培地に最懸濁させた。得られた培養物を30℃で更に48時間インキュベートした。次いで細胞を遠心分離によって回収し、清澄化培地試料をSCX−HPLC又は因子Xa阻害アッセイにより分泌TAPレベルについて評価した(Waxmanら,1990,前出引用文献)。別の方法として、組換え酵母細胞を23℃で24時間増殖し、ガラクトースを最終濃度4%で加えることにより誘導し、次いで23℃で更に5日間インキュベートした。次いで、清澄化培地試料を前述のように分泌TAPレベルについて評価した。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】マルチコピープラスミド上に酵母PDIをコードする遺伝子を有するS.cerevisiae形質転換体の無細胞溶解液のSDS−PAGE分析を示している。
【図2】「COMPARE」及び「DOTPLOT」ソフトウエア(UWGCG)を用いた酵母PDIとラットPDIとの問のドットプロットアラインメント(dot Plot alignment)を示している。哺乳動物PDIのドメイン構造は同じ縮尺で前記アラインメントの下に示されている。
【図3a】酵母PDI1遺伝子の破壊に関するストラテジー及び結果を示している。
【図3b】pdil::HIS3破壊に対して異型接合体のHis+ AS3324株の四分子(tetrad)分析の結果を示す。
【図4】プラスミドpUKC161の構造を示している。
【図5】プラスミドpUC−ySP−hPDIの構造を示している。
【図6】pUC18−GALl0p(B)ADH1tとしても知られているプラスミドp401の構造を示している。
【図7】プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADHltの構造を示している。
【図8】K991としても知られているプラスミドpKH4α2/ATSの構造を示している。
【図9】YEp24−GAL10p−yPDIの構造を示している。
【図10】YEP24−GAL1p−MFα−hPDIの構造を示している。
【図11】pUC−GAL1/10−hPDI/ATSの構造を示している。
【図12】pUC−GAL1/10−yPDI/ATSの構造を示している。
【0140】
【表7】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え宿主細胞内でジスルフィド結合タンパク質を産生するための新規の方法と、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え酵母細胞とに関する。又、本発明は、ジスルフィド結合をもつ組換え分泌タンパク質の分泌を実質的に且つ予想外に増加させる組換え酵母宿主細胞にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、分泌タンパク質及び細胞表面タンパク質におけるジスルフィド結合の触媒に関わる酵素である。脊椎動物PDIの保存された(conserved)「チオレドキシン様」活性部位を検出するように設計されたオリゴヌクレオチド(WCGHCK)(配列番号:1)を用いて、本発明者らは下等真核生物Saccahromyces cerevliaeからPDIをコードする遺伝子を単離した。クローニングした遺伝子のヌクレオチド配列及び推定読取り枠は、分子量59,082及びpI 4.1の530アミノ酸からなるタンパク質を予測させるが、これらは哺乳動物PDIの物理的特徴である。また、アミノ酸配列は哺乳動物及び鳥類のPDI配列に対して30〜32%の同一性と53〜56%の類似性とを示し、全体的構造が極めて類似しており、特に、各々が反復性である二つの100残基セグメントが存在する。哺乳動物及び鳥類のPDIに対する最も大きな相同は、保存された「チオレドキシン様」活性部位を含む領域(a、a’)にある。N末端領域は開裂可能な分泌シグナル配列の特徴を有しており、C末端の4個のアミノ酸(−HDEL)(配列番号:2)は、該タンパク質がS. cerevisiae小胞体(E.R.)の成分であるということと合致している。この遺伝子(PDI1と称する)の複数のコピーを有する形質転換体は10倍のPDI活性レベルを有し、予測された分子量のタンパク質を過剰発現する。PDIl遺伝子は酵母ゲノム内で非反復性であり、定常期細胞には存在せず、また熱誘導もできない単一の1.8kb転写体をコードする。PDI1遺伝子の破壊はハプロ致死性(haplo−1ethal)であり、これは該遺伝子の産物が生存能力(viability)にとって必須のものであることを意味する。
【0003】
チオール:ジスルフィド交換反応を触媒する酵素であるタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、分泌細胞のE.R.内腔(lumen)の主な常在タンパク質成分である。該酵素の細胞分布、細胞下の位置及び発現特性に関して立証された一連の事項は、該酵素が分泌タンバク質の生合成である種の役割を果たすことを示唆しており(Freedman,1984,Trends Biochem.Sci.9,pp.438−41)、これはその場での(in situ)直接的架橋結合の研究によって裏付けされている(Roth及びPierce,1987,Biochemistry,26,pp.4179−82)。PDIを欠失しているミクロソーム膜が同時翻訳(cotranslational)タンパク質のジスルフィド形成の特異的欠如を示すという発見は(Bulleid及びFreedman,1988,Nature,335,pp.649−51)、該酵素が分泌及び細胞表面タンパク質の生合成の問に天然ジスルフィド結合形成の触媒として機能することを意味する。この役割は、該酵素のin vitroの触媒特性について知られている事実、即ち該酵素がチオール::ジスルフィド交換反応を触媒して正味のタンパク質ジスルフィドの形成、破壊又は異性化を生起させ、且つ多岐にわたる還元され且つ折り畳みのないタンパク質基質においてタンパク質の折り畳み及び本来のジスルフィド結合の形成を触媒することができるという事実と一致している(Freedmanら、1989,Biochem.Soc.Symp.,55,pp.167−192)。該酵素のDNA及びアミノ酸配列は幾つかの種について知られており(Scherens,B.ら,1991、Yeast,7,pp.185−193;Farquhar,R.,ら、1991,Gene,108,pp.81−89)、哺乳動物の肝臓から精製して均質にした該酵素の作用のメカニズムに関する情報も増えている(Creightonら,1980,J.Mol.Biol.,142,pp.43−62;Freedmanら,1988,Biochem.Soc.Trans.,16,pp.96−9;Gilbert,1989,Biochemistry 28,pp.7298−7305;Lundstrom及びHolmgren,1990,J.Biol.Chem.,265,pp.9114−9120;Hawkins及びFreedman,1990,Biochem.J.,275,pp.335−339)。細胞におけるタンパク質の折り畳み、アッセンブリー及びトランスロケーションの仲介物質として現在推定されている多くのタンパク質因子(Rothman,1989,Cell,59,591−601)のうち、PDIは明確に規定された触媒活性を有するという点で希有である。
【0004】
PDIは哺乳動物の組織から容易に単離され、均質酵素は特徴的な酸性pI(4.0〜4.5)を有するホモダイマー(homodimer)(2×57kD)である(Hillsonら、1984,Methods Enzymo1,107,pp.281−292)。該酵素はコムギ及び藻類Chlamydomonas reinhardiiからも精製された(Kaskaら,1990,Biochem.J.268,pp.63−68)。活性は広範囲の起源で検出されており、予備報告では、PDI活性はS.cerevisiaeにおいて検出可能であると断言された(Williamsら,1968,FEBS Letts.,2,pp.133−135)。最近になって、クローニングしたcDNA配列に主として由来する多くのPDIの完全アミノ酸配列が報告された。その中には、マウス由来(Edmanら,1985,Nature,317,pp.267−270)、ウシ由来(Yamauchiら,1987,Biochem.Biophys.Res.Comm.,146,pp.1485−1492)、ヒト由来(Pihlajaniemiら,1987,EMBO J.,6,pp.643−9)、酵母由来(Scherens,B.ら,前出引用文献;Farquhar,R.ら,前出引用文献)及びヒヨコ由来(Parkkoneら,1988,Biochem.J.,256,pp.1005−1011)のPDIがある。これらの脊椎動物種に由来するタンパク質は全体を通して高度の配列保存を示し、いずれも、最初にマウスPDI配列で観察された幾つかの総合的特徴を示す(Edmanら,1985、前出引用文献)。最も顕著なものは、互いに極めて相同であり且つチオレドキシン、即ち隣接Cys残基の間に形成された活性部位ジスルフィド/ジチオール対を含む小さいレドックス活性タンパク質に密接に関連した配列を有する残基数約100の二つの領域がPDI配列中に存在することである。チオレドキシンでは活性部位配列がECGPCK(配列番号:3)であり、PDI中に二つ存在する対応する領域は配列WCGHCK(配列番号:1)を有する(PDI配列中で同定された他の反復領域、モチーフ及び相同性については後で説明する)。
【0005】
PDIに対応するか又は密接に関連した配列は、ジスルフィド結合の形成以外の機能の分析を目的とする研究で同定された。例えば、PDIが、E.R.内の新生(nasacent)すなわち新合成(newly−synthesized)プロコラーゲンポリペプチドの主な翻訳後修飾を触媒する四量体α2β2酵素プロリル−4−ヒドロキシラーゼのβサブユニットとして作用するという事実が立証されている(Pihlajaniemiら,1987,前出引用文献;Koivuら,1987,J.Biol.Chem.,262,pp.6447−49)。また、PDIが同時翻訳のN−グリコシル化のシステムに関与することを示唆する事実もあり(Geetha−Habibら,1988,Cell,54,pp.63−68)、最近では、該酵素が、トリグリセリドを新生分泌リボタンパク質に変換する複合体に関与しているという説も出ている(Whatterauら,1990,J.Biol.Chem.265,pp.9800−7)。このように、PDIは分泌タンパク質の同時翻訳及び翻訳後修飾で複数の機能を果たし得る(Freedman,1989,Cell,57,pp.1069−72)。
【0006】
哺乳動物分泌タンパク質の大多数は、複数の分子内及び/又は分子間ジスルフィド結合を有している。非限定的具体例としては、下垂体ホルモン、インターロイキン、免疫グロブリン、プロテアーゼ及びその阻害物質、並びに他の血清タンパク質が挙げられる。この種のタンパク質は商業的遺伝子工学の主要標的の一つであるが、細菌及び酵母内でのこれらタンパク質の発現における初期の体験では、これらのタンパク質を機能的に活性な組換え産物として得る上で多くの問題があることが強調された。その結果、一般的には翻訳後修飾、特定的にはタンパク質の折り畳み及びジスルフィド結合形成をより深く解明する必要が重視されるようになった。
【0007】
単一の折り畳みドメインを有するジスルフィド結合をもつタンパク質は通常、正確にジスルフィド結合した状態を妥当な収率で形成するために、完全に還元、変性し、次いでin vitroで再生することができる。このプロセスでは、ゆっくり異性化して天然のジスルフィド結合を生起する多くの様々にジスルフィド結合した形態の混合集団が迅速に形成される。該プロセスは、チオール/ジスルフィド酸化還元緩衝液(例えばGSH及びGSSG)及びアルカリ性pHによって触媒される。沈殿及び鎖間ジスルフィド形成を防止するためには、タンパク質濃度を低くする必要がある。通常は、天然タンパク質の生成速度及び実現可能な最適収率はどちらも、分子内ジスルフィド数の増加に伴って低下する。この問題は、各ドメインが折り畳まれてそれぞれの天然ジスルフィド結合を独立して形成しなければならない複数のジスルフィド結合ドメインを含むタンパク質(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子)ではより重大である。
【0008】
in vivoのジスルフィド結合形成プロセスは、翻訳と同時に、又は極めて早期の翻訳後事象として生起する。哺乳動物細胞のE.R.内腔の新生及び新合成分泌タンパク質の研究では、天然ジスルフィド結合が既に形成されていることが判明している。in vivoのプロセスは、分泌細胞内に豊富に存在するタンパク質であり小胞体の内腔面(luminal face)に局在する酵素、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼによって触媒されると思われる[Freedman,R.B.,1984,Trend in Biochemical Sciences,9,438−441]。この酵素はin vitroで、広範囲のタンパク質基質においてチオール:タンパク質−ジスルフィド交換反応を触媒し、天然タンパク質ジスルフィド形成の細胞触媒に必要とされる特性を有する[Freedman,R.B.ら,1984,Biochem.Soc.Trans.,12,939−942]。該酵素の役割を明らかにする別の事項としては、(i)該酵素の組織分布がジスルフィド結合をもつ分泌タンパク質の合成のそれと合致するという事実[Brockway,B.E.ら,1980,Biochem.J.,191,873−876]、及び(ii)多くの系で、存在する酵素の量が、ジスルフィド結合をもつ分泌タンパク質の合成速度の生理学的変化に平行して変化するという事実[Brockway,B.E.ら,1980,Biochem.J.,191,873−876;Freedman,R.B.ら,1983,“Functions of Glutathione:Biochemical,Physiological,Toxicological & Clinical Aspects”,A.Larsson,S.Orrenius,A.Holmgren & B.Mannervik編,Raven Press,New York,pp.271−282;Paver,J.L.ら,1989,FEBS Letters,242,pp.357−362]が挙げられる。
【0009】
該酵素の特徴は、多くの動物源[Lambert,N.及びFreedman,R.B.,1983,Biochem.J.,213,pp.225−234]及びコムギ[de Azevedo,G.M.V.ら,1983,Biochem.Soc.Trans.,12,1043]で解明されており、分子特性及び動力学的特性の顕著な保存が観察された[Freedman,R.B.ら,1984・Biochem.Soc.Trans.12,pp.939−942;Brockway,B.E.及びFreedman,R.B.,1984,Biochem J.,219,51−59]。しかしながら、該酵素は、下等真核生物又は細菌においてはまだ十分に研究されていない。少なくとも一部の酵母分泌タンパク質(例えばキラー毒素)はジスルフィド結合を含んでいるため、酵母と高等真核生物との間の、分泌に関与するメカニズム及び分子成分の高度の相同性は、該酵素又は類似体が酵母内に存在することを強く示唆させる。
【0010】
商業的に重要な哺乳動物タンパク質の発現のための万能宿主(versatile host)としての酵母の使用は、酵母分泌系の限定された能力、及び該能力と高等真核生物のそれとの相違(例えばグリコシル化における相違)によって、ある程度の妥協を強いられる。
【0011】
本発明は、酵素タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え宿主細胞内でジスルフィド結合タンパク質を産生するための新規の方法と、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え酵母細胞とを提供する。本発明は、ジスルフィド結合をもつ組換え分泌タンパク質の分泌を実質的に且つ予想外に増加させる組換え酵母宿主細胞も提供する。
【0012】
発明の概要
ヒト及び酵母タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)をコードするDNAを単離し、プロモーターと転写ターミネーターとを含む発現カセット又はベクターにクローニングする。PDIをコードするDNAを含む発現カセット又はベクターを宿主細胞内にトランスファーすると、該細胞はPDIタンパク質を過剰産生する。これらのPDI過剰産生細胞を、ジスルフィド結合をもつタンパク質の発現のための組換え宿主として使用する。ジスルフィド結合をもつタンパク質の分泌は、PDI過剰産生宿主細胞では、通常レベルのPDIを産生する宿主細胞と比べて実質的に増加する。
【0013】
発明の詳細な説明
酵母におけるタンパク質の折り畳み及び分泌のプロセスは極めて複雑であり、遺伝子研究に基づいて言えば、30以上の遺伝子産物が関与している(Franzusoff,A.ら,1991,Methods Enzymology,194,pp.662−674)。これらの産物としては、ペプチジルプロリルシス−トランスイソメラーゼ、PDI及び他のチオレドキシン様タンパク質、BiP、種々の分子シャペロン(molecular chaperone)(hsp70、hsp60等)、シグナルペプチダーゼ、シグナル認識タンパク質、E.R.への前駆体のトランスロケーションに関与する種々のタンパク質、ERの種々の構造及び機能成分、ゴルジ(Golgi)、並びにまだ特徴が解明されていない分泌小胞及び多くのタンパク質が挙げられる(Franzuoff,A.ら,1991,前出引用文献;Rothman,J.E.及びOrci L.,1992,Nature,355,pp.409−415;Gething,M.G.及びSambrook,G.,1992,Nature,355,pp.33−45)。このような複雑さに鑑みて、単一の成分(即ちPDI)の量が増加するだけで特定の異種タンパク質の分泌が実質的に増加するという可能性は、当業者には極めて想到しにくいことと思われる。そこで本発明は、PDIの量が増加しただけで、例えばアンチスタシンのような分泌タンパク質の量が有意に且つ実質的に増加するという極めて意外な結果を提示した。これは、タンパク質の折り畳み及び/又はジスルフィド結合形成の促進に関連していると思われる現象である。
【0014】
本発明は、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)をコードするDNAを過剰発現させることにより、組換え宿主細胞による組換えタンパク質の産生を増加させる方法を提供する。本明細書中のPDIは、分子内及び分子間ジスルフィド結合の形成を特異的に触媒する酵素を意味する。
【0015】
幾つかの種に由来するPDI遺伝子のDNA配列は当業界で知られている。これらの種の非限定的具体例としては、ヒト、ウシ、ラット、ニワトリ及び酵母が挙げられる。[Mizunagaら,1990,J.Biochem.,108,pp.846−851;Scherensら,1991,Yeast,7,pp.185−193]。
【0016】
PDIをコードするDNAの単離における出発材料は任意の種類の細胞又は組織であってよく、非限定的具体例としては、哺乳動物及び他の脊椎動物の細胞及び組織、並びに下等真核生物の細胞及び組織が挙げられる。ここでは本発明を、組換え酵母宿主細胞内で発現される酵母及びヒトPDIを用いて説明する。当業者には容易に理解されるように、本発明では別の発現宿主、例えば非限定的具体例として哺乳動物細胞、植物細胞、細菌のような原核生物の細胞、昆虫細胞、並びに酵母及び糸状菌類のような下等真核生物の細胞も使用し得る。また、これも当業者には明らかなように、酵母及びヒ卜細胞以外の起源に由来するPDIコーディングDNAの使用も本発明の範囲内に包含される。PDIコーディングDNAの別の起源の非限定的具体例としては、ヒト以外の脊椎動物、例えばラット及びマウス、非脊椎動物、例えば昆虫、並びに下等真核生物、例えば菌類が挙げられる。
【0017】
Rothblatt及びMeyerの方法(1986,Cell,44,pp.619−28)の方法でS.cerevisiaeから調製したミクロソーム膜フラクションは低レベルのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)活性を有していたが、該レベルは音波処理によって8〜20倍増如した。これは、脊椎動物の同じ細胞コンパートメントに存在するPDI(Millsら,1983,Biochem,J.,213,pp.245−8);Lambert及びFreedman,1985,Biochem.,J.228,pp.635−45)及びコムギの同じ細胞コンパートメントに存在するPDI(Rodenら,1982,FEBS Lett.,138,pp.121−4)と類似の酵素が、該酵母の小胞体の内腔に存在することを示唆するものであった。高等真核生物酵素に対して相同の、PDIをコードする遺伝子をクローニングした。高度の保存を示す可能性が最も高い領域は、脊椎動物PDIにおいて高度に保存されており、特に二つの機能性ジチオール活性部位の領域でチオレドキシンに対して極めて強い相同を示すa及びa’ドメインであると思われる。活性部位の共通配列はFYAPWCGHCK(配列番号:4)である(Parkonnenら,1988,前出引用文献)。非還元性30マーオリゴヌクレオチドを酵母コドンバイアス(bias)に基づいて設計し(Sharpら,1986,Nucleic Acids Res.,14,pp.5125−43)、これを末端標識して、マルチコピーYEpプラスミドpMA3a内で構築した酵母ゲノムライブラリーのスクリーニングに使用した(Crouzet及びTuite,1987,Mol.Gen.Genet.,210,pp.581−3)。スクリーンから二つの極めて陽性のクローン(C7及びC10と称する)が回収され、予備制限地図を作成した結果、挿入体サイズはそれぞれ14kb及び14.5kbであり、二つの挿入物は共通の制限部位をいくつか有することが判明した。クローンC7の挿入物を更に分析した。
【0018】
クローンC7が確かにPDIをコードすることを確認するために、酵母S.cerevisiae株MD40/4[α trp1 ura2 his3 leu 2;Tuiteら,1986,E.M.B.0.J.,1,pp.603−608]をクローン7及び親プラスミドpMA3aで形質転換した。SDS−PAGE分析の結果、C7形質転換体は、主要58kDaポリペプチドを過剰発現し、おそらくは約77kDaの第二のポリペプチドも過剰発現することが判明した(第1図)。また、二つの株の無細胞溶解液をPDI活性についてアッセイしたところ、C7形質転換体は10倍のPDI活性レベル(38.6×10−5U/μgタンパク質)を示した。これら二つの事実は、活性部位配列WCGPCK(配列番号:3)を有するS.cerevisiaeチオレドキシンは分子量が約12kDaであるため(Porqueら、1970,J.Biol.Chem.,245,pp.2363−70)、C7クローンがPDIをコードし、チオレドキシンをコードしないという見方を裏付けるものであった。
【0019】
推定上のPDIコーディング配列の位置を決定する(localise)ために、C7クローンを種々の制限酵素で消化し、消化産物をニトロセルロースにトランスファーし、前述の30マー「活性部位」オリゴヌクレオチドでプローブした。この操作では、5kbのBamHI−SalIフラグメントと、それぞれ5.0及び4.5kbの二つの明らかに隣接しているHindIIIフラグメントとが同定された。後者のパターンは、活性部位のコピーを二つ含むPDIについて予測されるであろうように、「活性部位」プローブの標的が二つ存在し得ることを示唆するものであった。二つのHindIII部位からの予備DNA配列分析では、脊椎動物PDIに対して弱い相同性を示す読取り枠(ORF)の存在が明らかにされたが、これらは連続配列ではないため、他にもHindIII部位が存在するに違いないことも判明した。この推測は、詳細な制限地図の作成とDNA配列決定とによって確認された。天然の制限部位とオリゴヌクレオチドプライマーとを用いて、二つの隣接HindIII部位を含む2.5kbのHindIII−EcoRIフラグメントの配列決定を両方の鎖で行った。
【0020】
DNA配列は、予測された分子量59,082の、530アミノ酸をもつポリペプチドをコードすることができる1593bpの単一読取り枠の存在を予測させた(Farquhar,R.,ら,前出引用文献、第2図参照)。該読取り枠は、適度に多いタンパク質をコードする酵母mRNAに典型的なコドンバイアスを有していた(Bennetzen及びHall,1982,J.Biol.Chem.,257,pp.3029−3031)。コドンバイアス指数(codon bias index)の計算値は0.60であった。
【0021】
決定されたヌクレオチド配列の分析は、多数の標準的酵母プロモーター及びターミネーターモチーフを明らかにした(Farquhar,R.,ら,前出引用文献,第2図参照)。これらのモチーフは、読取り枠に対して−100と−128との問に位置する(TA)14配列の一部分としてのTATAボックス相同部位と、位置−201と−238との間のピリミジンに富んだ領域(37ヌクレオチドのうちの34)とを含む。読取り枠の3’末端には、TAA翻訳ターミネーターに続いて、S.cerevisiae内での転写終結及び/又はポリアデニル化のシグナルと仮定される配列(Zaret及びSherman,1982,Cell,28,pp.563−73)、並びに真核生物ポリアデニル化部位(Proudfoot及びBrown1ee,1976,Nature,264,pp.211−4)の両方に対する相同が存在する。
【0022】
該クローン化遺伝子が転写されたかどうかを調べるために、読取り枠に対して内側の800bp HindIII−StuIフラグメントを用いて、二つの異なる炭素源、グルコース及びアセテートで、異なる増殖サイクル段階まで増殖させたS.cerevisiaeの二つの異なる株(MD40/4c及びSKQ2n[α/a adel/+ade2/+his1/+;Gasionら,1979,J.Biol.Chem.,254,pp.3965−3969])から調製した全RNA試料のノーザンブロットをプローブした。指数増殖細胞では、グルコース及びアセテート増殖細胞で単一の1.8kb転写体が検出されたが、非増殖細胞では転写体は殆ど検出できなかった。転写体のサイズは、mRNAの5’及び3’領域内の非翻訳配列の約200ヌクレオチドを考慮に入れて、読取り枠により予測された通りであった。
【0023】
予測されたアミノ酸配列は、下記の理由によって該配列が正にPDIであることを強く示唆した:
(i)予測された59kDaの分子量と、哺乳動物PDIに特徴的なpI(4.1)とを有していた;
(ii)該アミノ酸配列は、BESTFITソフトウェア(UWGCG,University of Wisconsin)によって決定されたように、先に報告された哺乳動物及び鳥類のPDI配列に対して、30〜32%の全体的同一性と、53〜56%の全体的類似性とを示した;
(iii)該アミノ酸配列中の位置58〜65及び403〜410に「チオレドキシン様」活性部位の二つのコピーを含んでいた。また、これらの配列は、哺乳動物PDI内の重複a/a’領域に対して高度のアミノ酸同一性を示す約100アミノ酸のより大きい内部重複(internal duplication)の一部分であった(第2図)。酵母及び哺乳動物PDI配列を並べると(alignment)、a及びa’領域の外側に、大きな相同を示す別の領域が存在することも明らかになった(第2図)。
【0024】
また、コードされたポリペプチドの別の二つの特徴は、これがS.cerevisiae小胞体の成分であることを示唆している。該タンパク質は、推定上の分泌シグナルの特徴を有する著しく疎水性のN−末端配列をコードし(Gierasch,1989,Biochemistry,28,pp.923−930)、四つのC末端アミノ酸は酵母BiPのそれと同じであり(Normingtonら,1989,Cell,57,pp.1223−36)、S.cerevisiaeの小胞体保持シグナルであると報告されている(Pelhamら,1988,EMBOJ.,7,pp.1757−62)。
【0025】
本発明者らは、クローン化S.cerevisiae PDI遺伝子をPDI1と命名した。このS.cerevisiae PDI1遺伝子はゲノム内のただ一つのコピーに存在する。これは、前述の0.8kb HindIII−Stu1フラグメントを種々のゲノム消化産物に対するブロープとして用いる高緊縮ハイブリダイゼーションにより確認された。
【0026】
単一のPDI1遺伝子が生存能力にとって必須であるかどうかを調べるために、HIS3遺伝子[Montiel,G.F.ら,19814,Nucleic Acids Res.,12,pp.1049−1068]を有する1.8kbのBamHIフラグメントがPDI1コーディング配列内のEcoRV部位に挿入されている(第3図)ヌル(null)対立遺伝子を構築した。his 3二倍体酵母S.cerevisiae株(AS3324;[Spalding,A.,1988,Ph.D.Thesis,Uiversity of Kent])を、pdi1::HIS破壊を有するDNAフラグメントで形質転換して、PDI1遺伝子の二つの染色体コピーのうちの一つを前記非機能性対立遺伝子で置換した。三つのHIS+AS33 24形質転換体(Yl、Y2及びY3)を更に調べた。いずれの場合も、二倍体の胞子形成は四分子当たり二つの生存可能胞子を産生しただけであり(第3図)、これらは総てhis−であった。この結果は、致死表現型がpdi1::HIS3突然変異に関連していたことを示すものである。正確な遺伝子置換がHIS+形質転換体Yl及びY2において生起したことは、800bpのHindIII−StuIフラグメントをブロープとして用いる、PstIで消化したプロットされた酵母ゲノムDNAへのサザンハイブリダイゼーションにより確認された。PDI1遺伝子は内部PstI部位を含まないが(第3図)、HIS3遺伝子は単一PstI部位を含むため(第3図)、これでpdi1::HIS3対立遺伝子は簡単に同定される筈である。予測されたように、非形質転換株AS3324では単一の9kb PsIフラグメントが検出されたが、Y1及びY2形質転換体では9kb及び2.2kbという二つのバンドが、由来の異なる二つのバンドからなると推測される9kbバンドと共に検出された。これらのデータは、二つの染色体のうち一方の染色体上のPDI1遺伝子がHIS3対立遺伝子で置換され、このような事象がハプロ致死性であることを立証するものである。
【0027】
酵母PDIをコードするDNAを分子的にクローニングするためには、種々の方法のうち任意のものを使用し得る。これらの方法の非限定的具体例としては、適当な発現ベクター系内でのPDI含有DNAライブラリーの構築に次ぐ、PDI遺伝子の直接的機能発現が挙げられる。別の方法は、バクテリオファージ又はプラスミドシャトルベクター内で構築したPDI含有DNAライブラリーを、PDIタンパク質のアミノ酸配列から設計した標識付きオリゴヌクレオチドプローブでスクリーニングすることからなる。好ましい方法は、プラスミドシャトルベクター内で構築したヒト又は酵母PDI含有ゲノムDNAライブラリーを、酵素活性部位の既知のアミノ酸配列をコードする推定DNAプローブでスクリーニングすることからなる。
【0028】
当業者には容易に理解されるように、別のタイプのライブラリー、及び別の細胞又は細胞タイプから構築したライブラリーもPDIをコードするDNAの単離に有用であり得る。別のタイプのライブラリーの非限定的具体例としては、酵母細胞以外の別のヒト、脊椎動物及び下等真核生物細胞又は細胞系に由来するcDNA及びゲノムDNAライブラリーが挙げられる。
【0029】
当業者には明らかなように、適当なライブラリーは、PDI活性を有する細胞又は細胞系から調製し得る。PDI cDNAを単離するためのcDNAライブラリーの形成で使用するための細胞又は細胞系の選択は、前述の方法を用いて、最初に細胞結合PDI活性を測定することにより実施し得る。
【0030】
cDNAライブラリーの形成は当業者に良く知られている標準的方法で実施できる。良く知られているcDNAライブラリー構築方法は、例えばManiatis,T.,Fritch・E・F.,Sambrook,J.,Molecular Cloning:A Laborartory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New york,1982)に記載されている。
【0031】
PDIをコードするDNAを適当なゲノムDNAライブラリーから単離し得ることも当業者には明らかであろう。
【0032】
ゲノムDNAライブラリーの構築は当業者に良く知られている標準的方法で実施できる。良く知られているゲノムDNAライブラリー構築方法は、Maniatis,T.Fritch,E.F.,Sambrook,J.,Molecular Cloning:A Laboratory Manuel(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New york,1982)に記載されている。
【0033】
前述の方法で得たクローン化PDIは、組換えPDIを産生するために、適当なプロモーターと別の適当な転写詞節エレメントとを含む発現ベクターヘの分子クローニングにより組換え的に発現し、原核生物又は真核生物宿主細胞内にトランスファーし得る。この種の操作を行うための技術は、前出のManiatis,T.らの文献に詳述されており、当業者には良く知られている。
【0034】
本明細書では、発現ベクターは、遺伝子のクローン化コピーの転写と、mRNAの適当な宿主内での翻訳とに必要なDNA配列であると定義される。この種のベクターは、細菌、藍藻、植物細胞、菌類、昆虫細胞及び動物細胞のような種々の宿主内で真核生物遺伝子を発現させるのに使用し得る。
【0035】
特異的に設計したベクターは、宿主間、例えば細菌−酵母又は細菌−動物細胞問のDNAのシャトリングを可能にする。適当に構築した発現ベクターは、宿主細胞内の自律的複製のための複製起点と、選択可能なマーカーと、限定数の有用な制限酵素部位と、高コピー数へのポテンシャルと、活性プロモーターとを含んでいる必要がある。プロモーターは、RNAポリメラーゼをDNAに結合させRNA合成を開始させるDNA配列であると定義される。強力なプロモーターは、mRNAが高頻度でイニシエートされるようにするプロモーターである。発現ベクターの非限定的具体例としては、クローニングベクター、修飾されたクローニングベクター、特異的に設計されたプラスミド又はウイルスが挙げられる。
【0036】
哺乳動物細胞内で組換えPDIを発現させるためには、種々の哺乳動物発現ベクターを使用し得る。組換えPDI発現に適し得る市販の哺乳動物発現ベクターの非限定的具体例としては、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO−pS−neo(ATCC 37593)、pBPV−1(8−2)(ATCC 37110)、pdBPV−MMTneo(342−12)(ATCC 37224)、pRSVgpt(ATCC 37199)、pRSVneo(ATCC 37198)、pSV2−dhfr(ATCC 37146)、pUCTag(ATCC 37460)及びgZD35(ATCC 37565)が挙げられる。
【0037】
PDIをコードするDNAはまた、種々の組換え宿主細胞内での発現のために発現ベクターにクローニングし得る。組換え宿主細胞は原核生物、例えば非限定的具体例として細菌、又は真核生物、例えば非限定的具体例として酵母、哺乳動物細胞、例えば非限定的具体例としてヒト、ウシ、ブタ、サル及び齧歯類動物に由来する細胞系、並びに昆虫細胞、例えば非限定的具体例としてDrosophila由来細胞系、及び組換えバキュロウイルス発現系と共に使用されるSpodoptera frugiperda(SF9)昆虫細胞であってよい。適当なものとして使用し得る市販の哺乳動物種由来細胞系の非限定的具体例としては、CV−1(ATCC CCL 70)、COS−1(ATCC CRL 1650)、COS−7(ATCC CRL 1651)、CHO−K1(ATCC CCL 61)、3T3(ATCC CCL 92)、NIH/3T3(ATCC CRL 1658)、HeLa(ATCC CCL 2)、C127I(ATCC CRL 1616)、BS−C−1(ATCC CCL 26)及びMRC−5(ATCC CCL 171)が挙げられる。
【0038】
酵母活性プロモーターは酵母宿主内でのPDI遺伝子の転写を開始させる。従って、当業者には容易に理解されるように、任意の酵母活性プロモーター配列、例えば非限定的具体例として、GAL1、GAL10、GAL7、PGK1、ADH1、ADH2、PHO5及びGAP491(TDH3)を利用し得る。また、組換え宿主内でのPDIの発現をアッセイするために、適当なアッセイシステム、例えばイムノブロット又はRIAもしくはエンザイムイムノアッセイ(EIA)を使用し得ることも当業者には明らかであろう。
【0039】
S.cerevisiaeは、増殖用炭素源としてのガラクトースの利用に関与している酵素をコードする遺伝子を五つ有している。GALl、GAL2、GAL5、GAL7及びGAL10はそれぞれ、ガラクトキナーゼ、ガラクトースペルメアーゼ、ホスホグルコムターゼの主要アイソザイム、α−D−ガラクトース−1−ホスフェートウリジルトランスフエラーゼ及びウリジンジホスホガラクトース−4−エピメラーゼをコードする。ガラクトースが存在しないと、これらの酵素の発現はほとんど検出されない。細胞をグルコースで増殖し、次いでガラクトースを培養物に加えると、これら3種類の酵素はRNA転写のレベルで、少なくとも1,000倍だけ(GAL5は例外であって、約5倍に誘導される)協調的に誘導される。GAL1、GAL5、GAL7及びGAL10遺伝子を分子的にクローニングし配列決定した。それぞれのコーディング領域の5’側の調節及びプロモーター配列は、1acZ遺伝子のコーディング領域に隣接して配置した。これらの実験で、ガラクトースの誘導に必要十分なプロモーター及び調節配列が決定された。
【0040】
S.cerevisiaeはまた、各々がADHのアイソザイムをコードする三つの遺伝子を有する。これらの酵素のうちの一つであるADHIIは、S.cerevisiaeが酸化的増殖時にエタノールを炭素源として利用する能力に関与している。ADHIIアイソザイムをコードするADH2遺伝子の発現はグルコースにより異化代謝産物抑制されるため、0.1%(w/v)のレベルのグルコースの存在下では発酵的増殖時のADH2遺伝子の転写は実質的に行われない。グルコースが欠失しており且つ非抑制炭素源が存在すると、ADH2遺伝子の転写は100〜1000倍誘導される。この遺伝子を分子的にクローニングして配列決定し、転写の抑制解除(derepression)に必要十分な調節及びプロモーター配列を決定した。
【0041】
アルファ接合因子(alpha mating factor)は、MATα細胞とMATa細胞との間の接合に必要とされるS.cerevisiae性フェロモンである。このトリデカペプチドは、粗面小胞体内に送られ、グリコシル化され、タンパク質分解的にプロセシングされて、細胞から分泌される最終成熟形態となるプレプロフェロモンとして発現される。この生化学的経路は、外来ポリペプチドの発現ストラテジーとして利用されてきた。アルファ接合因子遺伝子は分子的にクローニングされ、プレプロリーダー配列を有する該遺伝子のプロモーターは種々のポリペプチドの発現及び分泌に利用されてきた。また、PHO5遺伝子プロモーターは低濃度ホスフェートによって誘導し得ることが判明した。これは、酵母内での外来タンパク質の生理学的に調節された発現にとっても有用である。
【0042】
アルファ接合因子プロモーターは、表現型的にαである細胞内でのみ活性を示す。S.cerevisiaeにはSIRとして知られている四つの遺伝子座があり、これらはa及びα情報の通常サイレントの別のコピーの抑制に必要なタンパク質を合成する。この抑制事象を妨害する温度感受性(ts)障害が、これらの遺伝子座のうち少なくとも一つの座の遺伝子産物内に存在する。この突然変異体では、35℃での増殖が抑制を阻止し、その結果、アルファ接合因子プロモーターが不活性である表現型的にa/αの細胞が生じる。温度を23℃にシフトすると、細胞は表現型的にαに戻り、その結果プロモーターが活性になる。ts SIR障害を有する株の使用は、幾つかの外来ポリペプチドの制御された発現について説明されてきた。
【0043】
当業者には容易に理解されるように、PDIの発現のための適当な酵母株は広範囲の候補の中から選択される。適当な酵母株の非限定的具体例としては、プロテアーゼ欠失及び変化したグリコシル化能力といったような遺伝子型的及び表現型的特徴を有するものが挙げられる。
【0044】
Saccharomyces属は様々な種からなる。S.cerevisiaeは種々の外来ポリペプチドの組換えDNA仲介発現のための宿主として最も一般的に使用されている。しかしながら、Saccharomyces属の他の種の問の区別は必ずしも明確ではない。これらの種の多くはS.cerevisiaeと交雑することができ、S.cerevisiaeのプロモーターと類似の又は同じプロモーターを有していると思われる。従って、当業者には容易に理解されるように、PDI発現のための宿主株の選択範囲は、Saccharomyces属の別の種、例えば非限定的具体例としてcarlsbergensis、diastaticus、elongisporus、kluyveri、montanus、norbensis、oviformis、rouxii及びuvarumにまで広がる。
【0045】
幾つかの酵母属、例えばCandida、Hansenula、Pichia及びTorulopsisは、唯一の増殖用炭素源としてのメタノールの利用について類似の代謝経路を有することが判明した。この代謝経路に関与する酵素であるアルコールオキシダーゼの遺伝子はPichia pastorisから単離されている。P.pastorisアルコールオキシダーゼプロモーターは単離されて、発現のメタノール誘導に敏感であることが判明した。このような誘導可能プロモーターは、酵母内でのポリペプチド発現に有用である。特に、このプロモーターは、P.pastoris内での異種遺伝子の誘導可能な発現用のプラミド上で活性であることが判明した。この観察は、別の酵母属が活性型のポリペプチドの組換えDNA仲介発現のための宿主として機能する可能性を強調するものである。従って、当業者には容易に理解されるように、PDI発現のための宿主の選択範囲は、Saccharomycetaceae科及びCryptococcaceae料の別の酵母属の種、例えば非限定的具体例としてCandida、Hansenula、Kluyveromyces、Pichia、Saccharomyceopsis及びTorulopsisにまで広がる。
【0046】
発現ベクターは、多くの方法、例えば非限定的具体例として形質転換、トランスフェクション、プロトプラスト融合法及び電気穿孔法のうち任意の方法を用いて宿主細胞内に導入し得る。発現ベクター含有細胞はクローン的に増殖し、個々に分析して、PDIタンパク質を産生するかどうかを調べる。PDI発現宿主細胞クローンの同定は、幾つかの方法、例えば非限定的具体例として抗PDI抗体に対する免疫学的反応性、及び宿主細胞結合PDI活性の存在によって実施し得る。
【0047】
PDI DNAの発現はまた、in vitroで産生した合成mRNAを用いて実施し得る。合成mRNAは種々の無細胞システム、例えば非限定的具体例としてコムギ胚芽抽出物及び網状赤血球抽出物中で効率的に翻訳できると共に、細胞ベースのシステム、例えば非限定的具体例としてカエル卵母細胞内へのマイクロインジェクションで効率的に翻訳できる。
【0048】
当業者には容易に理解されるように、PDIは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、宿主細胞ゲノムに組込まれた組換え発現カセットに由来する組換え宿主内で発現され得る。また、これも当業者には明らかであろうが、PDIは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで自律的複製プラスミド上に存在する組換え発現カセットに由来する組換え宿主内で発現され得る。
【0049】
組換えPDIを発現する組換え宿主細胞は、別の組換え遺伝子の発現のための宿主として使用し得る。本発明の新規の方法は、組換えPDIを産生する宿主細胞内で、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAを発現させることにより、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質の収率を実質的に増加させる。当業者には容易に理解されるように、本発明の方法ではジスルフィド結合をもつ種々のタンパク質が産生され得る。ジスルフィド結合をもつタンパク質の非限定的具体例としては、分泌されるか又は細胞結合状態を保持するタンパク質が挙げられる。ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質の発現のための組換えDNA構築物は、PDIについて詳述した方法によって形成し得る。当業者には明らかなように、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、宿主細胞ゲノムに組込まれた組換え発現カセットから発現され得る。また、これも当業者には明らかであろうが、ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、自律的複製プラスミド上に存在する組換え発現カセットから発現され得る。更に、これも当業者には容易に理解されることであるが、PDIをコードするDNA及びジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質をコードするDNAは、細胞当たり単一のコピー又は複数のコピーで、同一プラスミド上に存在し得る。ジスルフィド結合をもつ二つ以上のタンパク質が、組込まれたカセットもしくはプラスミド上のカセット、又はこれらの組合わせから同時発現され得ることも当業者には明らかであろう。
【0050】
組換え宿主細胞内でのPDIの発現後は、PDIタンパク質を回収して、タンパク質中のジスルフィド結合の形成を触媒することができる活性型の精製PDIを取得し得る。PDI精製方法は幾つか存在し、使用に適している。天然起源に由来するPDIの精製について前述したように、組換えPDIは細胞溶解物及び抽出物、又はならし培養培地から、塩分画、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイト吸着クロマトグラフィー及び疎水的相互作用クロマトグラフィーを様々に組合わせて又は個々に使用して精製し得る。
【0051】
更に、組換えPDIは、PDIに特異的なモノクローナル又はポリクローナル抗体を用いて形成したイムノアフィニティカラムを用いて、別の細胞タンパク質から分離することができる。
【0052】
PDIに対する単一特異性抗体を、PDIに対して反応性を示す抗体を含む哺乳動物抗血清から精製するか、又はKohler及びMilstein,Nature 256:495−497(1975)に記載の方法を用いて、PDIに対して反応性を示すモノクローナル抗体として製遺する。本明細書中の単一特異性抗体は、PDIに対する均一結合特性を有する単一の抗体種又は複数の抗体種であると定義される。本明細書中の均一結合(homogenous binding)という用語は、抗体種が特定の抗原又はエピトープ、例えば前述のようなPDIと結合する能力を指す。酵素特異的抗体は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマ等の動物、好ましくはウサギを、免疫アジュバントを用いて又は用いないで、適当な濃度のPDIで免疫感作することにより産生する。
【0053】
最初の免疫感作の前に免疫前血清を回収する。許容し得る免疫アジュバントと組合わせたPDIを約0.1mg〜1000mgで各動物に投与する。許容し得る免疫アジュバントの非限定的具体例としては、フロインドの完全アジュバント、フロインドの不完全アジュバント、ミョウバン沈降物、Corynebacterium parvum及びtRNAを含む油中水エマルジョンが挙げられる。最初の免疫感作は、好ましくはフロインドの完全アジュバント中の酵素を、皮下(SC)、腹腔内(IP)又はその両方で複数の部位に注射することからなる。各動物から一定の時間間隔、好ましくは一過間間隔で採血して、抗体力価を測定する。動物には、最初の免疫感作後に、ブースター注射をしてもしなくてもよい。ブースター注射をした動物には、通常、同量のフロインド完全アジュバント中酵素を同一経路で与える。ブースター注射は、最大力価が得られるまで約3週間の間隔で行う。各ブースター感作から約7日後、又は単一免疫感作の後で約1週間毎に動物から採血し、血清を回収し、アリコートを約−20℃で貯蔵する。
【0054】
近交系マウス、好ましくはBalb/cをPDIで免疫感作して、PDIと反応するモノクローナル抗体(mAb)を製造する。マウスは、前述のように、IP又はSC経路で、同量の許容し得るアジュバントに混入した約0.5mlの緩衝液又は生理食塩水中約0.1mg〜約10mg、好ましくは約1mgのPDIで免疫感作する。好ましくはフロインドの完全アジュバントを使用する。マウスは0日日に最初の免疫感作を施し、約3〜約30週間にわたって休息させる。免疫感作したマウスには、リン酸塩緩衝生理食塩水のような緩衝溶液中約0.1〜約10mgのPDIの投与からなる一回以上のブースター免疫感作を、静脈注射(IV)によって施す。抗体陽性マウスに由来するリンパ球、好ましくは脾臓リンパ球を、当業者に公知の標準的方法で免疫マウスから脾臓を除去することによって得る。脾臓リンパ球と適当な融合相手、好ましくは骨髄腫細胞とを、安定なハイブリドーマを形成させる条件下で混合して、ハイブリドーマ細胞を製造する。融合相手の非限定的具体例としては、マウス骨髄腫P3/NS1/Ag4−1;MPC−11;S−194及びSp2/0が挙げられるが、好ましいのはSp2/0である。抗体産生細胞及び骨髄腫細胞を、約30%〜約50%の濃度で、約1000mol.wt.のポリエチレングリコール中で融合させる。当業者に公知の方法で、ヒポキサンチン、チミジン及びアミノプテリンを添加したダルベッコ改質イーグル培地(DMEM)での増殖により、融合したハイブリドーマ細胞を選択する。約14、18及び21日目に増殖陽性ウェルから上清液を回収し、PDIを抗原として用いる固相イムノラジオアッセイ(SPIRA)のようなイムノアッセイによってスクリーニングし、抗体の産生を調べる。mAbのアイソタイプを調べるために、培養液をOuchterlony沈降アッセイでも検査する。抗体陽性ウェルからのハイブリドーマ細胞を、MacPhersonの軟質寒天技術(Soft Agar Techniques,Tissue Culture Methods and Applications、Kruse及びPaterson編、Academic Press、1973)によりクローニングする。
【0055】
初回抗原刺激(priming)から約4日後、プリスタン感作Balb/cマウスに、マウス当たり約0.5mlで、約2×106〜約6×106のハイブリドーマ細胞を注射することにより、モノクローナル抗体をin vivoで産生する。細胞のトランスファーから約8〜12日後に腹水を回収し、当業者に公知の方法でモノクローナル抗体を精製する。
【0056】
約2%のウシ胎児血清を含むDMEM中でハイブリドーマを増殖させてin vitroのmAb産生を行い、十分な量の特異的mAbを得る。該mAbを当業者に公知の方法で精製する。
【0057】
腹水又はハイブリドーマ培養液の抗体価を、種々の血清学的又は免疫学的アッセイ、例えば非限定的具体例として、沈降法、受動凝集、ELISA(enzyme−linked immunosorbent antibody)及びラジオイムノアッセイ(RIA)で測定する。類似のアッセイを用いて、体液又は組織及び細胞抽出物中のPDIの存在を検出する。
【0058】
当業者には容易に理解されるように、単一特異性抗体を製造するための前述の方法は、PDIポリペプチドフラグメント又は完全長さのPDIポリペプチドに特異的な抗体の産生に使用し得る。
【0059】
抗体がアガロースゲルビーズ支持体との共有結合を形成するようにN−ヒドロキシスクシンイミドエステルで予備活性化したゲル支持体であるAffigel−10(Biorad)に抗体を加えて、PDI抗体アフィニティカラムを形成する。抗体は、スペーサーアームとのアミド結合を介してゲルに結合する。次いで、残りの活性化エステルを1M エタノールアミンHCl(pH8)でクエンチする。カラムを水及び0.23M グリシンHCl(pH2.6)で順次洗浄して、非結合抗体又は外来タンパク質を除去する。次いでカラムをリン酸塩緩衝生理食塩水(pH7.3)中で平衡化し、PDIを含む細胞培養上清又は細胞抽出物をゆっくりとカラムに通す。該カラムをリン酸塩緩衝生理食塩水で光学密度(A280)がバックグラウンドに低下するまで洗浄し、次いでタンパク質を0.23M グリシン−HCl(pH2.6)で溶離する。次いで、精製PDIタンパク質をリン酸塩緩衝生理食塩水に対して透析する。
【0060】
以下の実施例は本発明を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0061】
株及び増殖条件
Saccharomyces cerevisiae株MD40/4C(MATα、leu2−3−112、ura2、his3−11、−15、trp1)及びAS3324(MATα/MAT“a”his3/his3、leu2/leu2、ura3/ura3、trp1/trp1)を、YEPD(1%バクトペプトン、1%酵母抽出物、2%グルコース)又はpH5.8緩衝最少培地(0.67%アミノ酸無含有酵母窒素ベース、2%グルコース、1%コハク酸、0.6% NaOH、50μg/mlメソ−イノシトール)に必要な塩基及びアミノ酸を加えたものの中で30℃で増殖させた。
【0062】
S.cerevisiae株JRY188(MATα、sir3−8、leu2−112、trp1、ura3−52、his4;Brake,A.J.ら,1984,Proc.Nat’1.Acad.Sci.USA,81,pp・4642−4646)及びBJ1995(MATα、leu2、trp1、ura3−52、prb1−1122、pep4−3、gal2;Jones,E.W.,1991,Methods Enzymol.,194,pp.428−453)をPDI過剰発現の評価に使用し、適当な実施例に記載のように増殖させた。
【0063】
大腸菌(Escherichia coli)株DH5α(supE44ΔlacU169(φ80lac ZΔM15)hsd R17 recA1 endA1 gyrA96 thi−1 relA1)をプラスミドスクリーニング操作に使用した。
【実施例2】
【0064】
DNA操作
制限ヌクレアーゼ消化及びDNA連結を、酵素製造業者(BCL、BRL)の指示に従って実施した。E.coli形質転換の棲準的プロトコル(Cohenら,1972,P.N.A.S.USA,69,pp.2110−9)及びS.cerevisiae形質転換の標準的プロトコル(Beggs,1978 Nature,275,pp.104−9;Itoら,1983,J.Bacteriol.,153,pp.163−8)を実施した。Holmらの方法(1986,Gene,42,pp.169−73)でS.cerevisiaeからゲノムDNAを製造した。
【実施例3】
【0065】
PDI1遺伝子の単離
高コピー数LEU2−d、2ミクロンベースベクターpMA3a(Crouzet及びTuite,1987,前出引用文献)のBamHI部位にクローニングしたS.cerevisiae株SKQ2n[α/a adel/+ade2/+his1/+;Gasionら、前出引用文献]に由来するDNAの部分的Sau3Aフラグメントを含む酵母ゲノムライブラリーを、PDI1遺伝子についてのスクリーニングに使用した。30マーオリゴヌクレオチド(5’CTTACAGTGACCACACCATGGAGCGTAGAA3’)(配列番号:5)を、高度に保存されている「チオレドキシン様」活性部位(FYAPWCGHCK)(配列番号:4)に対して、但し酵母コドンバイアスを用いて(Sharpら,1986,前出引用文献)合成した。
【0066】
非組込みヌクレオチドから標識オリゴヌクレオチドを分離すべくDE−52クロマトグラフィーを使用して、前記ライブラリーをスクリーニングするために、前記オリゴヌクレオチド50ngを[γ−32p]dATP[Amersham,3000Ci/mmol.]及びT4ポリヌクレオチドキナーゼで末端標識した。次のようなコロニーハイブリダイゼーションにより、約20,000 DH5α組換えコロニーをニトロセルロースフィルターでスクリーニングした:各ニトロセルロースフィルターを、35%ホルムアミド、6×SSC、1×デンハート溶液、250μg/ml変性サケ精子DNA、0.1%SDS中で、37℃で16時間にわたり予備ハイブリダイズした。標識オリゴヌクレオチド(比活性4.8×109dpm/μg)を90℃で3分間変性し、次いで予備ハイブリダイゼーション緩衝液中で2ng/mlに希釈し、フィルターに加えた。37℃で更に16時間インキュベートした後、フィルターを除去し、4×SSC、0.1%SDS中で2分間濯いだ。該フィルターを一晩オートラジオグラフイーにかけた。
【0067】
39個の潜在的陽性コロニーが同定され、これらを前述のスクリーニングに更に2画かけると、その後で10個の陽性クローン(標識付きC1〜C10)が得られた。これらのクローンのうちの二つ(C7及びC10)の制限地図を作成し、クローンC7を後続の研究のために選択した。
【実施例4】
【0068】
DNA配列の解析
配列決定に適した大きさのフラグメントを同定するために、クローンC7を一連の制限酵素で消化し、1%アガロースゲル上でフラグメントを分離し、真空プロッティング装置(Hybaid Ltd.)を用いてGenescreen Plusメンブラン(DuPont)にトランスファーした。次いで、Maniatisらの方法(1982、前出引用文献)に実質的に従ってフィルターを予備ハイブリダイズし、その後、前述のように末端標識し変性した30マーオリゴヌクレオチドプローブを加えた。ハイブリダイゼーションを6×SSC中43℃で24時間実施し、次いで2回の洗浄を200mlの2×SSC中室温で5分間行い、更に2回の洗浄を200mlの2×SSC、0.1%SDS中65℃で1時間行い、最後に500mlの0.1×SSC中で室温で1回洗浄した。次いでフィルターを−70℃で48時間オートラジオグラフイーにかけた。
【0069】
ジデオキシ鎖ターミネーター法(Sangerら,1977,Proc.Nat’l.Acad.Sci.U.S.A.,74,5463−67)を用いて、クローンC7に由来する2.4kbのHincII−EcoRIフラグメントを完全に配列決定した。配列決定に適した制限フラグメントを、Holmes及びQuigleyの迅速な方法(1981,Anal.Biochem.,pp.193−7)を用いて配列決定用に製造したプラスミドDNAとpUC19とにサブクローニングした。更に、幾つかのフラグメントを一本鎖ベクターmp12又はmp13にクロ―ニングした(Messing,1983,Methods Enzymol.,101,pp.20−78)。一連の配列決定プライマー(15〜18マー)を合成した。これらのプライマーは、クローニングベクターのポリリンカー領域、又は予め推定した内部C7 DNA配列にアニーリングする。プライマーのアニーリングに先立ち、プラスミドDNAを0.2M NaOH、2mM EDTA中で37℃で30分間変性し、0.1容の3M酢酸ナトリウムpH5.0の添加によって中和し、3容の95%エタノールで−70℃で15分間沈降させた。[α−32P]dATP(3000Ci/mmol;ICN)を標識に使用して、in vitroの鎖伸長を行うために、T7 DNAポリメラーゼ(Sequences,US Biochemicals)を製造業者の指示通りに使用した。反応を既に記述されている方法で解析した(Bossierら,1989,Gene,78,pp.323−30)。
【実施例5】
【0070】
RNAの製造及び解析
株MD40/4cの指数増殖細胞(5×106〜1×107細胞/ml)又は定常期細胞(2×108細胞/ml)から完全RNAを製造した。30分間の熱衝撃(30℃〜42℃)にかけたMD40/4cの指数増殖細胞からもRNAを抽出した。完全RNAは、本質的にDobsonらの方法(1983,Nucleic Acids Res.,11,2287−2302)に従って抽出した。
【0071】
ノーザンプロット解析を次のように実施した:20μgの完全RNAを20%ホルムアルデヒド、50%脱イオンホルムアミド中で55℃で15分間加熱することにより変性し、次いで8%ホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲル中で分離した。該RNAを真空プロッティングでニトロセルロースフィルター(S&S、B A85)にトランスファーし、該フィルターを10mM トリス−HCl中で5分間煮沸した。ハイブリダイゼーションを、10×デンハート溶液、2×SSC、50mMリン酸塩緩衛液pH6.5、40%ホルムアミド、0.1%SDS、400μg/ml熱変性サケ精子DNA及び1〜5ng/mlのプローブ中で42℃で一晩実施した。フィルターを−70℃で1〜5日間オートラジオグラフイーにかけた。使用したブロープは、PDI1遺伝子に由来する0.8kbのHindIII−StuIフラグメント(Farquhar,R.ら,前出引用文献、第2図参照)、並びにpBR322にクローニングしたS.cerevisiaeの18S及び25SリボソームRNA遺伝子の一部分を含むプラスミドScp7(Dr.B.S.Cox,University of Oxfordから入手)である。これらのブロープは、ランダムプライマー標識(BCL)で製造業者の指示に従って標識した。
【実施例6】
【0072】
P di1::HIS3対立遺伝子の構築
HIS3遺伝子を有する1.8kbのBamHIフラグメントをプラスミドpMA700から放出させ(Montielら,1984、前出引用文献)、1%低融点アガロース(Sigma)上で精製した。該フラグメントのBamHI付着末端を、Maniatisらの方法(1982、前出引用文献)で、dNTPsとDNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントとを用いて充填した。次いでPDI1遺伝子の1.2kb DraI−BgllIIIフラグメントを、プラスミドpUC19のポリリンカー内のSmaI−BamHI部位にサブクローニングした。最後に、HIS3遺伝子を含む充填したBamHIフラグメントを、PDI1コーディング領域内の単一のEcoRV部位に連結した(第3図)。得られたpdi1::HIS3対立遺伝子を3.0kbのSal1−EcoRIフラグメント上に遊離させ、低融点アガロ−ス上で精製し、Itoらの酢酸リチウム形質転換プロトコル(1983、前出引用文献)を用いて二倍体株AS3324をHis+プロトトロフィ(prototrophy)に形質転換するのに使用した。
【実施例7】
【0073】
in vitroのPDIアッセイ
全タンパク質抽出物におけるPDI活性のアッセイを、Hillsoらの方法(1984,Methods Enzymol.,107,pp.281−92)で実施した。
【0074】
基質の調製
スクランブルリボヌクレアーゼ(scrambled ribonuclease)は、ランダムに形成されたジスルフィド結合を含む完全に酸化した混合物である。これは、市販の(Sigma)ウシ膵臓リボヌクレアーゼAから下記の方法で調製する。
リボヌクレアーゼを、50mMトリス−HCl緩衝液、pH8.6、8.9M尿素、130mMジチオトレイトール(還元可能ジスルフィド結合に対して約15倍モル過剰なジチオトレイトール)中30mg/ml(約2.2mM)で、室温で18時間〜20時間、又は35℃で1時間インキュベートする。
【0075】
反応混合物を氷酢酸でpH4に酸性化し、その直後に、脱ガスした0.1M酢酸でSephadex G−25カラムから溶離することにより、還元タンパク質を分離する。280nmで溶離フラクションをモニターし、タンパク質含有フラクションをプールし、天然リボヌクレアーゼを標準として用いて、タンパク質濃度を分光光学的に又は化学的に測定する。
【0076】
還元リボヌクレアーゼの試料を0.1M酢酸で約0.5mg/mlに希釈する。固体尿素を最終濃度10Mまで加え、塩酸サルコシンを0.1Mまで加える(サルコシンは濃厚尿素溶液中に存在するシアネートイオンと反応させるために加えられ、カルバミル化によってリボヌクレアーゼを不活性化し得る)。1MトリスでpHを8.5に調整し、暗所室温で2〜3日間インキュベートする。その間にタンパク質は大気O2によってランダムに再酸化される。このインキュベーションの後で、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)を用いて遊離チオール基を調べると、再酸化が完了していることが判明する(リボヌクレアーゼ分子当たり0.1以下の遊離チオール)。
【0077】
氷酢酸でpH4に酸性化し、0.1M 酢酸中でSephadex G−25から溶離することにより、スクランブル産物を回収する。タンパク質含有フラクションをプールし、1MトリスでpH8に調整し、4℃で貯蔵する。
【0078】
この方法によるスクランブルリボヌクレアーゼの収率は通常90〜100%である。該産物は溶液中4℃で6ヶ月まで安定であり、あるいは、50mM NH4・HCO3、pH7.8中に透析し、次いで凍結乾燥して、−20℃で無期限に貯蔵し得る白色綿毛状固体物質としてもよい。
【0079】
アッセイの手順
基質、スクランブルリボヌクレアーゼは、約2%の天然リボヌクレアーゼ活性を有する高分子量RNAの加水分解開裂では本質的に不活性である。スクランブルリボヌクレアーゼ中の分子間及び分子内ジスルフィドの交換の触媒におけるPDIの作用は、天然ジスルフィド結合、天然配座を回復させ、RNAに対するリボヌクレアーゼ活性を随伴的に回復させる(concomitant return)。このようにして、PDIの活性を、処理中にアリコートが採取されるタイムコース(time−course)インキュベーションによってアッセイし、RNAに対するリボヌクレアーゼ活性を測定する。
【0080】
タンパク質ジスルフィド−イソメラーゼの試料を、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5に、最終量が900μlになるまで加え、10−5Mジチオトレイトール(10μ1の1mMストック溶液、毎日新しく調製)と共に30℃で2〜3分間予備インキュベートする。トリス−HCl緩衝液も使用し得るが、その場合は活性が約25%低下する。次いでアッセイを、スクランブルリボヌクレアーゼの100μlアリコート(10mM酢酸中0.5mg/mlストック溶液、毎日新しく調製)の添加により開始し、インキュベーション混合物を30℃に維持する。より小さい規模で操作する場合は、前述の量を1/10に減少して、最終アッセイ量を100μ1とし得る。10μ1アリコートを0.5分の時点で採取し、その後2〜3分間隔で18分まで採取して、スクランブルリボヌクレアーゼの再活性化についてアッセイする。各アリコートは、30℃で予め平衡化した石英キュベット内で、0.25mgの高度に重合した酵母RNA(50μlの5mg/mlストック溶液)を含む3mlのTKM緩衝液(50mMトリス−HCl緩衝液、pH7.5、25mM KCl、5mM MgCl2)のアッセイ混合物に即座に加える。Perkin−Elmer 356分光光度計(バンド幅2.5nm)のデュアル波長モードを用いてリボヌクレアーゼ活性を30℃でモニターし、A280(ΔA)に対するA260の変化を測定する。RNA加水分解速度(ΔA分−1)は1.5〜2分にわたって一定である。この速度に対してインキュベーションからのアリコートの採取時間をプロットしたグラフは、15分まで直線である。時間推移(time course)の該直線部分の勾配(ΔA分−1分−1)を三つ組みアッセイの線形回帰分析で計算し(相関係数は決まって≧0.99である)、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ活性の測定値とする。
【0081】
ジチオトレイトールのみによるスクランブルリボヌクレアーゼの非酵素的再活性化の速度を測定するために、酵素試料を省略して対照インキュベーションを実施する。これらの速度は通常0.2×10−3ΔA分−1分−1であり、酵素試料のタンパク質ジスルフィド−イソメラーゼ活性の計算で差し引かれる。
【0082】
1単位のタンパク質ジスルフィド−イソメラーゼ活性は、1リボヌクレアーゼ単位/分の速度でスクランブルリボヌクレアーゼの再活性化を触媒する量であると定義される。1リボヌクレアーゼ単位は、1吸収(adsorbance)単位/分のA280に対するA260の変化を生起する量であると定義される。
【実施例8】
【0083】
酵母LYS2又はURA3座にPDI発現カセットを組込むためのベクターの構築
LYS2での組込みのためのベクターを下記の手順で構築した。プラスミドpUC19をHindIIIで消化し、線形ベクターフラグメントをゲル精製した。次いでこのフラグメントをEcoRIで消化し、得られた2.7kbpのEcoRI−HindIIIベクターフラグメントをゲル精製した。該精製フラグメントを下記の合成オリゴヌクレオチドと連結した:
5′AATTGCGGCCGCAAGCTTGCGGCCGC−3′(配列番号:6)
3′−CGCCGGCGTTCGAACGCCGGCGTCGA−5′(配列番号:7)
該オリゴヌクレオチドは、EcoRI付着末端と、NotI部位と、HindIII部位と、NotI部位と、HindIII付着末端とをこの順序で含む。得られたプラスミドpUC−Notは、両端でNotI部位に直接フランキングされた単一のHindIII部位を含む。
【0084】
URA3座に組込むべき発現カセットのターゲッティングのためのプラスミドを下記の手順で構築した。酵母URA3遺伝子源は、YRp10に由来する1.1kbpのHindIIIフラグメントであった[Parent,S.A.ら,1985,Yeast,1,pp.83−138]。プラスミドpUC−NotをHindIIIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化し、1.1kbpのHindIII URA3フラグメントと連結して、プラスミドpUC−Not−URA3を得た。
【0085】
LYS2座への発現カセットの組込みをターゲッティングするためのプラスミドを下記の手順で構築した。酵母LYS2遺伝子を有するプラスミドYIp600[Barnes,D.A.及びThorner,J.,1986,Mol.Cell.Biol.,6,pp.2828−2838]をEcoRI及びHindIIIで消化し、LYS2遺伝子を有する4.5kbpのEcoRI−HindIIIフラグメントを、予めEcoRI及びHindIIIで消化したpUC19にクローニングした。次いでこのプラスミドをPvuII及びBglIIで消化し、LYS2遺伝子を有する3.7kbpのPvuII−BglIIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化した。プラスミドpUC−NotをHindIIIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化し、平滑末端化し、3.7kbpのLYS2フラグメントと連結した。所期の構造を有する得られたプラスミドをpUC−Not−LYS2(pNLとも称する)で消化した。
【0086】
LYS2での組込みのための第二のベクターも構築した。プラスミドYIp600をNcoIで消化し、LYS2タンパク質コーディング配列の大部分を含む3.0kbpのNcoIフラグメントをゲル精製し、平滑(flush)末端化した。プラスミドpUC13をBamHIで消化し、平滑末端化し、3.0kbpのLYS2フラグメントと連結して、組込みベクターpUC13−LYS2を得た。
【実施例9】
【0087】
酵母アルファ因子分泌リーダーに融合したヒトPDIを過剰産生する酵母株の構築
ヒトPDIコーディング配列源は、Pihlajaniemiら(1987、前出引用文献)によって記載されている重複部分的cDNAクローン、p210及びp1であった。ヒトPDI cDNAの5’末端を有するp210に由来する0.45kbpのEcoRI−PstIフラグメントをpUC18にクローニングして、プラスミドpUKC150を得た。次いで該プラスミドpUKC150をEcoRI及びAvaIで消化した(AvaIは成熟ヒトPDIをコードする配列の第三のアミノ酸に対応する位置で切断する)。得られた3.1kbpのベクター主鎖(backbone)フラグメントをゲル精製し、下記の構造のオリゴヌクレオチドアダプターと連結した:
5′−AATTCGTTGACGCCC−3′(配列番号:8)
3′−GCAACTGCGGGGGCT−5′(配列番号:9)
該アダプターは成熟PDIコーディング配列の5末端を再構築し、所望の分泌リーダー配列への成熟ヒトPDI配列の正確な融合を可能にするような位置にHindIII部位を含む。
【0088】
次いで、得られたプラスミドpUKC159をPstIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで処理し、ヒトPDIコーディング配列の残部を有するプラスミドp1(Pihlajaniemiら,1987,前出参考文献)に由来する1.5kbpのPstI−PstIフラグメントに連結して、プラスミドpUKC160を得た。このプラスミドpUKC160をHindII(前記オリゴアダプター内で切断する)で消化し、次いでHindIIIで消化した。その結果得られた、成熟ヒトPDIコーディング配列を有する1.9kbpのHindII−HindIIIフラグメントをゲル精製し、予めStuI及びHindIIIで消化したプラスミドpGS4にサブクローニングした(pGS4はアルファ接合因子(MFα1)プレプロ分泌リーダー配列に融合した酵母GAL1プロモーターを有する;Shaw,K.J.ら,1988,DNA,117−126)。平滑末端化StuI及びHindII末端の間に形成された接合部は、MFα1プレプロリーダー配列とヒトPDI成熟部分との間の正確なインフレーム融合を再構築する(得られたプラスミドはpUKC161と命名した;第4図)。
【0089】
LYS2組込みベクターpNL(pUC−NotI−LYS2)をStuI及びXhoIで消化し、T4 DNAポリメラーゼでの処理によって平滑末端化した。プラスミドpUKC161をEcoRI及びHindIIIで消化し、その結果得られた、GAL10プロモーター−アルファ因子プレプロリーダー − ヒトPDI発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−HindIIIフラグメントをゲル精製し、T4 DNAポリメラーゼでの処理によって平滑末端化した。前記平滑末端化pNLベクターフラグメントと該発現カセットフラグメントとを互いに連結し、該連結混合物を用いてE.coli株ATCC 35691を形質転換した。所期の構造を有するプラスミドを含むものについて形質転換体をスクリーニングし、得られたプラスミドpNL−MFα1−hPDIを多量に製造した。pNL−MFα1−hPDIをNotIで消化すると、両端でLYS2 DNA配列にフランキングされた6.2kbpの発現カセットが得られる。消化したDNAを用いて、スフェロプラスト法で(Hinnen A.ら,1978,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,75,pp.1929−1933)、S.cerevisiae株BJ1995及びJRY188を形質転換した。NotI末端はターゲッティングデバイスとして作用しながら発現カセットを染色体LYS2座に向かわせ、該座で前記カセットが相同組換えを介して組込まれた。形質転換体を、アルファアミノアジピン酸含有固体培地で増殖するものについてスクリーニングした(Chattoo,B.B.ら,1979,Genetics,93,pp.51;Barnes及びThorner,1986,前出参考文献)。このような増殖は、株がlys−であることを意味する。LYS2プローブを用いて行ったクローン単離体のサザンブロット分析で、発現カセットがLYS2座に組込まれたことが確認された。BglIIで消化した染色体DNA調製物は、LYS2プローブとハイブリダイズするバンドについて、5.0から7.8kbpへの所期のサイズ変化を示した。その結果得られた、組込み発現カセットを含むBJ1995及びJRY188関連株を、それぞれBJ1995/アルファ−hPDI及びJRY188/アルファ−hPDI(株#1072A)と命名した。
【実施例10】
【0090】
酵母PDI又はヒトPDIシグナル配列を用いるヒトPDIを過剰産生する酵母株の構築
PDI cDNAクローンp1(Pihlajaniemiら,1987,前出引用文献)をPstIで消化し、ヒトPDI cDNAの3’領域を有する1.5kbpのPstI−PstIフラグメントをゲル精製した。次いで該フラグメントをpUKC150(前記実施例9に記載)のPstI部位に挿入してプラスミドpUKC151を得た。該プラスミドは、完全な全長ヒトPDI cDNAを含んでいる。該pUKC151をHindIIIで消化し、適当なオリゴヌクレオチドアダプター(EcoRI認識配列を含む)と連結して、PDI cDNAの3’末端に位置するHindIII部位をEcoRI部位に変換した。得られたプラスミドpUKC153は、2.1kbpのEcoRIフラグメント上の完全ヒトPDIコーディング配列を含んでいる。該プラスミドpUKC153をEcoRI及びPstIで消化した。その結果得られた、ヒトPDI配列の5’部分及び3’部分をそれぞれ有する0.47kbpのEcoRI−PstIフラグメント及び1.7kbpのPstI−EcoRIフラグメントをゲル精製した。pUC19をEcoRI及びPstIで消化し、2.7kbpのベクターフラグメントをゲル精製し、次いで前述の0.47kbpのEcoRI−PstIフラグメントに連結した。該連結混合物を用いてE.coli ATCC 35691を形質転換した。所期の構造を有するプラスミドを含む形質転換体からプラスミドDNAを製造した。該DNAをAvaI及びPstIで消化し、ヒトPDI配列の5’部分を有する0.38kbpフラグメントをゲル精製した。
【0091】
pUC19をEcoRI及びBamHIで消化し、2.7kbpのベクターフラグメントをゲル精製した。下記のオリゴヌクレオチドを合成した:
【0092】
【化1】
【0093】
オリゴヌクレオチド#15165−220及び15165−249をキナーゼ処理し、次いでそれぞれオリゴヌクレオチド#15165−221及び15165−250とアニーリングした。ヒトPDIシグナルペプチド配列を有するヒトPDIを再構築するために、下記の連結を行った:pUC19 2.7kbp BamHI−EcoRIフラグメントを1.7kbp PstI−EcoRI hPDI3’フラグメント、0.38kbp PstI−AvaI 5’−hPDIフラグメント、並びにアニーリングしたリンカー15165−220及び15165−221と連結した。
【0094】
酵母PDIシグナル配列を有するヒトPDIを再構築するために、下記の連結混合物を形成した:pUC19 2.7kbp BamHI−EcoRIフラグメントを1.7kbp PstI−EcoRI hPDI3’フラグメント、0.38kbp PstI−AvaI 5’−hPDIフラグメント、並びにアニーリングしたリンカー15165−249及び15165−250と連結した。(アニーリングしたリンカーはBamHI及びAvaI付着末端を含み、指示されたシグナルペプチド配列及び酵母5’非翻訳リーダー配列をコードする)。
【0095】
連結混合物をE.coli ATCC 35691中に形質転換し、形質転換体を、所期の構造を有するプラスミドを含むものについてスクリーニングした。オリゴヌクレオチドリンカーとフランキングDNAとを含む領域にわたって延びるDNA配列を、ジデオキシ配列決定法で確認した。酵母PDIシグナルペプチド又はヒトPDIシグナルペプチドをを有するヒトPDIコーディング配列を、それぞれySP−hPDI及びhSP hPDIと命名した。これらのカセットを含むこのようにして得た二つのプラスミド(それぞれpUC−ySP−hPDI[第5図]及びpUC−hSP−hPDI)をSmaI及びBamHIで消化し、その結果得られた、hPDIカセットを有する1.5kbpフラグメントをゲル精製し、平滑末端化した。
【0096】
プラスミドp401(非反復BamHI部位によって分離されたGAL10プロモーター及びADH1転写ターミネーターを含む;第6図)をBamHIで消化し、平滑末端化し、前述のカセットと連結して、それぞれプラスミドpGAL−ySP−hPDI及びpGAL−hSP−hPDIを得た。これら二つのプラスミドをSmaI、SphI及びScaIで消化し、その結果得られた、GAL10p−ySP−hPDI及びGAL10p−hSP−hPDI発現カセットを有する3.2kbpのSmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、次いでLYS2組込みベクターpUC13−LYS2のXhoI部位(平滑末端化した)に挿入した。得られたプラスミドを、それぞれpLYS2−hSP−hPDI及びpLYS2−ySP−hPDIと命名した。
【0097】
組込み形質転換のために、前記二つのプラスミドをXbaI及びSacIで消化して、LYS2フランキング末端を有する線形フラグメントを形成し、該線形フラグメントを用いて酵母株BJ1995及びJRY188を形質転換した。所望の発現カセットをLYS2に組込んだ形質転換体を、BglIIで消化したゲノムDNAのサザンブロットによって同定し、次いでLYS2プローブとハイブリダイズした。得られた株は、BJ1995/hSP−hPDI、BJ1995/ySP−hPDI、JRY188/hSP−hPDI(株#1148)及びJRY188/ySP−hPDI(株#1157)であった。
【実施例11】
【0098】
ヒトPDI又は酵母PDIシグナルペプチドを用いるヒトPDIのC末端HDEL突然変異体を過剰産生する酵母株の構築
小胞体内に常在する酵母タンパク質は通常、小胞体内での保持のためのシグナルであるC末端HDELアミノ酸配列を含む(Pelhamら,1988,前出引用文献)。これに対し、ヒトPDIは、酵母内でのER保持に関しては余り機能しないことが明らかにされた(Lewis,M.J.ら,1990,Cell,61,pp.1359−1363)C末端KDEL配列(Pihlajaniemiら,1987,前出引用文献)を有する。従って、C末端KDELがHDELに変化している改変ヒトPDIを構築することが望まれた。これは下記の方法で達成された。
【0099】
二つのプラスミドpUC−ySP−hPDI及びpUC−hSP−hPDI(実施例9)をEcoRI及びXhoIで消化し、その結果得られた、ベクター配列とhPDI配列の5’部分とを含む4.0kbpのEcoRI−XhoIフラグメントと、hPDIコーディン配列の中間部分を含む0.5kbpのXhoI−XhoIフラグメントとをゲル精製した。次いで下記のオリゴヌクレオチドアダプターを合成した:
【0100】
【化2】
【0101】
二つのオリゴのアニーリングに次いで、該アダプターをXhoIで消化し(EcoRI及びXhoI付着末端が得られる)、二つの別個の反応で、それぞれ5’−ySP−hPDI又は5’−hSP−hPDI配列を含む4.0kbpのEcoRI−XhoIベクターフラグメントと連結した。得られた二つのプラスミドをXhoIで消化し、hPDIコーディング配列の中間部分を含む前述の0.5kbpのXhoI−XhoIフラグメントと連結し、ヒトPDIコーディング配列を再構築するためにXhoIフラグメントが正確な方向で挿入されたプラスミドpUC−ySP−hPDI(HDEL)及びpUC−hSP−hPDI(HDEL)を得た。これら二つのプラスミドをBamHIで消化し、発現カセットを有する二つの異なる1.5kbp BamHIフラグメントをゲル精製し、次いでp401のBamHI部位に挿入して、それぞれpUC−GAL10p−ySP−hPDI(HDEL)及びpUC−GAL10p−hSP−hPDI(HDEL)を得た。これら二つのプラスミドをSmaI、SphI及びPvuIで消化した。得られた二つの2.5kbp SmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、次いで、予めXhoIで消化しておいたpUC13−LYS2と連結し、平滑末端化した。得られた二つのプラスミドpLYS2−ySP−hPDI(HDEL)及びpLYS2−hSP−hPDI(HDEL)をHpaI及びEcoRVでの消化によって線形化し、次いで別個の反応で株BJ1995及びJRY188の形質転換に使用した。Lys−形質転換体を、アルファアミノアジピン酸含有固体培地上で選択した。LYS2座に組込んだ所望の発現カセットを含む単離体を、ゲノムDNAのサザンブロット分析によって同定した。得られた株を、BJ1995/ySP−hPDI(HDEL)、BJ1995/hSP−hPDI(HDEL)、JRY188/ySP−hPDI(HDEL)(株#1268)及びJRY188/hSP−hPDI(HDEL)(株#1267)と命名した。
【実施例12】
【0102】
酵母アルファ因子分泌リーダーを用いるヒトPDIのC末端HDEL突然変異体を過剰産生する酵母株の構築
プラスミドpUKC161(第4図)をBamHI及びClaIで消化し、アルファ因子プレプロリーダー配列とhPDIの5’−セグメントとを有する0.7kbpのBamHI−ClaIフラグメントをゲル精製した。プラスミドpUC−ySP−hPDI(HDEL)(実施例11に記載)をClaI及びEcoRIで消化し、C末端HDEL改変を有するhPDIの3’セグメントを含む1.0kbpのClaI−EcoRIフラグメントをゲル精製した。pUC19をBamHI及びEcoRIで消化し、得られたベクターフラグメントを、0.7kbpのBamHI−ClaIフラグメント及び1.0kbpのClaI−EcoRIフラグメントの両方と連結してプラスミドpUC−MFα1−hPDI(HDEL)を得た。該プラスミドをBamHIで消化し、PDIカセットを有する1.7kbpのBamHI−BamHIフラグメントをゲル精製し、プラスミドp401(第6図)のBamHI部位に挿入して、プラスミドpGAL−MFα1−hPDI(HDEL)を得た。次いで該プラスミドを酵素SmaI、SphI及びPvuIで消化し、その結果得られた、発現カセットを有する2.6kbpのSmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化した。pUC13−LYS2ベクターをXhoIで消化し、平滑末端化し、次いで前述の2.6kbp平滑末端化フラグメントに連結した。得られたプラスミドpLYS2−MFα1−hPDI(HDEL)をHpaI及びEcoRVで消化し、次いで株JRY188及びBJ1995の形質転換に使用した。得られた形質転換体を(実施例9に記載のように)ゲノムDNAのサザンブロットで評価し、所望の発現カセットがLYS2座に組込まれていることを確認した。JRY188形質転換体を株#1279と命名した。
【実施例13】
【0103】
LYS2座の組込み発現カセットから酵母PDIタンパク質を過剰発現する酵母株の構築
完全酵母PDI1遺伝子を有するプラスミドC7(実施例4に記載)をEcoRVで消化し、酵母PDI読取り枠(ORF)のC末端部分(アミノ酸223からORFの末端まで)と3’非翻訳配列とを含む1.3kbpのEcoRV−EcoRVフラグメントをゲル精製し、プラスミドpAT153[Twigg,A.G.及びSherratt,D.,1980,Nature,283,pp.216−218]のEcoRV部位に挿入して、pUK169を得た。次いでプラスミドC7をBanI及びEcoRVで消化し、酵母PDI ORFのアミノ酸6〜222をコードする0.67kbpのBanI−EcoRVフラグメントをゲル精製し、下記の合成オリゴヌクレオチドアダプターと連結した:
5′−GATCCACAAAACAAAATGAAGTTTTCTGCTG−3′(配列番号:16)
3′−GTGTTTTGTTTTACTTCAAAAGACGACCACG−5′(配列番号:17)
該オリゴヌクレオチドアダプターはそれぞれBamHI及びBanI付着末端を有し、酵母PDI ORFのアミノ酸1〜5と12塩基対の酵母5’非翻訳リーダー配列とをコードする。(ATG開始コドンは下線で示されている)。得られた0.7kbpのBamHI−EcoRVフラグメントをゲル精製し、次いで、予めEcoRV及びBamHIで消化しておいたpAT153にサブクローニングして、プラスミドpUKC170を得た。
【0104】
プラスミドpUKC169をEcoRVで消化し、その結果得られた、酵母PDIの前記C末端部分を有する1.3kbpのEcoRV−EcoRVフラグメントをゲル精製し、次いでpUKC170の非反復EcoRV部位に挿入し、それによって無傷の(完全な)酵母PDI(yPDI)遺伝子を再生した。このようにして得たプラスミドをpUKC175と命名した。
【0105】
pUKC175をEcoNIで消化し、yPDI遺伝子を有する得られた2.1kbpフラグメントを平滑末端化し、ゲル精製した。pUC19をSacI及びSmaIで消化し、平滑末端化し、前記平滑末端化EcoNI yPDIフラグメントと連結した。該連結混合物を用いてE.coli DH5細胞を形質転換し、得られた形質転換体を、pUC19ポリリンカー内のBamHI部位がyPDIコーディング配列の3’末端に隣接して配置されるように適当な方向でyPDI挿入体を有するプラスミドを含むものについてスクリーニングした。EcoNIフラグメント上のyPDI ORFの5’末端にはBamHI部位が既に存在していたため、該構築物(pUC19−yPDIと命名)はこの時点で、1.9kbpのBamHIフラグメント上にyPDI ORFを含む。pUC19−yPDIをBamHIで消化し、yPDI遺伝子を有する1.9 BamHI kbpフラグメントをゲル精製し、次いでベクターpUC18−GAL10p(B)ADH1t(ストック#401)(第6図)のBamHI部位にサブクローニングした。得られたプラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1t(第7図)はストック#1015である。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1tをSmaI、SphI及びSacIで消化し、発現カセットを有する2.7kbpのSmaI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、次いでpUKC171(pUKC171は、予めEcoRI及びHindIIIで消化しておいたpUC19にサブクローニングしたYIp600(Barnes及びThorner,1986,前出引用文献)の4.5k EcoRI−HindIII LYS2フラグメントを含む)の非反復StuI部位にクローニングした。得られたpUKC171−GAL10p−yPDIベクターをEcoRI及びPvuIIで消化してLYS2−GAL10p−yPDI−ADH1t−LYS2カセットを切除し、これを用いてS.cerevisiae株JRY188及びBJ1995を形質転換した。得られたlys−形質転換体を、実施例9に記載のように、ゲノムDNA調製物のサザンブロットにより評価した。LYS2座に組込まれたGAL10p−yPDIカセットを有する各株の単離体が検出された。得られた株をBJ1995/yPDI及びJRY188/yPDI(株#1152)と命名した。
【実施例14】
【0106】
URA3座への組込み発現カセットから酵母PDIを過剰産生する酵母株の構築
プラスミドpUC−Not−URA3(実施例8)をApaI及びNcoIで消化し(URA3遺伝子の一部分を欠失させるため)、平滑末端化した。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1tをEcoRI、ScaI及びSphIで消化し、GAL10p−yPDI−ADH1t発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−SphIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、前記ベクターフラグメントと連結して、プラスミドpNU−GAL10p−yPDIを得た。NotIでの消化により、pNU−GAL10p−yPDIからURA3−GAL10p−yPDI−ADH1t−URA3組込みカセットを切り出した。得られた線形フラグメントを用いて酵母株KHY107を形質転換した。5−フルオロ−オロト酸含有固体培地上で(Boekeら,1984,Mol.Gen.Genet.,197,pp.345)、ura−形質転換体を選択した。得られたura−形質転換体に由来するゲノムDNAをBg1IIで消化し、GAL10p−yPDI−ADH1tカセット由来の放射性標識したEcoRI−PvuIIフラグメントをプローブとして用いて、サザンブロットにより評価した。所望のGAL10p−yPDI−ADH1t発現カセットをURA3に組込んだ単離体が同定された。単離体K−Y1は、URA3に組込まれた複数のコピーを有していた(株#1136)。単離体K−Y3は、URA3に組込まれたコピーを一つだけ有していた(株#1137)。
【実施例15】
【0107】
組換え宿主内のPDIタンパク質量の評価
酵母株を、3×YEPD液体培地で、23℃で24時間増殖させた。24時間が経過した後、培養物にガラクトースを最終濃度4.8%まで加えた。次いで培養物を23℃で更に24時間再インキュベートした。あるいは、酵母株を3×YEPDで30℃で24時間培養した。細胞を回収し、無菌冷水で洗浄し、同量の3×YEPD−ガラクトース培地に再懸濁させた。酵母株を更に16〜25時間インキュベートし、その後回収し、タンパク質を抽出方法2(下記)で抽出した。
【0108】
タンパク質の抽出:
本質的にMellorらの方法(1983,Gene,24,pp.1〜14)に従い、ガラスビーズ破壊法を用いて、指数増殖細胞又は定常期細胞からタンパク質を抽出した。
【0109】
方法1:25mMリン酸塩緩衝液pH7.0中のPMSF(0.5mM)の存在下で細胞壁のガラスビーズ破壊を行い、次いで凍結−融解サイクルにかけてタンパク質を抽出し、13,000rpmで10分間の遠心分離により可溶性タンパク質を回収した。PEG(固体)、硫酸アンモニウム(0〜80%)又は限外濾過膜(<100kDa)での濃縮の前又は後で、消費培養液の分析により最初に分泌を評価した。タンパク質濃度はBradfordの方法(1976,Anal,Biochem.,72,pp.248−254)で測定した。
【0110】
方法2:方法1に従って、但し培養培地にNaOH及びβ−メルカプトエタノールを(それぞれ最終濃度0.2M及び1%で)加え、氷上に約10分間放置し、その後TCAを最終濃度6%で加えて、細胞内試料を調製した。氷上で30分間静置した後、遠心分離によってタンパク質を回収し、冷アセトンで洗浄し、SDS−PAGEローディング緩衝液に再懸濁させた。
【0111】
50μgの全可溶性タンパク質を、本質的にSchultzらの方法(1987,Gene,54,pp.113−23)に従って、一次元SDS−PAGE(12%ポリアクリルアミド)とクーマシーブルー染色とで分析した。
【0112】
次の条件で電気泳動を実施した:10%SDS−ポリアクリルアミドゲル及びレーン当たり10μgのローディングされたタンパク質(タンパク質抽出方法1)。総てのゲル中でSigma予備染色分子量標準を使用した。ゲルはBioRad mini−Protein IIゲルシステムで操作した。タンパク質濃度を計算せずに、細胞外抽出物をレーン当たり15〜20μlでローディングした。電気泳動の間中、電圧は200ボルト以下に維持した。
【0113】
Biometra半乾燥ウエスタンブロットシステムを用いて、タンパク質をニトロセルロースにトランスファーした。ニトロセルロース膜を5%(w/v)粉乳で1時間ブロックし、洗浄し、1:500〜1:750の希釈度で3時間から一晩にわたり、抗ヒトPDIポリクローナル抗体と共にインキュベートした。膜を洗浄し、ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgGを最終希釈度1:100で加え、インキュベーションを1時間続けた。洗浄後、Amersham ECLキットを製造業者の指示通りに使用して、ブロットを発色した。
【0114】
最初のアッセイでは、株1072Aが分泌hPDIをウエスタンブロットで検出できるレベルで産生することが判明した。使用したECLプロトコルでは、検出レベルは0.05μgの精製ウシPDIであった。この分泌PDIは、100kDaカットオフ限外濾過膜によって保持されたため、二量体であることが判明した。株1072Aと対応するHDEL変異株(1279)とを比較すると、ヒトPDIは両方から分泌されていた。この実験では、最終培養/誘導条件を、増殖温度(℃)及び誘導期間について最適化した。前記二つの株は、23℃で培養し次いで30℃で16時間誘導するか、又は30℃で16時間培養し誘導すると、より高いPDI合成レベルを示した。
【実施例16】
【0115】
酵母内でアンチスタシンを発現させるためのベクターの調製
アンチスタシンは血液凝固因子Xaの強力なタンパク質阻害物質である。アンチスタシン(ATS)は、メキシコヒルHaementeria officinalisの唾液腺から単離された(Nutt,E.ら,1988,J.Biol.Chem.,263,pp.10162−10167)。その後、ATSをコードするcDNAがHan,J.H.らにより単離され、特徴が解明された(1989,Gene,75,pp.47−57)。ATSは、組換え酵母によって分泌された異種タンパク質中の折り畳み及び適当なジスルフィド結合の形成に対する高レベルのPDI活性の影響を評価する上で理想的なリポータータンパク質である。なぜならATSは、タンパク質が生物学的活性を有するようにするために正確な対を形成しなければならない10個のジスルフィド結合を有するからである。
【0116】
発現ベクターpKH4α2(Jacobson,M.A.ら,1989,Gene,85,pp.511−516)を用いて、酵母内でATSを発現させた。前記ベクターは、ガラクトース誘導性GAL10プロモーターと、異種タンパク質の分泌を制御するための酵母MFα1プレプロ分泌リーダー配列とを含む。ATSをコードする配列は、クローンλ5C−4(Han,J.H.ら,前出引用文献)に由来するサブクローニングしたATS cDNAを基質として使用し且つ下記のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で単離した:
1. 5′−ATATGGATCCTGTCTTTGGATAAAAGACAAGGACCATTTGGACCCGGGTGT−3′ (配列番号:18)
2. 5′−TATAGGATCCTTATGATAAGCGTGGGATAAGCTT−3′ (配列番号:19)
これらのプライマーは両方とも、PCR産物のサブクローニングを容易にするためにBamHI部位を含む。第一のプライマーは、酵母KEX2 yscFエンドプロテアーゼ開裂部位(Lys−Arg)N末端を、成熟ATSの第一アミノ酸残基に挿入する(酵母yscFエンドプロテアーゼは該配列中のLys−Arg部位のC末端側で開裂する)。PCR産物をBamHIで消化し、ゲル精製し、次いでBamHI消化pKH4α2に連結して、pKH4α2/ATS(K991)(第8図)を得た。次いでこの発現ベクターを用いて、スフェロプラスト法(Hinnenら,1978,前出引用文献)で、表1に示す酵母宿主株を形質転換した。
【0117】
ロイシンを含まない合成固体培地(Schultz,L.ら,1987;Gene,61,pp.123−133)上で形質転換体を選択し、クローン単離体についてストリークし、これらの単離体を後続の分析で使用した。株は、17%グリセロール含有合成培地中で−70℃で貯蔵することにより保存した。
【0118】
【表1】
+ PDIカセット及び株は次のように実施例に記述されている:アルファ−hPDI、実施例9;ysP−hPDI及びhSP−hPDI、実施例10;hSP−hPDI(HDEL)及びysP−hPDI(HDEL)、実施例11;アルファ−hPDI(HDEL)、実施例12;yPDI、実施例13;yPDI−A1及びyPDI−A3、実施例14。
* 形質転換株はK991アンチスタシン発現ベクターを含む。
【実施例17】
【0119】
アンチスタシンの分泌に関する親株及びPDI過剰産生株の増殖及び評価
K991形質転換親JRY188株と、酵母もしくはヒトPDIを過剰産生する種々の形質転換誘導体とを、下記の方法でアンチスタシンの分泌に関して評価した。指示された株を−70℃冷凍グリセロールストックからロイシン無含有合成寒天プレート上にストリークし、30℃で3日間増殖させた。5mlの3xYEHD[60g Difco酵母抽出物、30g HySoyペプトン、48gグルコース/l]培地を入れた培養管(18×150mm)に小ループ一杯の細胞を接種し、組織培養ローラードラム上で23℃で約18時間インキュベートした。この段階で、ガラクトースを最終濃度4.8%(w/v)で加えて細胞を誘導し、培養物を23℃で更に5日間インキュベートした。次いで、遠心分離で細胞を回収し、清澄化培地上清をアンチスタシン活性のアッセイのために保持し、該活性を因子Xa活性の阻害によって測定した[Nutt,E.ら,1988,前出引用文献]。該実験は三つ組みで実施した。結果を要約して表2に示す。
【0120】
【表2】
【実施例18】
【0121】
JRY188及びHDEL突然変異体形ヒトPDIを過剰産生する関連株によるアンチスタシン分泌の評価
K991形質転換JRY188と、三つの異なる分泌リーダーを有するHDEL突然変異体形ヒトPDIを過剰産生する形質転換誘導体株とを実施例17に記載のように増殖し、清澄化培地上清を、実施例17に記載のように因子Xa阻害アッセイで分泌ATSレベルについて評価した。結果は表3に示す。
【0122】
【表3】
【実施例19】
【0123】
酵母株KHY107及び酵母PDIを過剰産生する誘導体によるアンチスタシンの分泌
K991形質転換KHY107と、酵母PDIを過剰産生する該株の形質転換誘導体とを増殖し、清澄化培地上清を、実施例17に記載のように因子Xa阻害アッセイで分泌ATSレベルについて評価した。結果は表4に要約して示す。
【0124】
【表4】
K−Y1は、URA3に多重コピーGAL−yPDIを有するKHY107である。
K−Y3は、URA3に単一コピーGAL−yPDIを有するKHY107である。
A1、A2及びA3は、平行して評価した指示された株の種々のクローン単離体を示す。
酵母PDIの過剰発現の結果、単離体K−Y3−A1の場合は、ATS活性の分泌が細胞当たりベースで4倍に増加し、容積ベースで約9倍の分泌が観察される。
【実施例20】
【0125】
多重コピープラスミドから酵母PDI又はヒトPDIを過剰産生する酵母宿主株の構築
多重コピー酵母シャトルベクターYEp24(Botstein,D.ら,1979,Gene,8,pp.17−24)は、酵母2ミクロンDNA複製起点と、ウラシル無含有合成培地で選択するための酵母URA3遺伝子とを含む。YEp24をBamHIで消化し、得られた7.8kbpのBamHIベクターフラグメントをゲル精製した(フラグメントa)。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADH1t(#1015)をEcoRI、SphI及びScaIで消化した。その結果得られた、GAL10p−yPDI−ADH1t発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−SphIフラグメントをゲル精製した(フラグメントb)。プラスミドpUKC161をEcoRI及びHindIIIで消化し、GAL1p−−MFα1プレプロ−−ヒトPDI発現カセットを有する2.8kbpのEcoRI−HindIIIフラグメントをゲル精製した(フラグメントc)。前記三つのフラグメントを平滑末端化し、次いで下記の手順で互いに連結した:(1)ベクターフラグメントa及びフラグメントbを互いに連結してプラスミドYEp24−GAL10p−yPDI(第9図)を得る:(2)ベクターフラグメントa及びフラグメントcを互いに連結してプラスミドYEp24−GAL1p−MFα−hPDI(第10図)を得る。得られた前記二つのプラスミドDNAの大規模CsC1製造を行った。二つの別個の形質転換反応で、酵母株JRY188をATS発現ベクターK991(実施例16)及びYEp24−GAL10p−yPDIもしくはYEp24−GAL1p−MFα−hPDIで同時形質転換した。両方のプラスミドを含む形質転換体を、ロイシン及びウラシルの両方を欠失した合成培地で選択し、単離した単集落(single colony)を同一培地上で再ストリークしてクローン単離体を選択した。二つの元の同時形質転換の各々について5個の前記クローン単離体を、培養管内の5mlの3xYEHD培地に接種し、組織培養ローラードラムで23℃で24時間インキュベートした。24時間が経過した後、ガラクトースを最終濃度4.8%で加え、培養物を23℃で更に5日間インキュベートした。遠心分離によって細胞を回収し、清澄化培地上清を因子Xa阻害アッセイでATS活性レベルについてアッセイした。YEp24−GAL10p−yPDIプラスミド及びATS発現ベクターを含む同時形質転換体は、ATS発現ベクターのみを含む親JRY188株と比べると、単離体に応じて3〜26倍の分泌ATS活性レベルを示した。YEp24−GAL1p−MFα−hPDIプラスミドとATS発現ベクターとを含む同時形質転換体は、ATS発現ベクターのみを含む親JRY188株と比べて、2〜3倍の分泌ATS活性レベルを示した。
【実施例21】
【0126】
所望の異種タンパク質の発現に使用した同一発現ベクターから酵母又はヒトPDIを過剰産生する酵母宿主株の構築及び評価
S.cerevisiae GAL1及びGAL10遺伝子を、分岐型(divergent)GAL1及びGAL10プロモーターとこれら二つのプロモーターのTATAボックスの間に位置する共通GAL4結合ドメインとを含む二つの構造遺伝子の間の領域から分岐的に(divergently)転写した。プラスミドpBM272(Johnston,M.及びDavis,R.,1984,Mol.Cell.Biol.,4,pp.1440)は、この分岐型酵母GAL1−GAL10プロモーターを0.85kbpのEcoRI−HindIIIフラグメント上に含む(HindIII部位に隣接した内部BamHI部位も有する)。このプロモーターフラグメントを使用して、分岐型プロモーターカセットベクターpUC−GAL1/10を構築した。該ベクターは次の特性を有する:非反復EcoRI及びSmaI部位により、この順序で、酵母ADH1転写ターミネーター(0.35kbp HindIII−SphIフラグメント)から分離した酵母GAL10プロモーター。非反復BamHI及びHindIII部位によりADH1転写ターミネーターの第二のコピーから分離した酵母GAL1プロモーター。二つのADH1ターミネーターエレメントの3’末端は、分岐型プロモーター発現カセット全体をSphフラグメントとして単離できるように、SphI部位によってフランキングされている。このプラスミド内のベクター主鎖は、ポリリンカーの代わりに前記発現カセットを有するpUC18である。
【0127】
プラスミドpUC−GAL1/10をBamHIで消化し、ゲル精製してフラグメント「a」を形成した。プラスミドpUKC161をBamHIで消化し、成熟ヒトPDIコーディング配列にインフレーム融合したアルファ因子プレプロリーダーを有する1.9kbpのBamHIフラグメントをゲル精製し、ベクターフラグメントaに連結して、プラスミドpUC−GAL1/10−hPDIを得た。該プラスミドでは、アルファ因子プレプロ−−hPDI融合がGAL1プロモーターの制御下にある。プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADHlt(実施例13)をBamHIで消化し、その結果得られた、酵母PDIコーディング配列を有する1.7kbpのBamHIフラグメントをゲル精製し、次いでベクターフラグメントaに連結して、プラスミドpUC−GAL1/10−yPDを得た。該プラスミドでは、GAL1プロモーターが酵母PDIの発現を制御する。このようにして得た二つのプラスミドをEcoRIで消化し、平滑末端化し、それぞれhPDI及びyPDIカセットを有するベクターフラグメントb及びcを得た。
【0128】
ATS発現ベクター(K991)をSalI及びBglIIで消化し、成熟ATSのコーディング配列にインフレーム融合したアルファ因子プレプロリーダーを有するSalI−BglIIフラグメントをゲル精製し、平滑末端化し、別個の反応で二つの平滑末端化ベクターフラグメントb及びcに連結した。制限地図で調べて正確な構造を有する得られたプラスミドを、それぞれpUC−GAL1/10−hPDI/ATS(第11図)及びpUC−GAL1/10−yPDI/ATS(第12図)で消化した。これら二つのプラスミドをSphIで消化して発現カセットを遊離させ、hPDI関連又はyPDI関連発現カセットを有するフラグメントを、予めSphIで消化した酵母シャトルベクターpC1/1(Rosenberg,S.ら,1984,Nature,312,pp.77−80)と連結した。その結果、二つのプラスミド、pC1/1−GAL1/10−hPDI/ATS及びpC1/1−GAL1/10−yPDI/ATSが得られた。これらのプラスミドでは、ATS及びPDI関連発現カセットが、それぞれGAL10及びGAL1プロモーターの制御下で同一の高コピー数ベクター上に存在していた。
【0129】
次いでこれら二つの発現ベクターを用いて、酵母株JRY188、BJ1995及び他の適当な酵母宿主株を形質転換した。形質転換体をロイシン無含有培地上で選択し、得られた形質転換体を、上記実施例に記載のように、ATS及びPDIの発現/分泌について評価した。
【0130】
表5(下記)に示す結果から明らかなように、hPDIを過剰産生する単離体は、pKH4α2/ATSのみを含む対照株と比べて数倍高いレベルのアンチスタシンを分泌する。また、酵母PDIを過剰産生する単離体は、対照株と比べて3〜17倍高いレベルのアンチスタシンを分泌した。
【0131】
【表5】
* 23℃で誘導後5日目の収率。
【実施例22】
【0132】
PDI過剰産生酵母宿主株によるアンチスタシン分泌の増加に対する温度の効果
アンチスタシン発現ベクターpKH4α2/ATS及びYEp24−GAL1p−MFα−hPDIもしくはYEp24−GAL10p−yPDIで同時形質転換した株JRY188の選択した単離体を、23℃又は30℃での増殖後にアンチスタシン分泌について評価した。アンチスタシン発現ベクターのみで形質転換した親株JRY188を平行して増殖した。3xYEHD培地で23℃又は30℃で一晩増殖した後、ガラクトースを最終濃度4.8%で加えて細胞培養物を誘導し、23℃又は30℃の適当な温度で更に5日間増殖した。誘導後3〜5日で採取した培地試料を、因子Xa阻害アッセイにより分泌アンチスタシンレベルについて評価した。表6の結果から明かなように、アンチスタシン発現は、PDIを過剰発現する総ての単離体について、誘導後3日目及び5日目の両方で、温度を30℃にした時よりも23℃にした時の方が遥かに大きかった。
【0133】
【表6】
* 種々のhPDI単離体は、アンチスタシン発現ベクターK991及びYEp24−GAL1p−MFα−hPDIの両方を含んでいた。yPDI単離体は、ベクターK991及びYEp24−GAL10p−yPDIの両方を含んでいた。
【実施例23】
【0134】
PDIを過剰産生する組換え酵母株によるマダニ抗凝血ペプチド(TAP)の分泌
マダニ抗凝血ペプチド(TAP)は、血液凝固因子Xaの強力な高選択性阻害物質である[Waxman,L.ら,1990,Science,248,pp.593−596)。TAPはマダニOrnithidoros moubataから単離された新規のセリンプロテアーゼ阻害物質である。TAPは、6個のシステイン残基を含む60個のアミノ酸からなる(Waxmanら,1990,前出引用文献)。TAPは、ガラクトース誘導性GAL10プロモーターと、TAPをコードする合成遺伝子にインフレーム融合した酵母MFα1プレプロ分泌リーダー配列とを含む発現ベクターpKH4−TAPを用いて、酵母内で発現された(Neeper,M.ら,1990,J.Biol.Chem.,265,pp.17746−17752)。このベクターは、プレプロリーダーのアミノ酸79の位置に配置されたBamHIクローニング部位の存在に起因して、少し改変されたMFα1プレプロリーダー配列を含む(Neeperら,1990,前出引用文献)。
【0135】
TAPをコードする合成遺伝子にインフレーム融合した真正(authentic)MFα1プレプロリーダー配列を含む第二のTAP発現ベクターpKH4−3B/TAPを構築した。合成TAP遺伝子を含むプラスミドpKH4−TAP(Neeperら,1990,前出引用文献)を、合成TAP遺伝子の5’末端及び3’末端をそれぞれ改変するために、下記の二つのオリゴヌクレオチドプライマー
5′−TACAACCGTC TGTGCATCAA−3′(配列番号:20)及び
5′−ACTGGATCCG AATTCAAGCT TAGATGCAAG CGT−3′(配列番号:21)
を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で、DNA鋳型として使用した。
【0136】
該PCR反応は、当業者に良く知られている方法(Innis,M.A.ら編,1990,PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,Inc.,San Diego CA)で実施した。得られたPCR産物をT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化し、BamHIで消化し、次いでゲル精製して、TAPコーディング配列の正確な5’末端に平滑末端を有し且つ翻訳終結コドンの3’側に付着BamHI末端を有する、0.2kbpのブラントBamHIフラグメントを得た。
【0137】
ベクターpKH4−3B(Hofman,K.及びSchultz,L.D.,1991,Gene,101,pp.105−111)は、MFα1プレプロリーダーコーディング配列の3’末端に非反復SphI部位を含む。pKH4−3BをSphIで消化し、T4 DNAポリメラーゼで処理して平滑末端化し、BglIIで消化した。得られたブラントBglIIベクターフラグメントをゲル精製し、前述の0.2kbp ブラント−BamHI TAPフラグメントに連結して、ベクターpKH4−3B/TAPを得た。
【0138】
別個の形質転換反応で、酵母株BJ1995、JRY188及びU9を、ベクターYEp24−GAL10p−yPDI及びpKH4−TAPもしくはpKH4−3B/TAPで同時形質転換した。両方のプラスミドを含む同時形質転換体を、ロイシン及びウラシルの両方を欠失した合成培地上で選択し、単離した単集落を同一培地上で再ストリークして、クローン単離体を選択した。種々のベクター/宿主同時形質転換の各々について三つの前記クローン単離体を、培養管内の5mlの4%グルコース含有ウラシル欠失改質5xLeu−培地(5xLeu−Ura−)に接種した。該培養物を組織培養ローラードラム内で30℃で24時間インキュベートした。24時間が経過した後、細胞を遠心分離によって回収し、4%ガラクトースを含む5mlの5xLeu−Ura−培地に最懸濁させた。得られた培養物を30℃で更に48時間インキュベートした。次いで細胞を遠心分離によって回収し、清澄化培地試料をSCX−HPLC又は因子Xa阻害アッセイにより分泌TAPレベルについて評価した(Waxmanら,1990,前出引用文献)。別の方法として、組換え酵母細胞を23℃で24時間増殖し、ガラクトースを最終濃度4%で加えることにより誘導し、次いで23℃で更に5日間インキュベートした。次いで、清澄化培地試料を前述のように分泌TAPレベルについて評価した。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】マルチコピープラスミド上に酵母PDIをコードする遺伝子を有するS.cerevisiae形質転換体の無細胞溶解液のSDS−PAGE分析を示している。
【図2】「COMPARE」及び「DOTPLOT」ソフトウエア(UWGCG)を用いた酵母PDIとラットPDIとの問のドットプロットアラインメント(dot Plot alignment)を示している。哺乳動物PDIのドメイン構造は同じ縮尺で前記アラインメントの下に示されている。
【図3a】酵母PDI1遺伝子の破壊に関するストラテジー及び結果を示している。
【図3b】pdil::HIS3破壊に対して異型接合体のHis+ AS3324株の四分子(tetrad)分析の結果を示す。
【図4】プラスミドpUKC161の構造を示している。
【図5】プラスミドpUC−ySP−hPDIの構造を示している。
【図6】pUC18−GALl0p(B)ADH1tとしても知られているプラスミドp401の構造を示している。
【図7】プラスミドpUC18−GAL10p−yPDI−ADHltの構造を示している。
【図8】K991としても知られているプラスミドpKH4α2/ATSの構造を示している。
【図9】YEp24−GAL10p−yPDIの構造を示している。
【図10】YEP24−GAL1p−MFα−hPDIの構造を示している。
【図11】pUC−GAL1/10−hPDI/ATSの構造を示している。
【図12】pUC−GAL1/10−yPDI/ATSの構造を示している。
【0140】
【表7】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質のin vivo製造方法であって、
組換え酵母宿主細胞内で哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子を含む一つ以上の組換え発現カセットから該組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現させること、および
前記宿主細胞内で組換え発現カセットからタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ以外のジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の組換え遺伝子を過剰発現させることを含み、
該方法は、正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の生成量が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼの過剰発現がないときに生成される正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の量よりも多いことを特徴とし、ただしタンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子がヒト血清アルブミンプレプロ配列をコードするDNAと連結した遺伝子ではなく、且つ該方法は酵母由来受容体タンパク質ERD2をコードする遺伝子の組換え発現カセットからの発現を包含しないことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする発現カセットが宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする発現カセットが自律的複製プラスミド上に含まれている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ遺伝子が、一つ以上のプラスミドに含まれる一つ以上の発現カセット内に含まれ、ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が一つ以上のプラスミドに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ遺伝子が一つ以上のプラスミドに含まれる一つ以上の発現カセット内に含まれ、ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が、宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットおよび組換え遺伝子が同じプラスミドに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
組換え遺伝子がアンチスタシンである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
組換え遺伝子がマダニ抗凝血タンパク質である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
組換え酵母宿主細胞がSacchromyces属の種である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
組換え酵母宿主細胞がSacchromyces cerevisiaeである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ジスルフィド結合をもつ分泌される組換えタンパク質のin vivo製造方法であって、
組換え酵母宿主細胞内で哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子を含む組換え発現カセットから該組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現させること、および
前記酵母宿主細胞内で組換え発現カセットからタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ以外のジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の組換え遺伝子を過剰発現させることを含み、
ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質が培地中に分泌され、培地から回収されることを特徴とし、
該方法は、正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の生成量が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼの過剰発現がないときに生成される正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の量よりも多いことを特徴とし、ただしタンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子がヒト血清アルブミンプレプロ配列をコードするDNAと連結した遺伝子ではなく、且つ該方法は酵母由来受容体タンパク質ERD2をコードする遺伝子の組換え発現カセットからの発現を包含しないことを特徴とする、前記方法。
【請求項13】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え酵母宿主細胞が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットを一つ以上含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ遺伝子が、一つ以上のプラスミド上に含まれている一つ以上の発現カセット内に含まれ、ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が、一つ以上のプラスミドに含まれている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質を発現させるために、組換え酵母宿主細胞を30℃未満の温度で増殖させる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
組換え酵母宿主細胞がSaccharomyces属の株である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
組換え酵母宿主細胞がSaccharomyces cerevisiae種の株である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットが、酵母宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットが自律的複製プラスミド上に含まれている、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする発現カセットおよび組換え遺伝子が同じプラスミドに含まれている、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質を発現させるために、組換え酵母宿主細胞を20℃から26℃までの間の温度で増殖させる、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
ジスルフィド結合をもつタンパク質がアンチスタシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ジスルフィド結合をもつタンパク質がマダニ抗凝血タンパク質である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
組換え発現カセット中の哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子を含み、異なる組換え発現カセットからタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ以外のジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の組換え遺伝子を過剰発現するベクターから組換え哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する酵母Sacchromyces cerevisiaeの株であって、該タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子がヒト血清アルブミンプレプロ配列をコードするDNAと連結した遺伝子ではなく、且つ該酵母の株は酵母由来受容体タンパク質ERD2をコードする遺伝子の組換え発現カセットからの発現を包含しないことを特徴とする、前記酵母Sacchromyces cerevisiaeの株。
【請求項1】
ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質のin vivo製造方法であって、
組換え酵母宿主細胞内で哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子を含む一つ以上の組換え発現カセットから該組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現させること、および
前記宿主細胞内で組換え発現カセットからタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ以外のジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の組換え遺伝子を過剰発現させることを含み、
該方法は、正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の生成量が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼの過剰発現がないときに生成される正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の量よりも多いことを特徴とし、ただしタンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子がヒト血清アルブミンプレプロ配列をコードするDNAと連結した遺伝子ではなく、且つ該方法は酵母由来受容体タンパク質ERD2をコードする遺伝子の組換え発現カセットからの発現を包含しないことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする発現カセットが宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする発現カセットが自律的複製プラスミド上に含まれている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ遺伝子が、一つ以上のプラスミドに含まれる一つ以上の発現カセット内に含まれ、ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が一つ以上のプラスミドに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ遺伝子が一つ以上のプラスミドに含まれる一つ以上の発現カセット内に含まれ、ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が、宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットおよび組換え遺伝子が同じプラスミドに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
組換え遺伝子がアンチスタシンである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
組換え遺伝子がマダニ抗凝血タンパク質である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
組換え酵母宿主細胞がSacchromyces属の種である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
組換え酵母宿主細胞がSacchromyces cerevisiaeである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ジスルフィド結合をもつ分泌される組換えタンパク質のin vivo製造方法であって、
組換え酵母宿主細胞内で哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子を含む組換え発現カセットから該組換えタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現させること、および
前記酵母宿主細胞内で組換え発現カセットからタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ以外のジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の組換え遺伝子を過剰発現させることを含み、
ジスルフィド結合をもつ組換えタンパク質が培地中に分泌され、培地から回収されることを特徴とし、
該方法は、正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の生成量が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼの過剰発現がないときに生成される正確に折り畳まれたジスルフィド結合をもつタンパク質の量よりも多いことを特徴とし、ただしタンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子がヒト血清アルブミンプレプロ配列をコードするDNAと連結した遺伝子ではなく、且つ該方法は酵母由来受容体タンパク質ERD2をコードする遺伝子の組換え発現カセットからの発現を包含しないことを特徴とする、前記方法。
【請求項13】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する組換え酵母宿主細胞が、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットを一つ以上含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ遺伝子が、一つ以上のプラスミド上に含まれている一つ以上の発現カセット内に含まれ、ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする組換え遺伝子が、一つ以上のプラスミドに含まれている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質を発現させるために、組換え酵母宿主細胞を30℃未満の温度で増殖させる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
組換え酵母宿主細胞がSaccharomyces属の株である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
組換え酵母宿主細胞がSaccharomyces cerevisiae種の株である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットが、酵母宿主細胞ゲノムに組込まれる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする組換え発現カセットが自律的複製プラスミド上に含まれている、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする発現カセットおよび組換え遺伝子が同じプラスミドに含まれている、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
ジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質を発現させるために、組換え酵母宿主細胞を20℃から26℃までの間の温度で増殖させる、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
ジスルフィド結合をもつタンパク質がアンチスタシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ジスルフィド結合をもつタンパク質がマダニ抗凝血タンパク質である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
組換え発現カセット中の哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子を含み、異なる組換え発現カセットからタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ以外のジスルフィド結合をもつ一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の組換え遺伝子を過剰発現するベクターから組換え哺乳動物タンパク質ジスルフィドイソメラーゼを過剰発現する酵母Sacchromyces cerevisiaeの株であって、該タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子がヒト血清アルブミンプレプロ配列をコードするDNAと連結した遺伝子ではなく、且つ該酵母の株は酵母由来受容体タンパク質ERD2をコードする遺伝子の組換え発現カセットからの発現を包含しないことを特徴とする、前記酵母Sacchromyces cerevisiaeの株。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−271976(P2008−271976A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124283(P2008−124283)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【分割の表示】特願2003−273656(P2003−273656)の分割
【原出願日】平成5年6月2日(1993.6.2)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【出願人】(503215468)ユニバーシテイー・オブ・ケント・アツト・カンタベリー (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【分割の表示】特願2003−273656(P2003−273656)の分割
【原出願日】平成5年6月2日(1993.6.2)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【出願人】(503215468)ユニバーシテイー・オブ・ケント・アツト・カンタベリー (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]