説明

サテライトRNA、同RNAを有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルス、同弱毒ウイルスを接種したキュウリモザイクウイルス抵抗性植物及びキュウリモザイクウイルスの防除法

【課題】チャンギャン、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ及びスーパーマニタ等を含む唐辛子品種にウイルス症状を全く示さない、これら唐辛子品種から強毒CMVの感染を無症状で防除する弱毒CMVを提供する。
【解決手段】キュウリモザイクウイルスの特定の塩基配列からなるサテライトRNAを有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唐辛子に病害をもたらすキュウリモザイクウイルス(以下「CMV」ともいう)に対して優れた防除効果を有するCMV弱毒ウイルス、当該CMV弱毒ウイルスを得るためのサテライトRNA、該CMV弱毒ウイルスを予め唐辛子苗に接種したCMV抵抗性唐辛子、及び該CMV弱毒ウイルスを予め唐辛子苗に接種することによるCMVの防除法に関する。
【背景技術】
【0002】
キュウリモザイクウイルス(Cucumber mosaic virus)は、ブロモウイルス(Bromoviridae)科ククモウイルス(Cucumovirus)属の代表的な種であり、温帯地方や熱帯地方における多くの農作物を宿主とする。このウイルスは、ウイルスのなかで最も多くの宿主を持つと考えられ、キュウリ、カボチャ、メロン、トマト、ピーマン、トウガラシ、タバコ、ゴボウ、レタス、ダイコン、ハクサイ、ニンジン及びセロリ等のウリ科、ナス科、キク科、アブラナ科、マメ科及びセリ科等の85科356属775種もの植物に感染する。
CMVの感染は、これらの植物体の矮化や叢生とともに、葉にモザイクや奇形を示して、輪点や壊疽症状若しくは葉脈上に葉状突起を生ずることもある。また、花にも花弁に斑入りをつくって花の奇形を生じたり、果実もその表面が凹凸になり、モザイク症状若しくは黄色斑点をつくったりと、果実収量を低下させる。
【0003】
このようなCMVの病害を防除する方法として、弱毒ウイルスによる干渉作用(cross protection)を利用したものがある。これは、既にウイルスに感染している植物は、そのウイルスと同じであるか、極めて近縁のウイルスには感染し難いという現象を利用したものであり、植物に予め、病原性ウイルスと同系統で病徴がないか、極めて軽微なウイルスを接種し感染させて、病原性ウイルスによる感染を防除する方法である。
【0004】
また、CMVには、4種類のRNA(RNA1、RNA2、RNA3及びRNA4)の他に、CMVのウイルス症状を緩和するサテライトRNAを有するものがあり、本発明者らは、トマト、ピーマン、唐辛子及びタバコのCMVによる病害を防除するため、このようなサテライトRNAを有するCMVの弱毒ウイルスをこれまでに開発している(特許文献1、2、3、4及び5参照)。
【特許文献1】特許第2975739号
【特許文献2】特許第3728381号
【特許文献3】特開2006−320309号公報
【特許文献4】韓国特許第747649号
【特許文献5】特開2007−82416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献3、4に係る唐辛子のCMV弱毒ウイルスNDM05−2は、代表的な赤唐辛子品種であるチャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタに接種した際に、軽微なウイルス症状(クロロシス)を示す。そのため、該唐辛子品種にウイルス症状を示さず、外界の強毒CMVに高い感染防除能を有する弱毒ウイルスが長く希求されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、唐辛子圃場で採取したウイルス症状の微弱な唐辛子からCMV弱毒ウイルスを分離し選抜して、検討を重ねた結果、特定塩基配列からなるサテライトRNAを有する弱毒CMVが、多くの唐辛子品種に接種した際にウイルス症状を全く示さず、外界強毒CMVに高い防除能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
よって、本発明は、以下に関する。
なお、ここで本発明のサテライトRNAは、本発明のCMV弱毒ウイルスNDM08−1から直接採取したものでも、採取したRNAを鋳型としてクローニングしたものでも、また、RNA自動合成装置で化学合成したものでも良い。
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるサテライトRNA。
(2)上記(1)に記載のサテライトRNAを有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルス。
(3)上記(2)に記載のキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスを、予め植物苗に接種して得られるキュウリモザイクウイルス抵抗性植物。
(4)植物苗が唐辛子苗である、上記(3)に記載のキュウリモザイクウイルス抵抗性植物。
(5)上記(2)に記載のキュウリモザイクウイルス弱毒ウイルスを、予め植物苗に接種することによる、植物のキュウリモザイクウイルスの防除法。
(6)植物苗が唐辛子苗である、上記(5)に記載の植物のキュウリモザイクウイルスの防除法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のCMV弱毒ウイルスによって、CMVの病害から多くの唐辛子品種を防除することができ、ウイルス症状のない高品質で多収量の唐辛子を減農薬栽培で生産することができる。よって、唐辛子を原料とするキムチ等の食品産業の発展にも資すること大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)CMV弱毒ウイルスの採取と作出
CMV弱毒ウイルスは、例えば、唐辛子圃場よりウイルス症状を持つ唐辛子及びトマトの葉を採集することにより、採取することができる。
CMV弱毒ウイルスの検出は、例えば、これらの葉に10倍量のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて磨砕し、その液をトマト苗に接種し、エライザー検定により、CMVの感染を確認することにより行うことができる。
【0010】
弱毒ウイルスの選抜は、上記トマト苗の感染葉をそれぞれトマト苗(TMK6028)10株ずつに接種して、一週間後、リボ核酸(RNA)分析することにより、サテライトRNAを有するCMVを検出することにより行うことができる。
サテライトRNAを有するCMVについて、該トマト苗におけるウイルス症状調査を行って、ネクロシスやモザイクが発病した系統や感染力を有しない系統を取り除いて、ウイルス症状が軽微でウイルス増殖量の多い弱毒ウイルスを選抜することができる。
弱毒ウイルスは、遺伝的に均一ではなく、ウイルス症状が異なっているので、該トマト苗にこれら弱毒ウイルスを接種し、弱いウイルス症状が揃っている株だけを選抜する。
サテライトRNAの存在が継続されている株だけを採取して、ウイルス接種液の調製を行い、再度トマト苗に接種し、同じ選抜操作を行って、ウイルス接種液を調製する作業を5回繰り返し、トマトで継代接種を行うことにより、サテライトRNAを安定して含むCMV弱毒ウイルスを作出する。
【0011】
(2)サテライトRNAの単離
サテライトRNAの単離は、以下のようにして行うことができる。
上記サテライトRNAを安定して含むCMV弱毒ウイルスをトマト苗(TMK6028)の子葉に接種して感染させ、1〜4週間程度ウイルスを増殖させた後、トマト子葉を採取して−80℃の冷凍庫で凍結する。
次いで、この感染葉を粉砕して、2倍量の0.1%チオグリコール酸を含む0.5Mクエン酸緩衝液(pH6.5)と、同量のクロロホルムを加え、ワーリングブレンダー(ワーリング社製)で破砕する。この破砕液を9,500×g、10分間遠心して、上層(水層)の10%に当たる重量のポリエチレングリコールを加えて溶解させた後、40分間静置する。
次いで、この溶液を9,500×gで20分間遠心して、得られた沈殿に2%トライトンX−100を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH7.0)を加えて懸濁し均一化する。この粗精製品を12,000×gで遠心分離した上清を240,000×gで45分間遠心して、沈殿を回収した後、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁する。
この溶液に最終濃度で1%になるように10%SDSを加えて、さらにこの溶液と等量のフェノールを加えた後、12,000×gで15分間遠心する。
この上層(水層)を回収して、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返し、RNAを単離精製することができる。感染葉100gより、約20mgのRNAを得ることができる。
【0012】
次いで、得られたRNAを水に溶解して、10〜40%ショ糖密度勾配により超遠心分離(175,000×gで16時間)し、得られたサテライトRNAのバンドを採取して、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返し、サテライトRNAを単離精製することができる。
精製が不十分な場合は、6M尿素を含む9%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行って、臭化エチジウムの溶液で染色し、サテライトRNAのバンドの部分をカミソリで切り取り、透析チューブに入れ、EDTAを含むトリス−酢酸緩衝液中で電気泳動により溶出し、サテライトRNAを回収して、常法に従いエタノール沈殿を繰り返し、サテライトRNAを単離精製することができる。
この電気泳動によるサテライトRNAの溶出の詳細は、T.Maniatisらの方法(Molecular Cloning(1982))に従って行うことができる。
【0013】
(3)サテライトRNAのクローニングとシークエンシング
単離精製したサテライトRNAからマイナス鎖(以下−鎖と表記する)cDNAを合成するためには、−鎖cDNA合成反応は、Omniscript Reverse Transcriptase(キアゲン社製)を用いて行うことができる。
次いで、得られたcDNAをPCR法によって増幅させる。このcDNAを1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離させた後、ゲルより切り出して、DNA回収キットGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)を用いて精製する。得られたcDNAをT−Aクローニング用ベクターpGEM T Easy(プロメガ社製)にクローニングして、このプラスミドを制限酵素EcoRIで切断することによって、サテライトRNA由来のcDNAを確認することができる。
【0014】
サテライトRNAの塩基配列は、Thermo Sequenase Cycle Sequencing Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)とDNAシーケンサDSQ−1000L(島津製作所社製)を用いて決定することができる。
【0015】
(4)弱毒ウイルスの安定性
ガラス温室において、上記弱毒ウイルスをチャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタの唐辛子苗の子葉又は本葉に、それぞれウイルス粒子濃度400μg/mlで接種して、さらに5世代に亘って継代接種し、本葉6〜8枚期までそのウイルス症状を調査することにより、唐辛子に全くウイルス症状を発生せず、変異によってモザイク症状や壊死が発生しない安定な弱毒ウイルスを選抜することができる。
【0016】
チャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタは、唐辛子の品種名で、韓国内の種苗会社(例えば、住所1197−4 Maetan 2−Dong, Yeongtong−Gu, Suwon, Gyeonggi−Do, Korea、会社名Nongwoo Boi Co.(農友バイオ))等から容易に入手可能である。
【0017】
(5)弱毒ウイルスの副作用チェック及び強毒CMVに対する防除試験
チャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタの種子を培養土に播種して、約1ヶ月間温室内で育苗する。
本葉1〜2枚期の唐辛子の幼苗に、弱毒ウイルスと以前開発した唐辛子用弱毒ウイルスのNDM05−2を、それぞれウイルス粒子濃度400μg/mlで1次接種して、一定期間後に、唐辛子圃場で分離した強毒CMVのCMV−P0又はより毒性の強いCMV−P1を、それぞれウイルス粒子濃度400μg/mlで上記一次接種した唐辛子苗に二次接種する。
【0018】
ここでCMV−P0は、病原性遺伝子P0を持つCMVであり、CMV−P1は、病原性遺伝子P1を持つCMVである(The Plant Pathology Journal, Vol.22, No.3, P265−270, 2006, Identification and sequence analysis of RNA3 of a resistance−breaking Cucumber mosaic virus isolate on Capsicum annuum参照)。
強毒CMV接種30日後に唐辛子苗のウイルス症状度を詳細に観察して点数化し、評価することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
(1)CMV弱毒ウイルスの採取と作出
韓国内の唐辛子圃場より、ウイルス症状を持つ約600枚の唐辛子及びトマトの葉を採集して、これらの葉に10倍量のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて磨砕し、その液をトマト苗(日本デルモンテ社製TMK6028)に接種した。一週間後、各々のエライザー検定を行った結果、209系統についてCMVの感染を確認した。
【0020】
これらの中から弱毒ウイルスを選抜すべく、209系統のトマトの感染葉をそれぞれトマト苗(TMK6028)10株ずつに接種して、一週間後、リボ核酸(RNA)分析を行った。その結果、サテライトRNAを有するCMVが92系統から検出された。
これら92系統について該トマト苗におけるウイルス症状調査を行って、ネクロシスやモザイクが発病した系統や感染力を有しない系統を取り除いて、ウイルス症状が軽微でウイルス増殖量の多い弱毒ウイルスを選抜した。この選抜した弱毒ウイルスは遺伝的に均一ではなく、ウイルス症状が異なっていたので、該トマト苗100株にこれら弱毒ウイルスを接種し、弱いウイルス症状が揃っている株だけを選抜した。
さらにサテライトRNAの存在が継続されている株だけを採集して、ウイルス接種液の調製を行い、再度トマト苗に接種し、同じ選抜操作をしてウイルス接種液の調製する作業を5回繰り返し、トマトで継代接種を行った。その結果、サテライトRNAを安定して含むCMV弱毒ウイルス(NDM08−1)を作出した。
【0021】
(2)サテライトRNAの単離
NDM08−1をトマト苗(TMK6028)の子葉に接種して感染させ、1〜4週間程度ウイルスを増殖させた後、トマト子葉を採取して−80℃の冷凍庫で凍結した。
次いで、この感染葉を粉砕して、2倍量の0.1%チオグリコール酸を含む0.5Mクエン酸緩衝液(pH6.5)と同量のクロロホルムを加え、ワーリングブレンダー(ワーリング社製)で破砕した。この破砕液を9,500×g、10分間遠心して、上層(水層)の10%に当たる重量のポリエチレングリコールを加えて溶解させた後、40分間静置した。
次いで、この溶液を9,500×gで20分間遠心して、得られた沈殿に2%トライトンX−100を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH7.0)を加えて懸濁し均一化した。この粗精製品を12,000×gで遠心分離した上清を240,000×gで45分間遠心して、沈殿を回収した後、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。
この溶液に最終濃度で1%になるように10%SDSを加えて、さらにこの溶液と等量のフェノールを加えた後、12,000×gで15分間遠心した。
この上層(水層)を回収して、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返し、RNAを単離精製した。その結果、感染葉100gより、約20mgのRNAを得た。
【0022】
次いで、得られたRNAを水に溶解して、10〜40%ショ糖密度勾配により超遠心分離(175,000×gで16時間)し、得られたサテライトRNAのバンドを採取して、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返し、サテライトRNAを単離精製した。精製が不十分な場合は、6M尿素を含む9%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行って、臭化エチジウムの溶液で染色し、サテライトRNAのバンドの部分をカミソリで切り取って、透析チューブに入れ、EDTAを含むトリス−酢酸緩衝液中で電気泳動による溶出を行った後、サテライトRNAを回収して、常法に従いエタノール沈殿を繰り返し、サテライトRNAを単離精製した。
この電気泳動によるサテライトRNAの溶出の詳細は、T.Maniatisらの方法(Molecular Cloning(1982))に従って行った。
【0023】
(3)サテライトRNAのクローニングとシークエンス
単離精製したサテライトRNAからマイナス鎖(以下−鎖と表記する)cDNAを合成するために、サテライトRNA(約3μg)と3’末端塩基配列に相補的なDNAプライマー(8塩基、1μM)を95℃で熱処理した後、徐冷してアニーリングした。この−鎖cDNA合成反応はOmniscript Reverse Transcriptase(キアゲン社製)を用いて、37℃、60分の条件で行った。
次いで、得られたcDNAをPCR法によって増幅させた。すなわち、プラス鎖サテライトRNAの5’末端に相同的なDNAプライマーと3’末端塩基配列に相補的なDNAプライマーを用いて、94℃1分間、37℃1分間、72℃2分間の反応を45回繰り返すことによってPCR反応を行った(PCR反応液;10mM Tris−HCl、1.5mM MgCl、50mM KCl、200μM dNTP、2.5units DNA polymerase(タカラバイオ社製))。
このcDNAを1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離させた後、ゲルより切り出して、DNA回収キットGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)を用いて精製した。得られたcDNAをT−Aクローニング用ベクターpGEM T Easy(プロメガ社製)にクローニングして、このプラスミドを制限酵素EcoRIで切断することによって、NDM08−1のサテライトRNA由来のcDNAを確認した。
【0024】
このサテライトRNAの塩基配列をThermo Sequenase Cycle Sequencing Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)とDNAシーケンサDSQ−1000L(島津製作所社製)を用いて決定した。
本発明のキュウリモザイク弱毒ウイルスNDM08−1のサテライトRNAの塩基配列を配列番号1に示す。
【0025】
なお、本発明のNDM08−1は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにおいて受託が拒否されている(寄託受託証不交付通知書における識別のための表示:NDM08−1)。よって、NDM08−1は、出願人自らが保管し、特許法施行規則第27条の3の規定に準じて、譲渡を行う用意がある(保管場所:〒378−0016、群馬県沼田市清水町3784番地、日本デルモンテ株式会社、研究開発本部、植物ワクチン開発部)。
【0026】
また、比較のためCMV弱毒ウイルスNDM05−2(韓国特許第747649号)のサテライトRNAの塩基配列(配列番号2)を配列表に示す。
【0027】
(4)弱毒ウイルスNDM08−1の安定性
ガラス温室において、NDM08−1をチャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタの韓国唐辛子苗の子葉又は本葉に、それぞれウイルス粒子濃度400μg/mlで接種して、さらに5世代に亘って継代接種して本葉6〜8枚期までそのウイルス症状を調査した。その結果、NDM08−1は上記5品種の唐辛子に全くウイルス症状を発生せず、変異によってモザイク症状や壊死が発生しない安定な弱毒ウイルスであることが分かった。
【0028】
なお、チャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタは、韓国における唐辛子の品種名で、韓国内の種苗会社(例えば、住所1197−4 Maetan 2−Dong, Yeongtong−Gu, Suwon, Gyeonggi−Do, Korea、会社名Nongwoo Boi Co.(農友バイオ))等から容易に入手可能である。
【0029】
(5)弱毒ウイルスNDM08−1の副作用及び強毒CMVに対する防除試験
チャンギャン、ハンバンド、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ、クンサルリム及びスーパーマニタの種子を培養土に播種して、約1ヶ月間温室内で育苗した。そして、本葉1〜2枚期の当該6種類の韓国唐辛子の幼苗を1試験区8株ずつに、本発明の弱毒ウイルスNDM08−1と以前開発した唐辛子用弱毒ウイルスのNDM05−2を、それぞれウイルス粒子濃度400μg/mlで1次接種して、その21日後に、韓国の唐辛子圃場で分離した強毒CMVのCMV−P0又はより毒性の強いCMV−P1を、それぞれウイルス粒子濃度400μg/mlで上記一次接種した唐辛子苗に二次接種した。
【0030】
ここでCMV−P0は、病原性遺伝子P0を持つCMVであり、CMV−P1は、病原性遺伝子P1を持つCMVである(The Plant Pathology Journal, Vol.22, No.3, P265−270, 2006, Identification and sequence analysis of RNA3 of a resistance−breaking Cucumber mosaic virus isolate on Capsicum annuum参照)。
強毒CMV接種30日後に唐辛子苗のウイルス症状度を詳細に観察して点数化した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、唐辛子苗にCMV−P0を接種すると、病原性遺伝子P0に抵抗性であるチャンギャン、トギャチョンチョン、デチョン、チャンマニ及びスーパーマニタにはウイルス症状は現れないが、病原性遺伝子P0に抵抗性でないハンバンドやクンサンリムにはモザイクや細葉等の重度のウイルス症状が現れ、CMV−P1を接種すると、全ての唐辛子品種で重度のウイルス症状が現れた。
【0033】
また、NDM05−2を一次接種すると、二次接種しない唐辛子苗においては、その全てから微弱なクロロシス症状が現れたが、CMV−P0を二次接種すると、微弱なクロロシス症状が現れながらも、全ての唐辛子苗からその感染を防除できた。また、CMV−P1を二次接種すると、ハンバンドとクンサンリムにモルト症状が現れたが、その他の品種では微弱なクロロシス症状が現れながらも、その感染を防除した。
【0034】
一方、本発明のNDM08−1を一次接種すると、二次接種しない唐辛子苗においては、その全てにウイルス症状が全く現れず、CMV−P0を二次接種しても、無症状で全ての唐辛子苗からその感染を防除できた。また、CMV−P1を二次接種するとNDM05−2と同様に、ハンバンドとクンサンリムに弱いモルト症状が現れたが、その他の品種では、その感染を無症状で防除した。
【0035】
よって、本発明のNDM08−1は唐辛子に接種した際に、全くウイルス症状を発現しないという副作用の点で、NDM05−2より優れており、NDM08−1を接種することで、病原性遺伝子P0に抵抗性のないハンバンドやクンサンリム等の唐辛子から病原性遺伝子P0を有するCMV−P0の感染を無症状で防除することができ、また、病原性遺伝子P0に抵抗性を有するチャンギャン、トギャチョンチョン、デチョン、チャムマニ及びスーパーマニタ等の唐辛子から、病原性遺伝子P0又はP1を有する強毒CMV−P0とCMV−P1の感染を無症状で防除できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載の塩基配列からなるサテライトRNA。
【請求項2】
請求項1に記載のサテライトRNAを有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルス。
【請求項3】
請求項2に記載のキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスを、予め植物苗に接種して得られるキュウリモザイクウイルス抵抗性植物。
【請求項4】
植物苗が唐辛子苗である、請求項3に記載のキュウリモザイクウイルス抵抗性植物。
【請求項5】
請求項2に記載のキュウリモザイクウイルス弱毒ウイルスを、予め植物苗に接種することによる、植物のキュウリモザイクウイルスの防除法。
【請求項6】
植物苗が唐辛子苗である、請求項5に記載の植物のキュウリモザイクウイルスの防除法。

【公開番号】特開2009−232737(P2009−232737A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82345(P2008−82345)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000104559)日本デルモンテ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】