説明

サプレッションチェンバ等の容器内の吊り架台装置及び吊り架台工法

【課題】サプレッションチェンバ等の容器内に足場を仮設及び解体する際の作業性を向上させ、足場仮設後には、特に、サプレッションチェンバ等の容器底部における作業性を向上させる、サプレッションチェンバ等の容器内の吊り架台装置及び吊り架台工法を提供すること。
【解決手段】サプレッションチェンバ3の上部に位置し既設設備であるプラットホーム3aに支持され、サプレッションチェンバ3の内壁面(外周側及び内周側)とベント管4の周面間の空間を垂下されるワイヤ6と、ワイヤ6に吊り下げられて、サプレッションチェンバ3の底面3bから離間した状態で支持され、ベント管4の下端と底面3b間の空間を水平方向に延在する吊り架台7と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サプレッションチェンバ(圧力抑制室)等の容器内の吊り架台装置及び吊り架台工法に関し、特に、原子力発電所の定期検査時、サプレッションチェンバ内に仮設される吊り架台装置、及び、サプレッションチェンバ内に足場を仮設するための吊り架台工法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉格納容器は、原子炉圧力容器を内蔵するドライウェルと、大量の水を蓄えると共に、放射性物質の外部漏えいを防止する壁となるサプレッションチェンバから構成されている。サプレッションチェンバ内には、ドライウェル内とサプレッションチェンバ内を連通する、多数のベント管が上下方向に延在している。緊急時には、ドライウェル内の圧力が、ベント管を通じて、サプレッションチェンバ内に放出されることにより、ドライウェル内の圧力が低下される。また、緊急時には、サプレッションチェンバ内に蓄積された水を、サプレッションチェンバ底部内壁面上に設置されたストレーナを介して、緊急炉心冷却系に供給することができる。
【0003】
サプレッションチェンバの内壁面又は底面の塗膜が劣化して、内壁面等が露出した場合、内壁面等を形成する鋼材の減肉につながり、原子炉格納容器の気密性に影響が出る可能性がある。このため、原子炉を停止して行う定期検査時、サプレッションチェンバの内壁面及び底面は、再塗装される。この定期検査に付随する工事において、サプレッションチェンバの水抜きから再塗装までの一連の工程、中でも、サプレッションチェンバ内に足場を仮設し解体する工程は、足場仮設前に水抜きが必要であること、サプレッションチェンバ内は、多数のベント管が配置された狭隘な空間であること、さらに、サプレッションチェンバ内に機器を搬入するハッチが極めて狭いこと、などの原因によって、最も労力及び時間を要する工程となっている。しかも、これら一連の工程が終了しなければ原子炉格納容器内の全体工事が終了せず、原子炉の起動準備作業に進むことができないから、該一連の工程は、定期検査におけるクリティカル工程となっている。
【0004】
図16は、従来の一般的な、サプレッションチェンバ内における汎用単管を用いた足場工法の説明図である。図16を参照すると、サプレッションチェンバ103内を再塗装する際、一般的には、サプレッションチェンバ103の底面103aを基礎として、足場104を仮設している。すなわち、従来の一般的な工法によれば、サプレッションチェンバ103の底面103a上に基礎足場104aを据え付けた後、順次、足場104を積み上げて行く。足場104の設置が完了すると、作業者は、足場104に乗りながら、サプレッションチェンバ103の内壁面にブラストを打ち込んで塗膜を剥離させ、再塗装を行う。内壁面の再塗装が終了すると、底面103aの再塗装においては、底面103a上の基礎足場104aが邪魔になるため、基礎足場104aを撤去した後に、底面103aにブラストを打ち込み、底面103aの再塗装を行う。
【0005】
また、本出願人らは、サプレッションチェンバの上部に足場の基礎を据え付けた後、足場を下方に向って延長していくことにより、サプレッションチェンバ気中からサプレッションチェンバ水中に向って、水抜きと同時進行で、足場を“積み下げて”行く工法(以下、これを「吊り“足場”工法」と称する)を採用したことがある。
【0006】
また、特許文献1を参照して、本出願人らは、サプレッションチェンバの天井からリフターやゴンドラを吊り下げ、足場を基本的に構築せずに、作業者は、リフター等に乗りながら、ブラスト打ち込み等の再塗装工程を行うサプレッションチェンバのドライ点検システムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−23095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の一般的な工法によれば、最初にサプレッションチェンバ内壁面の再塗装を行うため、サプレッションチェンバ底面の再塗装を行うには、邪魔になる足場を撤去する必要がある。したがって、足場を利用するサプレッションチェンバ内壁面(外周側及び内周側:以下同様)の再塗装工事と、足場が邪魔になるサプレッションチェンバ底面の再塗装工事を同時進行で実施できないという問題がある。また、サプレッションチェンバ底部内壁面上には、緊急炉心冷却系に水を供給する際に異物を除去するためのストレーナが設置されている。したがって、内壁面再塗装の際には、ストレーナを取り外したり、養生したりした後、再塗装などを実施し、再塗装完了後、ストレーナを復旧する必要がある。しかし、従来の一般的な工法のように、サプレッションチェンバ底面上に足場を据え付けた場合、足場が邪魔となって、ストレーナ復旧の作業性が悪いため、ストレーナの復旧と足場の解体を、同時進行で実行することが困難であるという問題がある。これらの問題が、サプレッションチェンバ内の再塗装工事に、作業日数がかかる原因の一つとなっている。
【0009】
また、背景技術で説明した、吊り“足場”工法によれば、下に足場がない状態で、下方へ足場を延長していくため、足場の仮設及び解体には相当の技量が要求されるという問題がある。特に、この吊り“足場”工法によれば、下方の足場を解体する際、足の踏み場を確保しながら足場を解体する必要があるため、慎重な作業が要求される。また、吊り足場を解体する場合は、下段の足場から解体する必要があるため、下段の足場近傍に位置するストレーナの復旧と、下段の足場の解体を平行して実施することが難しいという問題がある。
【0010】
また、特許文献1の発明によれば、サプレッションチェンバ内に足場を布設しないため、サプレッションチェンバ内において、特に、水平方向の移動に時間がかかるという問題、及び、重量物や長尺物の搬送に手間がかかるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、サプレッションチェンバ等の容器内に足場を仮設及び解体する際の作業性を向上させ、足場仮設後には、特に、サプレッションチェンバ等の容器底部における作業性を向上させる、サプレッションチェンバ等の容器内の吊り架台装置及び吊り架台工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1の視点において、上下方向に延在する管部材群を有する容器の内部に仮設される吊り架台装置であって、前記容器の上部に支持され、該容器の内壁面と前記管部材群の周面間の空間を垂下される張設手段と、前記張設手段に吊り下げられて、前記容器の底面から離間した状態で支持され、前記管部材群の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、を有する容器内の吊り架台装置を提供する。
【0013】
本発明は、第2の視点において、上下方向に延在する管部材群を有する容器の内部に仮設される吊り架台装置であって、前記容器の上部に支持され、該容器の内壁面と前記管部材群の周面間の空間を垂下される張設手段と、前記張設手段に吊り下げられて、前記容器の底面から離間した状態で支持され、前記管部材群の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、上下方向に延在して、前記吊り架台を、前記管部材群を連結する連結部材群にクランプするクランプ機構と、を有する容器内の吊り架台装置を提供する。
【0014】
本発明は、第3の視点において、水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部に仮設される吊り架台装置であって、前記サプレッションチェンバの上部に支持され、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を垂下されるワイヤ類と、前記ワイヤ類に吊り下げられて、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で支持され、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、を有する、ことを特徴とするサプレッションチェンバ内の吊り架台装置を提供する。
【0015】
本発明は、第4の視点において、水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部に仮設される吊り架台装置であって、水平方向に延在して前記複数のベント管を相互に締結するブレーシングと、前記サプレッションチェンバの上部に支持され、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を上下方向に延在するワイヤ類と、前記ワイヤ類に吊り下げられて、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で支持され、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、上下方向に延在して、前記吊り架台を前記ブレーシングにクランプするクランプ機構と、を有する、サプレッションチェンバ内の吊り架台装置を提供する。
【0016】
本発明は、第5の視点において、水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部で使用される吊り架台工法であって、ワイヤ類を前記サプレッションチェンバの上部に支持して、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を垂下する工程と、前記ワイヤ類に吊り架台を吊り下げて、該吊り架台を、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在させる工程と、を含む、サプレッションチェンバ内の吊り架台工法を提供する。
【0017】
本発明は、第6の視点において、水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部で使用される吊り架台工法であって、ワイヤ類を前記サプレッションチェンバの上部に支持して、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を垂下する工程と、前記ワイヤ類に吊り架台を吊り下げて、該吊り架台を、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在させる工程と、前記吊り架台を、水平方向に延在して前記複数のベント管を相互に締結するブレーシングにクランプする工程と、を含む、サプレッションチェンバ内の吊り架台工法を提供する。
【0018】
なお、本発明において、ワイヤ類とは、張設手段、例えば、ワイヤ、チェーン及びロープなど、吊り下げに使用される用具の総称である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、サプレッションチェンバ等の容器底面と多数のベント管等の管部材群下端との間の空間に、吊り架台を配置することにより、該底面付近における作業において、吊り架台及びその上に仮設される足場が障害物となることが防止され、該底面付近における作業性が向上される。また、本発明によれば、足場仮設時には、吊り架台を基礎として、足場を吊り架台上に通常のように積み上げて行くことができ、足場解体時には、足場を通常のように上段より解体していくことができるため、サプレッションチェンバ等の容器内に足場を仮設及び解体する際の作業性が向上される。また、本発明によれば、吊り架台を既存設備であるブレーシング(連結部材群)にクランプすることにより、吊り架台の振動を防止して位置決めし、吊り架台の位置及び姿勢をさらに安定させることができる。
【0020】
さらに、本発明の効果を下記に例示する。
(1)原子炉の定期検査において、サプレッションチェンバ内に足場を仮設して、サプレッションチェンバの内壁面及び底面を再塗装する一連の工程は、最も日数及び工数を要する工程である。本発明によれば、足場仮設を含む再塗装工期を従来の約2/3に短縮することができ、もって、定期検査全体の工期を大幅に短縮することができる。
(2)吊り架台は、サプレッションチェンバ底面から浮上状態で保持されているため、吊り架台下のサプレッションチェンバ底部における作業Aと、吊り架台上に仮設された足場上からの作業Bと、が同時進行で実行できる。
(3)サプレッションチェンバ底部内壁面上には、緊急炉心冷却系に供給される水のフィルタであるストレーナが設置されている。吊り架台は、サプレッションチェンバ底面から浮上状態で保持されているため、吊り架台上における足場の仮設と、吊り架台下におけるストレーナの養生ないし撤去とが同時進行で実行でき、又、同足場の解体とストレーナの養生解除ないし復旧が同時進行で実行できる。
(4)吊り架台の構成部材が吊り下げられた状態で、構成部材同士の連結作業ができるため、連結作業が省力化できると共に作業性が良い。
(5)吊り架台ないし足場の構成部材には、汎用の足場材である、単管ないしそれを僅かに加工したものを採用し、それらを汎用のスパナ、ボルト及びナットを用いて、連結することができる。
(6)吊り架台は、上方から吊り下げられているため、吊り架台の構成部材同士の水平方向の連結において、連結部の形状を簡素化できる。簡素化された形状を有する構成部材は、吊り架台解体後の洗浄ないし除染が容易である。よって、本発明による吊り架台は、サプレッションチェンバのような放射線管理区域での仮設に適した構成を有している。
(7)サプレッションチェンバにおいては、本発明の吊り架台を、ベント管同士を連結しているブレーシングにクランプすることにより、吊り架台の水平レベル調整が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係る吊り架台装置が適用される原子炉格納容器の内部構造を示す図である。
【図2】図1に示したサプレッションチェンバの内部構造を示す図である。
【図3】本発明の一実施例に係る吊り架台装置のイメージ図である。
【図4】図3に示した吊り架台の平面図である。
【図5】図4に示した吊り架台装置を水平方向から見た部分図である。
【図6】図5のVI部拡大図である。
【図7】(A)及び(B)は、図3に示したプラットホーム、ワイヤ及びワイヤ受け台の説明図である。
【図8】図3に示した吊り架台の詳細を示す部分平面図である。
【図9】(A)は、図8のA−A矢視拡大図、(B)は、(A)の部分平面図である。
【図10】図9(A)に示したボックスジョイントの詳細を説明する図である。
【図11】(A)〜(E)は、図8に示した径方向梁の部品図である。
【図12】(A)〜(J)は、図8に示した周方向梁の部品図である。
【図13】(A)及び(B)は、第1の箇所(三叉状接続部)の構造を示す部分図であり、(C)及び(D)は、第2の箇所(スライド接続部)の構造を示す部分図である。
【図14】図9(A)に示した第1のクランプの部品図である。
【図15】図9(A)に示した第2のクランプの部品図である。
【図16】従来の一般的な、サプレッションチェンバ内における汎用単管足場工法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態において、本発明による吊り架台装置は、その内部に、ドライウェル内とサプレッションチェンバ内を連通する、多数のベント管が上下方向に延在している、種々のサプレッションチェンバに適用される。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置は、上下方向に延在して、前記吊り架台を、既設設備、特に、ベント管同士を連結するブレーシングにクランプするクランプ機構を有する。この形態によれば、吊り架台の水平レベル調整が容易となる。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置は、前記吊り架台を基礎として、該吊り架台から上方に向って積み上げられた足場を有する。この形態によれば、足場が吊り架台上に構築されるため、足場の積み上げ及び解体作業に、汎用の単管足場工法を採用できる。よって、この形態によれば、足場仮設の作業性が向上され、工期短縮に繋がる。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置は、前記サプレッションチェンバの上部に既設されたプラットホームに、取り外し自在に配置され、前記ワイヤ類が掛けられるワイヤ受け台を有する。この形態によれば、既存設備を活用して、ワイヤ類の固定を簡単に行うことができるため、工期短縮及びコスト削減となる。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置において、前記吊り架台は、互いに交差する複数の径方向梁と複数の周方向梁を有し、前記吊り架台は、一本の前記径方向梁と二本の前記周方向梁の軸線が一点で交差するよう、三本の当該梁を連結する第1の箇所(三叉状接続部)と、二本の前記周方向梁の軸線が一本の前記径方向梁の軸線に対して相違する位置で交差するよう、三本の当該梁を連結する第2の箇所(スライド接続部)と、を有する。この形態によれば、環状の吊り架台の構築作業が簡略化される。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置において、前記吊り架台は、互いに交差する複数の径方向梁と複数の周方向梁を有し、前記径方向梁に対称的に複数の第1のブラケット部が形成され、前記周方向梁の端部に第2のブラケット部が形成され、前記吊り架台は、前記第1及び第2のブラケット部が位置調整自在に接続されることにより、一本の前記径方向梁と二本の前記周方向梁が三叉状に接続される第1の箇所(三叉状接続部)と、二つの前記第2のブラケット部が前記径方向梁に接続されることにより、二本の前記周方向梁が一本の前記径方向梁にずれて接続される第2の箇所(スライド接続部)と、を有する。この形態によれば、環状の吊り架台の構築作業が簡略化される。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置は、前記吊り架台の外周部及び内周部に水平方向に伸縮自在にそれぞれ取り付けられ、前記サプレッションチェンバの外周側及び内周側の内壁面にそれぞれ当接自在な外周側ジャッキ及び内周側ジャッキを有する。この形態によれば、吊り架台が径方向に突っ張ることができるため、吊り架台が安定する。
【0029】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台装置において、前記クランプ機構は、変形可能な第1のクランプと、剛体な第2のクランプと、を含む。第1のクランプは、吊り架台の位置及び姿勢の調整を容易化し、又、吊り架台の振動を吸収するよう機能し、第2のクランプは、吊り架台の位置及び姿勢を安定化させるよう機能する。
【0030】
本発明の好ましい実施の形態に係る吊り架台工法は、さらに、吊り下げられた前記吊り架台を基礎として、該吊り架台から上方に向って足場を積み上げる工程を含む。この工法によれば、慣用の単管足場工法を採用して、吊り架台上に足場を構築することができるため、作業性が良い。
【0031】
本発明による吊り架台は、それが適用されるサプレッションチェンバの形状に応じて、矩形状、多角形状ないし環状に構築される。
【実施例】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例に係る吊り架台装置が適用される原子炉格納容器の内部構造を示す図である。図2は、図1に示したサプレッションチェンバの内部構造を、外壁を取り除いて示す図である。
【0033】
図1及び図2を参照すると、原子炉格納容器1は、原子炉圧力容器1aを内蔵するドライウェル2と、大量の水を蓄え、放射性物質の外部漏えいを防止する壁となるサプレッションチェンバ(圧力抑制室)3から構成されている。サプレッションチェンバ3内には、ドライウェル2内とサプレッションチェンバ3内を連通する、多数のベント管4が上下方向に延在している。サプレッションチェンバ3は、径方向ないし水平方向において、原子炉格納容器1の内壁面と、原子炉格納容器1の基礎を形成しているペデスタル1bの外壁面との間に形成され、軸方向ないし上下方向において、サプレッションチェンバ3の天井を形成している既設のプラットホーム3aと底面3bとの間に形成された環状の空間であり、又、多数のベント管4の存在によって、きわめて狭隘な空間となっている。
【0034】
原子炉格納容器1には、サプレッションチェンバ3内に、機器を搬入するための機器搬入ハッチ1c、及び、作業員が出入りするアクセスハッチ1dが形成されている。機器搬入ハッチ1c及びアクセスハッチ1dは、いずれも狭隘なハッチである。
【0035】
サプレッションチェンバ3内には、常時、多量の水が貯留されている。緊急時には、ドライウェル2内の高温高圧蒸気が、多数のベント管4を通じて、サプレッションチェンバ3内の水中に放出されて凝縮されることにより、ドライウェル2内の圧力が低下される。また、サプレッションチェンバ3内の水は、サプレッションチェンバ3の水中に位置するストレーナ5を通じて、緊急炉心冷却系に供給される。原子炉の定期検査時、サプレッションチェンバ3内の水を抜いて、サプレッションチェンバ3内を再塗装する際には、図1中、斜線のハッチングで示すように、サプレッションチェンバ3の外周側及び内壁側の内壁面並びに底面が再塗装される。
【0036】
続いて、このように、水が常時は貯留されると共に、多数のベント管4が上下方向に延在している、サプレッションチェンバ3の内部に仮設される、本発明の一実施例に係る吊り架台装置について説明する。図3は、本発明の一実施例に係る吊り架台装置のイメージ図である。図4は、図3に示した吊り架台の平面図である。図5は、図4に示した吊り架台装置を水平方向から見た部分図である。図6は、図5のVI部拡大図である。
【0037】
図3〜図6を参照すると、本発明の一実施例に係る吊り架台装置は、サプレッションチェンバ3の上部に支持され、サプレッションチェンバ3の内壁面とベント管4の周面間の空間を垂下されるワイヤ6と、ワイヤ6に吊り下げられて、サプレッションチェンバ3の底面3bから離間した状態で支持され、ベント管4の下端と底面3b間の空間を水平方向に延在する吊り架台7と、を有している。吊り架台7上には、汎用単管を用いて、通常の工法により足場35を複数段積み上げていくこと、さらに、メッシュ板36を複数段に亘って周方向に布設することができる。
【0038】
また、サプレッションチェンバ3内には、水平方向に延在して複数のベント管4を相互に締結するブレーシング8が配置されている。本実施例の吊り架台装置は、上下方向に延在して、吊り架台7をブレーシング8にクランプするクランプ機構9を有している。クランプ機構9は、変形可能な第1のクランプ10と、剛体な第2のクランプ11と、を組み合わせて構成されている。続いて、本実施例に係る吊り架台装置の各部の詳細を説明する。
【0039】
[ワイヤ受け台12]
図7(A)及び図7(B)は、図3に示したワイヤ受け台12の説明図であって、図7(A)は、プラットホーム3aの部分平面図であり、図7(B)は、ワイヤ6及びワイヤ受け台12を示す部分図である。
【0040】
図1、図3、図7(A)及び図7(B)を参照すると、サプレッションチェンバ3の天井部に既設のプラットホーム3a上には、ワイヤ受け台12が設置されている。ワイヤ受け台12は、サプレッションチェンバ3の大径側(原子炉格納容器1の内壁面側)と小径側(ペデスタル1bの外壁面側)において、周方向に沿って所定角度毎に配置され、ワイヤ6は、原子炉格納容器1の内壁面と最外周位置のベント管4との間、及び、最内周位置のベント管4とペデスタル1bの外壁面との間において、周方向に沿って所定角度毎に配置されている。図7(A)中の太い矢線は、図3に示した吊り架台7(17,18)の吊りポイントを示している。
【0041】
特に、図7(A)及び図7(B)を参照すると、ワイヤ受け台12は、プラットホーム3a上に敷設されているメッシュ板13と、メッシュ板13上に載置される汎用の鋼材14と、鋼材14上に取り付けられワイヤ6が掛けられるフック15と、を含んで構成されている。上端がフック15に掛けられたワイヤ6は、メッシュ板13が備える隙間から垂下される。ワイヤ6の下端は、吊り架台7に取り付けられた吊環7a,7b(後述する図9(A)参照)にフックされる。このようにして、既存の固定設備であるプラットホーム3aに、ワイヤ6を介して、吊り架台7が吊られる。
【0042】
[吊り架台7]
図8は、図3に示した吊り架台7の詳細を示す部分平面図であり、図9(A)は、図8のA−A矢視拡大図、図9(B)は、(A)の部分平面図である。図9(A)及び図9(B)を参照すると、吊り架台7は、長さ調整自在なターンバックル16を介して、周方向に配列された外周側及び内周側のワイヤ6,6によって、吊り下げられている。さらに、吊り架台7は、図3に示したクランプ機構9によって、詳細には、第1及び第2のクランプ10,11によって、ブレーシング8にクランプされている。
【0043】
[吊り架台7のマトリックス]
図8を参照すると、吊り架台7のマトリックスは、相互接続された複数の径方向梁17及び周方向梁18から構成されている。複数の径方向梁17は、周方向に沿って所定角度毎に配列され、複数の周方向梁18は、径方向に沿って所定径毎に配列されている。複数の径方向梁17は、大径側梁17a、中径側梁17b及び小径側梁17cが接続されて構成されている。複数の周方向梁18は、外周側梁19、第1〜第3の中間側梁20〜22及び内周側梁23から構成されている。
【0044】
[径方向梁(縦梁)17]
図10は、図9(A)に示したボックスジョイント24の詳細図である。図11(A)〜図11(E)は、図8に示した径方向梁17の部品図であって、図11(A)は大径側梁17aの平面図、図11(B)は図11(A)の正面図、図11(C)は中径側梁17bの平面図、図11(D)は小径側梁17cの平面図、図11(E)は図11(D)の正面図である。
【0045】
[ボックスジョイント24による径方向梁17の一本化]
図8〜図10を参照すると、径方向梁17において、大径側梁17a、中径側梁17b及び小径側梁17cは、ボックスジョイント24,24を介して相互接続されている。大径側梁17a及び小径側梁17cの端部には、吊環7a,7bが取り付けられている。特に、図10を参照すると、ボックスジョイント24は、中空管状であって、軸方向穴24aと、外周面と軸方向穴24aで開口する複数のネジ孔24bと、を備えている。ネジ孔24bは、ボックスジョイント24の平面及び正面にそれぞれ形成されている。径方向梁17の接続時、軸方向穴24aの軸方向両端から、大径側梁17a及び中径側梁17b、又は、中径側梁17b及び小径側梁17cがそれぞれ差し込まれ、複数のネジ孔24bに、複数の止めネジ25がそれぞれ螺合されて、止めネジ25の先端が大径側梁17a等の直交する両面に当接することにより、一本の径方向梁17が形成される。
【0046】
[周方向梁(横梁)18(19〜23)−第1の箇所33における三叉状接続、第2の箇所34におけるスライド接続]
図12(A)〜図12(J)は、図8に示した周方向梁18の部品図であって、図12(A)は外周側梁19aの平面図、図12(B)は図12(A)の正面図、図12(C)は第1の中間側梁20aの平面図、図12(D)は図12(C)の正面図、図12(E)は第2の中間側梁21aの平面図、図12(F)は図12(E)の正面図、図12(G)は第3の中間側梁22aの平面図、図12(H)は図12(G)の正面図、図12(I)は内周側梁23aの平面図、図12(J)は図12(I)の正面図である。図13(A)及び図13(B)は、第1の箇所(三叉状接続部)33の構造を示す部分図であり、図13(C)及び図13(D)は、第2の箇所(スライド接続部)34の構造を示す部分図である。
【0047】
[外周側梁19及びそれと径方向梁17との接続、第1の箇所33]
図8、図12(A)及び図12(B)並びに図13(A)及び図13(B)を参照すると、外周側梁19は、周方向梁19a,19aが順次接続されて形成されている。周方向梁19aの中央には、吊環7aが取り付けられている。再度、図11(A)を参照すると、大径側梁17aの端部には、第1のブラケット部26,26が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。周方向梁19aの両端には、第2のブラケット部27が完成状態で周方向両側に突出するようそれぞれ形成されている。第2のブラケット部27の軸心は、周方向梁19aの軸心に対して、外周側梁19の完成状態で内側に向かうように形成されている。第1及び第2のブラケット部26,27には、長穴26a,27aがそれぞれ形成されている。交差するよう積層される長穴26a,27aによって、二本の周方向梁19a,19aと一本の縦方向梁17aの位置ないし接続角度が調整自在となる。第1のブラケット部26,26に、二本の周方向梁19aの第2のブラケット部27がそれぞれ積層され、長穴26a,27aに挿通される不図示のボルトと不図示のナットにより、第1及び第2のブラケット部26,27を介して、二本の周方向梁19a,19aと一本の大径側梁17aが、第1の箇所(三叉状接続部)33で三叉状に相互接続される。
【0048】
[第1の中間側梁20及びそれと径方向梁17との接続、第1の箇所33]
図8、図12(C)及び図12(D)並びに図13(A)及び図13(B)を参照すると、第1の中間側梁20は、周方向梁20a,20aが順次接続されて形成されている。再度、図11(A)を参照すると、大径側梁17aの中間部には、第1のブラケット部26,26が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。周方向梁20aの両端には、第2のブラケット部27,27が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。第2のブラケット部27の軸心は、周方向梁20aの軸心に対して、第1の中間側梁20の完成状態で内側に向かうように形成されている。第1及び第2のブラケット部26,27には、長穴26a,27aがそれぞれ形成されている。交差するよう積層される長穴26a,27aによって、二本の周方向梁20a,20aと一本の大径側梁17aの位置ないし接続角度が調整自在となる。第1のブラケット部26,26と、二本の周方向梁19aの第2のブラケット部27がそれぞれ積層され、長穴26a,27aに挿通される不図示のボルトと不図示のナットにより、第1及び第2のブラケット部26,27を介して、二本の周方向梁20a,20aと一本の大径側梁19aが第1の箇所(三叉状接続部)33で三叉状に相互接続される。
【0049】
[第2の中間側梁21及びそれと径方向梁17との接続、第2の箇所34]
図8、図12(E)及び図12(F)並びに図13(C)及び図13(D)を参照すると、第1の中間側梁21は、周方向梁21a,21aが順次接続されて形成されている。周方向梁21aの両端には、図11(C)に示した中径側梁17bが差し込まれる第2のブラケット部27が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。第2のブラケット部27の軸心は、周方向梁21aの軸心に対して、第2の中間側梁21の完成状態で内側に向かうようにされている。第2のブラケット部27には、ネジ孔27bが形成されている。二本の周方向梁21aの第2のブラケット部27がそれぞれ、中径側梁17bの異なる位置に積層され、ネジ孔27bに螺合される止めネジ28が中径側梁17bに当接することにより、第2のブラケット部27を介して、二本の周方向梁21a,21aが、一本の中径側梁19bにずれた位置で、すなわち、第2の箇所(スライド接続部)34で相互接続される。
【0050】
[第3の中間側梁22及びそれと径方向梁17との接続、第1の箇所33]
図8、図12(G)及び図12(H)並びに図13(A)及び図13(B)を参照すると、第3の中間側梁22は、周方向梁22a,22aが順次接続されて形成されている。再度、図11(D)を参照すると、小径側梁17cの中間部には、第1のブラケット部26,26が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。周方向梁22aの両端には、第2のブラケット部27が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。第2のブラケット部27の軸心は、周方向梁22aの軸心に対して、第3の中間側梁22の完成状態で内側に向かうように形成されている。第1及び第2のブラケット部26,27には、長穴26a,27aがそれぞれ形成されている。交差するよう積層される長穴26a,27aによって、二本の周方向梁22a,22aと一本の小径側梁17cの位置ないし接続角度が調整自在となる。第1のブラケット部26,26と、二本の周方向梁22aの第2のブラケット部27がそれぞれ積層され、長穴26a,27aに挿通される不図示のボルトと不図示のナットにより、第1及び第2のブラケット部26,27を介して、二本の周方向梁22a,22aと一本の小径側梁17cが第1の箇所(三叉状接続部)33で三叉状に相互接続される。
【0051】
[内周側梁23及びそれと径方向梁17との接続、第1の箇所33]
図8、図12(I)及び図12(J)並びに図13(A)及び図13(B)を参照すると、内周側梁23は、周方向梁23a,23aが順次接続されて形成されている。再度、図11(D)を参照すると、小径側梁17cの端部には、第1のブラケット部26,26が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。周方向梁23aの両端には、第2のブラケット部27が完成状態で周方向両側に突出するよう形成されている。第2のブラケット部27の軸心は、周方向梁22aの軸心に対して、内周側梁23の完成状態で内側に向かうようにされている。第1及び第2のブラケット部26,27には、長穴26a,27aがそれぞれ形成されている。交差するよう積層される長穴26a,27aによって、二本の周方向梁23a,23aと一本の小径側梁17cの位置ないし接続角度が調整自在となる。第1のブラケット部26,26と、二本の周方向梁22aの第2のブラケット部27がそれぞれ積層され、長穴26a,27aに挿通される不図示のボルトと不図示のナットにより、第1及び第2のブラケット部26,27を介して、二本の周方向梁23a,23aと一本の小径側梁17cが第1の箇所(三叉状接続部)33で三叉状に相互接続される。
【0052】
以上説明したように、本実施例の吊り架台7は、第1及び第2のブラケット部26,27を第1及び第2の箇所33,34で用いることにより、汎用の真直な単管ないしそれを僅かに加工したものを多角形状に接続して、環状の吊り架台7を構築することができる。
【0053】
また、吊り架台7は、径方向梁17に対称的に形成された第1のブラケット部26,26と、周方向梁18(周方向梁19a等の端部)に形成された第2のブラケット部27と、が位置調整自在に接続されることにより、一本の径方向梁17と二本の周方向梁(二本の周方向梁19a等)が三叉状に接続される第1の箇所(三叉状接続部)33と、中間の周方向梁18(周方向梁21aの端部)に形成された第2のブラケット部27が、一本の径方向梁17(中径側梁17b)に直接的に接続されることにより、一本の径方向梁17に二本の周方向梁(二本の周方向梁21a等)が食い違って接続される第2の箇所(スライド接続部)34と、を有している。第1の箇所33では、一本の径方向梁18と二本の周方向梁19a,19aの軸線が一点で交差し、第2の箇所34では、二本の周方向梁21a,21aの軸線が一本の径方向梁17の軸線に対して相違する位置で交差している。このように、梁の接続形態が相違する第1及び第2の箇所33,34を設けることにより、特に、第1の箇所33では、梁の寸法誤差や各種取付誤差が吸収され、第2の箇所34では、梁同士の接続構造が簡素化されると共に接続作業が省力化される。また、吊り架台7は、上方から吊り下げられているため、吊り架台7の構成部材同士の水平方向の連結において、連結部の形状が簡素化されている。例えば、吊り架台7においては、ネジ孔の個数が削減され、ボルト及びナットによる接続箇所が低減され、止めネジの当接による簡単な接続構成が多数採用されている。よって、吊り架台7は、それの解体後の洗浄ないし除染が容易である。
【0054】
[外周側及び内周側ジャッキ29,30]
図5、図9並びに図11(B)及び図11(E)を参照すると、本実施例の吊り架台装置は、吊り架台7の外周部及び内周部に水平方向に伸縮自在にそれぞれ取り付けられ、サプレッションチェンバ3の外周側の内壁面(原子炉圧力容器1の内壁面、ドライウェル2の内壁面)、及び、サプレッションチェンバ3の内周側の内壁面(ペデスタル1bの外壁面)にそれぞれ当接自在な外周側ジャッキ29及び内周側ジャッキ30を有している。外周側ジャッキ29及び内周側ジャッキ30は、周方向に沿って所定角度毎に配列されている。
【0055】
特に、図11(B)を参照すると、大径側梁17aの外周側端部には、外周側ジャッキ29が取り付けられている。外周側ジャッキ29は、吊り架台7側に固定された内ネジ部材31と、内ネジ部材31に螺合されて並進自在なアジャスタ32と、を有している。アジャスタ32の頭部端面は、サプレッションチェンバ3の内周側内壁面に当接自在である。図11(E)を参照すると、内周側ジャッキ30は、小径側梁17cの内周側端部には取り付けられ、外周側ジャッキ29と同様の構造を有している。外周側ジャッキ29及び内周側ジャッキ30は、サプレッションチェンバ3の外周側及び内周側の内壁面にそれぞれ当接して、径方向に沿って互いに反対方向に作用する力を受けることにより、外周側内壁面と内周側内壁面との間で吊り架台7を突っ張らせて静止させる。
【0056】
[クランプ機構9]
図2及び図3を参照すると、サプレッションチェンバ3内には、多数のベント管4同士を連結するブレーシング8が、水平方向に沿って縦横に延在している。クランプ機構9は、吊り架台7を既存設備であるブレーシング8にクランプすることにより、吊り架台の振動を防止して位置決めし、吊り架台7を安定させる。
【0057】
図9を参照すると、図3に示したクランプ機構9は、第1及び第2のクランプ10,11から構成されている。第1のクランプ10は、ターンバックル式の変形ないし揺動可能な非剛体なクランプであり、第2のクランプ11は、パイプジャッキ式クランプであって剛体なクランプである。このような二種類のクランプ10,11を用いることにより、吊り架台7の位置及び姿勢調整及び安定的なクランプが達成される。
【0058】
[第1のクランプ10]
図14は、図9(A)に示した第1のクランプ10の部品図である。図9及び図14を参照すると、第1のクランプ10は、ブレーシング8をクランプする第1の部分10aと、径方向梁17をクランプする第2の部分10bと、第1の部分10aに接続する第1のワイヤ部10cと、第2の部分10bに接続する第2のワイヤ部10dと、第1及び第2のワイヤ部10c,10dに螺合自在なターンバックル部10eと、を有している。
【0059】
ターンバックル部10eに対する、第1及び第2のワイヤ部10c,10dの螺合位置を調整することにより、第1のクランプ10の上下方向の長さが可変される。第1及び第2のワイヤ部10a,10bは、非剛体であって揺動ないし変位可能であるから、第1のクランプ10は、特に、吊り架台7の位置及び姿勢の調整を容易化し、又、吊り架台7の振動を吸収するよう機能する。また、第1のクランプ10には、市販のターンバックルを用いることができる。これによって、クランプ機構9において、専用品である第2のクランプ11の使用個数を削減し、部品コストを低減することができる。
【0060】
[第2のクランプ11]
図15は、図9(A)に示した第2のクランプ11の部品図である。図9及び図15を参照すると、第2のクランプ11は、ブレーシング8をクランプする第1の部分11aと、径方向梁17をクランプする第2の部分11bと、第1の部分11aに接続する第1のネジロッド部11cと、第2の部分11bに接続する第2のネジロッド部11dと、第1及び第2のネジロッド部11c,11dに螺合自在なナット部11eと、を有している。
【0061】
ナット部11eに対する、第1及び第2のネジロッド部11c,11dの螺合位置を調整することにより、第1のクランプ11の上下方向の長さが可変される。第1及び第2のネジロッド部11c,11d並びにナット部11eは、剛体であるから、第2のクランプ11は、特に、吊り架台7の位置及び姿勢を安定化させるよう機能する。
【0062】
引き続き、図1〜図15を参照して、以上説明した本発明の一実施例に係る吊り架台装置を用いたサプレッションチェンバ3の再塗装工事について説明する。サプレッションチェンバ3の再塗装工事は、基本的に下記の作業工程から構成される:
(1)準備作業;
(2)ダイバーによるサプレッションチェンバ3内の除染;
(3)サプレッションチェンバ3内の水の移送;
(4)ストレーナ5の養生;
(5)吊り架台7及び足場35の仮設;
(6)ブラスト打ち込み及び塗装;
(7)足場35及び吊り架台7の解体;
(8)ストレーナ5等の復旧;
(9)サプレッションチェンバ3内の水張り。
【0063】
(1)準備作業
ヤードに、空気供給設備を設置し、基本的に、汎用単管及びそれを加工した足場材(吊り架台7の構成部材)等を集積する。建屋内では、サプレッションチェンバ3外に、ブラスト装置関連機器及びダスト回収機器を仮設する。
【0064】
(2)サプレッションチェンバ3内の水中にダイバーが潜水し、水中除染及びスラッジ除去を行う。
【0065】
(3)サプレッションチェンバ3内の水を、既設及び仮設のポンプを用いて、サプレッションチェンバ3外に移送する。
【0066】
(4)ストレーナ5の養生
サプレッションチェンバ3の底部内壁面上にあるストレーナ5を養生する。
【0067】
(5)吊り架台7及び足場35の仮設;
(5.1)吊り架台7の仮設
既設設備であるブレーシング8に、クランプ機構9を取り付ける。サプレッションチェンバ3上部の既設設備であるプラットホーム3aにワイヤ受け台12を据え付け、ワイヤ受け台12にワイヤ6の上端を掛け、サプレッションチェンバ3の外周部と内周部において、複数のワイヤ6を垂下し、環状に配列させる。機器搬入ハッチ1c等を通じて、サプレッションチェンバ3内に搬入した足場材(吊り架台7の構成部材)等を、サプレッションチェンバ3内の外周面と、ベント管8の間の空間から、サプレッションチェンバ3の底面上に降ろす。吊り架台7の外周部と内周部となる部分に位置する吊環7a,7bに、ワイヤ6の下端を掛ける。第1及び第2のブラケット部26,27を介して、足場材同士を接続して、径方向梁(縦梁)17及び周方向梁(横梁)18を構築し、吊り架台7のマトリックスを完成させる。吊り架台7に取り付けられた外周側ジャッキ29及び内周側ジャッキ30を操作して、サプレッションチェンバ3内の外周側内壁面と内周側内壁面との間で、吊り架台7を突っ張らせる。吊り架台7を、クランプ機構9を介して、ブレーシング8にクランプして安定化させると共に、吊り架台7の位置決め及び姿勢調整を行う。吊り架台7上にメッシュ板36を敷設する。
【0068】
かくして、吊り架台7は、プラットホーム3a上からワイヤ6によって吊り下げられ、サプレッションチェンバ3の底面3bから離間した状態で、ベント管8の下端と底面3b間の空間を水平方向に延在すると共に、ブレーシング8に対してクランプ機構9によってクランプされ、サプレッションチェンバ3内の内外周内壁面間で突っ張っていることにより、位置及び姿勢がきわめて安定した状態で保持される。よって、以下、吊り架台7上では、通常の足場工法、すなわち、汎用単管を用いて、地面ないし底面を基礎として足場を積み上げて行く工法と同様の工法で、足場35を積み上げて行くことができる。
(5.2)足場35の仮設
吊り架台7を基礎として、吊り架台7上ないしその上に敷設されたメッシュ板36上に、単管足場から構成される足場35を複数段積み上げる。
【0069】
(6)ブラスト打ち込み及び塗装;
吊り架台7又はそれ上の足場35から、底面3bなどのサプレッションチェンバ3内の再塗装面にブラストを打ち込む。このとき、吊り架台7及び足場35は、底面3bから浮上した状態にあるから、吊り架台7などを解体せずに、底面3bにブラストを打ち込むことができる。ブラスト材及び剥離した塗装材からなるスラッジを回収後、サプレッションチェンバ3内を再塗装する。
【0070】
(7)足場35及び吊り架台7の解体;
上方から下方に向かって足場35を順次解体し、次に、上述した吊り架台7の仮設工程とは基本的に逆順で、吊り架台7を解体する。
【0071】
(8)ストレーナ5等の復旧;
サプレッションチェンバ3の底部内壁面上に設置されているストレーナ5等の養生を取り外す。吊り架台7は、底面3bから浮上状態にあると共に、ストレーナ5よりも高い位置にあるから、足場35の解体と、底面3b近傍の底部内壁面上に位置するストレーナ5の復旧作業は、同時進行で実行できる。ワイヤ6を引き揚げ、プラットホーム3aからワイヤ受け台12を取り外す。
【0072】
(9)サプレッションチェンバ3内の水張り
サプレッションチェンバ3内に注水する。
【0073】
本実施例の吊り架台装置を用い上記工法に準拠して、福島第二原子力発電所第4号機の平成21年度定期検査時、サプレッションチェンバの再塗装工事を実施したところ、足場仮設を含む再塗装関連工事に関しては、図16に示した従来の一般的な汎用単管足場工法を採用した場合と比較して、再塗装関連工期が約2/3に短縮され、もって、定期検査期間全体の工期が大幅に短縮された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、容器内の足場仮設に利用され、特に、原子力発電所のサプレッションチェンバ内の足場仮設に利用され、内壁面に対する作業と底面ないし底部内壁面に対する作業の両方がある工事に好適に適用される。
【符号の説明】
【0075】
1 原子炉格納容器
1a 原子炉圧力容器
1b ペデスタル
1c 機器搬入ハッチ
1d アクセスハッチ
2 ドライウェル
3 サプレッションチェンバ(容器)
3a プラットホーム(天井部)
3b 底面
4 多数のベント管(管部材群)
5 ストレーナ
6 ワイヤ(ワイヤ類、張設手段)
7 吊り架台
7a,7b 吊環
8 ブレーシング(連結部材群)
9 クランプ機構
10 第1のクランプ機構
10a 第1の部分
10b 第2の部分
10c 第1のワイヤ部
10d 第2のワイヤ部
10e ターンバックル部
11 第2のクランプ機構
11a 第1の部分
11b 第2の部分
11c 第1のネジロッド部
11d 第2のネジロッド部
11e ナット部
12 ワイヤ受け台
13 メッシュ板
14 鋼材
15 フック
16 ターンバックル
17 径方向梁(縦梁)
17a 大径側梁
17b 中径側梁
17c 小径側梁
18 周方向梁(横梁)
19 外周側梁
19a 周方向梁
20 第1の中間側梁
20a 周方向梁
21 第2の中間側梁
21a 周方向梁
22 第3の中間側梁
22a 周方向梁
23 内周側梁
23a 周方向梁
24 ボックスジョイント
24a 軸方向穴
24b ネジ孔
25 止めネジ
26 第1のブラケット部
26a 長穴
27 第2のブラケット部
27a 長穴
27b ネジ孔
28 止めネジ
29 外周側ジャッキ
30 内周側ジャッキ
31 内ネジ部材
32 アジャスタ
33 第1の箇所(三叉状接続部)
34 第2の箇所(スライド接続部)
35 足場
36 メッシュ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延在する管部材群を有する容器の内部に仮設される吊り架台装置であって、
前記容器の上部に支持され、該容器の内壁面と前記管部材群の周面間の空間を垂下される張設手段と、
前記張設手段に吊り下げられて、前記容器の底面から離間した状態で支持され、前記管部材群の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、
を有する、ことを特徴とする容器内の吊り架台装置。
【請求項2】
上下方向に延在する管部材群を有する容器の内部に仮設される吊り架台装置であって、
前記容器の上部に支持され、該容器の内壁面と前記管部材群の周面間の空間を垂下される張設手段と、
前記張設手段に吊り下げられて、前記容器の底面から離間した状態で支持され、前記管部材群の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、
上下方向に延在して、前記吊り架台を、前記管部材群を連結する連結部材群にクランプするクランプ機構と、
を有する、ことを特徴とする容器内の吊り架台装置。
【請求項3】
水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部に仮設される吊り架台装置であって、
前記サプレッションチェンバの上部に支持され、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を垂下されるワイヤ類と、
前記ワイヤ類に吊り下げられて、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で支持され、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、
を有する、ことを特徴とするサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項4】
水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部に仮設される吊り架台装置であって、
水平方向に延在して前記複数のベント管を相互に締結するブレーシングと、
前記サプレッションチェンバの上部に支持され、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を上下方向に延在するワイヤ類と、
前記ワイヤ類に吊り下げられて、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で支持され、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在する吊り架台と、
上下方向に延在して、前記吊り架台を前記ブレーシングにクランプするクランプ機構と、
を有する、ことを特徴とするサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項5】
前記吊り架台を基礎として、該吊り架台から上方に向って積み上げられた足場を有する、ことを特徴とする請求項3又は4記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項6】
前記サプレッションチェンバの上部に既設されたプラットホームに、取り外し自在に配置され、前記ワイヤ類が掛けられるワイヤ受け台を有する、ことを特徴とする請求項3又は4記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項7】
前記吊り架台は、互いに交差する複数の径方向梁と複数の周方向梁を有し、
前記吊り架台は、
一本の前記径方向梁と二本の前記周方向梁の軸線が一点で交差するよう、三本の当該梁を連結する第1の箇所と、
二本の前記周方向梁の軸線が一本の前記径方向梁の軸線に対して相違する位置で交差するよう、三本の当該梁を連結する第2の箇所と、
を有する、ことを特徴とする請求項3又は4記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項8】
前記吊り架台は、互いに交差する複数の径方向梁と複数の周方向梁を有し、
前記径方向梁に対称的に複数の第1のブラケット部が形成され、
前記周方向梁の端部に第2のブラケット部が形成され、
前記吊り架台は、
前記第1及び第2のブラケット部が位置調整自在に接続されることにより、一本の前記径方向梁と二本の前記周方向梁が三叉状に接続される第1の箇所と、
二つの前記第2のブラケット部が前記径方向梁に接続されることにより、二本の前記周方向梁が一本の前記径方向梁にずれて接続される第2の箇所と、
を有する、ことを特徴とする請求項3又は4記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項9】
前記吊り架台の外周部及び内周部に水平方向に伸縮自在にそれぞれ取り付けられ、前記サプレッションチェンバの外周側及び内周側の内壁面にそれぞれ当接自在な外周側ジャッキ及び内周側ジャッキを有する、ことを特徴とする請求項3又は4記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項10】
前記クランプ機構は、変形可能な第1のクランプと、剛体な第2のクランプと、を含む、ことを特徴とする請求項4記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台装置。
【請求項11】
水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部で使用される吊り架台工法であって、
ワイヤ類を前記サプレッションチェンバの上部に支持して、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を垂下する工程と、
前記ワイヤ類に吊り架台を吊り下げて、該吊り架台を、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在させる工程と、
を含む、ことを特徴とするサプレッションチェンバ内の吊り架台工法。
【請求項12】
水が常時は貯留されると共に複数のベント管が上下方向に延在している、サプレッションチェンバの内部で使用される吊り架台工法であって、
ワイヤ類を前記サプレッションチェンバの上部に支持して、該サプレッションチェンバの内壁面と前記ベント管の周面間の空間を垂下する工程と、
前記ワイヤ類に吊り架台を吊り下げて、該吊り架台を、前記サプレッションチェンバの底面から離間した状態で、前記ベント管の下端と該底面間の空間を水平方向に延在させる工程と、
前記吊り架台を、水平方向に延在して前記複数のベント管を相互に締結するブレーシングにクランプする工程と、
を含む、ことを特徴とするサプレッションチェンバ内の吊り架台工法。
【請求項13】
さらに、吊り下げられた前記吊り架台を基礎として、該吊り架台から上方に向って足場を積み上げさせる工程を含む、ことを特徴とする請求項11又は12記載のサプレッションチェンバ内の吊り架台工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−127391(P2011−127391A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289185(P2009−289185)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名:社団法人 日本電気協会新聞部 刊行物名:電気新聞 該当頁:2009年(平成21年)7月10日第5面 発行日:2009年(平成21年)7月10日 発行所名:福島民報社 刊行物名:福島民報 該当頁:2009年(平成21年)7月10日第8版第27面 発行日:2009年(平成21年)7月10日 発行所名:福島民友新聞社 刊行物名:福島民友 該当頁:第7版第22面 発行日:2009年(平成21年)7月10日 発行所名:株式会社電気情報社 刊行物名:電気現場技術十一月号、Vol.48 No.570 該当頁:第54〜57頁 発行日:2009年(平成21年)11月10日
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000221535)東電工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】