説明

サンゴ群集の移植方法

【課題】台船やタグボート等の大型運搬船や重機を使わず、人力作業により、様々なサンゴ群集を、群集ごと移植可能な方法を実現する。
【解決手段】採取元のサンゴ群体をサンゴ群集ごと採取し、移植用籠Bの底板3に載せた状態で移植先まで運搬し、移植用籠Bの底板3を外して海底に降ろすだけで、採取したサンゴ群集2を移植する移植方法である。移植後は接着剤などを使わず、サンゴ群体同士が支え合う特性とサンゴ群体の融合特性、基盤へ活着する特性、サンゴ群体下部が海底に埋没し安定する特性等を利用して、自然な基盤への固着を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底で棲息しているサンゴ群体をサンゴ群集ごと他の場所に移植する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サンゴ礁は、海水温上昇に伴う白化現象、オニヒトデによる食害、陸地開発等による荒廃が進んでおり、サンゴ礁の保全や再生が必要とされている。そのため、自然再生や保全措置を目的としたサンゴ移植が進められている。現在、サンゴ移植に関しての特許は、サンゴ群体ごとの移植を目的とした特許文献1〜特許文献10と、サンゴ群体を着生する岩盤ごと移植する特許文献11〜特許文献14とに分かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-35543号公報
【特許文献2】特開2010-11822号公報
【特許文献3】特開2007-295908 号公報
【特許文献4】特開2006-158218 号公報
【特許文献5】特開2005-151815 号公報
【特許文献6】特開2003-61506号公報
【特許文献7】特開2003-9713 号公報
【特許文献8】特開2002-45075号公報
【特許文献9】特開2002-84920号公報
【特許文献10】特開平9-121712号公報
【特許文献11】特開2005-124496 号公報
【特許文献12】特開2005-27530号公報
【特許文献13】特開2004-321076 号公報
【特許文献14】特開2003-274794 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1〜10では、サンゴ群体を1群体ずつ移植するため、サンゴ群集を大規模に移植することは時間とコストが必要となり、事実上困難である。また、特許文献11〜14については、岩盤等の基盤ごと移植する手法であるため、重機や大型運搬船(台船、タグボート)が必要となり、コストがかかる他、周辺海域への濁りの拡大、サンゴ礁に多い枝サンゴ群集の移植ができない等、課題がある。そのため、現在のサンゴ移植方法では、基盤に固着しないサンゴ群集も含む多様なサンゴ群集を、群集ごと移植できる方法がない他、重機や大型船を使わず、比較的容易に大規模な移植を行える方法がないのが問題となっている。
本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、重機や大型運搬船(台船、タグボート)を使わず、人力作業により、生息基盤をもたないサンゴ群集も含めた様々なサンゴ群集を、群集ごと移植可能な方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1は、採取元のサンゴ群体をサンゴ群集ごと採取し、移植用籠の底板に載せた状態で移植先まで運搬し、移植用籠の底板を外して、採取したサンゴ群集を移植する移植方法である。
移植後は接着剤などを使わず、サンゴ群体同士が支え合う特性とサンゴ群体の融合特性、基盤へ活着する特性、サンゴ群体下部が海底に埋没し安定する特性等を利用して、自然な基盤への固着を図るものである。
【0006】
請求項2は、前記サンゴ群体が空気と接しないように、前記移植用籠を海中に沈めた状態で移送することを特徴とする請求項1に記載のサンゴ群集の移植方法である。従って、海中に沈むように移植用籠を重くしたり、重しを付けたり、採取したサンゴ群体の重みで移植用籠が海中に沈むように工夫する必要がある。
【0007】
請求項3は、フロートや筏や舟に吊り下げて海中に沈めた状態で移送する、サンゴの移植用籠であって、底板を横に引き抜ける構造となっていることを特徴とするサンゴの移植用籠である。なお底板は、横に引き抜く方法以外の方法で外すことも可能ではある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のように、採取元のサンゴ群体をサンゴ群集ごと採取し、移植用籠の底板に載せた状態で移植先まで小型船もしくは人力によって運搬するので、台船やタグボート等の大型運搬船や重機を使わずに移植でき、生息基盤をもたないサンゴ群集も含めた様々なサンゴ群集を、群集ごと移植可能で、サンゴ群集の構造を崩さないですむ。また、移植用籠の底板を外して、採取したサンゴ群集を一気に移植するので、接着剤などを使わずに容易に移植できる。
【0009】
請求項2によると、前記サンゴ群体が空気と接しないように、前記移植用籠を海中に沈めた状態で移送するので、サンゴ群体が空気と接して弱体化するのを防止できる。
【0010】
請求項3の移植用籠によると、移植用籠をフロートや筏や舟に吊り下げて海中に沈めた状態で移送するので、サンゴ群体が空気と接して弱体化するのを防止できるだけでなく、底板を横に引き抜ける構造となっているので、多数のサンゴ群体を一気に移植できると共に、濁りなどの影響をできるだけ抑え、サンゴ群体へのストレスを軽減できる。しかも、接着剤などを使わずに、サンゴ群体の持つ自然な特性等を利用して活着を促すことで、容易に移植できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】移植用籠を筏に吊り下げて海中に沈めた状態で移送している状態を示す斜視図である。
【図2】底板を引き抜いた状態を示す移植用籠の要部斜視図である。
【図3】採取したサンゴ群体を移植用籠の底板に載せている様子を示す斜視図である。
【図4】移植用籠の底板を引き抜いてサンゴ群体を移植した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明によるサンゴ群集の移植方法が実際上どのように具体化されるか実施形態を詳述する。図1は、サンゴ群集を搬送・移植する移植用籠Bの斜視図であり、網状の容器を形成するフェンス1で、サンゴ群体2が脱落しないように囲っている。また、フェンス1の底部を塞ぐ底板3を有している。この底板3を図2のように水平にスライドできるように、フェンス1の下部に設けた1対のコ字状ガイド溝g1・g2が対向配置され、その中に底板3の両端縁がスライド挿入される。hは、底板3をスライド操作する取っ手である。
この移植用籠Bを筏4にワイヤーやロープ、単管パイプ等5で吊り下げて海中Wに沈めた状態で舟6で移送する。筏4は、例えば複数個のフロートfを組んで成り、舟6で曳航できるように舟6の片方の弦に連結してある。なお、舟6の下部に移植用籠Bを吊り下げれば、舟6が筏代わりになる。
【0013】
この移植用籠Bを用いてサンゴ群集を移植するには、潜水士がノミとハンマー、たがね等を使用して海底のサンゴ群体を採取し、図3のように、潜水士7が小さな籠で移植用籠Bの中まで運び、底板3の上に載置する。
採取したサンゴ群体は、その群集構造を崩さないことが肝要である。サンゴ群集の構造は、サンゴ群体が融合する特性、サンゴ群体同士が支え合う特性、基盤に活着する特性等により維持されている。本発明のサンゴ移植方法は、この自然の特性を利用しており、水中ボンドを使わずに、これらの特性により、サンゴ群集の強度を高めることができる。
【0014】
サンゴ群体2を収容した移植用籠Bは、エアーリフトやブイや舟6や筏4、双胴船等に吊り下げ、海面上に露出しないように海中に沈めた状態で運搬舟6により曳航する。このように移植用籠Bごと移植先に運べるため、サンゴ群集の構造を崩さず、サンゴに負荷をかけずに運搬できる。
海流の速い海域や運搬が長距離になる場合は、移植用籠Bの前部に水切り手段を取付けて運搬すると運搬効率が向上する。
移植先に到着すると、運搬してきたサンゴ群集を、移植用籠Bごと海底に下ろす。その後、図2のように移植用籠Bの底板3を抜いてから、移植用籠Bと底板3を上方に引き上げると、図4のように、サンゴ群集2が移植される。
【0015】
波浪の影響を受けやすい場所や岩礁斜面等の様に場所によっては、移植した枝サンゴ群集に生分解性のネットや金網をかぶせる等の、流出対策によって保護が可能となる。
移植する際に、移植用籠Bを海底に下ろすことができるように、取りはずし可能なロープやワイヤー、単管パイプ等5で固定してあり、連結部はシャックル等の連結具を用いる。ロープやワイヤーを継ぎ足したり、浮力体を用いたりして移植用籠Bを海底に下ろしてもよい。
移植用籠Bは、海流の抵抗を抑え、サンゴ群体へのストレスを軽減するため、海水流動を妨げないフェンス状や網状を採用している。また、海水の流れ等が強い場合は、移植用籠Bの前部に流線型の水切り構造等の補助具を装着するのがよい。複数個まとめて移植用籠Bを移送する場合は、最前端の移植用籠の前端だけに流線型の水切り手段を設けてもよいが、移植用籠B全部に水切り手段を設けてもよい。
なお移植用籠Bは、図のような曳航舟の左又は右の舷あるいは両舷に連結するだけでなく、ロープなどで曳航することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
以上のように、本発明は、サンゴ群集を大規模に移植することに適した方法であるが、人力で採取するため、重機や大型船を使うこれまでの方法と比べて、サンゴへの負荷が少なく、発生する濁りも少ない等、周辺環境への負荷も少ない。従って、自然公園に指定されている海域等に適している。
サンゴ群体同士の支え合う特性と融合特性、基盤への自然な活着を利用した固定方法であり、水中ボンド等の接着剤等によるサンゴ群体の基盤への固定の手間が省ける。このように、サンゴ群集の群集構造を維持したままの形で移築できるため、生態系に配慮した移植が可能である。
これらの効果により、今後のサンゴ礁の保全措置として、様々なサンゴ群集の移植に利用でき、サンゴ礁の保全に寄与できると考える。
【符号の説明】
【0017】
1 フェンス
2 サンゴ群体
3 底板
g1・g2 コ字状ガイド溝
h 取っ手
B 移植用籠
4 筏
5 ワイヤーやロープや単管パイプ等
W 海中
f フロート
6 舟
7 潜水士


【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取元のサンゴ群体をサンゴ群集ごと採取し、移植用籠の底板に載せた状態で移植先まで運搬し、移植用籠の底板を外して、採取したサンゴ群集を移植する移植方法。
【請求項2】
前記サンゴ群体が空気と接しないように、前記移植用籠を海中に沈めた状態で移送することを特徴とする請求項1に記載のサンゴ群集の移植方法。
【請求項3】
フロートや筏や舟に吊り下げて海中に沈めた状態で移送する、サンゴの移植用籠であって、底板を横に引き抜ける構造となっていることを特徴とするサンゴの移植用籠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213349(P2012−213349A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80285(P2011−80285)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591146239)いであ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】