説明

サーボ式人工呼吸器の目標換気量の調節

サーボ式人工呼吸器は、医師によって設定するようになされた前もってプログラムされたスケジュールに従って、一定時間にわたって目標換気量を徐々に変更する。好ましくは、目標換気量は、初期保持時間の間、第1レベルに留まり、その次に、第2レベルに至るまで一定比率で増加するとすぐ、その後は第2レベルに留まる。圧支持レベルが高すぎると、場合によって声門又は上方気道の閉鎖が示されると、目標換気量の上昇比率が下がる、又は最終目標換気量に達しないこともある。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2004年9月3日付けで出願されたオーストラリア仮出願2004/905022の出願の利益を主張する。
【発明の分野】
【0002】
本発明は換気支援の分野に関し、特に、睡眠中肺胞低換気の患者のために適切な人工呼吸器設定値を決定するための、及びその設定値を配信するための方法及び装置に関する。
【発明の背景】
【0003】
非侵襲的換気分野において、例えば米国特許第6532957号明細書に開示されているように、問題は特にサーボ式人工呼吸器を新しく導入した患者に起こる。患者の動脈血CO2分圧(PCO2)は医師が望む値を軽く超える可能性がある。例えば、患者のPCO2が大抵60mmHgであるが、医師はPCO2が45mmHgで安定することを望むだろう。これは患者の肺胞換気量が約60/45=4/3倍増加することを必要とする。それにもかかわらず、医師がサーボ式人工呼吸器の目標換気量を患者の現在の換気量の4/3に設定した場合、換気量が急にこれほど大きく増加すると、全ての呼吸ドライブ及び殆どの上気道を働かせようとする動因が損なわれる恐れがある(上気道障害の問題を起こす)。これにより声門の閉鎖が起こることもあり、人工呼吸器がプログラム化されているため最高レベルの圧支持を配信するにもかかわらず、換気量が目標レベルに増加することが妨げられ、それによって、睡眠から覚醒に至る可能性もある。治療初期の動脈血のpHが比較的に正常である場合、比較的慢性の呼吸アシドーシスのため代謝の補償が示されたとき、換気量が急に大きく増加すると、著しいアルカローシスをもたらすと同時に、低カリウム血症を含む望ましくない電解質シフトが生じ、心不整脈を引き起こす可能性がある。
【0004】
これらの理由によって、目標換気量をある期間、一般的に数日又は数週間にわたって、徐々に増加させることが望ましい。これは、目標換気量の頻繁な手動変更によって達成できるが、この段階では患者が家にいる傾向があるので不便である。
【発明の簡単な説明】
【0005】
本発明によれば、サーボ式人工呼吸器は、医者によって設定された前もってプログラムされたスケジュールに従って、一定時間にわたって目標換気量を徐々に変更するための機能を仕組んでいる。本発明のほとんどの場合では、目標換気量が一定時間にわたって第1レベルから第2レベルまで増加し、その後、第2レベルに留まる。この増加は、任意の時間の増加関数に従って行うことができる。
【0006】
本発明の一形態においては、目標換気量は、t=tになるまで一定の時間第1レベルV(初期目標換気量)に留まり(それはゼロである可能性もある)、その次に、第2レベルV(最終目標換気量)に至るまで一定比率で増加し、その後は第2レベルに留まる。
【0007】
増加の比率Rは、初期目標換気量V、最終目標換気量V、及び目標換気量の圧上昇時間tから、以下の方程式を用いて計算することができる。これらの設定値は、医師によって入力されるものである。
=t−t
R=(V−V)/t
【0008】
様々な制約を加えると、目標換気量の上昇比率が変わり得る。例えば、圧支持レベルが高すぎる場合、場合によって声門又は上方気道の閉鎖が示されると、目標換気量の上昇比率は、下がる又は一時的に均一なゼロになることもある。そのようにして,最終目標換気量に達するまでより長くかかる、また場合によっては最終目標換気量に達しないこともある。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0009】
図1は本発明の一実施形態を示す。X軸は時間を示し、Y軸は人工呼吸器の目標換気量を示す。図2は本発明を実施するのに相応しいサーボ式人工呼吸器5を示す。電気モーター20は、コントローラー回路40の制御を受ける羽根車10を有する。渦形室25に格納されている電気モーター及び羽根車の使用において、これらを使用して圧搾空気を空気送出導管60に沿って適当な患者接続部分50に流すことができる。患者接続部分50は鼻マスク、鼻と口マスク、フルフェースマスク、又は他の適当な手段とすることができる。圧覚チューブ70が患者接続部分50と圧力センサー75との間にあるので、コントローラー40は患者接続部分50の圧力を感知することができる。また、コントローラー40は、流量センサーを通って空気送出導管60に沿って流れる空気の流速を決めることもできる。本装置は表示部90及びキーボード80を含み、それによって、ある人、例えば医師が、本発明の一実施形態に従って、適当な目標換気量及び圧上昇時間を設定することができる。
【0010】
目標換気量設定値は、米国特許第6644312号明細書に記載されているように決めることができる。なお、米国特許第6644312号明細書の開示は参照することによって本明細書に組み込まれる。具体的には、サーボ式人工呼吸器用の適切な初期目標換気設定値は、検査期間中の対象患者が起きている間に作成された測定結果及び観察結果によって決めることができる。又は、目標換気量は、検査期間の一部分にわたって取得された平均換気の一定の割合とすることができる。検査期間中、換気量のサーボ制御は使用不可能な状態であり、本装置は、一定の最小限度の支持を配信するように設定されており、一般的に、患者の気分を楽にさせるように選ばれた6cmH2Oの支持を配信する。この検査時間中、換気量を測定し、酸素濃度計によって酸素飽和水準を測定することもできる。睡眠中に使用するための目標換気量は、換気量測定結果及び場合によっては酸素飽和率測定結果に基づいて選択又は決定される。ここで、対象患者のPCO2は、医師が望むPCO2より高いであろう。対象患者のPCO2値と所望のPCO2値との比に初期目標換気量をかけて得られる値によって、最終目標換気量を決めることができる。
【0011】
本発明を具現化する臨床アルゴリズムを以下に示す。
(i)適当な人工呼吸器を用いて、患者の起きている時の換気量を確認する(例えば、米国特許第6644312号明細書に従う)。
(ii)初期目標換気量を、上記換気量のある割合に設定する。
(iii)最終目標換気量を、所望のPCO2と現在のPCO2との比に初期目標換気量をかけて得られる値に設定する。
(iv)目標換気量の圧上昇時間を、PCO2を下げることの臨床上の緊急性に応じて、或いはPCO2の低下に好ましい量に応じて、ある適当な値に設定する(他の全ての条件が同じであれば、PCO2の低下が大きいほど時間がかかる可能性がある)。
【0012】
同様の原理を従来の2段階換気に適用することができる。初期保持時間後、圧支持レベルを最終圧支持レベルに至るまで一定の比率で増加させるよう、圧支持レベルをプログラム化することができる。
【0013】
従って、本発明によれば、以下のステップを含む患者の非侵襲性換気方法を提供する。
(i)第1持続時間の間、換気量の第1レベルで、患者に換気させるステップ、及び
(ii)第1持続時間が満了した時点で、換気量のレベルを第1レベルから第2レベルに、第2持続時間にわたって、変更するステップ。
【0014】
本発明の一形態では、第2持続時間を数週間にしてもよい。好ましい形態では、換気量レベルの変更は換気量レベルの増加を意味する。好ましい一形態では、換気量レベルの変更が自動的に制御される。
【0015】
特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、当然のことながらこれらの実施形態は本発明の原理の応用を例示しただけである。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多数の変更がされ、又は他の処理が考え出されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施形態を示す。
【図2】図2は本発明を実施するのに相応しいサーボ式人工呼吸器5を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠中肺胞低換気の患者のために適切な人工呼吸器設定値を決定するための、及びその設定値を配信するための方法であって、
起きている患者の検査期間の少なくとも後期に、患者の換気量を測定するステップと、
換気量の前記測定値から目標換気量を決めるステップと、
人工呼吸器のコントローラーにより実行されるプログラムされたスケジュールに従って、前記目標換気量を一定時間にわたって徐々に変更するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記目標換気量を一定時間にわたって変更する前記ステップは、前記換気量を第1レベルから第2レベルまで増加させ、その後、第2レベルに留める、請求項1に記載の適切な人工呼吸器の設定値を決定するための方法。
【請求項3】
前記目標換気量は、所定の初期保持時間の間、第1レベルに保持され、その次に、第2レベルに至るまで一定比率で増加させ、その後は第2レベルに保持される、請求項2に記載の適切な人工呼吸器の設定値を決定するための方法。
【請求項4】
圧支持レベルが高すぎ、最終目標換気量に至るまでの時間を延ばす場合、初期目標換気量の上昇比率を下げる、請求項1に記載の適切な人工呼吸器の設定値を決定するための方法。
【請求項5】
患者への非侵襲性換気方法であって、
数回の呼吸周期を上回る第1持続時間の間、第1レベルの換気量で患者に換気させるステップ、及び、
前記第1持続時間が満了した時点で、前記換気量のレベルを前記第1レベルから第2レベルに、第2持続時間にわたって、変更するステップ、
を含む、非侵襲性換気方法。
【請求項6】
前記第2持続時間は数週間である、請求項5に記載の非侵襲性換気方法。
【請求項7】
換気量レベルの前記変更は増加である、請求項5に記載の非侵襲性換気方法。
【請求項8】
換気量レベルの前記変更は自動的に制御される、請求項5に記載の非侵襲性換気方法。
【請求項9】
睡眠中肺胞低換気の患者のために適切な人工呼吸器設定値を決定するための、及びその設定を配信するための方法であって、
人工呼吸器を用いて、患者の起きている時の換気量を確認するステップと、
初期目標換気量を、前記起きている時の換気量のある割合に設定するステップと、
最終目標換気量を、所望のPCO2値と現在のPCO2値との比に前記初期目標換気量をかけて得られる値に設定するステップと、
目標換気量圧上昇時間を、PCO2を下げることの臨床上の緊急性に応じて、或いはPCO2の低下に好ましい量に応じて、ある値に設定するステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
圧搾空気を空気送出導管に沿って患者接続部分に流す、コントローラー回路の制御を受ける羽根車を有する電気モーターと、
前記患者接続部分と圧力センサーとの間にあり、前記コントローラーに前記患者接続部分の圧力を感知させる圧覚チューブと、
流量センサーを通って前記空気送出導管に沿って流れる空気の流速を決めるコントローラーと、
適当な目標換気量及び圧上昇時間を設定する手段と、
を含むサーボ式人工呼吸器であり、
前記コントローラーは、数回の呼吸周期を上回る第1持続時間の間、患者の換気量を換気量の第1レベルに規定し、
前記第1持続時間が満了した時点で、前記換気量のレベルを前記第1レベルから第2レベルに、第2持続時間にわたって変更する、
サーボ式人工呼吸器。
【請求項11】
圧支持レベルと、
初期保持時間後、前記圧支持レベルを最終圧支持レベルに至るまで特定の比率で増加させるようにプログラム化されたコントローラーと、
を有する、2段階人工呼吸器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−511372(P2008−511372A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529304(P2007−529304)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001336
【国際公開番号】WO2006/024107
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(500046450)レスメド リミテッド (192)