説明

サーマルヘッドおよびこれを備えるサーマルプリンタ

【課題】 記録媒体を良好に摺接させることが可能なサーマルヘッドおよびこれを備えるサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】 本発明に係るサーマルヘッド10は、主走査方向D1,D2に沿って延びている端面20aを有するヘッド基板20と、該ヘッド基板20の端面20a上に主走査方向D1,D2に沿って配列されている複数の発熱部40aとを備えており、ヘッド基板20は、主走査方向D1,D2における端面20aの両端に面取り面20aを有しており、該面取り面20aと端面20aとの交差角度θが6°以上19°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と、該基板の端面に配列されている発熱素子とを含んでなるサーマルヘッドおよびこれを備えるサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
熱記録方式を採用する印刷装置としては、例えばプラスチックカード用のサーマルプリンタがある。このサーマルプリンタでは、ヘッド基板、ヘッド基板上に配列された複数の発熱素子、および該複数の発熱素子を覆う保護層を有するサーマルヘッドと、この発熱素子に向けて記録媒体となるプラスチックカード、およびインク成分を含有するインクフィルムを重ねた状態で発熱素子上の保護層に押し当てながら搬送する搬送機構とを有している。このような構成のサーマルプリンタでは、サーマルヘッドの発熱素子上の保護層にプラスチックカードおよびインクフィルムを略均一に押圧しながら搬送して、発熱素子の熱により溶融、または昇華したインクフィルムのインク成分をプラスチックカードに対して転写することによって、所望の画像を印刷している。
【0003】
しかしながら、上述のサーマルプリンタでは、インクフィルムのインク成分をプラスチックカードに転写する際に、サーマルヘッドを構成するヘッド基板の角部にインクフィルムが押しつけられて、リンクフィルムにシワが生じてしまい、このインクフィルムのシワ模様が画像として印刷されてしまう場合があった。そこで、ヘッド基板の角部に面取り部を設けて、当該面取り面の主走査方向における中央に記録媒体を最も強く押しつけてシワの低減を図るサーマルヘッドが開発され、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−7826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヘッド基板の端面に発熱素子が設けられている端面型のサーマルヘッドを採用するサーマルプリンタでは、記録媒体と摺接する端面に発熱素子が設けられている。そのため、このようなサーマルプリンタでは、当該端面の中央に記録媒体を最も強く押しつけようとすると、記録媒体の押圧力にバラツキが生じてしまい、この押圧力のバラツキに起因する濃度ムラが生じてしまう場合がある。
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、記録媒体を良好に摺接させることが可能なサーマルヘッドおよびこれを備えるサーマルプリンタを提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のサーマルヘッドは、主走査方向に沿って延びている端面を有する基板と、該基板の前記端面上に前記主走査方向に沿って配列されている複数の発熱素子とを備えており、前記基板は、前記端面の前記主走査方向における両端に面取りされた面を有しており、該面取りされた面と前記端面との交差角度が6°以上19°以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明のサーマルヘッドにおいて、前記面取りされた面と前記端面との交差角度が6°以上15°以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のサーマルは、前記基板の前記端面と前記複数の発熱素子との間に設けられている蓄熱層、および前記複数の発熱素子と前記蓄熱層の一部とを覆っている被覆層を備えており、前記蓄熱層は、前記面取りされた面に隣接している、前記被覆層から露出している部位を有しており、当該露出している部位の表面粗さが前記被覆層の表面粗さに比べて小さいことが好ましい。また、このサーマルヘッドにおいて、前記被覆層から露出している部位は、前記主走査方向において前記端面から外方へ向かうにつれて前記副走査方向における幅が広くなっており、かつ前記複数の発熱素子の列に隣接する前記主走査方向の長さが最も長くなっていることが好ましい。
【0010】
本発明のサーマルプリンタは、本発明のサーマルヘッドと、該サーマルヘッドの前記端面および前記面取りされた面側に記録媒体を押圧するとともに、当該記録媒体を副走査方向に搬送する搬送機構とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のサーマルヘッドは、主走査方向に沿って延びている端面を有する基板と、該基板の端面上に主走査方向に沿って配列されている複数の発熱素子とを備えており、基板は、主走査方向における端面の両端に面取りされた面を有しており、該面取りされた面と端面との交差角度が6°以上19°以下である。そのため、本発明のサーマルでは、面取りされた面と端面との境界部に記録媒体を押しつけた場合でも、当該記録媒体に加わる押圧力を分散することができる。したがって、本発明のサーマルヘッドでは、記録媒体を良好に摺接させることができる。
【0012】
本発明のサーマルヘッドにおいて、面取りされた面と端面との交差角度が6°以上15°以下である場合、面取りされた面と端面との境界部に記録媒体を押しつけた場合でも、当該記録媒体に加わる押圧力を良好に分散することができ、記録媒体をより良好に摺接させることができる。
【0013】
本発明のサーマルヘッドは、基板の端面と複数の発熱素子との間に設けられている蓄熱層、および複数の発熱素子と蓄熱層の一部とを覆っている被覆層を備えており、蓄熱層は、面取りされた面に隣接している、被覆層から露出している部位を有しており、当該露出している部位の表面粗さが被覆層の表面粗さに比べて小さい場合、面取りされた面の設けられている両端部に比べて発熱素子の配列されている中央部において記録媒体に加わる動摩擦力を相対的に大きくすることができる。そのため、このサーマルヘッドでは、記録媒体に加わる動摩擦力が作用する領域を中央部に集中することにより、例えば動摩擦力が作用する領域が両端部で動摩擦力が異なることによる記録媒体の搬送バラツキを低減することができる。したがって、このサーマルヘッドでは、記録媒体を良好に搬送することができる。
【0014】
また、このサーマルヘッドにおいて、前記被覆層から露出している部位は、主走査方向において端面から外方へ向かうにつれて副走査方向における幅が広くなっており、かつ複数の発熱素子の列に隣接する主走査方向の長さが最も長くなっている場合、面取りされた面と端面との境界部に記録媒体を押しつけた場合に、最も押圧力が大きくなる複数の発熱素子の列に隣接する領域において、記録媒体を良好に摺接させることができる。
【0015】
本発明のサーマルプリンタは、本発明のサーマルヘッドを備えている。そのため、本発明のサーマルプリンタでは、本発明のサーマルヘッドの有する効果を享受することができる。したがって、本発明のサーマルプリンタでは、記録媒体を良好に摺接させることができ、記録媒体を良好に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のサーマルヘッドの実施形態の一例であり、保護層を省略した概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示したサーマルヘッドの要部を拡大した正面図である。
【図3】図1に示したサーマルヘッドの要部を拡大した平面図である。
【図4】図1に示したサーマルヘッドの要部を拡大した側面図である。
【図5】図2に示したV−V線に沿った断面図である。
【図6】本発明のサーマルプリンタの実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図7】図3に示したサーマルヘッドの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<サーマルヘッド>
図1〜図5に示した本発明のサーマルヘッドの実施形態の一例であるサーマルヘッド10は、ヘッド基板20と、蓄熱層30と、電気抵抗層40と、導電層50と、保護層60と、駆動IC70とを含んで構成されている。
【0018】
ヘッド基板20は、蓄熱層30と、電気抵抗層40と、導電層50と、保護層60と、駆動IC70とを支持する機能を有するものである。このヘッド基板20を形成する材料としては、例えばセラミックス、ガラス、またはエポキシ系樹脂を含む絶縁樹脂が挙げられる。
【0019】
このヘッド基板20は、主面延在方向D5,D6のD5方向側に、主走査方向D1,D2に延びている端面20aを有している。このヘッド基板20の端面20aは、平面視において、副走査方向D3,D4における長さに比べて主走査方向D1,D2における長さが長い矩形状に構成されている。ここで、「平面視」とは、主面延在方向D5,D6におけるD6方向視のことをいう。このヘッド基板20の端面20aの主走査方向D1,D2における長さは、印画する記録媒体の大きさに応じて適宜設定される。また、このヘッド基板20の端面20aの副走査方向D3,D4における長さとしては、例えば1.5mm以上3.5mm以下の範囲が挙げられる。
【0020】
蓄熱層30は、電気抵抗層40の後述する発熱部40aにおいて発生する熱の一部を一時的に蓄積する機能を有するものである。すなわち、蓄熱層30は、発熱部40aの温度を上昇させるのに要する時間を短くして、サーマルヘッド10の熱応答特性を高める役割を担うものである。この蓄熱層30は、ヘッド基板20の端面20a上に位置しており、主走査方向D1,D2に延びる帯状に構成されている。また、この蓄熱層30は、副走査方向D3,D4に沿った断面において、主面延在方向D5,D6におけるD5方向側の上面30aが略半楕円状に構成されている。この蓄熱層30の上面30aの曲率としては、発熱部40aの設けられている部位で例えばR1.15以上R1.50以下の範囲が挙げられる。また、この蓄熱層30の主面延在方向D5,D6に沿った厚みとしては、最も厚い部位で例えば55μm以上95μm以下の範囲が挙げられる。
【0021】
電気抵抗層40は、電力供給によって発熱する発熱素子として機能する発熱部40aを有している。この電気抵抗層40は、単位長さ当たりの電気抵抗値が導電層50の単位長さ当たりの電気抵抗値に比べて大きくなるように構成されている。この電気抵抗層40を形成する材料としては、例えばTaN系材料、TaSiO系材料、TaSiNO系材料、TiSiCO系材料、またはNbSiO系材料が挙げられる。ここで「〜を主とする材料」とは、主とする材料が全体に対して50質量%以上であるものをいい、例えば添加物を含んでいてもよい。このような電気抵抗層40は、例えば蒸着法、CVD法、スパッタ法、フォトリソグラフィ技術、または印刷技術を用いる種々の周知の製造方法によって形成できる。本例の電気抵抗層40は、TaSiO系材料によって形成されている。この電気抵抗層40の主面延在方向D5,D6に沿った厚みとしては、例えば20nm以上80nm以下の範囲が挙げられる。この電気抵抗層40は、一部が蓄熱層30上に設けられ、他がヘッド基板20の主面の上に設けられている。また、本例の電気抵抗層40では、蓄熱層30上に設けられている部位のうち、導電層50が上に形成されていない部位が発熱部40aとして機能している。
【0022】
発熱部40aは、電力供給によって発熱する発熱素子として機能する部位である。この発熱部40aは、導電層50からの電力供給による発熱温度が例えば200℃以上550℃以下の範囲となるように構成されている。この発熱部40aは、蓄熱層30に位置しており、主走査方向D1,D2に沿って略同一の離間距離で配列されている。また、この発熱部40aは、平面視において、各々が矩形状に構成されている。さらに、発熱部40aは、各々の主走査方向D1,D2に沿う長さが略同一の長さに構成されている。また、発熱部40aは、各々の副走査方向D3,D4に沿う長さも略同一の長さに構成されている。ここで、「略同一」とは、一般的な製造誤差範囲内のものが含まれ、例えば各部位の長さの平均値に対する誤差が10%以内の範囲が挙げられる。ここで、一つの発熱部40aの中心と該発熱部40aに隣接する他の発熱部40aの中心との離間距離の値としては、例えば5.2μm以上84.7μm以下の範囲が挙げられる。
【0023】
導電層50は、配線パターンとして電気抵抗層40上に設けられている、発熱部40aに対して電圧を印加する機能を有するものである。この導電層50は、一部が蓄熱層30上に設けられている電気抵抗層40の一部の上に設けられており、他がヘッド基板20の主面の上に設けられている。この導電層50の主面延在方向D5,D6に沿った厚みとしては、例えば500nm以上800nm以下の範囲が挙げられる。導電層50を形成する材料としては、例えばアルミニウム、金、銀、銅のいずれか一種の金属、またはこれらの合金が挙げられる。このような導電層50は、例えば蒸着法、CVD法、スパッタ法、フォトリソグラフィ技術、または印刷技術を用いる種々の周知の製造方法によって形成できる。また、この導電層50は、第1導電層51と、第2導電層52とを含んで構成されている。
【0024】
第1導電層51は、主面延在方向D5,D6におけるD6方向側に位置する電気抵抗層40と併せて制御配線として機能している。この第1導電層51は、発熱部40aへの電力を供給するのに寄与している。この第1導電層51は、各々の一端部が個々の発熱部40aに電気的に独立に接続されており、各々の他端部が制御IC70に電気的に接続されている。
【0025】
第2導電層52は、端部が複数の発熱部40aの他端部に電気的に接続されている。この第2導電層52は、第1導電層51と対となって発熱部40aに対して電力を供給するのに寄与するものである。本例の第2導電層52は、電源としての基準電圧源に電気的に接続されている。
【0026】
保護層60は、発熱部40aと、導電層50とを保護する機能を有するものである。この保護層60は、主走査方向D1,D2に沿って発熱部40aと、導電層50の一部とを覆うように形成されている。保護層60を形成する材料としては、例えばダイヤモンドライクカーボン系材料、SiC系材料、SiN系材料、SiCN系材料、SiAlON系材料、SiO系材料、またはTaO系材料が挙げられる。ここで「ダイヤモンドライクカーボン系材料」とは、sp混成軌道をとる炭素原子(C原子)の割合が1原子%以上100原子%未満の範囲であるものをいう。この保護層60の厚みとしては、例えば5μm以上12μm以下の範囲が挙げられる。この保護層60の上面60aの曲率としては、発熱部40aを覆っている部位で例えばR1.15以上R1.50以下の範囲が挙げられる。
【0027】
本例のヘッド基板20は、端面20aの主走査方向D1,D2における両端部が面取りされており、面取り面20aを有している。また、本例の蓄熱層30は、主走査方向D1,D2における両端部が面取りされており、面取り面30aを有している。さらに、本例の保護層60は、主走査方向D1,D2における両端部が面取りされており、面取り面60aを有している。これらのヘッド基板20の面取り面20aと、蓄熱層30の面取り面30aと、保護層60の面取り面60aとは、同一の面取り面10aを構成している。この面取り面10aは、平面として設けられている。このような面取り面10aは、例えば蓄熱層30および保護層60を端面20a上に有するヘッド基板20に面取り加工をすることで形成することができる。このような面取り加工は、例えば機械研磨、化学研磨などによって、処理することができる。つまり、本例のヘッド基板20の面取り面20aと、蓄熱層30の面取り面30aとは、保護層60から露出している。
【0028】
また、これらのヘッド基板20の面取り面20aと、蓄熱層30の面取り面30aと、保護層60の面取り面60aとは、同一の面取り面10aを構成し、面取り面10aとヘッド基板20の端面20aとの交差角度θが6°以上19°以下になるように設定されている。ここで、「交差角度」とは、ヘッド基板20を副走査方向D3,D4におけるD3方向視したとき、当該ヘッド基板20の端面20aの厚み方向D5,D6におけるD5方向側の端を延在した仮想線と、面取り面20aとの交わる角度をいう。つまり、主走査方向D1,D2と面取り面20aとが交わる角度をいう。
【0029】
さらに、この蓄熱層30の面取り面30aは、複数の発熱部40aの列と並んでいる領域において主走査方向D1,D2における幅Wが最も広く、当該幅Wが副走査方向D3,D4において複数の発熱部40aの列から離れるにつれて狭くなっている。つまり、この蓄熱層30の面取り面30aは、主面延在方向D5,D6におけるD5方向側に突出している領域で多く露出している。また、この蓄熱層30の面取り面30aは、主走査方向D1,D2において端面20aから両端側へ向かうにつれて副走査方向D3,D4における幅Lが広くなっている。
【0030】
さらにまた、この蓄熱層30の面取り面30aは、表面粗さが保護層60の上面60aの表面粗さに比べて小さくなるように設けられている。このような面取り面30aは、当該面取り面30aを研磨によって形成することで設けることができる。
【0031】
駆動IC70は、複数の発熱部40aの電力供給状態を制御する機能を有するものである。この駆動IC70は、第1導電層51の他端部に対して電気的に接続されている。このような構成とすることにより、発熱部40aを選択的に発熱させることができる。
【0032】
サーマルヘッド10は、主走査方向D1,D2に沿って延びている端面20aを有するヘッド基板20と、該ヘッド基板20の端面20a上に主走査方向D1,D2に沿って配列されている複数の発熱部40aとを備えており、ヘッド基板20は、主走査方向D1,D2における端面20aの両端に面取り面20aを有しており、該面取り面20aと端面20aとの交差角度θが6°以上19°以下である。そのため、サーマルヘッド10では、面取り面20aと端面20aとの境界部に記録媒体を押しつけた場合でも、当該記録媒体に加わる押圧力を分散することができる。したがって、サーマルヘッド10では、記録媒体を良好に摺接させることができる。
【0033】
サーマルヘッド10は、ヘッド基板20の端面20aと複数の発熱部40aとの間に設けられている蓄熱層30、および複数の発熱部40aと蓄熱層30の一部とを覆っている被覆層としての保護層60を備えており、蓄熱層30は、面取り面20aに隣接している、保護層60から露出している部位を有しており、当該露出している部位である面取り面30aの表面粗さが保護層60の上面60aの表面粗さに比べて小さいので、面取り面20aの設けられている両端部に比べて発熱部40aの配列されている中央部において記録媒体に加わる動摩擦力を相対的に大きくすることができる。そのため、サーマルヘッド10では、記録媒体に加わる動摩擦力が作用する領域を中央部に集中とすることにより、例えば動摩擦力が作用する領域が両端部で動摩擦力が異なることによる記録媒体の搬送バラツキを低減することができる。したがって、サーマルヘッド10では、記録媒体を良好に搬送することができる。
【0034】
サーマルヘッド10において、蓄熱層30の保護層60から露出している部位は、主走査方向D1,D2において端面20aから両端側へ向かうにつれて副走査方向D3,D4における幅Lが広くなっており、かつ複数の発熱素子40aの列に隣接する主走査方向D1,D2の長さWが最も長くなっているので、面取り面20aと端面20aとの境界部に記録媒体を押しつけた場合に、最も押圧力が大きくなる複数の発熱部40aの列と並んでいる領域において、記録媒体を良好に摺接させることができる。
<サーマルプリンタ>
図6に示した本発明のサーマルプリンタの実施形態の一例であるサーマルプリンタ1は、サーマルヘッド10と、搬送機構11と、制御機構12とを有している。
【0035】
搬送機構11は、記録媒体として記録紙PとインクフィルムFとを副走査方向D3,D4におけるD3方向に搬送しつつ、該記録紙Pをサーマルヘッド10の発熱部40a上に位置する保護層60にインクフィルムFを介して接触させる機能を有するものである。この搬送機構11は、プラテンローラ111と、搬送ローラ112,113,114,115とを含んで構成されている。
【0036】
プラテンローラ111は、発熱部40a上に位置する保護層60に記録媒体を押し付ける機能を有するものである。このプラテンローラ111は、発熱部40a上に位置する保護層60に接触した状態で回転可能に支持されている。また、このプラテンローラ111は、面取り面10aにも接触した状態で回転可能に支持されている。本例のプラテンローラ111は、円柱状の基体の外表面を弾性部材により被覆した構成を有している。この基体は、例えばステンレスなどの金属により形成されており、この弾性部材は、例えば厚みの寸法が3mm以上15mm以下の範囲のブタジエンゴムにより形成されている。つまり、本実施形態のサーマルプリンタ1では、プラテンローラを構成する弾性部材の弾性的な圧力によって、記録媒体をサーマルヘッド10に摺接させている。このとき、記録媒体は、サーマルヘッド10の保護層60の上面60aと、面取り面10aとに摺接することとなる。
【0037】
搬送ローラ112,113,114,115は、記録媒体を搬送する機能を有するものである。すなわち、搬送ローラ112,113,114,115は、サーマルヘッド10の発熱部40aとプラテンローラ111との間に記録媒体を供給するとともに、サーマルヘッド10の発熱部40aとプラテンローラ111との間から記録媒体を引き抜く役割を担うものである。これらの搬送ローラ112,113,114,115は、例えば金属製の円柱状部材により形成してもよいし、例えばプラテンローラ111と同様に円柱状の基体の外表面を弾性部材により被覆した構成であってもよい。
【0038】
制御機構12は、駆動IC70に画像情報を供給する機能を有するものである。つまり、制御機構12は、発熱部40aを選択的に駆動する画像情報を駆動IC70に供給する役割を担うものである。
【0039】
サーマルプリンタ1は、サーマルヘッド10を備えている。そのため、サーマルプリンタ1では、サーマルヘッド10の有する効果を享受することができる。したがって、サーマルプリンタ1では、インクフィルムFとサーマルヘッド10とを良好に摺接させて搬送することができる。
【0040】
以上、本発明の具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0041】
本例の発熱部40aは、各々が独立した第1導電層51に接続されているが、このような構成に限るものではない。例えば異なる発熱部40aと発熱部40aとが一つの独立した第1導電層51に接続されていても良い。
【0042】
本例の面取り面10aは、保護層60からヘッド基板20の面取り面20aと、蓄熱層30の面取り面30aとが露出しているがこのような構成に限るものではない。例えば、図7に示したように保護層60Aが、ヘッド基板20の面取り面20aおよび蓄熱層30の面取り面30aを覆っており、当該保護層60Aがサーマルヘッド10Aの面取り面10Aaを構成していてもよい。
【実施例】
【0043】
ここで、本発明のサーマルヘッドの効果を実験により確認した。
【0044】
まず、面取り面を設けていないサーマルヘッドAと、面取り面を設けているサーマルヘッドB〜Iを用意した。これらのサーマルヘッドB〜Iは、ヘッド基板の端面と面取り面との交差角度θのみが異なっている。なお、サーマルヘッドB〜Iの各々における交差角度θは、Bが4度であり、Cが6度であり、Dが10度であり、Eが12度であり、Fが15度であり、Gが19度であり、Hが27度であり、Iが47度である。
【0045】
−サーマルヘッドA〜Iの概略構造−
・ヘッド基板の形成材料:アルミナセラミックス
・ヘッド基板の主走査方向における長さ:65.05 mm
・ヘッド基板の副走査方向における長さ(厚み):2 mm
・ヘッド基板の端面の曲率:R1.35±0.15
・蓄熱層の形成材料:SiO系材料
・蓄熱層の厚み:75±15 μm
・蓄熱層の端面の曲率:R1.30±0.15
・保護層の形成材料:SiC系材料
・保護層の厚み:6μm
・保護層の曲率:R1.30±0.15
次に、サーマルヘッドA〜IのそれぞれをサーマルプリンタA(京セラ株式会社製、実験機)に搭載し、記録媒体としてインクフィルム(サトー社製ラベルプリンタSR424の標準採用のインクフィルム)を各サーマルヘッドに摺接させながら搬送する、記録媒体の搬送実験を行った。
【0046】
−サーマルプリンタA−
・プラテンローラの直径寸法:19 mm
・プラテンローラの弾性部分の厚み:4 mm
・プラテンローラの主走査方向における長さ:66 mm
・プラテンローラの硬度:65°
・プラテンローラの押しつけ圧:一本当たり0.5×10 Pa
−搬送条件−
・記録媒体の搬送速度:100 mm/s
この搬送実験の実験結果を表1に示す。この表1では、インクフィルムにシワが生じなかったものを「◎」として、インクフィルムにシワが生じたものの、実用的には問題の無い程度であったものを「○」として、印画像にインクフィルムにシワが生じたものを「△」として評価している。
【0047】
【表1】

【0048】
以上の結果から、ヘッド基板の端面と面取り面との交差角度θを6度以上19度以下としたサーマルヘッドC〜Gを採用することで記録媒体を実用上良好に摺接することができることが分かった。
【0049】
また、以上の結果から、ヘッド基板の端面と面取り面との交差角度θを6度以上15度以下としたサーマルヘッドC〜Fを採用することで記録媒体をより良好に摺接することができることが分かった。
【符号の説明】
【0050】
1 サーマルプリンタ
10 サーマルヘッド
10a 面取り面
11 搬送機構
111 プラテンローラ
112,113,114,115 搬送ローラ
12 駆動機構
20 ヘッド基板(基板)
20a 端面
20a 面取り面
30 蓄熱層
30a 上面
30a 面取り面
40 電気抵抗層
40a 発熱部(発熱素子)
50 導電層
51 第1導電層
52 第2導電層
60 保護層
60a 上面
60a 面取り面
70 制御IC
θ ヘッド基板の端面と面取り面との交差角度
F インクフィルム
P 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に沿って延びている端面を有する基板と、該基板の前記端面上に前記主走査方向に沿って配列されている複数の発熱素子とを備えており、
前記基板は、前記端面の前記主走査方向における両端に面取りされた面を有しており、
該面取りされた面と前記端面との交差角度が6°以上19°以下であることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】
前記面取りされた面と前記端面との交差角度が6°以上15°以下であることを特徴とする請求項1に記載のサーマルヘッド。
【請求項3】
前記基板の前記端面と前記複数の発熱素子との間に設けられている蓄熱層、および前記複数の発熱素子と前記蓄熱層の一部とを覆っている被覆層を備えており、
前記蓄熱層は、前記面取りされた面に隣接している、前記被覆層から露出している部位を有しており、当該露出している部位の表面粗さが前記被覆層の表面粗さに比べて小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッド。
【請求項4】
前記被覆層から露出している部位は、前記主走査方向において前記端面から外方へ向かうにつれて前記副走査方向における幅が広くなっており、かつ前記複数の発熱素子の列に隣接する前記主走査方向の長さが最も長くなっていることを特徴とする請求項3に記載のサーマルヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のサーマルヘッドと、該サーマルヘッドの前記端面側および前記面取りされた面側に記録媒体を押圧するとともに、当該記録媒体を副走査方向に搬送する搬送機構とを備えていることを特徴とするサーマルプリンタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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