説明

サーマルヘッドおよびプリンタ

【課題】印字カス付着による印字濃度低下を回避するサーマルヘッドを提供する。
【解決手段】一方の側から他方の側に移動する感熱紙Sに印字するサーマルヘッド39は、セラミック基板43の一部の領域上に形成され、流入する熱を蓄熱するグレーズ層150と、グレーズ層150上の中心よりも前記一方の側に偏移して配置され、押圧されて接する感熱紙Sを選択的に加熱して、前記感熱紙に含まれる発色剤を溶融する発熱抵抗体140とを備え、前記発熱抵抗体140よりも前記他方の側のグレーズ層150上には、前記発熱抵抗体140により加熱された感熱紙Sが滑動する平滑面Pが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギーによって反応する感熱紙を選択的に加熱することで印字するサーマルヘッドおよびプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタの1つとしてサーマルプリンタが知られている。サーマルプリンタは、通電により選択的に発熱する微小発熱体がセラミック基板上に直線的に配置されたサーマルヘッドを備える。このサーマルヘッドが感熱紙の発色層に含まれる発色剤を選択的に溶融することにより、感熱紙上に印字する感熱発色方式が用いられている。この感熱発色方式により印字するサーマルヘッドでは、下記特許文献1に示すように、蓄熱層として機能するグレーズ層が微小発熱体の下部に設けられている。グレーズ層には、セラミック基板の略全面に渡りグレーズ層が成膜されるフラットグレーズタイプと、微小発熱体の周辺部に限定して成膜される部分グレーズタイプの2つがある。近年では、微小発熱体を高速に応答させて高速印字させた場合に、高速放熱性に優れるため、微小発熱体の残留熱により生じる尾引き現象を回避できる部分グレーズタイプが広く採用されている。
また、感熱紙は、繊維質の基紙上にアンダーコート層が積層され、このアンダーコート層上に発色層が更に積層されて構成される。アンダーコート層は、感熱紙の平滑度を向上させる機能に加え、溶融された発色剤を冷却して定着させる機能を有している。
【0003】
【特許文献1】特開平7−137317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年では、安価な感熱紙として、アンダーコート層を具備しないような感熱紙が多用され、溶融された発色剤が冷却されて定着する前に分離され、発色剤溶融物等の印字カスが、例えば、グレーズ層上の微小発熱体に隣接する段差領域に付着して堆積することが知られている。このような印字カスは、図8に示すように、付着量が増大するに従い、印字濃度を示すOD(Optical Density)値が低下して、印字が薄くなるため、印字品質が低下するという問題があった。また、上記のようなプリンタは、コンパクトなものが望まれ、できるだけコストを抑えなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、本発明のプリンタは、感熱紙に対して印字するサーマルヘッドと、前記サーマルヘッドと前記感熱紙を介して対向するように配置され、前記感熱紙を搬送するローラとを備えたプリンタであって、前記サーマルヘッドは、基板と、前記基板の一部に形成され、流入する熱を蓄熱する蓄熱層と、前記蓄熱層上に形成された、前記感熱紙に含まれる発色剤を溶融する発熱体とを備え、前記発熱体は、前記蓄熱層上の中心よりも感熱紙搬送方向上流側に配置されていることを特徴とする。
この発明によれば、発熱体は、蓄熱層の中心より感熱紙搬送方向上流側に配置されているため、発熱体により加熱された感熱紙は、蓄熱層上に当接しながら徐々に冷却されるため、感熱紙に含まれる発色剤が溶融状態から冷却される過程で発生する印字カスは、徐々に生成される共に印字カスは一箇所に付着して堆積しないことから、印字カスによる印字品質の低下を回避できる。また蓄熱層自体の大きさは変更していないため、従来のプリンタのサイズを維持しつつ、コストを抑えることが可能である。
【0006】
また、前記発熱体に対して感圧紙搬送方向下流側の前記蓄熱層上には、前記感熱紙と当接する前記基板と平行な面が形成されていることを特徴とする。これにより、感熱紙からより滑らかに離脱できるため、印字カスは一箇所に付着して堆積せず、印字カスによる印字品質の低下を回避できる。
また、前記蓄熱層の幅は、1.5mm以上であることを特徴とする。この値の範囲内で構成することにより、適度な蓄熱効果と印字カスの付着量が低減し、品質が劣化することなく印字が可能である。
また、前記蓄熱層の厚さは、一定であることを特徴とする。これにより、発熱体により加熱された感熱紙の発色層面は、蓄熱層上に確実に当接しながら徐々に冷却されるため、高速印字が可能で、印字品質が維持される印字装置を実現できる。
また、前記発熱体は、前記感熱紙の搬送方向に交差する方向に配列されていることを特徴とする。これにより高速印字が可能で、印字品質が維持される印字装置を実現できる。
また、前記ローラは、前記ローラの軸中心を通る前記サーマルヘッドの基板に対する垂線が前記サーマルヘッドと交差する位置が、前記発熱体が形成されている位置よりも、前記感熱紙搬送方向下流側に位置するように配置されることを特徴とする。これにより、印字カスの除去効果が向上し、印字カスによる印字品質低下を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0008】
(実施形態)
図1は、本発明に係るサーマルヘッドを適用したプリンタ1の外観構成を示す斜視図である。このプリンタ1は、サーマルプリンタであり、POSシステム等に用いられるレシートプリンタ等に適用される。このプリンタ1は、ロール状の感熱紙S(図4)を使用し、この感熱紙Sに情報を印字するプリンタ機構部8(図2)、印字された感熱紙Sを切断するための紙カット部及び感熱紙Sを収納保持するためのロール紙収納部等で構成される。
【0009】
プリンタ機構部8(図2)は、樹脂からなる下ケース4に固定され、側面部及び後方部は、上ケース3に覆われており、その前方部分は、パネル2により覆われている。また、パネル2の上部には、紙カット部が配置されている。この紙カット部は、カッタカバー6で覆われており、このカッタカバー6は、矢印A方向にスライドさせて引き出すことができる。
【0010】
また、上ケース3の一方の側には、感熱紙Sを取り出す際に内部のカバーオープンレバー9を駆動して内部のカバーフレーム10(図2)を回動させるためのオープンボタン7が設けられる。ここで、カバーフレーム10(図2)は、上部カバー5と結合されている。そして、矢印B方向にオープンボタン7を押下すると、カバーオープンレバー9は、時計方向に回転されてロック機構が外され、上部カバー5が矢印C方向に開くことで、ロール紙ホルダ17(図2)が露出するよう構成される。
【0011】
図2及び図3は、プリンタ機構部8の外観を示す斜視図であり、図2は、カバーフレーム10が開いた状態のプリンタ機構部8の斜視図であり、図3は、カバーフレーム10が閉じた状態のプリンタ機構部8の斜視図である。
【0012】
プリンタ機構部8は、金属等からなる本体フレーム13の上に開閉自在のカバーフレーム10と、可動刃32及びその駆動手段を収納するオートカッタユニット11を有している。この場合、感熱紙Sを切断しない時は、可動刃32はオートカッタユニット11の内部に収納されており、可動刃32の刃部は露出しない。この状態を、可動刃32が待機位置にあるという。
【0013】
可動刃32とハサミ状に交叉する固定刃33は、オートカッタユニット11に対向するようにカバーフレーム10に配置される。固定刃33の上部には、ブレードシャッタ34が設けられている。ブレードシャッタ34はシャッタバネ35により、固定刃33の刃部を覆う方向に付勢されているが、図3に示すように、カバーフレーム10を閉じた状態では、ブレードシャッタ34の一部が本体フレーム13に具備された係合部と当接し、ブレードシャッタ34は、僅かに開く方向に持ち上げられる。よって、固定刃33の刃部が露出し、可動刃32が移動すればハサミ状に交叉可能な状態となるよう構成される。
【0014】
カバーフレーム10は、本体フレーム13の両側の上端部に設けられた支軸14を中心として揺動、即ち開閉自在に取り付けられている。尚、カバーフレーム10には、カバーフレーム10を閉じた際に感熱紙Sとの接触を避けるための円弧状の蓋部15が設けられている。尚、本プリンタの設置角度を変える場合、この蓋部15は、感熱紙Sを受ける保持部材としても機能する。
【0015】
本体フレーム13の右側面には、カバーフレーム10が閉じられている状態を検出するためのカバー検出器44が設けられている。カバー検出器44は、透過型の光学式検出器であり、カバーフレーム10の一部が検出器の光軸を遮断するか否かによって、カバーフレーム10が正しく閉じられているかどうかを検出する。
【0016】
尚、検出器としては、カバー検出器44の他に、後述する紙検出器30やニヤエンド検出器24が設けられている。これら各種検出器やオートカッタユニット11、そして、後述する紙送りモータ23のリード線群12は、本体フレーム13の右側面に固定された中継基板16に接続されている。更に、中継基板16と本プリンタを制御する主回路基板(図示せず)は、FFC等によって接続される。
【0017】
カバーフレーム10を開いた内部には、樹脂製のロール紙ホルダ17が配置されている。ロール紙ホルダ17には、紙の有無を検出する紙検出器30が設けられている。紙検出器30は、反射型の光学式検出器であり、紙検出器30より上流側には、感熱紙Sに付着した異物や紙粉を下方へ落とす穴31が設けられており、紙粉等の影響で、検出器が誤動作しないようになっている。更に、ロール紙ホルダ17には、本体フレーム13の左右の側面板と係合するスリット溝27が設けられており、スリット溝27が本体フレーム13の左右の側面板と係合すると、ロール紙ホルダ17の幅方向が規制されるため、感熱紙Sに対してロール紙収納部の内側は適正な幅が維持される。
【0018】
そして、円筒形のゴムローラからなるプラテン18は、プラテン軸受20を介してカバーフレーム10に回転可能に支持されている。プラテン18の一方には、プラテン歯車19が圧入されている。本体フレーム13には、溝部21が設けられており、カバーフレーム10を閉じると、プラテン18が、放熱板47(図4)の端部に設けられた案内斜面部45(図4)に案内された後、プラテン軸受20が溝部21と当接し、所定の位置に位置決めされる。更に、サーマルヘッド39(図4)によるプラテン18への加圧力で、カバーフレーム10には下向きの力が作用し、プラテン18の位置が定められる。加えて、プラテン歯車19と紙送り伝達歯車22とが噛み合い、紙送りモータ23からの動力がプラテン18へ伝達されることにより、プラテン18は、所定の方向に回転する。
【0019】
また、本体フレーム13の左側面には、感熱紙Sの紙の残量が少なくなってきたことを検出するためのニヤエンド検出器24が支軸25を中心として回動可能に取り付けられている。これは、本プリンタの設置角度を変える場合、それに合わせて、ニヤエンド検出器24を最適位置にするためのものである。例えば、図2に示すように、カバーフレーム10の底面28を下にして設置する場合、ニヤエンド検出器24のアクチュエータ26は、カバーフレーム10に設けられた穴32aに入り込む位置に固定される。一方、カバーフレーム10の背面29を下にして設置する場合、アクチュエータ26は、穴32bに入り込む位置に固定される。本体フレーム13の左右の側面には、サーマルヘッド39(図4)及びヘッド押圧板41(図4)を支持する支持溝部50が設けられている。
【0020】
図4は、プリンタ機構部8の側断面図を示すものであり、ロール紙ホルダ17に感熱紙Sが保持され、排出方向(D)に紙送りしている状態を示している。この図4においては、感熱紙Sは大径の状態を示しており、紙送りされて、感熱紙Sが小径になるに従い、感熱紙Sは溝部38に落ち込むようになる。そして、前述したニヤエンド検出器24によって、感熱紙Sが小径になったことが検出される。
【0021】
図5は、サーマルヘッド39をプリンタ機構部8の側面方向から見た図である。この図に示すように、サーマルヘッド39は、放熱板47を基体として構成されている。このサーマルヘッド39の両側面には、ヘッド支軸40が設けられ、このヘッド支軸40は、本体フレーム13に設けられた支持溝部50の一部に支持されている。放熱板47の一方の面には、アルミナセラミック等から成るセラミック基板43が配置されている。このセラミック基板43は、プラテン18と対向する位置に配置され、放熱板47の他方の面側に配置されたバネ42の一方の端部により、プラテン18方向に付勢されている。尚、このバネ42の他方の端部は、ヘッド押圧板41に固定されており、ヘッド押圧板41は本体フレーム13に設けられた支持溝部50bに支持されている。以上の構成により、プラテン18は、感熱紙Sの一方の面S2の側から感熱紙Sをサーマルヘッド39の方向に押圧すると共に、プラテン18と対向するセラミック基板43は、感熱紙Sの他方の面S1で接して挟持する。この状態で、プラテン18が回転することにより、感熱紙Sは順次サーマルヘッド39を通過する。この際、感熱紙Sの他方の面S1は、サーマルヘッド39により選択的に加熱され、サーマルヘッド39を通過した感熱紙Sは、案内斜面部45の端部に案内されて排出方向(D)に送られる。
【0022】
図6(a)は、サーマルヘッド39をプラテン18方向から見た平面図であり、(b)は、図6(a)に示すサーマルヘッド39を、切断線(A−A)で切断した断面図である。尚、この図6において、感熱紙Sの排出方向(D)は、右から左へ向かう方向になる。最初に、図6(a),(b)に示すように、セラミック基板43がプラテン18と対向する側の面上において、感熱紙Sを送る方向(左方向)の端部近傍の一領域には、ガラス等で構成され、厚さ(h)が略一定なグレーズ層150が成膜されている。このグレーズ層150上には、所定の幅(W)を有する平滑面Pが、セラミック基板43と略平行に形成されている。更に、この平滑面P上において、感熱紙Sが送られて来る方向(右方向)の側には、通電された電流を熱に変換する線状の発熱抵抗体140が、感熱紙の排出方向(D)に直交して配置されている。この発熱抵抗体140は、幅が200μm程度、高さが6μm程度の様態である。数百個の微小発熱体が直線的に配列され、それぞれの微小発熱体が選択的に通電されることで、通電された微小発熱体のみが瞬時に発熱する。この発熱抵抗体140は、プラテン18とサーマルヘッド39の略接点の上流側に配置されており、換言すれば、プラテン18の軸中心は、サーマルヘッド39の発熱抵抗体140よりも下流側に配置されている。
【0023】
グレーズ層150は、通電された発熱抵抗体140から流入する熱を蓄熱する蓄熱層として機能すると共に、発熱抵抗体140に対する通電が休止された場合、速やかに放熱板47方向に放熱する機能を有する。更に、グレーズ層150は、セラミック基板43の表面粗度を平滑にして、このグレーズ層150上に成膜する微細パターンの形成を容易にする効果を有する。そのためグレーズ層150上には、図示を略したセグメント電極やコモン電極が発熱抵抗体140近傍に成膜されている。更に、鉛ガラス等で構成され、セラミック基板43上に配置された各部材を保護する保護膜160が、グレーズ層150の最外面に略全面に渡り成膜されている。
【0024】
また、セラミック基板43の面上において、感熱紙Sが送られて来る方向(右方向)側の端部には、発熱抵抗体140に対して選択的に給電するためのドライバIC等を封止したエポキシモールド130が配置され、このエポキシモールド130に結線されたガラエポ基板135が懸架されている。そして、ガラエポ基板135の他方の端部には、このプリンタ1を制御する主回路基板(図示せず)とFFC等によって接続されるコネクタ46(図5)が設けられている。
【0025】
上記した構成により、感熱紙Sは、プラテン18が回転することで、排出方向(D)に向かって紙送りされ、一方の面S2側から押圧された状態で、他方の面S1がセラミック基板43上の発熱抵抗体140と順次接する。この際、発熱抵抗体140は、コネクタ46を介して主回路基板(図示せず)から送られる印字信号に応じて、微小発熱体毎に発熱する。この結果、感熱紙Sは、幅方向に選択的に加熱される。この感熱紙Sの他方の面S1側には、複数の発色剤がバインダにより離間して保持された状態の発色層が形成されているため、加熱された微小発熱体と接する発色層は、溶融状態に遷移する。ここで、溶融状態に遷移した発色層は、感熱紙Sの移動に伴い、接触した発熱抵抗体140と離れて押圧状態が解除され、感熱紙Sの他方の面S1は、グレーズ層150上の平滑面P上を滑動する。この際、他方の面S1は平滑面Pよりも高温であるため、感熱紙Sが有する熱エネルギーは、グレーズ層150の平滑面Pを介してグレーズ層150側に移動する。
【0026】
しかしながら、グレーズ層150は、発熱抵抗体140から伝わる熱を予め蓄熱していることに加え、発熱抵抗体140がグレーズ層150上の右方向に偏移して配置されている。そのため平滑面Pは、充分な長さを有することから、溶融状態の発色層は、急激に冷却されることなく、徐々に冷却されて凝固する。従って、印字カスの発生は、グレーズ層150上の所定の位置に集中することなく、適度に分散される。更に、グレーズ層150の厚さ(h)は略一定で表面が凸凹していないことに加え、平滑面Pは面粗度が滑らかであるため、紙送りされる感熱紙Sは、他方の面S1で発生した印字カスを平滑面Pに付着させることなく、平滑面Pから順次滑らかに離脱できる。そして、感熱紙Sの加熱された部分がグレーズ層150を順次離れるに従い、発色層は更に冷却されて凝固する。この結果、感熱紙Sの発色状態は定着され、発色層は安定した状態に遷移する。このようにして、印字信号に応じた情報が感熱紙Sに順次印字される。
【0027】
グレーズ層150を離れた感熱紙Sは、排出方向(D)に向かって紙送りされ、感熱紙Sの他方の面S1が案内斜面部45と当接することで、屈曲することなく上方に案内され、カバーフレーム10に設けられた導入部48(図4)により紙カット部へ導かれる。紙カット部へ導かれた感熱紙Sは、可動刃32と固定刃33の間を通り、プリンタ1の外部に出力される。
プラテン18の中心線垂線Pcは、サーマルヘッドの発熱体中心位置Phに対して、排出側に配置することが望ましい。プラテンは、弾性体であるために、回転すると変形する。よって、発熱体にかかる荷重が強くなり、感熱紙Sと発熱体の密着度が良くなる。発熱体から感熱紙への熱伝導がよくなり、鮮明な印字ができる。印字後も、発熱体中心位置Phから排出側にも、密着が保たれた状態になり、ヘッド表面に付着した印字カスを排出側に掻き落とすことができる。更にグレーズ層に蓄熱した熱により、印字カスのヘッド固着を防ぐことができる。仮に、印字カスが付着したとしても、発熱体より離れた箇所への付着となり、印字品質に影響が低減する。
プラテン18の中心線垂線Pcと発熱体中心位置Phの距離は、実験結果より、0.2mm〜0.5mmの距離が最適であった。0.5以上となると、発熱体とプラテンの密着度が弱くなり、印字が薄くなる傾向にある。
【0028】
ここで、グレーズ層150の形状寸法について、図7(a)〜(c)を参照して説明する。図7(a)は、グレーズ層150の厚さ(h)に対して、印字像の尾引き量の傾向を示す図である。高速印字とは、サーマルヘッド39近傍における紙送り速度が、概ね170mm/秒〜200mm/秒以上である場合の印字を示す。低速印字とは、サーマルヘッド39近傍における紙送り速度が、概ね150mm/秒以下である場合の印字を示す。この図7(a)に示すように、高速印字および低速印字を問わず、グレーズ層150の厚さ(h)を薄くすることで、グレーズ層150の蓄熱容量が低下し、熱応答性が向上することにより、尾引き量が低減して印字品質が向上する。従って、グレーズ層150の厚さ(h)は、極力薄くすることが好ましいが、本実施形態では、グレーズ層150の厚さ(h)が20μm未満の場合、蓄熱効果が少なく、印字濃度が薄くなった。
【0029】
他方で、図7(b)は、グレーズ層150の体積に対して、印字カス付着量の傾向を示す図であり、この図7(b)に示すように、グレーズ層150の体積を大きくする程、印字カス付着量が低減する。しかしながら、本実施形態では、グレーズ層150の厚さ(h)が50μmを超えると、蓄熱効果が増大し、尾引き量が増加して印字品質が低下した。従って、これらの特性を考慮して、本実施形態では、グレーズ層150の厚さ(h)を20μm〜50μmとした。
【0030】
図7(c)は、グレーズ層150の厚さ(h)を20μm〜50μmとした場合、グレーズ層150の幅(W)に対して、印字カス付着量の傾向を示す図であり、この図7(c)に示すように、グレーズ層150の幅(W)が1.5mmを超える場合、印字カス付着量が急激に低減した。従って、本実施形態では、グレーズ層150の幅(W)を1.5mm以上とした。そして、以上述べたような寸法のグレーズ層150を採用することで、尾引き量と印字カス付着量が従来に比べて大幅に減少し、印字品質が劣化しないサーマルヘッド39を実現した。
【0031】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、図6(c)に示すように、発熱抵抗体140は、グレーズ層150の中心に配置する場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る印字装置の実施形態として、プリンタの外観構成を示す斜視図。
【図2】カバーフレームが開いた状態のプリンタ機構部の斜視図。
【図3】カバーフレームが閉じた状態のプリンタ機構部の斜視図。
【図4】プリンタ機構部の側断面図。
【図5】サーマルヘッドをプリンタ機構部の側面方向から見た図。
【図6】(a)は、サーマルヘッドをプラテン方向から見た平面図であり、(b)は、サーマルヘッドの断面図であり、(c)は、他の例のサーマルヘッドの断面図。
【図7】(a)は、グレーズ層の厚さに対する印字像の尾引き量の傾向を示し、(b)は、グレーズ層の体積に対する印字カス付着量の傾向を示し、(c)は、グレーズ層の幅に対して印字カス付着量の傾向を示す図。
【図8】印字カス付着量に対して印字濃度の傾向を示す図。
【符号の説明】
【0033】
1…プリンタ、2…パネル、3…上ケース、4…下ケース、5…上部カバー、6…カッタカバー、7…オープンボタン、8…プリンタ機構部、9…カバーオープンレバー、10…カバーフレーム、11…オートカッタユニット、12…リード線群、13…本体フレーム、14…支軸、15…蓋部、16…中継基板、17…ロール紙ホルダ、18…プラテン、19…プラテン歯車、20…プラテン軸受、21…溝部、22…紙送り伝達歯車、23…紙送りモータ、24…ニヤエンド検出器、25…支軸、26…アクチュエータ、27…スリット溝、28…底面、29…背面、30…紙検出器、31…穴、32…可動刃、32a…穴、32b…穴、33…固定刃、34…ブレードシャッタ、35…シャッタバネ、38…溝部、39…サーマルヘッド、40…ヘッド支軸、41…ヘッド押圧板、42…バネ、43…セラミック基板、44…カバー検出器、45…案内斜面部、46…コネクタ、47…放熱板、48…導入部、50…支持溝部、130…エポキシモールド、135…ガラエポ基板、140…発熱抵抗体、150…グレーズ層、160…保護膜、P…平滑面、S…感熱紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感熱紙に対して印字するサーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドと前記感熱紙を介して対向するように配置され、前記感熱紙を搬送するローラとを備えたプリンタであって、
前記サーマルヘッドは、
基板と、
前記基板の一部に形成され、流入する熱を蓄熱する蓄熱層と、
前記蓄熱層上に形成された、前記感熱紙に含まれる発色剤を溶融する発熱体とを備え、
前記発熱体は、前記蓄熱層上の中心よりも感熱紙搬送方向上流側に配置されていることを特徴とするプリンタ。
【請求項2】
前記発熱体に対して感熱紙搬送方向下流側の前記蓄熱層上には、前記感熱紙と当接する前記基板と平行な面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプリンタ。
【請求項3】
前記蓄熱層の幅は、1.5mm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプリンタ。
【請求項4】
前記蓄熱層の厚さは、一定であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のプリンタ。
【請求項5】
前記発熱体は、前記感熱紙の搬送方向に交差する方向に配列されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のプリンタ。
【請求項6】
前記ローラは、前記ローラの軸中心を通る前記サーマルヘッドの基板に対する垂線と前記サーマルヘッドと交差する位置が、前記発熱体が形成されている位置よりも、前記感熱紙搬送方向下流側に位置するように配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のプリンタ。
【請求項7】
一方の側から他方の側に移動する感熱紙と圧接し、前記感熱紙に含まれる発色剤を溶融させることにより印字するサーマルヘッドであって、
基板と、
前記基板上に形成され、流入する熱を蓄熱する蓄熱層と、
前記感熱紙を選択的に加熱することにより、前記感熱紙に含まれる発色剤を溶融する発熱体とを備え、
前記発熱体は、前記蓄熱層上に形成されると共に、前記蓄熱層の中心から前記一方の側に偏した位置に配置されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項8】
感熱紙に含まれる発色剤を溶融させることにより印字するサーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドと前記感熱紙を介して対向するように配置され、前記感熱紙を搬送するローラとを備えたプリンタであって、
前記ローラは、前記ローラの軸中心を通る前記サーマルヘッドの基板に対する垂線と前記サーマルヘッドと交差する位置が、前記発熱体が形成されている位置よりも、前記感熱紙搬送方向下流側に位置するように配置されることを特徴とするプリンタ。
【請求項9】
感熱紙に含まれる発色剤を溶融させることにより印字するサーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドと前記感熱紙を介して対向するように配置され、前記感熱紙を搬送するローラとを備えたプリンタであって、
前記サーマルヘッドは、
基板と、
前記基板の一部に形成され、流入する熱を蓄熱する蓄熱層と、
前記蓄熱層上に形成された、前記感熱紙に含まれる発色剤を溶融する発熱体とを備え、
前記感熱紙搬送方向における、前記発熱体から蓄熱層の端部までの長さが、1.5mm以上であることを特徴とするプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−265299(P2008−265299A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54454(P2008−54454)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】