説明

シアン汚染土壌の浄化方法

【課題】土壌に含まれるシアン化合物を簡単かつ確実に不溶化処理するとともにシアン化合物とベンゼンなどとの複合汚染も一括して浄化する。
【解決手段】汚染土壌を土壌洗浄装置1の土砂ホッパー2に投入して一時蓄える。土砂ホッパー2に一時蓄えられた汚染土壌を土砂定量供給装置3で一定量ずつ計量して混合装置5に供給する。混合装置5に浄化剤定量供給装置4から酸化カルシウムを汚染土壌に対して重量比で10〜20%計量して供給し、供給された汚染土壌と酸化カルシウムを混合し、一定時間放置した後、混合処理土として回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、都市ガス製造工場やめっき工場、金属精錬工場等の廃水中に含まれるシアン化合物で汚染した土壌を浄化してシアンの溶出量を基準値以下に抑制する土壌浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ガス製造工場内の土地などではシアン化合物とベンゼンによる複合汚染が生じる。これは、昭和40年以前に稼動していた工場では石炭ガスを製造していたが、その製造過程で石炭中の化合物からベンゼンが生成され、炭素とアンモニアからシアン化合物が生成されていたため、これらが漏洩して土壌に浸透したものと考えられる。このように都市ガス製造工場やめっき工場、金属精錬工場等の廃水中に含まれるシアン化合物で汚染した土壌に含まれるシアンは毒性が強く、掘削して除去したり封じ込めるなどの対策が必要である。このシアン汚染土壌の浄化処理方法として種々の処理方法が採用されている。
【0003】
例えば特許文献1に示された処理方法は、遊離シアン、錯シアン及び難溶性シアン化合物を含む土壌のスラリー液をアルカリでpH10〜pH13とし、30分以上加熱撹拌後、次亜塩素酸ナトリウムをスラリー液に分割添加してpH10〜pH13の範囲及び80〜100℃の温度範囲で遊離シアン、錯シアン及び難溶性シアン化合物と反応させ、シアン酸を炭酸ガスと窒素に分解するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に示された処理方法は、シアン化合物及び可溶性重金属を含む土壌にポリ塩化アルミニウムと2価の硫酸鉄及び水を添加し、さらにカルシウム化合物を添加することによってpH8〜pH9に調整処理して、可溶性シアンの一部を2価の硫酸鉄により不溶性の安定した鉄シアノ錯体とし、その他をフェロシアンイオンとしてポリ塩化アルミニウムに吸着させて可溶性シアン化合物と可溶性金属の溶出を抑制するようにしている。
【0005】
さらに、特許文献3に示された処理方法は、シアン化合物を含む汚染土壌を、酸素が希薄な雰囲気中で300〜650℃の範囲で間接加熱して、シアン化合物をシアン化水素ガスとして土壌から分離するようにしている。また、特許文献4に示された処理方法は、シアンや有機ハロゲン化合物で汚染した土壌を微生物分解処理している。
【0006】
特許文献1に示された処理方法は、次亜塩素酸ナトリウムの添加量が不十分の場合は有害成分を除去できず、添加量が過剰になると有害な残留塩素を生じてしまう。このためシアン汚染土壌のスラリー液中に含まれる遊離シアンや錯シアンの濃度に応じて次亜塩素酸ナトリウムの添加量を調節する必要があるとともに、次亜塩素酸ナトリウムの投入量も反応状態を確認しながら制御する必要があり、処理が容易でないという短所がある。
【0007】
また、特許文献2に示された処理方法も、処理する汚染土壌中の全シアン含有量を求めてポリ塩化アルミニウムの添加量を設定する必要があり、やはり処理が容易でないという短所がある。さらに、特許文献1と特許文献2に示された処理方法は、大規模な排水処理設備が必要になるため、処理コストが高くなる。また、汚染が濃縮した例えば70μm以下の細粒分が廃棄物になってしまうという短所もある。
【0008】
特許文献3に示された処理方法は、発生したシアン化水素ガスの回収装置が必要であり、設備や運転に多くの費用が必要になり、経済的負担が大きくなってしまう。また、特許文献4に示された処理方法では、処理に長期間かかるという短所がある。
【特許文献1】特開2004−58011号公報
【特許文献2】特開2001−121132号公報
【特許文献3】特開2003−181438号公報
【特許文献4】特開2004−66195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、前記短所を解消し、土壌に含まれるシアン化合物を簡単かつ確実に不溶化処理するシアン汚染土壌の浄化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のシアン汚染土壌の浄化方法は、シアン汚染土壌に対して粉末状の酸化カルシウムを重量比で10〜20%添加して混合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、シアン汚染土壌に対して重量比で10〜20%の酸化カルシウムを添加して混合することにより、基準値の100倍を超える全シアンの溶出量の土壌における全シアンの溶出量を基準値以下にまで低減することができる。
【0012】
また、シアンに汚染した土壌に一定量の酸化カルシウムを添加して混合するだけで溶出量を低減するから、既存の設備を使用して掘削現場で処理することができ、処理費用を大幅に低減することができる。
【0013】
さらに、全シアンの溶出量を低減するとともに酸化カルシウムの水和反応熱によりベンゼンなどの揮発性有機化合物も除去することができ、シアン化合物とベンゼンなどとの複合汚染を一括して浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はこの発明の土壌浄化装置の構成図である。図に示すように、シアン汚染土壌を処理する土壌浄化装置1は、土砂ホッパー2と土砂定量供給装置3と浄化剤定量供給装置4及び混合装置5を有する。土砂ホッパー2は汚染土壌を一時蓄えて順次送り出す。土砂定量供給装置3は例えばコンベヤスケールを有するコンベヤからなり、土砂ホッパー2から送り出された汚染土壌を計量して一定量の汚染土壌を混合装置5に供給する。浄化剤定量供給装置4は汚染土壌の浄化剤として使用する酸化カルシウムを計量して一定量の酸化カルシウムを混合装置5に供給する。混合装置5は例えば土質改良機や二軸パドルミキサーからなり、供給された汚染土壌と酸化カルシウムを混合する。
【0015】
この土壌洗浄装置1でシアンに汚染された土壌を不溶化するときの処理を図2のフローチャートを参照して説明する。
【0016】
まず、掘削したシアンに汚染された土壌を、目幅が例えば40mmの振動スクリーンを有し、スクリーン面に振動や回転を与えて目詰りを防ぎながら汚染土壌である原料土を、粒径40mmを基準にして機械的に分離する乾式分級機6に投入し、粒径40mm以上の土砂と粒径40mm未満の土砂に分離する(ステップS1,S2)。分離した粒径40mm以上の土壌は浄化土として回収し(ステップS8)、粒径40mm未満の土壌を土壌洗浄装置1の土砂ホッパー2に投入して一時蓄える(ステップS3)。土砂ホッパー2に一時蓄えられた粒径40mm未満の汚染土壌は土砂定量供給装置3に供給され、土砂定量供給装置3で一定量ずつ計量されて混合装置5に供給される(ステップS4)。一方、混合装置5には浄化剤定量供給装置4から浄化剤として使用される粉末状の酸化カルシウムを一定量ずつ計量して供給する(ステップS5)。この浄化剤定量供給装置4から混合装置5に供給する酸化カルシウムの量は、土砂定量供給装置3から定量供給された汚染土壌に対して重量比で10〜20%とする。混合装置4は供給された粒径40m未満の汚染土壌と酸化カルシウムを混合する(ステップS6)。この混合した土壌を混合装置5から回収して一定時間、例えば12〜24時間放置した後、混合処理土として回収して埋め戻し土として使用する(ステップS7)。
【0017】
このように粒径40m未満の汚染土壌に重量比で10〜20%の酸化カルシウムを混合してシアンにより汚染された土壌を不溶化処理した根拠について説明する。
【0018】
シアン化合物による汚染に対する土壌の環境基準では、全シアンの溶出量は検液1リットルにつき0.1mg以下で含有量は土壌1kgにつき遊離シアンが50mg以下であることが規定されている。この基準値より溶出量が100倍を超える全シアンの溶出量が11.0mg/Lの土壌に対して各種カルシウム系材料を重量比で10%添加して混合し、溶出量の変化を調べた結果を図3に示す。図3に示すように、カルシウム系材料として炭酸カルシウムと酸化カルシウム、水酸化カルシウム、燐酸カルシウム、酢酸カルシウム及びクエン酸カルシウムを使用した場合、いずれの場合も全シアンの溶出量を低減することはできたが、酸化カルシウムを混合した場合、全シアンの溶出量を最も低減する効果があり、シアン汚染土壌を環境基準値以下まで低減することができた。また、水酸化カルシウムを混合した場合も全シアンの溶出量を1/10に低減できた。
【0019】
そこで酸化カルシウムと水酸化カルシウムの添加量を土壌に対して重量比で3%と5%と10%及び20%と変えて混合し、溶出量の変化と遊離シアンの含有量を調べた結果を図4(a),(b)に示す。図4(a)は酸化カルシウムを添加して混合した場合、(b)は水酸化カルシウムを添加して混合した場合である。図4(a),(b)に示すように、酸化カルシウムと水酸化カルシウムの添加量を増やすにしたがって全シアンの溶出量と遊離シアンの含有量が低減し、酸化カルシウムの添加量を10%以上にすると、全シアンの溶出量を基準値である0.1mg/Lに低減し、遊離シアンの含有量も15mg/kg以下に低減することができた。これに対して水酸化カルシウムを添加して混合した場合は、添加量を20%にしても全シアンの溶出量を基準値まで低減することはできなかった。
【0020】
このように酸化カルシウムや水酸化カルシウムをシアン汚染土壌に添加して混合することにより、カルシウムの介在によって土壌中のシアンイオンが土壌中の金属イオンと反応して不溶性の金属シアン錯体例えば鉄シアノ錯体になり、遊離シアンが減少して全シアンの溶出量を低減したと考えられる。また、酸化カルシウムは土壌中の水分と反応して水酸化カルシウムに変化するが、この水和反応熱が、シアンイオンの錯体形成を促進するため、酸化カルシウムを土壌に添加して混合した場合のほうが、全シアンの溶出量を低減する効果が大きいと考えられる。
【0021】
そこで土壌洗浄装置1でシアンに汚染された土壌を不溶化するとき、土砂定量供給装置4から供給される土壌に対して酸化カルシウムの添加量を重量比で10〜20%として混合する。このように土壌に対して重量比で10〜20%の酸化カルシウムを添加して混合することにより、基準値の100倍を超える全シアンの溶出量の土壌における全シアンの溶出量を基準値以下にまで低減することができ、この溶出量を基準値以下にした混合処理土を埋め戻しに利用することができる。
【0022】
また、シアンに汚染した土壌に一定量の酸化カルシウムを添加して混合するだけで溶出量を低減するから、既存の設備を使用して掘削現場で処理することができ、処理費用を大幅に低減することができる。
【0023】
さらに、シアンで汚染した土壌に酸化カルシウムを混合することにより、全シアンの溶出量を低減するとともに、酸化カルシウムの水和反応熱によりベンゼンなどの揮発性有機化合物も除去することができ、都市ガス製造工場などにおけるシアン化合物とベンゼンの複合汚染を一括して浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の土壌浄化装置の構成図である。
【図2】シアン汚染土壌の不溶化処理を示す工程図である。
【図3】シアン汚染土壌に各種カルシウム系材料を添加して混合したときの全シアン溶出量の変化特性図である。
【図4】炭酸カルシウムと水酸化カルシウムの添加量を変化したときの全シアン溶出量と遊離シアン含有量の変化特性図である。
【符号の説明】
【0025】
1;土壌浄化装置、2;土砂ホッパー、3;土砂定量供給装置、
4;浄化剤定量供給装置、5;混合装置、6;乾式分級機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン汚染土壌に対して粉末状の酸化カルシウムを重量比で10〜20%添加して混合したことを特徴とするシアン汚染土壌の浄化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−175389(P2006−175389A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372785(P2004−372785)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)
【Fターム(参考)】