説明

シキミ酸の製造方法

【課題】
鳥インフルエンザ等に有効な医薬品のほか、多数の医薬品、農薬等の原料となるシキミ酸を、効率よく、簡便な方法で、また環境に負荷を掛けない方法で製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
シキミ酸を製造する方法において、1)酢酸菌由来の酵素存在下で、キナ酸から3−デヒドロシキミ酸を製造する第一工程、2)シキミ酸脱水素酵素(SKDH)とグルコース脱水素酵素(GDH)の共役下、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する第二工程、の各工程を経由することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸菌を用いたシキミ酸の効率的な製造方法に関する。詳しくは、キナ酸を原料として、酢酸菌により3−デヒドロシキミ酸を合成し、さらに酢酸菌由来の酵素を用いて、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シキミ酸は、多数の抗生物質、アルカロイド、除草活性物質などの有用な原料として用いられる芳香族アミノ酸の重要な中間体である。特に近年になって、世界的な流行を引き起こすと懸念されている鳥インフルエンザに対し、最も効果が期待されているタミフル(登録商標)の重要な原料化合物となっている。WHO(世界保健機構)が、広く警告を出しているにもかかわらず、世界中で利用できる程充分な備蓄はない。その理由の1つとして、原料となるシキミ酸の調製が難しいことがあげられる。グルコースからシキミ酸に至るまでシキミ酸経路は、二つの異なった代謝経路より得られたホスホエノールピルビン酸とエリスロースー4−リン酸の縮合反応から始まる多段階の代謝経路を経由しなくてはならない。そのため、最新技術の代謝制御法や遺伝子増幅法を駆使してシキミ酸経路の代謝中間体を効率良く製造しても、シキミ酸まで到達するには障壁が大き過ぎるという欠点があった。本発明者らは、酢酸菌中の細胞膜結合型キナ酸脱水素酵素(Quinoprotein quinate dehydrogenase:QDH)を用いて、キナ酸からシキミ酸経路の中間体である3−デヒドロシキミ酸を製造する方法を明らかにし(特許文献1)、また酢酸菌の単独培養系でキナ酸からシキミ酸を製造する方法も提供している(非特許文献1)。
【0003】
現在、中国では、シキミ酸を植物のシキミ(Illicium anisatum)やトウシキミ(Illicium verum)から抽出しているが、天然物であるため、同質の原料を常時入手することは困難である。
【0004】
有機化学的にシキミ酸を製造する方法については、キナ酸誘導体からフィルスマイヤー試薬を用いて脱水することによりシキミ酸誘導体を製造する方法(特許文献2)、ジアミノシキミ酸誘導体をイソフタル酸誘導体から製造する方法(特許文献3)、あるいは、フランから製造する方法(特許文献4)が知られている。これらはシキミ酸誘導体であり、目的とする物質の製造においては困難な反応を必要とする可能性がある。
【0005】
また、シキミ酸を安価に製造する方法として、抽出源から抽出した無機塩を多量に含むキナ酸含有原料液から、キナ酸を単離せず、酸又は塩基触媒存在下、アルコール類と反応させてキナ酸エステルに変換した後、酸触媒存在下、ケトン誘導体又はアルデヒド誘導体と反応させてキナ酸エステルのアセタール体を製造し、該キナ酸誘導体からシキミ酸前駆体及びシキミ酸を製造する方法も開示されている(特許文献5)。
【0006】
さらに、発酵法によりシキミ酸を製造する方法も知られており、シキミ酸を菌体外に分泌する性質を有するシトロバクター属に属する微生物を用いて、効率的にシキミ酸を製造する方法が開示されている(特許文献6)。しかしながら発酵法による製造法では、培養液中にはシキミ酸の他に多くの物質が存在するため精製工程が煩雑である。
【特許文献1】特開2003−70497号公報
【特許文献2】特許第3641384号公報
【特許文献3】特開2001−354635号公報
【特許文献4】特開2001−288152号公報
【特許文献5】特開平11−349583号公報
【特許文献6】特開2002−281993号公報
【非特許文献1】Adachi O.et al.Biosci.Biotecnol.Biochem.,67:2124−2131(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鳥インフルエンザ等に有効な医薬品のほか、多数の医薬品、農薬等の原料となるシキミ酸を、効率よく、簡便な方法で、また環境に負荷を掛けない方法で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、グルコースから始まるシキミ酸経路における中間代謝物から酢酸菌を利用して容易にシキミ酸を製造する方法を開発した。すなわち、本発明は下記の構成を有する。
【0009】
(1)シキミ酸を製造する方法において、1)酢酸菌由来の酵素存在下で、キナ酸から3−デヒドロシキミ酸を製造する第一工程、2)シキミ酸脱水素酵素(SKDH)とグルコース脱水素酵素(GDH)の共役下、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する第二工程、の各工程を経由することを特徴とするシキミ酸の製造方法。
【0010】
(2)シキミ酸を製造する方法において、キナ酸から3−デヒドロシキミ酸を製造する第一工程の反応を、pH7〜pH9で行い、シキミ酸脱水素酵素(SKDH)とグルコース脱水素酵素(GDH)の共役下、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する第二工程の反応を、pH6〜pH7で行うことを特徴とする(1)に記載のシキミ酸の製造方法。
【0011】
(3)第二工程における反応液が、NADPと、NADPに対し100〜10000倍モル濃度のグルコースを含むことを特徴とする(1)または(2)に記載のシキミ酸の製造方法。
【0012】
(4)第一工程で使用する酢酸菌由来の酵素が、キナ酸脱水素酵素(QDH)であることを特徴とする(1)または(2)に記載のシキミ酸の製造方法。
【0013】
(5)第二工程で使用する、シキミ酸脱水素酵素(SKDH)およびグルコース脱水素酵素(GDH)が、酢酸菌由来であることを特徴とする(1)または(2)に記載のシキミ酸の製造方法。
【0014】
(6)第二工程で使用する、シキミ酸脱水素酵素(SKDH)およびグルコース脱水素酵素(GDH)は、これら両方の酵素を共に生産する能力を有する酢酸菌から得られた両方の酵素を含む粗酵素液の状態で使用するか、あるいは酢酸菌から単離され、精製された2つの酵素として使用することを特徴とする(5)に記載のシキミ酸の製造方法。
【0015】
(7)酢酸菌が、Gluconobacter属菌であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
【0016】
(8)Gluconobacter属菌が、Gluconobacter oxydans IFO 3244であることを特徴とする、(7)に記載のシキミ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシキミ酸の製造法により、シキミ酸およびシキミ酸経路の代謝中間体の製造が容易になったため、これらを原料とする有用物質の製造が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明者らは、先に、細胞膜結合型キナ酸脱水素酵素(Quinoprotein quinate dehydrogenase:QDH)と3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3−Dehydroquinate dehydratase:DQD)が、酢酸菌の細胞質膜外皮上に広く存在し、特にGluconobacter属菌では、通常の発酵生産手法でキナ酸が3−デヒドロキナ酸を経由して3−デヒドロシキミ酸に酸化されることを見出し報告した。(Adachi O.et al.Biosci.Biotecnol.Biochem.,67:2124−2131(2003)(上記非特許文献1)、Adachi O.et al.Biosci.Biotecnol.Biochem.,67:2115−2123(2003)、Vangnai A.S.et al.FEMS Microbiol.Lett.,241:157−162(2004))
【0019】
さらに、酢酸菌の細胞質では、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を生成する場合と、逆にシキミ酸を酸化して3−デヒドロシキミ酸を生成する、可逆的作用を有するNADP依存性シキミ酸脱水素酵素(Shikimate dehydrogenase:SKDH)が存在することを、1つの細胞系で行った結果明らかにした。(Adachi O.et al.Biosci.Biotecnol.Biochem.,67:2124−2131(2003)(上記非特許文献1)、Adachi O.et al.Biosci.Biotecnol.Biochem.,67:2115−2123(2003)、Adachi O.et al.Biochem.Biophys.Acta,1647:10−17(2003)、Adachi O.et al.Appl.Microbiol.Biotechnol.,60:643−653(2003))
【0020】
このことから、シキミ酸の製造量を上げるためには、図1に示すような二つの独立した酵素反応系を利用することが必要であることを見出し、二工程からなるシキミ酸の製造方法を完成させた。
【0021】
<反応第一工程>
第一工程では、キナ酸からQDHにより3−デヒドロキナ酸が生成し、3−デヒドロキナ酸からDQDにより3−デヒドロシキミ酸が生成する流れであり、キナ酸と乾燥菌体、あるいは細胞膜とを従来の方法で培養し、培養液中に存在するQDHとDQDにより、3−デヒドロシキミ酸を製造する反応工程である。培養液中には、乾燥菌体、あるいは細胞膜由来のQDHおよびDQDが存在することが必要であり、特にQDHを生成する菌株を選び使用しなければならない。QDHが生成される菌株であればいずれの菌株でも良い。
【0022】
<反応第二工程>
第二工程では、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する。これは、細胞質ゲル内に存在する二種類の酵素を共役させて酵素反応を行う工程である。すなわちNADP下、グルコースからグルコノ−δ−ラクトンとNADPHに変換する活性を有するNADP依存性グルコース脱水素酵素(glucose dehydrogenase:GDH)と、SKDHとを同時進行で反応させることにより、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造することができる。この場合、3−デヒドロシキミ酸を添加する前に、反応系にはNADPに対し過剰のグルコースを存在させておくことが望ましい。
【0023】
<酢酸菌の選択>
本発明で用いる酢酸菌としては、QDHを多く有する菌が望ましく、Gluconobacter oxydansやGluconobacter melanogenusなどが好ましく、特にGluconobacter oxydans IFO 3244が最も好ましい。
【0024】
<酵素の調製>
第二工程で使用するGDHおよびSKDHは、酢酸菌から精製して得ることができる。GDHおよびSKDHは、両方の酵素を共に生産する能力を有する酢酸菌を培養して、該酢酸菌の細胞質内に前記酵素を蓄積させ、該菌体の破砕液から抽出することにより得られた両方の酵素を含む粗酵素液の状態でも使用でき、あるいは前記の菌体破砕液から、別々に単離し、精製した二つの酵素として使用することもできる。GDHの精製は、Adachiらの方法(Adachi O.et al.Agric.Biol.Chem.,44:301−108(1980))を用いることができる。
【0025】
また、SKDHは以下の方法で精製して得ることができる。酢酸菌を、メルカプトエタノールを含むリン酸Buffer中でホモゲナイズし、遠心分離により得られた上清をカラムクロマトグラフィーにより精製する。カラムクロマトグラフィーは、定法に従って行うが、SKDHの精製においては、DEAE−celluloseカラム、DEAE−Sephadexカラム、Blue−Dextran Sepharoseカラム等を用いKClを含有させたメルカプトエタノールで溶出する。溶出液からは、定法に従って、硫酸アンモニウム沈殿法により精製することができる。
【0026】
<酵素反応条件>
本発明における第一工程および第二工程での反応温度は、反応が進行すれば、特に限定されない。基質の溶解度、使用される酵素の安定性を考慮すると、20℃〜50℃、好ましくは25℃〜30℃の温度で反応させることが望ましい。
【0027】
第一工程における酵素反応液のpHは、使用される酵素の安定性、生成物の安定性
を考慮することが必要である。pH4〜pH9の反応液で20時間酵素反応を行った場合のキナ酸から3−デヒドロシキミ酸への変換状況は、ペーパークロマトグラフィー法で確認することができる。図2に示す結果から、pH4〜pH5では3−デヒドロシキミ酸への変換を全く確認できず、pH6では約50%の変換を認め、pH7〜pH9では高効率な変換を確認した。この結果から、反応は、pH7〜pH9で行うことが好ましいと推定された。しかしながら、長時間反応した場合には、副生成物のプロトカテキン酸が生成されることが確認されており、反応は短時間(20時間程度)で終わらせることが望ましい。
【0028】
第二工程において、3−デヒドロシキミ酸の還元反応によりシキミ酸を生成する反
応系で使用するSKDHは、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸が生成する還元反応と、シキミ酸から3−デヒドロシキミ酸が生成する逆向きの酸化反応とが、pHに依存して平衡状態に達することを前記で述べたが、本発明者らは、さらに以下の知見を得ている。高純度に精製されたSKDHは、pH10.0では、SKDH酸化活性を示しシキミ酸に対する酵素活性は60units/mgであり、pH6〜pH7においては、還元活性を示し3−デヒドロシキミ酸に対する酵素活性は25units/mgであった。またKm(ミカエリス‐メンテン定数)を示すと、pH10.0におけるシキミ酸に対する酸化反応では0.5mM、pH5〜pH7における3−デヒドロシキミ酸に対する還元反応では0.2mMであった。従って、本発明の第二工程において、3−デヒドロシキミ酸から有効にシキミ酸を製造するためには、反応液をpH6〜pH7、好ましくはpH7に保つことが望ましい。
【0029】
<ペーパークロマトグラフィ法>
本発明の酵素反応により生成する、3−デヒドロキナ酸、3−デヒドロシキミ酸、シキミ酸、および原料であるキナ酸の確認は、ペーパークロマトグラフィ法により行うことができる。YoshidaとHasegawaの方法(Yoshida S.and Hasegawa M.Arch.Biochem.Biophys.,70:377−388(1957))に準じ、本発明者らが先に報告した方法(Adachi O.et al.Biosci.Biotecnol.Biochem.,67:2124−2131(2003))でペーパークロマトグラフィーを行う場合は、ギ酸を2%含む、ベンジルアルコール:2−ブタノール:2−プロパノール:水=3:1:1:1(W/V)の展開溶媒を用いて、存在する物質をペーパー上に分離したのち、乾燥する。1Mの酢酸と1Mの酢酸ナトリウムの混合溶液12.5mlにメタ過ヨーソ酸ナトリウム160mgを溶解した液をスプレーし、20分後に3%アニリンのアルコール溶液をスプレーする。この条件では、原料のキナ酸と酸化代謝物の3−デヒドロキナ酸は、ほぼ同じRf値を示すが、スポットの色が異なり、キナ酸は淡いピンク色を呈し、3−デヒドロキナ酸は黄色を呈する。さらに3−デヒドロキナ酸の上方にシキミ酸の赤いスポットを、さらに上方に3−デヒドロシキミ酸の黄色のスポットを確認することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定さ
れるものではない。
【実施例1】
【0031】
3−デヒドロシキミ酸の製造
1gのキナ酸と2.5gの酢酸菌Gluconobacter oxydans IFO 3244の細胞膜乾燥体を、500mlのエルレンマイアーフラスコに入れ、100mlのMcIlvaine buffer(pH8)を加え、30℃で20時間振盪して反応させた。反応を終了させるためトリクロロ酢酸(TCA)を5.5%になるように添加し、遠心分離により菌体等を除き、3−デヒドロシキミ酸を含む上清を得た。
【0032】
3−デヒドロシキミ酸の確認
上記で得られた上清に0.1Mの酢酸buffer(pH6.0)を加えて50倍に希釈した。3−デヒドロシキミ酸の生成を確認するため、希釈液の1部を取り0.25μモルのNADPH(オリエンタル酵母社製)とSKDH(3−デヒドロシキミ酸の還元活性として1unit)を加えて0.1Mの酢酸buffer(pH6.0)で1mlとし、25℃で反応させた。NADPHのNADPへの変換が平衡に達する時点で確認したところ、3−デヒドロシキミ酸の最終濃度は約40mMであった。これは、キナ酸の75%が3−デヒドロシキミ酸に変換したことを示す。
【0033】
3−デヒドロシキミ酸の精製
上記、0.1Mの酢酸buffer(pH6.0)を加えて50倍に希釈した3−デヒドロシキミ酸を含む画分は、Dowex50を充填したカラムクロマトグラフィーに供し、アルカリで中和したのち、凍結乾燥した。この凍結乾燥体を少量の水に溶解し、不溶性物質を遠心分離より除去した。この結果、シキミ酸製造の原料となる3−デヒドロシキミ酸濃度は2.1Mであった。
【実施例2】
【0034】
シキミ酸脱水素酵素の精製
菌体(湿重量約300g)を、5mMのβ−メルカプトエタノールを含む2mMのリン酸カリウムbuffer(pH7.2:KPB)1lに懸濁した。この菌体懸濁液を、加圧式ホモジナイザー(Mini−Lab、type 8.30H、Rannie社製、デンマーク)に二回かけ、菌体を破砕した。得られた菌体破砕液を、68,000×gで90分間遠心分離して不溶固体を除き、上清を取り出した。ここで得られた上清1100mlをDEAE−celluloseカラム(5×30cm)に供し、KPBで平衡化した。100mM KClを含有するKPBでカラムを洗い流し、次いで、200mM KClを含有するKPBでSKDHを溶出した。次に、溶出したSKDHを、KPBで100mM KCl濃度とし、DEAE−Sephadex A−50カラム(2.5×20cm)に供した。150mM KClを含有するKPBでカラムを洗い流し、次いで、段階的に、175mM、200mM、220mMのKClを含有するKPBでSKDHを溶出した。次に、175mMと200mMのKClを含有するKPBで溶出した画分を合わせ、KPBで100mM KCl濃度とし、Blue−Dextran Sepharose 4Bカラム(1.5×20cm)に供した。100mM KClを含有するKPBでカラムを洗浄した後、300mM KClを含有するKPBでSKDHを溶出した。SKDH画分を硫酸アンモニウム沈殿法で処理してSKDHの沈殿を得た。沈殿を少量のKPBに溶解し、KPBで平衡化したSephadex G−75カラム(1.5×125cm)に供した。溶出液は、35滴(約1.2ml)ずつ分画した。SKDH活性が最も高かったのは第92番目の画分であった。SKDH活性を有する画分を集め、硫酸アンモニウム沈殿法を行うことにより、菌体破砕で得られた上清と比べ、その比活性が2550倍に高められたSKDHを得た。
【0035】
シキミ酸の製造
実施例1で得られた3−デヒドロシキミ酸250mg(約1.4mモル)と、上記の方法で得られたSKDH(3−デヒドロシキミ酸の還元活性として20units)、NADP(5μモル:オリエンタル酵母社製)、GDH(1000units)、グルコースを(約5.0mモル)加え、5mMのβ−メルカプトエタノールと5mM EDTAを含む、30mMのKPB(pH7.0)で全量を20mlとした。反応は25℃で行い、反応液0.1mlを取り出し60%TCAを10μl加えて反応を終了させ、沈殿物を遠心分離により除去した。反応の途中、および終了時点で、このように反応液の一部を経時的に取り出して、ペーパークロマトグラフィー法による分析を行った結果を図3(上)に示した。3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸への還元反応は、未反応の3−デヒドロシキミ酸が消滅した90分で完了したことが明らかになった。
【0036】
また、別途サンプル液を、0.25μモルのNADP存在下、SKDH(酸化活性として1unit)と50mMグリシン− NaOH buffer(pH10.0)を加えて1時間反応させ、シキミ酸量を酵素変換した3−デヒドロシキミ酸量として340nmの吸光度で測定した結果を図3(下)に示した。その結果、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸への酵素反応は100%進行しており、ペーパークロマトグラフィーと一致した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、コーヒー糟などキナ酸を含む材料の有効利用が可能になり、また、シキミ酸およびシキミ酸経路の代謝中間体を原料とする医薬品等の有用物質の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】シキミ酸の製造方法における二工程を示した図面である。反応第一工程は、酢酸菌細胞膜存在下、キナ酸からGDHにより3−デヒドロキナ酸が生成し、3−デヒドロキナ酸からDQDにより3−デヒドロシキミ酸が生成することを表し、反応第二工程は、細胞質由来のGDHにより、NADP存在下、グルコースがグルコノ−δ−ラクトンとNADPHに変換することにより、3−デヒドロシキミ酸が細胞質由来のSKDHによりシキミ酸に変換されることを表している。
【図2】種々のpHにおける3−デヒドロシキミ酸生成を確認するために行ったペーパークロマトグラフィーの図面に代わる写真である。キナ酸(QA)、3−デヒドロキナ酸(DQA)、3−デヒドロシキミ酸(DSA)のスポットを表している。
【図3】(上)シキミ酸生成を確認するために、経時的に反応液0.1mlを取り出し、反応を停止させて行ったペーパークロマトグラフィーの図面に代わる写真である。シキミ酸(SKA)、3−デヒドロシキミ酸(DSA)のスポットを表している。(下)反応液の一部を経時的に取り出して酵素反応を行い、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸に変換された割合を表した図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シキミ酸を製造する方法において、1)酢酸菌由来の酵素存在下で、キナ酸から3−デヒドロシキミ酸を製造する第一工程、2)シキミ酸脱水素酵素(SKDH)とグルコース脱水素酵素(GDH)の共役下、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する第二工程、の各工程を経由することを特徴とするシキミ酸の製造方法。
【請求項2】
シキミ酸を製造する方法において、キナ酸から3-デヒドロシキミ酸を製造する第一工程の反応を、pH7〜pH9で行い、シキミ酸脱水素酵素(SKDH)とグルコース脱水素酵素(GDH)の共役下、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を製造する第二工程の反応を、pH6〜pH7で行うことを特徴とする請求項1に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項3】
第二工程における反応液が、NADPと、NADPに対し100〜10000倍モル濃度のグルコースを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項4】
第一工程で使用する酢酸菌由来の酵素が、キナ酸脱水素酵素(QDH)であることを特徴とする請求項1または2に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項5】
第二工程で使用するシキミ酸脱水素酵素(SKDH)、およびグルコース脱水素酵素(GDH)が、酢酸菌由来であることを特徴とする請求項1または2に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項6】
第二工程で使用する、シキミ酸脱水素酵素(SKDH)およびグルコース脱水素酵素(GDH)は、これら両方の酵素を共に生産する能力を有する酢酸菌から得られた両方の酵素を含む粗酵素液の状態で使用するか、あるいは酢酸菌から単離され、精製された2つの酵素として使用することを特徴とする請求項5に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項7】
酢酸菌が、Gluconobacter属菌であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項8】
Gluconobacter属菌が、Gluconobacter oxydans IFO 3244であることを特徴とする請求項7に記載のシキミ酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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