説明

シクロデキストリン包接体の製造方法

【課題】ホップ由来成分とシクロデキストリンとの包接体を製造するための新たな手段を提供すること。
【解決手段】シクロデキストリンにホップ由来成分が包接された包接体の製造方法。シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼと基質との反応によりシクロデキストリンを産生する反応系内に、ホップ由来成分を共存させる。ホップ由来成分を含む食品の製造方法。上記製造方法により包接体を製造し、製造した包接体を食品の原料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップ由来成分がシクロデキストリンに包接されたシクロデキストリン包接体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ホップ由来成分に抗菌作用、抗酸化作用、鎮静作用、アルドースリダクターゼ阻害作用、健胃作用等があることが明らかにされてきており(例えば特許文献1〜5参照)、健康食品や機能性食品の素材として注目を集めている。
【0003】
しかしホップ由来成分は独特の苦味を有するため、ホップ由来成分の含有率を高めると必然的に苦味が強まる。したがって、ホップ由来成分を高含有する食品を実現することは、従来困難とされていた。
【0004】
ところで、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(シクロデキストリン生成酵素;CGTase)を澱粉等のα−1,4−グルカンを有する基質に作用させて得られるシクロデキストリンは、立体的に見れば、いわば底のないバケツ様の構造であり、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、シクロデキストリンは空洞内部に特定の有機分子(ゲスト分子)を包み込むように取り込む現象(包接)を示すことが知られている。このシクロデキストリンの包接作用により、ゲスト分子の味、溶解性などを変化させることができるといわれている。
【0005】
そこで特許文献6では、上記シクロデキストリンの特徴を利用し、ホップ由来成分であるイソフムロンに起因する苦味を低減するために、イソフムロンをγ−シクロデキストリンに包接させることが提案されている。特許文献6に記載の方法では、イソフムロンとγ−シクロデキストリンとを、水性溶媒中で所定の割合で混合することによりイソフムロンとγ−シクロデキストリンとの包接体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−25081号公報
【特許文献2】特開平7−196572号公報
【特許文献3】特開2003−183174号公報
【特許文献4】特開2003−226640号公報
【特許文献5】特開2003−206238号公報
【特許文献6】国際公開第2007/066773号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献6で提案されているようにホップ由来成分をシクロデキストリンと包接することは、ホップ由来成分の苦味を低減するうえで有効な手段である。
かかる状況下、本発明は、ホップ由来成分とシクロデキストリンとの包接体を製造するための新たな手段を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、シクロデキストリン生成酵素を用いたCD産生反応系内にホップ由来成分を共存させることにより、シクロデキストリンとホップ由来成分との包接体を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼと基質との反応によりシクロデキストリンを産生する反応系内に、ホップ由来成分を共存させることを特徴とする、シクロデキストリンにホップ由来成分が包接された包接体の製造方法。
[2]産生されるシクロデキストリンは、γ−シクロデキストリンを含む[1]に記載の包接体の製造方法。
[3]前記ホップ由来成分は、ホップ由来のアルファ酸および/またはイソアルファ酸を含む[1]または[2]に記載の包接体の製造方法。
[4]前記ホップ由来成分は、イソフムロンを含む[3]に記載の包接体の製造方法。
[5]前記反応系内のpHは、8〜10の範囲である[1]〜[4]のいずれかに記載の包接体の製造方法。
[6]前記反応系内の基質濃度は3〜30質量%の範囲である[1]〜[5]のいずれかに記載の包接体の製造方法。
[7]前記反応系内に、1〜20容量%のホップ由来成分を共存させる[1]〜[6]のいずれかに記載の包接体の製造方法。
[8]前記反応系は、澱粉糊化液または澱粉液化液にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを添加したものである[1]〜[7]のいずれかに記載の包接体の製造方法。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の方法により包接体を製造し、製造した包接体を食品の原料として使用することを特徴とする、ホップ由来成分を含む食品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホップ由来成分−シクロデキストリン包接体の形成をシクロデキストリン産生反応と同時に行うことができるため、ホップ由来成分−シクロデキストリン包接体の製造効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】澱粉濃度10質量%のシクロデキストリン産生反応系における包接体含有量の経時変化を示すグラフである。
【図2】澱粉濃度3質量%のシクロデキストリン産生反応系における包接体含有量の経時変化を示すグラフである。
【図3】澱粉濃度15質量%のシクロデキストリン産生反応系における包接体含有量の経時変化を示すグラフである。
【図4】澱粉濃度20質量%のシクロデキストリン産生反応系における包接体含有量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の包接体の製造方法は、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼと基質との反応によりシクロデキストリンを産生する反応系内に、ホップ由来成分を共存させるものである。
ホップ由来成分をシクロデキストリンにより包接し包接体とすることは、ホップ由来成分に起因する苦味を低減するための有効な手段であり、上記包接体を食品に添加することにより、ホップ由来成分を高含有するが苦味が抑制された食品を提供することができる。本発明の製造方法によれば、この有用な包接体を、シクロデキストリンの生成と同一反応系内で形成することができる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。以下において、シクロデキストリンを「CD」とも記載する。
【0013】
本発明により製造される包接体は、CDの空洞内部にホップ由来成分が包接された複合体である。ホップ由来成分の原料であるホップ(Humulus lupulus L.)は、クワ科に属する多年生植物である。ホップ由来成分は、ホップの毬花(雌花)、毬果(未受精の雌花が成熟したもの)、葉、茎および/もしくは苞等(以下、ホップ原料という。)またはホップ原料の加工処理品(例えば加熱処理品)を水、食塩水、アルコール、エーテル、アセトンまたはヘキサン等の溶媒で抽出し、必要に応じて抽出液をろ過、濃縮、乾燥することにより得られたホップ抽出物であることができる。または、上記ホップ抽出物に加工処理を施したものでもよい。ホップ抽出物は、抽出乾燥されたものを粉末化して用いてもよいが、抽出方法によっては、抽出液をそのまま、または濃縮された液状物として用いることもできる。前記溶媒は、1種または2種以上を混合してもよい。また、水酸化アルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等を添加し、アルカリ性下で抽出してもよい。抽出は通常使用される抽出方法であればいずれでもよい。乾燥は、例えば加熱濃縮、減圧濃縮、凍結乾燥等の公知の手段またはこれらを組み合わせて行うことができる。なお、ホップ抽出物は市販品としても入手可能である。
【0014】
前記抽出により得られた抽出物は、そのままCD産生反応系に添加することもでき、抽出物をクロマトグラフィー法等の公知の方法で精製し、所望の成分を高純度化ないしは単離した後にCD産生反応系内に添加することもできる。更に、抽出物またはその精製品に加工処理を行い得られた生成物を、CD産生反応系内に添加することもできる。なお、CD産生反応系に添加しCDと包接体を形成させるホップ由来成分は、一種のみでもよく二種以上の混合物であってもよい。
【0015】
本発明においてCD産生反応系内に共存させることによりCDと包接体を形成するホップ由来成分の具体例としては、ホップ由来のアルファ酸およびイソアルファ酸を挙げることができる。ホップ由来のアルファ酸は、ホップ原料の抽出物として得られる成分であり、フムロン、アドフムロンおよびコフムロンからなる群から選ばれる少なくとも一種である。ホップ由来のイソアルファ酸とは、上記アルファ酸を異性化することにより得られるイソフムロン、イソアドフムロンおよびイソコフムロンからなる群から選ばれる少なくとも一種である。イソアルファ酸は、ホップ原料を加熱処理したものの抽出物として得ることができる。上記アルファ酸およびイソアルファ酸の調製方法については、例えば特開2003−226640号公報段落[0011]〜[0013]、国際公開第2007/066773号段落[0085]〜[0095]を参照できる。また、これらは市販品としても入手可能である。上記アルファ酸およびイソアルファ酸は、アルドースリダクターゼ阻害作用を有することが知られているため(特開2003−226640号公報参照)、これら成分を、その苦味を抑制しつつ高含有する食品を提供できれば、健康増進上、大きな利点となる。
【0016】
本発明により得られる包接体は、前記ホップ由来成分がCDの空洞内部に包接されていればよく、包接体1分子を構成するCDおよびホップ由来成分の分子数は特に限定されるものではない。例えば前述のアルファ酸およびイソアルファ酸については、シクロデキストリンの空洞の大きさおよびアルファ酸、イソアルファ酸の分子の大きさを考慮すると、シクロデキストリン2分子がアルファ酸、イソアルファ酸1分子を包接する包接体が優位に形成されると考えられる。
【0017】
シクロデキストリンは環状α−1,4−グルカンであり、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC2.4.1.19、以下「CGTase」という。)が澱粉等のα−1,4−グルカンに作用することにより、その分子内転移活性によって生成される。その重合度は主として6〜8であり、それぞれα−、β−、γ−CDと呼ばれる。ホップ由来成分と包接体を形成するシクロデキストリンは、α−、β−、γ−CDのいずれであってもよい。包接体形成効率の点からは、β−CDおよびγ−CDが好ましく、γ−CDがより好ましい。
【0018】
CGTaseは、その合成する主CDの種類によって、α−、β−、γ−、αβ−、βγ−CGTaseとして分類される。上記の通り、包接体を形成するCDとしては、β−CDおよびγ−CDが好ましく、γ−CDがより好ましいため、本発明において使用するCGTaseは、β−CGTase、βγ−CGTaseおよびγ−CGTaseが好ましく、γ−CGTaseがより好ましい。γ−CGTaseとしては、例えば特開2001−327284号公報、特開2001−327299号公報、特開2003−102489号公報等に記載されているCGTaseを使用することができる。
【0019】
なお、本発明においてCDに包接させるホップ由来成分は、一般に酸性条件下では不安定であり、例えば上記イソフムロンはpH3.5以下で分解が生じる。したがってCGTaseと基質との反応によりシクロデキストリンを産生する反応系は、共存するホップ由来成分を安定な状態で維持する観点から、中性〜塩基性条件とすることが好ましく、pH8〜10の範囲とすることがより好ましい。また、酵素反応では酵素の至適pHにおいて反応を行うことが好ましいため、本発明で使用するCGTaseとしては、中性〜塩基性領域(好ましくはpH8〜10)に至適pHを有するものを選択することが望ましい。
【0020】
上記反応に使用される基質は主に澱粉であるが、澱粉以外にも澱粉の組成画分、デキストリン、アミロペクチン、アミロース等のα−グルカンを有する各種成分を使用することができる。基質が澱粉の場合、上記反応系は澱粉糊化液または澱粉を予め加熱して液化処理した澱粉液化液にCGTaseを添加したものであることができる。
【0021】
上記反応系の基質濃度は、CD産生効率の観点からは3質量%以上が好ましい。ただし基質濃度が高すぎると反応液がゲル化し反応の著しい律速となる。この観点からは、基質濃度は30質量%以下であることが好ましい。CD産生反応を良好に進行させるためには、基質濃度は3〜20質量%であることがより好ましく、10〜13質量%であることが更に好ましい。一方、CGTaseの使用量は、CGTaseの種類により適宜調整することができるが、通常、乾燥基質1gあたり0.5〜300U程度である。
また、上記反応系に共存させるホップ由来成分量は、包接体の形成効率の点から1容量%以上とすることが好ましい。その上限は特に限定されるものではないが、ホップ由来成分が多量に存在する環境下では基質が老化する傾向があるため、基質の老化を抑制する観点からは、上記反応系に共存させるホップ由来成分量は、20容量%以下とすることが好ましく、10容量%以下とすることがより好ましい。CGTase、基質、イソフムロンの添加順序は特に限定されるものではなく、全成分を同時に混合してもよく各成分を順次混合してもよい。反応系の温度は、使用するCGTaseの至適温度とすることが好ましく、CGTaseにもよるが、通常50〜70℃程度である。反応時間は使用するCGTaseの種類に応じて決定すればよく、CGTaseの種類にもよるが、通常1〜100時間程度である。なお、酵素反応は通常、有機溶媒不存在下、水中で行われるため食品への適用に適する点も本発明の利点である。その他の反応条件および反応時の操作は、CGTaseによるCD産生反応において通常採用される通りとすることができる。
【0022】
更に本発明によれば、
本発明の製造方法により包接体を製造し、製造した包接体を食品の原料として使用することを特徴とする、ホップ含有成分を含む食品の製造方法、
が提供される。
【0023】
CDにホップ由来成分が包接された包接体の製造方法の詳細は先に説明した通りである。製造された包接体は、公知の方法により反応系から分離することができる。例えば、反応液を遠心分離などの固液分離法に付すことにより固形分を分離し、この固形分に必要に応じて加水洗浄、再固液分離を行い、包接体をペースト状物質として得ることができる。更に得られたペースト状物質を、噴霧乾燥、凍結乾燥等に付し、包接体を固形物質として得ることもできる。本発明の食品の製造方法では、上記方法で得られたペースト状物質または固体物質を、食品原料として使用することができる。包接体とすることにより食品においてホップ由来成分に起因する苦味を低減することができるため、ホップ由来成分をそのまま配合する場合と比べてホップ由来成分の配合量を高めることが可能となる。これにより健康増進上の有用性が期待されるホップ由来成分を高含有する食品を提供することができる。例えば、前記包接体を食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり20mg〜150mg、好ましくは35mg〜55mg程度の摂取量となるように配合することができる。なお、国際公開第2007/066773号段落[0105]に記載されているように、ホップ由来成分とCDとの包接体を利用した飲食物をヒトが摂取した場合、小腸上部でホップ由来成分がCDと解離し、すみやかに腸管吸収され、ホップ由来成分に認められている各種の有用生理作用は何ら阻害されないと考えられる。
【0024】
本発明により製造される食品は、本発明の製造方法により得られた包接体を前記ペースト状物質または固形物質としてそのまま食品として調製したものであってもよく、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状または固体状にしたもの、ペースト状のもの、一般の食品へ添加したものであってもよい。本発明において「食品」は、哺乳動物が摂取可能なものであればその形態に特に制限はない。
【0025】
本発明において「食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。上記健康食品はまた、通常の食品の形状であっても、栄養補助食品の形状(例えば、サプリメント)であってもよい。ここで栄養補助食品の形状とは、錠剤、カプセル(軟カプセル、硬カプセル)、粉末、スティック、ゼリーなどが挙げられる。また「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料であってもよい。また、「特定保健用食品」とは、機能等を表示して食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0026】
上記食品としては、具体的には、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイなどのアルコール飲料;果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、スポーツ飲料、ミネラルウォーターなどの非アルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに限定されるものではない
【0027】
本発明のより好ましい態様によれば、前記包接体の配合対象である食品としては、アルコール飲料(ビール、発泡酒等)や非アルコール飲料(例えば、清涼飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、茶飲料、乳飲料等)が挙げられる。
【0028】
本発明により提供される飲料(飲料形態の健康食品や機能性食品を含む)の製造に当たっては、通常の飲料の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤などを適宜添加することができる。飲料の製造に当たってはまた、当分野で公知の製造技術を参照することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に示した態様に限定されるものではない。以下に記載の「%」は、特記しない限り「質量%」を示すものとする。
【0030】
1.包接体の形成
澱粉糊化液(可溶性デンプン水溶液、澱粉濃度3%、10%、15%、20%)を調製後、イソフムロン30容量%水溶液(三菱商事製)を液量に応じて、系内のイソフムロン量が0〜10容量%となる量で添加した。調製した溶液は、NaOHを用いてpH9.3に調整し、53℃に保温した。その後、各溶液に、特開2001−327284号公報の実施例1に記載のγ−CGTaseを、澱粉1gあたり0.6〜2.4U添加しCD産生反応を開始した。反応液を経時的にサンプリングし、下記HPLC条件により生成物を確認したところ、イソフムロンを添加した反応系では、γ−CDおよびγ−CD2分子に対してイソフムロンが1分子包接された包接体が検出された。これに対し、イソフムロン無添加の反応系ではγ−CDは検出されたが上記包接体は検出されなかった。以上の結果から、CD産生反応系内で、CD産生とともにイソフムロンとCDとの包接体が形成されたことが確認できる。その後、反応液を80℃に加温し酵素を失活させることで反応を停止した。
HPLC条件
カラム :Aminex HPX-42A (Φ 7.8×300 mm、Bio-Rad製)
溶離液 :H2O
流速 :0.5 ml/min
カラム温度 :55 ℃
注入量 :10μl
検出器 :屈折率
【0031】
2.包接体形成量の確認(1)
澱粉濃度10%の澱粉糊化液に、イソフムロンを1容量%、5容量%または10容量%添加した後にγ−CGTase2.4U(澱粉1gあたり)を添加し反応させたときの包接体含有量の経時変化を図1に示す。包接体含有量は、標準品を用いて予め検量線を作成した後、HPLCのピーク面積から求めた。イソフムロン添加量の増加に伴い包接体含有量は増加し、イソフムロン添加量10容量%において 包接体含有量は300mgに達した。
【0032】
3.包接体形成量の確認(2)
低基質濃度での包接体形成量を確認するため、澱粉濃度3%の澱粉糊化液にイソフムロンを10容量%添加した後に、γ−CGTaseを澱粉1gあたり0.6〜2.4U添加し反応させたときの包接体含有量の経時変化を図2に示す。γ−CGTaseの添加量が多いほど多量の包接体を形成できることが確認された。
【0033】
4.包接体形成量の確認(3)
澱粉濃度15%および20%の澱粉糊化液に、イソフムロンを3容量%、5容量%、または10容量%添加した後に、γ−CGTase0.6〜2.4U(澱粉1gあたり)を添加し反応させたときの包接体含有量の経時変化を図3および図4に示す。いずれの反応系でもイソフムロン添加量の増加に伴い包接体含有量の増大が観察された。
【0034】
以上の結果から、本発明により、酵素によるCD産生反応と包接体の形成とを同一反応系内で行うことができることが確認された。得られた包接体は、公知の方法により反応系から分離することにより、各種食品の原料として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、食品分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼと基質との反応によりシクロデキストリンを産生する反応系内に、ホップ由来成分を共存させることを特徴とする、シクロデキストリンにホップ由来成分が包接された包接体の製造方法。
【請求項2】
産生されるシクロデキストリンは、γ−シクロデキストリンを含む請求項1に記載の包接体の製造方法。
【請求項3】
前記ホップ由来成分は、ホップ由来のアルファ酸および/またはイソアルファ酸を含む請求項1または2に記載の包接体の製造方法。
【請求項4】
前記ホップ由来成分は、イソフムロンを含む請求項3に記載の包接体の製造方法。
【請求項5】
前記反応系内のpHは、8〜10の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の包接体の製造方法。
【請求項6】
前記反応系内の基質濃度は3〜30質量%の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の包接体の製造方法。
【請求項7】
前記反応系内に、1〜20容量%のホップ由来成分を共存させる請求項1〜6いずれか1項に記載の包接体の製造方法。
【請求項8】
前記反応系は、澱粉糊化液または澱粉液化液にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを添加したものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の包接体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により包接体を製造し、製造した包接体を食品の原料として使用することを特徴とする、ホップ由来成分を含む食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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