説明

シクロプロペン複合体組成物

【課題】少量の水を含み、かつ多量のシクロプロペンを有するシクロプロペン複合体を含有する組成物を提供する。
【解決手段】(a)1種以上のシクロプロペン複合体、および(b)組成物の重量を基準にして0〜10重量%の水を含む組成物であって、当該組成物中のシクロプロペンの、当該組成物中の分子封入剤に対するモル比が0.92:1もしくはそれより高いか、または当該組成物は粉体の形態であり、当該粉体の代表サンプルの二次元画像において、当該サンプルの当該画像における当該シクロプロペン複合体のすべての粒子のすべての画像の領域を基準にして20%以上の、当該シクロプロペン複合体の粒子の画像の領域が、10マイクロメートル以上の幅寸法を有する当該シクロプロペン複合体の粒子の形態である組成物が提供される。シクロプロペン複合体を含む組成物を製造する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シクロプロペン複合体(すなわち、1以上の分子封入剤により封入された1以上のシクロプロペン)を提供することがしばしば有用である。
【背景技術】
【0002】
場合によっては、シクロプロペン複合体は水に分子封入剤を溶解し、次いでシクロプロペンをその液体溶液中に導入することによって製造される。通常、その水は混合物から除かれ、シクロプロペン複合体が粉体として貯蔵され、輸送され、および取り扱われうる。例えば、米国特許第6,953,540号は封入されたシクロプロペンを製造する連続方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,953,540号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのような公知の方法に共通する欠点は、水を除去する操作がシクロプロペン複合体から幾分かのシクロプロペンを放出させることである。シクロプロペン複合体から放出されるシクロプロペンは、通常は、大気中に拡散することにより、他の分子との衝突による分解により、別のメカニズムにより、またはこれらの組み合わせにより失われる。少量の水を含み、かつ多量のシクロプロペンを有するシクロプロペン複合体を含有する組成物を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様においては、
(a)1種以上のシクロプロペン複合体、および
(b)組成物の重量を基準にして0〜10重量%の水
を含む組成物であって、当該組成物におけるシクロプロペンの、当該組成物における分子封入剤に対するモル比が0.92:1もしくはそれより高い組成物が提供される。
本発明の第2の態様においては、
(a)組成物の重量を基準にして80重量%以上の1種以上のシクロプロペン複合体、および
(b)組成物の重量を基準にして0〜10重量%の水
を含む組成物であって、当該組成物が粉体であり、当該粉体の代表サンプルの2次元画像において、当該サンプルの当該画像における当該シクロプロペン複合体のすべての粒子のすべての画像の領域を基準にして20%以上の、当該シクロプロペン複合体の粒子の画像の領域が、10マイクロメートル以上の幅寸法を有する当該シクロプロペン複合体の粒子の形態である、組成物が提供される。
本発明の第3の態様においては、1種以上のシクロプロペン複合体を含む組成物を製造する方法であって、
(i)水、シクロプロペンおよび分子封入剤を、15分以上の滞留時間の連続反応器に添加する工程、
(ii)水およびシクロプロペン複合体を含む物質を当該連続反応器から取り出す工程、および
(iii)その後、当該物質から水を除去して組成物を形成する工程
を含み、水を除去する前記工程の後で当該組成物中に残る水の量が当該組成物の重量を基準にして0〜10重量%である、方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書において使用される、比率が「X:1もしくはそれより高い」と称される場合には、その比率はY:1、ただしYはXより大きいかまたはXと同じである、あらゆる比率であるとみなされる。
【0007】
本発明の実施は1種以上のシクロプロペンの使用を伴う。本明細書において使用される「シクロプロペン」は下記の式を有する任意の化合物である:
【0008】
【化1】

【0009】
式中、R、R、RおよびRのそれぞれは、独立に、Hおよび式:
−(L)−Z
の化学基(式中、nは0〜12の整数である)からなる群から選択される。各Lは二価の基である。好適なL基には、例えば、H、B、C、N、O、P、S、Siまたはこれらの混合から選択される1種以上の原子を含む基が挙げられる。L基内の原子は単結合、二重結合、三重結合またはそれらの混合により互いに連結されうる。各L基は直鎖、分岐、環式またはそれらの組み合わせであってよい。任意の1つのR基(すなわち、R、R、RおよびRの任意の1つ)において、ヘテロ原子(すなわち、HでもなくCでもない原子)の総数は0〜6である。独立に、任意の1つのR基において、水素でない原子の総数は50以下である。各Zは一価の基である。各Zは、独立に、水素、ハロ、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロラート(chlorate)、ブロマート(bromate)、ヨーダート(iodate)、イソシアナト、イソシアニド、イソチオシアナト、ペンタフルオロチオおよび化学基G(ただし、Gは3〜14員環系である)からなる群から選択される。
【0010】
、R、RおよびR基は、独立に、好適な基から選択される。R、R、RおよびR基は、互いに同じであってもよく、またはそれらの任意の数のものが他のものと異なっていてもよい。R、R、RおよびRの1以上として使用するのに好適な基としては、例えば、脂肪族基、脂肪族オキシ基、アルキルホスホナト基、脂環式基、シクロアルキルスルホニル基、シクロアルキルアミノ基、複素環式基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シリル基、他の基、並びに、これらの混合および組み合わせがある。R、R、RおよびRの1以上として使用するのに好適な基は、置換されていてもよく、または非置換であってもよい。独立して、R、R、RおよびRの1以上として使用するのに好適な基は、シクロプロペン環に直接結合されていてもよいし、または介在する基、例えばヘテロ原子含有基を介してシクロプロペン環に結合されていてもよい。
【0011】
好適なR、R、RおよびR基には、例えば、脂肪族基がある。いくつかの好適な脂肪族基としては、例えば、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基が挙げられる。好適な脂肪族基は、直鎖、分岐、環式またはそれらの組み合わせであってよい。独立して、好適な脂肪族基は置換されていてもよいし、または非置換であってもよい。
【0012】
本明細書において使用されるものとして、着目した化学基の1以上の水素原子が置換基によって置き換えられている場合に、着目した化学基が「置換」されていると称される。そのような置換基は、これに限定されるものではないが、興味のある化学基の非置換形態を製造し、次いで置換を行うことをはじめとする任意の方法で製造されうる。好適な置換基には、例えば、アルキル、アルケニル、アセチルアミノ、アルコキシ、アルコキシアルコキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシイミノ、カルボキシ、ハロ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、アルキルスルホニル、アルキルチオ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、およびこれらの組み合わせが挙げられる。存在する場合には、単独でまたは他の好適な置換基と組み合わせて存在することができる、追加の好適な置換基は
−(L)−Z
(式中、mは0〜8であり、LおよびZは上述の通り定義される)である。着目した1つの化学基上に2以上の置換基が存在する場合には、各置換基は異なる水素原子と置き換わることができるか、または1つの置換基が別の置換基に結合し、この別の置換基が、着目した化学基に結合することができ、またはこれらの組み合わせであってよい。
【0013】
好適なR、R、RおよびR基には、例えば、置換および非置換の脂肪族オキシ基、例えば、アルケノキシ、アルコキシ、アルキノキシ、およびアルコキシカルボニルオキシがある。
【0014】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、置換および非置換のアルキルホスホナト、置換および非置換のアルキルホスファト、置換および非置換のアルキルアミノ、置換および非置換のアルキルスルホニル、置換および非置換のアルキルカルボニル、並びに置換および非置換のアルキルアミノスルホニルがあり、例えば、アルキルホスホナト、ジアルキルホスファト、ジアルキルチオホスファト、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニルおよびジアルキルアミノスルホニルがある。
【0015】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、置換および非置換のシクロアルキルスルホニル基、並びにシクロアルキルアミノ基があり、例えば、ジシクロアルキルアミノスルホニルおよびジシクロアルキルアミノがある。
【0016】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、置換および非置換の複素環式基(すなわち、少なくとも1つのヘテロ原子を環に有する芳香族または非芳香族環式基)がある。
【0017】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、介在するオキシ基、アミノ基、カルボニル基またはスルホニル基を介してシクロプロペン化合物に結合される置換および非置換の複素環式基があり;そのようなR、R、RおよびR基の例には、ヘテロサイクリルオキシ、ヘテロサイクリルカルボニル、ジヘテロサイクリルアミノおよびジヘテロサイクリルアミノスルホニルがある。
【0018】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、置換および非置換のアリール基がある。好適な置換基は上述のものである。ある実施形態においては、少なくとも1つの置換基がアルケニル、アルキル、アルキニル、アセチルアミノ、アルコキシアルコキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、カルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、アリールアミノ、ハロアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、アルキルスルホニル、スルホニルアルキル、アルキルチオ、チオアルキル、アリールアミノスルホニルおよびハロアルキルチオの1以上である、1以上の置換アリール基が使用される。
【0019】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、介在するオキシ基、アミノ基、カルボニル基、スルホニル基、チオアルキル基またはアミノスルホニル基を介してシクロプロペン化合物に結合される、置換および非置換の複素環式基があり;そのようなR、R、RおよびRの例には、ジへテロアリールアミノ、ヘテロアリールチオアルキルおよびジへテロアリールアミノスルホニルがある。
【0020】
また、好適なR、R、RおよびR基には、例えば、水素、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロラト、ブロマト、ヨーダト、イソシアナト、イソシアニド、イソチオシアナト、ペンタフルオロチオ;アセトキシ、カルボエトキシ、シアナト、ニトラト、ニトリト、ペルクロラト、アレニル;ブチルメルカプト、ジエチルホスホナト、ジメチルフェニルシリル、イソキノリル、メルカプト、ナフチル、フェノキシ、フェニル、ピペリジノ、ピリジル、キノリル、トリエチルシリル、トリメチルシリル;およびこれらの置換類似体がある。
【0021】
本明細書において使用される、化学基Gは3〜14員環系である。化学基Gとして好適な環系は置換されていても、または非置換であってもよく;それらは、芳香族(例えば、フェニルおよびナフチルなど)であっても、または脂肪族(例えば、不飽和脂肪族、部分飽和脂肪族、または飽和脂肪族)であってもよく;かつ、それらは炭素環式であっても、または複素環式であってもよい。複素環式G基においては、いくつかの好適なヘテロ原子は、例えば、窒素、硫黄、酸素およびこれらの組み合わせである。化学基Gとして好適な環系は単環式、二環式、三環式、多環式、スピロまたは縮合であってよく;二環式、三環式または縮合である好適な化学基G環系においては、1つの化学基Gにおける様々な環がすべて同じ種類であり得るか、または2以上の種類のもの(例えば、芳香族環が脂肪族環と縮合されうる)であり得る。
【0022】
ある実施形態において、Gは飽和または不飽和3員環を含む環系であり、例えば置換または非置換のシクロプロパン、シクロプロペン、エポキシドまたはアジリジン環である。
【0023】
ある実施形態において、Gは4員複素環を含む環系であり;そのような実施形態のいくつかにおいては、その複素環式環は1つだけのヘテロ原子を含む。独立に、ある実施形態においては、Gは5以上のメンバーを有する複素環式環を含む環系であり;そのような実施形態のいくつかにおいては、複素環式環は1〜4つのヘテロ原子を含む。独立に、ある実施形態においては、Gにおける環は非置換であり;他の実施形態においては、環系は1〜5つの置換基を含み;Gが置換基を含む実施形態のいくつかにおいては、各置換基は独立に、上述した置換基から選択される。また、好適なのはGが炭素環式環系である実施形態である。
【0024】
ある実施形態においては、各Gは、独立に、置換または非置換のフェニル、ピリジル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘプチル、ピロリル、フリル、チオフェニル、トリアゾリル、ピラゾリル、1,3−ジオキソラニルまたはモルホリニルである。これらの実施形態には、例えばGが非置換または置換のフェニル、シクロペンチル、シクロヘプチルまたはシクロヘキシルであるこれらの実施形態が挙げられる。これらの実施形態のいくつかにおいて、Gはシクロペンチル、シクロヘプチル、シクロヘキシル、フェニルまたは置換フェニルである。Gが置換フェニルである実施形態には、例えば1、2または3つの置換基が存在する実施形態がある。独立に、Gが置換フェニルである実施形態には、例えば、置換基が独立に、メチル、メトキシおよびハロから選択される実施形態がある。
【0025】
およびRが組み合わさって単一の基になり、その単一の基が二重結合によってシクロプロペン環の3位の炭素原子に結合される実施形態も意図される。そのような化合物のいくつかは米国特許出願公開第2005/0288189号に記載される。
【0026】
ある実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が水素である1種以上のシクロプロペンが使用される。ある実施形態においては、RもしくはR、またはRとRの両方が水素である。独立して、ある実施形態においては、RもしくはR、またはRとRの両方が水素である。ある実施形態においては、R、RおよびRが水素である。
【0027】
ある実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が二重結合を有しない構造である。独立に、ある実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が三重結合を有しない構造である。独立に、ある実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上がハロゲン原子置換基を有しない構造である。独立に、ある実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が、イオン性の置換基を有しない構造である。
【0028】
ある実施形態においては、R、R、RおよびRの1以上が水素または(C−C10)アルキルである。ある実施形態においては、R、R、RおよびRのそれぞれが水素または(C−C)アルキルである。ある実施形態においては、R、R、RおよびRのそれぞれが水素または(C−C)アルキルである。ある実施形態においては、R、R、RおよびRのそれぞれが水素またはメチルである。ある実施形態においては、Rが(C−C)アルキルであり、かつR、RおよびRのそれぞれが水素である。ある実施形態においては、Rがメチルであり、かつR、RおよびRのそれぞれが水素であり、このシクロプロペンは本明細書において1−メチルシクロプロペン(「1−MCP」)と称される。
【0029】
ある実施形態において、1気圧で50℃以下;または25℃以下;または15℃以下の沸点を有するシクロプロペンが使用される。独立に、ある実施形態において、1気圧で−100℃以上;−50℃以上;または−25℃以上;または0℃以上の沸点を有するシクロプロペンが使用される。
【0030】
本発明の実施は、1種以上の分子封入剤(molecular encapsulating agent)の使用を伴う。好適な分子封入剤には、例えば、有機および無機分子封入剤が挙げられる。好適な有機分子封入剤には、例えば、置換シクロデキストリン、非置換シクロデキストリン、およびクラウンエーテルが挙げられる。好適な無機分子封入剤には、例えば、ゼオライトが挙げられる。好ましい分子封入剤は使用される単一種または複数種のシクロプロペンの構造に応じて変化するであろう。
【0031】
ある実施形態においては、分子封入剤は1種以上のシクロデキストリンを含む。ある実施形態においては、使用されるすべての分子封入剤はシクロデキストリンである。
【0032】
シクロデキストリンは、6以上のグルコース単位から造られる構造を有し、その分子がコーン型構造である化合物である。本明細書において使用されるものとして、シクロデキストリンが特定のグルコース単位から造られることの説明は、そのシクロデキストリン分子の構造の記載として理解され、そのシクロデキストリン分子はその特定のグルコース分子を反応させることにより実際に製造されてもよいし、そのように製造されなくてもよい。シクロデキストリンは32のグルコース単位から造られていてもよい。6、7および8つのグルコース単位から造られているシクロデキストリンは、それぞれ、アルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリン、およびガンマ−シクロデキストリンとして知られている。いくつかのシクロデキストリンは、例えば、Wacker Biochem Inc.,エードリアン、ミシガン州、および他の業者から入手可能である。
【0033】
シクロデキストリンにおけるグルコース単位の数とは独立して、「シクロデキストリン」と称される化合物の種類は、本明細書においては、シクロデキストリン分子の誘導体も包含するものとみなされる。すなわち、用語「シクロデキストリン」は、本明細書においては、6以上のグルコース単位から造られている構造を有するコーン型構造である分子に適用され、およびそのような分子の誘導体が分子封入剤として機能しうる場合にはそのような分子の誘導体にも適用される。ある好適な誘導体は、例えば、シクロデキストリンにアルキル基(例えば、メチル基)を付加することにより形成される(または形成されることもありうる)構造を有する分子である。いくつかの他の誘導体は、例えば、シクロデキストリンにヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシプロピル基)を付加することにより形成される(または形成されることもありうる)構造を有する分子である。「シクロデキストリン」と見なされるいくつかの誘導体は、例えば、部分的にメチル化されたベータ−シクロデキストリンおよび部分的にヒドロキシプロピル化されたアルファ−シクロデキストリンである。
【0034】
ある実施形態においては、アルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリンまたはガンマ−シクロデキストリンの1種類だけが使用される。ある実施形態においては、アルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリンおよびガンマ−シクロデキストリンの2種以上の混合物が使用される。ある実施形態においては、アルファ−シクロデキストリンが使用される。ある実施形態においては、アルファ−シクロデキストリン以外の分子封入剤は使用されない。
【0035】
好適な分子封入剤の混合物も好適である。
【0036】
本発明は1種以上のシクロプロペン複合体を伴う。シクロプロペン複合体は1種以上の分子封入剤が1種以上のシクロプロペンまたは1種以上のシクロプロペンの部分を封入している(encapsulate)組成物である。
【0037】
ある実施形態においては、少なくとも1種のシクロプロペン複合体は包接複合体である。そのような包接複合体においては、分子封入剤は空洞を形成し、シクロプロペンまたはシクロプロペンの部分がその空洞内に配置される。そのような包接複合体のいくつかにおいては、シクロプロペンと分子封入剤との間で共有結合は存在しない。独立に、そのような包接複合体のいくつかにおいては、シクロプロペンの1以上の極性部分と分子封入剤の1以上の極性部分との間の何らかの静電気引力があるかどうかに関わらず、シクロプロペンと分子封入剤との間でイオン結合は存在しない。
【0038】
独立に、そのような包接複合体のいくつかにおいて、分子封入剤の空洞の内側は実質的に無極性もしくは疎水性またはその両方であり、シクロプロペン(またはその空洞内に配置されるシクロプロペンの部分)も実質的に無極性もしくは疎水性またはその両方である。本発明は何らかの特定の理論またはメカニズムに限定されるものではないが、そのような無極性シクロプロペン複合体においては、ファンデルワールス力もしくは疎水性相互作用、またはその両方はシクロプロペン分子またはその部分が分子封入剤の空洞内にとどまるようにすると考えられる。
【0039】
シクロプロペン複合体は、分子封入剤のモル数の、シクロプロペンのモル数に対する比率によって有用に特徴づけられうる。シクロプロペンの、分子封入剤に対するモル比は0.92:1もしくはそれより高い。ある実施形態においては、シクロプロペンの、分子封入剤に対するモル比は0.95:1もしくはそれより高く;または、0.97:1もしくはそれより高く;または、0.98:1もしくはそれより高い。独立に、ある実施形態においては、シクロプロペンの、分子封入剤に対するモル比は1.5もしくはそれより低く;または、1.2もしくはそれより低く;または、1.0もしくはそれより低い。
【0040】
本発明の組成物は組成物の重量を基準にして、0〜10重量%の量の水を含む。ある実施形態は0%の水を含む。ある実施形態においては、水の量は組成物の重量を基準として、8重量%以下;または、6重量%以下である。独立に、ある実施形態においては、水の量は、組成物の重量を基準にして、2重量%以上;または4重量%以上である。
【0041】
ある実施形態において、本発明の組成物におけるシクロプロペン複合体の量は、組成物の重量を基準にして50重量%以上;または、80重量%以上;または、90重量%以上である。
【0042】
水の重量とシクロプロペン複合体の重量との合計を決定することにより、本発明の組成物を特徴づけることが場合によっては有用である。ある実施形態においては、その合計の量は、組成物の重量を基準にして、98%以上、または99%以上である。
【0043】
本発明のある実施形態(ここでは、「粉体実施形態」と称する)においては、組成物は粉体の形態であり、組成物中のシクロプロペン複合体の量は、組成物の重量を基準にして80重量%以上である。
【0044】
粉体粒子のサイズを観察することにより、粉体実施形態における粒子を特徴づけることが場合によっては有用である。1つの有用な方法は「画像領域」方法であり、これは次のように行われる。着目した粉体の代表サンプルが、その粒子のすべてまたはほとんどすべてが他の粒子と重ならないように、平坦な面上に広げられる。その粒子は次いで、例えば、粒子の二次元画像を、例えば光学顕微鏡により作成することによって観察される。各粒子の画像が観察され、各粒子の画像の領域が記録される。
【0045】
さらに、各粒子の画像が観察され、その粒子の画像の最も短い放射状線区分の長さとして本明細書において定義される、その幅寸法(width dimension)を決定する。本明細書において使用される「放射状線区分」は、粒子の画像の幾何学的中心を通って、その粒子の画像の周囲上にその終点を有する線区分である。
【0046】
本明細書において使用される、粒子の画像の広がり寸法(breadth dimension)は、最も短い放射状線区分に対して垂直な、粒子の画像の放射状線区分の長さとしてここで定義される。ある場合には、粒子の画像は長方形またはほぼ長方形であり、画像の領域の有用な推定は幅寸法に広がり寸法をかけることによりなされる。
【0047】
粉体のサンプルを特徴づける1つの有用な方法は、相対的に大きなサイズの粒子の形態であるサンプルの画像の領域のパーセンテージを観察することである。本発明のある実施形態においては、サンプルにおけるすべての粒子のすべての画像の全領域を基準にして20%以上の、サンプルにおける粒子の画像の領域が、10マイクロメートル以上の幅寸法を有する粒子の形態である。ある実施形態において、10マイクロメートル以上の幅寸法を有する粒子の形態である、サンプルにおける粒子の画像の領域の量は、サンプルにおけるすべての粒子のすべての画像の全領域を基準にして、30%以上;または50%以上;または75%以上;または85%以上である。ある実施形態においては、20マイクロメートル以上の幅寸法を有する粒子の形態であるサンプルにおける粒子の画像の領域の量は、サンプルにおけるすべての粒子のすべての画像の全領域を基準にして、20%以上;または30%以上;または50%以上;または75%以上;または85%以上である。ある実施形態においては、50マイクロメートル以上の幅寸法を有する粒子の形態であるサンプルにおける粒子の画像の領域の量は、サンプルにおけるすべての粒子の全領域を基準にして、20%以上;または30%以上;または50%以上;または75%以上;または85%以上である。
【0048】
サンプルにおける粒子は画像の面に対して垂直に測定される何らかの深さ寸法を有するであろう。本発明を、粒子の深さ寸法に関する何らかの特定の仮定に限定するものではないが、上記定義のような粒子の画像領域が粒子の体積および質量に相関するであろうことが考えられる。よって、上記定義のような画像領域方法は、サンプルの質量または体積の相対的に多くの量が相対的に大きな粒子の形態で存在する粒子の収集の有用な評価を提供するであろうことが考えられる。
【0049】
シクロプロペン複合体の形成が起こる容器は、本明細書において「反応器」と称される。
【0050】
ある実施形態において、本発明は連続方法を用いてシクロプロペン複合体を製造することを伴う。連続方法においては、シクロプロペン複合体が反応器から取り出されるのと同じ時点で、少なくとも1つの成分が反応器に添加される。連続方法が行われる反応器は本明細書において「連続反応器」と称される。それぞれの成分の添加は、独立に、連続的であってもよいし、または時には中断されてもよい。シクロプロペン複合体の取出しは連続的であってもよいし、または時には中断されてもよい。連続の実施形態においては、成分は1以上の流れで反応器に添加される。それぞれの流れは1成分または2以上の成分の混合物を含むことができる。
【0051】
水および分子封入剤は連続反応器に添加される。水および分子封入剤は別々に添加されることができ、または水中での分子封入剤の溶液もしくはスラリーとして添加されることができる。水中での分子封入剤の溶液またはスラリーが使用される場合には、追加の水、または追加の分子封入剤、またはその両方が場合によっては、溶液またはスラリーとは別に添加されることができる。溶液またはスラリーが使用される場合には、溶液またはスラリー中の分子封入剤の濃度は、反応器の温度における水中での分子封入剤の溶解度よりも低くてもよいし、その溶解度と同じであってもよいし、またはその溶解度よりも高くてもよい。
【0052】
シクロプロペンも連続反応器に添加される。シクロプロペンはどのような方法で添加されてもよい。ある実施形態においては、シクロプロペンは反応器の温度で気体状である。ある実施形態においては、反応器はなんらかの液体を含み、反応器に気体状のシクロプロペンを添加する1つの好適な方法は、過剰な圧力を用いて気体状のシクロプロペンを反応器中の液体の表面より下の点で、反応器に入れることである。
【0053】
場合によっては、追加の成分(すなわち、シクロプロペン、分子封入剤および水以外の成分)が反応器に添加されてもよい。例えば、方法の生成物が粉体である場合には、その粉体の流動特性の能力を向上させるであろう物質が反応器に添加されうる。ある実施形態においては、追加の成分は反応器に添加されない。
【0054】
シクロプロペン複合体は反応器中で形成されるであろうことが意図される。
【0055】
シクロプロペン複合体および水は連続的に、場合によっては時に中断しつつ、取り出される。他の物質、例えば、シクロプロペン複合体の一部にならないシクロプロペン、シクロプロペン複合体の一部にならない分子封入剤、不純物(存在する場合には)、副生成物(形成される場合には)、追加の成分(もしあれば)、他の物質、およびこれらの混合物など、も連続的に取り出されうることが意図される。
【0056】
体積添加速度(すなわち、反応器に添加されるすべての物質の添加速度;単位時間あたりの体積の単位で表される)によって連続反応器を特徴づけることが有用である。体積取出し速度(すなわち、反応器から取り出されるすべての物質の取り出しの速度;単位時間あたりの体積の単位で表される)によって連続反応器を特徴づけることも有用である。体積添加速度および体積取出し速度は、おそらくは互いに独立に、それぞれ比較的少量変動することができ、ここで論じられるそれらの速度は平均値である。
【0057】
ある実施形態(ここでは、「体積定常」実施形態と称する)においては、体積添加速度が体積取出し速度と等しい間の一定の時間に、連続反応器が操作される。そのような実施形態においては、反応器は、反応器の内容物の体積を体積添加速度で割ることにより算出される「滞留時間」により特徴づけられうる。体積添加速度と体積取出し速度とが正確に等しくなくても、この2つの速度の間の不均衡が反応器の内容物の体積における何らかの結果的な変化を生じさせないならば、ここでは、体積添加速度は体積取出し速度に「等しい」とみなされる。本明細書において使用されるものとして、反応器の内容物の体積における結果的な変化とは、反応器の内容物の体積を基準にして、5%以上の増加または減少の変化である。
【0058】
本発明のいくつかの体積定常実施形態においては、シクロプロペン複合体は、15分以上;または1時間以上;または2時間以上;または4時間以上の滞留時間を有する連続反応器において製造される。独立して、ある実施形態においては、シクロプロペン複合体は、24時間以下;または10時間以下の滞留時間を有する連続反応器において製造される。
ある体積定常実施形態において、方法の様々な他のパラメータ、例えば、温度、各成分の濃度、およびシクロプロペン複合体の濃度も一定である。
【0059】
ある体積定常実施形態において、方法の開始の時点で、方法の1以上の条件(反応器内容物の温度、成分の濃度、シクロプロペン複合体の濃度、流速、またはこれらの組み合わせ)は、体積定常条件に到達する場合に達成するであろう値とは異なる値を有する。体積定常条件が達成されると、その方法はその条件で、有意な時間の間操作されるであろうことが意図される。ある実施形態においては、使用されるほとんどまたはすべてのシクロプロペン複合体が、反応器が体積定常条件にある間に生産される。
【0060】
ある体積定常実施形態においては、シクロプロペンの添加のモル割合の、分子封入剤の添加のモル割合に対する比率は、0.92:1もしくはそれより高く;または、1.0:1もしくはそれより高く;または、1.1:1もしくはそれより高い。独立に、ある実施形態においては、シクロプロペンの添加のモル割合の、分子封入剤の添加のモル割合に対する比率は、1.5:1もしくはそれより低く;または、1.2:1もしくはそれより低い。
【0061】
本発明のある実施形態においては、シクロプロペン複合体および水を含む物質が反応器から取り出される。ある実施形態においては、その物質は乾燥される(すなわち、その物質から水を分離する処理がなされる)。任意の乾燥方法が使用されうる。乾燥のある好適な方法には、例えば、1以上の機械的方法、1以上の溶媒方法、1以上の真空方法、1以上の乾燥ガス方法およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0062】
ある好適な機械的方法の乾燥には、例えば、真空ろ過、他のろ過方法、遠心分離、他の機械的方法およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0063】
ある好適な溶媒方法の乾燥には、例えば、水可溶性溶媒での洗浄(すなわち、上記物質を水可溶性溶媒に曝露し、次いで溶媒中に溶解された水と共にその溶媒を除去する)が挙げられる。好適な水可溶性溶媒には、例えば、水可溶性アルコール、水可溶性ケトン、およびそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態においては、メタノールもしくはアセトンまたはそれらの混合物での洗浄を含む溶媒方法の乾燥が使用される。ある実施形態においては、アセトンで洗浄することを含む溶媒方法の乾燥が使用される。
【0064】
乾燥ガス方法の乾燥は、相対的に低い水分含量を有する(すなわち、50%以下の相対湿度)ガスに、前記物質を曝露させることを伴う。そのガスが相対的に低い水分含量を有する限りは、そのガスは、例えば、空気または窒素、または他のガス、またはこれらの混合物であることができる。ある実施形態においては、窒素が使用される。ガスは任意の温度であることができる。ガスは乾燥される物質に対して動かされてもよいし、またはガスは静止していてもよい。ある実施形態において、ガスが20℃以上;または、50℃以上;または100℃以上の温度である場合に、乾燥されるべき物質がガスと接触させられる。独立して、ある実施形態においては、ガスが150℃以下の温度である場合に、乾燥されるべき物質がガスと接触させられる。
【0065】
ある実施形態においては、機械的方法の乾燥、溶媒方法の乾燥、真空方法の乾燥、乾燥ガス方法の乾燥またはこれらの組み合わせの1以上を用いることにより、乾燥が行われる。
【0066】
ある実施形態においては、反応器が、例えば、かき混ぜにより、撹拌されうることが意図される。
【0067】
シクロプロペン複合体の製造方法において、他の好適な操作、例えば、温度の調節、他の操作およびこれらの組み合わせが、連続的または断続的に行われることができる。
【0068】
本明細書および請求項の目的のために、本明細書において開示されたそれぞれの操作は、他に示されない限りは20℃で行われることが理解される。
【実施例】
【0069】
比較例C1
1部の市販のアルファ−シクロデキストリンおよび9部の水からなる撹拌された溶液中に、1−メチルシクロプロペンを、封入反応が30分で完了するような割合で吹き込んだ。得られたスラリーは脱水され、アセトンで洗浄され、加熱された窒素で乾燥され、乾燥1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を得て、これは4.1重量%の水と4.2重量%の1−メチルシクロプロペンを含んでいた。これは、シクロプロペンの封入剤に対するモル比が0.82:1であることを表す。代表サンプルが光学顕微鏡により写真撮影された。視野中のすべての結晶の広がり(breadth)および幅が測定された。10.0ミクロンより大きい幅を有する結晶は、視野中の全結晶領域の19%を構成していた。
【0070】
実施例2
1部の市販のアルファ−シクロデキストリンおよび9部の水からなる撹拌された溶液中に、1−メチルシクロプロペンを、封入反応が90分で完了するような割合で吹き込んだ。この開始後、90分の平均滞留時間を達成する速度でアルファ−シクロデキストリン溶液の連続供給が開始された。反応したスラリーは同じ速度で取り出された。3時間後、得られたスラリーは脱水され、アセトンで洗浄され、加熱された窒素で乾燥され、乾燥1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を得て、これは5.0重量%の水と4.8重量%の1−メチルシクロプロペンを含んでいた。これは、シクロプロペンの封入剤に対するモル比が0.96:1であることを表す。代表サンプルが光学顕微鏡により写真撮影された。視野中のすべての結晶の広がり(breadth)および幅が測定された。10.0ミクロンより大きい幅を有する結晶は、視野中の全結晶領域の89%を構成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のシクロプロペン複合体を含む組成物を製造する方法であって、
(i)水、シクロプロペンおよび分子封入剤を、15分以上の滞留時間の連続反応器に添加する工程、
(ii)水およびシクロプロペン複合体を含む物質を当該連続反応器から取り出す工程、および
(iii)続いて、当該物質から水を除去して当該組成物を形成する工程
を含み、水を除去する前記工程の後で当該組成物中に残る水の量が当該組成物の重量を基準にして0〜10重量%である、方法。
【請求項2】
連続反応器における滞留時間が1時間以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シクロプロペン複合体が1−メチルシクロプロペンとアルファ−シクロデキストリンとの複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(a)組成物の重量を基準にして、80重量%以上の1種以上のシクロプロペン複合体、および
(b)組成物の重量を基準にして、0〜10重量%の水
を含む組成物であって、当該組成物は粉体であり、当該粉体の代表サンプルの二次元画像において、当該サンプルの当該画像における当該シクロプロペン複合体のすべての粒子のすべての画像の領域を基準にして20%以上の、当該シクロプロペン複合体の粒子の画像の領域が、10マイクロメートル以上の幅寸法を有する当該シクロプロペン複合体の粒子の形態である、組成物。
【請求項5】
組成物におけるシクロプロペンの、組成物における分子封入剤に対するモル比が0.92:1もしくはそれより高い、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
シクロプロペン複合体が1−メチルシクロプロペンおよびアルファ−シクロデキストリンを含む、請求項4に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−122079(P2012−122079A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−61750(P2012−61750)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2009−40299(P2009−40299)の分割
【原出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】