説明

シクロヘキサンカルボアルデヒド類の製造方法

【課題】 本発明は、液晶性化合物の中間体として有用な高純度のトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類を、工業的に簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 N−オキシル化合物及び酸化剤の存在下で式(1):
【化1】


(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、nは1又は2である。環Aはトランス−1,4−シクロヘキサン環を示す。)で表されるシクロヘキシルメタノール類を酸化してなる式(2):
【化2】


(式中、R、n及び環Aは前記に同じ。)で表されるトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶性化合物(本明細書において、「液晶性化合物」という用語は、液晶相を有する化合物及び液晶相を有さないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称として用いる。)の合成中間体であるシクロヘキサンカルボアルデヒド類の新規な製法方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(2):
【0003】
【化1】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、nは1又は2である。環Aはトランス−1,4−シクロヘキサン環を示す。)で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒド類[以下、トランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)という。]は、液晶性化合物の製造原料として有用な化合物であり、広く活用されている。従来、トランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)の製造方法としては、式(3):
【0004】
【化2】

(式中、R及びnは前記に同じ。)で表されるシクロヘキサノン類にウイティッヒ反応を施す方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、従来製法では、アルデヒドのカルボニル基のα位の水素原子が反応中に容易に異性化してしまうため、反応処理後得られたシクロヘキサンカルボアルデヒド類は多量のシス体を含有している。特許文献1では、得られたシス体を多く含有するシクロヘキサンカルボアルデヒド類に塩基性の化合物を反応させ、異性化してトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)を得ているが、操作が煩雑となり、工業的に優位な方法とはいえない。
【特許文献1】特許公報第3632778号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液晶性化合物の中間体として有用な高純度のトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)を、工業的に簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、N−オキシル化合物及び酸化剤の存在下、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)を酸化することにより、従来の方法に比べて、工業的に有利に高純度のトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)を製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、N−オキシル化合物及び酸化剤の存在下で式(1):
【0008】
【化3】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、nは1又は2である。環Aはトランス−1,4−シクロヘキサン環を示す。)で表されるシクロヘキシルメタノール類[以下、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)という。]を酸化してなるトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、液晶性化合物の合成中間体として有用な高純度のトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)を、従来の方法に比べ、簡便に効率よく製造できるため、工業的利用可能性大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
式(1)及び(2)中、Rはアルキル基又はアリール基を示す。アルキル基としては、通常炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。アリール基としては、通常前記のアルキル基を有していてもよいアリール基を示し、具体的にはフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−ペンチルフェニル基等が挙げられる。
【0011】
トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)の具体例としては、トランス−4−(4−メチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−エチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ブチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ヘキシルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−オクチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ノニルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−デシルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−フェニルシクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−メチルフェニル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−エチルフェニル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−プロピルフェニル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ブチルフェニル)シクロヘキシルメタノール、トランス−4−(4−ペンチルフェニル)シクロヘキシルメタノール等が挙げられる。
【0012】
トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)は、通常US4323473等の公知の処方、例えばトランス−シクロヘキシルカルボン酸類をビトライド触媒で還元することで製造できる。
【0013】
トランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)の具体例としては、トランス−4−(4−メチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−エチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ブチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ヘキシルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−オクチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ノニルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−デシルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−フェニルシクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−メチルフェニル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−エチルフェニル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−プロピルフェニル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ブチルフェニル)シクロヘキサンカルボアルデヒド、トランス−4−(4−ペンチルフェニル)シクロヘキサンカルボアルデヒド等が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法は、N−オキシル化合物及び酸化剤の存在下、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)を溶媒中で酸化することで実施される。トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)、N−オキシル化合物及び酸化剤の混合順序は特に限定されないが、溶媒とトランス−シクロヘキシルメタノール類(1)及びN−オキシル化合物とを混合させた後に、酸化剤を添加するのが好ましい。
【0015】
本発明に用いられるN−オキシル化合物は、分子内にニトロキシラジカルが安定に存在する化合物であれば特に限定はなく、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド、4−(ベンゾイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド等が挙げられ、好ましくは2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシド及び4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシドであり、特に好ましくは2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシドである。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0016】
かかるN−オキシル化合物の使用量は、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)1モルに対し、通常0.0001モル〜0.1モル、好ましくは0.001モル〜0.05モルである。
【0017】
本発明に用いられる酸化剤としては、例えばトリクロロイソシアヌル酸、トリブロモイソシアヌル酸、N−ハロゲン化スクシンイミド、次亜ハロゲン酸塩等が挙げられ、好ましくは次亜ハロゲン酸塩である。かかる酸化剤は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。また、そのまま用いることもできるし、水等の溶剤に溶解させて用いることもできる。
【0018】
次亜ハロゲン酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸塩、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜臭素酸カルシウム等の次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸ナトリウム、次亜ヨウ素酸カリウム、次亜ヨウ素酸カルシウム等の次亜ヨウ素酸塩が挙げられ、好ましくは次亜塩素酸塩であり、特に好ましくは次亜塩素酸ナトリウムである。
【0019】
酸化剤の使用量は、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)1モルに対し、通常1モル〜1.5モル、好ましくは1.05モル〜1.2モルである。
【0020】
本発明に用いられる溶媒は、通常水と有機溶媒の混合溶媒である。かかる有機溶媒は、例えば、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種類以上を混合して用いても良い。水と有機溶媒の混合比率は、通常5:95〜50:50、好ましくは10:90〜30:70である。かかる溶媒の使用量は、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)に対して通常1〜50重量倍、好ましくは10〜40重量倍である。
【0021】
本発明の製造方法には、相間移動触媒、金属臭素化物等の反応促進剤を添加してもよい。相間移動触媒としては、例えば臭化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、好ましくは臭化テトラブチルアンモニウムである。かかる使用量は、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)1モルに対して通常0.001モル〜0.1モルであり、好ましくは0.01モル〜0.1モルである。
【0022】
金属臭素化物としては、例えば臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられる。かかる使用量は、トランス−シクロヘキシルメタノール類(1)1モルに対し、通常0.01モル以上、好ましくは0.01〜2モルである。
【0023】
本発明の製造方法においては、反応中のpHを通常pH3〜13、好ましくはpH6〜11に調整する。反応中のpHを調整するには、pHが上記範囲になるように、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸カリウム等の塩基を適宜必要な量だけ添加すればよい。
【0024】
反応温度は、通常0℃〜60℃、好ましくは0℃〜40℃である。
【0025】
反応終了後、得られた反応混合物から有機層を分離し、洗浄、濃縮等の所望の分離操作により分離することで、高純度のトランス−シクロヘキサンカルボアルデヒド類(2)が得られる。
【実施例】
【0026】
つぎに、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はなんらこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。なお、収率並びにシス体とトランス体の比率は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。
【0027】
実施例1
トランス−4−(4−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシルメタノール(30g、113mmol)、炭酸水素ナトリウム(1.9g,23mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(1.8g,5.6mmol)、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(0.18g、1.2mmol)、トルエン300g及び水60gの混合溶液に、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(83g、0.123mmol)を内温20℃〜30℃で滴下し、滴下後3時間攪拌した。反応終了時の反応混合物のpHは8.7であった。分液操作により反応混合物から有機層を分離後、かかる有機層を5%塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層に1%亜二チオン酸ナトリウム水溶液70.5gを添加後、20℃〜30℃で3時間攪拌した。攪拌終了後、有機層を分液し、水洗後、有機層を減圧濃縮し、トランス−4−(4−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボアルデヒド26gを得た(収率88%、シス体/トランス体=0.01/99.99)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−オキシル化合物及び酸化剤の存在下で式(1):
【化1】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、nは1又は2である。環Aはトランス−1,4−シクロヘキサン環を示す。)で表されるシクロヘキシルメタノール類を酸化してなる式(2):
【化2】

(式中、R、n及び環Aは前記に同じ。)で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒド類の製造方法。
【請求項2】
酸化剤が次亜ハロゲン酸塩である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
次亜ハロゲン酸塩が次亜塩素酸塩である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
酸化剤の使用量がシクロヘキシルメタノール類に対して1.05〜1.2倍モルである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。


【公開番号】特開2006−315989(P2006−315989A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139214(P2005−139214)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】