説明

シバ病害の防除方法

【課題】シバ病害の優れた防除方法を提供すること。
【解決手段】式(I)


〔式中、X1はメチル基、ジフルオロメチル基、またはエチル基を表し、X2はメトキシ基、またはメチルアミノ基を表し、X3はフェニル基、2−メチルフェニル基、または2,5−ジメチルフェニル基を表す。〕
で示される化合物の有効量を、刈り込まれたシバ、特に所定の範囲の草丈、具体的には5mm以上35mm以下である草丈に刈り込まれたシバに処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シバ病害の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌剤の有効成分として、式(I)で示される化合物(例えば、特許文献1および特許文献2参照)が知られている。前記化合物は、シバ病害に対する防除効果を有すことが知られているが、さらに高い効果を得るための方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第95/27693号パンフレット
【特許文献2】国際公開第96/07663号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ゴルフコース管理必携(改訂版)財団法人関西グリーン研究所編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シバ病害の防除方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、草丈を低く刈り込んだシバに下記式(I)で示される化合物を処理した場合に、通常より優れた防除効果が得られることを見出して、本発明に至った。
即ち、本発明は以下のものである。
[1]式(I)

〔式中、X1はメチル基、ジフルオロメチル基、またはエチル基を表し、X2はメトキシ基、またはメチルアミノ基を表し、X3はフェニル基、2−メチルフェニル基、または2,5−ジメチルフェニル基を表す。〕
で示される化合物(以下、本化合物と記すことがある。)の有効量を、刈り込まれたシバに処理することを特徴とするシバ病害の防除方法(以下、本発明方法と記すことがある。);
[2]刈り込まれたシバの草丈が5mm以上35mm以下であることを特徴とする前項[1]に記載のシバ病害の防除方法;
[3]刈り込まれたシバの草丈が5mm以上12mm以下であることを特徴とする前項[1]に記載のシバ病害の防除方法;
[4]式(I)で示される化合物の、シバ病害からシバを保護するための刈り込まれたシバへの使用;等。
【0007】
本発明に係るシバ病害防除方法により、シバをシバ病害から保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において使用される本化合物の態様としては、以下の通りである。
式(1)において、X1が、メチル基、ジフルオロメチル基、またはエチル基である化合物;
式(1)において、X1が、メチル基である化合物;
式(1)において、X2が、メトキシ基、またはメチルアミノ基である化合物;
式(1)において、X1が、メチル基であり、X2が、メトキシ基である化合物;
式(1)において、X1が、メチル基であり、X2が、メチルアミノ基である化合物;
【0009】
式(1)において、X3が、フェニル基、2−メチルフェニル基、または2,5−ジメチルフェニル基である化合物;
式(1)において、X3が、フェニル基、または2,5−ジメチルフェニル基である化合物;
式(1)において、X1が、メチル基であり、X2が、メトキシ基であり、X3が2,5−ジメチルフェニル基である化合物;
式(1)において、X1が、メチル基であり、X2が、メチルアミノ基であり、X3が、フェニル基である化合物;
式(1)において、X1が、メチル基であり、X2が、メチルアミノ基であり、X3が、2,5−ジメチルフェニル基である化合物。
【0010】
次に、本化合物の具体例を示す。
式(1)で示される化合物において、X1,X2,X3は、〔表1〕に示される置換基の組み合わせのうちの一つである。
【0011】
【表1】

【0012】
本化合物には、不斉炭素原子に基づく光学異性体等の立体異性体、互変異性体等の異性体が存在することもあるが、本発明においては、任意の異性体を単独または任意の異性体比で含有して使用することができる。
【0013】
本化合物には、溶媒和物(例えば、水和物等)の形態をとることもあるが、本発明においては、溶媒和物の形態で使用することができる。
【0014】
本化合物には、結晶形態及び/または非晶形態の形態をとることもあるが、本発明においては、任意の形態で使用することができる。
【0015】
本化合物は、国際公開第95/27693号パンフレットに記載された化合物である。これらの化合物は、例えば、当該パンフレットに記載された方法によって合成することができる。
【0016】
本発明方法は、本化合物を、刈り込まれたシバに対して処理することを特徴とするものである。本願明細書において、「刈り込まれた」とは、シバの草丈を所定の範囲になるように刈られた状態を意味する。刈り込まれたシバの草丈の上限は、好ましくは35mm以下で、さらに好ましくは12mm以下である。また、シバ草丈の下限はシバの生育を阻害しない程度であればよく、具体的には5mm程度である。
シバの刈り込みは、通常シバの管理において採用される刈り込みの方法であれば特に限定されるものではないが、ゴルフ場などでは例えば、グリーンまたはティの刈り込みに使用するグリーンモアー、アプローチ部分の刈り込みにはアプローチモアーまたは乗用アプローチモアー、フェアーウェー部分の刈り込みにはリール式モアーやフェアーウェー用ギャングモアー、ラフ部分の刈り込みにはロータリーモアーなどのシバ刈り込み機が使用される。
【0017】
本発明方法において、本化合物を処理する場合、その有効量をシバ病害の病原菌の生息する場所もしくは生息する可能性のある場所、具体的には植えられたシバ面の上方から処理することによってシバ病害を防除することができる。処理方法としては、通常シバに対して殺菌剤を処理する際に採用される方法であれば特に限定されるのもではなく、例えば、園芸用ジョウロ、手押し式噴霧機、動力噴霧機等による散布処理を挙げることができる。また、本化合物を潅水に混合して処理してもよく、例えば、潅水設備(潅水チューブ、潅水パイプ、スプリンクラー等)へ混入して処理してもよい。
本発明方法が適用されうるシバは、例えば、ゴルフ場、公園、住居の庭園等の植栽されているシバを挙げることができる。さらには例えば、育苗時のシバであってもよい。
その場合、育苗箱、育苗トレイ、育苗床等が挙げられ、処理時期としては育苗期、定植前、定植時、及び定植後の生育期等が挙げられる。
【0018】
本発明方法が適用されうるシバとしては以下の種類のシバを挙げることができるが、これらの種類のシバに限定されるものではない。
[シバ]
(1)暖地型芝草
日本シバ(Zoysia spp.)[ノシバ類(Zoysia japonica)、コウライシバ類(Zoysia matrella)、ビロードシバ類(Zoysia tenuifolia)];
改良バミューダグラス(Cynodon spp.);
センチピドグラス(Eremochloa ophiuroides);
セントオーガスチングラス(Stenotaphrum secundatum);
(2)寒地型芝草
ベントグラス(Agrostis spp.)[コロニアルベントグラス(Agrostis tenuis)、クリーピングベントグラス(Agrostis Palustris)、ベルベットペントグラス(Agrostis canica)、レッドトップベントグラス(Agrostis alba)];
ライグラス(Lolium spp.)[イタリアンライグラス(Lolium multiflorum)、改良ペレニアルライグラス(Lolium perenne)];
ブルーグラス(Poa spp.)[ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)、ラフブルーグラス(Poa tribialis)];
フェスキュー(Fsetuca spp.)[レッドフェスキュー(Fsetuca rubra)、ールフェスキュー(Fsetuca arundinacea)];
【0019】
本発明方法によって防除可能なシバ病害としては、例えば以下のシバ病害を挙げることができる。
[シバ病害]
日本シバカーブラリア葉枯病(Curvularia geniculata)、日本シバ環紋病(Drechslera gigantea)、日本シバ紅色雪腐病(Microdochium nivale)、日本シバさび病(Puccinia zoysiar)、日本シバ白絹病(Sclerotium rolfsii)、日本シバ葉枯病(Rhizoctonia solani)、日本シバピシウム病(Pythium graminicola, Pythium vanterpoolii)、日本シバフェアリーリング病(Lycoperdon perlatum, Lepista subnuda, Marasmius oreades, Agaricus campestris)、ベントグラス赤焼病(Pythium aphanidermatum)、ベントグラス褐色雪腐病(Pythium iwayamai, Pythium paddicum)、ベントグラス冠さび病(Puccinia coronata)、ベントグラス紅色雪腐病(Microdochium nivale)、ベントグラス白葉腐病(Rhizoctonia oryzae)、ベントグラスすじ葉枯病(Sclerotinia graminis)、ベントグラス立枯病(Gaumannomyces graminis)、ベントグラスダラースポット病(Sclerotinia homoeocarpa)、ベントグラス炭そ病(Colletotricum graminicola)、ベントグラス葉腐病(Rhizoctonia solani)、ベントグラスピシウム病(Pythium graminicola, Pythium vanterpoolii, Pythium aristosporum)、ベントグラス雪腐褐色小粒菌核病(Typhla incarnata)、ベントグラス雪腐黒色小粒菌核病(Typhla ishikariensis)、ベントグラス雪腐大粒菌核病(Sclerotinia borealis)
【0020】
また本発明方法は、特に、日本シバ紅色雪腐病(Microdochium nivale)、日本シバ葉枯病(Rhizoctonia solani)、ベントグラス紅色雪腐病(Microdochium nivale)、ベントグラスダラースポット病(Sclerotinia homoeocarpa)等に対して、高い効果が期待される。
【0021】
本発明方法において本化合物を使用する場合は、本化合物のみを使用してもよいが、通常、本化合物に、不活性担体を混合し、必要に応じて界面活性剤やその他の製剤用補助剤を添加して、油剤、乳剤、フロアブル剤、水和剤、顆粒水和剤、粉剤、粒剤等に製剤化されたものを使用する。その場合製剤中の本化合物の含量は、通常0.1〜99質量%、好ましくは0.2〜90質量%の範囲である。
【0022】
製剤化の際に用いられる固体担体としては、例えば、カオリンクレー、アッタパルジャイトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、酸性白土、パイロフィライト、タルク、珪藻土、方解石等の鉱物、トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉等の天然有機物、尿素等の合成有機物、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の塩類、合成含水酸化珪素等の合成無機物等からなる微粉末あるいは粒状物等が挙げられ、液体担体としては、例えばキシレン、アルキルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ダイズ油、綿実油等の植物油、石油系脂肪族炭化水素類、エステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、及び水が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネートホルモアルデヒド重縮合物等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルポリオキシプロピレンブロックコポリマ−、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、アラビアガム、アルギン酸、及びその塩、CMC(カルボキシメチルセルロ−ス)、ザンサンガム等の多糖類、アルミニウムマグネシウムシリケート、アルミナゾル等の無機物、防腐剤、着色剤、及びPAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT等の安定化剤が挙げられる。
【0023】
本発明方法における本化合物の処理量は、処理するシバの種類、防除対象とするシバ病害の種類や発生程度、製剤形態、処理時期、気象条件等によって変化させ得るが、通常10000mあたり1〜5000g、好ましくは2〜1000gである。
乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等の場合には、通常水で希釈して処理するが、その場合、本化合物の濃度は、通常0.0001〜3重量%、好ましくは0.0005〜1重量%の範囲である。粉剤、粒剤の場合には、通常そのまま処理される。
【実施例】
【0024】
以下、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の例のみに限定されるものではない。なお、以下の例において、「部」は特にことわりの無い限り「質量部」を表す。
また、本化合物(6)は前述の表1に記載される本化合物(6)であり、式(1)において、Xがメチル基、Xがメチルアミノ基、Xが2,5−ジメチルフェニル基である化合物のラセミ体である。
【0025】
製剤例1
本化合物(6)を2.5部、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエ−テル14部、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部、及びキシレン83.5部をよく混合することにより各乳剤を得る。
【0026】
製剤例2
本化合物(6)を5部、ホワイトカーボンとポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩との混合物(重量割合1:1)35部、及び水60部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕することにより各フロアブル製剤を得る。
【0027】
製剤例3
本化合物(6)を5部、ソルビタントリオレエ−ト1.5部、及びポリビニルアルコ−ル2部を含む水溶液38.5部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕した後、この中にキサンタンガム0.05部、及びアルミニウムマグネシウムシリケ−ト0.1部を含む水溶液45部を加え、さらにプロピレングリコ−ル10部を加えて攪拌混合し各フロアブル製剤を得る。
【0028】
製剤例4
本化合物(6)を40部、プロピレングリコールを5部(ナカライテスク製)、Soprophor FLK を5部(ローディア日華製)、アンチフォームCエマルションを0.2部(ダウコーニング社製)、プロキセルGXLを 0.3部(アーチケミカル製)、及びイオン交換水を49.5部の割合で混合し、原体スラリーを調製する。該スラリー100部に150部のガラスビーズ(直径1mm)を投入し、冷却水で冷却しながら、2時間粉砕する。粉砕後、ガラスビーズをろ過により除き、各フロアブル製剤を得る。
【0029】
製剤例6
本化合物(6)を12.5部、リグニンスルホン酸カルシウム3部、ラウリル硫酸ナトリウム2部、及び合成含水酸化珪素84.5部をよく粉砕混合することにより各水和剤を得る。
【0030】
製剤例7
本化合物(6)を5部、合成含水酸化珪素1部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、ベントナイト30部およびカオリンクレー62部をよく粉砕混合し、水を加えてよく練り合せた後、造粒乾燥することにより粒剤を得る。
【0031】
製剤例8
本化合物(6)を5部、カオリンクレー85部およびタルク10部をよく粉砕混合することにより各々の粉剤を得る。
【0032】
試験例1
プラスティックポットに砂壌土を詰め、シバ(品種:ベントグラスペンクロス)を播種し、温室内で20日間生育させた後、所定の草丈に刈り込んだ。本化合物(6)を製剤例2に従ってフロアブル剤とし、得られたフロアブル剤を所定濃度になるようにそれぞれ水で希釈し希釈液を調製し、当該希釈液をシバの葉面に10000m当たり1000Lの割合で前記ポットのシバの上部より散布した。シバを風乾したのち、フスマ培地で培養したベントグラスダラースポット病菌(Sclerotinia homoeocarpa)をポットあたり約30mg接種し、19℃から23℃の多湿条件下に6日間置いた。その後、発病面積率を調査した。
比較として、Insignia(商標登録)(BASF社製。有効成分はピラクロストロビン)の各製剤を水にて所定濃度に希釈した希釈液を調製し、上記と同様の試験を行った。
式1を用いて防除価を算出した。その結果を表1に示す。
【0033】
「式1」
防除価=100×(A−B)/A
A:無処理区の植物の発病面積率
B:処理区の植物の発病面積率
【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明方法により、シバをシバ病害から保護することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

〔式中、X1はメチル基、ジフルオロメチル基、またはエチル基を表し、X2はメトキシ基、またはメチルアミノ基を表し、X3はフェニル基、2−メチルフェニル基、または2,5−ジメチルフェニル基を表す。〕
で示される化合物の有効量を、刈り込まれたシバに処理することを特徴とするシバ病害の防除方法。
【請求項2】
刈り込まれたシバの草丈が5mm以上35mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシバ病害の防除方法。
【請求項3】
刈り込まれたシバの草丈が5mm以上12mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシバ病害の防除方法。
【請求項4】
式(I)で示される化合物の、シバ病害からシバを保護するための刈り込まれたシバへの使用。

【公開番号】特開2011−20931(P2011−20931A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165366(P2009−165366)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】