説明

シミュレーション装置、シミュレーション方法およびシミュレーションプログラム

【課題】車体に付着した塗料の垂れを予測する。
【解決手段】複数の要素に分割される数値計算モデルに基づいて、節点毎にこれに隣接する節点が設定される(ステップS3)。隣接する節点間における傾斜角αが重力方向を基準として演算される(ステップS8)。節点間の傾斜角αと車体に作用する温度とに基づいて、各節点における塗料流出量Voutおよび塗料流入量Vinが演算される(ステップS9,10)。続いて、初期付着量V、塗料流出量Voutおよび塗料流入量Vinに基づいて、各節点における所定時間後の塗料付着量Vt+1が演算される(ステップS11)。そして、これらのステップを繰り返して実行することにより、温度変化に伴う塗料の粘度変化を考慮しながら、車体に付着した塗料の垂れを予測することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物に付着した塗料の垂れを予測する予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な形状の自動車車体等を塗装する際には、塗料を貯めた処理槽に車体を沈めながら、処理槽と車体との間に電圧を印加することにより、車体のインナパネルおよびアウタパネルに塗料の電着膜を形成する電着塗装が施される。そして、電着塗装を施した後には、水洗工程によって電着膜の表面に残る塗料や隙間に溜まった塗料が洗い流され、車体を乾燥炉に搬入して電着膜を硬化させる高温焼き付けが実施される。
【0003】
ところで、残留塗料を十分に洗い流さずに高温焼き付けを実施した場合には、加熱される塗料が垂れ落ちることでの塗装欠陥、いわゆる二次タレが発生してしまうおそれがあった。このような二次タレの発生は、研磨作業や塗装作業等の補修が必要となるため、自動車の製造コストを増大させる要因となっていた。そこで、車体に残留している余分な塗料を確実に除去するため、残留塗料をバキューム装置によって除去する製造方法(例えば、特許文献1参照)や、残留塗料を超音波振動によって除去する製造方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−93298号公報
【特許文献2】特開平5−93299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載される製造方法は、残留塗料を除去するために新たな工程を追加する方法であり、自動車の製造コストを増大させる要因となっていた。また、二次タレによる品質低下を解消するための対策としては、バキューム装置や超音波振動によって残留塗料を除去する方法だけでなく、車体構造を改善することで塗装品質に影響を与えない位置に二次タレを導く方法も考えられる。このように、車体構造に着目して二次タレによる問題を解消するためには、車体構造から二次タレの発生状況を予測するシミュレーション技術を開発することにより、二次タレによる品質低下を招くことのない車体構造を設計することが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、車体等の被塗装物に付着した塗料の垂れを予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシミュレーション装置は、被塗装物に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーション装置であって、複数の要素に分割される前記被塗装物の数値計算モデルに基づいて、前記要素が備える節点毎にこれに隣接する節点を設定する隣接節点設定手段と、前記被塗装物に作用する重力方向を基準とし、隣接する前記節点間の傾斜角を演算する傾斜角演算手段と、前記被塗装物に作用する温度と前記節点間の傾斜角とに基づいて、所定時間後の前記節点間における塗料移動量を演算する移動量演算手段と、前記塗料移動量に基づいて、所定時間後の前記各節点における塗料付着量を演算する付着量演算手段と、前記塗料付着量を外部に表示させる付着量表示手段とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明のシミュレーション装置は、前記被塗装物は電着塗装後に加熱乾燥炉に搬入される車体であることを特徴とする。
【0009】
本発明のシミュレーション方法は、被塗装物に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーション方法であって、複数の要素に分割される前記被塗装物の数値計算モデルに基づいて、前記要素が備える節点毎にこれに隣接する節点を設定する隣接節点設定ステップと、前記被塗装物に作用する重力方向を基準とし、隣接する前記節点間の傾斜角を演算する傾斜角演算ステップと、前記被塗装物に作用する温度と前記節点間の傾斜角とに基づいて、所定時間後の前記節点間における塗料移動量を演算する移動量演算ステップと、前記塗料移動量に基づいて、所定時間後の前記各節点における塗料付着量を演算する付着量演算ステップと、前記塗料付着量を外部に表示させる付着量表示ステップとを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のシミュレーション方法は、前記被塗装物は電着塗装後に加熱乾燥炉に搬入される車体であることを特徴とする。
【0011】
本発明のシミュレーションプログラムは、被塗装物に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーションプログラムであって、複数の要素に分割される前記被塗装物の数値計算モデルに基づいて、前記要素が備える節点毎にこれに隣接する節点を設定する隣接節点設定ステップと、前記被塗装物に作用する重力方向を基準とし、隣接する前記節点間の傾斜角を演算する傾斜角演算ステップと、前記被塗装物に作用する温度と前記節点間の傾斜角とに基づいて、所定時間後の前記節点間における塗料移動量を演算する移動量演算ステップと、前記塗料移動量に基づいて、所定時間後の前記各節点における塗料付着量を演算する付着量演算ステップと、前記塗料付着量を外部に表示させる付着量表示ステップとを有することを特徴とする。
【0012】
本発明のシミュレーションプログラムは、前記被塗装物は電着塗装後に加熱乾燥炉に搬入される車体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、隣接する節点間の傾斜角と被塗装物に作用する温度とに基づいて、隣接する節点間における塗料移動量を演算するようにしたので、温度変化に伴う塗料の粘度変化を考慮しながら、被塗装物に付着した塗料の垂れを予測することが可能となる。これにより、被塗装物の試作品を製造することなく、良好な塗装品質を得るための構造を特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車体の塗装ラインを示す概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるシミュレーション装置を示すブロック図である。
【図3】シミュレーション装置によって実行されるシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】車体の数値計算モデルを示す斜視図である。
【図5】数値計算モデルを構成する複数の要素を部分的に抜き出した模式図である。
【図6】(A)は節点の支配面積を示す説明図であり、(B)は節点間距離を示す説明図である。
【図7】(A)〜(C)は節点間の傾斜角を示す説明図である。
【図8】(A)は節点の塗料流出量を示す説明図であり、(B)は節点の塗料流入量を示す説明図である。
【図9】液垂れ判定処置を実行する際の手順を示すフローチャートである。
【図10】下面側要素を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車体10の塗装ライン11を示す概略図であり、図1には電着塗装工程から焼付工程までの塗装ライン11が示されている。図1に示すように、電着塗装工程においては、被塗装物としての車体10に対して電着塗装を施すための処理槽12が設けられている。この処理槽12は電着塗料で満たされており、塗装時にはハンガ13に吊り下げられた車体10が処理槽12に沈められるようになっている。処理槽12内には図示しない電極が配置されており、車体10と電極とに対して電圧を印加することにより、車体10のアウタパネルやインナパネルには電着塗膜が形成されることになる。そして、処理槽12から引き上げられた車体10は、複数のスプレーノズル14を備える水洗工程に案内される。この水洗工程においては、スプレーノズル14から車体10に向けて洗浄液を噴射することにより、車体10に付着している余分な塗料やゴミ等が除去されるようになっている。続いて、水洗工程を通過した車体10は、加熱乾燥炉であるオーブン15に搬入される。このオーブン15を通過する車体10に対して赤外加熱や熱風加熱を施すことにより、車体10を所定の焼付温度まで加熱して電着塗膜を硬化させるとともに車体10に定着させることが可能となっている。なお、加熱された空気の流出を抑制してエネルギ効率を高めるため、オーブン15の中間部位は高い位置に設置されている。
【0016】
ところで、水洗工程を設けることで余分な塗料を車体10から除去しているが、余分な塗料を完全に除去することは困難であった。そして、余分な塗料が付着したままの車体10をオーブン15で加熱した場合には、塗料の粘度が低下して垂れ落ちることによる塗装欠陥、いわゆる二次タレが発生してしまうおそれがある。すなわち、車体10をオーブン15で加熱した場合には、車体外側に付着した塗料や車体鋼鈑が加熱されるだけでなく、車体内側に付着した塗料や溜まっている塗料が熱伝導によって加熱されることになる。このように、付着したり溜まったりしている塗料を加熱することは、塗料の表面張力を低下させて塗料の二次タレを招く要因となっていた。特に、90℃〜100℃近辺で塗料を沸騰させることは、塗料の移動速度や移動量を増大させて大きな二次タレを招く要因となっていた。このような二次タレの発生は、研磨作業や塗装作業等の補修が必要となるため、車両の製造コストを増大させる要因となっていた。この二次タレによる問題を解消するための対策としては、車体構造を改善して塗装品質に影響を与えない部位に二次タレを導く方法が考えられる。このように、車体構造に着目して二次タレによる問題を解消するためには、試作等の開発コストを抑制するため、車体構造から二次タレの発生状況を予測することが所望されている。以下、車体10に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーション方法について説明する。
【0017】
図2は本発明の一実施の形態であるシミュレーション装置20を示すブロック図である。図2に示すように、シミュレーション装置20には、キーボード21、ディスプレイ22、HDD(ハードディスクドライブ)23、FDD(フレキシブルディスクドライブ)24等が設けられている。また、シミュレーション装置20には、CPU25,ROM26およびRAM27からなる制御部28が設けられており、この制御部28は、隣接節点設定手段、傾斜角演算手段、移動量演算手段、付着量演算手段、付着量表示手段として機能するようになっている。また、シミュレーション装置20には、キーボードコントローラ29、ディスプレイコントローラ30、ディスクコントローラ31、インターフェースコントローラ32が設けられている。さらに、制御部28および各種コントローラ29〜32は、システムバス33を介して互いに通信可能となっている。
【0018】
CPU25は、ROM26やHDD23に保存されたシミュレーションプログラム、またはFDD24から供給されるシミュレーションプログラムを実行することにより、システムバス33に接続された各種デバイスを制御することが可能となっている。また、RAM27は、CPU25のメインメモリあるいはワークエリア等として機能するようになっている。また、キーボードコントローラ29はキーボード21からの入力信号を変換しており、ディスプレイコントローラ30はディスプレイ22の表示状態を制御している。ディスクコントローラ31はHDD23やFDD24のアクセス状態を制御している。そして、インターフェースコントローラ32は、ネットワーク34に接続される図示しないデバイスとの間におけるデータの送受信を制御している。
【0019】
図3はシミュレーション装置20によって実行されるシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。図3に示すように、ステップS1では、各種計算条件データが読み込まれる。この計算条件データとしては、シミュレーションの実行間隔(例えば、100秒間隔)、シミュレーションの終了時間Te(例えば、3600秒)、オーブン15の温度条件(例えば、0〜200秒までは60℃、200〜600秒までは100℃、600〜3600秒までは170℃)、車体10の搬送角度条件(例えば、0〜200秒までは水平方向に対して30°、200〜3400秒までは水平方向に対して0°、3400〜3600秒までは水平方向に対して−30°)、電着塗膜に付着している塗料の初期膜厚th、付着塗料が車体10から落下する臨界転落量V等が読み込まれている。
【0020】
続くステップS2では、車体データとして車体10の数値計算モデル40が読み込まれる。ここで、図4は車体10の数値計算モデル40を示す斜視図であり、図5は数値計算モデル40を構成する複数の要素を部分的に抜き出した模式図である。図5に示すように、車体10を構成するパネル部材を有限要素法によって複数の要素に分割することにより、二次元の数値計算モデル40が構築されるようになっている。この数値計算モデル40として、例えば、車体衝突変形シミュレーション等で用いられる二次元の数値計算モデル40を流用することが可能である。また、図5に示すように、数値計算モデル40が備える各要素の頂点には節点が配置されており、節点毎に、X座標値、Y座標値、Z座標値が特定されている。なお、車体10の数値計算モデル40として二次元の数値計算モデルを用いているが、これに限られることはなく、三次元の数値計算モデルを用いるようにしても良い。また、数値計算モデルが備える要素の形状としては、四角形状に限られることはなく、三角形状等のように3つ以上の節点を備えるものであれば他の形状であっても良い。
【0021】
ステップS3では、節点毎に隣接する節点が設定される(隣接節点設定ステップ)。ここで、隣接する節点とは、着目した節点を共有する要素が備える節点である。すなわち、図5に示すように、節点1に着目した場合には、節点1を共有する要素I〜IVが備える節点2〜9が隣接節点となる。このような手順で、全ての節点とこれに隣接する節点との関係が特定される。
【0022】
また、ステップS4では、節点毎に支配面積Sが演算され、隣接する節点間の節点間距離Lが演算される。ここで、図6(A)は節点1の支配面積Sを示す説明図であり、図6(B)は節点1,8の節点間距離Lを示す説明図である。図6(A)に示すように、節点1の支配面積Sは、隣接する各節点2〜9との中間位置を結ぶことによって区画されている。なお、他の方法によって、各節点における支配面積Sを演算するようにしても良い。また、図6(B)に示すように、節点1,8の各座標値に基づいて節点間距離Lが演算される。
【0023】
続いて、ステップS5では、各節点の支配面積Sと塗料の初期膜厚thとを乗算することにより、各節点における塗料の初期付着量Vが演算される。この初期付着量Vとは、車体10の電着塗膜上に残っている塗料の付着量であり、二次タレの要因となり得る塗料の付着量である。なお、初期付着量Vを演算する際に用いられる初期膜厚thは、予め実験等によって求められるものである。続いて、ステップS6では初期付着量Vが現在の塗料付着量Vとして格納され、ステップS7ではシミュレーション時間を計測するタイマtのリセット処理が実施される。
【0024】
続いて、ステップS8では、各節点の座標値に基づいて、隣接する節点毎に水平面を基準とした傾斜角αが演算される(傾斜角演算ステップ)。また、基準となる水平面は重力方向Gに直交する面であるため、ステップS8を実行することにより、重力方向Gを基準とした傾斜角αが演算されることになる。ここで、図7(A)〜(C)は節点1,8間の傾斜角αを示す説明図であり、車体10の搬送角度に応じた傾斜角αの変化を示している。図1に示すように、焼付工程においては、車体10の搬送角度が経過時間に応じて変化するため、車体10の数値計算モデル40に作用する重力方向Gも変化することになる。このため、図7(A)〜(C)に示すように、搬送角度(重力の作用方向)の変化に応じて傾斜角αが変化することになる。なお、焼付工程における車体10の搬送角度は、ステップS1において計算条件データの搬送角度条件として読み込まれており、ステップS8においては経過時間毎に搬送角度条件を参照しながら傾斜角αを演算することになる。
【0025】
ステップS9では、節点毎に所定時間後の塗料流出量(塗料移動量)Voutが演算され(移動量演算ステップ)、続くステップS10では、節点毎に所定時間後の塗料流入量(塗料移動量)Vinが演算される(移動量演算ステップ)。ここで、図8(A)は節点1の塗料流出量Voutを示す説明図であり、図8(B)は節点1の塗料流入量Vinを示す説明図である。図8(A)に示すように、節点1の重力方向下側に位置する隣接節点2,7,8,9に対しては、節点1から塗料が流出するようになっており、図8(B)に示すように、節点1の重力方向上側に位置する隣接節点3〜6からは、節点1に対して塗料が流入するようになっている。このような、塗料の流れにより、節点1からの塗料流出量Voutは以下の式(1)によって表され、節点1に対する塗料流入量Vinは以下の式(2)によって表される。
out=νt+1(1,2)+νt+1(1,7)+νt+1(1,8)+νt+1(1,9) …(1)
in=νt+1(3,1)+νt+1(4,1)+νt+1(5,1)+νt+1(6,1) …(2)
【0026】
なお、νt+1(1,2)は節点1から節点2に対する塗料移動量を示し、νt+1(1,7)は節点1から節点7に対する塗料移動量を示し、νt+1(1,8)は節点1から節点8に対する塗料移動量を示し、νt+1(1,9)は節点1から節点9に対する塗料移動量を示している。また、νt+1(3,1)は節点3から節点1に対する塗料移動量を示し、νt+1(4,1)は節点4から節点1に対する塗料移動量を示し、νt+1(5,1)は節点5から節点1に対する塗料移動量を示し、νt+1(6,1)は節点6から節点1に対する塗料移動量を示している。
【0027】
次いで、所定時間後における塗料移動量(塗料流出量,塗料流入量)νt+1の演算方法について具体的に説明する。以下の式(3)に示すように、所定時間後の塗料移動量νt+1は、現在の塗料付着量Vtに対して、温度Tに基づく関数Fa(Fb(t))、傾斜角αに基づく関数Fc(α)、節点間距離Lに基づく関数Fd(L)を乗算することによって演算される。すなわち、式(4),(5)に示すように、温度Tが上昇するほど塗料の粘度が低下することから、関数Fa(Fb(t))によって塗料移動量νt+1が増加するように演算される。また、式(6)に示すように、傾斜角αが急勾配になるほど、関数Fc(α)よって塗料移動量νt+1が増加するように演算される。さらに、式(7)に示すように、節点間距離Lが近くなるほど、関数Fd(L)によって塗料移動量νt+1が増加するように演算される。このような手順によって、各隣接節点間における塗料移動量νt+1を演算した上で、式(1),(2)に示されるように、複数の隣接節点間での塗料移動量νt+1を加算することにより、前述した塗料流出量Voutや塗料流入量Vinが求められることになる。
νt+1=V・Fa(Fb(t))・Fc(α)・Fd(L) …(3)
Fa(T)=a・T+b・T+c …(4)
Fb(t)=T(t) …(5)
Fc(α)=A・sinα+B …(6)
Fd(L)=C/L …(7)
ここで、Vは現在の塗料付着量であり、Tは車体10に作用する温度であり、tはタイマ時刻であり、αは傾斜角であり、Lは節点間距離である。また、a〜cおよびA〜Cは実験によって求められる係数である。
【0028】
続いて、ステップS11では、以下の式(8)に従って、節点毎に所定時間後の塗料付着量Vt+1が演算される(付着量演算ステップ)。すなわち、節点に付着していた当初の塗料付着量Vtから、ステップS9で演算された塗料流出量Voutを減算する一方、ステップS10で演算された塗料流入量Vinを加算するようにしている。これにより、所定時間後の各節点における塗料付着量Vt+1が求められることになる。
t+1=V−Vout+Vin …(8)
【0029】
続いて、節点毎に液垂れ判定処理が実行される。ここで、図9は液垂れ判定処置を実行する際の手順を示すフローチャートである。図9に示すように、ステップS20では、節点番号のカウンタiがリセット処理され、続くステップS21では、カウンタiに対応する節点の塗料付着量Vt+1が読み込まれる。続くステップS22では、塗料が落下する状況であるか否かを判定するため、判定対象となる節点が下面側要素に属するか否かが判定される。ここで、図10は下面側要素を示す概略図である。図10に示すように、要素から垂直に延びるベクトルVが重力方向Gの成分を有するときには、その要素は塗料を落下させる可能性がある下面側要素として判定される。
【0030】
ステップS22において、判定対象となる節点が下面側要素に属すると判定された場合には、ステップS23に進み、塗料付着量Vt+1が臨界転落量Vを上回るか否かが判定される。ステップS23において、塗料付着量Vt+1が臨界転落量Vを上回ると判定された場合には、ステップS24に進み、塗料が落下したと判定されるとともに、落下分を除いた所定量Vが塗料付着量Vとして格納される。一方、ステップS22において、判定対象となる節点が上面側要素に属すると判定された場合や、ステップS23において、塗料付着量Vt+1が臨界転落量Vを下回ると判定された場合には、演算されていた塗料付着量Vt+1が塗料付着量Vとして格納される。
【0031】
続いて、ステップS26では、節点番号のカウンタiがカウント処理され、続くステップS27では、カウンタiが最大値Nを上回るか否かが判定される。ステップS27において、カウンタiが最大値Nを下回ると判定された場合には、再びステップS21から液垂れ判定処理が実行され、カウンタiが最大値Nに達したと判定された場合には、ルーチンを抜けて図3のフローチャートを実行することになる。ステップS27において判定される最大値Nは、数値計算モデル40が備える節点の数を示しており、全節点の液垂れ判定処理が完了するまで図9のフローチャートは実行されることになる。
【0032】
このような液垂れ判定処理が完了すると、図3に示すフローチャートのステップS13に進み、シミュレーション時間を計測するタイマtのカウント処理が実施される。このカウント処理においては、計算条件データとして読み込まれたシミュレーションの実行間隔(例えば100秒)が、タイマtに対して加算されることになる。続いて、ステップS14では、計算条件データとして読み込まれた終了時間(例えば3600秒)Teをタイマtが上回るか否かが判定される。ステップS14において、タイマtが終了時間Teを下回ると判定された場合には、再びステップS8から節点毎の塗料付着量Vt+1が演算されることになる。一方、ステップS14において、タイマtが終了時間Teに達したと判定された場合には、ステップS15に進み、演算結果(塗料付着量の時間推移,液垂れ部位)がディスプレイ22等に表示されることになる(付着量表示ステップ)。なお、演算結果をディスプレイ22に表示させているが、図示しないプリンタによって演算結果を印刷させるようにしても良い。
【0033】
このように、数値計算モデル40を構成する節点から互いに隣接する節点を設定した上で、これら隣接節点間の塗料移動量を温度Tおよび傾斜角αに基づいて演算するようにしたので、焼付工程における二次タレの発生状況を予測することが可能となる。これにより、設計段階において二次タレの発生状況を捉えることができるため、試作等の開発コストを抑制しながら、二次タレを考慮した車体構造を採用することが可能となる。また、二次タレの発生状況を捉えることができるため、二次タレを発生させないように塗装ライン11の水洗工程におけるスプレーノズル14の仕様を適切に設定することができ、車両の製造コストを引き下げることが可能となる。
【0034】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、温度Tおよび傾斜角αから塗料の移動速度を演算し、この移動速度に基づいて隣接節点間における塗料移動量を演算するようにしても良い。また、前述の説明では、塗料付着量Vの量に影響されることなく、隣接する他の節点に対する塗料移動量を演算しているが、塗料付着量Vが所定量や所定膜厚を下回った場合には、隣接する他の節点に対して塗料が移動しないものとして取り扱うようにしても良い。さらに、前述の説明では、シミュレーション装置20を用いてシミュレーションを実行しているが、汎用のコンピュータに本発明のシミュレーションプログラム読み込ませることにより、汎用のコンピュータを用いてシミュレーションを実行させても良い。なお、前述の説明では、被塗装物として車体を挙げているが、これに限られることはなく、ケース等の他の部品であっても良いことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0035】
10 車体(被塗装物)
15 オーブン(加熱乾燥炉)
28 制御部(隣接節点設定手段、傾斜角演算手段、移動量演算手段、付着量演算手段、付着量表示手段)
40 数値計算モデル
G 重力方向
T 温度
α 傾斜角
out 塗料流出量(塗料移動量)
in 塗料流入量(塗料移動量)
t+1 塗料付着量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーション装置であって、
複数の要素に分割される前記被塗装物の数値計算モデルに基づいて、前記要素が備える節点毎にこれに隣接する節点を設定する隣接節点設定手段と、
前記被塗装物に作用する重力方向を基準とし、隣接する前記節点間の傾斜角を演算する傾斜角演算手段と、
前記被塗装物に作用する温度と前記節点間の傾斜角とに基づいて、所定時間後の前記節点間における塗料移動量を演算する移動量演算手段と、
前記塗料移動量に基づいて、所定時間後の前記各節点における塗料付着量を演算する付着量演算手段と、
前記塗料付着量を外部に表示させる付着量表示手段とを有することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
請求項1記載のシミュレーション装置において、
前記被塗装物は電着塗装後に加熱乾燥炉に搬入される車体であることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項3】
被塗装物に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーション方法であって、
複数の要素に分割される前記被塗装物の数値計算モデルに基づいて、前記要素が備える節点毎にこれに隣接する節点を設定する隣接節点設定ステップと、
前記被塗装物に作用する重力方向を基準とし、隣接する前記節点間の傾斜角を演算する傾斜角演算ステップと、
前記被塗装物に作用する温度と前記節点間の傾斜角とに基づいて、所定時間後の前記節点間における塗料移動量を演算する移動量演算ステップと、
前記塗料移動量に基づいて、所定時間後の前記各節点における塗料付着量を演算する付着量演算ステップと、
前記塗料付着量を外部に表示させる付着量表示ステップとを有することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項4】
請求項3記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物は電着塗装後に加熱乾燥炉に搬入される車体であることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項5】
被塗装物に付着した塗料の垂れを予測するシミュレーションプログラムであって、
複数の要素に分割される前記被塗装物の数値計算モデルに基づいて、前記要素が備える節点毎にこれに隣接する節点を設定する隣接節点設定ステップと、
前記被塗装物に作用する重力方向を基準とし、隣接する前記節点間の傾斜角を演算する傾斜角演算ステップと、
前記被塗装物に作用する温度と前記節点間の傾斜角とに基づいて、所定時間後の前記節点間における塗料移動量を演算する移動量演算ステップと、
前記塗料移動量に基づいて、所定時間後の前記各節点における塗料付着量を演算する付着量演算ステップと、
前記塗料付着量を外部に表示させる付着量表示ステップとを有することを特徴とするシミュレーションプログラム。
【請求項6】
請求項5記載のシミュレーションプログラムにおいて、
前記被塗装物は電着塗装後に加熱乾燥炉に搬入される車体であることを特徴とするシミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−159462(P2010−159462A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2874(P2009−2874)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)