説明

シャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置

【課題】シャシーダイナモメータシステムの慣性検証時には、設定と測定結果画面が異なることで操作性などの問題を有している。
【解決手段】慣性検証装置の一画面上に、計測時の設定値を設定する設定表示機能部と、設定値に基づいて計測された結果を表示する計測結果表示機能部を設ける。設定表示機能部には、機械慣性を表示する設定値表示部、運転条件設定部、進捗状態表示部を設け、また、計測結果表示機能部には、モニター画面表示部、測定結果表示部を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャシーダイナモメータの走行抵抗制御時に用いられる慣性値の検証装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シャシーダイナモメータ制御装置としては、特許文献1(図4)のような構成のものが公知技術としてある。図5は、シャシーダイナモメータの走行抵抗制御装置の構成図で、試験車両1の駆動輪をシャシーダイナモメータのローラ2上に載せ、ダイナモメータ3が発生するトルクを、ローラ2を介して試験車両1に対し負荷として与える。
試験車両をシャシーダイナモメータ上で路上と同一状態で走行させるためには、路上走行時と同一負荷を車両(タイヤ面)に与える必要がある。シャシーダイナモメータのローラ面に試験車両の駆動輪を載せて、路上と同等の走行抵抗をタイヤ面に加えるには、車両の機械損失(車両メカニカルロス)Fsとシャシーダイナモの機械損失(シャシーダイナモメカニカルロス)FMLを考慮した走行抵抗を与える。走行抵抗設定部4は試験車両の車速に応じた走行抵抗設定値Fsを発生し、機械損失(シャシーダイナモメカニカルロス)設定部5は、試験車両の車速に応じたシャシーダイナモメカニカルロスFMLを発生し、走行抵抗設定値FsからシャシーダイナモメカニカルロスFMLを減じてコントローラ部6の動力制御指令とし、コントローラ部6によりローラ2に機械結合されるダイナモメータ3の動力吸収制御を行う。
具体的には、走行抵抗設定部4と機械損失(シャシーダイナモメカニカルロス)設定部5へ、速度検出器7により検出された試験車両1の車速信号を入力し、車速に応じた走行抵抗設定Fsと機械損失FMLを算出する。走行抵抗設定Fsと機械損失FMLは減算部において両者の差信号が求められ、シャシーダイナモメータのコントローラ6を介してダイナモメータ3の動力吸収制御が行われる。そのとき、速度検出器7により検出された車速とロードセル8によって検出されたトルクはそれぞれコントローラ6にフィードバックされる。
【0003】
一方、計測された機械損失等の結果を用いて、被試験車両相当の慣性が正確に模擬されているかどうかの検証をおこなう技術として、特許文献2のようなものが知られている。シャシーダイナモメータにおける慣性制御の検証方法は、シャシーダイナモメータを試験速度範囲で暖機運転した後、シャシーダイナモメータ単体の機械損失を各速度毎に測定する。この測定した機械損失を速度の関数として、この後のシャシーダイナモメータの機械測損失補正データとして求めてお
く。これらの準備が終了した後、シャシーダイナモメータをトルク制御モードとし、そのモードでの所要の慣性値を設定し、シャシーダイナモメータを上記の機械損失で補正しながら加速(または減速)させ、このときのシャシーダイナモメータの加速度より、模擬された慣性が許容誤差範囲内に入っているか否かで検証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−224403号
【特許文献2】特許第4039296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、メカニカルロスの計測に、惰行法によるメカニカルロス計測と、モータリング法によるメカニカルロスの計測を切換えてそれぞれのメカニカルロスの計測値を求め、惰行法又はモータリング法によるメカニカルロス計測結果の突合せで検証を行うことで、走行抵抗の精度を高めている。その際、計測された各種のデータは、試験現場からは離れた操作室に伝送され、設置されたコンピュータよりなる操作卓の画面上に表示される。特許文献1でのメカニカルロスの計測時の画面表示として、例えば、設定項目として同文献1の図4で示すように表示され、計測されたメカニカルロスは同文献1の図5で示すように別画面によってグラフ表示されている。
したがって、メカニカルロス計測時における描写画面が複数必要となっており、また、現在計測中の設定された車種重量などが不明なものとなっている。
【0006】
また、慣性の検証方法の特許文献2においても、同文献2の図6で示すように運転の目標値がグラフ表示されるものがあるが、上述の特許文献1と同様の問題がる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、計測中の状態が1画面中で視覚的に把握できるシャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、被試験車両をローラ上に載置し、操作卓からの制御指令に基づいて車両の走行抵抗制御を行うシャシーダイナモメータシステムであって、走行抵抗制御に用いられる設定慣性を検証する慣性検証装置において、
前記操作卓の一画面上に、計測時の設定値を設定する設定表示機能部と、設定値に基づいて計測された結果を表示する計測結果表示機能部を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2は、前記設定表示機能部に運転条件設定部を設け、前記運転条件設定部には車両の駆動方式を選択する車種の選択機能と、前記車種選択機能によって選択された車両に対応した使用ローラの計測状態を視覚的に表示する視覚表示部とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項3は、前記操作卓の画面上に、慣性検証のためのステップ毎の計測パターンが表示され、加速、定常速度、減速のパターンを1サイクルとして表示される進捗状態表示部を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項4は、前記進捗状態表示部は、現在の計測時点を判別可能に表示することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項5は、前記計測結果表示機能部は、計測された車速、加速度をグラフ表示するモニター画面表示部と、前記各運転パターンにおいてそれぞれ設定された各駆動トルクの目標値と計測値、制動力、及び計算上の慣性値の表示領域を有する測定結果表示部を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のとおり、本発明によれば、呼び出された慣性検証時の一画面中に、設定表示機能部と計測結果表示機能部が設けられたことにより、計測対象の車種慣性値と計測時の加速度などの設定パターンが誤りなく確認でき、また、この設定に基づく計測値も時々刻々視覚的に把握できるので、慣性検証時の操作性が大幅に向上し、また、設定値の入力ミスなどによる誤検証値のシャシーダイナモメータシステムへの設定が防止され、車両の燃費や排ガス試験が精度よく可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示すトップ画面操作表示部の概略構成図。
【図2】本発明による慣性検証画面の構成図。
【図3】説明のための慣性検証画面の一例図。
【図4】説明のための慣性検証画面(機械慣性)の一例図。
【図5】シャシーダイナモメータの走行抵抗制御装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明のシャシーダイナモメータシステムの操作卓(コンピュータ)に構築される操作表示部の概略構成図で、操作表示部におけるトップ画面表示形態の一例を示したものである。
図1において、トップ画面操作表示部は、メニュー機能部10、シャシーダイナモメータの状態表示機能部20、操作ロック機能部30、モード設定機能群40及び機器のオン・オフ切換機能群50を備えている。
【0016】
メニュー機能部10には、図示省略された車両ID呼出し手段、警報設定画面呼出し手段、メンテナンスメニュー呼出し手段、暖機画面呼出し手段、モニタ画面呼出し手段及び計測画面呼出し手段を有し、メニュー機能部10をクリックすることで各呼出し手段が同時に画面上に表示される。
シャシーダイナモメータの状態表示機能部20は、現在設定されているシャシーダイナモメータの設定状態を表示する領域で、前後ローラの使用/不使用の表示領域、車速表示領域及び冷却ファン使用/不使用の表示領域を有しており、電源が投入されて図1で示すトップ画面が表示されると、シャシーダイナモメータの状態表機能部20で現在設定されているシャシーダイナモメータの設定状態が表示される。例えば、前回試験時の車種が前輪駆動車で、シャシーダイナモメータのローラが前輪駆動で設定されていたとすると、状態表機能部20の前後ローラのうち前輪用ローラのコントラストが明るくなり(図では斜線状態で表示)、後輪用ローラと異なった状態となって表示される。
【0017】
状態表機能部20の冷却ファン使用/不使用の表示領域23には、ローラ(車両)の前方に位置する冷却ファンがオン状態の場合、表示領域23に冷却ファンを模擬した図形が明るく表示され、冷却ファンのオン状態が視覚によって判別できる。また、計測中の車速は、速度表示領域22にデジタル的な表現で表示される。なお、冷却ファンをオフ状態に変更したい場合には、機器のオン・オフ切換機能群50に設けられた冷却ファンのオン・オフ選択機能をオフにクリックすることで冷却ファン使用/不使用の表示領域23での模擬冷却ファンの輝度表示は直ちに消滅する。
【0018】
したがって、トップ画面操作表示部にシャシーダイナモメータの状態表示機能部20を設けたことで、装置の立ち上げ時で試験時における現在の機器構成、及び速度状態を視覚的に捉えることができ、また、冷却ファンのオン・オフ状態の変更も即座に反映できる。
モード設定機能群40には車種選択画面呼出し機能部、手動操作画面呼出し機能部及び冷却ファン動作モード選択機能部を備えている。機器のオン・オフ切換機能群50には、冷却ファンのオン・オフ選択機能、ローラのロック/解放選択機能、補機のオン・オフ選択機能、動力計電源のオン・オフ選択機能など試験設備の機器を直接制御するための選択機能を備えている。
【0019】
慣性検証時には、トップメニュー機能部10を選択し、その中の計測画面呼出し手段を選択すると、図2で示す慣性検証画面が呼び出される。呼び出された慣性検証画面の左部分には設定表示機能部が設けられ、また、慣性検証画面の右部分には計測結果表示機能部が設けられ、これらは一画面上で表示される。
【0020】
画面左部分の設定表示機能部は、設定値表示部11、運転条件設定部12及び進捗状態表示部13の各表示領域を有している。設定値表示部11には、現在設定されているシャシーダイナモメータの慣性値が前輪側・後輪側に区分して表示される。運転条件設定部12には、設定する慣性が機械慣性か電気慣性かを選択する慣性選択ボタン12aと、車両の駆動方式を選択する車種の選択ボタン12bと、車両の慣性値設定部12c及び計測状態を視覚的に表示する視覚表示部12dを備えている。図2で示す視覚表示部12dでは計測車両の駆動方式は前輪駆動が選択され、前輪側ローラが選択されたことを表示するために、後輪側
ローラとはコントラストが異なって表示される。また、設定された慣性値が車体に表示されて設定状態がグラフィック画面で容易に視覚判別が可能となるよう構成されている。
【0021】
進捗状態表示部13には、慣性検証のためのステップ毎の計測パターンが表示され、ここでは加速、定常速度、減速のパターンを1サイクルとして、それぞれ設定トルクが異なる指令パターンが3つのステップで表示される。ステップ1では、ダイナモメータに対する駆動トルク500N、ローラの加速度±1.0m/s2に設定されたパターンが表示され、同様にしてステップ2及びステップ3についてもステップ1とは異なる駆動トルクに設定されたパターンが表示される。また、進捗状態表示部13には進捗機能が設けられ、各ステップにおける加速、走行、減速の計測パターンに沿って現在の計測進行位置に合わせてパターン上で色彩やコントラスト等を変化させ、計測の進行位置が視覚的に捉えることを可能としている。
【0022】
呼び出された慣性検証画面の右部分の計測結果表示機能部には、モニター画面表示部14、測定結果表示部15、車速・制動モニター部16及び計測された慣性が表示される最終慣性表示部17が備えられている。モニター画面表示部14には、運転条件設定部12で設定された慣性の計測中の目標車速及び検出加速度が計測進捗に合わせてグラフ表示される。測定結果表示部15には、計測ステップ毎の加速、減速の目標値表示15a、加速度計測値表示15b、制動力計測値表示15c及び計算上の慣性値表示15dの各表示領域を有している。
【0023】
次に本発明における慣性検証時の計測について説明する。
図2で示した慣性検証画面の設定表示機能部において、計測車種に応じた各設定値が入力されると、運転条件設定部12及び進捗状態表示部13の各表示領域に計測を実行する状態がグラフィック画面で表示される。このグラフィック画面と設定値を把握し、車種による使用ローラの選択間違いがないことを確認した後、開始ボタンAを選択してステップ1より計測を開始する。これにより、進行の度合いに応じてステップ1では、パターン上の進捗により色又はコントラストが変化し、計測が現在どの時点まで進んでいるかを表示する。
【0024】
図3は電気慣性選択時を示したもので、ステップ1の計測が終了してステップ2に進行しようとしている時点を示したもので、進捗機能表示部13のステップ1の部分が他のステップ2及びステップ3の色又はコントラストが異って、進捗状況が表示される。同時に、モニター画面表示部14では、例えば赤色で表示され設定トルクから計算された速度と、緑色で表示された加速度が進捗に応じてグラフ表示され、そのときにおける計測時の車速及び制動力が車速・制動モニター部16にデジタル表示される。また、測定結果表示部15には、ステップ1で設定された目標加速度15a、計測された加速度15b・トルク15c・慣性15dが表示される。以下、ステップ2及びステップ3も同様に計測が実行され、ステップ1〜ステップ3での平均慣性が最終慣性表示部17に表示される。
また、ボタンBを選択することで慣性検証が途中で強制的に中断できる。設定値の慣性と慣性検証での計測結果の誤差が大きい場合には、システムへの移行ボタンDを選択することで、最終慣性表示部17に表示された慣性値が、図3に示すシャシーダイナモメータシステムの慣性値の初期値としてシステムに反映される。
なお、加速度や駆動トルクなどの目標値の変更は目標値変更ボタンCをクリックすることで可能となる。また、Eは計測結果などをセーブするセーブボタン、Fは終了ボタンである。
図4は機械慣性を選択した場合の設定表示機能部を示したものである。機械慣性検証の場合、シャシーダイナモメータシステムにフライホイールが存在しているときにはシャシーダイナモメータ+フライホイールを含む検証となるが、フライホイールがない場合にはシャシーダイナモメータ本体のみの機械慣性検証となる。そのため、機械慣性を選択時には、慣性選択ボタン12aにおけるBoth選択ボタンと、車両の慣性設定部12c及び視覚表示部12dにおける車両表示がなくなってシャシーダイナモメータのローラのみの視覚表示となる。
また、表示されるローラも、設定値表示部11により設定された評価機種が前輪駆動方式の場合には、図4で示すように前ローラのみのコントラストが変化して選択されていることを視覚表示する。他は、電気慣性時の検証と同様である。
【0025】
以上、本発明によれば、呼び出された慣性検証時の一画面中に、設定表示機能部と計測結果表示機能部が設けられたことにより、計測対象の車種慣性値と計測時の加速度などの設定パターンが誤りなく確認できる。また、この設定に基づく計測値も進捗状況に応じて視覚的に把握できるので、慣性検証時の操作性が大幅に向上し、また、設定値の入力ミスなどによる誤検証値をシャシーダイナモメータシステムに設定することが防止され、車両の燃費や排ガスなどの試験準備が迅速におこなえるものである。
【符号の説明】
【0026】
1… 試験車両
2… ローラ
3… ダイナモメータ
4… 走行抵抗設定部
5… 機械損失設定部
10… トップメニュー機能部
11… 設定値表示部
12… 運転条件設定部
13… 進捗状態表示部
14… モニター画面表示部
15… 測定結果表示部
16… 車速・制動モニター部
17… 最終慣性表示部
20… 状態表示機能部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験車両をローラ上に載置し、操作卓からの制御指令に基づいて車両の走行抵抗制御を行うシャシーダイナモメータシステムであって、走行抵抗制御に用いられる設定慣性を検証する慣性検証装置において、
前記操作卓の一画面上に、計測時の設定値を設定する設定表示機能部と、設定値に基づいて計測された結果を表示する計測結果表示機能部を設けたことを特徴とするシャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置。
【請求項2】
前記設定表示機能部に運転条件設定部を設け、前記運転条件設定部には車両の駆動方式を選択する車種の選択機能と、前記車種選択機能によって選択された車両に対応した使用ローラの計測状態を視覚的に表示する視覚表示部とを備えていることを特徴とする請求項1記載のシャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置。
【請求項3】
前記操作卓の画面上に、慣性検証のためのステップ毎の計測パターンが表示され、加速、定常速度、減速のパターンを1サイクルとして表示される進捗状態表示部を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置。
【請求項4】
前記進捗状態表示部は、現在の計測時点を判別可能に表示すること
を特徴とする請求項3記載のシャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置。
【請求項5】
前記計測結果表示機能部は、計測された車速、加速度をグラフ表示するモニター画面表示部と、前記各運転パターンにおいてそれぞれ設定された各駆動トルクの目標値と計測値、制動力、及び計算上の慣性値の表示領域を有する測定結果表示部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の何れかであるシャシーダイナモメータシステムの慣性検証装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−184980(P2012−184980A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47122(P2011−47122)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)