説明

シャシーダイナモメータ

【課題】ローラを完全にカバーした状態においても車輪の位置合わせを可能とする。
【解決手段】ローラカバー6は、左右方向と垂直な面を断面とする断面形状が、下方に開いた弧形状を有する板状部材であり、ローラ2の側方に位置しローラ2の上部を全く覆わない位置と、ローラ2の上方に位置し、ピットカバー1に設けられた開口部11に露出しているローラ2の上部を完全に覆う位置と間を任意に移動させることができる。そして、センタリング装置5のアーム51を伸ばすと、アーム51は、ローラカバー6を収容した状態ではピットカバー1の開口部11の内の、ローラ2とピットカバー1との間の隙間を通って斜め上方に移動し、ローラカバー6でローラ2をカバーした状態ではピットカバー1の開口部11の内の、ローラカバー6とピットカバー1との間の隙間を通って斜め上方に移動し、駆動輪100を位置決めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャシーダイナモメータの、ローラカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を、回動可能に設けた円筒形状のローラ上で回転し自動車性能の試験を行うシャシーダイナモメータとしては、自動車の車輪を適正にローラ上に配置するためのセンタリング装置と、ローラを覆うローラカバーとを備えたシャシーダイナモメータが知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
このシャシーダイナモメータでは、自動車の走行路となるピットカバーの下にローラを配置すると共に、ローラの頂上部を露出させるための開口をピットカバーに設けている。また、ピットカバーの下方に、ローラ頂上に対して前後に設けた二つのシリンダよりなるセンタリング装置を設け、シリンダの先端部を、ピットカバーの開口中のローラとピットカバーとの間の隙間を通して、ローラ上に配置された車輪周面に斜め下方前後両側から押しつけることにより、車輪をローラ頂上に位置合わせする。また、ピットカバー上を移動してピットカバーの開口の全体を覆うことにより、ピットカバー上に露出しないようにローラをカバーするローラカバーが設けてられている。
【0004】
また、この特許文献1には、センタリング装置をローラカバーとしても兼用する構成についても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-356572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、前記特許文献1の、ピットカバー上を移動してピットカバーの開口の全体を覆うことにより、ピットカバー上に露出しないようにローラをカバーするローラカバーを設ける技術によれば、ローラカバーでローラをカバーすると、ピットカバーの開口中のローラとピットカバーとの間の隙間も塞がれてしまうために、ローラカバーでローラをカバーした状態でセンタリング装置を用いて車輪の位置合わせを行うことができなくなる。また、センタリング装置とローラカバーとを兼用する場合も同様であり、センタリング装置をローラカバーとして用いているときには、センタリング装置を用いて車輪の位置合わせを行うことができない。
【0007】
そこで、本発明は、ピットカバー上に露出しないようにローラを完全にカバーした状態においても、車輪の位置合わせを行うことができるシャシーダイナモメータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、開口を有するピットカバーと、自動車の車輪が載置される、前記ピットカバーの開口によって頂上部が露出されたローラとを備えたシャシーダイナモメータに、前記ピットカバーの下方の待機位置と、当該待機位置から前記ローラの頂上上方に向かって斜め上方に前記ピットカバーよりも高い位置まで進んだ位置との間を、前記開口によって生じる前記ローラと前記ピットカバーとの間の隙間を通って移動する、前記ローラの水平な径方向について当該ローラの両側に配置されたアームを備えたセンタリング装置と、前記ローラの側方の収容位置と、前記ピットカバーの開口によって露出されたローラ頂上部を覆うカバー位置との間を、前記ローラの回転軸方向に移動するローラカバーとを備えたものである。但し、前記ローラカバーは、前記ローラの上部の周に沿って上方に膨らんだ形状部分を有し、当該ローラカバーが前記カバー位置にあるときに、当該ローラカバーの前記形状部分の裾部分は、前記センタリング装置の前記アームの移動を妨げないように、前記ローラと前記センタリング装置との間の隙間に位置するものである。なお、このようなシャシーダイナモメータにおいて、前記ローラカバーは、前記ローラの回転軸と垂直な断面が、曲率半径が前記ローラの周面の曲率半径より大きく、下方が開いた弧形状部分を、前記形状部分として備えたものとしてもよい。
【0009】
このようなシャシーダイナモメータによれば、ローラカバーで、ローラの頂上部分をカバーした状態においても、センタリング装置のアームを前記待機位置からローラの頂上上方に向かって、ローラカバーとピットカバーとの間の隙間を通して斜め上方に移動して、自動車の車輪のローラの頂上の上への位置決めを行うことができるようになる。
【0010】
ここで、以上のようなシャシーダイナモメータは、さらに、前記ローラカバーの上部に、鉛直方向の軸を回転軸として回動可能に設けられた、前記ローラ上に載せ置かれた車輪の側面と当接して、当該車輪の左右方向の移動を制限する、ガイドローラを備えたものとして構成してもよい。
【0011】
このように構成することにより、通常ピットカバーの開口の側部に配置されるガイドローラによってローラカバーの移動が妨げられないようにすることができると共に、ローラカバーをガイドローラの移動機構としても用いて、ガイドローラによる車輪の左右方向の位置の制限を実現することができるようになる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、ピットカバー上に露出しないようにローラを完全にカバーした状態においても、車輪の位置合わせを行うことができるシャシーダイナモメータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るシャシーダイナモメータの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るセンタリング装置、ローラカバーの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るローラカバーとその移動、支持機構の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るセンタリング装置、ローラカバーの動作例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るセンタリング装置、ローラカバーの動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るシャシーダイナモメータの構成を模式的に示す。
ここで、図1aはシャシーダイナモメータの上面模式図を、図1bはシャシーダイナモメータの側面模式図を示している。
図示するように、このシャシーダイナモメータは、自動車の走行路となるピットカバー1と、左右2つのローラ2とを備えており、各ローラ2の頂上部は、ピットカバー1に設けられた開口部11によって露出している。また、このシャシーダイナモメータは、自動車を固定する固定ベルト4、各ローラ2について一つずつ設けた、ローラ2上に車輪を位置決めするためのセンタリング装置5、各ローラ2について一つずつ設けた、ローラ2をカバーするためのローラカバー6、垂直な回転軸廻りに回動可能に各ローラカバー6の上端に連結されたガイドローラ7とを備えている。
【0015】
そして、このようなシャシーダイナモメータは、ピットカバー1上に自動車を進行させ、左右の駆動輪(図では前輪)を、ピットカバー1に設けられた開口部11から頂上部が露出している左右2つのローラ2上に、センタリング装置5を用いて位置決めした上で、自動車をピットカバー1に対して固定ベルト4で固定し、固定した自動車を走行させながら、ガイドローラ7で駆動輪の左右方向の位置範囲を維持しつつ、ローラ2に連結した動力計で自動車の各種特性を測定するものである。
【0016】
次に、図2にセンタリング装置5とローラカバー6とガイドローラ7の構成を示す。
ここで、図2は、ローラカバー6でローラ2をカバーせずに、ローラ2を完全に露出させた状態におけるセンタリング装置5とローラカバー6とガイドローラ7を示したものであり、図2aは側方から見たセンタリング装置5とローラカバー6とガイドローラ7を表し、図2bは上方よりピットカバー1を透視して見たセンタリング装置5とローラカバー6とガイドローラ7を表し、図2cは図2bの断面線AAによる、ピットカバー1とローラカバー6の断面を示したものである。
【0017】
本実施形態に係るローラカバー6は、図3aに、ローラ2とローラカバー6との配置を抜き出して表した斜視図に示されるように、左右方向と垂直な面を断面とする断面形状が、下方に開いた弧形状を有する板状部材の前後端を折り返して水平な耳部60を設けた形状を有し、当該弧形状の曲率半径はローラ2の半径よりも幾分大きく、当該弧形状の曲率中心は、ローラ2の回転軸と一致している。ただし、当該弧形状の曲率中心は、必ずしも、ローラ2の回転軸と一致させなくてもよい。
【0018】
そして、ローラカバー6は、図3a、b、cに示すように、左右方向に移動可能であり、図3aに示すように、ローラ2の側方に位置しローラ2の上部を全く覆わない位置と、図3cに示すように、ローラ2の上方に位置し、ピットカバー1に設けられた開口部11に露出しているローラ2の上部を完全に覆う位置と間で、任意に移動、停止させることができる。
【0019】
ここで、図2b、cに示すように、ピットカバー1の開口部11の左右に設けられたスリット12は、ローラカバー6の左右の移動に際して、ピットカバー1とローラカバー6とが干渉しないように設けられているものである。また、ローラカバー6は、センタリング装置5が配置されている左右方向範囲においては、図2aに示すように、その前部と後部が、センタリング装置5とローラ2との間の隙間を通って移動することになる。また、ローラカバー6の左右方向範囲と、センタリング装置5が配置されている左右方向範囲が重なる状態でローラカバー2が停止しているときには、ローラカバー6の前部と後部の、センタリング装置5が配置されている左右方向範囲内の部分が、センタリング装置5とローラ2との間の隙間の間に位置することになる。
【0020】
したがって、ローラカバー6の位置に関わらずに、ローラカバー6はローラ2やセンタリング装置5に接することはなく、ローラカバー6またはその一部が、ローラ2上に配置された状態において、ローラカバー6とローラ2との間、ローラカバー6とセンタリング装置5との間には一定の隙間が確保される。
【0021】
さて、図1、2では図の煩雑化を避けるために図示を省略したが、このようなローラカバー6の移動は、図3dに示すように、回転に伴ってローラカバー6の前端に設けた耳部60を左右方向に押し引きするモータ61によって行われる。また、ローラカバー6の支持は、ローラカバー6の前後端に設けた耳部60を、左右方向に移動可能に支持するガイドレール62によって行われる。
【0022】
なお、モータ61やガイドレール62は、センタリング装置5やローラ2の動作と干渉しない位置に設けられている。
次に、ローラ毎に設けたセンタリング装置5は、図2a、bに示すように、同様の構成を有しており、各々図2aに示すように、二つのアーム51と、各アーム毎に設けられたアーム51を伸縮させる二つのジャッキ装置52とを有している。
そして、二つのアーム51は、それぞれ間に、車輪を位置決めするローラ2を挟むように配置され、アーム51を縮めた状態において、アーム51の先端は、ローラ2の頂上よりも下方となる。したがって、この状態では、アーム51は、自動車のピット上への進行や、自動車の試験を妨げることはない。
【0023】
また、アーム51を縮めた状態から、アーム51を伸ばすと、アーム51は、ローラカバー6を収容し、ローラ2に駆動輪100を載せ置いた状態では図4a1に示すように、ピットカバー1の開口部11の内の、ローラ2とピットカバー1との間の隙間を通って、斜め上方に移動する。また、ローラカバー6でローラ2を完全にカバーし、ローラカバー6の上に駆動輪100を載せ置いた状態では図4a2に示すようにピットカバー1の開口部11の内の、ローラカバー6とピットカバー1との間の隙間を通って、斜め上方に移動する。そして、いずれの場合も、アーム51を伸ばしていくと、やがて、二つのアーム51が駆動輪100の下部に接して前後斜め下方から車輪を挟みこむように力を加え、駆動輪100をローラ2上に位置決めする。すなわち、言い換えるならば、アーム51の位置に関わらずに、ローラカバー6は、センタリング装置5のアーム51の移動を妨げないように設けられている。
【0024】
よって、本実施形態によれば、ローラカバー6で、ピットカバー1上に露出しないようにローラ2を完全にカバーした状態においても、センタリング装置5を用いて、駆動輪100の位置合わせを行うことができる。
さて、ここで、本実施形態では、ローラカバー6上にガイドローラ7を設けており、ローラ2の上に駆動輪100を載せ置いた状態で、ガイドローラ7をローラカバー6の移動機構を用いて左右に移動することにより、ガイドローラ7を用いて車輪の左右方向の位置を所望の位置、範囲に維持することができる。
【0025】
すなわち、ローラカバー6とローラ2とガイドローラ7と駆動輪100を、側方から見たようすを表す図4b1、前面からみたようすを表す図4b2に示すように、ローラ2の頂上上に駆動輪100の左右方向について外側の側面に、ガイドローラ7の側面が、駆動輪100の左右方向について外側から当接するように、または、駆動輪100の左右方向について外側の側面の近くの、駆動輪100の左右方向について外側方向の位置にガイドローラ7の側面が位置するように、ローラカバー6を用いてガイドローラ7を移動、配置することにより、各駆動輪100の左右方向について外側方向に移動可能な範囲は、駆動輪100の側面がガイドローラ7の側面が当接する位置までに制限されることになる。
【0026】
以上、本発明の実施形態に係るシャシーダイナモメータについて説明した。
ここで、以上のようなローラカバー6を備えたシャシーダイナモメータによれば、図5a-dに示したような手順による試験の実施が可能である。
すなわち、まず、図5aに示すように、ローラカバー6でローラ2を完全にカバーした待機状態において、ローラピットカバー上を自動車を進行させてローラカバー6上に駆動輪100を載せ置く。そして、次に、図5bに示すように、ローラカバー6上に駆動輪100を載せ置いた上で、センタリング装置5のアーム51を伸ばして車輪をローラカバー6の上空に持ち上げながら車輪の位置決めを行う。
【0027】
次に、図5cに示すように、ローラカバー6を車両外側に移動してローラ2を露出させ、センタリング装置5のアーム51を縮めて車輪をローラ2の頂上に載せ置く。そして、図5dに示すように、ローラカバー6を再び車両側に移動して、ガイドローラ7を所望の位置に配置し、車両の試験を開始する。
【0028】
以上、このような手順によれば、試験の開始直前までローラ2をローラカバー6でカバーして、作業者の安全を最大限に図ることができるようになる。
【符号の説明】
【0029】
1…ピットカバー、2…ローラ、4…固定ベルト、5…センタリング装置、6…ローラカバー、7…ガイドローラ、11…開口部、12…スリット、51…アーム、52…ジャッキ装置、61…モータ、62…ガイドレール、100…駆動輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有するピットカバーと、自動車の車輪が載置される、前記ピットカバーの開口によって頂上部が露出されたローラとを備えたシャシーダイナモメータであって、
前記ピットカバーの下方の待機位置と、当該待機位置から前記ローラの頂上上方に向かって斜め上方に前記ピットカバーよりも高い位置まで進んだ位置との間を、前記開口によって生じる前記ローラと前記ピットカバーとの間の隙間を通って移動する、前記ローラの水平な径方向について当該ローラの両側に配置されたアームを備えたセンタリング装置と、
前記ローラの側方の収容位置と、前記ピットカバーの開口によって露出されたローラ頂上部を覆うカバー位置との間を、前記ローラの回転軸方向に移動するローラカバーとを備え、
前記ローラカバーは、前記ローラの上部の周に沿って上方に膨らんだ形状部分を有し、当該ローラカバーが前記カバー位置にあるときに、前記ローラカバーの前記形状部分の裾部分は、前記センタリング装置の前記アームの移動を妨げないように、前記ローラと前記センタリング装置との間の隙間に位置することを特徴とするシャシーダイナモメータ。
【請求項2】
請求項1記載のシャシーダイナモメータであって、
前記ローラカバーは、前記ローラの回転軸と垂直な断面が、曲率半径が前記ローラの周面の曲率半径より大きく、下方が開いた弧形状の部分を、前記形状部分として備えていることを特徴とするシャシーダイナモメータ。
【請求項3】
請求項1または2記載のシャシーダイナモメータであって、
前記ローラカバーの上部に、鉛直方向の軸を回転軸として回動可能に設けられた、前記ローラ上に載せ置かれた車輪の側面と当接して、当該車輪の左右方向の移動を制限する、ガイドローラを備えたことを特徴とするシャシーダイナモメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−181161(P2010−181161A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22402(P2009−22402)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)