説明

シャシーダイナモメータ

【課題】簡易な構成において、車輪をローラ天頂上に正確に位置決めする。
【解決手段】ブレーキキャリバ202を駆動して、モータケースに対してモータ22のロータのシャフト及びローラ23を固定し、ローラ23に加わっているトルクに基づいて各ダイナモメータ2のローラ23上の車輪の、天頂からのずれ量とずれの方向を算出する。そして、各索引装置3の巻取装置32を制御して、算出したずれが解消されるように試験車両10を移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャシーダイナモメータに対して車両車輪を適正に配置するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を、回動可能に設けた円筒形状のローラ上で回転し自動車性能の試験を行うシャシーダイナモメータにおいては、自動車を、その車輪が正しくローラの天頂上に位置する状態、すなわち、車輪の回転中心とローラの回転中心を結ぶ線が垂直となる状態に配置する必要がある。
【0003】
そして、このような自動車の車輪をローラ上に配置する技術としては、ローラ頂上に対して前後に設けた二つのエアシリンダの先端部を、ローラ上に配置された車輪周面に斜め下方前後両側から押しつけることにより、車輪をローラ天頂上に位置合わせするセンタリング装置が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0004】
また、車輪位置を計測する専用のセンサを設け、当該センサで計測した車輪位置に応じて車両位置を制御することにより、車輪位置をローラ天頂上に拘束する技術も知られている(たとえば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平06-201525号公報
【特許文献2】特開2007-212152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、車輪をローラ天頂上に正確に位置決めするためには、車輪の位置を精度良く計測しつつ、車輪をローラ天頂上に位置決めする必要がある。しかしながら、車輪の位置の計測のために、専用のセンサを設けると、車輪の位置決めのための構成が複雑化し、高コスト化やメンテナンスの煩雑化などを招くことになる。
【0006】
そこで、本発明は、より簡易な構成において、車輪をローラ天頂上に正確に位置決めすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、自動車の車輪を載置するローラを備えたシャシーダイナモメータに、前記車輪から前記ローラに加えられる当該ローラの回転方向の力の大きさと方向とを測定する測定手段と、前記検出手段が検出した前記力の大きさと方向とに基づいて、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれを検出するずれ検出手段とを備えたものである。
【0008】
このようなシャシーダイナモメータによれば、シャシーダイナモメータが本来備えている前記車輪と前記ローラとの間で当該ローラの接線方向に作用する力を計測する計測装置を用いて、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれを検出することができるようになる。
【0009】
すなわち、前記ローラの中心軸にロータ軸が連結され、揺動可能に設けられたモータケースにステータが固定されたモータと、前記モータケースに当該モータケースを揺動する方向に加わる力を検出するロードセルとを備えた、いわゆる揺動式のダイナモメータを前記計測装置として備える場合には、前記モータケースに対して、前記ローラを固定する固定手段を設け、前記測定手段において、前記固定手段によって、前記モータケースに対して前記ローラを固定した状態において、前記ロードセルが検出した力に基づいて前記車輪から前記ローラに加えられる当該ローラの回転方向の力の大きさと方向とを検出するようにすればよい。
【0010】
また、軸トルク計と、前記ローラの中心軸にロータ軸が前記軸トルク計を介して連結したモータを備えた、いわゆる軸トルク計測式のダイナモメータを前記計測装置として備える場合には、前記モータのロータ軸を固定する固定手段を設け、前記測定手段において、前記固定手段によって、前記モータのロータ軸を固定した状態において、前記軸トルク計が検出したトルクに基づいて前記車輪から前記ローラに加えられる当該ローラの回転方向の力の大きさと方向とを検出するようにすればよい。
【0011】
よって、本発明によれば、車輪の位置の計測のための専用のセンサなどを必要としない簡易な構成において、ローラの天頂上からの車輪のずれ量を検出することができ、この結果、車輪をローラ天頂上に正確に位置決めすることができるようになる。
ここで、以上のようなシャシーダイナモメータにおいては、前記ずれ検出手段において、前記検出手段が検出した前記力の大きさと方向とに基づいて、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれの大きさと方向とを検出するようにすると共に、当該シャシーダイナモメータに、前記ずれ検出手段が検出した、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれの大きさと方向とに応じて、当該ずれが解消されるように前記車輪の位置を移動する車輪位置修正手段を設け、車輪のローラ天頂上への位置決めを自動化することも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、簡易な構成において、車輪をローラ天頂上に正確に位置決めすることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るシャシーダイナモメータの構成を模式的に示す。
ここで。図1aはシャシーダイナモメータを上方より見たようすを、図1bはシャシーダイナモメータを左右方向から見たようすを模式的に表したものである。
図示するように、このシャシーダイナモメータは、4輪駆動の自動車用のシャシーダイナモメータであり、シャシーダイナモメータは、試験車両10の車輪毎に一つずつ設けられたダイナモメータ2を備え、各ダイナモメータ2は、試験車両10の走行面となる駆体1の上面に設けた開口に、ダイナモメータ2のローラの天頂部が露出するように駆体1内に配置される。
【0014】
そして、このようなシャシーダイナモメータを用いた試験車両10の試験は、試験車両10の各車輪を各ダイナモメータ2のローラの天頂部に載置した状態で、4台の索引装置3を用いて試験車両10を索引固定しつつ、ローラを回転しながら、試験車両10の車輪とローラ周面間で作用するトルクを、各ダイナモメータ2を用いて計測することにより行われる。
【0015】
ここで、各索引装置3は、ベルト31と、駆体1に固定され、ベルト31を巻き取る巻取装置32とを有している。
また、シャシーダイナモメータは、各車輪のローラの天頂上への位置決めを支援する位置決制御装置4も備えている。
次に、図2に、ダイナモメータ2の構成を示す。
図中、aはダイナモメータ2の正面図、bはダイナモメータ2の側面図を表している。ただし、図中bの右側面図ではローラ(波線で示す)を透視した形態を示している。
図示するように、ダイナモメータ2は、ベース21、ベース21に設けた油圧浮揚機構によって、ベース21に揺動可能に支持されたモータ22、モータ22のロータのシャフト24に連結したローラ23、モータ22のステータを内部に固設したモータケースに固定されたアーム25、アーム25に連結されたロードセル26、ローラ23の回転速度を計測し、計測値を制御装置に出力する回転速度計27とを備えている。
【0016】
また、ダイナモメータ2は、モータ22のシャフト24に固定されたディスクロータ201と、モータ22のステータを内側に固定したモータケースに固定されたブレーキキャリバ202とより構成されるブレーキを、モータケースに対して、モータ22のシャフト及びローラ23を固定するロック機構として備えている。なお、ブレーキキャリバ202は、ブレーキパッドを備えており、ブレーキパッドを、ディスクロータ201に押しつけることにより、ディスクロータ201の減速及び固定を行う。
【0017】
そして、このようなダイナモメータ2において、ロック機構によってモータケースに対してモータ22のシャフト24を固定していないときには、モータ22を駆動した状態において、試験車両10の車輪とローラ23との間で作用するローラ接線方向の力に応じた力が、ロータからステータへの反力として生じ、これがローラ23に固定されたモータケースを揺動する力となって、この揺動する力がアーム25から加わる荷重としてロードセル26によって計測されることになる。
【0018】
また、このようなダイナモメータ2において、モータ22を停止した状態において、ロック機構によってモータ22のシャフト24を固定したときには、試験車両10の車輪からローラ23に加えられる力によって、直接的に、ローラ23に固定されたモータケースを揺動する力が生じ、この力がアーム25から加わる荷重としてロードセル26によって計測されることになる。
【0019】
なお、ダイナモメータ2としては、図2に示したダイナモメータ2に代えて、図3に示す構成のダイナモメータ2を用いるようにしてもよい。
図3に示したダイナモメータ2は、図示するように、ベース121、ローラ122、ベース121に固定されたモータ123を有している。そして、各ローラ121の中心軸124は、ベース121に固定された二つの支柱125によって回動可能に支持されている。また、ローラ22の中心軸124は、軸トルク計126を介在して、モータ123のロータのシャフト127に連結している。また、モータ123には、ロータのシャフト127の回転速度を検出する回転速度計128が設けられている。ここで、軸トルク計126は、たとえば歪みゲージであり、モータ123のシャフト127とローラ122の中心軸124との間に働く軸トルクをねじれ方向の歪み量より検出する。
【0020】
また、ダイナモメータ2は、モータ123のロータのシャフト127に固定されたディスクロータ211と、ベース121に固定されたブレーキキャリバ212とより構成されるブレーキを、ベース121に対して、モータ123のシャフト127を固定するロック機構として備えている。なお、ブレーキキャリバ202は、ブレーキパッドを備えており、ブレーキパッドを、ディスクロータ201に押しつけることにより、ディスクロータ201の減速及び固定を行う。
【0021】
そして、このようなダイナモメータ2において、モータ123を駆動した状態において、ロック機構によってベース121に対してモータ123のシャフト127を固定していないときには、試験車両10の車輪とローラ122との間でローラ122の接線方向に作用する力に応じた力が、モータ123のシャフト127とローラ122の中心軸124との間に捻れ方向の力として加わり、この力が軸トルク計126によって計測されることになる。
【0022】
また、このようなダイナモメータ2において、モータ123を停止した状態において、ロック機構によって、ベース121に対してモータ22のシャフト127を固定したときには、試験車両10の車輪からローラ122にローラ122の接線方向に加えられる力が、直接的に、モータ123のシャフト127とローラ122の中心軸124との間に捻れ方向の力として加わり、この力が軸トルク計126によって計測されることになる。
【0023】
以下、このようなシャシーダイナモメータにおける車輪の位置決め動作について説明する。
この場合、まず、作業者は、図1に示すように、試験車両10を駆体1上に進行させ、各車輪をローラ(23/122)上におおよそ位置決めし、各索引装置3のベルト31を、自動車前後に固着した固定フックに掛け止め、試験車両10を固定する。
そして、作業者は、位置決制御装置4を操作し位置決制御装置4の位置決制御処理を起動し、当該処理を位置決制御装置4に実行させる。
図4に、このようにして位置決制御装置4が行う位置決制御処理の手順を示す。
図示するように、この処理では、まず、全てのダイナモメータ2のロック機構を駆動する(ステップ402)。すなわち、図2のダイナモメータ2を用いる場合には、ブレーキキャリバ202を駆動して、モータケースに対してモータ22のロータのシャフト及びローラ23を固定し、図3のダイナモメータ2を用いる場合には、ブレーキキャリバ212を駆動して、ベース121に対して、モータ123のロータのシャフト127を固定する。
【0024】
そして、各ダイナモメータ2において、ローラ(23/122)に加わっているトルクを取得する(ステップ404)。すなわち、図2のダイナモメータ2を用いる場合には、ロードセル26で検出している荷重値からローラ23に加わっているトルクを算出し、図3のダイナモメータ2を用いる場合には軸トルク計126で検出している軸トルクからローラ123に加わっているトルクを算出する。
【0025】
そして、各ダイナモメータ2について計測したトルクの全てが、所定の許容値THより小さいかどうかを調べ(ステップ406)、小さければ位置決め完了を表示装置に表示するなどして作業者に通知する(ステップ408)。そして、全てのダイナモメータ2のロック機構を解放する(ステップ410)。ここで、ステップ410では、図2のダイナモメータ2を用いる場合には、ブレーキキャリバ202を制御して、モータケースに対するモータ22のロータのシャフト及びローラ23の固定を解除し、図3のダイナモメータ2を用いる場合には、ブレーキキャリバ212を制御して、ベース121に対する、モータ123のロータのシャフト127の固定を解除する。
【0026】
そして、位置決制御処理を終了する。
一方、ステップ406で、各ダイナモメータ2について計測したトルクの全てが、所定の許容値THより小さくないと判定された場合には、計測したトルクに基づいて各ダイナモメータ2のローラ(23/122)上の車輪の、天頂からのずれ量とずれの方向を算出する(ステップ412)。
ここで、図5aに示すように、車輪100がローラ(23/122)の天頂上に位置する場合、車輪100からローラ(23/122)に下向きに加わる力は、ローラ(23/122)の中心に向かうため、ローラ(23/122)を回転させる力は生じない。一方、図5bに示すように、車輪100がローラ(23/122)の天頂上からずれている場合、車輪100からローラ(23/122)に下向きに加わる力は、ローラ(23/122)の中心に向かわず、その分力として、ローラ(23/122)の接線方向を向いた力が、ローラ(23/122)を回転させる力として生じ、当該力の大きさは、車輪100のローラ(23/122)の天頂上からのずれ量に応じた大きさとなる。よって、計測したトルクに基づいて各ダイナモメータ2のローラ(23/122)上の車輪100の、天頂からのずれ量とずれの方向を算出することができることになる。
【0027】
そして、各索引装置3の巻取装置32を制御して、算出したずれが解消されるように試験車両10を移動し(ステップ414)、ステップ404からの処理に戻る。なお、このステップ414の試験車両10の移動は、各ダイナモメータ2のロック機構を解除した上で、ローラ(23/122)をモータ(22/123)によって、算出したずれが解消されるように回転し、再度ロック機構を駆動することによって行うようにしてもよい。
【0028】
また、ステップ414は、各ダイナモメータ2のローラ(23/122)上の車輪の、天頂からのずれ量とずれの方向を表示して、作業者に試験車両10の位置変更を促し、作業者から位置変更作業の完了が通知されたならば、ステップ404に戻る処理としてもよい。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明した。
このように、本実施形態によれば、車輪の位置の計測のための専用のセンサなどを必要としない簡易な構成において、ローラ(23/122)の天頂上からの車輪のずれ量を検出することができ、この結果、車輪をローラ天頂上に正確に位置決めすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るシャシーダイナモメータの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るダイナモメータの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るダイナモメータの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る位置決制御処理の処理例を示す図である。
【図5】ローラの天頂上からの車輪のずれとローラに加わる力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1…駆体、2…ダイナモメータ、3…索引装置、4…位置決制御装置、10…試験車両、21…ベース、22…モータ、23…ローラ、24…シャフト、25…アーム、26…ロードセル、27…回転速度計、31…ベルト、32…巻取装置、201…ディスクロータ、202…ブレーキキャリバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車輪を載置するローラを備えたシャシーダイナモメータであって、
前記車輪から前記ローラに加えられる当該ローラの回転方向の力の大きさと方向とを測定する測定手段と、
前記検出手段が検出した前記力の大きさと方向とに基づいて、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれを検出するずれ検出手段とを有することを特徴とするシャシーダイナモメータ。
【請求項2】
請求項1記載のシャシーダイナモメータであって、
前記ローラの中心軸にロータ軸が連結され、揺動可能に設けられたモータケースにステータが固定されたモータと、
前記モータケースに当該モータケースを揺動する方向に加わる力を検出するロードセルと、
前記モータケースに対して、前記ローラを固定する固定手段とを有し、
前記測定手段は、前記固定手段によって、前記モータケースに対して前記ローラを固定した状態において、前記ロードセルが検出した力に基づいて前記車輪から前記ローラに加えられる当該ローラの回転方向の力の大きさと方向とを検出することを特徴とするシャシーダイナモメータ。
【請求項3】
請求項1記載のシャシーダイナモメータであって、
軸トルク計と、
前記ローラの中心軸にロータ軸が前記軸トルク計を介して連結したモータと、
前記モータのロータ軸を固定する固定手段とを有し、
前記測定手段は、前記固定手段によって、前記モータのロータ軸を固定した状態において、前記軸トルク計が検出したトルクに基づいて前記車輪から前記ローラに加えられる当該ローラの回転方向の力の大きさと方向とを検出することを特徴とするシャシーダイナモメータ。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のシャシーダイナモメータであって、
前記ずれ検出手段は、前記検出手段が検出した前記力の大きさと方向とに基づいて、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれの大きさと方向とを検出し、
当該シャシーダイナモメータは、
前記ずれ検出手段が検出した、前記車輪の位置の前記ローラの天頂上の位置からのずれの大きさと方向とに応じて、当該ずれが解消されるように前記車輪の位置を移動する車輪位置修正手段を有することを特徴とするシャシーダイナモメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−2296(P2010−2296A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161307(P2008−161307)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)