説明

シャトルコック用人工羽根、シャトルコック、およびシャトルコック用人工羽根の製造方法

【課題】軽量かつ高剛性で、耐久性や生産性にも優れたシャトルコック用人工羽根を提供する。
【解決手段】天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸20に対応して、上方の先端21から下方の末端22に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部20とを備え、羽軸部20は、相対的に低比重で柔らかい素材からなる芯部30と、芯部30に対して相対的に高比重で硬質の素材からなる外殻部40とが相互に固着してなり、芯部30は、先端21から末端22に亘って延長し、外殻部40は、芯部30の側面31を覆う断面形状をなして先端21から末端22まで延長している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バドミントンのシャトルコック用人工羽根に関する。具体的には、人工羽根における羽軸部分の改良技術に関する。また、人工羽根を用いたシャトルコック、および人工羽根の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
バドミントン用シャトルコックには、羽根(はね)に水鳥の羽毛を用いたもの(天然シャトルコック)と、ナイロン樹脂などにより人工的に製造された人工羽根を用いたもの(人工シャトルコック)とが知られている。
【0003】
周知のごとく、天然シャトルコックは、ガチョウやアヒルなどの天然羽毛を16本程度使用し、各羽毛の羽軸の末端を、皮で覆ったコルクなどからなる半球状の台(ベース部)に植設した構造である。そして、天然シャトルコックに使用されている羽根は、比重が小さく、極めて軽量であることが特徴である。例えば、比重は、羽軸の部分が0.4程度で、羽弁の部分が0.15程度である。また、羽毛は、剛性が高く、天然シャトルコックは、独特の飛行性能と心地よい打球感が得られる。
【0004】
しかしながら、天然シャトルコックの原材料となる羽毛は、上記の天然の水鳥から採取され、しかも、水鳥のどの部位の羽毛でもよい、というわけではなく、シャトルコック用に適した所定の部位があり、1羽の水鳥からシャトルコック用として採取できる羽毛は僅かである。すなわち、天然シャトルコック用の羽根の生産量には限りがある。また、近年では、鳥インフルエンザの流行により、羽毛の主要な調達源であった食用ガチョウが大量に処分される、という事態も発生し、今後、さらに、原料調達が難しく、より高価になることが予想される。
【0005】
一方、人工シャトルコックとしては、環状に一体成形された樹脂製の羽根を備えたものがよく知られているが、この人工シャトルコックは、天然シャトルコックのように羽根が1本ずつ独立して動かないため、天然シャトルコックと同様の飛行性能を得ることが難しい。羽毛の高剛性を樹脂で実現させようとすれば、軽量化が困難となる。そこで、以下の特許文献1〜3に記載されているように、羽毛を模した人工羽根が提案されている。
【0006】
ここで、鳥類学に基づいて、天然羽毛における各部位を人工羽根における各部位に対応付けし、天然羽毛の羽弁、および羽軸に相当する部位を、それぞれ羽部、および羽軸部と称することとし、羽軸の一部として羽弁から突出する羽根(うこん)や羽柄(うへい)と呼ばれる部位に相当する部位については、羽根(はね)との混同を避けるため羽柄部と称することとすると、特許文献1に記載の人工羽根は、羽部と羽軸部とが人工素材で一体成形され、羽部と羽軸部の少なくも一方を中空にすることで軽量化を図っている。また、特許文献2に記載の人工羽根は、繊維分散樹脂の薄板からなる羽部を羽軸部となる繊維強化樹脂性の2本の細棒で挟持し且つ羽軸部基部は2本の細棒の間に発泡体が間挿された構成となっている。特許文献3に記載の人工羽根では、羽部の一端に羽軸部の延長方向に突出する突出部が形成され、その突出部が羽軸部に埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−98908号公報
【特許文献2】特開昭59−69086号公報
【特許文献3】特開2008−206970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の人工羽根は、薄い羽部や細い羽軸部を縦断するように中空部を形成している。しかし、一体成型品であるため、その中空部を形成するために、金型上で極めて細いピンを抜き差しすることになる。したがって、精度良く成型することが難しい、また、ピンを抜き差しすることでピンの変形が懸念される。また、より軽量にするためには、羽部の肉厚を薄くする必要があり、羽部の面方向の強度が低下し十分な剛性が得られない。したがって、この人工羽根を用いた人工シャトルコックでは、天然シャトルコックにおける飛行性能や打球感を得ることが難しい。当然のことながら、羽軸を中空にすれば、素材自体に剛性があっても羽軸自体の強度が不足し、強い打球によって、羽軸が折れたり曲がったりする可能性がある。
【0009】
特許文献2に記載の人工羽根は、羽軸部となる2本の細棒で羽部を挟持して接着した構造であるため、細棒と羽部との間に十分な接着強度が得られず、打球に際して羽部と羽軸部とが分解する可能性がある。また、羽軸部は、細棒を貼り合わせた構造なので、その貼り合わせ面、すなわち羽軸部の側面での強度が不足し、十分な剛性を得ることができない。一体成型で製造できないため、生産性が低く、低価格化という効果にも疑問がある。
【0010】
特許文献3に記載の人工羽根では、薄い羽部の一部である突出部を羽軸部に埋設している。すなわち、軸部自体は、全体が一様な一体成型品である。そのため、打球時の衝撃に対して人工羽根の形状を維持しようとすれば、軸部に高剛性の素材を用いることになる。一般的に、高剛性の素材は、比重が高く軽量化が難しい。したがって、軽量化と高剛性化とを両立することが難しい。低比重の素材を用いて高い剛性を得ようとすれば、羽軸部を太くする必要があり、素材自体の比重が低くても軽量化が難しくなる。また、羽軸部は、一様に同じ素材を用いているため、天然羽毛のように、打球に対して変形しにくい強度と、羽毛特有の柔軟な打球感を両立することも難しい。さらに、一様な高剛性の素材で羽軸部を構成すれば、柔軟性に欠けるため、強い打球によって羽軸自体が折れる可能性がある。すなわち、耐久性にも問題がある。
【0011】
本発明は、上述したような、従来のシャトルコック用人工羽根における種々の問題に鑑みなされたもので、その目的は、軽量かつ高剛性であり、また、耐久性や生産性にも優れたシャトルコック用人工羽根、その人工羽根を用いたシャトルコック、およびその人工羽根の製造方法を提供することにある。なお、他の目的については、以下の記載で明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、シャトルコック用の人工羽根における上述した課題に鑑みなされたもので、主たる発明は、天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸に対応して、上方の先端から下方の末端に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部とを備え、
前記羽軸部は、相対的に低比重で柔らかい素材からなる芯部と、当該芯部に対して相対的に高比重で硬質の素材からなる外殻部とが相互に固着してなるとともに、前記外殻部が前記芯部の側面を覆う断面形状をなして前記先端から前記末端まで延長する、
ことを特徴とするシャトルコック用人工羽根としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシャトルコック用人工羽根は、軽量かつ高剛性であり、その人工羽根を用いたシャトルコックは、天然シャトルと同様の飛行性能や打球感が期待できる。また、天然素材の生産量に依存することがなく、生産性にも優れ、安価なシャトルコックを提供することが可能となる。なお、本発明の他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る人工羽根を用いた人工シャトルコックの斜視図であり、ベース部側(下方)から見たときの斜視図である。
【図2】上記人工シャトルコックを上方から見たときの斜視図である。
【図3】本発明の実施例に係る人工羽根の基本構造を示す斜視図である。
【図4】上記実施例に係る人工羽根を構成する羽軸部の構造図である。
【図5】上記羽軸部における剛性を評価するための方法を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る人工羽根の構造を示す図である。
【図7】上記第1の実施例に係る人工羽根の製造方法の概略を示す図である。
【図8】上記第1の実施例に係る人工羽根の製造手順を示す図である。
【図9】上記第1の実施例に係る人工羽根の製造過程で成型される1次成型品の構造を示す図である。
【図10】上記第1の実施例に係る人工羽根における問題点を説明するための図である。
【図11】上記第1の実施例に係る人工羽根における問題点を解決するための製造方法の概略を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施例に係る人工羽根の構造を示す図である。
【図13】上記第2の実施例に係る人工羽根の製造方法の概略を示す図である。
【図14】上記第2の実施例に係る人工羽根の製造手順を示す図である。
【図15】本発明のその他の実施例に係る人工羽根の羽軸部の構造を示す図である。
【図16】上記各実施例に係る人工羽根を一括して成型する金型の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
===本発明の実施例の特徴===
本発明者らは、本発明に想到する過程で、人工シャトルコックに求められる性能として、まず、天然シャトルコックと同様の飛行性能を挙げ、人工羽根の大部分を占有する羽部には、薄膜状の低比重素材、すなわち膜材(フィルム素材)や薄膜状に成型した発泡材などを用いることを前提とした。その上で、人工羽根に求められる性能について考察した。そして、薄膜状の羽部を含め羽根全体の軽量化と高剛性化とを両立させるためには軸部の構造を根本から見直す必要性がある、との結論に至った。具体的には、羽軸部は、軽量であるとともに、延長方向に亘って高剛性素材を用いて羽部を確実に支持し、羽根全体の形状を確実に維持でき、より好ましくは、打球時に、高剛性素材の羽軸表面を強打したときの衝撃を吸収できる、という特性が発揮できる構造とすることが必要である、と考えた。
【0016】
本発明は、上記考察に基づいて鋭意研究を重ねた結果創作されたものである。そして、本発明の実施例は、天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸に対応して、上方の先端から下方の末端に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部とを備えたシャトルコック用人工羽根であって、上記主たる発明における特徴の他に、外殻部は羽軸部の裏面以外にて前記芯部の側面を覆っていることを特徴とすることもできる。
【0017】
また、前記羽軸部は、前記先端から前記羽部の下端に亘って前記羽部と固着する領域を羽支持部とするとともに、前記天然羽毛の羽柄に対応して前記羽支持部の下端から前記末端に亘って前記羽部の下方に突出する領域を羽柄部とし、前記羽支持部では、前記羽軸部が前記羽部のおもて面の表層に固着していること。あるいは、前記羽支持部では、前記羽部の裏面から前記羽軸部の裏面が露出して、当該羽部が、前記羽軸部を境界にして左右に分割されていることを特徴することもできる。前記羽部のおもて面または裏面に、薄膜状の補強材が積層されていることを特徴としてもよい。
【0018】
なお、上記いずれかの特徴を有する人工羽根を用いた人工シャトルコックも本発明の実施例である。そして、本発明は、上記人工羽根の製造方法にも及んでおり、当該製造方法の実施例は、天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸に対応して、上方の先端から下方の末端に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部とを備えるとともに、当該羽軸部が、芯となる芯部と、当該芯部の側面を覆う断面形状をなして延長する外殻部とからなるシャトルコック用人工羽根の製造方法であって、
第1の金型を用いて前記芯部となる部分あるいは外殻部となる部分を1次成型品として射出成型する1次成型ステップと、
第2の金型を用いて、前記1次成型品を埋め込み対象として前記外殻部あるいは前記芯部をインサート成型することで、前記芯部を覆う外殻部が形成された2次成型品を成型する2次成型ステップと、
を含むことを特徴としている。前記2次成型ステップは、前記1次成型品を前記金型に保持しつつ二色成型を行い、前記芯部を覆う外殻部が形成された2次成型品を成型するように変更することもできる。
【0019】
また、前記羽部と前記羽軸部の芯となる芯部とを同じ樹脂材料を用いて同時に射出成型することとしてもよい。この同時に射出成型する製造方法では、前記羽軸部は、前記先端から前記羽部の下端に亘って前記羽部と固着する領域を羽支持部とするとともに、前記天然羽毛の羽柄に対応して前記羽支持部の下端から前記末端に亘って前記羽部の下方に突出する領域を羽柄部とし、
前記1次成型ステップは、前記羽部と前記芯部とを同時に成型し、
当該第1次成型ステップでは、前記羽支持部の領域に、前記芯部を境界にして、前記羽部が前記天然羽毛の右弁と左弁とに対応するように二分して、前記芯部の左右両側に上下に延長する2本の溝を形成するともに、当該2本の溝のそれぞれについて、溝を横断して前記羽支持部の下端と前記羽部の下端とを連結する小片状の仮止め部を形成し、
前記第2成型ステップでは、前記仮止め部を溶出させることで、前記外殻部の側面に前記羽部が固着された前記2次成型品を成型する、こととしてもよい。
【0020】
そして、前記溝の開放方向をおもて側として、前記第1成型ステップでは、前記仮止め部の形成部位において前記溝の底面がおもて側に突出せず、前記仮止め部が当該溝の底面の裏側方向に突出するように前記1次成型品を成型するシャトルコック用人工羽根の製造方法とすれば、より好ましい。
【0021】
上記各製造方法は、前記芯部を構成する熱可塑性の基体樹脂と、所定の溶剤によって溶解する有機化合物とを混合したペレット状の樹脂を用いて前記芯部を成型するとともに、前記2次成型品を前記溶剤に浸漬して前記有機化合物を溶解させることで、当該2次成型品において、前記基体樹脂からなる部位を連続気泡体にする気泡体化ステップを含むシャトルコック用人工羽根の製造方法とすることもできる。
【0022】
===人工シャトルコックの構造===
図1、図2は、本発明の実施例に係る人工羽根を備えた人工シャトルコック(以下、シャトルコック)1の外観図である。図1は、ベース部2を下方としたとき、シャトルコック1を下方から見たときの斜視図であり、図2は、上方から見たときの斜視図である。天然羽毛を模した複数(例えば16枚)の人工羽根10は、上方に向かって径が大きくなるように半球状のベース部2の平坦な上面の円周に沿って円環状に植設されているとともに、紐状部材(たとえば木綿の糸)3によって互いに固定されて、スカート部10を構成している。
【0023】
===人工羽根の構造===
本発明の主体である人工羽根10は、薄膜状の樹脂からなる羽部に、棒状の羽軸部を接着あるいは一体成型などによって固着させた基本構造を有している。図3に本発明の実施例における人工羽根10の基本構造を示した。ここで、シャトルコック1のベース部2に取り付けられた状態に基づいて、人工羽根10の上下左右方向や表裏関係を規定すると、羽軸部20は、羽部12の上端から下方に延長していることなる。そして、便宜的に、羽軸部20の上端21を「先端」、下端22を「末端」とし、羽部12や羽軸部20において、シャトルコック1の外方に面する面を「おもて面」13、シャトルコック1の内方に向かう面を「裏面」14と呼ぶことにする。また、羽部12の面内で、羽軸部20の延長方向に直交する方向を左右方向とする。したがって、図1、図2に例示したシャトルコック1における人工羽根10では、羽軸部20が、羽部12のおもて面13に突出するように固着されて、羽部12のおもて面13側では、羽部12の領域が羽軸部20を境界にして左右に分割されていることになる。
【0024】
また、図3に示した例では、羽軸部20の先端位置が、羽部12の上端位置にほぼ一致しているが、羽軸部20の先端位置は、羽部12の上端に対して下方にあってもよい。羽部12の裏面14に羽軸部20が突出していてもよい。羽軸部20を境界にして羽部12を2分割するような構成であってもよい。いずれにしても、薄膜状の羽部12の一方の面をおもて面13、他方の面を裏面14と称することとし、羽軸部20が羽部12を縦断するように形成されている。
【0025】
===羽軸部の構造===
本実施例の人工羽根10において、最も大きな特徴は、羽軸部20の構造にある。図3に示したように、羽軸部20は、羽部12のおもて面13に突設するように固着されている領域(羽支持部)23と、羽部12の下方に突出する領域(羽柄部)24とからなる。そして、本実施例の人工羽根10における羽軸部20は、薄膜状の羽部12を支持するともに、人工羽根10全体の剛性を維持するための特殊な構造を有している。
【0026】
図4は、本発明に係る羽軸部20の一例を示す図であり、図4(A)〜(C)に、それぞれ、羽軸部20の裏面26を末端22側から見たときの斜視図、末端22側の正面図、先端21側の正面図を示した。羽軸部20は、概略的には、表層に配置される外殻部40と、外殻部40内に配置されている芯部30とからなる複合構造である。そして、芯部30と外殻部40は、それぞれ、先端21から末端22に掛けて連続した一体的な構造であり、双方(30,40)は互いに固着している。
【0027】
芯部30は、低比重で(比重が小さく)、かつ外殻部40に対して相対的に弾性率が小さい(柔らかい)素材(以下、軽量軟質素材)でできている。外殻部40は、芯部30の表面を覆う断面形状を有し、芯部30に対して相対的に比重が大きく硬い素材(硬質素材)でできている。芯部30と外殻部40は、二色成型などによって、相互に固着して、一体化されている。そして、羽支持部23と羽柄部24とが連続する1本の棒状となるように形成されている。図中では、芯部30と外殻部40を異なるハッチングで示した。
【0028】
ここに示した羽軸部20は、図4(B)に示したように、略矩形断面を有する芯部30と、裏面26に開口する略U(コの)字断面を有する外殻部40とから構成されている。すなわち、外殻部40の断面形状が、芯部30の左右側面31とおもて面32とを覆う形状となっており、羽軸部20の左右側面27とおもて面25が外殻部40で覆われ、羽軸部20の裏面26に芯部30の裏面33が露出している。ここでは、先端21が外殻部40で覆われている例を示したが、先端21にて芯部30が露出して、外殻部40が先端21から末端22の全長に亘って略コの字型断面を有する構造であってもよい。
【0029】
なお、羽軸部20を構成する素材としては、芯部30であれば、例えば、ポリアミドエストラマーやポリエステルエストラマーなどの熱可塑性樹脂、およびこれらの樹脂からなる連続気泡体を使用することができる。外殻部40であれば、ポリアミド(ナイロン)や、これをガラス繊維で強化したもの(ガラス繊維強化ポリアミド)、あるいはPBT、ABS,PCなどの各種樹脂を用いることができる。
【0030】
===羽軸部の物性===
ここで、種々の樹脂を用いて、図4に示した構造の羽軸部20をサンプルとして作製した。サイズは、実際にシャトルコック1に使用する際のサイズとした。羽軸部20の作製方法としては、インサート成型法や二色成型法を採用することができる。すなわち、軽量軟質素材を用いて芯部30を射出成型し、その成型品を埋め込み対象として、硬質素材からなる外殻部40をインサート成型によって形成したり、芯部30となる成型品を金型から取り出さずに二色成型によって外殻部40を成型したりすればよい。そして、作製した羽軸部20における芯部30、外殻部40、および全体の重量を測定し、剛性を評価した。剛性の評価は、図5に示したように、裏面26が対地面となるように羽軸部20を水平に維持しつつ、その末端22を固定した状態で、鉛直下方に0.3Nの荷重Fを先端21に集中して掛けることで行った。そして、荷重状態にあるときの先端21における水平状態からの変位量Δhを剛性の指標値とした。
【0031】
以下の表1に、芯部30および外殻部40に用いた樹脂と、各部の重量、比重、弾性率、および羽軸部20全体としての総重量と剛性の指標値とを示した。
【表1】

【0032】
表1において、サンプル4と5が、本発明の実施例に係る人工羽根10を構成する羽軸部(発明品)20であり、芯部30に軽量軟質素材を用い、外殻部40に硬質素材を用いている。サンプル1〜3は、発明品に対する比較例であり、芯部30と外殻部40を同じ樹脂で成型したものである。なお、樹脂aとdは、ともに、ポリアミドエストラマーであり、樹脂の組成自体は同じものであるが、その物理的な構造が異なっている。樹脂aは、内部が稠密なムク素材であり、dは連続気泡体や独立気泡体などの気泡体からなる素材である。ここでは、連続気泡体からなる素材を用いている。
【0033】
芯部30を連続気泡体で構成するためには、例えば、熱可塑性樹脂と所定の溶剤に溶出する有機化合物とを混練したペレットを用いて成型した芯部30に外殻部40を固着させ、羽軸部20と同じ形状の成型品を得た後、所定の溶剤にこの成型品を浸漬すれば、その溶剤によって溶出した有機化合物の跡が空隙となり芯部30が連続気泡体となる。なお、有機化合物の溶剤は、有機溶剤に限らず、所定の有機化合物を溶解する各種液体を含むものとする。所定の溶剤に溶出する有機化合物としては、例えば、水に溶解する多価アルコールに属する化合物(糖アルコール類など)を用いることができる。独立気泡体とするには、周知の発泡スチロールやウレタンスポンジなどと同様にして、芯部30を構成する樹脂を炭化水素ガスなどの有機系発泡剤を用いて発泡させればよい。なお、連続気泡体は、気泡同士が連絡しているため、打球時に圧縮された気泡内の空気が隣接する気泡に逃げるため、より柔らかい打球感が得られる、という効果が期待できる。
【0034】
また、樹脂bとcは、ポリアミドエストラマーに対して硬質な素材であり、ムク素材である。本実施例では、ともにポリアミド12(ナイロン12)を主体にした樹脂であるが、樹脂bは、ガラス強化されたポリアミド12であり、樹脂cは、ガラス強化されていないポリアミド12である。
【0035】
表1に示したように、発明品に係るサンプル4と5では、芯部30と外殻部40とが、それぞれ、相対的に低比重(高比重)で、かつ柔らかい(硬い)適宜な樹脂で成型されており、軽量かつ高剛性の羽軸部20とすることができた。例えば、比較例となるサンプル1は、芯部30と外殻部40が、双方とも相対的に柔らかい樹脂aでできており、剛性の指標値である変位量Δhが大きく、剛性が不足していることがわかる。また、樹脂a〜dのうち、比較的硬い樹脂として分類される樹脂cのみで成型したサンプル3では、変位量Δhがサンプル1の60%程度となった。また、サンプル2は、芯部30と外殻部40が最も硬い樹脂bでできており、サンプル1の20%以下の変位量Δhであり、サンプル1に対して5倍以上の剛性を獲得している。しかし、相対的には、硬い樹脂ほど比重が高いため、最も高剛性のサンプル2では、その総重量が、サンプル1に対して30%近く増加している。
【0036】
一方、発明品に係る、サンプル4、5のうち、芯部30にムク素材を用いたサンプル4では、サンプル1に対して15%以下の重量増のみで、変位量Δhは、サンプル1の30%程度に抑えることができた。すなわち、サンプル1に対して3倍以上高い剛性が得られた。最も硬いサンプル2に対しても約60%の剛性を得ており、十分な剛性を有している、と言える。そして、サンプル5については、サンプル1よりも軽量化を達成した上で、剛性がサンプル4と同等であり、羽軸部20としては、ほぼ理想的な性能を得ることができた。
【0037】
以上より、低比重で柔らかい軽量軟質素材からなる芯部30の周囲を硬質素材でできた外殻部40で覆う構造の羽軸部20を備えた人工羽根10は、軽量と高剛性の背反する特性を高次元で両立させることが可能となる。また、柔らかい芯部30の少なくとも左右側面31を硬い外殻部40が覆っており、羽軸部20の表面積の半分以上が外殻部40に接触している。したがって、表裏方向と左右方向の2方向に高い剛性を発現させることができる。その一方で、硬い外殻部40の内側には、柔らかい芯部30が充填されているので、打球時に、硬い羽軸部20の表面を強打したときの衝撃を吸収できる。言い換えれば、反発力が増し、心地より打球感や、打球時の撓みが速やかに原形に復帰する天然羽毛に似た打球感が得られる。
【0038】
芯部30を、比重の小さな気泡体にすれば、軽量化を維持したまま、羽軸部20の断面積をさらに大きくすることができる。断面積を大きくすることは、剛性をより向上させることができるとともに、羽部12と羽支持部23との固着面積を増やすことができる。それによって、羽軸部20と羽部12との接合強度をより強固にして、打球中の破損を防止することができる。さらに、「太い」羽軸部20は、視覚的に「折れにくい」という安心感をプレーヤーに与えることができる。すなわち、芯部30の樹脂における低弾性による心地よい打球感を増強させて、天然シャトルコックに極めて近似した打球感が得られる、という心理的効果も期待できる。
【0039】
以下に、上記構造を備えた羽軸部20を備えた人工羽根について説明する。具体的には、羽支持部23における羽部12との固着構造が異なる人工羽根などを本発明の実施例として挙げて本発明を具体的に説明する。
【0040】
===第1の実施形態===
図3に示した本発明の実施例に係る人工羽根10は、羽軸部20と羽部12とが相互に固着した構造である。そして、羽部12は薄膜状である。一方、天然の羽毛は、周知のごとく、人工羽根の羽部12に相当する部位は、羽軸から生えている個別の毛である羽枝の集合であり、羽軸を境界にして内外の羽弁(内弁、羽弁)に分割されている。したがって、この天然羽毛の構成に少しでも近似した人工羽根を用いたシャトルコックの方が、天然シャトルコックの飛行性能により近似するはずである。そこで、本発明の第1の実施例は、天然羽毛の構造に最も近似した人工羽根としている。
【0041】
<羽部との固着構造>
図6(A)〜(D)に第1の実施例に係る人工羽根10aのおもて面側の平面図、裏面側の平面図、側面図、および先端21側の正面図を示した。第1の実施例における人工羽根10aは、図6(D)示したように、外殻部40の側方に羽部12が固着されて、より天然羽毛に近似した構造の人工羽根10aとなっている。すなわち、羽支持部23にて、羽軸部20の裏面26が羽部12の裏面14に露出し、羽軸部20を境界にして羽部12が左右に二分割されている。また、この例では、芯部30と羽部12が同じ軽量軟質素材でできている。
【0042】
<製造方法>
第1の実施例に係る人工羽根10aは、インサート成型などの射出成型を用いて製造することができる。また、天然羽毛における立体的な羽弁形状に近似させて、優れた飛行性能を得るために、羽部12も含めて人工羽根10aを全て射出成型によって製造することとしている。すなわち、羽部12は、概略的には薄膜状であっても、その厚さが各部位で微妙に異なっている。そして、このような羽部12を備えた人工羽根10aは、芯部30と、その芯部30を境界にして2分割される羽部12の合計三つの成型部位がある成型品に外殻部を固着させた構造であり、芯部30と2分割された羽部12については、例えば、三つの成型部位のそれぞれに射出成型のゲートを設けるなどして成型すれば、各部位が独立した状態で、同時成型することができる。
【0043】
しかし、この方法では、実質的に三つの成形部位のそれぞれを個別に射出成形することであり、製造に係る時間やコストが嵩む。また、成型品には、それぞれの射出成形部位に応じてゲートの跡が残ることになり、天然羽毛の、特に表面形状に近似させることが難しくなる。そこで、第1の実施例の人工羽根10aを、時間やコストを増加させることなく、精度よく製造するための方法を以下に示す。なお、ここでは、第1の実施例の人工羽根10aをインサート成型によって製造する例を示す。
【0044】
図7は、第1の実施例に係る人工羽根10aの製造方法に用いる金型(51a,52a)の概略図であり、図7(A)に示した人工羽根10aにおける各断面a−a、b−b、c−c、d−dの各断面に対応する二つの金型(第1の金型51a、および第2の金型52a)の断面形状をそれぞれ図7(B1)〜(B4)、および(C1)〜(C4)に示した。図示したように、第1の金型51aの型形状は、羽部12と芯部30を同時成型するための形状をなし、第2の金型52aは、第1の金型によって成型された成型品を収納しつつ、芯部30のおもて面32と側面31とを覆う外殻部40を成型するための型形状をなしている。
【0045】
図8と図9に、第2の実施例の人工羽根10aの製造方法の概略を示した。図8(A)〜(D)は、第1の実施例に係る人工羽根10aの製造手順であり、二つの金型(51a,52a)によって順次成型される人工羽根10aの上記b−b断面(図7参照)の形状を製造工程の順に従って示したものである。図9(A)は、第1の金型51bによって成型される1次成型品50bの平面図であり、図9(B)は、図9(A)における、円100内の拡大図である。
【0046】
ここに示した製造方法では、芯部30と羽部12を同時に成型した上で、インサート成型によって芯部30の表層に外殻部40を成型する。すなわち、図7に示した第1の金型51aは、羽部12と芯部30を成型するための金型51aであり、第2の金型52aは、第1の金型51aによって成型された成型品を埋め込み対象として外殻部40を成型するための金型52aである。
【0047】
そして、まず、第1の金型51aを用いて、羽部12と芯部30とを一体成形する図8(A)(B)。この一体成型品(1次成型品)50aは、図9(A)に示したように、羽部12と芯部30とが上下方向に延長する溝34によって分割された形状となっている。また、図7(B3)に示したように、羽部12と芯部30を成型するための金型51aを、羽支持部23の下端部でのみ羽部12と芯部30とを連結させる断面形状とすることで、図9(B)に拡大して示したように、羽支持部23の下端に、芯部30と羽部12と連結する仮止め部35を備えた形状となっている。
【0048】
つぎに、図8(C)(D)に示した手順により、図9に示した形状の1次成型品を第2の金型52aに装着した状態で外殻部40となる樹脂をその金型52a内に射出する。このとき、仮止め部35が射出成型時の熱で溶解し、射出圧力によって金型52a外に溶出する。それによって、溝34が羽支持部23の下端から羽部12の先端に連続し、その溝34にも外殻部40を構成する樹脂が充填され、結果的に、図6に示したように、外殻部40の側面に羽部12が固着した人工羽根10aの形状に成型され、軽量軟質素材による芯部30および羽部12が、硬質素材による外殻部40と一体的に固着してなる人工羽根10aが完成する。
【0049】
なお、上述した連続気泡体で芯部30を形成する場合には、上述した所定の溶剤によって溶出する有機化合物を含んだペレットを用いて1次成型品50aを成型し、第2の金型52aから取り出した成型品(2次成型品)を、所定の溶剤に浸漬して、芯部30および羽部12を構成する樹脂を連続気泡体にすればよい。第1の実施例に係る人工羽根10aでは、羽部12も連続気泡体となり、人工羽根10aの全容積のほとんどを占める羽部12を軽量化して、人工羽根10aをさらに軽量にすることができる。また、人工羽根10aの全表面積のほとんどを占める羽部12を連続気泡体とすることで、打球時の感触がより柔らかくなり、天然羽毛に近い打球感を得ることが期待できる。
【0050】
===第1の実施例の変更例===
第1の実施例に係る人工羽根10aは、羽部12が羽軸部20を境界にして左右に分割されている。そして、この構造の人工羽根10aを精度よく製造するための方法を先に示した。しかしながら、上述した製造方法では、仮止め部35が確実に溶出せず、本来外殻部40となるべき部位に、軽量軟質素材からなる仮止め部35の一部、あるいは全部が残ってしまう可能性が少なからずある。
【0051】
図10に、仮止め部35が残った状態の人工羽根10bを例示した。図10(A)は、その人工羽根10b全体を裏面から見たときの平面図であり、(B)は、(A)における円101内の拡大図である。(C)は、(B)におけるe−e矢視断面図である。当該図10に示したように、仮止め部35が残存する部位36では、芯部30の全側面27が外殻部40で覆われていないため、強度が不足し、シャトルコックを強打したときに、この部分36で羽軸部20が折れる可能性がある。このように、外殻部40の一部が欠損している人工羽根10bは当然のことながら、不良品として処理される。そのため、歩留まりの低下に伴う製造コストの増加が懸念される。そこで、第1の実施例の変更例として、例え、仮止め部35が完全に溶出しなくても、羽軸部20の強度を十分に維持することができる製造方法を挙げる。
【0052】
図11は、第1の実施例の変更例に係る人工羽根10cの製造方法を示す概略図である。図11(A)は、仮止め部35の一部36が残った状態の人工羽根10cを裏面から見たときの図であり、(B)は、(A)における円101内の拡大図である。(C)は、当該変更例の人工羽根10cの1次成型品を成型するための金型51cの断面図であり、図11(A)(B)に示した人工羽根10cにおけるf−f断面に対応している。(D)は、(C)におけるg−g矢視断面である。
【0053】
当該変更例では、図11(B)に示したように、仮止め部35が羽部12の下面より下方に突出形成されるような金型形状としている。すなわち、仮止め部35の形成部位において溝34の底面がおもて面(12,25)側に突出せず、仮止め部35が溝34の底面の裏側方向に突出するように1次成型品を成型している。そのため、(D)に示したように、例え、仮止め部35が完全に溶出せず、その一部37が残ったとしても、外殻部40は、本来の芯部30の側面を完全に覆うため、強度が不足することがない。なお、この仮止め部35の未溶出部位37については、人工羽根10cの飛行性能を極度に悪化させるものでなければ、強度的には問題がないので、そのままにしておいてもよいし、極めて高い飛行性能が要求されたり、製品としての美観が損なわれると判断されたりすれば、その後の製造工程において、この突出部位37を削り落としたり、切り離したりすればよい。
【0054】
===第2の実施例===
上記第1の実施例に係る人工羽根10aは、より天然羽毛に近似した構造を備えていた。そして、その構造を精度よく成型するために1次成型品に設けた仮止め部35を2次成型品の成型時に溶出させる、という特殊な製造方法を採用していた。また、仮止め部35を形成するために、金型の形状も複雑であり、金型に掛かるコストが若干増加する可能性もある。したがって、形状を天然羽毛に酷似させず、ある程度簡略化して製造歩留まりを向上させることも考えられる。そこで、本発明の第2の実施例として、製造歩留まりを考慮した構造を備えた人工羽根を挙げる。
【0055】
<羽部との固着構造>
図12に、本発明の第2の実施例に係る人工羽根10dの基本構造を示した。図12(A)〜(D)は、それぞれ、おもて面側の平面図、裏面側の平面図、側面図、先端21側からの正面図を示している。なお、当該図12においても、羽軸部20の芯部30と外殻部40を異なるハッチングで示している。図示したように、第2の実施例に係る人工羽根10dは、1枚の薄膜状の羽部12のおもて面13に、図4に示した構造の羽軸部20が固着された構造であり、羽軸部20のおもて面25と側面27が外殻部40の表面となっている。そして、羽支持部23では、羽軸部20の裏面26と羽部のおもて面13とが接触した状態で双方が固着している。
【0056】
<製造方法>
第2の実施例に係る人工羽根10dの製造方法としては、羽軸部20と羽部12とを個別に成型した後、溶着、接着などの方法によって双方(20,12)を固着させることもできる。あるいは、芯部30と外殻部40を射出成型などによって相互に固着させた後、さらに、インサート成型や二色成型によって、羽軸部20に対して羽部12を射出成型することで、羽軸部20を羽部12に固着させてもよい。
【0057】
しかし、羽部12と羽軸部20をより強固に固着させるとともに、羽部12の形状や羽部と羽軸部20との相対位置関係を柔軟に設定できるようにするためには、羽部12と芯部30、あるいは羽部12と外殻部40を同じ素材を用いて同時成型する方が望ましい。現実的には、羽部12には、軽量化と柔軟性が求められるので、芯部30と同時成型することが望ましい。
【0058】
第2の実施例の人工羽根10dでは、外殻部40が羽軸部20の裏面26以外にて芯部30を覆う構造であり、芯部30の裏面33が露出している。したがって、羽支持部23において、芯部30が羽部12のおもて面13に突出するように羽部12と芯部30とを同時成型することになる。以下では、インサート成型によって第2の実施例に係る人工羽根10dを製造する方法を例示する。
【0059】
図13は、第2の実施例に係る人工羽根10dの製造方法に用いる金型(51d,52d)の概略図であり、図13(A)に示した人工羽根10dにおける各断面h−h、i−i、j−jの各断面に対応する二つの金型(第1の金型51d、および第2の金型52d)の断面形状をそれぞれ図13(B1)〜(B3)、および(C1)〜(C3)に示した。図示したように、第1の金型51dの型形状は、羽部12と芯部30を同時成型するための形状をなし、第2の金型52dは、第1の金型によって成型された成型品を収納しつつ、芯部30のおもて面32と側面31とを覆う外殻部40を成型するための型形状をなしている。
【0060】
図14(A)〜(D)は、第2の実施例に係る人工羽根10dの製造手順を示す図であり、上記金型(51d,52d)によって順次成型される人工羽根10dの上記i−i断面(図13参照)の形状を製造工程の順に従って示したものである。ここに示した製造方法では、まず、芯部30と羽部12を同時に成型したのち、インサート成型によって芯部30の表層に外殻部40を成型する。すなわち、図13に示した第1の金型51dは、羽部12と芯部30を成型するための金型51dであり、第2の金型52dは、第1の金型51dによって成型された成型品を埋め込み対象として外殻部40を成型するための金型52dである。
【0061】
そして、まず、第1の金型51dを用いて、羽部12と芯部30とを一体成形する(A)(B)。次いで、この一体成型品(1次成型品)50dを第2の金型52dに装着した状態で(C)、外殻部40となる樹脂をその金型52d内に射出する。第2の金型52dは、第1成型品50dを収納しつつ、芯部30の側面31とおもて面32を覆い、第1成型品50dが装着された状態では、コの字型断面を有する型形状となる。そして、第2の金型52aを用いた射出成型により、芯部30のおもて面32と側面31に外殻部40が成型され、軽量軟質素材による芯部30および羽部12が、硬質素材による外殻部40と一体的に固着して人工羽根10dが完成する(D)。また、連続気泡体で芯部30を形成する場合には、上述した所定の溶剤によって溶出する有機化合物を含んだペレットを用いて1次成型品50dを成型し、第2の金型52dから取り出した成型品(2次成型品)を、所定の溶剤に浸漬して、芯部30および羽部12を構成する樹脂を連続気泡体にすればよい。
【0062】
なお、上述した製造方法では、羽部12と芯部30を1次成型品としていたが、もちろん、外殻部40を1次成型品として、最初に成型し、羽部12と芯部30をその外殻部40に固着させるように成型するようにしてもよい。
【0063】
ところで、第2の実施例の人工羽根10dは、その構造が第1の実施例の人工羽根10aと比較すると、その形状が単純であり、成型条件についても、仮止め部35を確実に溶出させる必要がないので、第1の実施例の人工羽根10aほど厳密に成型条件を規定する必要がなく、高い歩留まりが期待できる。したがって、製造コストという点では、第2の実施例の方が第1の実施例よりも有利かもしれない。
【0064】
しかし、その一方で、第1の実施例の人工羽根10aは、第2の実施例の人工羽根10dと比較した場合、羽支持部23の領域に羽部12を構成する樹脂が無いため、羽支持部23の裏面26に固着する分の樹脂を節約することができる。確かに、1本の人工羽根10aでは、節約できる樹脂の量は微少であり、1枚の人工羽根10aにおけるコストダウンは僅かであるかもしれない。しかし、図1、2に示したように、シャトルコック1は、ベース部2に16枚程度の羽根を取り付けた構成であるので、1枚の人工羽根10aのコストダウンが僅かであっても、シャトルコック1全体では、ある程度のコストダウンが期待できる。
【0065】
したがって、第1あるいは第2の実施例のどちらの人工羽根(1a,1d)を採用するのかは、製品に求められる飛行性能、原材料に掛かるコスト、製造に掛かるコストなどを勘案して適宜に決定すればよい。言い換えれば、本発明によれば、練習用と公式球への代替、あるいはシャトルコックを使用する人のバドミントンの技量差など、目的や用途に応じて飛行性能や価格が異なるシャトルコックを提供することができる。
【0066】
===その他の実施例===
<羽軸部の断面構造>
羽軸部20の断面構造としては、図4に示した例に限らず、例えば、図15(A)に示した羽軸部20eのように、外殻部40の断面形状を、芯部30の左右側面31に接触する辺41と、芯部30の断面中央付近を左右に横断して上記左右側面31に接する辺41同士を連結する辺42とからなる「H」としてもよい。なお、この例では、おもて面25と裏面26に、それぞれ芯部30のおもて面32と裏面33が露出した構造であるが、羽軸部20cを軸周りに90゜回転させて、外殻部40の断面形状を「I」型とすることもできる。
【0067】
あるいは、(B)に示した羽軸部20fのように、外殻部40を中空細管状とし、その中空部に芯部30を充填させた形状、すなわち、芯部30の左右側面31とおもて面32と裏面33の全てを外殻部40で覆う「口型」の断面形状としてもよい。なお、羽部12と羽軸部(20e,20f)は、第1の実施例と同様に、羽軸部(32,33)の側面27に配置されていてもよいし、第2の実施例のように、羽軸部(20e,30f)の裏面26と羽部12のおもて面13とが接触した状態で固着されていてもよい。
【0068】
もちろん、芯部30の断面形状は矩形に限るものではない。例えば、図15(C)〜(E)に示した羽軸部(20g〜20i)のように、断面形状が円(C)や半円(D)、あるいは三角形(E)であってもよい。なお、断面が円の場合では、芯部30の表面に、側面31、おもて面32、裏面33の明確な区別はなく、全周が側面31となる。また、断面が半円(D)や三角形(E)では、実質的に、芯部30の裏面33以外が側面31となる。いずれにしても、本発明の実施例における人工羽根は、その羽軸部(20,20e〜30i)が、相対的に低比重で柔らかい素材からなる芯部30の側面を硬い素材からなる外殻部40で覆った構造を有している点に特徴がある。
【0069】
<製造方法>
上記第1および第2の実施例において、人工羽根(10a,10d)の製造方法として、人工羽根(10a,10d)を一枚ずつ成型する例を示した。もちろん、複数の人工羽根(10a,10d)を一括して成型することも可能である。図16に多数枚成型に対応した金型51cの平面図を示した。多数枚の人工羽根(10a,10d)に対応する型53が射状に配置されており、型の中央部に樹脂の注入口54を設けることで、複数枚の1次成型品、あるいは2次成型品を一括して成型することができる。
【0070】
<羽部の補強>
上記第1および第2の実施例では、羽部12と芯部30を同じ素材で同時に成型していた。この例に限らず、羽軸部20を単体で製造し、その羽軸部20に羽部12となる薄膜状の部材を接着や溶着などの方法を用いて固着させてもよい。羽部12の素材としては、樹脂でできたフィルム素材や薄膜状の気泡体などが考えられる。
【0071】
ところで、人工羽根(10,10a〜10d)において、羽部12は、最も大きな面積を専有し、この羽部12を軽量化することが、人工羽根(10,10a〜10d)全体の軽量化に大きく寄与する。その一方で、羽部12には、打球時の強打にも耐えて、十分な強度も要求される。そこで、羽部12のおもて面13あるいは裏面14に薄膜状の補強材を接着や溶着などの方法によって積層してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、バドミントンのシャトルコックに適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 人工シャトルコック、2 ベース部、3 紐状部材、
10,10a〜10d 人工羽根、12 羽部、
20,20e〜20i 羽軸部、23 羽支持部、24 羽柄部、
30 芯部、31 芯部側面、34 溝、35 仮止め部、
40 外殻部、50a,50d 1次成型品、51a,51d 第1の金型、
51c 金型、52d 第2の金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャトルコック用人工羽根であって、
天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸に対応して、上方の先端から下方の末端に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部とを備え、
前記羽軸部は、相対的に低比重で柔らかい素材からなる芯部と、当該芯部に対して相対的に高比重で硬質の素材からなる外殻部とが相互に固着してなるとともに、前記外殻部が前記芯部の側面を覆う断面形状をなして前記先端から前記末端まで延長する、
ことを特徴とするシャトルコック用人工羽根としている。
ことを特徴とするシャトルコック用人工羽根。
【請求項2】
請求項1において、前記外殻部は前記羽軸部の裏面以外にて前記芯部の側面を覆っていることを特徴とするシャトルコック用人工羽根。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記羽軸部は、前記先端から前記羽部の下端に亘って前記羽部と固着する領域を羽支持部とするとともに、前記天然羽毛の羽柄に対応して前記羽支持部の下端から前記末端に亘って前記羽部の下方に突出する領域を羽柄部とし、
前記羽支持部では、前記羽軸部が前記羽部のおもて面の表層に固着している、
ことを特徴とするシャトルコック用人工羽根。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記羽軸部は、前記先端から前記羽部の下端に亘って前記羽部と固着する領域を羽支持部とするとともに、前記天然羽毛の羽柄に対応して前記羽支持部の下端から前記末端に亘って前記羽部の下方に突出する領域を羽柄部とし、
前記羽支持部では、前記羽部の裏面から前記羽軸部の裏面が露出して、当該羽部が、前記羽軸部を境界にして左右に分割されている
ことを特徴とするシャトルコック用人工羽根。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記羽部のおもて面または裏面に、薄膜状の補強材が積層されていることを特徴とするシャトルコック用人工羽根。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の人工羽根を備えたことを特徴とするシャトルコック。
【請求項7】
天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸に対応して、上方の先端から下方の末端に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部とを備えるとともに、当該羽軸部が、芯となる芯部と、当該芯部の側面を覆う断面形状をなして延長する外殻部とからなるシャトルコック用人工羽根の製造方法であって、
第1の金型を用いて前記芯部となる部分あるいは外殻部となる部分を1次成型品として射出成型する1次成型ステップと、
第2の金型を用いて、前記1次成型品を埋め込み対象として前記外殻部あるいは前記芯部をインサート成型することで、前記芯部を覆う外殻部が形成された2次成型品を成型する2次成型ステップと、
を含むことを特徴とするシャトルコック用人工羽根の製造方法。
【請求項8】
天然羽毛を模して、羽弁に対応する薄膜状の羽部と、羽軸に対応して、上方の先端から下方の末端に向かって一体的に連続して延長する棒状の羽軸部とを備えるとともに、当該羽軸部が、芯となる芯部と、当該芯部の側面を覆う断面形状をなして延長する外殻部とからなるシャトルコック用人工羽根の製造方法であって、
第1の金型を用いて前記芯部となる部分あるいは外殻部となる部分を1次成型品として射出成型する1次成型ステップと、
前記1次成型品を前記金型に保持しつつ二色成型を行い、前記芯部を覆う外殻部が形成された2次成型品を成型する2次成型ステップと、
を含むことを特徴とするシャトルコック用人工羽根の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、前記羽部と前記芯部とを同じ樹脂材料を用いて同時に射出成型することを特徴とするシャトルコック用人工羽根の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、前記羽軸部は、前記先端から前記羽部の下端に亘って前記羽部と固着する領域を羽支持部とするとともに、前記天然羽毛の羽柄に対応して前記羽支持部の下端から前記末端に亘って前記羽部の下方に突出する領域を羽柄部とし、
前記1次成型ステップは、前記羽部と前記芯部とを同時に成型し、
当該第1次成型ステップでは、前記羽支持部の領域に、前記芯部を境界にして、前記羽部が前記天然羽毛の右弁と左弁とに対応するように二分して、前記芯部の左右両側に上下に延長する2本の溝を形成するともに、当該2本の溝のそれぞれについて、溝を横断して前記羽支持部の下端と前記羽部の下端とを連結する小片状の仮止め部を形成し、
前記第2成型ステップでは、前記仮止め部を溶出させることで、前記外殻部の側面に前記羽部が固着された前記2次成型品を成型する、
ことを特徴とするシャトルコック用人工羽根の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記溝の開放方向をおもて側として、前記第1成型ステップでは、前記仮止め部の形成部位において前記溝の底面がおもて側に突出せず、前記仮止め部が当該溝の底面の裏側方向に突出するように前記1次成型品を成型することを特徴とするシャトルコック用人工羽根の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11において、前記芯部を構成する熱可塑性の基体樹脂と、所定の溶剤によって溶解する有機化合物とを混合したペレット状の樹脂を用いて前記芯部を成型するとともに、前記2次成型品を前記溶剤に浸漬して前記有機化合物を溶解させることで、当該2次成型品において、前記基体樹脂からなる部位を連続気泡体にする気泡体化ステップを含むシャトルコック用人工羽根の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−24157(P2012−24157A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163127(P2010−163127)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(390010917)ヨネックス株式会社 (31)