説明

シュードプロテオグリカンおよびその用途

1以上のグリコサミノグリカン多糖類が、コアタンパク質に代わる1本の直鎖状ポリマー鎖に共有結合する人工分子であることを特徴とするシュードプロテオグリカン。これまでのGAGプローブや吸着体に代わる、より有用なPG機能研究ツールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、シュードプロテオグリカンおよびそのプローブ、吸着体などの用途に関する。
シュードプロテオグリカンプローブおよびシュードプロテオグリカン吸着体は、例えばグリコサミノグリカン結合性物質を検出または単離する目的や、グリコサミノグリカン結合性物質をターゲットとしたDDSや遺伝子導入に用いることができる。
本発明において用いる「シュードプロテオグリカン」は、本発明者らが実験によりその機能等を裏付けした後に、プロテオグリカンの分子構造を模倣した人工分子に命名した新しい技術用語である。
本発明において用いる略語は以下のとおりである。
ABC Avidin−biotin−peroxidase complex
AFC Affinity chromatography
AT−III Antithrombin III
BPL−Hep Biotin poly−L−lysine−heparin
BSA Bovine serum albumin
CBB Coomassie brilliant blue
Cyp Cyclophilin A
DAB 3,3’−Diaminobenzidine,tetrahydrochloride
EDTA Etylendiaminetetraacetic acid
EEDQ N−ethoxycarbonyl−2−ethoxyl,2−dihydroquinoline
D−GlcA D−glucuronic acid
GAG glycosaminoglycan
Hep Heparin
HRP Horseradish peroxidase
L−IdoA L−Iduronic acid
kDa kilodalton
Mw Molecular weight
NHS N−hydroxysuccinimide
PA polyacrylamide
PAGE polyacrylamide gel electrophoresis
PB 10mM Na−phosphate buffer(pH7.7)
PBS phosphate−buffered saline
PLL poly−L−lysine
PG proteoglycan
PMSF Phenylmethanesulfonyl fluoride
PVDF Polyvinylidene difluoride
SDS−PAGE Sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel
electrophoresis
TBS 20mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane−buffered
saline
TEMED N,N,N′,N′−tetramethylenediamine
Tris Tris(hydroxymethyl)aminomethane
BPA−Hep Biotin polyacrylamide−Hep
【背景技術】
プロテオグリカン(PG)モノマーはコアタンパク質に複数のグリコサミノグリカン(GAG)が共有結合した超分子であり、細胞外マトリックス中の種々のリガンド分子との相互作用により、細胞接着、凝集、移動、組織形成の調節等において、重要な役割を果たしている。GAGはウロン酸とアミノ糖の二糖繰り返し構造を基本骨格とする酸性多糖であり、構成二糖の種類およびエピマー化や硫酸化などの修飾により、その構造は多様である。主要なGAGはヘパリン/ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸などに分類される。
第10図は、プロテオグリカン(PG)モノマーの構造を表した図面である。PGモノマーはコアタンパク質(core protein)に1ないし複数のグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan,GAG)が共有結合した超分子である。PGは細胞膜表面や細胞外マトリックスに存在し、そのグリコサミノグリカン鎖を介して、成長因子、接着性糖タンパク質、インテグリンなど、種々のリガンド分子と相互作用することにより、細胞接着、凝集、移動、組織形成等において、重要な調節機能を果たしている。
プロテオグリカンのうち最も構造的多様性を持ち、様々な細胞活動に影響を与える分子の一つがヘパリン/ヘパラン硫酸プロテオグリカンである。ヘパリン/ヘパラン硫酸は、第11図に示すように、グルクロン酸またはイズロン酸と、グルコサミンの二糖単位をもち、ウロン酸の2位、グルコサミンの2位、3位、6位に硫酸基が付加されることが多く、他のグリコサミノグリカンと比べても非常に高度に硫酸化されている。
また、硫酸基が付加される位置やウロン酸の種類などによって多数の異性体が存在するため、その構造は極めて多様性に富んでいる。この硫酸化は、成長因子、マトリックス糖タンパク質、抗血液凝固因子をはじめとするヘパリン結合性タンパク質との反応に重要な関与をしていると考えられている(非特許文献1)。これまでは、単独のGAG多糖鎖をプローブあるいは支持体に固定化して、GAG結合物質の探索や研究が行われてきた(非特許文献2)。しかしGAGがコアタンパク質さらにはヒアルロン酸と結合してPG超分子構造をとった時にはその反応性が変化する可能性が考えられる。
【非特許文献1】Casu,B.,and Lindahl,U.Structure and biological interactions of heparin and heparan sulfate.(2001)Adv.Carbohyd.Chem.Biochem.,57,159−206.
【非特許文献2】Ogawa,H.,Ueda,H.,Natsume,A.,and Suzuki,R.Preparation and utility of neoproteoglycan probes in the interaction analyses with glycosaminoglycan−binding proteins.(2003)Methods in Enzymology,362,196−209.
【発明の開示】
プロテオグリカン(PG)に結合するリガンドタンパク質を見出し、それらの結合の生物学的意義を解明することは、発生分化、神経成長、細胞増殖、組織形成と修復、止血系などの調節に結びつき、医療や薬剤開発において非常に重要である。
上記のとおり従来法はコアタンパク質と結合した天然のGAGの存在形態を考慮に入れず、全く異なる合成プローブや単独のGAG鎖に非常に近い誘導体を研究に利用してきたため、生体内リガンドを的確に捕らえているか、疑わしい。GAGがコアタンパク質さらにはヒアルロン酸と結合してPG超分子構造をとった時にはその反応性が変化する可能性が考えられるためである。
本発明者らは、これまで研究に用いられたネオプロテオグリカンプローブやヘパリン吸着体と、生体内での実際のGAG存在形態とのギャップに着目したのであり、それゆえ本発明は、これまでのGAGプローブや吸着体に代わる、より有用なPG機能研究ツールを提供することを目的とする。
本発明は、以下の(1)ないし(4)のシュードプロテオグリカンを要旨とする。
(1)プロテオグリカンの分子構造を模倣した人工分子であることを特徴とするシュードプロテオグリカン。
(2)1以上のグリコサミノグリカン多糖鎖が、コアタンパク質に代わる1本の直鎖状ポリマー鎖に共有結合する人工分子である上記(1)のシュードプロテオグリカン。
(3)コアタンパク質に代わる1本の直鎖状ポリマー鎖が、1本の直鎖状ポリL−リジン鎖またはポリアクリルアミド鎖などアミノ基をもつ直鎖状ポリマーからなることを特徴とする上記(2)のシュードプロテオグリカン。
(4)直鎖状ポリマー鎖がもつアミノ基のうち、グリコサミノグリカン多糖鎖が結合する以外のアミノ基は、アセチル化などのアシル化反応により化学的にブロックされて、電気的にほぼ中性である(正電荷をもたない)ことを特徴とする上記(3)のシュードプロテオグリカン。
本発明は、以下の(5)のプローブとしての使用を要旨とする。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかのシュードプロテオグリカンのプローブとしての使用。
本発明は、以下の(6)の吸着体としての使用を要旨とする。
(6)上記(1)ないし(4)のいずれかのシュードプロテオグリカンの吸着体としての使用。
本発明は、以下の(7)のシュードプロテオグリカンプローブを要旨とする。
(7)上記(1)ないし(4)のいずれかのシュードプロテオグリカンにビオチン標識を導入したシュードプロテオグリカンプローブ。
本発明は、以下の(8)および(9)のシュードプロテオグリカン吸着体を要旨とする。
(8)上記(1)ないし(4)のいずれかのシュードプロテオグリカンをリガンドとして固定化したシュードプロテオグリカン吸着体。
(9)生体高分子ビーズまたは合成高分子ビーズに共有結合させたものである上記(8)のシュードプロテオグリカン吸着体。
【発明の効果】
本発明は、初めてシュードプロテオグリカンプローブとその固定化吸着体を調製し、これらをグリコサミノグリカン結合レセプターの探索に利用し、その有効性を見出した。より詳細には、本発明は、これまで研究に用いられたネオプロテオグリカンプローブやヘパリン吸着体と、生体内での実際のGAG存在形態とのギャップに着目し、コアタンパク質に代わる直鎖状ポリL−リジン鎖またはポリアクリルアミド鎖に複数のGAGを共有結合させ、PGの構造を模倣したシュードPGを調製し、これを誘導化してビオチン標識プローブならびにアフィニティー吸着体を調製した。
第1図に、本発明のPG構造を模倣したシュードPGを含むプローブおよびアフィニティー吸着体を、従来のプローブおよび吸着体と比較して図示する。シュードプロテオグリカン(シュードPG)は、本発明者らによりはじめて創り出され、実験的にその機能等を裏付けされ、命名された天然のPGモノマーの構造を模倣した構造をもつ物質である。
脳抽出液からのリガンドタンパク質探索に、シュードPGプローブと吸着体を適用し、PGの新規な生体内機能および超分子構造の重要性を示唆する結果を得た。シュードPGプローブと吸着体は、これまでのGAGプローブや吸着体に代わる、より有用なPG機能研究ツールと期待される。
すなわち、本発明は、グリコサミノグリカン結合性物質を検出または単離し、相互作用を解析する目的や、グリコサミノグリカン結合性物質をターゲットとした特定の細胞・組織・微生物などへのDDSや遺伝子導入に用いることができるシュードプロテオグリカンプローブおよびシュードプロテオグリカン吸着体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、PG構造を模倣したシュードPGを含むプローブおよびアフィニティー吸着体と従来のプローブおよび吸着体との比較を示す図面である。
第2図は、実施例1で調製した種々のBPL−GAGプローブのセルロースアセテート膜電気泳動の結果を示す図面に代わる写真である。(a)CBBによるタンパク質染色、(b)トルイジンブルーによるポリアニオンの染色。
第3図は、実施例1のBPL−GAGプローブとBPA−GAGプローブのウエスタンブロッティングにおけるラット脳抽出液との反応性を示す図面に代わる写真である。(a)BPL−GAGプローブとビオチンヒドラジド−Hepプローブとの反応性の比較。(b)BPL−HepとPLLの代わりにポリアクリルアミド鎖を骨格に用いて調製したBPA−Hepの反応性の比較。全レーンにラット脳抽出液試料を泳動した。
第4図は、ヘパリンシュードPG吸着体と従来のヘパリン−吸着体を用いたアフィニティークロマトグラフィーとの比較を示す図面である。
第5図は、正常ラット脳抽出液のヘパリン結合画分に対するBPL−GAGプローブの反応性を示す図面に代わる写真である。
第6図は、正常ラット脳抽出液のヘパリン結合画分に対するBPL−Hepプローブの反応性を示す図面に代わる写真である。(a)11%ポリアクリルアミドゲルでのSDS−PAGEとウェスタンブロティングによるプローブ反応性、(b)6%ポリアクリルアミドゲルでのSDS−PAGEとウェスタンブロッティングによるタンパク質検出。
第7図は、シュードHep−PGプローブ(BPL−Hep)に結合するタンパク質について説明する図面である。図中Cypはサイクロフィリンであり、免疫抑制剤サイクロスポリンAに結合するタンパク質ファミリーの総称であり、すべての細胞に豊富に存在する。
第8図は、SPRにおけるBPL−Hepプローブとヘパリン結合タンパク質との相互作用のセンソグラムである。(a)はヘパリン結合タンパク質がラクトフェリン、(b)はトロンビン、(c)はAT−IIIである。
第9図は、アビジン吸着体およびBPL−GAGプローブを利用したタンパク質の分離と検出の結果を示す図面に代わる写真である。
第10図は、プロテオグリカン(PG)モノマーの構造(細胞膜に存在する形)を表した図面である。
第11図は、ヘパリン・ヘパラン硫酸の化学構造を表した図面である。式中、R:HまたはSO、R´:H,SOまたはCOCH、nは整数。
【発明を実施するための最良の形態】
シュードプロテオグリカンについて説明する。
本発明において用いる「シュードプロテオグリカン」は、本発明者らが実験によりその機能等を裏付けした後に、プロテオグリカンの分子構造を模倣した人工分子に命名した新しい技術用語である。
プロテオグリカン(PG)はそのグリコサミノグリカン鎖を介して、成長因子、接着性糖タンパク質、インテグリンなど、細胞外マトリックス中や細胞表面の種々のリガンド分子と相互作用することにより、細胞接着、凝集、移動、組織形成等において、重要な調節機能を果たしている。シュードプロテオグリカンは、ビオチン標識をはじめとする適切なタグ(標識)を導入したり、アガロース、デキストラン、セルロース、ポリアクリルアミドなどから作られた支持体、例えば成形された生体高分子ビーズ(生体高分子を材料とするビーズ、バイオビーズ)、合成高分子ビーズ、センサーチップ表面などに共有結合させることによって、グリコサミノグリカン結合レセプターの探索、分離精製、相互作用解析、ならびに特定の細胞・組織・微生物などへのターゲティングに利用でき、その新しい構造に基づき、従来のグリコサミノグリカンプローブに比べて優れた機能をもつことを発明者らが実験により見出した。
プロテオグリカンの分子構造について説明する。
プロテオグリカン(PG)モノマーはコアタンパク質に複数のグリコサミノグリカン(GAG)が共有結合した超分子である(第10図)。本発明者らは、種々の糖鎖誘導化プローブや糖鎖固定化吸着体の調製技術を活用して、GAG鎖が生体内でとっている超分子複合体構造(GAG以外にコアタンパク質、ヒアルロン酸などから構成される)を模倣して、1つ以上〜複数のGAG鎖を、コアタンパク質に代わる直鎖状ポリL−リジン鎖またはポリアクリルアミド鎖などの直鎖状高分子に共有結合させて人工複合糖質を調製した。
プロテオグリカンの分子構造を模倣した人工分子について説明する。
プロテオグリカンの構造的特徴を保有するシュードプロテオグリカンは本発明者らによりはじめて創り出されものである。
従来のプローブや吸着体は、天然のプロテオグリカン構造をもたず、グリコサミノグリカン鎖を直接ビオチン標識、あるいは支持体ビーズに固定化して吸着体を調製した。またはアルブミンやペルオキシダーゼなどのタンパク質に直接結合させたネオプロテオグリカンプローブが用いられた(第1図参照)。これらは上記背景技術に記載の通り、天然のプロテオグリカンの性質とは異なりDNA結合タンパク質などとの交差反応性や、タンパク質部分による非特異的結合などの問題点があった[非特許文献2]。
また、直鎖状ポリL−リジン鎖を、遺伝子DNAのターゲティングプローブとして利用する方法は以前より検討され、これにGAG鎖を結合させて誘導頭とする試みが報告されている((1998)Bioconj.Chem.9,476−481.他)が、この複合体も一種のネオプロテオグリカンであって、シュードプロテオグリカンとは異なる。すなわち、シュードプロテオグリカンは、ポリL−リジン鎖をN−アセチル化することによりその正電荷を中和して、GAG鎖が空間的に自由度のある立体構造をもつ点で天然のプロテオグリカンに近い立体構造をもつが、既報のDNAのターゲティングプローブでは、骨格のポリL−リジン鎖のアミノ基をN−アセチル化しないため、ポリアニオンであるGAG鎖やDNAが、解離したポリL−リジン鎖に静電的に絡みつく構造をもつと推定される。
さらにビオチン標識することにより検出プローブとして、または支持体に固定化して吸着体として利用する用途は、シュードプロテオグリカンに特有のものである。本発明者らは、シュードプロテオグリカンが検出・分離・相互作用解析に用いるプローブとして優れた性質をもつことを実験的に示した。たとえばHIV感染初期過程にかかわるシクロフィリンと強く結合する性質をもつなど、その機能に拠って、新規なプローブならびに吸着体の用途に使用することができる。従来のプローブに比べ、すなわち静電的な結合による非特異的反応が少なく、プロテオグリカンと結合する物質に対して特異性または親和性の高いプローブや吸着体として活用できる。
天然プロテオグリカンには、1つのコアタンパク質に1本のGAG鎖をもつデコリン、数本のGAG鎖をもつパールカン、バーシカン等から、数十本のGAG鎖をもつアグリカンまでGAG鎖の構造ばかりでなく、数の点でも非常に多様性が高い。その構造多様性が機能の多様性と関係し、各プロテオグリカン構造はそれぞれに特徴的な機能と結びつく。シュードプロテオグリカンの概念も、GAG鎖の構造ばかりでなく、数についても、1〜数十本の幅広い範囲を含んでいる。
コアタンパク質に代わる1本の直鎖状ポリマー鎖について説明する。
プロテオグリカンでは、コアタンパク質にGAG鎖の還元末端がO−グリコシド結合により共有結合している。プロテオグリカン構造の安定性は、多糖鎖とタンパク質との強固で安定な結合に拠るので、シュードプロテオグリカンも直鎖状ポリマーと多糖鎖との結合は共有結合で合成されなければならない。生体組織からプロテオグリカンを調製するには、動物組織の細胞外マトリックスからグアニジン塩酸などの変性剤を用いて抽出し、多段階の密度勾配遠心やイオン交換クロマトグラフィーにより精製するが、収量が少なく、GAG鎖の構造不均一性の点でそのままプローブや吸着体として使用するには、困難が多い。一方、シュードプロテオグリカンは調製が容易で、GAG鎖として精製品を用いると、構造的に均一性の高いシュードプロテオグリカンを合成できるので、結合特異性の高いプローブや吸着体を得ることができる。また直鎖状ポリマーとして、実験ではDNA導入または支持体として汎用されるポリL−リジン鎖、ポリアクリルアミド鎖を例に用いて行ったが、他の直鎖状または分枝状ポリマーも使用可能であり、それぞれから調製されるシュードプロテオグリカン分子の特性はポリL−リジン鎖、ポリアクリルアミド鎖を用いた例と同様に実験的に確認することができるものと考えている。さらに人工分子では、天然に存在しない多糖鎖をもつ分子を作ることも可能で、2種類以上のGAG鎖を種々の組み合わせで直鎖状ポリマーに結合させたハイブリッドプロテオグリカンの創製や、直鎖状ポリマーや標識タグの種類を選択することにより、シュードプロテオグリカンに新規な機能や用途を付与することも可能と考えられる。
シュードプロテオグリカンのプローブとしての使用について説明する。
プローブとは探索針の意味で、ある特性をもつ物質を探索するための道具を指す。すなわち、ここではプロテオグリカンに結合する物質を探りあてる目的、ならびに結合を検出する目的で使用する、プロテオグリカンに適切な標識を導入した試薬である。
上記の標識として、非特異的結合が少なく、高感度検出が可能な標識、たとえばビオチン、ジゴキシゲニン、蛍光(フルオレセイン、ローダミン等)、放射性同位元素(H,14C,125I等)が例示される。
たとえば、ビオチン標識を導入すると、アビジン−ペルオキシダ−ゼまたはアビジン−アルカリフォスファターゼとそれぞれの発色基質により検出することで非常に高感度化が可能である。欠点はアビジンを含む試料(脳抽出液など)ではアビジンタンパク質も検出されることと、アビジン自身がヘパリンを始めとするGAGに結合する性質があるため、GAGを含む物質による妨害バンドが出現することである。
またビオチン標識を、Hisタグ標識に変えることで、スクリーニングでの分離回収を容易にすることもできる。
シュードプロテオグリカンの吸着体としての使用について説明する。
吸着体とは、クロマトグラフィーにおいて目的の物質を混合物から単離するために使用される道具で、目的物質のみと結合し、洗浄後、条件を適切に変えることにより目的物質と解離して溶出する性質をもつ物が最も望ましい吸着体である。したがって、生体物質に対する吸着体は、生物学的リガンドをもともとの構造中に含む物質か、あるいは適切な支持体上に安定な形で結合させた人工的な吸着体を使用する。
バイオビーズとは、生物材料を用いた支持体で、多孔性ビーズに成形したもの、例えばアガロース、セルロース、デキストラン及びこれらのハイブリッド分子である。合成高分子ビーズとは、非生物材料を素材とする合成高分子支持体、例えばポリアクリルアミドなどである。
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
シュードプロテオグリカンプローブの調製方法
1)ビオチニルポリL−リジンヘパリン(Biotin poly−L−lysine Hep:BPL−Hep)またはビオチニルポリL−アクリルアミドヘパリン(Biotin polyacrylamide Hep: BPA−Hep)
ポリ−L−リジン(PLL,分子量:1.5万〜3万)水溶液(8mg/ml)250μlとヘパリン6mgを0.5M PB80μlに加えて混合し、沈殿を生じなくなるまで4M NaCl水溶液(210μl)を加え撹拌した。還元剤NaBHCN水溶液(1mg/ml)20μlをPLL−Hep混合溶液に加え、40℃で75時間振盪しながら反応させた((1998)Bioconj.Chem.9,476−481.)。
カップリング後0.1M酢酸ナトリウム水溶液に対して透析し、還元剤を除いた。透析後、PLL−Hepの沈殿を生じなくなるまで4M NaClを加えて混合し、スルホ−NHS−ビオチン水溶液(200μg/200μl)を加え、室温で1時間振盪しながらPLL中のアミノ基にビオチン基を導入した〔Instruction manual to EZ−Link(登録商標)Biotin−LC−hydrazide.(PIERCE.Rockford,IL)〕。この反応液に無水酢酸を100μl加えて氷上で30分間反応させ、さらに無水酢酸を100μl加え、室温で振盪しながら30分間アセチル化した。その後、1MのNaClを含むPBに対して透析し、未反応ビオチン試薬や無水酢酸を除去した。
シュードPGのコアタンパク質として、PLLの代わりにポリアクリルアミド(PAA,分子量:1万、60万〜100万の二種類を使用)を用いた場合には沈殿を生じないので、4M NaClを添加せずに同じ操作を行い、BPA−Hepを調製した。
2)ビオチニルポリL−リジングリコサミノグリカン(Biotin poly−L−lysine GAG:BPL−GAG,ヘパリン以外のグリコサミノグリカンプローブ)上記1)と同様にして、GAG鎖として、ヘパリンの代わりにコンドロイチン硫酸−AおよびB、コロミン酸、またはグルクロン酸をPLLに導入し、BPL−GAGプローブを調製した。
3)ビオチニルポリL−リジン(Biotin poly−L−lysine:BPL)
BPL−GAGのネガティブコントロールとして、GAG鎖を導入していないBPLプローブを調製した。PLL 3mgを0.1M AcONa 405μlに溶解し、0.1M NaOHでpH9.0−9.5に調整した。スルホ−NHS−ビオチン(75μg/75μl)を加えてBPLHと同様にPLL中のアミノ基にビオチン基を導入し、ついで未反応アミノ基をN−アセチル化した。その後、1MのNaClを含むPBに対して透析した。
【実施例2】
実施例1のBPL−GAGプローブのセルロースアセテート膜電気泳動による確認
セルロースアセテート膜電気泳動によりPLLとGAGのカップリング状況を調べた。実施例1のいずれのプローブについてもカップリングの進行は、反応液を2μlずつセルロースアセテート膜にスポットして、1M酢酸−ピリジン(pH3.5)中で0.5mA/cm,20分間泳動して5分間CBB染色またはトルイジンブルー染色後、水洗して染色バンドの移動度の変化から確認した。さらにHPLCによるゲルろ過クロマトグラフィー(カラム:Shodex 804,6.4x30mm)における溶出挙動の変化から、分子量または分子形状の変化した複合体が生成することを確認した。結果を第2図に示す。
第2図に示すように、CBB染色(a)により、出発物質であるPLLは陰極付近に検出されたが(lane1)、BPL−Hepプローブ(lane5)、BPLプローブ(lane6)、BPL−コンドロイチン硫酸−A(CS−A)プローブ(lane7)、BPL−コンドロイチン硫酸−B(CS−B)プローブ(lane8)では、原点付近に染色された。それぞれ陰極側に残っているのは、未反応PLLと考えられる。また、BPL−コロミン酸プローブはやや陰極側に泳動された(lane9)。
トルイジンブルー染色(b)により、酸性多糖もプローブでは全て原点付近に検出され、カップリングが完了していることが示された。
【実施例3】
プローブの適用例
ラット脳抽出液中のプロテオグリカン結合物質の検出(ウエスタンブロット法)
Wistarラット脳(8週令,♂)を4倍容(v/w)の緩衝液(10mM Na−Phosphate buffer(pH7.7),130mM NaCl,1mM PMSF,20mM ε−アミノカプロン酸,0.02%NaN)中でホモゲナイズし、4℃で一晩振盪抽出し、遠心上清を脳抽出液として用いた。タンパク質濃度はトネイン−TP(大塚製薬)により定量した。この8μlを、9.5%ポリアクリルアミド泳動ゲル(3%濃縮ゲル)を用い、Laemmli法に従い2%SDS,1%2−メルカプトエタノール存在下で泳動した。泳動後のポリアクリルアミドゲルからPVDF膜(MILLIPORE,Immobilon P)に100mM Tris−HCl(pH7.5)、192mMグリシン、20%メタノールに100mAで100分間、室温で転写した((1987)J.Biol.Chem.262,10035−10038)。
プローブによる検出反応は全て振盪しながら行った。脳抽出液試料をブロットした膜を5%BSAを含むTBS中で4℃で一晩、ブロッキングした後、PBSで希釈した各プローブ溶液(Hepとして約20μg/ml in PBS)を加え、4℃で1.5時間結合反応を行った。氷冷した0.1%Tween20を含むTBS(以下洗浄液とする)で3分間ずつ3回洗浄後、5%BSAを含むTBS中、4℃で30分ブロッキングした。市販標品をTBSで500倍希釈したHRP−ABC溶液と2時間反応させ、洗浄液で1分間ずつ4回洗浄後、用時調製した3,3’−Diaminobenzidine,tetrahydrochloride(DAB)20mg、TBS100ml、30%過酸化水素水20μl混合液(以下発色液とする)を加えて発色反応させた((1985)Anal.Biochem.,147,222−229.)。
実施例1のBPL−GAGプローブの反応性
正常ラット脳抽出液8mlを試料として、ウエスタンブロット法によってBPL−GAGプローブ、ビオチンヒドラジド−Hepプローブとの反応性を比較した。
Wistarラット脳抽出液の各8μlを、9.5%ポリアクリルアミド泳動ゲル(3%濃縮ゲル)を用いて還元条件下で泳動後、PVDF膜に転写し、各プローブ(Hepとして約20μg/ml inPBS)との結合性を調べた。結果を第3図の(a)、(b)に示す。
(a)は、BPL−GAGプローブとビオチンヒドラジド−Hepプローブとの反応性の比較であり、レーン1は分子量マーカー(CBB)、レーン2〜9はラット脳抽出液試料を泳動した。レーン2(CBB)、レーン3(ビオチンヒドラジド−Hep)、レーン4(BPL−Hep)、レーン5(BPL−CS−A)、レーン6(BPL−CS−B)、レーン7(BPL−コロミン酸)、レーン8(BPL−グルクロン酸)、レーン9(BPL、ネガティブコントロール)の反応性の比較である。
(b)は、BPL−HepとPLLの代わりにポリアクリルアミド鎖を骨格に用いて調製したBPA−Hepの反応性の比較である。全レーンにラット脳抽出液試料を泳動した。レーン1(CBB)、レーン2(BPL−Hep)、レーン3(BPA−Hep、MW=10kDaのアクリルアミドを使用して調製)、レーン4(BPA−Hep,MW=60−1000kDaのアクリルアミドを使用して調製)。
第3図(a)に示すように、BPL−Hepプローブは、25−145kDaの多数のバンド中、38,40,46kDaが強く染色され(lane4)、多糖鎖単独構造(単鎖構造)をもつビオチンヒドラジドHepプローブとの反応性の差が示された。また、ビオチンヒドラジドHepプローブと、共通な染色バンドも存在したがバンド間の相対的な染色強度には差がみられ、BPL−Hepではより多くのバンドが強く検出された。
よってシュードPG構造をもつBPL−Hepプローブの方が、リガンドタンパク質との結合が強く、また単鎖構造の場合とは結合特異性が異なることが示唆された。すなわちBPL−Hepプローブにより検出されたバンドには、ヘパリン鎖の糖鎖配列だけでなく、シュードPG構造を認識して結合するものが含まれている。また、他のBPL−GAGプローブ、BPLプローブでの結果と比較することにより、多くの染色バンドはヘパリンに対して特異的である可能性が示唆された。
すなわち、BPL−Hepは脳内リガンドタンパク質を検出する際に、非常に有効な検出手法であることが示された。BPL−CS−A,BPL−CS−BおよびBPL−コロミン酸プローブでは、31−145kDa中、特に48kDaが強く染色され(lane5,6および7)、これら3プローブ間で共通性がみられた。このバンドはBPL−Hepプローブでは検出されなかったことから、静電的な相互作用によるものではなく、これら多糖鎖に共通するほかの構造要素がかかわると考えられた。どのプローブでも強く染色された70kDaのバンドは、HRP−ABCのみで発色させた際にも検出され、また分子量から脳内在性のアビジンであることが示唆された。
第3図(b)に示すように、BPL−HepとPLLの代わりにポリアクリルアミド鎖を骨格に用いて調製したBPA−Hepの反応性を脳抽出液について比較したところ、骨格の種類および長さが異なっても検出されるタンパク質は主に同じ物であるが、タンパク質によっては多少反応性に差があった。特に分子量1万のポリアクリルアミドを用いたBPA−Hepプローブは最も検出感度が向上した。
【実施例4】
プローブの適用例
表面プラズモン共鳴法(SPR)によるプローブとヘパリン結合タンパク質との相互作用の定量的解析
BIACORE用のストレプトアビジン(SA)固定化チップの4つのフローセルに、1)BPL−Hep、2)ビオチンヒドラジドHep、それらのコントロールとして、3)BPL、4)ビオチンをそれぞれ結合させた。アナライトにラクトフェリン、トロンビン、アンチトロンビンIII(AT−III)溶液を流速20μl/minで流し25℃で相互作用を測定した。解析はBIA Evaluation 3.1解析ソフトにより行った。
SPRによるプローブとヘパリン結合タンパク質との相互作用の定量的解析
第8図に、SPRにおけるBPL−Hepプローブとヘパリン結合タンパク質との相互作用のセンソグラムを示す。
BPL−HepプローブまたはビオチンヒドラジドHepプローブとヘパリン結合タンパク質であるラクトフェリン(a)、トロンビン(b)、AT−III(c)とのセンソグラム(第8図)から、結合・解離の速度定数、ならびに親和定数を算出した。センソグラムは、プローブを結合させたフローセルへのアナライト結合量からそれぞれのコントロールフローセルへの結合量を差し引いて補正した。グローバルフィッティングにより求めた相互作用パラメータを表1にまとめた。シュードPGプローブが定量的解析にも適用できることが示され、ラクトフェリンおよびトロンビンにおいて、BPL−HepプローブはビオチンヒドラジドHepプローブよりも解離定数が小さく、3〜6倍高い親和力を示した。

【実施例5】
プローブの適用例
アビジン吸着体およびプローブを利用した結合タンパク質の分離と検出
ラット脳に含まれるGAG結合タンパク質を精製するために、アビジン吸着体およびBPL−GAGプローブを用いて実験を行った。アビジンセファロースは、アビジン5.5mgをNHS−活性化Sepharose(4 Fast flow,Pharmacia)3gに付属のプロトコールに従い、固定化して調製した。
《実験》脳抽出液(Normal)1mlと各プローブ50μlを1.5mlエッペンドルフチューブ中で混合し、4℃で2時間振盪した後、この反応液にアビジンセファロースゲル懸濁液を600μlずつ加え、4℃で一晩振盪した。遠心して上清を取り除き、ゲルに泳動用試料緩衝液80μlを加えて10分以上煮沸し、遠心上清を泳動試料とした。泳動は、Laemmli法に従って9.5%アクリルアミド泳動ゲル、3%アクリルアミド濃縮ゲルを用いて行い、銀染色によりタンパク質を検出した。
分離方法は実験で示したとおりに行い、銀染色によってタンパク質の検出を行った結果を第9図に示す。
多種類のタンパク質が結合したため、各プローブについてバンドパターンの差を見分けにくいが、アビジンゲルと組み合わせることによって微量の溶液からの結合リガンドの吸着分離検出にもシュードPGプローブが利用できることが示唆された。
【実施例6】
吸着体の調製方法
1)Hep−PLL−Sepharose 4B
PLLとヘパリンのカップリングは、実施例1の1)の操作を5.4倍にスケールアップして行い、40℃で三〜七晩振盪しながらカップリング反応させた。PLL−ヘパリン溶液を別に調製したホルミルセファロース4Bゲル10g((1985)J.Biochem.Tokyo,97,1689−1694.)に加え、混合し、NaBHCN 60mgを加え4℃で5晩振盪した。カップリングの進行は、この反応懸濁液の一部(ゲル約10mgを含む)を遠心し、上清の未反応PLL−Hepを取り除き、ゲルをヌッチェ上で十分水洗し、TNBSテストによりPLLのアミノ基の発色から確認した。カップリング後のゲルに1M Tris−HCl(pH7.4)20mlとNaBHCN 60mgを加え、室温で1時間振盪し残存ホルミル基をブロックした((1985)J.Biochem.Tokyo,97,1689−1694.)。ついでPLLの未反応アミノ基を無水酢酸によりアセチル化してブロックした((1990)Bichim.Biophys.Acta,1033,49−56.)。ゲルのアセチル化操作は2回行い、最後に純水、0.1M NaOH、純水の順によく洗浄した。
2)Hep−Sepharose 4B
エポキシ活性化セファロース4B 10gをアミノ化し、ヘパリン水溶液(200mg/6ml)とEEDQ水溶液(200mg/4ml)を加え、TNBSテストでアミノ基の減少によりカップリングの進行を追跡しつつ、40℃で三晩振盪した((1990)Bichim.Biophys.Acta,1033,49−56.)。ヘパリン−セファロース4Bを純水−EtOH(6:4)、EtOH、1M NaCl、純水の順で洗浄後、氷冷した0.2M酢酸ナトリウム5mlと無水酢酸2.5mlを加えて氷上で30分間反応させ、さらに無水酢酸2.5mlを加え室温で30分間反応させて、残存アミノ基をアセチル化した。アセチル化操作は2回行い、TNBSテストで残存アミノ基の消失を確認した。その後、純水、0.1M NaOH、純水の順によく洗浄しヘパリン−セファロースを得た。
3)PLL−Sepharose 4B
ホルミルセファロース4Bゲル20gにPLL水溶液(21.6mg/2.7ml)を加えて混合し、さらにNaBHCN 120mgを加え、4℃で七晩振盪した。この反応懸濁液の一部を遠心し、実施例6の1)と同様にゲルを水洗し、TNBSテストによるアミノ基の発色からカップリングを確認した。残存ホルミル基のブロックならびに未反応アミノ基のブロックは、実施例6の1)と同様に行い、純水、0.1M NaOH、純水の順によく洗浄した。
4)ヘパリン固定化量の定量
純水で洗浄したヘパリン−PLL−セファロース4B 20mgに4M HCl 1mlを加え、封管にした。封管を加水分解炉を用いて、100℃で16時間加熱した。この反応を妨害するリジンを除くため、Dowex 50(H型)をセパコールカラム(直径7.5mm,長さ50mm)につめ、これに加水分解液を加え純水で洗浄することにより中性糖を洗い流し、さらに2M HClによってヘキソサミンを溶出させた。溶出液のHClを除くために、ナスフラスコを用いて減圧濃縮し、底に乾固したら少量の水に溶解した。その後、Elson−Morgan反応(Boasの改良法)の比色定量法に従って、ゲルのヘキソサミン含量からヘパリン固定化量を算出した(瀬野信子 外2,(1986)グリコサミノグリカン固定化量の定量 続生化学実験講座4 複合糖質実験法II p.405,(日本生化学会編)東京化学同人)。
【実施例7】
吸着体の適用例
ラット脳抽出液からのプロテオグリカン結合物質の分離(アフィニティークロマトグラフィー)
1)Hep−Sepharose 4B,Hep−PLL−Sepharose4Bカラムによるヘパリン結合画分の調製
SepharoseをプレカラムとしてHep−Sepharose4Bカラム(7.5mm x 50mm)を130mM NaCl−PB(pH7.7)で平衡化後、正常ラット脳抽出液可溶性画分8mlをかけて洗浄し、0.5M NaCl−PBで溶出した。溶出は0.1ml/minの流速で行い、1mlずつ分取し、各画分の280nmにおける吸光度をハーフセル(光路長0.5cm)で測定した。一方、Hep−PLL−Sepharose4Bカラムでは、PLL−セファロース4Bカラム(7.5mm x 50mm)をプレカラムとして、アフィニティークロマトグラフィーを同条件で行った。Hep−SepharoseおよびHep−PLL−Sepharoseカラムからの0.5M NaCl−PB溶出画分について、タンパク質の分析をSDS−PAGE,シュードプロテオグリカンプローブ反応性、およびN−末配列分析により行った。溶出ピーク画分をプールし、アミコン濃縮装置および分画分子量10,000のYM10膜(MILLIPORE)を用いて、130mM NaCl−PB(pH7.7)へのバッファー置換および濃縮を行った。
2)結合タンパク質のSDS−PAGEとN末端アミノ酸配列分析
上記1)の2種類のカラムからの0.5M NaCl−PB溶出画分をSDS−PAGEで分離後、PVDF膜に転写し、CBBで染色した。またシュードプロテオグリカンプローブとの反応性を実施例3の方法で調べた。タンパク質バンドの内、2種類のカラムで差のみられたバンドを切り取り、Milli−Q水で十分洗浄した後、アミノ酸配列分析((株)東レリサーチ)を委託した。プロテインシークエンサー(Procise cLC 492cLC型 Applied Biosystems)、PTHアナライザー(140D型 Applied Biosystems)、UV検出器(S200型 Applied Biosystems)、分析プログラム(Pulsed−Liquid ProSorb cLC)により分析した。
【実施例8】
本実施例は実施例6と実施例7の結果を示すものである。
実施例6のヘパリンシュードPG吸着体について、調製したHep−PLL−Sepharose 4B中のヘパリンを4N HClで加水分解し、グルコサミンとして遊離させ、Elson−Morgan反応(Boasの改良法)によりヘキソサミンを定量した結果、ゲルに固定化されているヘパリン量は、1.02mg/g wet gel(ヘパリン中のグルコサミン含量23.8%として計算)であった。EEDQ法で調製したHep−Sepharose 4Bでは7.2mg/g wet gelの固定化ヘパリン量が報告されている((1990)Biochem.Biophys.Acta,1033,49−56.)。
ヘパリンシュードPG吸着体と従来のヘパリン−吸着体を用いたアフィニティークロマトグラフィーとの比較をした。結果を第4図に示す。
正常ラット脳抽出液について実施例6の操作に従い、Hep−PLL−Sepharose 4Bカラム(PLL−Sepharose 4Bをプレカラムとする)またはHep−Sepharose 4Bカラム(Sepharose 4Bをプレカラムとする)にかけ、アフィニティークロマトグラフィーを行い、0.5M NaCl(第4図中1番目の矢印)、2M NaCl(第4図中2番目の矢印)を含むPBによって結合タンパク質を溶出した。
正常ラット脳抽出液のヘパリン結合画分に対するBPL−GAGプローブの反応性を調べた。0.5M NaClピーク画分を濃縮し、ウエスタンブロット法により各プローブとの結合実験を行った。結果を第5図に示す。
Hep−PLL−Sepharose 4BカラムまたはHep−Sepharose 4Bカラムから溶出された0.5M NaCl画分を11%ポリアクリルアミド泳動ゲル(3%濃縮ゲル)を用いて還元条件下でSDS−PAGEにかけ、PVDF膜に転写し、各プローブ(GAGとして約20μg/ml inPBS)との結合性を調べた。第5図中、レーン1,分子量マーカー(CBB)、レーン2,4,6,8,10,12,Hep−Sepharose 4Bカラムの溶出画分、レーン3,5,7,9,11,13,Hep−PLL−Sepharose 4Bカラムの溶出画分。レーン2,3(CBB),レーン4,5(BPL−Hep),レーン6,7(BPL−CS−A),レーン8,9(BPL−CS−B),レーン10,11(BPL−コロミン酸),レーン12,13(BPL−グルクロン酸)。
正常ラット脳抽出液のヘパリン結合画分に対するBPL−Hepプローブの反応性を調べた。0.5M NaClピーク画分を濃縮し、ウエスタンブロット法により各プローブとの結合実験を行った。結果を第6図に示す。
Hep−PLL−Sepharose 4BカラムまたはHep−Sepharose 4Bカラムからの0.5M NaCl溶出画分を11%ポリアクリルアミド泳動ゲル+3%濃縮ゲル(a)、または6%ポリアクリルアミド泳動ゲル+3%濃縮ゲル(b)を用いて還元条件下でSDS−PAGEにかけ、PVDF膜に転写し、CBB染色〔(a)のレーン1〜3、および(b)のレーン1、2〕またはBPL−Hepとの結合性〔(a)のレーン4、5〕を調べた。(a)レーン1、分子量マーカー、レーン2,4、Hep−Sepharose 4Bカラム溶出画分、レーン3,5、Hep−PLL−Sepharose 4Bカラム溶出画分。(b)レーン1、Hep−Sepharose 4Bカラム溶出画分、レーン2、Hep−PLL−Sepharose 4Bカラム溶出画分。
第5図のレーン2,3および第6図(a)(b)に示すように、Hep−SepharoseとHep−PLL−Sepharoseの溶出画分をタンパク質染色で比較すると、Hep−Sepharoseでは32kDaバンドが増加しており、一方Hep−PLL−Sepharoseでは18kDaと95kDaバンドが増加していた。この3つのバンドについてN末端アミノ酸配列分析を行った。BPL−Hepプローブを用いた結合実験〔第5図のレーン4,5および第6図(a)右端〕でも、18kDaバンドが強く反応し、このタンパク質がシュードPGに高い反応性をもつことが示された。
各BPL−GAGプローブとの結合実験から(第5図)、BPL−CS−A(レーン6,7)およびBPL−CS−Bプローブ(レーン8,9)ならびにBPL−コロミン酸プローブにより(レーン10,11)、18−116kDaの広範囲にわたるバンドがいくつか検出された。Hep−Sepharoseの溶出画分では、32,48kDaのバンドが特に強く染色された。Hep−PLL−Sepharoseの溶出画分では、48kDaのバンドが特に強く染色された。BPL−グルクロン酸プローブを用いて染色したレーン12,13では、70〜73kDaのバンドが検出された。
N末端アミノ酸配列分析
ウエスタンブロットの分析により、Hep−PLL−Sepharose溶出画分にのみ検出された18kDa、95kDaのタンパク質と、Hep−Sepharose溶出画分に多量に検出された32kDaのタンパク質について、PVDF膜からN末端アミノ酸配列分析を行った結果、両者ともに10アミノ酸残基を決定することができた(表2)。
プロテインデータベースでのホモロジー検索の結果、それぞれサイクロフィリン(18kDa)、Hsp90(熱ショックタンパク質)(95kDa)およびHMG 1(high mobility growth 1 protein)(32kDa)のN末端アミノ酸配列ならびに報告されている分子量と完全に一致し、タンパク質が同定された。Hep−PLL−Sepharose溶出画分に検出された18kDaのバンドは、抗ヒトサイクロフィリン抗体と反応したことからも、サイクロフィリンであることが確認された(データ示さず)。

Hep−PLL−Sepharose 4Bの溶出画分に検出された18kDaのタンパク質、サイクロフィリンは、免疫抑制剤サイクロスポリンAに結合するタンパク質ファミリーの総称であり、すべての細胞に豊富に存在する。細胞質型のサイクロフィリンAと膜結合型のサイクロフィリンBが知られている。今回Hep−PLL−Sepharose 4Bによって精製されたサイクロフィリンは、可溶性抽出液に含まれていたので、細胞質型であるサイクロフィリンAであると思われる。サイクロフィリンはすべての生物細胞に大量に存在するタンパク質であり、生命活動の維持に不可欠な機能を果たすと考えられるのにもかかわらず、その生理学的な役割は未だ結論が得られていない。サイクロフィリンはpeptidyl−prolyl cis−trans isomerase(PPIase)でもあり、in vitroにおいてポリペプチドのプロリンのアミド結合のシスからトランスへの異性化を触媒し、タンパク質のフォールディングに関わるのではないかとも考えられている。
興味深いことに、サイクロフィリンAは細胞外にも存在し、HIV−1ウイルス表面のタンパク質と特異的に結合してウイルス内に取り込まれ、宿主の抵抗性を抑制調節してHIV−1ウイルスの複製を助けていることが明らかになった((2003)Nature Med.9(9)1138−1143)。またこれまではHIV−1ウイルスが体内に侵入してきた際に、ウイルス由来のgp120と細胞側のCD4が最初に相互作用し、その後ウイルスが細胞に進入していくと考えられていたが、マクロファージではまずサイクロフィリンAが細胞表面に存在するヘパラン硫酸と結合することが、最近報告された。ヘパラン硫酸は硫酸含量がヘパリンよりも低いが、非常に類似した構造をもつGAGである〔(第11図参照)、(2001)J.Virol.75,9187−9200.〕。
また、サイクロフィリンAのヘパリン結合部位の4アミノ酸が同定されており、これを欠くとサイクロフィリンAがリンパ球表面のヘパラン硫酸PGと結合できず、HIV−1ウイルスは細胞に近寄ることができない((1999)The EMBO J.18,6771−6785.)。
上記の事実を踏まえ、シュードHep−PGプローブ(BPL−Hep)に結合するタンパク質について第7図で説明する。
Hep−PLL−Sepharose 4Bの溶出画分に検出された18kDaのタンパク質、サイクロフィリンは、免疫抑制剤サイクロスポリンAに結合するタンパク質ファミリーの総称であり、すべての細胞に豊富に存在する。サイクロフィリンはin vitroにおいてポリペプチド中のプロリンアミド結合のシスからトランスへの異性化を触媒するペプチジルプロリル シス/トランスイソメラーゼでもあるが、HIV−1ウイルスが体内に侵入してきた際に、まずウイルスに結合したサイクロフィリンAがマクロファージ細胞表面に存在するヘパラン硫酸と結合することが、最近報告された。本研究から、サイクロフィリンAとヘパリンとの結合においては、ヘパリンプロテオグリカン構造をとることが、ヘパリン多糖鎖単独の構造よりもたいへん有効であることが示唆された。すなわちHIV感染において、シュードプロテオグリカン構造が、初期過程のより有効な感染阻害薬となる可能性が示唆された。さらに宿主のウィルス抵抗性を調節するサイクロフィリンのはたらきを制御する薬剤となる可能性も考えられる。
Hsp90は、主要な細胞内分子シャペロンの一つであり、細胞ストレス状況下で発現量が増大するが、通常でも細胞質にもっとも多く存在するタンパク質の一つである。HSP90は様々な細胞内タンパク質と相互作用してその正確なフォールディングと機能を保証する役割を持つ。Hep−PLL−SepharoseやBPLHが細胞質に存在するシャペロン分子と結合することがプロテオグリカンのどのような機能と結びつくのかまだ不明である。しかしプロテオグリカンは細胞外ばかりでなく、核内にも存在することが報告されており、Hsp90やサイクロフィリンなど本来細胞質に存在するたんぱく質との結合が未知の機能をもっている可能性も考えられる。
今後はこれら結合分子の局在やその活性に与える影響を研究するためにも、シュードPGプローブを活用することができる。
HMG1は神経細胞突起の伸長作用を有する分子量3万前後のヘパリン結合性タンパク質で、核内タンパク質である。DNAに結合し染色体やDNAの構造変動を促す構造スイッチ装置の役割を果たし、HMGタンパク質に見出されたDNA結合の構造モチーフが、男女の性を決定する因子であるなど、遺伝子情報の発現を調節する様々な因子に広く存在することが明らかになり、HMGボックスと呼称されている。本実験では、HMG1はHep−Sepharose 4Bの溶出画分に多量に検出されたが、Hep−PLL−Sepharose 4Bにはあまり結合しなかったことから、これはHMG1がDNAのようなポリアニオン分子と静電的に結合するため、Hep−Sepharose 4Bに結合したが、Hep−PLL−Sepharose 4Bでは立体障害や電荷の中和が起きているため結合性が低下したと考えられた。
【産業上の利用可能性】
本発明では、初めてシュードプロテオグリカンプローブとその固定化吸着体を調製し、グリコサミノグリカン結合レセプターの探索、ならびに分離精製に利用し、その有効性を見出した。
本研究で、GAGとしてヘパリン鎖をもつシュードPGを脳抽出液からのリガンドタンパク質探索に適用し、サイクロフィリンおよびHsp90(熱ショックタンパク質)との結合が認められた。一方、従来のヘパリンプローブ・吸着体とは、HMG1(DNA結合タンパク質)が強く結合した。すなわち、GAGがコアタンパク質と結合してPG超分子構造をとると、単独のGAG鎖とは反応性が著しく変化すること、ならびにシュードPGプローブと吸着体は、これまでのGAGプローブや吸着体より特異性と親和性の点ですぐれ、PG機能研究ツールならび生体機能を調節する薬剤開発の基礎として有用であることを見出した。例えば、シュードプロテオグリカンはマクロファージとサイクロフィリンとの結合を有効に阻害したり、宿主抵抗性を抑制するサイクロファリンの活性に影響して感染をブロックする薬剤に発展すると期待されるほか、プロテオグリカンと結合する特定の分子、細胞、組織をターゲットとした薬剤送達・微生物感染・組織形成・細胞増殖・凝固系・免疫機構等の新規な制御方法に利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンの分子構造を模倣した人工分子であることを特徴とするシュードプロテオグリカン。
【請求項2】
1以上のグリコサミノグリカン多糖鎖が、コアタンパク質に代わる1本の直鎖状ポリマー鎖に共有結合する人工分子である請求項1のシュードプロテオグリカン。
【請求項3】
コアタンパク質に代わる1本の直鎖状ポリマー鎖が、1本の直鎖状ポリL−リジン鎖またはポリアクリルアミド鎖からなることを特徴とする請求項2のシュードプロテオグリカン。
【請求項4】
直鎖状ポリマー鎖がもつアミノ基のうち、グリコサミノグリカン多糖鎖が結合する以外のアミノ基は、アセチル化などのアシル化反応により化学的にブロックされて、電気的にほぼ中性であることを特徴とする請求項3のシュードプロテオグリカン。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかのシュードプロテオグリカンのプローブとしての使用。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかのシュードプロテオグリカンの吸着体としての使用。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかのシュードプロテオグリカンにビオチン標識を導入したシュードプロテオグリカンプローブ。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかのシュードプロテオグリカンをリガンドとして固定化したシュードプロテオグリカン吸着体。
【請求項9】
生体高分子ビーズまたは合成高分子ビーズに共有結合させたものである請求項8のシュードプロテオグリカン吸着体。

【国際公開番号】WO2005/066212
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516780(P2005−516780)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004589
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【Fターム(参考)】