説明

シュープレスベルト

【課題】シューエッジ当接部領域の水流を制御し、しかもシューエッジ当接部領域にクラックが発生しないシュープレスベルトを提供する。
【解決手段】本発明のシュープレスベルトは、補強基材のフェルト側に樹脂層が形成され、前記樹脂層に排水溝を設けてなるシュープレスベルトであって、前記シュープレスベルトは中央領域とシューエッジ当接部領域と端部領域とからなり、前記シューエッジ当接部領域にはたわみ部が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙機械で使用されるカレンダーベルトやプレスベルト、湿紙搬送用ベルトなどの製紙機械用ベルト、特に製紙機械のプレス部において、湿紙およびフェルトからの搾水性を高めるために使用するシュープレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙機械のプレス部で使用されるシュープレスベルトは、補強基材と、前記補強基材のフェルト側樹脂層とシュー側樹脂層とを持つベルトであって、前記フェルト側樹脂層の表面に搾水のための排水溝を形成しているものが主流となっている。例えば特開平11−12975号公報(特許文献1)には、ベルト本体のフェルト側樹脂層表面に排水溝が設けられ、抄巾外域の排水溝深さを抄巾内域の排水溝深さよりも浅くして、シューエッジに対向する部分(以下、シューエッジ当接部領域と言う)の排水溝の強度を増大させて、耐クラック性を改善できる提案がある。
また、ドイツ特許公報4445472A(特許文献2)には、ベルト本体のフェルト側樹脂層表面に排水溝が設けられ、シューエッジ当接部領域には排水溝が設けられないか或いは極めて浅く形成されてなるシュープレスベルトが提案されている。
更に、ドイツ特許公報102004025942A(特許文献3)には、プレスロール外套の両端部において、シューエッジ当接部領域のフェルト側樹脂層厚みが中央領域樹脂層厚みより肉厚に形成されたものが提案されている。
【0003】
しかし、シューエッジ当接部領域に浅く排水溝を設けたシュープレスベルトにおいては、シューエッジ当接部領域に掛かるせん断力や歪みが大きいために、排水溝がダメージを受けてクラックが発生することが知られている。
また、プレスロール外套の両端部において、シューエッジ当接部領域のフェルト側樹脂層厚みが中央領域樹脂層厚みより肉厚に形成されたものでも、製紙機械のプレス部においてシューエッジ当接部領域でシューエッジの内側に折り曲げられるから、それによるせん断力による歪みによって、シューエッジ当接部領域においてクラックの発生が見られる。
【特許文献1】特開平11−12975号公報
【特許文献2】ドイツ特許公報4445472A
【特許文献3】ドイツ特許公報102004025942A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シュープレスベルトのシューエッジ当接部領域の特性に注目したもので、該領域で湿紙およびフェルトから搾水された水流を制御し、しかもシューエッジ当接部領域に掛かるせん断力や歪みを分散してクラックが発生しないようにするため、シューエッジ当接部領域の構造を改善したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するため、本発明は補強基材と、前記補強基材のフェルト側樹脂層と、前記補強基材のシュー側樹脂層とからなるシュープレスベルトであって、前記シュープレスベルトの幅方向は中央領域とシューエッジ当接部領域と端部領域とからなり、前記シューエッジ当接部領域にはたわみ部が設けられていることを特徴とする。
【0006】
また、本発明は、前記たわみ部がフェルト側に向けて凸状に形成されており、しかもシューエッジに当接しないように、シュー側樹脂層表面に凹部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シューエッジ当接部領域にはたわみ部が設けられおり、シューエッジ当接部領域のたわみ部がフェルト側に向けて凸状に形成されているため、シューエッジ当接部領域に掛かるせん断力や歪みを分散することができるので、該領域に排水溝が形成されたとしても、クラックが発生することがない優れた効果を有する。更に前記たわみ部がシューエッジに当接しないように、シュー側樹脂層表面に凹部が形成されているから、シューエッジ当接部領域でシューエッジの内側に折り曲げられることが少なくなり、従ってシューエッジ当接部領域に掛かるせん断力や歪みはたわみ部によって分散・減衰させることができるから、より一層クラック発生を防止することができる。
【0008】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、本発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して詳細を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明に係るシュープレスベルト100の幅方向の断面図である。
【0011】
本発明のシュープレスベルト100は、補強基材11と、前記補強基材11のフェルト側樹脂層12とシュー側樹脂層13としてポリウレタンが積層された積層構造を有する。フェルト側樹脂層12の表面には排水溝(図示せず)が設けられている。補強基材11としては主として織布が用いられる。
【0012】
補強基材11にポリウレタンを積層するには、補強基材11に硬化剤を含む液状のウレタンプレポリマーを塗布して補強基材11に含浸し、積層しながら乾燥または加熱により硬化させて固体状のポリウレタンの積層構造を形成する。
【0013】
図1に示されるように、シュープレスベルト100は、補強基材11とフェルト側樹脂層12とシュー側樹脂層13からなり、シュープレスベルト100は幅方向において中央領域Aとシューエッジ当接部領域Bと端部領域Cからなる。
【0014】
補強基材11は、シュープレスベルト100に強度を付与するためのものであり、例えば耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性および防汚性、等に優れたナイロン6、ナイロン66、等の合成繊維、羊毛等の天然繊維、等を素材とした織布または糸材を織らずに重ね合わせたもの、或いはフィルム状にしたもの、等を適宜用いることができる。
【0015】
フェルト側樹脂層12には中央領域Aに排水溝(図示せず)を形成して湿紙およびフェルトから搾水された水流を排出することができる。シューエッジ当接部領域Bと端部領域Cには排水溝を形成しない。しかしシューエッジ当接部領域Bには、中央領域Aに形成した排水溝よりも浅い排水溝を形成してもよい。
【0016】
図1では、シューエッジ当接部領域Bにたわみ部が形成され、該たわみ部はフェルト側に向けて凸状の形状Dと、シューエッジに当接しないように、シュー側樹脂の表面に凹部Eが形成されているもの、とからなる。
【0017】
図2〜図3は本発明の実施形態を示すものであり、シュープレスベルト100の一方の端部付近の概略を示す幅方向の断面図である。いずれもフェルト側樹脂層12には中央領域Aに排水溝(図示せず)を形成している。
【0018】
図2は本発明のシュープレスベルト100の一方の端部付近の概略を示す幅方向の断面図であり、シュープレスベルト100とシュープレスエッジ21との位置関係を示している。中央領域Aはフラットであり、シュープレスの加圧面20に当接している。
シューエッジ当接部領域Bにはたわみ部が設けられ、該たわみ部はフェルト側に向けて凸状の形状Dと、シューエッジ21に当接しないように、シュー側樹脂表面に凹部Eが形成されている。本発明の凹部Eは好ましくは0.5mm〜5mmの範囲で窪んでいるものである。
【0019】
図3は本発明のシュープレスベルトが製紙機械のプレス部においてプレスされたときの、一方の端部付近の概略を示す幅方向の断面図である。プレス部において、フェルト側樹脂層12は対向するプレスロール(図示せず)の押し圧のため、中央領域Aとシューエッジ当接部領域Bはフラットに変形する。シューエッジ当接部領域Bはこの変形によって、凸状の形状Dの樹脂層がプレス圧によって押し縮められ、その分シュー側に向けて膨らむことができる。したがってシューエッジ21の形状に追従した形状にシューエッジ当接部領域Bを変形させることができる。言い換えると、シューエッジ当接部領域Bのたわみ部は、シューエッジ21の曲面形状に追従できる特徴を有している。よって、シューエッジ21によるシューエッジ当接部領域Bに掛かるせん断力や歪みはたわみ部にて分散・減衰させることができるから、より一層クラック発生を防止することができる。
【0020】
ここで本発明のシュープレスベルトの製造方法の一例について説明するが、本発明を制約するものではない。
まず本発明のシュープレスベルトと略同一の走行方向寸法を有する直径のマンドレルを用意する。該マンドレルは回転自在に構成される。そして本発明のシュープレスベルトのシューエッジ当接部領域に相当するマンドレルの位置に、帯状部材をマンドレル周方向に巻き回してエッジ当接部領域Bのたわみ部(凸状の形状Dとシュー側樹脂表面の凹部E)に相当する部分を形成する。巻き回した帯状部材の厚みは0.5mm〜5mmの範囲になるように調整する。この厚みはシューエッジ21に当接しないように、シューエッジ当接部領域Bに0.5mm〜5mmの範囲の凹部に相当するものとなる。
次に、前記マンドレルの上面にポリウレタンをノズルから塗布して、ポリウレタンの肉厚が一定となるシュー側樹脂層を形成する。該シュー側樹脂層を放置または加熱により半硬化させた後、前記シュー側樹脂層の上面に基体、好ましくは織物をマンドレルの全体を覆うように被せる。
引続きその上面にポリウレタンをノズルから塗布して、ポリウレタンの肉厚が一定となるフェルト側樹脂層を形成する。該フェルト側樹脂層を加熱により硬化させた後、前記フェルト側樹脂層の表面に排水溝を形成して、本発明のシュープレスベルトが完成する。
【0021】
上記の説明のとおり、本発明のシュープレスベルト100は補強基材11のフェルト側に樹脂層12が形成され、前記樹脂層に排水溝を設けてなるシュープレスベルトであって、前記シュープレスベルト100の幅方向は中央領域Aとシューエッジ当接部領域Bと端部領域Cとからなり、前記シューエッジ当接部領域Bにはたわみ部が設けられていることを特徴とする。
また、本発明のたわみ部はフェルト側に向けて凸状の曲線Dと、シューエッジ21に当接しないように、シュー側樹脂表面に対して、1mm〜5mmの範囲で凹部Eを形成していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のシュープレスベルトの概略を示す幅方向の断面図である。
【図2】本発明のシュープレスベルトの一方の端部付近の幅方向の断面図である。
【図3】本発明のシュープレスベルトがプレスされたときの一方の端部付近の幅方向の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
100:シュープレスベルト
11:補強基材
12:フェルト側樹脂層
13:シュー側樹脂層
20:シュープレスの加圧面
21:シューエッジ
A:中央領域
B:シューエッジ当接部領域
C:端部領域
D:凸状の形状
E:シュー側樹脂表面の凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強基材と、前記補強基材のフェルト側樹脂層と、前記補強基材のシュー側樹脂層とからなるシュープレスベルトであって、前記シュープレスベルトの幅方向は中央領域とシューエッジ当接部領域と端部領域とからなり、前記シューエッジ当接部領域にはたわみ部が設けられていることを特徴とするシュープレスベルト。
【請求項2】
前記たわみ部がフェルト側に向けて凸状に形成されており、しかもシューエッジに当接しないように、シュー側樹脂層表面に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシュープレスベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−18912(P2010−18912A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180909(P2008−180909)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】