説明

シリカ系中空粒子の製造方法

【課題】コア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成する段階において、コア・シェル粒子同士の凝集を防ぐことができるシリカ系中空粒子の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法は、コア粒子およびアニオン系界面活性剤を含有する水系媒体中で、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物を加水分解縮合させることにより、シリカ系被覆層を有するコア・シェル粒子を形成する工程、を含む。
Si(OR4−d …(1)
(式中、R、Rは独立して1価の有機基を表し、dは0〜3の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬や化粧品、光学分野で使用可能な機能性中空粒子の開発が行われている。機能性中空粒子の中でも、透明性および強度に優れ、かつ屈折率の低いシリカ系被覆層を有する中空粒子が特に注目されている。
【0003】
その製法としては、例えば、エアロゾル法により基本粒子を製造し加熱および乾燥する方法、金属化合物水性ゾルを噴霧および乾燥し焼成する方法、W/O型またはO/W/O型エマルジョンを調製し加熱して水および油を除去する方法等が提案されている。しかしながら、これらの製法により得られた中空粒子はいずれも強度不足であり、またその粒子径分布に広がりをもつ傾向にある。
【0004】
そこで、これらの課題を解決するために、特許文献1では、炭酸カルシウム等の支持体粒子上にケイ酸塩を酸処理により沈積させてシリカ被膜を形成した後、分離、乾燥し、酸で支持体を溶出する製造方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、以下のような製造方法が提案されている。透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が20〜200nmの炭酸カルシウムを水系にて調製し、静的光散乱法による粒子径が20〜700nmになるように熟成させる。その後、脱水して含水ケーキの状態とし、該含水ケーキをアルコール中に分散させる。そこに、アンモニア水、水、シリコンアルコキシドを、シリコンアルコキシド/アルコールの体積比を0.002〜0.1、アンモニア水に含有されるアンモニアをシリコンアルコキシド1モルに対して4〜15モル、水をシリコンアルコキシド1モルに対して25〜200モルとなるように添加することにより、シリカでコーティングされた炭酸カルシウムを調製する。その後、アルコールおよび水による洗浄を行い、再び含水ケーキとし、該含水ケーキを水に分散させ、酸を添加して、液の酸濃度を0.1〜3モル/Lとし炭酸カルシウムを溶解させる。これにより、緻密なシリカ殻からなる中空状粒子であって、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、静的光散乱法による粒子径が30〜800nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2〜20nmの細孔が検出されないことを特徴とするシリカナノ中空粒子を得ることができる。
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法では、炭酸カルシウム等のコア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成する段階において、コア・シェル粒子同士の凝集を引き起こしてしまうという問題があった。一旦コア・シェル粒子同士が凝集してしまうと再分散させることが難しく、均一に分散したシリカ系中空粒子分散体を得ることができなくなるため、コア・シェル粒子を凝集させずに形成させることが必要である。
【特許文献1】特表2000−500113号公報
【特許文献2】特開2006−263550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、コア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成する段階において、コア・シェル粒子同士の凝集を防ぐことができるシリカ系中空粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法は、コア粒子およびアニオン系界面活性剤を含有する水系媒体中で、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物を加水分解縮合させることにより、シリカ系被覆層を有するコア・シェル粒子を形成する工程、を含む。
【0009】
Si(OR4−d …(1)
(式中、R、Rは独立して1価の有機基を表し、dは0〜3の整数を表す。)
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、前記アニオン系界面活性剤は、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩から選択される少なくとも1種であることができる。
【0010】
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、前記コア粒子は、あらかじめ疎水化処理されたものであることができる。
【0011】
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、前記疎水化処理は、前記コア粒子を含有する水系媒体中に、カルボン酸塩を添加することにより行うことができる。
【0012】
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、前記カルボン酸塩は、ロジン酸塩、ナフテン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、リシノレン酸塩から選択される少なくとも1種であることができる。
【0013】
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、さらに、前記コア・シェル粒子からコア粒子の一部または全部を除去する工程、を含むことができる。
【0014】
本発明に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、さらに、前記シリカ系被覆層を水熱処理する工程、を含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
上記シリカ系中空粒子の製造方法によれば、コア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成する段階において、コア・シェル粒子同士の凝集を防ぐことができるので、分散安定性の高いコア・シェル粒子ないしシリカ系中空粒子分散体を製造することができる。上記製造方法により得られたシリカ系中空粒子は、低屈折率を実現することができるため、例えば、反射防止膜等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るシリカ系中空粒子の製造方法について具体的に説明する。
【0017】
1.シリカ系中空粒子の製造方法
本発明の一実施形態に係るシリカ系中空粒子の製造方法は、コア粒子およびアニオン系界面活性剤を含有する水系媒体中で、上記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物を加水分解縮合させることにより、シリカ系被覆層を有するコア・シェル粒子を形成する工程、を含む。
【0018】
本願発明において、コア・シェル粒子とは、コア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成させた複合粒子のことをいう。
【0019】
以下、本実施形態に係るシリカ系中空粒子の製造方法の各工程について説明する。なお、下記の各工程は、コア・シェル粒子や中空粒子の乾燥工程は設けず、全て分散媒存在下の条件で行うことが望ましい。数十ナノメートルサイズの粒子が乾燥し一旦凝集してしまうと、再分散させることが難しくなる場合があるからである。
【0020】
1.1 コア粒子の疎水化
本発明の一実施形態に係るシリカ系中空粒子の製造方法において、コア粒子を含有する水系媒体中にカルボン酸塩を添加して混合撹拌することにより、あらかじめコア粒子の表面を疎水化処理してもよい。詳細は後述するが、炭酸カルシウム粒子の表面を疎水化処理しておくと、アニオン系界面活性剤の存在下において、該粒子の表面に疎水性反応場を提供することができる。これにより、炭酸カルシウム粒子の表面にシリカ系被覆層を形成させやすくすることができる。
【0021】
ここで、コア粒子としては、炭酸カルシウム粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化亜鉛粒子、アルミニウム粒子、鉄粒子等の各種無機化合物からなる粒子を用いることができるが、後の工程を考慮すると、酸で分解されやすく、水への溶解性が低く、高分子化合物ではなく、アルカリ〜弱アルカリ性を示す無機材料であることが好ましく、これらの条件を全て満たす炭酸カルシウム粒子であることが特に好ましい。また、炭酸カルシウム粒子は、工業的に汎用されており、安価で入手することができるため製造コストを抑えることができる。
【0022】
コア粒子の粒子径は、目的とするコア・シェル粒子または中空粒子のサイズにもよるが、中空粒子の強度を得るためには、動的光散乱法により測定される平均粒子径が5〜300nmであることが好ましく、10〜100nmであることが特に好ましい。
【0023】
また、コア粒子の量は、分散体全量に対して0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがより好ましく、0.8〜20質量%であることが更に好ましい。
【0024】
水系媒体は、水以外に他の液体を含んでもよい。通常水を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが特に好ましい。
【0025】
カルボン酸塩は、1価のカルボン酸塩であることが好ましい。カルボン酸塩としては、炭素数が1〜100であることが好ましく、1〜40であることがより好ましく、1〜20であることが特に好ましい。具体的には、ロジン酸塩、ナフテン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、酪酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、リシノレン酸塩等を挙げることができる。
【0026】
例えば、コア粒子として炭酸カルシウム粒子を用いた場合には、炭酸カルシウム粒子を含む水系媒体中に上記のカルボン酸塩から選択される少なくとも1種を添加して十分に混合撹拌すると、炭酸カルシウム粒子は上記のカルボン酸塩によって分解されることなく、カルボン酸イオンをその表面に吸着するものと考えられる。これは、炭酸カルシウム粒子とカルボン酸とのキレート作用によるものと推察される。これにより、炭酸カルシウム粒子の最表面には、カルボン酸イオンの疎水基が表出しているため、粒子の表面を疎水化することができる。
【0027】
1.2 コア・シェル粒子の作製
次いで、コア粒子およびアニオン系界面活性剤を含有する水系媒体中で、上記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物1」ともいう。)を炭酸カルシウム粒子の表面で加水分解縮合させることにより、シリカ系被覆層を有するコア・シェル粒子を作製する。ここで、加水分解縮合における反応温度は0〜100℃、好ましくは20〜80℃、反応時間は30〜1000分間、好ましくは30〜300分間である。
【0028】
アニオン系界面活性剤としては、水系媒体中でミセル等の分子集合体を形成するものであればよい。アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルフォオレフィンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアミド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン、油脂硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等を挙げることができる。
【0029】
アニオン系界面活性剤は、コア粒子の粒子径や濃度に応じて適宜設定することができるが、コア粒子1gに対して0.01g〜10g用いることが好ましく、0.05g〜5g用いることがより好ましく、0.1g〜1g用いることがさらに好ましい。
【0030】
また、一般式(1)で表される化合物、ケイ酸およびケイ酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物は、コア1gに対して0.001mol〜10mol用いることが好ましく、0.005mol〜5mol用いることがさらに好ましく、0.01mol〜1mol用いることが特に好ましい。
【0031】
化合物1は、上記一般式(1)で表すことができる。上記一般式(1)において、R、Rで表される1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリル基、グリシジル基等を挙げることができる。Rで表される1価の有機基は、アルキル基またはフェニル基であることが好ましい。
【0032】
ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜5であり、これらのアルキル基は鎖状でも、分枝していてもよく、さらに水素原子がフッ素原子等に置換されていてもよい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、フルオロフェニル基等を挙げることができる。アルケニル基としては、例えばビニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、3−ペンテニル基、3−ヘキセニル基を挙げることができる。
【0033】
上記一般式(1)において、d=0の場合には、化合物1はRで表される1価の有機基が存在しない化合物となる。d=0の場合における化合物1の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシランなどを挙げることができる。これらは、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0034】
d=1〜3の場合における化合物1の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−sec−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−sec−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−sec−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、n−プロピルトリフェノキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ−n−プロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリ−n−ブトキシシラン、イソプロピルトリ−sec−ブトキシシラン、イソプロピルトリ−tert−ブトキシシラン、イソプロピルトリフェノキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、n−ブチルトリイソプロポキシシラン、n−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−sec−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリフェノキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルイソトリエトキシシラン、sec−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、sec−ブチルトリイソプロポキシシラン、sec−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−sec−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、sec−ブチルトリフェノキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルト−n−プロポキシシラン、tert−ブチルトリイソプロポキシシラン、tert−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、tert−ブチルトリ−sec−ブトキシシラン、tert−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、tert−ブチルトリフェノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−sec−ブトキシシラン、フェニルトリ−tert−ブトキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−tert−ブトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−tert−ブトキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジイソプロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−フェノキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジ−n−プロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジ−n−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジイソプロピルジフェノキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−フェノキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルジエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−フェノキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルジエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−フェノキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−tert−ブトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシランが挙げられる。これらは1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0035】
化合物1として特に好ましい化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等である。これらは1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物の加水分解縮合を促進させる点、および加水分解縮合を行う際に炭酸カルシウム等のコア粒子が溶解しないという点で、加水分解縮合において、塩基性化合物を触媒として使用するのが好ましい。
【0037】
触媒として使用可能な塩基性化合物としては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、N−メチルメタノールアミン、N−エチルメタノールアミン、N−プロピルメタノールアミン、N−ブチルメタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルプロパノールアミン、N−エチルプロパノールアミン、N−プロピルプロパノールアミン、N−ブチルプロパノールアミン、N−メチルブタノールアミン、N−エチルブタノールアミン、N−プロピルブタノールアミン、N−ブチルブタノールアミン、N,N−ジメチルメタノールアミン、N,N−ジエチルメタノールアミン、N,N−ジプロピルメタノールアミン、N,N−ジブチルメタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジプロピルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N,N−ジエチルプロパノールアミン、N,N−ジプロピルプロパノールアミン、N,N−ジブチルプロパノールアミン、N,N−ジメチルブタノールアミン、N,N−ジエチルブタノールアミン、N,N−ジプロピルブタノールアミン、N,N−ジブチルブタノールアミン、N−メチルジメタノールアミン、N−エチルジメタノールアミン、N−プロピルジメタノールアミン、N−ブチルジメタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−メチルジプロパノールアミン、N−エチルジプロパノールアミン、N−プロピルジプロパノールアミン、N−ブチルジプロパノールアミン、N−メチルジブタノールアミン、N−エチルジブタノールアミン、N−プロピルジブタノールアミン、N−ブチルジブタノールアミン、N−(アミノメチル)メタノールアミン、N−(アミノメチル)エタノールアミン、N−(アミノメチル)プロパノールアミン、N−(アミノメチル)ブタノールアミン、N−(アミノエチル)メタノールアミン、N−(アミノエチル)エタノールアミン、N−(アミノエチル)プロパノールアミン、N−(アミノエチル)ブタノールアミン、N−(アミノプロピル)メタノールアミン、N−(アミノプロピル)エタノールアミン、N−(アミノプロピル)プロパノールアミン、N−(アミノプロピル)ブタノールアミン、N−(アミノブチル)メタノールアミン、N−(アミノブチル)エタノールアミン、N−(アミノブチル)プロパノールアミン、N−(アミノブチル)ブタノールアミン、メトキシメチルアミン、メトキシエチルアミン、メトキシプロピルアミン、メトキシブチルアミン、エトキシメチルアミン、エトキシエチルアミン、エトキシプロピルアミン、エトキシブチルアミン、プロポキシメチルアミン、プロポキシエチルアミン、プロポキシプロピルアミン、プロポキシブチルアミン、ブトキシメチルアミン、ブトキシエチルアミン、ブトキシプロピルアミン、ブトキシブチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、テトラエチルエチレンジアミン、テトラプロピルエチレンジアミン、テトラブチルエチレンジアミン、メチルアミノメチルアミン、メチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルアミノブチルアミン、エチルアミノメチルアミン、エチルアミノエチルアミン、エチルアミノプロピルアミン、エチルアミノブチルアミン、プロピルアミノメチルアミン、プロピルアミノエチルアミン、プロピルアミノプロピルアミン、プロピルアミノブチルアミン、ブチルアミノメチルアミン、ブチルアミノエチルアミン、ブチルアミノプロピルアミン、ブチルアミノブチルアミン、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、モルホリン、メチルモルホリン、ジアザビシクロオクラン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどを挙げることができ、アンモニアであるのがより好ましい。
【0038】
塩基性化合物は、下記一般式(2)で表される含窒素化合物(以下、「化合物2」ともいう。)であってもよい。
【0039】
(XN)Y …(2)
上記一般式(2)において、X,X,X,Xは同一または異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等)、ヒドロキシアルキル基(好ましくはヒドロキシエチル基等)、アリール基(好ましくはフェニル基等)、アリールアルキル基(好ましくはフェニルメチル基等)を示し、Yはハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、1〜4価のアニオン性基(好ましくはヒドロキシ基等)を示し、gは1〜4の整数を示す。
【0040】
化合物2の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム、水酸化テトラ−iso−プロピルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化テトラ−iso−ブチルアンモニウム、水酸化テトラ−tert−ブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウム、水酸化テトラヘプチルアンモニウム、水酸化テトラオクチルアンモニウム、水酸化テトラノニルアンモニウム、水酸化テトラデシルアンモニウム、水酸化テトラウンデシルアンモニウム、水酸化テトラドデシルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム、塩化テトラ−n−プロピルアンモニウム、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム、塩化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化−n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、水酸化−n−オクタデシルトリメチルアンモニウム、臭化−n−オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化トリデシルメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、臭化トリブチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリラウリルメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ベンジルトリブチルアンモニウム、臭化フェニルトリメチルアンモニウム、コリン等を好ましい例として挙げることができる。これらのうち特に好ましくは、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム、塩化テトラ−n−プロピルアンモニウムである。化合物2は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0041】
塩基性化合物の使用量は、シラン化合物中の加水分解性基の総量1モルに対して、通常、0.00001〜20モル、好ましくは0.00005〜10モルである。
【0042】
本工程は、コア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成させてコア・シェル粒子を作製する工程であるが、アニオン系界面活性剤を使用するところに本願の特徴がある。以下、コア・シェル粒子の合成プロセスについて詳細に説明する。アニオン系界面活性剤は、水系媒体中においてフリーの分子の状態若しくはミセル等の分子集合体が形成された状態で存在する。該ミセルの内部は疎水性環境を有しているため、疎水化処理されたコア粒子は、ミセルの内部に存在する方が熱力学的に安定化する。一方、フリーの界面活性剤分子についても疎水化処理されたコア粒子の表面に吸着する方が熱力学的に安定化する。これにより、疎水化処理されたコア粒子の表面に、界面活性剤分子によって形成された疎水性反応場が提供される。このような疎水性反応場を有する環境において、塩基性触媒存在下、疎水性である上記化合物1を添加すると、化合物1は優先的に疎水性反応場へ供給される。そして、該疎水性反応場において加水分解縮合され、炭酸カルシウム粒子等のコア粒子の表面にシリカ系被覆層を形成することができる。
【0043】
また、あらかじめ水系媒体中にアニオン系界面活性剤と上記化合物1を添加し混合撹拌することによりO/W型エマルジョンを調製しておいて、該O/W型エマルジョンを疎水化処理されたコア粒子を含む水系媒体中に加えることによっても、上記と同様にコア・シェル粒子を作製することができる。
【0044】
1.3 中空粒子の作製
次いで、シリカ系被覆層が形成されたコア・シェル粒子からコア粒子の一部または全部を除去して、中空粒子を作製する。コア・シェル粒子からコア粒子の一部または全部を除去するためには、酸性化合物を用いて分散体を酸性にしてコア粒子を分散体中に溶出させるとよい。コア粒子は、本工程においてコア粒子全量に対して70質量%以上除去されることが好ましく、90質量%以上除去されることがより好ましく、95質量%以上除去されることがさらに好ましい。
【0045】
酸性化合物の具体例としては、無機酸または有機酸を挙げることができる。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸等を挙げることができる。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、メサコン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸の加水分解物、無水マレイン酸の加水分解物、無水フタル酸の加水分解物等を挙げることができる。これらは1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0046】
これらの酸性化合物のうち、少なくとも2以上のブレンステッド酸性基を有する有機酸であることがより好ましい。ここで、ブレンステッド酸性基とは、プロトンを与えることができる基のことをいい、例えば、カルボキシル基を挙げることができる。少なくとも2以上のブレンステッド酸性基を有する有機酸としては、例えば、乳酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸、グルタル酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等を挙げることができる。これらは1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。コア・シェル粒子からコア粒子の一部または全部を除去する工程において、これらの有機酸を用いるとコア粒子の除去されたシリカ系中空粒子の凝集を防ぐことができる。
【0047】
この中でも3以上のブレンステッド酸性基を有するリンゴ酸やクエン酸等は、炭酸カルシウム等のコア粒子の除去された多孔質シリカ系中空粒子の分散安定性を高める効果がさらに高い。これは、以下の理由によるものと考えられる。例えば、コア粒子として炭酸カルシウムを用いた場合には、上記の有機酸により分解されたカルシウムイオンは正の電荷を有するため、多孔質シリカ系中空粒子の凝集を引き起こす因子となる。リンゴ酸やクエン酸等は、その2つのカルボキシル基を利用してカルシウムイオンとキレート結合を形成するものと考えられる。そうすると、残り1つのカルボキシル基は負の電荷を有しているため、全体として負に帯電し、静電反発力によりシリカ系中空粒子の凝集を防ぐことができる。
【0048】
上記無機酸または有機酸の使用量は、「1.2 コア・シェル粒子の作製」の工程で使用した塩基性化合物の量および種類、処理温度によっても異なるが、コア粒子を形成する無機化合物の総量1モルに対して、0.1〜50モル、好ましくは0.5〜10モルである。また、上記触媒において塩基性触媒を用いた際には、触媒である塩基性化合物と有機酸が反応してしまうので、コア粒子を形成する無機化合物の総量1モルに対して1〜10モルであることが特に好ましい。コア粒子を形成する無機化合物の総量1モルに対して有機酸の使用量が0.1モル未満であると、該無機化合物を除去できない場合がある。
【0049】
また、本工程においては、必要に応じて、上記工程でシリカ系被覆層が形成されたコア・シェル粒子の一部または全部が除去されて生じたコア粒子を分散体から系外へ除去する工程を含むことができる。コア粒子を分散体から系外へ除去する方法としては、特に限定されないが、限外ろ過法を適用することが好ましい。
【0050】
具体的には、上記「1.2 コア・シェル粒子の作製」の工程で得られた分散体を、圧力計、流量計、限外ろ過膜、および循環ポンプを接続した容器に入れ、所定温度にて所定の循環流量または線速で分散体を循環しながら限外ろ過膜を用いて分散媒置換する(回分法では、濃縮した後に所定量の水で希釈することにより分散媒置換し、連続法では、濃縮する間に所定量の水で希釈することにより分散媒置換する。)ことにより、固形分濃度が好ましくは1〜50質量%であって、シリカ系中空粒子が水系媒体中に分散された分散体を調製することができる。また、この際にコア粒子が分散体から系外へと除去される。
【0051】
このシリカ系中空粒子分散体では、有機分散媒の含有量は0.1〜30質量%であることが好ましい。このシリカ系中空粒子分散体において有機分散媒を0.1〜30質量%にする方法としては特に制限はないが、シリカ系中空粒子の増粘を防ぐためには、例えば、水と有機分散媒を水に分散媒置換する工程の間、有機分散媒の含有量を常に0.1〜30質量%に維持することが好ましい。
【0052】
分散媒置換における温度は、有機分散媒の沸点以下であることが好ましく、さらに好ましくは40〜80℃である。また、運転時の分散媒の循環流量は、限外ろ過膜での効率的分散媒置換を行い運転時の安全性を確保するためには、限外ろ過膜表面との線速換算で、好ましくは2.0〜4.5m/秒、より好ましくは3.0〜4.0m/秒である。
【0053】
また、この工程で用いられる限外ろ過膜としては、運転時の圧力、温度、用いる有機分散媒による不具合を生じるものでない限り特に制限はないが、温度、圧力、耐分散媒性に優れるセラミック製のものが好ましい。また、限外ろ過膜の孔径は、シリカ系中空粒子の粒子径より小さいものが使われるが、この技術分野において孔径の代用値として用いられる限外ろ過膜の分画分子量として表した場合、好ましくは、3000〜1,000,000、さらに好ましくは、30,000〜500,000、特に好ましくは100,000〜200,000である。また、限外ろ過膜の形状についても特に制限はないが、高い透過流速と目つまりが低いことより円筒状が好ましい。
【0054】
1.4 中空粒子の水熱処理
次に、シリカ系被覆層を水熱処理する。水熱処理としては、具体的には、上記の「1.3 中空粒子の作製」の工程で得られた分散体に、必要に応じてアルカリ水溶液を添加して、該分散体を塩基性(好ましくはpH8〜13の範囲)に調節し、加熱処理することができる。このとき、加熱処理温度は50〜350℃の範囲、好ましくは100〜300℃の範囲である。加熱処理に際しては、「1.3 中空粒子の作製」の工程で得られた分散体の濃度をあらかじめ希釈して、あるいは濃縮して処理することができる。加熱することにより、分子間の結合を切ったり結んだりすることが繰り返され、シリカ系被覆層が緻密化された(密度の高い)シリカ系中空粒子を得ることができる。なお、ここでいう緻密化されたシリカ系中空粒子とは、被覆層に微細な穴が存在する多孔質中空粒子も含む。
【0055】
1.5 分散媒置換
必要に応じて、水系媒体を疎水性有機分散媒へと置換する。該工程において置換する分散媒は、疎水性有機分散媒であることが好ましい。本願発明において疎水性有機分散媒とは、水と均一に混合せずに、20℃において水と混合して2層を形成させた時の有機層中の水の含有率が12質量%以下の有機分散媒を意味し、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系分散媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、ヘキサメチレンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の不飽和アクリルエステル系分散媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジブチルエーテル等のエーテル類等を挙げることができる。これらの中で、ケトン類が好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがさらに好ましい。これらの疎水性有機分散媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本工程では疎水性有機分散媒の代わりに、疎水性有機分散媒と親水性有機分散媒との混合物を用いてもよい。
【0056】
水系媒体を疎水性有機分散媒に置換するためには、メタノールまたはエタノール等の有機分散媒を介してから行うとよい。水系媒体から疎水性有機分散媒へ直接置換しようとすると、シリカ系中空粒子が凝集してしまうことがあり、一旦凝集すると再分散させることが困難となるからである。水系媒体をメタノール等の有機分散媒に置換する方法としては、特に限定されないが、限外ろ過法を好ましく適用することができる。
【0057】
具体的には、緻密化されたシリカ系中空粒子が分散され、水系媒体を含有する分散体を、圧力計、流量計、限外ろ過膜、および循環ポンプを接続した容器に入れ、所定温度にて所定の循環流量または線速で分散体を循環しながら限外ろ過膜を用いて分散媒置換する(回分法では、濃縮した後に所定量の第1の有機分散媒で希釈することにより分散媒置換し、連続法では、濃縮する間に所定量の第1の有機分散媒で希釈することにより分散媒置換する。)ことにより、固形分濃度が好ましくは20〜50質量%であって、シリカ系中空粒子がメタノール等の有機分散媒に分散された分散体を調製することができる。
【0058】
このシリカ系中空粒子分散体では、水の含有量は5質量%以下が好ましく、さらに好ましくは2質量%以下である。水分量が5質量%を越えると、保管中の増粘することがある。シリカ系中空粒子表面におけるシラノール基の濃度は、3.0×10−5モル/g以下が好ましく、さらに好ましくは2.0×10−5モル/g以下である。シリカ系中空粒子表面におけるシラノール基の濃度が3.0×10−5モル/gを超えると、保管中に分散体が増粘することがある。
【0059】
分散媒置換における温度は、水系媒体の沸点以下であることが好ましく、さらに好ましくは40〜80℃である。また、運転時の分散媒の循環流量は、限外ろ過膜での効率的分散媒置換を行い運転時の安全性を確保するためには、限外ろ過膜表面との線速換算で、好ましくは2.0〜4.5m/秒、より好ましくは3.0〜4.0m/秒である。
【0060】
また、この工程で用いられる限外ろ過膜としては、運転時の圧力、温度、用いる有機分散媒による不具合を生じるものでない限り特に制限はないが、温度、圧力、耐分散媒性に優れるセラミック製のものが好ましい。また、限外ろ過膜の孔径は、シリカ系中空粒子の粒子径より小さいものが使われるが、この技術分野において孔径の代用値として用いられる限外ろ過膜の分画分子量として表した場合、好ましくは、3000〜1,000,000、さらに好ましくは、30,000〜500,000、特に好ましくは100,000〜200,000である。また、限外ろ過膜の形状についても特に制限はないが、高い透過流速と目つまりが低いことより円筒状が好ましい。
【0061】
限外ろ過膜を用いて分散体中の水をメタノール等の有機分散媒に置換する際、前述のように、運転方法の相違(例えば、回分法と連続法との相違)によって、濃縮と希釈操作とを分けて行う方法や、濃縮と同時に(濃縮する間に)希釈する方法のいずれであってもよいが、本実施形態に係るシリカ系中空粒子分散体の製造方法では、希釈分散媒量の少ないことから、濃縮と同時に希釈する方法が好ましい。希釈に用いる有機分散媒の量は、分散体中の水1kgに対して1〜10kgであるのが好ましい。
【0062】
次いで、メタノール等の有機分散媒を疎水性有機分散媒へと置換する。メタノール等の有機分散媒を疎水性有機分散媒に置換する方法としては、特に限定されないが、限外ろ過法を好ましく適用することができる。限外ろ過法の具体的な方法は、上記の水系媒体をメタノール等の有機分散媒へ置換する方法と同様である。
【0063】
分散媒を置換する際に全て限外ろ過法を適用すれば、製造プロセスを簡略化することができ、製造コストを抑制することができる。
【0064】
また、水系媒体を疎水性有機分散媒に置換する方法として、限外ろ過法のほかに蒸留法を適用することもできる。蒸留法は、水系媒体よりも沸点の高い疎水性有機分散媒に置換する場合に適用することができる。蒸留法では、減圧して蒸気圧を下げて行うことが多いが、発泡や液面の乾燥を防ぐため、常圧で行うことが望ましい。
【0065】
2.シリカ系中空粒子およびシリカ系中空粒子分散体
本発明の一実施形態に係るシリカ系中空粒子は、上記一般式(1)で表される化合物、から選択された少なくとも1種の化合物を加水分解縮合して得られた外殻層を有する。そして、本発明の一実施形態に係るシリカ系中空粒子分散体は、上記シリカ系中空粒子分散体の製造方法によって得られたシリカ系中空粒子と、有機分散媒とを含む。ここで、有機分散媒としては、上述したように、疎水性有機分散媒であることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係る製造方法によって得られたシリカ系中空粒子分散体に含まれるシリカ系中空粒子の含有量は通常0.1〜50質量%であり、10〜40質量%であるのが好ましい。
【0067】
本実施形態に係る製造方法によって得られたシリカ系中空粒子分散体に含まれるシリカ系中空粒子においては、シリカ系被覆層の平均粒子径は5〜300nmであるのが好ましく、10〜100nmであるのがより好ましい。
【0068】
また、本実施形態に係る製造方法によって得られたシリカ系中空粒子分散体に含まれるシリカ系中空粒子においては、シリカ系被覆層の平均厚さは1nm以上であるのが好ましく、1〜50nmであるのがより好ましい。シリカ系被覆層の平均厚さが50nm以上であると、得られる中空粒子の屈折率が上昇するためである。
【0069】
3.実施例
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
3.1 実施例1
撹拌装置、ガス吹き込み管付きの容量2Lのフラスコへ、蒸留水1Lと酸化カルシウムを加え水酸化カルシウム懸濁液を調製し、これに炭酸ガスを吹き込み固形分濃度16質量%の沈降性炭酸カルシウム懸濁液を得た。懸濁液中の炭酸カルシウムに対してロジン酸ナトリウムを4質量%加え、1時間撹拌して表面処理炭酸カルシウムの懸濁液を得た。得られた表面処理炭酸カルシウムに炭酸ガスを導通して懸濁液のpHを8.5に調整し、該表面処理炭酸カルシウム懸濁液をろ過して脱水した。得られた炭酸カルシウムのケーキに水を加えて希釈し、強撹拌を行って懸濁液とし、ろ過で脱水を行う操作を4回繰り返した。その後、乾燥、解砕して表面処理炭酸カルシウム粉末を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム粉末の一次粒径はTEM観察で40nmであった。50mLポリ瓶に、ジルコニアビーズ50g(東レ株式会社製トレセラム・ビーズ)(ビーズ径0.1mm)と得られた表面処理炭酸カルシウム粉末4.8g、16質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム7.5g、蒸留水17.7gを入れて、ペイントシェーカにより5時間振とう、500メッシュフィルターでろ過することで表面処理炭酸カルシウム分散液を得た。フラスコに表面処理炭酸カルシウム分散液23g、蒸留水152g、28質量%のアンモニア水8gを加え10分攪拌し、テトラエトキシシラン19gを加え、室温で1時間撹拌を行った。60℃に昇温し、3時間撹拌を行った後、室温まで冷却し、10質量%のクエン酸水溶液を131g加え、炭酸カルシウムの溶出を行った。蒸留水200gを加えた後、限外ろ過膜を用いて洗浄を行い、331gを排出させた。蒸留水200gを加えた後、限外ろ過膜を用いて洗浄を行い、200gを排出させた。この操作を3回繰り返すことで中空シリカ粒子(シリカ系中空粒子)の分散体を得た。得られた中空シリカ粒子のTEM写真を図1に示す。本実施例により作製した中空シリカ粒子は、凝集せずに分散している様子を確認することができた。
【0071】
3.2 実施例2
撹拌装置、ガス吹き込み管付きの容量2Lのフラスコへ、蒸留水1Lと酸化カルシウムを加え水酸化カルシウム懸濁液を調製し、これに炭酸ガスを吹き込み固形分濃度16質量%の沈降性炭酸カルシウム懸濁液を得た。懸濁液中の炭酸カルシウムに対してラウリル酸カリウムを4質量%加え、1時間撹拌して表面処理炭酸カルシウムの懸濁液を得た。得られた表面処理炭酸カルシウムに炭酸ガスを導通して懸濁液のpHを8.5に調整し、該表面処理炭酸カルシウム懸濁液をろ過して脱水した。得られた炭酸カルシウムのケーキに水を加えて希釈し、強撹拌を行って懸濁液とし、ろ過で脱水を行う操作を4回繰り返した。その後、乾燥、解砕して表面処理炭酸カルシウム粉末を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム粉末の一次粒径はTEM観察で40nmであった。50mLポリ瓶に、ジルコニアビーズ50g(東レ製株式会社製トレセラム・ビーズ)(ビーズ径0.1mm)と得られた表面処理炭酸カルシウム粉末5.4g、98質量%のラウリル硫酸ナトリウム0.6g、蒸留水24.0gを入れて、ペイントシェーカにより5時間振とう、500メッシュフィルターでろ過することで表面処理炭酸カルシウム分散液を得た。フラスコに表面処理炭酸カルシウム分散液23g、蒸留水141g、28質量%のアンモニア水8gを加え10分撹拌し、テトラエトキシシラン19gを加え、室温で1時間撹拌を行った。60℃に昇温し、3時間撹拌を行った後、室温まで冷却し、10質量%のクエン酸水溶液を131g加え、炭酸カルシウムの溶出を行った。蒸留水200gを加えた後、限外ろ過膜を用いて洗浄を行い、331gを排出させた。蒸留水200gを加えた後、限外ろ過膜を用いて洗浄を行い、200gを排出させた。この操作を3回繰り返すことで中空シリカ粒子(シリカ系中空粒子)の分散体を得た。
【0072】
3.3 比較例1
撹拌装置、ガス吹き込み管付きの容量2Lのフラスコへ、蒸留水1Lと酸化カルシウムを加え水酸化カルシウム懸濁液を調製し、これに炭酸ガスを吹き込み固形分濃度16質量%の沈降性炭酸カルシウム懸濁液を得た。懸濁液中の炭酸カルシウムに対してロジン酸ナトリウムを4質量%加え、1時間撹拌して表面処理炭酸カルシウムの懸濁液を得た。得られた表面処理炭酸カルシウムに炭酸ガスを導通して懸濁液のpHを8.5に調整し、該表面処理炭酸カルシウム懸濁液をろ過して脱水した。得られた炭酸カルシウムのケーキに水を加えて希釈し、強撹拌を行って懸濁液とし、ろ過で脱水を行う操作を4回繰り返した。その後、乾燥、解砕して表面処理炭酸カルシウム粉末を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム粉末の一次粒径はTEM観察で40nmであった。50mLポリ瓶に、ジルコニアビーズ50g(東レ製株式会社製トレセラム・ビーズ)(ビーズ径0.1mm)と得られた表面処理炭酸カルシウム粉末5.0g、蒸留水15.0gを入れて、ペイントシェーカにより5時間振とうしたが、炭酸カルシウムは分散されず沈降がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1の方法により作製されたシリカ系中空粒子のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子およびアニオン系界面活性剤を含有する水系媒体中で、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物を加水分解縮合させることにより、シリカ系被覆層を有するコア・シェル粒子を形成する工程、
を含む、シリカ系中空粒子の製造方法。
Si(OR4−d …(1)
(式中、R、Rは独立して1価の有機基を表し、dは0〜3の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1において、
前記アニオン系界面活性剤は、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩から選択される少なくとも1種である、シリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記コア粒子は、あらかじめ疎水化処理された、シリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記疎水化処理は、前記コア粒子を含有する水系媒体中に、カルボン酸塩を添加することにより行う、シリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記カルボン酸塩は、ロジン酸塩、ナフテン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、リシノレン酸塩から選択される少なくとも1種である、シリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
さらに、前記コア・シェル粒子からコア粒子の一部または全部を除去する工程、を含む、シリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
さらに、前記シリカ系被覆層を水熱処理する工程、を含む、シリカ系中空粒子分散体の製造方法。

【図1】
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