説明

シリカ系複合酸化物微粒子およびその製造方法

【課題】ナノレベルの粒子径を有するシリカ系複合酸化物微粒子、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】シリカとシリカ以外の金属酸化物とを含有するシリカ系複合酸化物微粒子であって、シリカ以外の金属酸化物の含有率が50モル%未満であり、シリカ以外の金属酸化物が、チタニア、ジルコニア、および、アルミナからなる群から選ばれる一種以上であり、平均粒径が1nm〜100nmであるシリカ系複合酸化物微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系複合酸化物微粒子およびその製造方法に関する。特に、ナノレベルの粒子径を有するシリカ系複合酸化物微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料として、シリコンのアルコキシドとシリコン以外の金属のアルコキシドとを併用して、ゾルゲル法により、シリカ−チタニア、シリカ−アルミナ、シリカ−ジルコニア等のいわゆるシリカ系複合酸化物微粒子を製造する方法が知られている。このようなシリカ系複合酸化物微粒子は、シリカのみでは得られない、様々な特徴ある性能を発揮することができる。例えば、シリカとシリカ以外の金属酸化物の配合比率を変えることにより、製造される粒子の屈折率を調節することができる。これにより、例えば、樹脂材料に添加するフィラーとして使用した場合、剛性を付与する、熱膨張係数を下げる等のフィラーとしての性能を付与しつつ、樹脂材料の屈折率とフィラーの屈折率とを揃えることによって、樹脂材料の透明性を保つことができる。
【0003】
また、ポリマーとナノ粒子との複合体であるナノコンポジット、および、コーティング材の分野において、ナノ粒子が必要とされている。特許文献1には、所定のアルカリ濃度を有する反応媒体中に、アルキルシリケートを加え、加水分解、重合させることで、3〜100nmの粒子径を有するコロイダルシリカを溶媒中に生成させることを特徴とする水性シリカゾルの製造方法が記載されている。
【特許文献1】特許第3584485号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法は、単一のアルキルシリケートを原料として、シリカ単独からなるナノ粒子を含有する水溶性シリカゾルを製造する方法であり、複合酸化物微粒子を製造することについては記載されていない。また、この方法において、原料としてシリコンのアルコキシドとシリコン以外の金属のアルコキシドとを用いたとしても、ナノレベルの粒子径を有する複合酸化物微粒子を得ることはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、ナノレベルの粒子径を有するシリカ系複合酸化物微粒子、および、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、シリコンのアルコキシドとシリコン以外の金属のアルコキシドとの加水分解速度が異なっていることがナノレベルの粒子径を有する複合酸化物微粒子を形成する上での阻害要因となっていることを見出し、シリコンのアルコキシドとシリコン以外の金属のアルコキシドとの加水分解速度を揃えることにより、上記の課題を解決することができることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0007】
第1の本発明は、シリカとシリカ以外の金属酸化物とを含有するシリカ系複合酸化物微粒子であって、シリカ以外の金属酸化物の含有率が、50モル%未満であり、シリカ以外の金属酸化物が、チタニア、ジルコニア、および、アルミナからなる群から選ばれる一種以上であり、平均粒径が1nm〜100nmであるシリカ系複合酸化物微粒子である。
【0008】
本発明の微粒子は、従来製造するのが困難であった、平均粒径が1nm〜100nmであるシリカ系複合酸化物微粒子である。本発明の微粒子は、シリカとシリカ以外の金属酸化物の含有率を調整することによって、その屈折率を調整することが可能である。この特性を生かして、例えば、透明樹脂材料のフィラーとして添加する場合、樹脂材料の屈折率と本発明の微粒子の屈折率とを揃えることによって、樹脂材料の透明性を保ちつつ、ナノレベルのフィラーとしての機能を付与することができる。具体的には、PETフィルム用コーティング剤、反射防止膜(高屈折率層)、眼鏡レンズ用ハードコート剤、インクジェット用透明インク受容層、複合高屈折率樹脂ビーズ、研磨剤等の材料として用いることができる。
【0009】
また、高性能材料として、ナノオーダーの微粒子とポリマーとの複合体であるナノコンポジットが開発されている。本発明の微粒子は、ナノコンポジットの屈折率を調節可能な微粒子として用いることができる。また、樹脂材料に加えるフィラーとして、大小の径を有する粒子を加えることにより、フィラーの充填率を高くすることができる。この場合において、小径のフィラーとして、樹脂マトリックスの屈折率と同程度の屈折率を有する本発明の微粒子を使用することにより、フィラーの充填率を高くして強度等を付与しつつ、樹脂材料の透明性を維持することができる。
【0010】
第2の本発明は、シリコンのアルコキシドを水で部分加水分解して部分加水分解物を形成する工程(S1)、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシド、または該シリコン以外の金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、前記部分加水分解物とを、該シリコン以外の金属の割合が50モル%未満となるようにして混合して複合アルコキシド原料を調製する工程(S2)、水の含有割合が60〜100質量%である溶媒または分散媒中で前記複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させる工程(S3)を有する、平均粒径1nm〜100nmのシリカ系複合酸化物微粒子の製造方法である。
【0011】
ゾルゲル法により粒子を合成する場合、一般には先ず核生成する核生成過程と、生成した核が成長する粒成長過程を経る。チタン、ジルコニウム、アルミニウム等の金属(以下、これらの金属を「特定異種金属」という場合がある。)のアルコキシドの加水分解速度はシリコンのアルコキシドの加水分解に比べて非常に速いため、特定異種金属のアルコキシドとシリコンのアルコキシドとの単なる混合物を用いてゾルゲル法により複合酸化物粒子を得ようとした場合には、特定異種金属の酸化物の核形成や粒成長が優先してしまう。このため、粒子の組成や粒子径を制御することは非常に困難である。特に、核形成や粒子成長の初期においては、加水分解化速度の違いによる影響を強く受けるため、平均粒径1nm〜100nmである所謂ナノ粒子として、均一な組成を有する「特定異種金属とシリコンとの複合酸化物粒子」を得ることはより一層困難である。
【0012】
本発明者は、複合アルコキシド原料を調製し、これを特定の条件下で加水分解・縮合することにより、「特定異種金属とシリコンとの複合酸化物粒子」について組成の均一性を保ちながら核を形成し、これを成長させることに成功したものである。
【0013】
上記複合アルコキシド原料の調製に関していえば、その調製方法は、得ようとする複合酸化物微粒子の組成によって異なる。特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的低い場合、例えば25モル%未満の場合には、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとを単に混合することにより調製した複合アルコキシド原料を使用することができるが、特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的高い場合、例えば25モル%以上50モル%未満の場合には、このような複合アルコキシド原料を用いても所期の目的を達成することができない。
【0014】
このように特定異種金属の酸化物の含有割合が高いナノ粒子を得ようとする場合には、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物と混合する前に、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とをあらかじめ混合して錯体を形成することにより、その加水分解速度を低減しておく必要がある。錯体とすることによって、その加水分解速度がシリコンのアルコキシドの加水分解速度と同程度になるように揃えて、これにより、平均粒径1nm〜100nmのシリカ系複合酸化物微粒子を得ることができる。
【0015】
即ち、第2の本発明のシリカ系複合酸化物微粒子の製造方法は、(I)複合アルコキシド原料を調製する工程が、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシドと、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物とを、シリコン以外の金属の割合が25モル%未満となるようにして混合することにより複合アルコキシド原料を調製する工程である製造方法と、(II)複合アルコキシド原料を調製する工程が、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物とを、シリコン以外の金属の割合が25モル%以上50モル%未満となるようにして混合することにより複合アルコキシド原料を調製する工程である製造方法の2つの方法を含む。
【0016】
なお、上記の第2の本発明の製造方法において、シリコン以外の金属(特定異種金属)の割合を「モル%」で特定しているが、当該「モル%」とは、部分加水分解物中のシリコンのモル数(ここでいうモル数とはSiのグラム原子数に相当する。)をSi、特定異種金属のアルコキシドあるいは錯体中の特定異種金属のモル数(ここでいうモル数とは特定異種金属のグラム原子数に相当する。)をMとした場合に、{M/(Si+M)}×100(%)で表される値を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0018】
<シリカ系複合酸化物微粒子>
本発明のシリカ系複合酸化物微粒子は、シリカとシリカ以外の金属酸化物を含有している。シリカ以外の金属酸化物としては、チタニア、ジルコニア、アルミナを挙げることができる。中でも、チタニアが好ましい。チタンのアルコキシドは、他のジルコニウムやアルミニウムのアルコキシドに比べると、加水分解速度が遅い。よって、以下において説明する本発明の製造方法において、錯体とすることにより、シリコンのアルコキシドと加水分解速度を揃えることが、比較的容易である。
【0019】
シリカ以外の金属酸化物は、単独でシリカと複合化してもよいし、二種以上のシリカ以外の金属酸化物をシリカと複合化してもよい。例えば、シリカ以外の金属酸化物として、チタニアとジルコニアの両方を使用して、シリカ−チタニア−ジルコニアの3元系のシリカ系複合酸化物粒子としてもよいし、アルミナとチタニアの両方を使用して、シリカ−アルミナ−チタニアの3元系のシリカ系複合酸化物粒子としてもよい。
【0020】
本発明のシリカ系複合酸化物粒子は、シリカ以外の金属酸化物の含有率が、50モル%未満、好ましくは0.1モル%以上50モル%未満、より好ましくは1モル%以上50モル%未満である。なお、ここでいう「シリカ以外の金属酸化物の含有率」とは、シリカを構成するシリコンのモル数をSi、シリカ以外の金属酸化物を構成する金属元素のモル数をMとすると、{M/(Si+M)}×100(%)で表される。なお、前述したような3元系のシリカ系複合酸化物粒子の場合は、Mはシリカ以外の金属元素の総モル数である。
【0021】
なお、本発明のシリカ系複合酸化物粒子の平均粒子径は、1nm〜100nmの範囲、好ましくは、5nm〜50nmの範囲、より好ましくは10nm〜50nmの範囲である。このような粒子径を有する複合酸化物微粒子はこれまで得られていなかった。
【0022】
本発明のシリカ系複合酸化物粒子は、走査型や透過型の電子顕微鏡等を用いることによって粒子形状を確認することができる。また、該粒子の平均粒子径は、前記電子顕微鏡像による解析、精度の高い粒度分布計などで計測することができる。好適には、上記の電子顕微鏡像を市販の画像解析装置を用いて解析することによって、平均粒子径を求めることができる。
【0023】
本発明のシリカ系複合酸化物粒子は、シリカおよびシリカ以外の金属酸化物の構成成分が、一般には化学的に結合して存在するもので、これらの構成成分を物理的に分離することはできない。両成分が化学的に結合していることは、赤外スペクトルや屈折率(粒子の光学的な透明性)を測定することで確認できる。
【0024】
本発明のシリカ系複合酸化物粒子は水を含んだ有機溶媒のスラリーとして合成されるが、一般にはこれを所望の溶媒に置換したスラリーとして使用される。溶媒置換の方法に特に制限はないが、限外ろ過による濃縮と希釈の繰り返しによるプロセスが好適に使用される。また、本粒子は必要に応じて乾燥および焼成して使用することもできる。乾燥、焼成の際の温度は100℃〜1300℃の範囲で適宜選択すればよい。なお本発明のシリカ系複合酸化物粒子の比表面積は、特に限定されない。高温で焼成すると比表面積は小さくなり、低温で乾燥したものは比表面積が大きくなる傾向にある。なお、1300℃を超えた温度で焼成すると、粒子同志が焼結する場合があり、単分散性を損なってしまうことが懸念される。
【0025】
本発明の複合酸化物粒子は、そのほとんどが非晶質であるが、非晶質と一部結晶質との混合物になる場合もある。焼成前が非晶質であり前述した焼成温度が低い場合は非晶質のままであるが、焼成温度が高い場合はシリカ以外の金属酸化物の一部が結晶質となる場合がある。一般的にこれらの性質はX線回折等の手段で解析できる。なお、一般的に、本粒子の光学的に透明な性質を利用しようとする場合は非晶質である方が好ましく、特に粒子径が40nm以上である場合は、非晶質もしくは極一部のみが結晶質に転移した程度が好ましい。そのためには前述した焼成温度を1100℃以下とすることが好ましく、1050℃以下とすることがより好ましく、1000℃以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
さらにまた、本発明のシリカ系複合酸化物粒子の密度や屈折率については、シリカ以外の金属酸化物の種類や含有率、さらには粒子の焼成温度等によって変わるため、一概には規定できない。最も一般的には、真密度は1.5〜5g/cmの範囲、屈折率は1.4〜3の範囲である。なお、例えば、シリカ−チタニア複合酸化物粒子に関しては、チタニアの含有率が30〜50モル%の範囲のものを1000℃で焼成した場合には、真密度が2.6〜3.0g/cmの範囲、屈折率は1.65〜1.85の範囲であった。
【0027】
本発明のシリカ系複合酸化物微粒子は、従来製造が不可能であったナノレベル(1nm〜100nm)の粒子径を有する複合酸化物微粒子であり、粒子中におけるシリカおよびシリカ以外の金属酸化物の含有率を調整することによって、得られる微粒子の屈折率を調整することができる。これにより、樹脂材料のフィラーとして使用する場合において、各樹脂材料の屈折率に合わせることによって、ナノフィラーとしての性能を付与しつつ、樹脂材料の透明性を確保することができる。また、ナノコンポジットの透明性を維持したまま、その屈折率を調整可能な微粒子としても使用することができる。
【0028】
<シリカ系複合酸化物微粒子の製造方法>
図1に本発明のシリカ系複合酸化物微粒子に関する製造方法の工程図を示した。本発明のシリカ系複合酸化物微粒子の製造方法は、シリコンのアルコキシドを水で部分加水分解し部分加水分解物を形成する工程S1、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属(特定異種金属)のアルコキシド、または該シリコン以外の金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、前記部分加水分解物とを、前記シリコン以外の金属の割合が50モル%未満となるようにして混合して複合アルコキシド原料を調製する工程S2、水の含有割合が60〜100質量%である溶媒または分散媒中で、複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させる工程S3を有している。
【0029】
本発明の製造方法は、金属アルコキシド原料を加水分解・縮合することによりナノ粒子を形成する方法である。本発明においては、原料として、シリコンのアルコキシドとシリコン以外の金属のアルコキシドとから所定の方法で複合アルコキシド原料をあらかじめ形成しておくと共に、該複合アルコシド原料を特定の条件下で加水分解・縮合することにより、従来製造することができなかった、ナノレベルの粒子径を有し、シリカとシリカ以外の金属酸化物とが均一に分散されたシリカ系複合酸化物微粒子を製造することができる方法である。以下、本発明における各工程について説明する。
【0030】
(部分加水分解物の形成工程S1)
シリコンのアルコキシドを部分加水分解する(工程S1)。シリコンのアルコキシドとしては、以下において説明する水の含有割合が60〜100質量%である溶媒または分散媒中での加水分解・縮合反応により、シリコンの酸化物を形成するものであれば、特に制限なく公知の化合物を用いることができる。例えば、一般式Si(OR)またはSiR’(OR)4−nで示されるシリコンのアルコキシド、またはシリコンのアルコキシドを部分的に加水分解・縮合して得られる低縮合物が工業的に入手し易く、好ましく用いられる。これらシリコンのアルコキシドは、二種以上を混合して用いてもよい。なお、上記一般式において、RおよびR’は、アルキル基で、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基等の低級アルキル基であることが好ましい。nは1〜3の整数である。
【0031】
また、シリコンのアルコキシドを部分加水分解する際には、該アルコキシドと水の両方に対して相溶性のあるアルコール等の有機溶媒を併用することが好ましい。アルコール等の有機溶媒を使用しない場合は、シリコンのアルコキシドと水が相分離する傾向があり、部分加水分解が進行しなかったり、非常に反応が遅くなったりする場合がある。また、部分加水分解を迅速に進めるために、前記の水には、触媒を添加することが好ましい。触媒としては酸が好適で、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸等が挙げられるが、特に制限はない。酸の濃度としては、水のpHが1〜4の範囲のものを使用するのが好ましい。アルカリ触媒を用いた場合と異なり酸触媒を用いた場合には、加水分解物の縮合を起こし難いため、工程S2を行う前における粒子の形成を防止することができる。
【0032】
以下、部分加水分解の機構として、本発明者が考えている事項を説明する。シリコンのアルコキシド(アルコキシシラン)として、テトラメチルシリケートを使用した場合について説明する。部分加水分解により、シリコンのアルコキシドの一部が加水分解され、分子内にシラノール基(SiOH)が生成する(下記の式1参照。)。そして、このシラノール基は、工程S2において、シリコン以外の金属のアルコキシドと反応して、シリコンとシリコン以外の金属の複合アルコキシドを生成する。なお、アルコキシシランの加水分解反応は逐次的に進行し、使用した水の量に応じて下記式に従ったアルコキシヒドロキシシランが主要生成物として生成するものと考えられるが、実際の反応物は組成に分布を持った混合物(加水分解の程度の異なる化合物の混合物)となっていると考えられる。
【0033】
【化1】

式(1)において、「Me」はメチル基を表している(以下、同様である。)。また、「n」は1〜4の整数である。
【0034】
本発明の製造方法においては、組成が均一な複合酸化物粒子を得るために、シリコンのアルコキシドを水で部分加水分解する際に使用する水の量を制御するのが好ましい。前記式(1)からわかるように、アルコキシシラン部分加水分解反応で使用する水の量は生成するシラン化合物に導入されるシラノール基(Si−OH基)の数を決定する要因であり、アルコキシシラン部分加水分解物1分子が有するシラノール基の数は、工程S2で調製される複合アルコキシド原料の均一性に影響を与える。即ち、複合アルコキシド原料の調製工程S2においては、前記部分加水分解物を特定異種金属のアルコキシドと混合した際に、当該アルコキシドのアルコキシ基とシラノール基とが反応(脱アルコール反応)することによりSi−O−M(但し、Mは特定異種金属原子を表す)結合を形成し、Si・M・(OR)・(OH)(但し、a、b、c、およびdは、夫々1分子中に含まれるSi原子、M原子、OR基、およびOH基の数を表す)で示されるような複合アルコキシド原料が形成される。
【0035】
組成が均一な複合酸化物微粒子を製造するという観点からは、工程S2においてゲルを形成させることなく目的物とする複合酸化物微粒子の組成に対応する組成を有する複合アルコキシド原料を調製することが好ましいが、そのためにはアルコキシシラン部分加水分解物1分子が有するシラノールの数、さらに部分加水分解反応の生成物全体に含まれるシラノール基の量を制御することが重要となる。例えば、特定異種金属のアルコキシドの量に比べてシラノール基の量が少ない場合には未反応の特定異種金属のアルコキシドが残ってしまうことになり、反対にシラノール基の量が多すぎる場合にはシラノール基同士、あるいは、シラノール基とSiに結合したアルコキシ基が反応してSi−O−Si結合が形成され、ゲル化や粒子形成が起こってしまう。
【0036】
このような理由から、工程S1においては、下記式(2)で示される条件を満足するように使用する水の量を制御することが好ましい。
【0037】
−0.06X+3.5<Y<−0.06X+4.5 (2)
{式(2)中、「X」は、目的物であるシリカ系複合酸化物微粒子中におけるシリカ以外の金属酸化物の含有率(モル%)を表し、「Y」は使用する水のモル数を工程S2において使用するシリコン以外の金属のアルコキシドのモル数で除した値を意味する。}
【0038】
なお、上記式(2)は、実験的に決定されたものであり、その根拠となるデータは特開平2003−252616号公報の図1に示されている。該公報では、原料アルコキシドの加水分解・縮合の条件が本発明における工程S3の条件とは異なるため、ナノ粒子を製造することには成功していないが、本発明と同様な方法で調製した複合アルコキシド原料を用いて組成が均一な複合酸化物粒子が製造できていることから、良好な複合アルコキシド原料を製造するための部分加水分解条件として上記条件を満足することが好ましいことが理解できる。
【0039】
事実本発明においても、シリコンのアルコキシドを部分加水分解する際に、水の量が上記範囲よりも少ない場合や多い場合には、水の含有割合が60〜100質量%である溶媒または分散媒中で複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させてシリカ系複合酸化物粒子を得る際に、反応を制御することが難しくなり、融着粒子が多く生成したり、極端な場合は粒子合成中に粒子同志が凝集してしまう場合があることが確認されている。
【0040】
また、工程S1における、部分加水分解の際の水の量は、下記式(3)で示される条件を満足することがより好ましい。
【0041】
−0.06X+3.7<Y<−0.06X+4.3 (3)
(式(3)中の「X」および「Y」は、上記の式(2)と同じ意味を表す。)
【0042】
(複合アルコキシド原料の調製工程S2)
本発明の製造方法においては、工程S2において、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属(特定異種金属)のアルコキシド、または該特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、上記において調製した部分加水分解物とを、特定異種金属の割合が50モル%未満となるようにして混合して複合アルコキシド原料を調製する。
【0043】
前記したように、アルコキシシランの加水分解速度と特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度とは大きく異なるため、両者を単に混合して加水分解・縮合を行った場合には均一な組成を有する複合酸化物微粒子を得ることは困難である。これに対し、一旦複合アルコキシドを形成した場合には両者の加水分解速度の違いが緩和されて均一な組成を有する複合酸化物粒子を得ることが可能となる。
【0044】
しかしながら、複合化による効果には限界があり、特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的低い場合、例えば25モル%未満の場合には、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとを単に混合することにより調製した複合アルコキシド原料(以下、この複合アルコキシド原料を、後述する錯化させるタイプの複合アルコキシド原料と区別するために「通常複合アルコキシド原料」という。)でも十分な緩和効果を得ることができる。しかし、特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的高い場合、例えば25モル%以上50モル%未満の場合には、「シリコンのアルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとを混合することによる複合化」では、十分な緩和効果を得ることは難しい。
【0045】
そこで、本発明では、特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的高い場合には、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物とを、特定異種金属の割合が25モル%以上50モル%未満となるようにして混合することにより複合アルコキシド原料(以下、この複合アルコキシド原料を、上記の通常複合アルコキシド原料と区別するために「錯化複合アルコキシド原料」という。)を調製するという方法を採用する。錯化することにより特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度を低減し、アルコキシシランの加水分解速度に近づけることにより、特定異種金属の含有割合が高い場合でも均一な組成を有する複合酸化物微粒子を得ることが可能となる。
【0046】
なお、上記説明では、特定異種金属の含有割合について25モル%を境界として説明したが、25モル%を境に通常複合アルコキシド原料の反応性が急激に変化するというものではなく、例えば25%を越える通常複合アルコキシド原料を用いても条件を選べば所期のナノ粒子を得ることは可能である。また、錯化複合アルコキシド原料を使用する場合についても、25モル%を越える場合に限定されることはなく、25モル%未満の場合(例えば、特定異種金属のモル%が0.1〜25モル%の場合)でも何ら問題はなく所期のナノ粒子を得ることができる。
【0047】
以下、通常複合アルコキシド原料の調製方法と錯化複合アルコキシド原料の調製方法について詳しく説明する。
(通常複合アルコキシド原料の調製方法)
通常複合アルコキシド原料は、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシドと、アルコキシシランの部分加水分解物とを混合することにより調製するができる。
【0048】
特定異種金属のアルコキシドとしては、チタンのアルコキシド(Ti(OR))、ジルコニウムのアルコキシド(Zr(OR))、およびアルミニウムのアルコキシド(Al(OR))を用いることができる。Rは、アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基等の低級アルキル基であることが好ましい。
【0049】
通常複合アルコキシド原料の調製に際して、アルコキシシランの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとの混合割合は、最終的に得られるシリカ系複合酸化物微粒子においてシリカと、特定異種金属の酸化物とをどのような割合にて配合したいかによって決定する。即ち、使用するアルコキシシランの部分加水分解物に含まれるSi原子のモル数(グラム原子数)に基づいて、得ようとする複合酸化物微粒子の組成(目的とする特定異種金属のモル%)に応じて必要とされる特定異種金属(M)のモル数(グラム原子数)を決定し、それに見合う量の特定異種金属のアルコキシドを使用すればよい。
【0050】
例えば、シリカ80モル%、チタニア20モル%を含むシリカ系複合酸化物微粒子を製造する場合は、部分加水分解物中のシリコンのモル数をSi、チタンのアルコキシド中のチタンのモル数をTiとして、{Ti/(Si+Ti)}×100=20となるようにして、部分加水分解物とチタンのアルコキシドとを混合する。
【0051】
通常複合アルコキシド原料の調製は、アルコキシシランの部分加水分解を行った反応液と所定量の特定異種金属のアルコキシドとを撹拌下で混合することにより好適に行うことができる。混合時の液温は5〜50℃に保つのが好適である。また、撹拌時間は反応温度にもよるが、10分〜2時間程度で十分である。
【0052】
例えば、以下の式(4)に示すような部分加水分解反応を行って得た反応液と特定異種金属のアルコキシドであるテトライソプロピルチタネート(テトライソプロポキシチタン)とを混合した場合には、下記式(5)に示すような複合化反応が起こっていると考えられる。
【0053】
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
(錯化複合アルコキシド原料の調製方法)
錯化複合アルコキシド原料は、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合し、錯体を形成させ、次いでこの錯体と上記で作製した部分加水分解物とを混合することにより調製する。特定異種金属のアルコキシドとしては、通常複合アルコキシド原料の調製方法のところで説明したものが使用できる。
【0056】
錯化剤としては、(1)アルキレングリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール等)、(2)グリコールアルキルエーテル類(エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等)、(3)グリコールアリールエーテル類(エチレングリコールモノフェニルエーテル等)、(4)β−ジカルボニル化合物(アセチルアセトン等)、(5)アミン類(エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(6)ヒドロキシアセトン、(7)アセタール類(アセトンジメチルアセタール等)、(8)カルボン酸類(酢酸、乳酸、クエン酸等)等が挙げられる。この中でも、トリエタノールアミン等のアミン類、β−ジカルボニル化合物類、ヒドロキシアセトン、カルボン酸類が好ましい。
【0057】
錯化反応は、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを極性溶媒、好ましくはアルコール中で混合することにより行うことができる。反応温度は5℃〜溶媒の沸点の温度で行えばよく、室温でも十分に反応は進行する。また、反応時間は反応温度にもよるが通常10分〜2時間程度である。
【0058】
錯化反応において、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤との量比は、特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度を制御するという観点から重要である。均一組成の複合酸化物微粒子を得るためには、形成する錯体の加水分解速度をアルコキシシランの加水分解速度と同程度に調整することが好ましい。特定異種金属のアルコキシドと錯化剤との量比を変えることにより錯体の加水分解速度を制御することができるので、使用する特定異種金属のアルコキシドと錯化剤との組み合わせに応じて、上記観点から適宜好適な量比を決定すればよい。このような量比の決定は、簡単な実験により容易に行うことができる。
【0059】
以下に、特定異種金属のアルコキシドとして、テトライソプロピルチタネート(テトライソプロポキシチタンともいう。以下、「TPT」と省略する場合がある。)を使用し、錯化剤として、トリエタノールアミン(以下、「TEA」と省略する場合がある。)を使用した場合における実験例を示す。
【0060】
この実験は、TPTとTEAの量比と、得られた錯体の加水分解速度との関係を確認するために行われたものであり、次のような手順により行われた。すなわち、所定量の0.3%アンモニア水に、該アンモニア水と同質量の別途調製した“TPTおよびTEAを種々の割合にて混合した50質量%メタノール溶液”を、撹拌子を用いた撹拌(電磁撹拌)下に一気に添加し、添加終了直後から溶液がゲル化するまでの時間を測定することにより加水分解速度を評価した。なお、ゲル化時間は、溶液の粘度上昇により撹拌子の動きが停止した時点をゲル化した時点として求めた。そのときの結果を表1に示す。なお、別の実験において、シリコンのアルコキシドとして、テトラメチルシリケートを使用し、同様の条件にて実験を行った場合は、ゲル化時間は、14分であった。
【0061】
【表1】

【0062】
上記の結果より、TEA/TPT=0.5とした場合に、テトラメチルシリケートを使用した場合のゲル化時間(14分)に最も近いことがわかった。これより、以下において記載する実施例においては、TEA/TPT=0.5としている。しかし、本発明の思想は、特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度と、シリコンのアルコキシド(アルコキシシラン)の加水分解速度とを、同程度に揃えることにある。よって、この思想を達成するものであれば、TEAとTPTの配合割合は、上記の値に限定されない。
【0063】
また、TEA/TPT=0.5として、TEAとTPTとを混合した場合には、以下に示す錯体が形成されていると、本発明者は考えている。
【0064】
【化4】

(式(6)において、「iPr」はイソプロピル基を表している(以下、同様である。)。)
【0065】
このようにして調製された錯体と、アルコキシシランの部分加水分解物とを混合することにより錯化複合アルコキシド原料が調製される。このとき、錯体とアルコキシシランの部分加水分解物との混合は、通常複合アルコキシド原料を調製するときにおける、アルコキシシランの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとの混合と同様にして行うことができる。
【0066】
(加水分解・縮合工程S3)
本発明の方法では、上記で調製された複合アルコキシド原料を、触媒を含む溶媒中で加水分解・縮合することによりシリカ系複合酸化物粒子を製造する。このとき、平均粒径1nm〜100nmのシリカ系複合酸化物微粒子を得るためには、上記加水分解・縮合を水の含有割合が60〜100質量%である溶媒または分散媒中で行う必要がある。加水分解・縮合を水の含有割合が60質量%未満である溶媒または分散媒中で行った場合には、核形成が遅く、一旦形成された核は急激に成長してしまうため平均粒径1nm〜100nmの粒子を得ることはできない。このような粒子径の微粒子を再現性よく効率的に得るという観点から、溶媒または分散媒における水の含有割合は70質量%以上、特に75質量%以上であることが好ましい。
【0067】
なお、複合アルコキシド原料の加水分解・縮合反応により水が消費されアルコールが副生するため、バッチで反応を行った場合、溶媒または分散媒中の水の濃度が低下するが、本発明においては、反応を開始してから終了するまでの間、溶媒または分散媒中の水の濃度を60質量%以上、特に70質量%以上とするのが好ましい。
【0068】
上記溶媒または分散媒の水濃度が100質量%未満の場合、これら溶媒または分散媒は有機溶媒を含むことになる。このとき有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、その他水と相溶性のある有機溶媒が単独または複数混合して用いられる。これらの中でもメタノール、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール類が金属アルコキシドや水との相溶性も高く、また粘度も低いために、好ましい。
【0069】
また、金属アルコキシドを加水分解するための触媒としては、N(CHなどのアミン、アンモニア、LiOH、NaOH、KOH、N(CHOHなどの塩基が好適に使用できる。特に、アンモニアやアミンの場合は、製造したシリカ系複合酸化物粒子を焼成すれば粒子中に塩基が残留しないために、加水分解用の触媒として極めて好適である。触媒の添加量は、用いる触媒の種類や含水有機溶媒中の水と有機溶媒の種類や配合比率によって異なるために一概にはいえないが、pHが10以上、好ましくは11以上になるように添加するのが好ましい。触媒として最も好適なアンモニアの場合は、NHとしての重量分率で0.005%〜10%、好ましくは0.01%〜7%の範囲となるように添加するのが好適である。
【0070】
上記複合アルコキシド原料は、液中滴下することが好ましい。液中滴下とは、上記アルコキシド原料を水溶媒中に滴下する際、滴下口先端が水溶媒中に浸されていることをいう。滴下口先端の位置は、液中にあれば特に限定されないが、撹拌羽根の近傍等の充分に撹拌が行われる位置が望ましい。液中滴下をせずに、例えば、反応液の上部から液上滴下した場合には粒子が凝集しやすいため好ましくない。
【0071】
また、上記複合アルコキシ原料と共に、別途調製されたアルカリ性水溶液を、触媒を含む水溶媒中に同時滴下しても良い。このアルカリ性水溶液としては、0.005〜10質量%のアンモニア水等が好適である。なお、上記原料中のシリコンと特定異種金属の総モル数に対して、該アルカリ性水溶液中の水のモル数が1〜6倍モル、好ましくは2〜5倍モルとなるような供給比でアルカリ性水溶液を滴下することが好ましい。
【0072】
アルカリ性水溶液の滴下は、特に液中滴下する必要はないが、撹拌羽根近傍で液中滴下した方が、水溶媒中での撹拌が充分に行われるので好ましい。上記のようにアルカリ性水溶液を同時滴下することによって、固形分濃度を高くして粒子を合成できるので、収率の高い合成が可能となる。
【0073】
アルコキシドからなる原料は、それぞれ滴下を開始してから終了するまで連続的に滴下することが好ましい。なお、ここでいう連続的とは、好ましくは10分以上、さらに好ましくは3分以上の間隔を空けないことをいう。滴下速度は、必ずしも一定である必要はないが、滴下速度を変える場合には連続的に変えた方が望ましい。
【0074】
加水分解を行うときの反応槽の温度は、0〜50℃の範囲であれば良く、用いるアルコキシドの種類によって適宜選択される。その他、加水分解に使用する反応容器、上記以外の反応条件等は公知のものが何ら制限なく採用される。
【0075】
上記のように合成された粒子は、シリカ以外の金属酸化物の含有率が50モル%未満であって、平均粒子径が1nm〜100nm、好ましくは5nm〜50nm、より好ましくは10nm〜50nmの球状のシリカ系複合酸化物微粒子である。
【0076】
合成終了後の粒子は、反応液中に分散したコロイド状の粒子分散液として得られる。用途によっては、そのまま使用しても良いし、反応液の溶媒を水もしくはアルコール等の有機溶媒に溶媒置換した後に使用しても良い。
【0077】
また、粒子を合成した後、遠心分離、ろ過、蒸留、スプレードライ等の手法で固液分離し、粉末の形で取り出しても良い。取り出した粉末は乾燥させることができる。乾燥温度は50〜300℃の範囲が好適で、乾燥時間は数時間から数日間が好適である。乾燥した粉末はさらに高い温度で焼成することができる。焼成温度は100〜1300℃の範囲が好適で、焼成時間は1〜24時間の範囲が好適である。乾燥または焼成後の粒子は、ボールミルやジェットミル等を使用して粒子ひとつひとつに解砕することができる。また、乾燥または焼成した粒子は適当な溶媒に、対向衝突型分散装置、ビーズミルなどを用いて分散させて使用することもできる。
【実施例】
【0078】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1(SiO―TiO系ナノ粒子、Ti含有率:45モル%)
2リットルの三角フラスコに、メチルシリケート(Si(OMe)、多摩化学工業社製、商品名:正珪酸メチル)167.4gを仕込み、撹拌しながら、メチルアルコール76.1gと0.04質量%の塩酸18.0gを加え、室温で約20分間撹拌することによってメチルシリケートを部分加水分解した(この調製した溶液を「溶液A1」という。)。
【0079】
上記とは別に、テトライソプロポキシチタン(Ti(O−iPr)、日本曹達社製、商品名:A−1(TPT))255.8gとメタノール255.8gとトリエタノールアミン134.3gを加え室温で30分間撹拌した後、溶液A1と混合し、30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液B1」という。)。
【0080】
撹拌機付きのガラス製反応容器(内容積5リットル)に、イオン交換水1775.6g、アンモニア水(25質量%)4.4gを混合して反応液を調製し、反応液の温度を40℃に保持した。この反応液に上記の溶液B1を約5時間かけて液中滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けた後、系内の溶液を取り出し、5リットルのビーカーに移して静置した。得られた溶液を逆浸透膜により2倍に濃縮した後、水を加えて2倍に希釈した。この濃縮・希釈操作を5回繰り返し、微粒子の水分散液を得た。
【0081】
得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.02μmの粒子が得られた。また、上記水分散液を乾燥させて得られた粉末について蛍光X線分析を行ったところ、SiとTiの比率がSi:Ti=55:45であることがわかった。
【0082】
実施例2(SiO―TiOナノ粒子、Ti含有率:10モル%)
2リットルの三角フラスコに、メチルシリケート(Si(OMe)、多摩化学工業社製、商品名:正珪酸メチル)548.0gを仕込み、撹拌しながら、メチルアルコール274.0gと0.04質量%の塩酸28.8gを加え、室温で約20分間撹拌することによってメチルシリケートを部分加水分解した(この調製した溶液を「溶液A2」という。)。
【0083】
上記とは別に、テトライソプロポキシチタン(Ti(O−iPr)、日本曹達社製、商品名;A−1(TPT))113.6gとイソプロピルアルコール227.2gを加え室温で30分間撹拌した後、溶液A2と混合し、30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液B2」という。)。
【0084】
撹拌機付きのガラス製反応容器(内容積5リットル)に、イオン交換水1184.0g、アンモニア水(25質量%)4.4gを混合して反応液を調製し、反応液の温度を40℃に保持した。この反応液に上記の溶液B2を約5時間かけて液中滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けた後、系内の溶液を取り出し、5リットルのビーカーに移して静置した。得られた溶液を逆浸透膜により2倍に濃縮した後、水を加えて2倍に希釈した。この濃縮・希釈操作を5回繰り返し、微粒子の水分散液を得た。
【0085】
得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.01μmの粒子が得られた。また、上記水分散液を乾燥させて得られた粉末について蛍光X線分析を行ったところ、SiとTiの比率がSi:Ti=9:1であることがわかった。
【0086】
実施例3(SiO−ZrO系ナノ粒子、Zr含有率:45モル%)
溶液B1を調製する際に、テトライソプロポキシチタンの代わりに、テトラーtert−ブトキシジルコニウム(Zr(O−tBu)、和光純薬社製)345.3gを用い、メタノールの量を345.3gとした以外は実施例1と同様にしてSiO−ZrO系微粒子を得た。
【0087】
得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.01μmの粒子が得られた。また、上記水分散液を乾燥させて得られた粉末について蛍光X線分析を行ったところ、SiとZrの比率がSi:Zr=55:45であることがわかった。
【0088】
実施例4(SiO−Al系ナノ粒子、Al含有率:45モル%)
溶液B1を調製する際に、テトライソプロポキシチタンの代わりに、トリイソプロピルアルミニウム(Al(O−iPr)、和光純薬社製)183.8gを用い、メタノールの量を183.8gとした以外は実施例1と同様にしてSiO−Al系微粒子を得た。
【0089】
得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.02μmの粒子が得られた。また、上記水分散液を乾燥させて得られた粉末について蛍光X線分析を行ったところ、SiとAlの比率がSi:Al=55:45であることがわかった。
【0090】
実施例5(SiO−TiO系ナノ粒子、Ti含有率:45モル%、65質量%水溶液中で加水分解・縮合を行った例)
2リットルの三角フラスコに、メチルシリケート(Si(OMe)、多摩化学工業社製、商品名:正珪酸メチル)167.4gを仕込み、撹拌しながら、メチルアルコール76.1gと0.04質量%の塩酸18.0gを加え、室温で約20分間撹拌することによってメチルシリケートを部分加水分解した(この調製した溶液を「溶液A5」という。)。
【0091】
上記とは別に、テトライソプロポキシチタン(Ti(O−iPr)、日本曹達社製、商品名:A−1(TPT))255.8gとメタノール255.8gとトリエタノールアミン134.3gを加え室温で30分間撹拌した後、溶液A5と混合し、30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液B5」という。)。
【0092】
撹拌機付きのガラス製反応容器(内容積5リットル)に、イオン交換水1153g、メタノール621g、アンモニア水(25質量%)4.4gを混合して反応液を調製し、反応液の温度を40℃に保持した。この反応液に上記の溶液B5を約5時間かけて液中滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けた後、系内の溶液を取り出し、5リットルのビーカーに移して静置した。得られた溶液を逆浸透膜により2倍に濃縮した後、水を加えて2倍に希釈した。この濃縮・希釈操作を5回繰り返し、微粒子の水分散液を得た。
【0093】
得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.05μmの粒子が得られた。また、上記水分散液を乾燥させて得られた粉末について蛍光X線分析を行ったところ、SiとTiの比率がSi:Ti=55:45であることがわかった。
【0094】
比較例1(50質量%水溶液中で加水分解・縮合を行った、実施例1の比較例)
2リットルの三角フラスコに、メチルシリケート(Si(OMe)、多摩化学工業社製、商品名:正珪酸メチル)167.4gを仕込み、撹拌しながら、メチルアルコール76.1gと0.04質量%の塩酸18.0gを加え、室温で約20分間撹拌することによってメチルシリケートを部分加水分解した(この調整した溶液を「溶液A1’」という。)。
【0095】
上記とは別に、テトライソプロポキシチタン(Ti(O−iPr)、日本曹達社製、商品名:A−1(TPT))255.8gとメタノール255.8gとトリエタノールアミン134.3gを加え室温で30分間撹拌した後、溶液A1’と混合し、30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液B1’」という。)。
【0096】
撹拌機付きのガラス製反応容器(内容積5リットル)に、イオン交換水885g、メタノール885g、アンモニア水(25質量%)4.4gを混合して反応液を調製し、反応液の温度を40℃に保持した。この反応液に上記の溶液B1’を約5時間かけて液中滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けた後、系内の溶液を取り出し、5リットルのビーカーに移して静置した。得られた溶液を逆浸透膜により2倍に濃縮した後、水を加えて2倍に希釈した。この濃縮・希釈操作を5回繰り返し、微粒子の水分散液を得た。
【0097】
得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.1μm以上の粒子が多量に含まれていることが明らかとなった。
【0098】
比較例2(50質量%水溶液中で加水分解・縮合を行った、実施例2の比較例)
2リットルの三角フラスコに、メチルシリケート(Si(OMe)、多摩化学工業社製、商品名:正珪酸メチル)548.0gを仕込み、撹拌しながら、メチルアルコール274.0gと0.04質量%の塩酸28.8gを加え、室温で約20分間撹拌することによってメチルシリケートを部分加水分解した(この調製した溶液を「溶液A2’」という。)。
【0099】
上記とは別に、テトライソプロポキシチタン(Ti(O−iPr)、日本曹達社製、商品名:A−1(TPT))113.6gとイソプロピルアルコール227.2gを加え室温で30分間撹拌した後、溶液A2’と混合し、30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液B2’」という。)。
【0100】
撹拌機付きのガラス製反応容器(内容積5リットル)に、イオン交換水590g、メタノール590g、アンモニア水(25質量%)4.4gを混合して反応液を調製し、反応液の温度を40℃に保持した。この反応液に上記の溶液B2’を約5時間かけて液中滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けた後、系内の溶液を取り出し、5リットルのビーカーに移して静置した。得られた粒子について、SEM観察を行った。その結果、粒子径が0.1μm以上の粒子が多量に含まれていた。
【0101】
比較例3
トリエタノールアミンを用いない以外は実施例1と同様にして粒子を合成した。得られた粒子についてSEM観察を行ったところ、0.1μm以上の粒子を多量に含んでいることが明らかとなった。
【0102】
比較例4(複合アルコシド原料を使用しない例)
2リットルの三角フラスコに、メチルシリケート(Si(OMe)、多摩化学工業社製、商品名:正珪酸メチル)548.0gを仕込み、撹拌しながら、メチルアルコール274.0gと0.04質量%の塩酸28.8gを加え、室温で約20分間撹拌することによってメチルシリケートを部分加水分解した(この調整した溶液を「溶液A4’」という。)。
【0103】
上記とは別に、テトライソプロポキシチタン(Ti(OiPr)、日本曹達社製、商品名:A−1(TPT))113.6gとイソプロピルアルコール227.2gを加え室温で30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液C4’」という。)。
【0104】
撹拌機付きのガラス製反応容器(内容積5リットル)に、イオン交換水1184.0g、アンモニア水(25質量%)4.4gを混合して反応液を調製し、反応液の温度を40℃に保持した。この反応液に上記の溶液A4’と溶液C4’を別々の供給ラインからそれぞれ約5時間かけて液中滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けた後、系内の溶液を取り出し、5リットルのビーカーに移して静置した。得られた粒子は粒子径100μm以上の粗大粒子を多量に含んでいた。
【0105】
以上、現時点において、最も、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うシリカ系複合酸化物微粒子およびその製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明のシリカ系複合酸化物微粒子の製造工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0107】
S1 部分加水分解物の形成工程
S2 複合アルコキシド原料の調製工程
S3 加水分解・縮合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカとシリカ以外の金属酸化物とを含有するシリカ系複合酸化物微粒子であって、
シリカ以外の金属酸化物の含有率が、50モル%未満であり、
シリカ以外の金属酸化物が、チタニア、ジルコニア、および、アルミナからなる群から選ばれる一種以上であり、
平均粒径が1nm〜100nmであるシリカ系複合酸化物微粒子。
【請求項2】
シリコンのアルコキシドを水で部分加水分解して部分加水分解物を形成する工程、
チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシド、または、該シリコン以外の金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、前記部分加水分解物とを、該シリコン以外の金属の割合が50モル%未満となるようにして混合して複合アルコキシド原料を調製する工程、
水の含有割合が60〜100質量%である溶媒または分散媒中で前記複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させる工程を有する、平均粒径1nm〜100nmのシリカ系複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記複合アルコキシド原料を調製する工程が、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシドと、前記部分加水分解物とを、該シリコン以外の金属の割合が25モル%未満となるようにして混合することにより複合アルコキシド原料を調製する工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複合アルコキシド原料を調製する工程が、チタン、ジルコニウム、および、アルミニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して調製した錯体と、前記部分加水分解物とを、該シリコン以外の金属の割合が25モル%以上50モル%未満となるようにして混合することにより複合アルコキシド原料を調製する工程である、請求項2に記載の方法。

【図1】
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