説明

シリコンの精製方法およびシリコン

【課題】 効率良くシリコンを精製することができるシリコンの精製方法とその方法により得られたシリコンとを提供する。
【解決手段】 本発明は、炭素と酸化性ガスとを反応させて生成する処理ガスを溶融シリコンに吹き込む工程を含む、シリコンの精製方法とこの方法により得られたシリコンである。ここで、炭素を容器内に収容して容器内に酸化性ガスを通すことができ、酸化性ガスは水蒸気および水素の少なくとも一方を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンの精製方法およびシリコンに関し、特に効率良くシリコンを精製することができるシリコンの精製方法およびその方法により得られたシリコンに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄、アルミニウム、銅およびシリコン等は、自然界に単体で存在することは非常に稀であり、大部分が酸化物等の化合物として存在する。したがって、これらを構造材料、導電性材料または半導体材料等として用いる場合には、これらの酸化物等を還元することによって、不純物を除去する必要がある。しかし、これらの酸化物等を還元することのみによっては、不純物を十分に除去することができない。それゆえ、これらに含有される不純物量をさらに低減する必要がある。このような不純物量を低減する工程を精製という。
【0003】
例えば、構造用材料として用いられる鉄の精製においては、高炉から取り出された銑鉄をスラグと呼ばれる溶融酸化物と接触させることによって、じん性を著しく損なうリンおよび硫黄等の不純物をスラグ中に取り込み、銑鉄中の不純物の含有量を低減している。また、鉄鋼の機械強度を決定し得る不純物である炭素については、銑鉄中に酸素ガスを吹き込むことによって、銑鉄中の炭素を酸化して二酸化炭素ガスとして除去し、銑鉄中の炭素量を調整している。
【0004】
また、導電性材料として用いられる銅の精製においては、平衡状態における固体銅中での不純物濃度と溶融銅中での不純物濃度との比である不純物の偏析係数が小さいことを利用して、溶融状態にある銅を平衡状態に近くなるような遅い速度で凝固させることによって、固体銅中の不純物濃度を低減している。
【0005】
半導体材料として用いられるシリコンの精製においては、珪石を還元して得られる純度98%以上のシリコンをシラン(SiH4)またはトリクロロシラン(SiHCl3)といったガスに変換し、さらにこれらのガスをベルジャ炉内において分解または水素で還元することによって、純度が約11N程度の多結晶シリコンが得られる。この多結晶シリコンを用いて単結晶シリコンを成長させることによって、LSI等の電子デバイスの製造に用いられる単結晶シリコンが得られる。電子デバイスの製造に用いられる単結晶シリコンを得るためには、非常に複雑な製造工程および厳密な製造工程管理が必要となることから、その製造コストは必然的に高くなる。
【0006】
一方、化石燃料資源の枯渇等のエネルギ問題および地球温暖化等の環境問題に関する意識の高まりから、太陽電池の需要が近年急速に伸びている。太陽電池の製造に用いられるシリコンに要求されるシリコンの純度は約6N程度である。したがって、これまで太陽電池の製造に用いられてきた電子デバイス用シリコンの規格外品は、太陽電池用シリコンとしては過剰な品質となる。
【0007】
これまでは、電子デバイス用シリコンの規格外品の発生量が太陽電池の需要量に勝っていたため問題はなかった。しかし、今後は太陽電池の需要量が電子デバイス用シリコンの規格外品の発生量を上回るのは確実であり、太陽電池用シリコンの安価な製造技術の確立が強く求められている。その手法としては、上述した酸化還元反応または凝固偏析等を利用した冶金学的方法により精製する手法が近年注目されている。
【0008】
太陽電池用シリコンに含まれる不純物のうち、リンおよびボロンの偏析係数は共に大きい。したがって、リンおよびボロンの除去に関しては、凝固偏析を利用した精製方法はほとんど効果がないことが知られている。
【0009】
そこで、リンの除去に関しては、特許文献1に、溶融シリコンを減圧雰囲気下で保持することによって、リンを気相中に放出する方法が開示されている。
【0010】
また、ボロンの除去に関しては、特許文献2に、不活性ガスと水蒸気とを含む混合ガスのプラズマを溶融シリコン表面に照射する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、水素と酸素とを燃焼させたトーチを溶融シリコンに浸漬する方法が開示されている。また、特許文献4には、溶融シリコンを撹拌しつつ、処理ガスを吹き込む方法が開示されている。また、特許文献5には、溶融シリコン中にスラグを連続的に投入する方法が開示されている。これらのボロンの除去方法は、いずれもボロンの酸化物を溶融シリコンから除去するものである。
【特許文献1】特許第2905353号公報
【特許文献2】特許第3205352号公報
【特許文献3】米国特許5972107号公報
【特許文献4】特開2001−58811号公報
【特許文献5】特許第2851257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらの開示されたシリコンの精製方法においては、ボロンの除去速度が十分であるとは言えず、効率良くシリコンの精製をすることができなかった。
【0012】
また、特許文献4に記載されている水蒸気を含むガスを黒鉛製のガス吹き込み管に通して溶融シリコンに吹き込むと、図5の模式的拡大断面図に示すように黒鉛製のガス吹き込み管81のガス流路71およびガス吹き出し口61が水蒸気により著しく酸化消耗する(図5中の点線部分が元の形状)。このようにガス吹き出し口61が拡大することで吹き出すガスの気泡サイズが大きくなり、溶融シリコンの単位体積当たりのガスの気泡の表面積が小さくなるのでボロンの除去速度低下を招く。また、上記の酸化消耗により黒鉛製のガス吹き込み管81の寿命が短くなり、シリコンの精製コストが高くなるという問題があった。なお、図5に示すガス吹き込み管81中に設置されている中空のアルミナ管91は上記の水蒸気を含むガスによってはほとんど酸化消耗しない傾向にある。
【0013】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、効率良くシリコンを精製することができるシリコンの精製方法とその方法により得られたシリコンとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、炭素と酸化性ガスとを反応させて生成する処理ガスを溶融シリコンに吹き込む工程を含む、シリコンの精製方法である。
【0015】
ここで、本発明のシリコンの精製方法においては、炭素を容器内に収容し、容器内に酸化性ガスを通すことができる。
【0016】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、酸化性ガスは水蒸気を含み得る。
【0017】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、酸化性ガスは水素を含み得る。
【0018】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、容器内に収容されている炭素は、粉末状、筒状および板状の群から選択された少なくとも1種を含み得る。
【0019】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、容器内の雰囲気温度が380℃以上であり得る。
【0020】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、溶融シリコンにスラグが混合され得る。
【0021】
また、本発明のシリコンの精製方法において、スラグは酸化ケイ素を含み得る。
【0022】
また、本発明のシリコンの精製方法において、スラグはアルカリ金属の酸化物を含み得る。
【0023】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、スラグがアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩およびアルカリ金属のケイ酸塩の群から選択された少なくとも1種を含み得る。
【0024】
また、本発明のシリコンの精製方法においては、溶融シリコンに浸漬させたガス吹き込み管から処理ガスを吹き込みながらガス吹き込み管を回転させ得る。
【0025】
さらに、本発明は、上記のいずれかに記載のシリコンの精製方法を用いて精製されたシリコンである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、効率良くシリコンを精製することができるシリコンの精製方法とその方法により得られたシリコンとを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本願の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0028】
(装置)
図1に本発明に用いられる装置の一部の好ましい一例の模式的な断面図を示す。図1において、本発明に用いられる装置は、ステンレス製の壁面を有する溶解炉1と、黒鉛製の坩堝2と、電磁誘導加熱装置3と、黒鉛製のガス吹き込み管4とを含む。そして、この坩堝2には溶融シリコン8が注入され、さらに必要な場合には溶融スラグ9が混合される。
【0029】
ここで、ガス吹き込み管4はその下部に攪拌部5を備えており、攪拌部5の先端にはガス吹き出し口6が形成されている。さらに、ガス吹き込み管4は、その上部に撹拌部5を溶融シリコン8中で回転させるための回転駆動機構13と、撹拌部5を溶融シリコン8中に浸漬させるための、および溶融シリコン8から離脱させるための昇降機構(図示せず)とを備えている。また、攪拌部5を含むガス吹き込み管4の内部には、処理ガス等のガスの通り道となる中空のガス流路7が形成されている。また、ガス吹き込み管4が溶解炉1の壁を貫通する部分には、溶解炉1内部の密閉性を確保するとともにガス吹き込み管4を回転可能とするためのシール機構12が設けられている。ガス吹き込み管4の上部には、炭素収納容器14において生成された処理ガスをガス吹き込み管4に導入するための処理ガス導入管15が備えられている。また、炭素収納容器14の下部には酸化性ガス供給管16が備えられている。
【0030】
図2にガス吹き込み管4の一部の模式的な側面図と模式的な底面図とを示す。図2に示すように、攪拌部5は複数の翼10がガス吹き込み管4の外側へ放射状に突出した構造となっており、翼10のそれぞれの先端部にガス吹き出し口6が形成されている。ただし、撹拌部5の形状は、図1に示す処理ガスの気泡11あるいは溶融スラグ9等を溶融シリコン8中に均一に分散できるものであれば、上記の形状に限定されるものではない。
【0031】
(精製方法)
以下、本発明に係るシリコンの精製方法の好ましい一例について説明する。まず、図1に示す装置の坩堝2内に固形状の原料シリコン、スラグを入れ、溶解炉1内の空間をアルゴン等の不活性ガス雰囲気として、電磁誘導加熱装置3により坩堝2を加熱する。そして、坩堝2からの伝熱により原料シリコンおよびスラグの温度を上昇させ、これらを溶融する。このようにして得られた融液を所定の処理温度、たとえば1450〜1600℃に保持する。なお、スラグを添加した場合、融液の攪拌前においては、溶融シリコンと溶融スラグとは2層に完全に分離している。
【0032】
次いで、図示しない昇降機構によりガス吹き込み管4を下降させ、図1に示すように、ガス吹き込み管4および攪拌部5を坩堝2内の溶融シリコン8中に浸す。そして、ガス吹き込み管4の中空のガス流路7に導入された処理ガスをガス吹き出し口6から溶融シリコン8中に吹き込みながら、矢印で示す方向に回転駆動機構13によりガス吹き込み管4を回転させて溶融シリコン8を攪拌する。
【0033】
このようにすることで、溶融シリコン8中に吹き込まれる処理ガスの気泡11と溶融スラグ9とが微細化され、処理ガスの気泡11および溶融スラグ9を溶融シリコン8中に均一に分散させることができる。そして、溶融シリコン8中の全体にわたって、溶融シリコン8、溶融スラグ9および処理ガス間の反応が促進し、溶融シリコン8中に含まれるボロンの酸化物が生成して、この酸化物が気化すること等によって、ボロンの酸化物が溶融シリコン8中から除去される。
【0034】
したがって、本発明においては、処理ガスが溶融シリコン8中に均一に分散され、溶融シリコン8の全体からほぼ同時にボロンを除去することができるためボロンの除去速度が向上し、シリコンを効率良く精製することができる。
【0035】
(処理ガス)
本発明において処理ガスは、炭素と酸化性ガスとを反応させて生成される。ここで、酸化性ガスとしては、例えば、空気、酸素、二酸化炭素、水蒸気および水素の群から選択された少なくとも1種類を含むガス等が用いられる。そして、処理ガスとしては、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素または炭化水素などの炭素含有ガスの少なくとも1種類を含むガスが生成する。このような処理ガスを上記の溶融シリコン中に吹き込んだ場合には、ボロンの除去速度が向上し、シリコンを効率良く精製することができることが本発明者らによって見い出された。ここで、炭化水素としては、例えばメタン(CH4)等が生成される。
【0036】
また、処理ガスに含まれるその他の成分としては、例えば、アルゴン(Ar)、窒素、酸素、水素または水蒸気等がある。特に処理ガスに水蒸気が含まれる場合には、水蒸気は一酸化炭素および二酸化炭素よりも酸化性が強いことから、ボロン等の不純物の除去速度をより向上させることができる傾向にある。処理ガス中の水蒸気量は、通常の加湿装置を用いて処理ガス中の露点を代表的には20〜90℃の範囲とすることで、処理ガス全体の約2〜70vol%(体積%)の範囲内で容易に制御することができる。また、アルゴン等の不活性ガスをキャリアガスとして用いることが好ましい。
【0037】
また、処理ガス中における一酸化炭素、二酸化炭素または炭化水素などの炭素含有ガスの総体積比率は、処理ガス全体の体積の1体積%以上50体積%以下であることが好ましい。この比率が1体積%未満である場合には、処理ガスによるシリコン精製効率の向上が得られにくい傾向にあり、50体積%を超える場合には溶融シリコン中に混入した炭素を除去することが困難になる傾向にあるためである。なお、この場合には、ガス吹き込み管4からアルゴンや水蒸気等のガスが吹き込まれ、ガス吹き込み管4以外の箇所から一酸化炭素、二酸化炭素または炭化水素などの炭素含有ガスが吹き込まれてもよい。
【0038】
また、処理ガスの溶融シリコン中への導入圧力を1気圧よりも大きくすることが好ましく、0.15MPa以上0.3MPa以下の範囲とすることがより好ましい。これらの場合には、溶融シリコン中に粘度の高いスラグが混合している場合であっても処理ガスの吹き出しを安定して継続することができる傾向にある。
【0039】
図3および図4に本発明に用いられる炭素収納容器の一部の好ましい一例の模式的な断面図を示す。炭素収納容器内に粉末状の炭素を収容する場合には、たとえば図3の模式的断面図に示す炭素収納容器14が用いられる。酸化性ガス供給管16から酸化性ガスが炭素収納容器14に導入され、キャップ17に形成されているガス通過孔18を通って炭素粉末20に吹き込まれる。そして、酸化性ガスは炭素収納容器14内の炭素粉末20と反応して処理ガスを生成し、生成された処理ガスは処理ガス導入管15に流入する。
【0040】
ガス通過孔18は丸型、スリット状あるいは格子状であっても構わない。また、炭素粉末20はガスとの接触面積が大きくなるので、筒状や板状の炭素よりも効率良く処理ガスを生成することができる点で好ましい。また、連続操業の場合には、炭素収納容器14に備えられた炭素粉末供給口(図示していない)から消費した分の炭素粉末20を炭素収納容器14に追加供給できるので、筒状や板状の炭素よりも作業性が高く好ましい。炭素収納容器14の材質は所望の処理ガスを形成する温度に応じて、ステンレス製、セラミック製あるいは耐火レンガ等の材料より選択できる。また、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気の温度が所望の処理ガスを生成する温度になるように炭素収納容器14を加熱することができる。処理ガスとして二酸化炭素を生成する場合には雰囲気温度が例えば380〜400℃である炭素収納容器14内に酸化性ガスとして空気を導入することが好ましい。また、処理ガスとして水素と一酸化炭素との混合ガスを生成する場合には、雰囲気温度が例えば700〜750℃である炭素収納容器14内に酸化性ガス供給管16から酸化性ガスとして水蒸気を導入することが好ましい。また、処理ガスとして一酸化炭素を生成する場合には、雰囲気温度が例えば800〜900℃である炭素収納容器14内に酸化性ガス供給管16から酸化性ガスとして二酸化炭素を導入することが好ましい。また、処理ガスとしてメタンを生成する場合には、雰囲気温度が例えば1000〜1200℃である炭素収納容器14内に酸化性ガス供給管16から酸化性ガスとして水素を導入することが好ましい。ただし、本発明における酸化性ガス、炭素収納容器14内の雰囲気温度および処理ガスの構成は上記のものに限定されず、適宜設定することができる。
【0041】
また、炭素収納容器内に筒状および/または板状の炭素を収容する場合には、たとえば図4の模式的断面図に示す炭素収納容器14が用いられる。この場合には、酸化性ガス供給管16より酸化性ガスが炭素収納容器14内に導入され、炭素収納容器14内の炭素管台22に形成されているガス通過孔18を通って筒状の炭素管21の中空部に吹き込まれる。そして、酸化性ガスは炭素管21と反応して処理ガスを生成し、生成された処理ガスは処理ガス導入管15に流入する。
【0042】
なお、図4においては、筒状の炭素管21を用いた場合について示しているが、板状の炭素板を用いてもよく、筒状の炭素管と板状の炭素板の双方を用いてもよい。また、炭素板を用いる場合には、炭素板の表面が酸化性ガスの流れ方向に対して平行方向、すなわち炭素板を立てて縦置きに設置してもよく、酸化性ガスが炭素板と接触する時間をより長くするために、炭素板の表面が酸化性ガスの流れ方向に対して垂直方向、すなわち炭素板と炭素板との間に間隔を開けて横置きに設置しても構わない。
【0043】
(ガス吹き込み管)
図1に示すガス吹き込み管4および攪拌部5の材質には黒鉛が用いられることが好ましく、坩堝2の材質にも黒鉛が用いられることがより好ましい。これは、黒鉛が1400℃を超える温度を有する溶融シリコン8と接触しても溶け出さず、さらに加工が容易であるためである。また、坩堝2、ガス吹き込み管4または攪拌部5の材質に黒鉛が用いられる場合には、処理ガス、特に一酸化炭素および二酸化炭素の少なくとも一方を含有する処理ガスを溶融シリコン8中に吹き込むことにより、黒鉛製の坩堝2、ガス吹き込み管4および攪拌部5をより長時間使用することが可能となる。
【0044】
すなわち、従来においては、ボロン等の不純物を酸化する処理ガスとしては主に水蒸気が用いられていた。しかし、本発明者らがさらに研究を進めていく中で、水蒸気を用いた場合には、シリコンを精製する時間が経過するにつれて黒鉛製の坩堝2の内面、ガス吹き込み管4の外面、さらにはガス吹き込み管4のガス流路7および撹拌部5のガス流路面等が酸化性ガスである水蒸気との反応により消耗されることが判明した。
【0045】
この黒鉛部材の消耗により、溶融シリコン8中に炭素が混合されることとなり、結果的にはシリコンの精製能を高めることになっていたのであるが、坩堝2およびガス吹き込み管4の肉厚が薄くなってその強度が劣化し、これらの部材の使用可能期間が短くなるという問題が浮上した。さらに、ガス吹き出し口6の径が拡大して、処理ガスの気泡11が微細化されなくなって、シリコンの精製時間が長くなってしまうという問題も明らかになった。
【0046】
溶融シリコン8の温度は、たとえば1450〜1600℃という高温に保持される。したがって、溶融シリコン8に接触する坩堝2、ガス吹き込み管4の一部および撹拌部5は、溶融シリコン8の温度と同程度にまで加熱されることとなる。また、溶融シリコン8からの伝熱により、ガス吹き込み管4の溶融シリコン8の表面近くの部位は約500℃以上に加熱される。このような、黒鉛が酸化されやすい環境において、水蒸気等の酸化性のあるガスがこれら黒鉛製の部材に接触すれば、これら黒鉛製の部材は容易に酸化されるものと考えられる。
【0047】
そこで、本発明においては、処理ガス、特に一酸化炭素および二酸化炭素の少なくとも一方を含有する処理ガスを、予め炭素収納容器14内で生成しておき、溶融シリコン8中に吹き込むことで、ガス吹き込み管4および撹拌部5のガス流路面での酸化による黒鉛の侵食を抑制することができ、さらには溶融シリコン8中の炭素濃度を増加させて、黒鉛製の坩堝2、ガス吹き込み管4および攪拌部5から溶融シリコン8中へ溶出する炭素量を減少させることができる。それゆえ、本発明においては、坩堝2およびガス吹き込み管4等の黒鉛製の部材を従来よりも長期間使用することができるのである。このことは、装置を長期間稼動させて、太陽電池用シリコンを効率良く安価に製造することができることにつながる。
【0048】
また、坩堝2、ガス吹き込み管4および撹拌部5の材質として、黒鉛の代わりに、酸化されにくい材料(耐酸化性材料)を用いることも考えられる。黒鉛に代替する材料としては、例えば、炭化ケイ素または窒化ケイ素等といった材料を用いることが考えられる。ところが、これらの耐酸化性材料を用いて坩堝2、ガス吹き込み管4および撹拌部5のような大きな部材を製造することは非常に困難であるため、これらの部材の製造コストが非常に高くなる。
【0049】
また、坩堝2、ガス吹き込み管4および撹拌部5の材質に用いられる別の例としては、酸化物セラミックスを用いることも考えられる。特に酸化アルミニウム(アルミナ)については、これを用いて上記のような大きな部材を製造することが可能であり、かつ部材の製造コストも安価となる。しかしながら、酸化物セラミックスはスラグに激しく侵食されてしまうことがある。
【0050】
したがって、本発明に用いられる装置を構成する部材、特に坩堝2、ガス吹き込み管4および攪拌部5等の部材の材質には黒鉛を用いることが最も望ましいと言えるが、酸化性ガスによって、ガス流路7が酸化されてガス吹き込み管4が消耗するのをより確実に防ぐために、ガス吹き込み管4のガス流路7の少なくとも一部を耐酸化性材料で作製することも好ましい。
【0051】
なお、本発明において、耐酸化性材料とは、シリコンの融点である1412℃以上の温度において、水蒸気または酸素を2体積%以上含むガスに接触しても外観ないし機械強度が著しく変化しない材料であり、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の公知の材料を用い得るが、特にアルミナは高温での強度や酸化性ガスへの耐性に優れ、かつ安価であるため好ましい。
【0052】
また、ガス流路7を耐酸化性材料で作製する方法は特に限定されず、耐酸化性材料でできた中空の管を挿通してガス吹き込み管4の中空部の内面を覆ってガス流路7としてもよく、ガス吹き込み管4の中空部であるガス流路7の内面にペースト状の耐酸化性材料を塗布してもよく、蒸着法や気相成長法等により耐酸化性材料の薄膜を形成してもよい。
【0053】
(攪拌)
原料シリコンより比重の大きいスラグが添加される場合には、原料シリコンおよびスラグの溶融後の融液は二層に分離するため、上層である溶融シリコン層と下層であるスラグ層との界面付近に撹拌部5を下降させた後、ガス吹き込み管4を回転させることが好ましい。この場合には、ガス吹き出し口6から吹き出された処理ガスの気泡11および溶融スラグ9が、溶融シリコン8中でより均一に分散されやすくなる。そして、処理ガス、溶融シリコン8、さらには溶融スラグ9等が坩堝2中で非常に効率よく混合され、各相間の接触面積が著しく増大する。このような状態になると、処理ガス等に含まれ得る酸化性ガスまたは溶融スラグ9から供給された酸素による溶融シリコン8中のボロン等の不純物の酸化反応が著しく促進される。
【0054】
また、溶融スラグ9が溶融シリコン8中により均一に分散されるように撹拌することで、溶融スラグ9の酸化剤としての機能を効率良く引き出すことができる。ただし、スラグは全量が溶融している必要はなく、その一部が固体状態であってもほぼ同様の効果が得られるが、ボロン等の不純物の除去の観点からは、シリコンの精製を行なう際にシリコンとスラグとを共に溶融状態に保持することが望ましい。
【0055】
また、シリコンにスラグを添加する場合には、シリコンは固体状態または溶融状態のいずれの状態であってもよく、添加されるスラグも固体状態または液体状態のいずれであってもよい。
【0056】
なお、原料シリコンにスラグが添加されない場合あるいは原料シリコンより比重の小さいスラグが添加される場合には、溶融シリコン8の下方へ撹拌部5を下降させた後、ガス吹き込み管4を回転させることが好ましい。
【0057】
(スラグ)
本発明に用いられ得るスラグとしては、例えば酸化ケイ素と酸化カルシウムとを混合したもの等が用いられる。例えば、Advanced Physical Chemistry for Process Metallurgy(1997年発行)の109ページに記載のSiO2−CaO2元系状態図から分かるように、シリコンの融点である約1412℃より高い約1460℃以上で酸化ケイ素と酸化カルシウムとの混合物であるスラグを溶融状態にすることができる。
【0058】
酸化ケイ素の粉末が酸化剤として有用であることは、例えば上述の特許文献2や特許文献3に開示されているが、酸化ケイ素の粉末は溶融シリコン8との濡れ性が悪く、多量の酸化ケイ素の粉末を溶融シリコン8中に添加することができないため、シリコンの精製処理速度が制限されることがある。そこで、酸化ケイ素と酸化カルシウムとの混合物をスラグとして用いることにより、溶融シリコン8との濡れ性を改善することができるので、溶融スラグとしてシリコンの精製処理に必要となる酸化剤を多量に導入することが可能となる。
【0059】
なお、酸化ケイ素と酸化カルシウムとの混合物からなるスラグを用いる場合には、酸化ケイ素を主成分とするものを用いることが好ましい。特許文献5に記載されているような酸化カルシウムを主成分とするものを用いた場合には、ボロン等の不純物に対する酸化剤としての機能が弱まる傾向にある。
【0060】
しかし、スラグとして、酸化ケイ素を主成分とするものを用いた場合には、溶融スラグ9がガス吹き出し口6に付着し、ガス吹き出し口6が溶融スラグ9によって閉塞されることがある。酸化ケイ素を主成分とするスラグは一般的に粘度が大きいため、一旦付着してしまうとその剥離が困難になるものと考えられる。
【0061】
そこで、本発明者らは、酸化ケイ素を主成分とするスラグに酸化リチウムおよび酸化ナトリウム等のアルカリ金属の酸化物の1種以上を含有させることで、ガス吹き出し口6の閉塞を抑制できることを見い出した。スラグにアルカリ金属の酸化物を含有させることで溶融スラグ9の粘度が下がり、ガス吹き出し口6へのスラグの付着が抑制されるためと考えられる。
【0062】
スラグにアルカリ金属の酸化物を含有させる際には、アルカリ金属の酸化物を直接含有させてもよいが、アルカリ金属の酸化物は水と反応して水酸化物に変化すると強アルカリ性を呈するので、取り扱いに注意を要することがある。
【0063】
そこで、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩およびアルカリ金属のケイ酸塩からなる群から選択された少なくとも1種をスラグに含有させることもできる。例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムまたはケイ酸リチウムをスラグに含有させて加熱することで、酸化ケイ素を主成分とするスラグに酸化リチウムを含有させたことと同様の効果が得られる。
【0064】
なお、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムまたはケイ酸ナトリウムを酸化ケイ素を主成分とするスラグに混合して加熱することで、酸化ケイ素を主成分とするスラグに酸化ナトリウムを混合したことと同様の効果が得られる。
【0065】
また、本発明において用いられるスラグ材料は上述のものに限定されるものではないことは言うまでもない。例えば、鉄鋼等の精錬分野で一般的に用いられている酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウムまたはフッ化カルシウム等の添加剤を適宜混合してもよい。
【実施例】
【0066】
(原料シリコン)
ボロンを65ppm含有しているスクラップシリコンと、純度11Nの半導体級シリコンとを、質量比でおよそ1:8の割合で混合することにより、含有されるボロン濃度を約7ppmに調整したシリコン原料Aを作製した。
【0067】
ボロンを90ppm含有しているスクラップシリコンと、純度11Nの半導体級シリコンとを、質量比でおよそ1:8の割合で混合することにより、含有されるボロン濃度を約10ppmに調整したシリコン原料Bを作製した。
【0068】
(精製添加剤)
精製添加剤Aとして、試薬(純度95%以上)として市販されている粉末状の二酸化ケイ素SiO2と酸化カルシウムCaOとを、質量比でおよそ45(SiO2):55(CaO)の割合で混合して作製した。
【0069】
精製添加剤Bとして、試薬(純度95%以上)として市販されている粉末状の二酸化ケイ素SiOと酸化カルシウムCaOとを、質量比でおよそ65(SiO2):35(CaO)の割合で混合して作製した。
【0070】
精製添加剤Cとして、試薬(純度95%以上)として市販されている粉末状の二酸化ケイ素SiO2、酸化カルシウムCaOおよびケイ酸リチウムLi2SiO3を、質量比でおよそ10(SiO2):5(CaO):14(Li2SiO3)の割合で混合して作製した。この精製添加剤Cが溶融すると、二酸化ケイ素SiO2、酸化カルシウムCaOおよび酸化リチウムLi2Oが質量比でおよそ67(SiO2):17(CaO):16(Li2O)の割合で混合されることになる。
【0071】
(実施例1)
まず、図1に示す坩堝2内に1kgのシリコン原料Aを収容し、溶解炉1の内部を1気圧のアルゴン雰囲気として、電磁誘導加熱装置3を用いて坩堝2を加熱することにより溶融シリコン8を作製し、1550℃で保持した。この際、精製処理前のボロン含有量を測定するため、溶融シリコン8を約20g抽出し、そのうち5gを測定に用いた。
【0072】
次に、図3に示す炭素収納容器14内に適量の炭素粉末20を収容して、酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に酸化性ガスとして空気を0.2MPaの圧力で導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を380℃とした。炭素収納容器14内で生成した処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、窒素78体積%、二酸化炭素12体積%および酸素10体積%であった。
【0073】
続いて、黒鉛製のガス吹き込み管4の攪拌部5のガス吹き出し口6から処理ガスが吹き出しているのを確認した後に、ガス撹拌部5が溶融シリコン8の下方に位置するように、昇降機構によりガス吹き込み管4を下降させて溶融シリコン8中にガス吹き込み管4を浸漬した。なお、ガス吹き出し口6から吹き出している処理ガスの流速は3.0L/minであった。
【0074】
処理ガスが溶融シリコン8中に吹き込まれるのを確認した後、回転機構によりガス吹き込み管4を400rpmで回転させて、2時間の精製処理を行なった。精製処理前後のシリコン中のボロン含有量をICP(誘導結合プラズマ)発光分析法により測定したところ、精製処理前は7.2ppm、精製処理後は4.0ppmであった。
【0075】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、わずかに黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が0.4mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は0.2mm/hrの割合で減厚した。しかし、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は、精製処理前と比較して大きな違いはなかった。
【0076】
(実施例2)
図3に示す酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に酸化性ガスとして酸素を導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を1250℃としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例1と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.0ppm、精製処理後は3.4ppmであった。
【0077】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、わずかに黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が0.4mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は0.2mm/hrの割合で減厚した。しかし、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は、精製処理前と比較して大きな違いはなかった。
【0078】
なお、実施例2において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、二酸化炭素90体積%および酸素10体積%であった。
【0079】
(実施例3)
図3に示す酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に酸化性ガスとして二酸化炭素を導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例1と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.0ppm、精製処理後は3.5ppmであった。
【0080】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、わずかに黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が0.2mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は0.1mm/hrの割合で減厚した。しかし、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は、精製処理前と比較して大きな違いはなかった。
【0081】
なお、実施例3において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、二酸化炭素50体積%および一酸化炭素50体積%であった。
【0082】
(実施例4)
キャリアガスとしてのアルゴンを加湿器に通すことによって生成したアルゴンと水蒸気とからなる混合ガスを酸化性ガスとして、図3に示す酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を710℃としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例1と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.4ppm、精製処理後は2.7ppmであった。
【0083】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には黒鉛の消耗は見られず、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は精製処理前と比較してほとんど変化は見られなかった。
【0084】
なお、実施例4において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、アルゴン70体積%、一酸化炭素15体積%および水素15体積%であった。
【0085】
(実施例5)
キャリアガスとしての水素を加湿器に通すことによって生成した水素と水蒸気とからなる混合ガスを酸化性ガスとして、図3に示す酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を1000℃としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例1と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.7ppm、精製処理後は2.9ppmであった。
【0086】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には黒鉛の消耗は見られず、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は精製処理前と比較してほとんど変化は見られなかった。
【0087】
なお、実施例5において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素80体積%、一酸化炭素10体積%およびメタン10体積%であった。
【0088】
(実施例6)
キャリアガスとしての水素を加湿器に通すことによって生成した水素と水蒸気とからなる混合ガスを酸化性ガスとして、図3に示す酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例1と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.7ppm、精製処理後は2.9ppmであった。
【0089】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には黒鉛の消耗は見られず、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は精製処理前と比較してほとんど変化は見られなかった。
【0090】
なお、実施例6において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素67体積%および一酸化炭素33体積%であった。
【0091】
(実施例7)
炭素収納容器14の形態を図4に示す構成にし、筒状の炭素管21を炭素収納容器14内に収容してヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を450℃としたこと以外は実施例6と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例6と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.4ppm、精製処理後は3.0ppmであった。
【0092】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、わずかに黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が0.4mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は0.2mm/hrの割合で減厚した。しかし、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は、精製処理前と比較して大きな違いはなかった。
【0093】
なお、実施例7において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素62体積%、一酸化炭素31体積%および水蒸気7体積%であった。
【0094】
(実施例8)
図4に示す炭素収納容器14内に筒状の炭素管21の代わりに板状の炭素板を縦置きに収容してヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を400℃としたこと以外は実施例7と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例7と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.6ppm、精製処理後は3.2ppmであった。
【0095】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、わずかに黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が0.6mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は0.3mm/hrの割合で減厚した。しかし、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は、精製処理前と比較して大きな違いはなかった。
【0096】
なお、実施例8において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素60体積%、一酸化炭素30体積%および水蒸気10体積%であった。
【0097】
(実施例9)
まず、図1に示す坩堝2内に830gのシリコン原料Bと170gの精製添加剤Aとの混合物1kgを収容し、溶解炉1の内部を1気圧のアルゴン雰囲気として、電磁誘導加熱装置3を用いて坩堝2を加熱することにより溶融シリコン8を作製し、1550℃で保持した。この際、精製処理前のシリコン中のボロン含有量を測定するため、溶融シリコン8を約20g抽出し、そのうち5gを測定に用いた。
【0098】
次に、図3に示す炭素収納容器14内に適量の炭素粉末20を収容して、キャリアガスとしての水素を加湿器に通すことによって生成した水素と水蒸気とからなる混合ガスを酸化性ガスとして酸化性ガス供給管16から炭素収納容器14内に0.2MPaの圧力で導入し、ヒータ19により炭素収納容器14内の雰囲気温度を700℃とした。炭素収納容器14内で生成した処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素67体積%および一酸化炭素33体積%であった。
【0099】
続いて、黒鉛製のガス吹き込み管4の攪拌部5のガス吹き出し口6から処理ガスが吹き出しているのを確認した後に、ガス撹拌部5が溶融シリコン8の下方に位置するように、昇降機構によりガス吹き込み管4を下降させて溶融シリコン8中にガス吹き込み管4を浸漬した。なお、ガス吹き出し口6から吹き出している処理ガスの流速は3.0L/minであった。
【0100】
処理ガスが溶融シリコン8中に吹き込まれるのを確認した後、回転機構によりガス吹き込み管4を600rpmで回転させて、2時間の精製処理を行なった。精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を実施例1と同様にして測定したところ、精製処理前は9.8ppm、精製処理後は1.1ppmであった。
【0101】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には黒鉛の消耗は見られず、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は精製処理前と比較してほとんど変化は見られなかった。
【0102】
(実施例10)
精製添加剤Aの代わりに精製添加剤Bを用いたこと以外は実施例9と同様にしてシリコンの精製を行なった。そして、実施例9と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は10.4ppm、精製処理後は0.43ppmであった。
【0103】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には黒鉛の消耗は見られず、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は精製処理前と比較してほとんど変化は見られなかった。
【0104】
なお、実施例10において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素67体積%および一酸化炭素33体積%であった。
【0105】
(実施例11)
精製添加剤Aの代わりに精製添加剤Cを用いたこと以外は実施例9と同様にしてシリコンの精製を行なった。そして、実施例9と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は9.8ppm、精製処理後は0.18ppmであった。
【0106】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には黒鉛の消耗は見られず、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5の外観は精製処理前と比較してほとんど変化は見られなかった。
【0107】
なお、実施例11において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素67体積%および一酸化炭素33体積%であった。
【0108】
(比較例1)
炭素収納容器14内の雰囲気温度を200℃としたこと以外は実施例6と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例6と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.3ppm、精製処理後は4.9ppmであった。
【0109】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、明らかな黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が4mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は2mm/hrの割合で減厚した。また、ガス吹き出し口6の径は1mmから3mmへ拡大していた。
【0110】
水蒸気の方が一酸化炭素および二酸化炭素よりも酸化力が大きいにもかかわらず、シリコンの精製能は低かった。これは、ガス吹き出し口6の径が拡大したことにより混合ガスの気泡が大きくなり、ボロン等の不純物の酸化反応の速度が低下したためと推測される。
【0111】
消耗が激しくなった原因として、比較例1では炭素収納容器14内の雰囲気温度が200℃と、実施例6の700℃に比べて低温であったことから、水蒸気が炭素と反応しないで、水蒸気のままガス吹き込み管4に導入されたためと推測される。
【0112】
なお、比較例1において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、水素70体積%および水蒸気30体積%であった。
【0113】
(比較例2)
炭素収納容器を用いることなく、キャリアガスとしてのアルゴンを加湿器に通すことによって生成したアルゴンと水蒸気とからなる混合ガスを酸化性ガスとして直接処理ガス導入管15に導入したこと以外は実施例4と同様にしてシリコンの精製処理を行なった。そして、実施例4と同様にして精製処理前後のシリコン中のボロン含有量を測定したところ、精製処理前は7.5ppm、精製処理後は2.8ppmであった。
【0114】
また、精製処理後のガス吹き込み管4および撹拌部5におけるガス流路7には、明らかな黒鉛の消耗が見られた。最も黒鉛の消耗が激しかった攪拌部5のガス吹き出し口6では、その肉厚が5mm小さくなっていた。すなわち、黒鉛は2.5mm/hrの割合で減厚した。また、ガス吹き出し口6の径は1mmから3.5mmへ拡大していた。
【0115】
黒鉛の消耗が激しかった理由は、水蒸気が処理ガス導入管15を介して直接ガス吹き込み管4に導入されたため、水蒸気による黒鉛の酸化消耗が進行したものと推測される。また、水蒸気の方が一酸化炭素および二酸化炭素よりも酸化力が大きいにもかかわらず、シリコンの精製能が実施例4の場合とあまり変化しなかったのは、ガス吹き出し口6の径が拡大したことにより混合ガスの気泡が大きくなり、ボロン等の不純物の酸化反応の速度が低下したためと推測される。
【0116】
なお、比較例2において炭素収納容器14内で生成された処理ガスを処理ガス導入管15から採取し、この処理ガスのガス組成をガスクロマトグラフにより分析したところ、アルゴン70体積%、水素15体積%および水蒸気15体積%であった。
【0117】
なお、上記実施例および比較例においては、上記所定の時間だけ精製処理を行なった後、図1に示す溶融シリコン8の表面から十分な程上方に撹拌部5が位置するまで昇降機構によりガス吹き込み管4を上昇させ、ボロン含有量測定用の溶融シリコン8を数g程度取り出すことによって精製処理後のシリコン中のボロン含有量の測定が行なわれた。また、実施例9、10および11のようにスラグ材料を添加した場合は、図1に示す溶融シリコン8と溶融スラグ9とを十分に分離させるために数分間静置して、溶融シリコン8中に溶融スラグ9が混入しないようにした後に上記ボロン含有量の測定用の溶融シリコン8が取り出された。
【0118】
また、上記実施例および比較例においては、原料シリコンとして半導体級シリコンとボロンを含有するスクラップシリコンとの混合物を用いたが、ボロン以外の不純物を含有している原料、例えば工業的に広く利用されている純度98%程度のシリコンであっても、本発明の効果が発現することは言うまでもない。
【0119】
また、上記実施例9、10および11においては、固体状態のシリコンに固体状態のスラグを添加してこれらを溶融したが、溶融状態のシリコンに固体状態のスラグを添加してこれらを溶融しても同様の効果が発現され、また固体状態のシリコンに溶融状態のスラグを添加してこれらを溶融しても同様の効果が発現され、また溶融状態のシリコンに溶融状態のスラグを添加してこれらを溶融状態に保持しても同様の効果が発現されることは言うまでもない。
【0120】
さらに、本発明が適用されるところは、本実施例に限定されるものではなく、例えば、スラグの混合量、処理ガスの流量およびガス吹き込み管の回転数等は、処理を行う原料シリコンの量、あるいは坩堝の形状等により最適な状態となるように適宜選択されるべきものである。
【0121】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、ボロンの除去速度を向上させることにより、効率良くシリコンを精製することができる。したがって、本発明によれば太陽電池用シリコンを安価に製造することができるため、本発明は太陽電池の製造に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明に用いられる装置の一部の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図2】本発明に用いられるガス吹き込み管の一部の好ましい一例の模式的な側面図と模式的な底面図である。
【図3】本発明に用いられる炭素収納容器の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図4】本発明に用いられる炭素収納容器の好ましい他の一例の模式的な断面図である。
【図5】従来における黒鉛製ガス吹き込み管の酸化消耗の様子を図解する模式的な拡大断面図である。
【符号の説明】
【0124】
1 溶解炉、2 坩堝、3 電磁誘導加熱装置、4,81 ガス吹き込み管、5 攪拌部、6,61 ガス吹き出し口、7,71 ガス流路、8 溶融シリコン、9 溶融スラグ、10 翼、11 気泡、12 シール機構、13 回転駆動機構、14 炭素収納容器、15 処理ガス導入管、16 酸化性ガス供給管、17 キャップ、18 ガス通過孔、19 ヒータ、20 炭素粉末、21 炭素管、22 炭素管台、91 アルミナ管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素と酸化性ガスとを反応させて生成する処理ガスを溶融シリコンに吹き込む工程を含む、シリコンの精製方法。
【請求項2】
前記炭素を容器内に収容し、前記容器内に前記酸化性ガスを通すことを特徴とする、請求項1に記載のシリコンの精製方法。
【請求項3】
前記酸化性ガスは水蒸気を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のシリコンの精製方法。
【請求項4】
前記酸化性ガスは水素を含むことを特徴とする、請求項3に記載のシリコンの精製方法。
【請求項5】
前記容器内に収容されている炭素は、粉末状、筒状および板状の群から選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項6】
前記容器内の雰囲気温度が380℃以上であることを特徴とする、請求項2から5のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項7】
前記溶融シリコンにスラグが混合されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項8】
前記スラグは酸化ケイ素を含むことを特徴とする、請求項7に記載のシリコンの精製方法。
【請求項9】
前記スラグはアルカリ金属の酸化物を含むことを特徴とする、請求項7または8に記載のシリコンの精製方法。
【請求項10】
前記スラグがアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩およびアルカリ金属のケイ酸塩の群から選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項7から9のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項11】
前記溶融シリコンに浸漬させたガス吹き込み管から前記処理ガスを吹き込みながら前記ガス吹き込み管を回転させることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のシリコンの精製方法を用いて精製された、シリコン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−160575(P2006−160575A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357055(P2004−357055)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】