説明

シリコン合金配合樹脂組成物

【課題】熱可塑性・熱硬化性樹脂に、燃焼合成によって得たシリコン合金を強化剤として配合した成形用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のシリコン合金配合樹脂組成物は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とシリコン合金とからなり、重量%で5〜75のシリコン合金を含有し、前記シリコン合金は、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を有し、粒径が0.5〜5.0μmの粉末であることを特徴とする。本発明によれば、しなやかさ、割れにくさ、表面の滑らかさ、成形性等を損なうことなく、合成樹脂製品の強度を向上させることが出来るから、一層の薄型化・軽量化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性・熱硬化性樹脂に強化剤を配合した成形用樹脂組成物、特に、燃焼合成によって得たシリコン合金を配合した成形用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
融点や軟化点が高く、機械特性に優れた熱可塑性・熱硬化性樹脂は、自動車工業や電気・電子工業等の各種工業分野で広く活用されている。各種の用途に応じて、剛性や強度をさらに高めるべく研究・開発が進められる一方で、成形性・加工性や表面外観性との両立も求められている。
熱可塑性・熱硬化性樹脂の強度(引張強さ、曲げ強さ、弾性率、硬さ等)を向上させる方法の一つとして、従来から、アルミナ、ケイ素、炭酸塩、ガラス等無機物質のフィラーを添加、混練することが行われている。このような合成樹脂を素材にして成形された自動車部品、電気機器部品を初めとする各種の機械部品や建材は、熱可塑性・熱硬化性樹脂のみを原料として成形された場合に比べてその強度が向上するため、薄肉化により部品の軽量化を図ることが出来る。
熱可塑性・熱硬化性樹脂に上記のような無機物質を添加すると、確かに強度は向上するため、これを素材とする成形品は、軽量化の目的を達することが出来る。しかし、その一方で、これらの成形品には、しなやかさが減じて脆く割れやすくなる、表面状態や成形性が悪くなる等の欠点が生じる。そのため、これらの課題を克服するための手段も新たに提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−292910号公報
【特許文献2】特開2009−215449号公報
【特許文献3】特開2009−155576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの従来技術はいずれも、原油を原料とする物質によって課題解決を図ろうとするものであり、従来の技術思想の枠を出るものではなく、組成や製造方法が複雑である上、資源保護や環境問題の観点からは大きな課題を残している。また、上記の、強度、弾性、成形性、表面外観性の各要請を同時に充たすことは、依然として困難である。
よって、本発明は、熱可塑性・熱硬化性樹脂に、燃焼合成によって得たシリコン合金粉末を配合することにより、環境への負荷が少なく簡易な方法で、成形品の強度向上とともに、弾性、成形性、表面外観性の維持・向上を両立させることが出来る、シリコン合金配合成形用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とシリコン合金とからなるシリコン合金配合樹脂組成物であって、
重量%で5〜75のシリコン合金を含有し、
前記シリコン合金は、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を有し、粒径が0.5〜5.0μmの粉末であることを特徴とするシリコン合金配合樹脂組成物により、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、しなやかさ、割れにくさ、表面の滑らかさ、成形性等を損なうことなく、合成樹脂製品の強度を向上させることが出来るから、一層の薄型化・軽量化が求められる分野においても、新たな需要に応えることが出来る。
また、本発明に用いるシリコン合金粉末は、殆ど未活用状態で埋蔵されている地中資源であるシリコンを有効活用し、二酸化炭素を発生させない燃焼合成法により製造し、廃棄する際には砂に戻る無公害廃却が可能なものであるから、近時益々重要性を増す環境問題の観点からも、産業界に有用な課題解決手段を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に用いるシリコン合金を合成するための制御型燃焼合成装置の概念的構成図。
【図2】シリコン合金の添加に伴う、ポリプロピレンの曲げ強さの変化を示すグラフ。
【図3】シリコン合金の添加に伴う、ポリプロピレンの曲げ弾性率の変化を示すグラフ。
【図4】シリコン合金の添加に伴う、ポリプロピレンの衝撃値の変化を示すグラフ。
【図5】シリコン合金の添加に伴う、ポリプロピレンの荷重−たわみ温度の変化を示すグラフ。
【図6】シリコン合金の添加に伴う、ポリプロピレンのMFRの変化を示すグラフ。
【図7】シリコン合金無添加ポリプロピレンとシリコン合金50%添加ポリプロピレンの成形品の接近写真。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明に用いる「シリコン合金」について説明する。
発明者らは、先に、シリコン、特に、酸素及び鉄等の金属元素を不純物として含有する低価格金属シリコンを原料として、これらの金属元素を固溶元素として許容できる「シリコン合金」を合成する制御型燃焼合成方法及び制御型燃焼合成装置を開発し、これについて、特願2009−60453(特願2006−354835の分割出願)として出願し、既に特許第4444362号として登録を受けている。また、このシリコン合金の粉末は、「メラミックス」として商標登録(第5246171号)され、これを用いた様々な焼結体は、鉄鋼材料に替わる優れた機械的特性を有するセラミックス製品として、種々の技術分野で活用されるようになっている。この焼結体の製造方法についても、特願2006−354835として出願し、既に特許第4339352号として登録を受けている。
【0009】
上記発明は、窒素雰囲気中でのシリコンの燃焼合成反応を、2000℃以下、1MPa以下で行われるよう制御できるとともに、装置内で、温度を制御しつつ燃焼合成生成物を冷却できる構成としたものである(図1)。
具体的には、真空状態とした装置10内に、所定量の窒素を供給し、金属シリコン、アルミニウム、アルミナ及び/又はシリカを装置内の反応容器20中に供給して、着火機構22によって着火、燃焼させる。圧力センサ24により装置内の圧力を検出し、窒素供給機能と装置内の反応ガス排出機能とを具えたガス圧力制御弁26により装置内の圧力を制御し、温度検知手段28により反応容器20内の温度を検出し、温度検知手段28により検出された温度に応じて、装置全体を覆う水冷ジャケットによる第1冷却機構30と、装置内に設けた冷却用プレートによる第2冷却機構32に供給される冷却水量を制御して、反応容器20内の温度を制御し、装置内圧力を1MPa以下、反応容器内温度を2000℃以下に制御しながら燃焼合成する。
【0010】
この合成方法及び合成装置を用いれば、通常の電気炉還元精錬によって硅石又は硅砂から製造される金属シリコンの内、半導体用途用の酸素含有量の少ない高価格の高グレード金属シリコンではなく、酸素含有量が多く、且つ、鉄等の金属元素等を不純物元素として含有する低価格金属シリコンを、原料として用いることができる。
これにより、これまで殆ど未活用で、酸化シリコンの形で、硅石鉱山の硅石又は砂漠等の砂、硅砂として死蔵状態で埋蔵されている最多含有地球資源であるシリコンを、大量に有効活用できることになる。しかも、二酸化炭素を発生させない燃焼合成法により素材を製造し、廃棄する際には砂に戻る無公害廃却が可能であるという、画期的で優れた技術である。
【0011】
また、この制御型燃焼合成によって得られるシリコン合金は、短時間で粉末化することができ、且つ、粒度の揃った粉末を得ることができるという点でも優れている。
すなわち、所定粒径への粉砕時間は、燃焼合成温度2000℃超、燃焼合成圧力1MPa超で行う従来の燃焼合成により合成したシリコン合金に比し、50%以上短縮される。良好な粉砕性により、超微粉末への加工が、短時間、低コストで実施できる。
しかも、上記の燃焼合成法により得たシリコン合金を粉末化すると、粒度の揃った粉末を得ることができる。粒度の測定は、ナノレベルの微粒子の粒子径も測定可能な動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて行うことができる。動的光散乱法は、溶液中に分散する微粒子にレーザー光を照射し、粒子がその大きさにより異なるブラウン運動をみせることによって生じる散乱光の揺らぎを観測して、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)を求め、粒子径、粒子径分布を解析する手法である。そして、積算粒子径分布において、10%、50%、90%のときの粒径は、それぞれ、D10、D50、D90で表される。
本発明に用いるシリコン合金の粒子径分布は、D10=0.35μm、D50=0.51μm、D90=0.89μmであった。比較として、市販の窒化ケイ素は、最高級品で、D10=0.18μm、D50=0.5μm、D90=1.26μmである。本発明に用いるシリコン合金は、D10、D90の値の差が小さく、粒度のばらつきが小さいことが分かる。
【0012】
このシリコン合金は、上記のとおり、元々、その粉末の焼結体を、鉄鋼材に替わる新たな工業材料として提供するために開発されたものである。すなわち、シリコン合金は、これまで、専らセラミックス製品の素材として用いられてきた。そして、上記発明により、セラミックスによる鉄鋼材料へのさらなる代替が可能となり、セラミックスが汎用工業材料として広く工業界に活用され得るものとなった。
しかし、発明者らは、研究の結果、これが合成樹脂にも応用可能であり、その物性を変化・改善させるために有効であるとの新たな知見を得た。
【0013】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド等の合成樹脂は、今日、自動車部品、電気機器部品、建材、各種容器等、多岐の用途に用いられている。以下、家庭用品や建築資材、医用材料として幅広く活用されているポリプロピレン(以下、単に「PP」とする。)を素材として成形された板材を例に、本発明の効果を説明する。
【0014】
平均粒径が0.9μmのシリコン合金粉末を、10、30、50、75、85重量%添加混練したPPと、シリコン合金無添加PPを通常の方法で射出成形した、厚み4mmの板材の各種特性値を調査した。以下に、これらの板材の特性値の比較表を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1に示すように、シリコン合金添加PPの強度を示す曲げ強さ、弾性率は、PP素材のそれよりも大きくなっている。特に、シリコン合金50%添加PPの弾性率の向上は著しく、これを使った成形品では、従来品以上の薄肉化・軽量化を図ることが出来る。一方で、アルミナ、ケイ素、炭酸塩、ガラス等のフィラーを添加した合成樹脂製品に認められる割れ易さの指標となる衝撃値は、シリコン合金10、30、50、75%添加PPでは、PP素材より改善された。また、上記の各種フィラーを50重量%添加した合成樹脂では、成形性の指標となるMFR(Melt Flow Rate)は、添加前の値の20%以下に低下し、成形が非常に困難になるが、シリコン合金添加PPではその低下幅は小さく、シリコン合金50%添加材でも60%以上を維持しているため、成形上の問題も小さい。さらに、耐熱性の指標となる荷重−たわみ温度も大きく上昇しており、成形品の耐熱性も向上していることが分かる。
これに対し、シリコン合金85%添加PPでは、曲げ弾性率は向上するが、他の指標については改善が見られなかった。
シリコン合金の添加に伴う、これら曲げ強さ、曲げ弾性率、衝撃値、荷重−たわみ温度、MFRの変化を表すグラフを、図2〜6に示す。
【0017】
他方、これらの成形品の表面を観察したが、両者の表面状態・外観に差は認められなかった。図7は成形品の接近写真であり、上段がシリコン合金無添加PP、下段がシリコン合金50%添加PPである。
他の合成樹脂についても、同様の結果を得た。
【0018】
比較研究の結果、粒径が0.5〜5.0μmのシリコン合金粉末を、樹脂組成物全体の重量%で5〜75添加すると、衝撃値、成形性、表面状態等を損なうことなく、強度(曲げ強さ、弾性率)や耐熱性を向上させる効果を奏することが分かった。
以下にその具体的な実施例を示す。
【実施例1】
【0019】
ポリスチレン(PS)を改質した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)にシリコン合金粉末を20重量%添加して、テレビとエアコンの家庭用電気機器部品を成形した。
【実施例2】
【0020】
ポリプロピレン(PP)にシリコン合金粉末を30重量%添加して、自動車内装部品と窓枠の建材を成形した。
【実施例3】
【0021】
ポリエチレン(PE)にシリコン合金粉末を10重量%添加して、コンテナ容器を成形した。
【実施例4】
【0022】
ABS樹脂にシリコン合金粉末を50重量%添加して、自動車外装部品バンパーを成形した。
【実施例5】
【0023】
変成PPE(エンジニアリングプラスチック)にシリコン合金粉末を50重量%添加して、大型コピー機の外装部品を成形した。
【実施例6】
【0024】
ポリアミド(PA)にシリコン合金粉末を60重量%添加して、自動車エンジン部品と工作機械部品を成形した。
【0025】
このように、シリコン合金粉末を添加した熱可塑性・熱硬化性樹脂では、他のアルミナ、ケイ素、炭酸塩、ガラス等の粉末を添加した合成樹脂製品に比べて、衝撃値、成形性、表面状態等を大きく損なうことなく、強度(曲げ強さ、弾性率)や耐熱性を向上させた成形品を作ることが出来るから、種々の用途に活用することが出来る。
このような差は、添加剤としての物性の差異に起因するものであることは言うまでもないが、最大の要因は、両者の粉末径に大きな差がある点に存する。すなわち、軟質の合成樹脂に硬質の無機物フィラーを添加した場合、フィラー粒径が大きいと、フィラーは合成樹脂中に介在物として存在する。このような硬質の介在物は、外力に対する抵抗力を付与し強度を向上させるが、一方で、流動性を低下させるため成形性を損なう原因となったり、割れの起点となる、表面状態を悪化させる等の要因となる。
【0026】
これに対し、本発明に用いるシリコン合金粉末の粒径は、0.5〜5μmと小さく、粒度も揃っているため、これを添加しても、その割れにくさ、成形性、表面状態を損なうことなく、最終製品の強度を向上させることが出来る。これは、ファンデルワールス力によるファンデルワールス結合によって説明することが出来る。すなわち、物質が極限まで小さくなると、互いに引付け合うようになる。シリコン合金粉末の場合、サブミクロンサイズにまで微粒子化されているため、合成樹脂の分子と直接引付け合っていると考えられる。
【0027】
本発明に用いるシリコン合金の場合、サブミクロンサイズの粉末を工業的に比較的容易に得ることが出来る。その理由は、以下のとおりである。
既述のとおり、シリコン合金は、金属シリコンとアルミナ粉とを、高圧の窒素雰囲気下で燃焼合成して製造する。燃焼合成時には、シリコン、窒素、アルミニウム、酸素の各元素は、気中で一度原子状態になってからシリコン合金として合成されるため、合成直後は非常に微細な霧状になっている。そして、その後の冷却速度を調整することにより、粒径がサブミクロンの微粉末に凝固する。すなわち、シリコン合金は、製造時既にサブミクロンサイズになっている。
これに対し、アルミナ、ケイ素、炭酸塩、ガラス等をフィラーとして使うためには、塊状のものをクラッシャー等により粉砕しているため、これらをサブミクロンサイズにまで微粒子化することは、技術的にも費用の点からも困難であり、その大きさは約10μmが限界である。
【0028】
今日、熱可塑性・熱硬化性樹脂は、自動車の内外装部品、電気機器部品、機械部品、建材、各種容器、家庭用品等多岐の用途に素材として使用されている。これらのプラスチックにシリコン合金粉末を添加すると、そのしなやかさ、割れにくさ、表面の滑らかさ、成形性等を損うことなく、強度を向上させることが出来るから、一層の薄型化・軽量化が求められる分野においても、新たな需要に応えることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とシリコン合金とからなるシリコン合金配合樹脂組成物であって、
重量%で5〜75のシリコン合金を含有し、
前記シリコン合金は、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を有し、粒径が0.5〜5.0μmの粉末であることを特徴とする、
シリコン合金配合樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1のシリコン合金配合樹脂組成物からなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−12544(P2012−12544A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152613(P2010−152613)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(303066208)株式会社イスマンジェイ (15)
【出願人】(510186063)大栄株式会社 (1)
【Fターム(参考)】