説明

シリコーン接着剤及びその製造方法

【課題】耐アルカリ性に優れたシリコーン接着剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】有機ケイ素化合物(モノマー)が重合したシリコーン重合体を含むシリコーン接着剤であって、前記シリコーン重合体にマイナス電荷を付加してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーン接着剤及びその製造方法に係り、特に、耐アルカリ性に優れたシリコーン接着剤の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被着体を選ばず、さまざまな基材に対して優れた接着性を有し、耐熱性、難粘着性表面への接着、耐剥離性に優れたシリコーン接着剤は、機器のパーツ同士や建材同士の接着あるいは接着テープの粘着層として広く使用されている。特に、シランカップリング剤をプライマーとして使用すると、無機的性質と有機的性質との両方を有しているので、無機系材料(例えばシリコーン)と有機系材料(例えばシリコーン接着剤、エポキシ樹脂)の接着を更に強化することができる。
【0003】
例えば、インクジェット記録装置のインクを付与するプリントヘッド部分のパーツ同士を接着する接着剤としてもシリコーン接着剤が使用されている。プリントヘッドのインクが通る流路部や液室部は、常に弱アルカリ性のインクに浸漬された状態になると共に、接着面積が微小であるため、パーツ同士の接着性が極めて重要になる。
【0004】
しかし、プリントヘッドパーツの接着に従来のシリコーン接着剤、シランカップリング剤を使用すると、耐アルカリ性に劣っているために次第に接着性が劣化し、パーツ同士の密着性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
このことから、これらのパーツを接着する方法としては、ドライフィルムや感光性接着剤などの熱可塑性樹脂で熱圧着したり(特許文献1)、溶媒希釈型接着剤を塗布後、溶媒を揮発させて高粘度接着剤したり(特許文献2)する等の方法が採用されていた。
【特許文献1】特開平7−314675号公報
【特許文献2】特開平7−314697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、シリコーン接着剤、シランカップリング剤は優れた特徴がある反面、アルカリ性条件下では、水酸化イオンによりシリコーン重合体がケイ酸イオンに解離し易く、ゾル化してしまうため、接着性が低下してしまうという問題がある。
【0007】
このことから、アルカリ性を示す材料と接触させたり、上述のインクプリントヘッドのパーツのように、耐アルカリ性が求められる場所に使用したりした場合には、その使用におのずと条件や制限が強いられてきたのが実情である。
【0008】
このような背景から、アルカリ性条件下であっても使用できるように耐アルカリ性に優れたシリコーン接着剤が要望されている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、耐アルカリ性に優れたシリコーン接着剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、有機ケイ素化合物(モノマー)が重合したシリコーン重合体を含むシリコーン接着剤であって、前記シリコーン重合体にマイナス電荷を付加してなることを特徴とするシリコーン接着剤を提供する。
【0011】
ここで、有機ケイ素化合物(モノマー)が重合した−Si−O−結合を主鎖とするシロキサン結合(オルガノポリシロキサン)のシリコーン重合体をシリコーンと称し、特に同一分子内に加水分解基と有機官能基とを有する有機ケイ素化合物(モノマー)をシランカップリング剤と称する。
【0012】
本発明の請求項1によれば、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加したので、シリコーン重合体のマイナス電荷と、マイナス電荷を有するアルカリの水酸イオンとが反発し合う。これにより、水酸イオンによりシリコーン重合体がケイ酸イオンに解離してゾル化するのを抑制する。したがって、本発明のシリコーン接着剤は耐アルカリ性があるので、アルカリ性条件下で接着性が低下してしまうという従来の問題を解消できる。
【0013】
なお、本発明のシリコーン接着剤は、オルガノシロキサン重合体(シリコーン)以外に、接着剤を構成する通常成分である溶剤等の成分を有する場合も含む。
【0014】
請求項2は請求項1において、前記シリコーン重合体は、シリコーン又はシランカップリング剤の重合体であることを特徴とする。
【0015】
請求項2は、本発明におけるシリコーン重合体の好ましい態様を示したものであり、シリコーン又はシランカップリング剤が重合したオルガノポリシロキサンを好適に使用できる。
【0016】
請求項3は請求項1又は2において、前記シリコーン重合体のケイ素原子の一部をリン、砒素、アンチモンの何れかにドープすることで、1価のマイナス電荷を付加することを特徴とする。
【0017】
請求項3は、シリコーン重合体のケイ素原子の一部を、ドープ方法によって、ケイ素の原子サイズに近いリン、砒素、アンチモンに置き替えることで、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加するようにしたものである。
【0018】
請求項4は請求項1又は2において、前記シリコーン重合体のケイ素原子の一部をイオウ、セレン、テルルの何れかにドープすることで、2価のマイナス電荷を付加することを特徴とする。
【0019】
請求項4は、ケイ素原子の一部をイオウ、セレン、テルルの何れかにドープすることで、シリコーン重合体に2価のマイナス電荷を付加するようにしたものである。
【0020】
2価のマイナス電荷を付加することでシリコーン重合体のマイナスの帯電を大きくできるが、2価以上に大きくし過ぎると重合性に弊害が生じる虞があるので1価又は2価が好ましい。
【0021】
本発明の請求項5は前記目的を達成するために、有機ケイ素化合物(モノマー)が重合したシリコーン重合体を含むシリコーン接着剤の製造方法であって、前記シリコーン重合体にマイナス電荷を付加するマイナス電荷付加工程を備えたことを特徴とするシリコーン接着剤の製造方法を提供する。
【0022】
請求項5は、本発明のシリコーン接着剤の製造方法であり、シリコーン接着剤を製造する工程中に、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加するマイナス電荷付加工程を備えている。
【0023】
これにより製造されるシリコーン接着剤は、シリコーン重合体がマイナス電荷を帯びるので、アルカリ性条件下の接着であっても耐アルカリ性に優れている。
【0024】
請求項6は請求項5において、前記マイナス電荷付加工程はドープ方法であって、前記シリコーン重合体のケイ素原子の一部を、前記シリコーン重合体に対してマイナス電荷を付加するドープ原子に置き替えることを特徴とする。
【0025】
請求項6は、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加する好ましい一例を示したものであり、ドープ方法が好ましい。
【0026】
請求項7は請求項6において、前記ドープ原子は、リン、砒素、アンチモン、イオウ、セレン、テルルの何れかを含む化合物であることを特徴とする。請求項7は、ドープ原子の好ましい態様を示したものである。
【0027】
請求項8は請求項5〜7の何れかにおいて、前記シリコーン重合体は、シリコーン又はシランカップリング剤の重合体であることを特徴とする。
【0028】
請求項8は本発明におけるシリコーン重合体の好ましい態様を示したものである。
【0029】
請求項9は請求項8において、前記マイナス電荷付加工程では、前記シリコーン樹脂に前記ドープ原子を含む化合物を0.1〜30モル%混ぜてドープすることを特徴とする。
【0030】
請求項9は、シリコーン重合体がシリコーンの場合のドープ原子の好ましいドープ量を示したものであり、シリコーンに対してドープ原子を含む化合物を0.1〜30モル%ドープすることが好ましい。
【0031】
これは、シリコーンに対してドープ原子を含む化合物を0.1モル%未満混合したのでは、ドープ量が不足するために耐アルカリ性能が発揮されないと共に、30モル%を超えると重合性能に問題が生じる虞があるからである。
【0032】
請求項10は請求項8において、前記マイナス電荷付加工程では、前記シランカップリング剤に前記ドープ原子を含む化合物を0.1〜50モル%混ぜた後、加水分解してから重合することで前記ドープ原子をドープすることを特徴とする。
【0033】
これは、シランカップリング剤に対してドープ原子を含む化合物を0.1モル%未満混合したのでは、耐アルカリ性能が発揮されないと共に、50モル%を超えると重合性能に問題が生じる虞があるからである。
【0034】
請求項11は請求項8において、前記マイナス電荷付加工程では、CVD装置内に、前記シランカップリング剤と前記ドープ原子を含む化合物のCVDガスを供給することを特徴とする。
【0035】
請求項11は、シリコーン重合体がシランカップリング剤の重合体の場合のドープ方法の別態様として化学気相蒸着法を示したものである。化学気相蒸着法は特に、被着体(接着されるパーツ)に塗布されたシランカップリング剤に耐アルカリ性を付加する方法として好ましい。即ち、シランカップリング剤が塗布されたパーツをCVD装置にセットし、ドープ原子を含む化合物のCVDガスを供給することで、シランカップリング剤が耐アルカリ性に優れたシリコーン重合体になる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、耐アルカリ性に優れたシリコーン接着剤及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付図面に従って本発明のシリコーン接着剤及びその製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0038】
本発明のシリコーン接着剤は、有機ケイ素化合物(モノマー)が重合したシリコーン重合体を含むシリコーン接着剤であって、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加してなる接着剤であり、シリコーン重合体は、シリコーン又はシランカップリング剤の重合体であることが好ましい。
【0039】
なお、有機ケイ素化合物(モノマー)が重合した−Si−O−結合を主鎖とするシロキサン結合(オルガノポリシロキサン)のシリコーン重合体をシリコーンと称し、一般式がR−(CH)n−Si(X)で表され、同一分子内に加水分解基と有機官能基を有する有機ケイ素化合物担体をシランカップリング剤と称する。ここで、Rは、有機官能基で、アミノプロピル基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、N−フェニルアミノプロピル基、メルカト基、ビニル基等であり、Xは、加水分解基であり、メトキシ基又はエトキシ基等である。
【0040】
本発明のシリコーン接着剤の製造方法としては、従来のシリコーン接着剤を製造ラインに、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加できるマイナス電荷付加工程を備えていればどのような方法でもよいが、マイナス電荷付加工程として、シリコーン重合体の4価のケイ素原子の一部を、5価の原子又は6価の原子に置き替えるドープ方法を好ましく採用できる。
【0041】
シリコーン重合体としてシリコーンを使用する場合のドープ方法としては湿式反応方式を好適に採用でき、シリコーン重合体としてシランカップリング剤の重合体を使用する場合のドープ方法としては湿式反応方式以外に乾式反応方式(化学気相蒸着法)を好ましく採用できる。
【0042】
5価又は6価のドープ原子としては、リン、砒素、アンチモン、イオウ、セレン、テルルの何れかを含む化合物を使用することができ、化学気相蒸着法の場合には容易にガス化できる化合物であることが好ましい。
【0043】
次に、本発明のシリコーン接着剤の具体的な製造方法について、ドープ原子がリンの例で以下に説明する。
【0044】
(1)シリコーン重合体がシランカップリング剤の湿式反応重合方式による製造
シランカップリング剤にリンを含む化合物(例えばリン酸ナトリウム等)を0.1〜50モル%混合した後、加水分解及び重合して、シランカップリング剤にリン原子をドープする。即ち、微量のシランカップリング剤をシリコーン接着剤に含めたり、又はシランカップリング剤をプライマーとして接着剤塗布前に薄く塗布する。これを重合して、耐アルカリ性を有するシリコーン重合体を形成できる。
【0045】
(2)シリコーン重合体がシランカップリング剤の乾式重合反応方式による製造
CVD装置内に、シランカップリング剤と、例えばリン化水素(PH)又は5酸化2リン(P)をシランカップリング剤に対して0.1〜50モル%含むCVDガスを供給して、被着体であるパーツの接着面にシランカップリング剤を蒸着し、シリコーン重合体にリン原子をドープする。これにより、パーツの接着面に付与されたシランカップリング剤がプライマーとなり、接着剤の耐アルカリ性を促進することが可能となる。
【0046】
(3)シリコーン重合体がシリコーンの場合の湿式反応方式による製造
シリコーンにリンを含む化合物(例えばリン酸ナトリウム等)を0.1〜30モル%混合することにより、シリコーンにリン原子をドープする。これにより、耐アルカリ性を有するシリコーンを含むシリコーン接着剤を製造することができる。
【0047】
上記の如く製造された本発明のシリコーン接着剤は、従来のシリコーン接着剤に比べて顕著な耐アルカリ性を有する。
【0048】
即ち、従来のシリコーン接着剤は、図1(A)に示すように、シリコーン重合体のSi−O−Si結合とアルカリ性を呈する水酸イオン(OH)とが、下記に示す化1の反応式により反応してケイ酸イオン[Si(OH)2−]に解離するため、シリコーン重合体がゾル化する。これにより、従来のシリコーン接着剤は接着性が低下するので接着されたパーツ同士の密着性が悪くなる。
【0049】
[化1]
Si−O−Si+OH→Si(OH)+2OH→Si(OH)2−
これに対して、本発明のシリコーン接着剤は、シリコーン重合体のケイ素原子の一部がリン原子にドープされることで、図1(B)に示すように、リン原子には1つの自由電子が存在することになり、シリコーン重合体がマイナスに帯電する。これにより、アルカリ性を呈する水酸イオンのマイナス帯電と反発し合うので、シリコーン重合体のSi−O−Si結合と水酸イオン(OH)との反応が阻止され、シリコーン重合体がゾル化するのを防止する。
【0050】
また、シリコーン重合体がマイナスに帯電することで、プラスに帯電した水素イオン(H+)を引きつけて、下記に示す化2の反応式により、化1の逆向きの反応を行うので、ゲル化を促進して、接着性を高める。
【0051】
[化2]
2H+Si(OH)2−→Si(OH)+2OH→Si−O−Si
したがって、例えばインクジェット装置におけるプリントヘッドのように、常にアルカリ性のインクに浸漬された状態になるインク流路部や液室部のパーツ接着に使用しても、長期間接着性が低下することがない。プリントヘッドパーツ同士の接着で特に、無機系材料であるシリコーンと有機系材料であるエポキシ樹脂をシランカップリング剤で接着促進する場合、本発明を適用することで、耐アルカリ接着性を有するプリントヘッドを製造できる。これにより、常にアルカリ性のインクに浸漬された状態になるインク流路部や液室部のパーツ接着であっても、長期間接着性が劣化することがない。
【0052】
なお、本発明の実施の形態では、シリコーン重合体にマイナス電荷を付加する方法としてドープ法で説明したが、例えばシリコーンの有機基やシランカップリング剤の有機官能基の一部を、例えばカルボキシル基等のアニオン性基に置換することで、マイナス電荷を帯電するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のシリコーン接着剤と従来のシリコーン接着剤との耐アルカリ性に対する作用を説明する説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物(モノマー)が重合したシリコーン重合体を含むシリコーン接着剤であって、前記シリコーン重合体にマイナス電荷を付加してなることを特徴とするシリコーン接着剤。
【請求項2】
前記シリコーン重合体は、シリコーン又はシランカップリング剤の重合体であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン接着剤。
【請求項3】
前記シリコーン重合体のケイ素原子の一部をリン、砒素、アンチモンの何れかにドープすることで、1価のマイナス電荷を付加することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーン接着剤。
【請求項4】
前記シリコーン重合体のケイ素原子の一部をイオウ、セレン、テルルの何れかにドープすることで、2価のマイナス電荷を付加することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーン接着剤。
【請求項5】
有機ケイ素化合物(モノマー)が重合したシリコーン重合体を含むシリコーン接着剤の製造方法であって、前記シリコーン重合体にマイナス電荷を付加するマイナス電荷付加工程を備えたことを特徴とするシリコーン接着剤の製造方法。
【請求項6】
前記マイナス電荷付加工程はドープ方法であって、前記シリコーン重合体のケイ素原子の一部を、前記シリコーン重合体に対してマイナス電荷を付加するドープ原子に置き替えることを特徴とする請求項5のシリコーン接着剤の製造方法。
【請求項7】
前記ドープ原子は、リン、砒素、アンチモン、イオウ、セレン、テルルの何れかであることを特徴とする請求項6のシリコーン接着剤の製造方法。
【請求項8】
前記シリコーン重合体は、シリコーン又はシランカップリング剤の重合体であることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載のシリコーン接着剤の製造方法。
【請求項9】
前記マイナス電荷付加工程では、前記シリコーンに前記ドープ原子を含む化合物を0.1〜30モル%混ぜてドープすることを特徴とする請求項8のシリコーン接着剤の製造方法。
【請求項10】
前記マイナス電荷付加工程では、前記シランカップリング剤に前記ドープ原子を含む化合物を0.1〜50モル%混ぜた後、加水分解してから重合することで前記ドープ原子をドープすることを特徴とする請求項8のシリコーン接着剤の製造方法。
【請求項11】
前記マイナス電荷付加工程では、CVD装置内に、前記シランカップリング剤と前記ドープ原子を含む化合物のCVDガスを供給することを特徴とする請求項8のシリコーン接着剤の製造方法。

【図1】
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