説明

シリンジホルダー及びスパイク針

【課題】スパイク針を備えたシリンジホルダーと多室シリンジとを一体として滅菌処理すること可能にする手段,及び多室シリンジ内の薬剤の混合操作に際して粉末状薬剤の漏出防止を可能にする手段の提供。
【解決手段】バイアルタイプの多室シリンジ20用のシリンジホルダー22であって,多室シリンジ20の先端の隔壁を刺入するスパイク針24と,多室シリンジ20のバイパス突起30を前後方向にスライド可能に通すスリット26とを備え,スリット26が,バイパス突起30の前後の縁にスナップ式に係合する前方及び後方の突起を備え,スパイク針24が隔壁に刺入しない位置でこれらの突起間に多室シリンジ20のバイパス突起30を保持させることにより,多室シリンジをシリンジホルダーに仮留め可能としたものであるシリンジホルダー22,及びノズル内の流路に粉末状薬剤の通過を許容しないフィルターが備えられていることを特徴とする,シリンジホルダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一般的には注射のための装置に関し,より詳しくはシリンジ,シリンジホルダー及びスパイク針の組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジ中の複数に区分された区画のそれぞれに,相互に非接触な状態で薬剤成分(例えば,粉末状薬剤と,これを溶解又は分散させるための溶解液)が充填されており,使用時にシリンジ内でそれらを混合し注射液を調製して直接患者に注射することができるタイプの薬剤充填済みシリンジ(プレフィルドシリンジ)が知られている。そのような製品において,シリンジ自体は,マルチチャンバーシリンジ,ダブルチャンバーシリンジ,2室式シリンジ等と様々に呼ばれている(本明細書において,包括的に「多室シリンジ」という。)。それら多室シリンジには,バイアルタイプ(先端側がルアー先の形状でなく,より広く開口している瓶形のものをいう。)(特許文献1参照)で,先端側の広い開口がブチルゴム等の材料からなる栓を兼ねた隔壁で閉じられ,これに例えばスパイク針を刺入し装着することで内部の調製済み注射液を注射可能にする形態のものがある。
【0003】
多室シリンジの基本的な機能を,一例としてバイアルタイプの2室のものを挙げて,次に説明する。図1及び2は,バイアルタイプの2室シリンジ1(隔壁を兼ねたゴム栓15をスパイク針で刺入前のもの。図面左方向を上方とする)の,軸周りに視点を90°変えた,一部を断面図とした側面図をそれぞれ示す。2室シリンジ1は,内部が2つのガスケット(前側ガスケット2,後側ガスケット3)で気密且つ液密に仕切られ,2個の区画として前側スペース4と後側スペース5とが形成されている。前側スペース4の僅かに前方において2室シリンジ1の内壁には,前側ガスケット2の厚みを跨ぐ長さの(すなわち,前側ガスケット2の厚みより幾分長い)前後方向の細長い溝6が設けられており,それにより,前側ガスケット2の全体厚が溝6の範囲の内側まで移動したときに溝6を通るバイパスが前側ガスケットの前後間に形成されるようになっている。また2室シリンジ1の外表面には,溝6の位置において外方に突出した縦方向に延びた突起が形成されている(バイパス突起)。前側スペース4には,凍結乾燥粉末等の粉末状薬剤10が封入されており,これを溶解させるための溶解液11が後側スペース5に封入されている。
【0004】
上記2室シリンジ1内での粉末状薬剤10と溶解液11との混合は次のように行われる。すなわち,先ずシリンジ先端側を上にし,先端の隔壁(ゴム栓15)を貫通してスパイク針が刺入される(通常,スパイク針と連通して外方に突出したノズル部分に注射針も装着される)。これにより,前側スペース4はスパイク針の管腔を通じてシリンジの外部と連通する。次いで注射装置のピストンロッドの頭部が後側ガスケット3の背後に取り付けられる。ピストンロッドが押し込まれると,後側ガスケット3と共に後側スペース5内の溶解液11が,前側ガスケット2もろとも押し込まれる(前側スペース4からは,これに対応して空気がスパイク針を通って押し出される)。前側ガスケット2の後縁から溝6の後部が露出したとき,溝6を通るバイパスが前側スペース4と後側スペース5の間に形成され,これを通って後側スペース5内の溶解液11が前側スペース4内へと送られ始め,前側ガスケットはその位置に止まる。ピストンロッドが更に押し込まれて後側ガスケット3が前側ガスケット2に当接することにより,後側スペース5中の溶解液11は全て前側スペース4内に送り込まれ,そこで粉末状薬剤10と混合してこれを溶解させ,注射液を構成する。注射液の構成後は,ピストンロッドが更に押し込まれて,後側ガスケット3と前側ガスケット2とが一体として前方へ移動し,前側スペース4内の空気がスパイク針を通って除去され,注射準備が完了する。
【0005】
2室シリンジより多くの区画に内部が別れたシリンジの場合も原理的に2室シリンジと同様である。例えば3室シリンジにおいては,前後方向に並んだ区画相互において,後側に位置する区画に充填された水性液状の薬剤が,後方のガスケットに押されて前方のガスケットを押し,これらのガスケットの移動により開かれる第1のバイパスを通って前側の区画に流入して両薬剤が混合し,ついでこの混合液も後方からガスケットに押されてより前方のガスケットを押して移動し,前方に開かれる第2のバイパスを通ってより前側の区画に流入してそこに充填されている薬剤(例えば凍結乾燥粉末)と混合して溶解させる。
【0006】
特にバイアルタイプの多室シリンジの場合,一般には,注射に際して指を掛けるための部分を備えたシリンジホルダーに装填され,シリンジホルダー内でスパイク針により外界と連通される。スパイク針がシリンジホルダーに備えられている場合,シリンジのみならず,スパイク針を備えたシリンジホルダーも滅菌しなければならない。しかしながら,シリンジホルダーにシリンジを装填てしまうと,スパイク針がシリンジの隔壁を貫通してシリンジ内部が外界と連通してしまうため,密封状態を維持できない。また,シリンジをシリンジホルダーに完全に装填しない場合には,シリンジの位置がホルダー内で不安定であり,スパイク針が偶発的にシリンジの隔壁を貫通してしまう懸念もある。このため,このタイプの多室シリンジとホルダーとは別々滅菌され,個別に無菌包装された状態で供給されていた。しかしながら,シリンジとシリンジホルダーとを個別に無菌包装したものをセットにすると,2つの無菌包装が一つの製品中に含まれ,一単位の製品が全体として嵩張るという問題,及び,使用に際しそれぞれの無菌包装を解いて両者を組み立てるとき,両者の結合部位が偶発的に汚染されなねないという問題があった。
【0007】
シリンジをシリンジホルダーに安定に組み合わせた状態で滅菌工程に付すことができれば,この問題は解決できる。
【0008】
また,多室シリンジ内の先端側には,一般に粉末状薬剤が充填されている。多室シリンジの使用にあたりスパイク針をシリンジの隔壁に刺入し,ピストンを押してシリンジ内の前後の薬剤を混合する際,空気がシリンジ内からスパイク針を通って押し出されるが,粉末状薬剤の一部がこの空気流と共にスパイク針を通ってシリンジから漏れ出す場合がある。これが起こると,粉末状薬剤の量が減少し溶解後の薬剤中の薬物濃度の低下等,品質に問題を生じる。従って,そのような粉末状薬剤の漏出を阻止できることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−206376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の背景において,本発明の一目的は,スパイク針を備えたシリンジホルダーに多室シリンジを安定に組み合わせた状態で一体として滅菌処理できるようにする手段,及びそうすることによる滅菌方法の改良を提供することである。
また本発明の別の一目的は,多室シリンジ内の薬剤の混合操作に際して粉末状薬剤がシリンジから漏出するのを防止できるようにする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は,スパイク針を備えたシリンジホルダーの胴部にスリットを設け,その中で多室シリンジのバイパス突起が前後方向にスライドできるようにすると共に,該スリットの途中にバイパス突起の前後の縁の少なくとも一部にそれぞれにスナップ式に係合する前方及び後方の突起を設け,それらの突起間にバイパス突起を仮留めしておけるようにすることで,多室シリンジをシリンジホルダーと一体として滅菌工程に付し,そのまま一体として無菌包装した形で製品として供給でき,使用時には,多室シリンジをシリンジホルダーの奥へと押し込んで本装填しスパイク針を隔壁に刺入させればうよいことを見出し,更に検討を加えて本願の第1の発明を完成させた。
また,シリンジホルダーにおいて,スパイク針に連通するノズル内にフィルターを設けておくことにより,多室シリンジ内の薬剤の混合操作に際して,多室シリンジ内部から空気と共に押し出されることのある粉末状薬剤はフィルターでトラップし,空気のみを放出させるようにすることができることを見出し,これに基づき本願の第2の発明を完成させた。
すなわち,本発明は以下を提供するものである。
【0012】
1.バイアルタイプの多室シリンジ用のシリンジホルダーであって,装填される多室シリンジの胴部が嵌まる筒状の胴部と,該シリンジホルダーに多室シリンジを装填したとき多室シリンジの先端の隔壁を刺入するスパイク針と,該多室シリンジのバイパス突起を前後方向にスライド可能に通すスリットとを備え,該スリットが,その全長の途中に,バイパス突起の前後の縁にナップ式に係合する前方及び後方の突起を備え,該スパイク針が該隔壁に刺入しない位置で,これらの突起間に多室シリンジのバイパス突起を保持させることにより,該多室シリンジを該シリンジホルダーに仮留め可能としたものである,シリンジホルダー。
2.該前方の突起が,その後方側に該多室シリンジのバイパスの突起の前縁が当接しているときには,該シリンジホルダーのスパイク針が該多室シリンジの隔壁に刺入しないことになる位置に設けられているものである,上記1のシリンジホルダー。
3.薬剤充填済みのバイアルタイプの多室シリンジの滅菌方法であって,上記1又は2のシリンジホルダーに,該多室シリンジを,そのバイパス突起が該前方の突起と後方の突起の間に収まる位置まで挿入した状態で,該シリンジホルダー及び該多室シリンジを同時に滅菌工程に付すことを特徴とするものである,滅菌方法。
4.該多室シリンジを滅菌工程に付すにあたり,該多室シリンジの後端側開口を開封可能な密封手段により密封することを特徴とする,上記3の方法。
5.該開封可能な密封手段が,該バイアルタイプの多室シリンジの後端側開口部を塞いで設けられたフリップティアオフ・キャップ,又は,該バイアルタイプの多室シリンジの後端部外周面を囲む雄ねじに螺着されるキャップである,上記4の方法。
6.該雄ねじが,該多室シリンジの後端部外周面を囲んでこれに固定された,円筒状部を有する部材の該円筒状部の外周面に形成されているものである,上記5の方法。
7.バイアルタイプの多室シリンジ用のシリンジホルダーであって,該シリンジホルダーに該多室シリンジを装填したとき該多室シリンジの先端の隔壁に刺入するスパイク針を備えるものであり,該スパイク針と連通する該シリンジホルダーのノズル内の流路に流体の通過は許容するが粉末状薬剤の通過は許容しないフィルターが備えられていることを特徴とする,シリンジホルダー。
8.該ノズルがルアー形状を備えるものである,上記7のシリンジホルダー。
9.該シリンジホルダーが,該多室シリンジの胴部が嵌まる筒状の胴部と,該シリンジホルダーに該多室シリンジを装填したとき該多室シリンジの先端の隔壁に刺入するスパイク針と,多室シリンジのバイパス突起を前後方向にスライド可能に通すスリットとを備えるものであり,該スリットが,その全長の途中に,バイパス突起の前後の縁にスナップ式に係合する前方及び後方の突起を備え,これらの突起間に該バイパス突起を保持させることにより,該多室シリンジを該シリンジホルダーに仮留め可能としたものである,上記7又は8のシリンジホルダー。
10.該前方の突起が,その後方側に該多室シリンジのバイパス突起の前縁が当接しているときには,該シリンジホルダーのスパイク針が該多室シリンジの隔壁を刺入しないことになる位置に設けられているものである,上記9のシリンジホルダー。
【発明の効果】
【0013】
本願第1の発明によれば,多室シリンジをシリンジホルダーに仮留めした状態で両者を一体として(但し,シリンジの隔壁がスパイク針に刺入されていない状態で)滅菌工程に付し,そのまま一体として無菌包装した形で製品として供給でき,使用時には,多室シリンジをシリンジホルダーの奥へと押して両者仮留め状態を解除することで本装填し,スパイク針が隔壁を刺入するようにすることができる。このため,単一でコンパクトな無菌包装の形で提供できしかも,無菌包装を破った後は,多室シリンジをシリンジホルダーの奥へ押しこむ操作のみでスパイク針が多室シリンジの隔壁に刺入するから,使用時の薬剤混合のプロセスでスパイク針が偶発的に汚染されるリスクがなく,薬剤の無菌性が確実に維持される。更に,多室シリンジの後端側開口を開封可能な密封手段により密封した状態で滅菌工程に付す場合,滅菌方法の如何によるガスケットの移動や脱落の虞が無くなることから,滅菌手段の選択の自由度が高まる。
また本願の第2発明によれば,多室シリンジ内の薬剤の混合による注射液の復元操作に際して粉末状薬剤が多室シリンジから空気と共に漏れ出る虞が解消され,溶解後の薬剤中の薬物濃度の低下等品質上の問題の発生を防止することができる。
また本願第1の発明と第2の発明とを組み合わせたときは,これら2通りの利点を備えたシリンジホルダーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は,バイアルタイプの2室シリンジの,一部を断面図とした側面図である。
【図2】図2は,図1の2室シリンジの,90°の異なる方向からの,一部を断面図とした側面図である。
【図3】図3は,本発明の一実施例のシリンジホルダーの側面図を示し,(a)はシリンジホルダー内に多室シリンジを仮留めした状態を,(b)はシリンジホルダーの奥まで多室シリンジを押し込み完全に装填した状態を示す。
【図4】図4は,図3のシリンジホルダーに仮留めされ使用時に奥まで装填される多室シリンジの2通りの形態例の,一部を断面とした側面図である。(a)は,後端側開口がフリップティアオフ・キャップで密封された形態のもの,(b)は,後端側開口がキャップの螺着により密封されたものを示す。
【図5】図5は,は,内部に奥まで多室シリンジを装填した状態の,ノズル内にフィルターが備えられたシリンジホルダーの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明においてシリンジホルダーは,バイアルタイプの多室シリンジを注射時に保持するのを補助し,多室シリンジの隔壁を刺入するスパイク針を内部に備えたものである。シリンジホルダーは,注射時に胴部を挟んで指を掛けて保持するのに便利なよう,胴部の適宜な位置に指掛け片を有していてよく,有している方が好ましい。
【0016】
スリット内に設けられる前方の突起に関し,「シリンジホルダーのスパイク針が該多室シリンジの隔壁を刺入しないことになる位置」は,シリンジホルダー内で多室シリンジが,その隔壁にスパイク針の先端が接する位置又はそれより後方にある時のバイパス突起の前縁に当接する位置のうちから適宜設定すればよい。
【0017】
スパイク針と連通する該シリンジホルダーのノズル内に「フィルター」を設ける場合,フィルターは,シリンジ内の空気や注射液等の流体を通すが粉末状薬剤は通さないものであり注射剤おいて用いることのできる材料からなるものであればよく,適宜選択して採用すればい。そのような材料の例としては,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン),PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体),PE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン),PS(ポリスチレン),PMMA(ポリメチルメタクリレート),EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)が挙げられるが,これらに限定されない。フィルターを内部に備えたノズルは,一体であるシリンジホルダーの一部であってもよく,また,シリンジホルダー本体とは別体であってシリンジホルダー本体の先端に装着されるものであってもよい。また,ノズル先端の形状は,特に限定されるものではないが,通常はルアー形状であることが汎用性の点で好ましい。
【0018】
また,薬剤を充填したバイアルタイプの多室シリンジの滅菌方法であって,滅菌工程に付すにあたり,該多室シリンジの後端側開口を除去可能な密封手段により密封しておくことが,場合により好ましい。採用した滅菌方法によっては,シリンジの温度やシリンジに加わる圧力が変化し,ガスケットで仕切られたシリンジの区画内部と周囲ととの間に圧力差が生じて,ガスケットが移動し,甚だしい場合はシリンジから脱落することも起こり得るためである。例えば,オートクレーブによる高圧蒸気滅菌では,シリンジの温度が上昇し,またエキレンオキシド或いは過酸化水素によるガス滅菌では,シリンジは,エアレーションによる圧力変化を受ける。そのような場合であって,多室シリンジの後端側開口を開封可能な密封手段により密封しておけば,ガスケットの両側の圧が閉鎖空間中で均衡するため,移動や脱落は防止できる。
【0019】
そのような開封可能な密封手段は,典型的には,フリップティアオフ・キャップや,ねじ式のキャップである。ここに,「フリップティアオフ・キャップ」は,手で圧し上げて簡単に開封することのできるアルミキャップで密封されたゴム栓である。フリップティアオフ・キャップでは,円形のアルミキャップの中央に破断線に取り囲まれて形成されている貫通孔に,中央に突起部を有するプラスチックの蓋を被せてその突起部を貫通項に挿入し周囲をかしめることで両者を一体化し,これをゴム栓をした瓶の口部の周りの段部に巻き込むことによって固定するものである。このような構造であるため,プラスチックの蓋を指で押し上げるてアルミキャップを簡単に破って除去することができ,それにより,ゴム栓が開封可能となる。また,ねじ式キャップの場合,多室シリンジの後端部外周面に雄ねじを設け,これにキャップを螺着することができる。この場合,多室シリンジの後端部外周面の雄ねじは,多室シリンジ自体の後端部外周面に直接形成してもよいが,多室シリンジ後端部外周面に環状部を有する部材を固定し,当該環状部の外周面に雄ねじを形成しておいてもよい。また,これら以外であっても,偶発的に密封状態が破れることがなく,且つ簡単に除去して後端側開口を開放することができるものである限り,それら以外の適宜な手段を採用できる。
【実施例】
【0020】
図3は,内部にバイアルタイプの多室シリンジ20が挿入された状態のシリンジホルダー22の側面図を示し,(a)はシリンジホルダー22内に多室シリンジ20を仮留めした状態を,(b)はシリンジホルダー22の奥まで多室シリンジ20を押し込んで完全に装填した状態を示す。多室シリンジ20の後端側開口はフリップティアオフ・キャップ21により密封されている。図では,多室シリンジ20の内部構造は省略されている。シリンジホルダー22は,内部の先端側に中心線に沿って内方へ向かって突出したスパイク針24を備えている。シリンジホルダー22はまた,後端部に外方に張り出した指掛片25を備え,後端を貫通して長手方向に延びたスリット26を胴部に備えており,その中に多室シリンジ20のバイパス突起30がスライドして収まっている。スリット26には,その内側に向けて突起32と突起34が前後に分かれて設けられており,図3(a)に示した状態では,バイパス突起30はこれら前後の突起の間に挟まれてその位置に止まっている。多室シリンジ20をシリンジホルダー22に挿入し,バイパス突起30をスリット26に通して前方へとスライドさせるとき,最初に後方の突起34がバイパス突起30の前縁に当接する。突起34は,バイパス突起30の通過に抵抗するが,多室シリンジ20を押すことでバイパス突起30は突起34を押し広げて通過し,バイパス突起30の後縁が突起34を通過した時に,図3(a)に示すように,スナップ式に両突起32,34間に収まる。多室シリンジは,それ以上押さない限り,その位置で安定に留まる。多室シリンジ20の先端側には,環状のアルミキャップ38で周囲を固定されたゴム栓40が,中央に刺入のための薄肉領域を有する隔壁として固定されているが,図(a)の状態では,スパイク針24の先端は,ゴム栓40を刺入していない。この状態で,多室シリンジ20とシリンジホルダー22とは一体として滅菌工程に付され,滅菌後にはそのまま一体として無菌包装されて出荷できる。
【0021】
多室シリンジの使用時には,これらを無菌包装から取り出した後,多室シリンジ20をシリンジホルダー22の奥へと押し込むことにより,バイパス突起30が,その前縁によって前方の突起32の間を押し広げで通過し,バイパス突起30の後縁が突起32を通過した後に多室シリンジ20の前端がシリンジホルダー22の奥に当接して停止する。このときスパイク針24は,ゴム栓(隔壁)40を刺入しており,スパイク針24は,その先端から他端のルアーチップ42まで延びた管腔を通して,多室シリンジ20の内部と外界とを連通させる。シリンジホルダー22の先端側はルアーロック構造をしており,中央のルアーチップ42と,これを取り囲み内側に雌ねじの形成されたスリーブ44からなり,無菌包装から取り出した後の操作の何れかの段階で,目的に応じ,注射針又は他の接続器具に接続される。また多室シリンジ20の後端のフリップティアオフ・キャップ21は,注射針等との接続前に除去され,解放された開口を通してピストンロッド(図示せず)が後側ガスケットに取り付けられる。
【0022】
図4は,本実施例で用いることのできる後端側開口の密封手段の例を示す一部を断面図とした側面図である。図において,(a)は,前側のガスケット55及び後側のガスケット60が挿入され,前側ガスケット55の前方及び両ガスケットの間に形成された区画に,各薬剤(図示せず)がそれぞれ充填された状態のバイアルタイプの多室シリンジ20を示す。30はバイパス突起である。多室シリンジ20の前端は,例えば一般的な環状のアルミキャップ38で固定されたゴム栓40により密封されている。後側のガスケット60には,背面中央に,使用に際してピストンロッドの先端を螺着するためのねじ穴(図示せず)が中央に形成されている。多室シリンジ20の後端側開口の外周にはフランジ53が形成されており,後端の開口は,フランジ53を覆って固定された慣用のフリップティアオフ・キャップ21により密封されている。本実施例においては,多室シリンジ20の気密性が保たれるため,温度や圧力の変化を伴う滅菌方法であってもガスケットの移動や脱落を起こすおそれがなく,滅菌手段の選択の自由度が高い。
【0023】
図4(b)に示す例においては,多室シリンジ20の後端部の外周面には円筒状部材62が接着等で固定されており,該部分の外周面に雄ねじ63が形成されている。また円筒状部材62の前側の末端の周囲には,フランジ64が形成されている。65は,円筒状部材62の雄ねじに螺着されたキャップであり,多室シリンジ20の後端を密封している。この例においても,多室シリンジ20の気密性が保たれるため,温度や圧力の変化を伴う滅菌方法であってもガスケットの移動や脱落を起こすおそれがなく,滅菌手段の選択の自由度が高い。
【0024】
図5は,ノズル内にフィルターを備えたシリンジホルダーの側方からの断面図を,多室シリンジ20が奥まで挿入され,スパイク針24がゴム栓40に刺入された薬剤混合直前の状態で示す)。先端がルアーロック式のシリンジホルダー22には,別体のノズル80がルアーチップに嵌められスリーブ44内の雌ねじに螺着されることで固定されている。別体のノズル80に形成された流路の内部には,フィルター82(PE製)が嵌められている。前側ガスケット55と後側ガスケット60との間には,溶解液11が満たされており,前側ガスケット55の上方の空間には粉末状薬剤10が封入されている。図に示した状態から,後側ガスケット60の背面にピストンロッド(図示せず)が取り付けられ押し込まれると,溶解液11と共に前側ガスケット55が押され,上方の空気も押されてスパイク針24を通りノズル80から放出される。このとき従来は粉末状薬剤の一部がスパイク針24を通って押しだされることがあったが,図5に示した実施例ではノズル80内のフィルター82によりトラップされ,実質的に空気のみが外部に放出されることになる。こうして,この実施例によれば,多室シリンジ20内の薬剤の混合時に,従来では起こることがあった粉末状薬剤の漏出の問題は解消される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願第1発明は,単一のコンパクトな無菌包装の形で,且つ使用時の薬剤混合のプロセスでスパイク針が偶発的に汚染されるリスクを防止できる形で,多室シリンジとシリンジホルダーの無機状態での供給を可能とする点で有用である。また,本願第2発明は,多室シリンジ内の薬剤の混合操作に際して,粉末状薬剤の漏出防止を可能にする点で有用である。
【符号の説明】
【0026】
1:2室シリンジ
2:前側ガスケット
3:後側ガスケット
4:前側スペース
5:後側スペース
6:溝(バイパス突起)
10:粉末状薬剤
11:溶解液
15:ゴム栓
20:多室シリンジ
21:フリップティアオフ・キャップ
22:シリンジホルダー
24:スパイク針
25:指掛片
26:スリット
30:バイパス突起
32:突起
34:突起
38:アルミキャップ
40:ゴム栓
42:ルアーチップ
44:スリーブ
53:フランジ
55:前側ガスケット
60:後側ガスケット
62:円筒状部材
63:雄ねじ
64:フランジ
65:キャップ
80:ノズル
82:フィルター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアルタイプの多室シリンジ用のシリンジホルダーであって,装填される多室シリンジの胴部が嵌まる筒状の胴部と,該シリンジホルダーに多室シリンジを装填したとき多室シリンジの先端の隔壁を刺入するスパイク針と,該多室シリンジのバイパス突起を前後方向にスライド可能に通すスリットとを備え,該スリットが,その全長の途中に,バイパス突起の前後の縁にナップ式に係合する前方及び後方の突起を備え,該スパイク針が該隔壁に刺入しない位置で,これらの突起間に多室シリンジのバイパス突起を保持させることにより,該多室シリンジを該シリンジホルダーに仮留め可能としたものである,シリンジホルダー。
【請求項2】
該前方の突起が,その後方側に該多室シリンジのバイパスの突起の前縁が当接しているときには,該シリンジホルダーのスパイク針が該多室シリンジの隔壁に刺入しないことになる位置に設けられているものである,請求項1のシリンジホルダー。
【請求項3】
薬剤充填済みのバイアルタイプの多室シリンジの滅菌方法であって,請求項1又は2のシリンジホルダーに,該多室シリンジを,そのバイパス突起が該前方の突起と後方の突起の間に収まる位置まで挿入した状態で,該シリンジホルダー及び該多室シリンジを同時に滅菌工程に付すことを特徴とするものである,滅菌方法。
【請求項4】
該多室シリンジを滅菌工程に付すにあたり,該多室シリンジの後端側開口を開封可能な密封手段により密封することを特徴とする,請求項3の方法。
【請求項5】
該開封可能な密封手段が,該バイアルタイプの多室シリンジの後端側開口部を塞いで設けられたフリップティアオフ・キャップ,又は,該バイアルタイプの多室シリンジの後端部外周面を囲む雄ねじに螺着されるキャップである,請求項4の方法。
【請求項6】
該雄ねじが,該多室シリンジの後端部外周面を囲んでこれに固定された,円筒状部を有する部材の該円筒状部の外周面に形成されているものである,請求項5の方法。
【請求項7】
バイアルタイプの多室シリンジ用のシリンジホルダーであって,該シリンジホルダーに該多室シリンジを装填したとき該多室シリンジの先端の隔壁に刺入するスパイク針を備えるものであり,該スパイク針と連通する該シリンジホルダーのノズル内の流路に流体の通過は許容するが粉末状薬剤の通過は許容しないフィルターが備えられていることを特徴とする,シリンジホルダー。
【請求項8】
該ノズルがルアー形状を備えるものである,請求項7のシリンジホルダー。
【請求項9】
該シリンジホルダーが,該多室シリンジの胴部が嵌まる筒状の胴部と,該シリンジホルダーに該多室シリンジを装填したとき該多室シリンジの先端の隔壁に刺入するスパイク針と,多室シリンジのバイパス突起を前後方向にスライド可能に通すスリットとを備えるものであり,該スリットが,その全長の途中に,バイパス突起の前後の縁にスナップ式に係合する前方及び後方の突起を備え,これらの突起間に該バイパス突起を保持させることにより,該多室シリンジを該シリンジホルダーに仮留め可能としたものである,請求項7又は8のシリンジホルダー。
【請求項10】
該前方の突起が,その後方側に該多室シリンジのバイパス突起の前縁が当接しているときには,該シリンジホルダーのスパイク針が該多室シリンジの隔壁を刺入しないことになる位置に設けられているものである,請求項9のシリンジホルダー。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−22371(P2013−22371A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162133(P2011−162133)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(591039540)前田産業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】