説明

シリンダーの洗浄方法

【課題】シリンダーに付着したダスト及びシリンダーに内包される不純物の電触反応によるピットの成長を防止するシリンダーの洗浄方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムを主成分として含む金属を表面に有する円筒状のシリンダーの洗浄方法であって、少なくとも前記シリンダーを洗浄液で洗浄する洗浄工程と、該シリンダーを純水に浸漬する純水浸漬工程と、該シリンダーの表面に該シリンダーの周囲にリング状に配置された複数の吐出口から乾燥気体を吹き付ける乾燥工程とを有し、前記純水の温度が20℃以上25℃以下であり、前記乾燥気体の温度が、前記純水の温度よりも低い温度であり、かつ、前記シリンダーの周囲で各吐出口の中心が一つの面を成し、該面に対して垂直な直線と、該シリンダーの中心軸とが成す角度が0.45度以上25度以下であることを特徴とするシリンダーの洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜堆積を行うシリンダーの洗浄方法に関する。また、特に突起成長やシミ、外観不良や画像不良の起こらない高品位な電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、電子写真感光体、画像入力用ラインセンサー、撮影デバイス、光起電力デバイス、その他各種エレクトロニクス素子、光学素子等を作成する際に用いられる基板・基体の洗浄方法は様々な方法が知られており、その装置も実用に付されている。例えば、電子写真用水素化アモルファスシリコン(以下、a−Si:Hと表記する)堆積膜の形成は、アルミニウムやアルミニウム合金からなるシリンダー上に行われることが多い。そのため、高品位な電子写真感光体を得るためのアルミニウムシリンダーの表面処理、洗浄等は、実用化が進んでおり、そのための方法や装置も各種提案されている。
【0003】
例えば、電子写真感光体用シリンダーの洗浄時に、クリーン度の高い雰囲気で洗浄液から引き上げ、クリーン度の高いエアーナイフで表面をブローする工夫がなされている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、導電性円筒状シリンダーを洗浄する際、洗浄液から引き上げ時に5〜35m/sの風により液切りと乾燥を同時に行う工夫がなされている。この際、吹き付ける気体の温度は室温〜120℃のような高温の気体が好ましい例として挙げられている(例えば特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−116559号公報
【特許文献2】特開平8−248661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の洗浄方法及び装置により、良好な洗浄処理がなされる。しかしながら、前記洗浄方法を用いて作成された電子写真感光体であっても、下地(シリンダー)に何らかの突起成長の核があれば、そこから突起成長が起こり、画像不良を生じる可能性がある。画像不良に対する市場の要求レベルは日々高まっており、この要求に応えるべく、より高品質な電子写真感光体を形成可能なシリンダーの洗浄方法が求められるようになってきている。
【0007】
アルミニウム合金からなる電子写真感光体用シリンダーの洗浄においては、シリンダー上に突起成長の起点となるダスト等をつけないことは勿論だが、その他にも突起成長の起点になるものが存在する。シリンダー材には、アルミニウム以外にも、微量ながら不純物(例えば鉄、銅など)が含まれており、これを起点とし、水分と反応することにより腐食反応(以下、電触反応とも表記する)が起きる。これにより、表面に凹み(以下、ピットとも表記する)が生じることがあり、突起成長の起点となる場合がある。アルミニウム合金の製造過程において、これらピットの要因である鉄などの不純物を低減し精製することでピットの数を減らすことは原理的には可能であるが、低減には限界があり、ある程度以上の純度にしようとするとコストが引きあがる場合がある。
【0008】
また、ピットの成長にはアルミニウム中の不純物の存在に加え、洗浄に用いる水の温度が関係する。特に温度が高いとピットが成長しやすい。一方、洗浄後の乾燥には温水乾燥が好適に使われるが、ここでピットの成長を抑えるため、温水に触れる時間をなるべく短くすることが行われる。しかし温水を使う以上、ピットの成長を抑制することは難しい。
【0009】
他方で、前述した液切りと呼ばれる、乾燥エアーや乾燥窒素などの気体を吹き付けて水分を飛ばして乾燥させる方法が用いられる場合がある。このような方法では温水を使わないためピット成長の抑制に有利であるが、例えば液切りに使う気体の温度を低くする必要がある。すなわち、吹き付ける気体の温度が室温より高かった場合、特に従来技術として挙げたような、気体の温度を意図的に上げた場合、高温の気体が残留する水滴の温度を上昇させ、成長を促進する場合がある。
【0010】
また、いわゆる液切りでは、高圧の気体を噴射して基板等に当てる際、当て始めと当て終わりが必ず生じるが、当て終わりの部分で水滴をうまく処理しないと、シミ状の跡が残る場合がある。これは、ダストや汚れを含んだ水滴が蒸発しながらシリンダー端部に集められ、当て終わり部分ではそのようなダストや汚れの濃度が上がるためである。特に最後の部分の液切りの仕方が不十分だと、そこに汚れが残ってしまったり、シリンダー端部で水滴が跳ね、再付着してシリンダー端面以外の部分を汚す場合がある。この原因としては、シリンダー端部での気流が複雑になるため制御ができないこと、シリンダー端面での水滴の挙動が制御しにくかったりすることが要因と考えられる。よって、シリンダー端部での汚れ、シミなどを排除することは困難な場合があった。
【0011】
以上のように、画像不良の一要因であるピットを減らす様々な努力がなされているものの、近年の画像不良低減に対する要求の高まりにより、更にピットの成長を抑制可能なシリンダーの洗浄方法が望まれている。
【0012】
本発明は上記課題の解決を目的とするものである。即ち、シリンダーに付着したダスト及びシリンダーに内包される不純物の電触反応によるピットの成長を防止したシリンダーの洗浄方法を提供し、電子写真感光体の画像不良を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のシリンダーの洗浄方法は、アルミニウムを主成分として含む金属を表面に有する円筒状のシリンダーの洗浄方法であって、少なくとも、前記シリンダーを洗浄液で洗浄する洗浄工程と、該シリンダーを純水に浸漬する純水浸漬工程と、該シリンダーの表面に、該シリンダーの周囲にリング状に配置された複数の吐出口から乾燥気体を吹き付ける乾燥工程とを有し、前記純水浸漬工程における純水の温度が20℃以上、25℃以下であり、前記乾燥工程において吹き付ける気体の温度が、前記純水浸漬工程における純水の温度よりも低い温度であり、かつ前記シリンダーの周囲で各吐出口の中心が一つの面を成し、該面に対して垂直な直線と、該シリンダーの中心軸とが成す角度が0.45度以上、25度以下の角度とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、シミや飛び散りを効果的に防止したシリンダーの洗浄方法を提供できる。また、本発明を用いることにより、画像不良を低減可能な電子写真感光体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、アルミニウムを主成分として含む金属を表面に有する円筒状のシリンダー表面のピットの成長を効果的に防止するため、乾燥工程において、純水浸漬工程における純水の温度よりも低い温度の気体を吹きつけてシリンダー表面の水分を飛ばす。さらに、シリンダー端部における気流の乱れや水滴の挙動を制御するため、シリンダーの周囲で各吐出口の中心が形成する一つの面に対して垂直な直線と、前記シリンダーの中心軸とが成す角度が0.45度以上、25度以下であるようにする。これにより、シミや飛び散りを効果的に防止することができる。
【0016】
このような本発明の実施の形態について、以下に図面を用いて詳述する。
【0017】
図1は純水槽105からシリンダー101を取り出した際に、乾燥エアーにて液切りをする方法を模式的に示している。シリンダー101は純水槽105内の純水106に浸漬され、その後乾燥して取り出される。このとき、純水106は新液導入口110から供給され、オーバーフローさせてオーバーフロー排出口109から排出されるようになっており、常に清浄な純水によって浸漬できる。また、純水106は20℃以上、25℃以下に設定されている。シリンダー101はアーム103、台座104によって保持され、ロボットアーム107によってゆっくりと引き上げられる。その際に、リングブロー102から純水106の温度よりも低い温度の乾燥エアーを吐出し、シリンダー表面の水滴を下方に追いやるようにして乾燥を行う。
【0018】
このとき、シリンダー表面についた水滴は、下部で集まりながら、内包する汚れやダストの濃度を上げていく。リングブロー102の当て終わりは、シリンダー101がα度だけ傾いている場合、まず上がっている方のシリンダー先端が当て終わり、その後シリンダー端面を順々に当て終るようにして進み、最後に一点で当て終わることになる。このような動きをすることで、水滴は最終的に最後の当て終わり一点に集約され、残存することなく液切りが終了する。このような効果は、微小な角度からでも発現する。
【0019】
一方、全く傾けなかった場合、水滴はシリンダー端部を回転するように移動し、端部での気流の乱れによってリングブロー102から吐出される気体の向きとは違う方向、例えばシリンダー方向に跳ね上がることがある。この原因としては、シリンダー端部が一斉に気体を当て終わるため、水滴の付着箇所が多数となり、またその水滴に複数の方向からリングブローの高圧の気体が当たるためと考えられる。
【0020】
以上のような理由から、吐出口の中心が成す面108に対して垂直な直線と、シリンダー101の中心軸とを傾け、乾燥エアーなどの気体を吹き付けて乾燥させることにより、シミや飛び散りを効果的に防止できる。
【0021】
図2(a)、図2(b)は、シリンダー201、リングブロー202、アーム203、台座204の構成例を示した図である。
【0022】
図2(a)は、リングブロー202の吐出口の中心が成す面208が水平面212と平行に配置されており、シリンダー201が鉛直方向からα度だけ傾いた構成である。即ち、シリンダーの中心軸211が、吐出口の中心が成す面208に対して垂直な直線からα度傾いている構成である。
【0023】
一方、図2(b)のように、シリンダーの中心軸211が鉛直方向であり、吐出口の中心が成す面208が水平面212からα度傾いている構成でも良い。即ち、吐出口の中心が成す面208に対して垂直な直線が、シリンダーの中心軸211に対してα度傾いている構成である。
【0024】
なお、図2(a)又は図2(b)の構成以外でも、シリンダーの中心軸211と、吐出口の中心が成す面208に対して垂直な直線が相対的にα度傾いていればよい。
【0025】
前記吐出口の中心が成す面208に対して垂直な直線と、シリンダーの中心軸211との角度αは、0.45度以上、25度以下とする。0.45度未満では、水滴の挙動が安定せず、再現性に乏しい。また、25度を超える場合、シリンダーの周方向角度で真下に向いている角度の位置に、軸方向に一直線に水が溜まりやすくなり、線状のシミができる。
【0026】
前記シリンダーの中心軸211と、吐出口の中心が成す面208に対して垂直な直線との角度αは、0.5度以上、5.0度未満が好ましい。0.5度以上では、水滴の挙動がより安定し、また、再現性が向上するため好ましい。また、5.0度未満とすることで、気体の当て始めでの周方向の時間差が小さくなり、まれに起こる乾燥ムラが更に起こりにくくなるため好ましい。ここで言う時間差とは、当て始めにおいて、先に吐出気体に曝される部分と、その後反対側に遅れて気体が当るまでの間の時間を指している。角度αが大きければこの時間差が大きくなり、ある程度以上時間差が大きくなると、稀に気体が当る前に乾燥が起こってしまい、乾燥ムラやウォーターマークが発生する可能性があった。全方位から均一に気体が吹き付けられる時間が長い方が、周方向で均一な処理ができるために好ましく、よって角度αを5.0度未満とすることが好ましい。
【0027】
加えて、シリンダー201を傾ける場合、5.0度未満とすることで、シリンダー201が移動中に振れたり、位置が変動したりすることを防止できるため、好ましい。
【0028】
また、本発明において、乾燥工程に使用する気体は、乾燥エアー(圧縮空気)、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが好適に使用可能であるが、水分をできるだけ含まないことが望ましい。具体的には、乾燥工程において吹き付ける気体の露点が、−20℃以下であることが乾燥の効率の観点から好ましい。より好ましくは、−40℃以下である。
【0029】
本発明において、乾燥工程において吹き付ける気体の温度は、純水浸漬工程に用いる純水の温度より低い温度であることが必須である。
【0030】
シリンダー表面に付着した水滴の温度は、純水槽から引き上げられた直後には水温と同等であり、引き上げられながら純水の水面上の雰囲気温度に収斂していくと考えられる。純水の温度は20℃〜25℃であり、雰囲気温度は25℃〜27℃程度である。
【0031】
このとき、水滴に吹きつけられる気体の温度が前記純水の温度より高いと、水滴の熱容量が小さいことから、水滴の温度は直ちに吹き付けられる気体の温度にまで上昇すると考えられる。この結果、アルミニウムと、鉄などの不純物との間で生じる電触反応の速度が更に速くなる場合があると考えられる。
【0032】
前記気体の温度は、純水の温度より低い温度であって、10℃以上、20℃以下であることが好ましい。10℃より低い場合、シリンダー自体を冷やして雰囲気中の水分がシリンダー上に結露する可能性がある。一方、純水の温度より低い場合でも20℃を超える温度では、電触反応の速度低下の効果が得られにくい可能性がある。
【0033】
また、結露を防ぐという観点からは、雰囲気の湿度(相対湿度)はなるべく低いほうが好ましいが、具体的には60%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
【0034】
本発明で使用するリングブローは、図3(a)に示したようにリング状の管301に複数の穴302を開け、その穴から気体を吐出させる方法でも良いし、図3(b)に示したように独立した吐出口303をリング上に配置しても良い。
【0035】
図3(a)又は図3(b)に示したリングブロー以外でも、気体の吐出口が平面上の円周上に配置されており、吐出口の中心が成す面に対して垂直な直線とシリンダーの中心軸が0.45度以上、25度以下の範囲内で角度αを持っていればよい。
【0036】
加えて、気体の吐出方向が、前記吐出口の中心が成す面と所定の角度βをもつことが好ましい。具体的には、吐出口の中心が成す面に対する吐出角度βが、20度以上、60度以下の俯角を持っていることが好ましい。角度を20度以上とすることで、水滴を下向きに押し出す効果が増し、加えてリングブローの180度相対する位置から吐出した気体同士が干渉しにくく、複雑な気流を生じにくくなる。また、60度以下とすることで、吐出口をシリンダーに極端に近づけることなく、水滴に与える運動量を維持することが可能となり、好ましい。
【0037】
図4には、台座の一例が示されている。台座はプレート401とナイフエッジ402から構成されており、この上にシリンダーが乗るようになっている。ナイフエッジ402は、シリンダー端面と極小面積で接してシリンダーを支えている。このとき、ナイフエッジ402を若干傾けて載置することで、台座上でシリンダーを傾けることも可能である。また、極小面積で接しているので、水滴が端面と支える面との間で溜まることが殆どない。また、プレート401はパンチングメタルなどのように、多数の穴があいた構成とすることができる。
【0038】
また、図5に示したように、ロボットアーム507によるシリンダー501のつかみ方を工夫することで、台座を無くしながらリングブロー502の中を通過させることも可能である。
【0039】
本発明では一例としてリングブローを固定し、シリンダーが下から上に移動することで気体の吹き付けをシリンダーの鉛直方向上部から下部に向かって移動させる例を挙げている。さらに、例えばリングブローがシリンダー移動方向と逆方向に動くことでより速く掃引することが可能となる。また、順方向に移動すれば掃引速度を遅くすることも可能である。また、シリンダーを固定し、リングブローを移動させる構成でもよい。
【0040】
いずれの方法であっても、気体吹き付けの移動速度が、3mm/s以上、100mm/s未満であることが好ましい。3mm/s以上とすることで、小さな水滴がその場で蒸発してウォーターマーク(水が乾く際にできる跡)を作るなどの現象が起こりにくくなり、安定した処理が可能となるため好ましい。また、100mm/s未満とすることで、未乾燥状態になることを防ぐことができ、処理の安定化が図れるため好ましい。
【0041】
また、シリンダーの周方向での処理の均一化を目的として、吐出口とシリンダーとの周方向での相対位置に対する時間的変化、言い換えると回転を与えてもよい。回転速度は、120rpm以下が好ましい。120rpm以下では、水滴の挙動を制御できるため好ましい。また、水滴の挙動を考えると、リングブローとシリンダーのうち、水平面から傾けている方を回転させるほうが好ましい。また、吐出気体のみを回転させてもよいため、例えば、吐出口は固定したままで吐出圧のみを周方向に時間的に変化するようにしてもよい。
【0042】
本発明において、前記吐出口から吐出する気体の風速は、5m/s以上、120m/s以下であることが好ましい。5m/s以上、120m/s以下とすることで、水滴が残留しにくく、またシリンダーの振れが起こりにくいため好ましい。
【0043】
本発明において、乾燥工程において、前記吐出口からシリンダー表面までの距離は、5mm以上、100mm以下であることが好ましい。5mm以上、100mm以下とすることで、ノズル間隔の影響が出にくく、またダストの巻き上げや最付着を防止しやすくなるため好ましい。
【0044】
図6に、本発明で用いる洗浄装置の全体を表した概略図を示す。図1で説明した純水槽105の他に、界面活性剤水溶液603を用いた洗浄槽601、必要に応じて皮膜を形成するためのケイ酸塩水溶液604の入った皮膜形成槽602、シリンダーの受け渡しをするための投入用部材605、取り出し用部材606がある。これらの間でロボットアーム107によりシリンダー及び台座等を搬送することで処理が行われる。
【0045】
本発明は、シリンダーを洗浄液で洗浄する洗浄工程を含む。前記洗浄工程は、切削時に使用する切削油や切削時に付着したダストを除去する目的で行われる。洗浄液には、界面活性剤を溶解した水溶液を用いる
【0046】
本発明において洗浄工程で用いられる界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、又はそれらの混合したもの等いずれのものでも可能である。中でも、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤又は脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤は特に本発明では効果的であり好ましい。
【0047】
本発明において、界面活性剤を溶解する前の水の水質は、いずれでも可能であるが、半導体グレードの純水が好ましく、超LSIグレードの超純水がより好ましい。具体的には、水温25℃の時の抵抗率として、下限値は1MΩ・cm以上が好ましく、3MΩ・cm以上がより好ましく、5MΩ・cm以上が更に好ましい。上限値は理論抵抗値(18.25MΩ・cm)までの何れの値でも可能であるが、コスト、生産性の面から17MΩ・cm以下が好ましく、15MΩ・cm以下がより好ましく、13MΩ・cm以下が更に好ましい。
【0048】
本発明で使用する純水の微粒子量、微生物量、有機物量は以下の範囲が望ましい。微粒子量としては、0.2μm以上の微粒子が1ミリリットル中に10000個以下が好ましく、1000個以下がより好ましく、100個以下が更に好ましい。微生物量としては、総生菌数が1ミリリットル中に100個以下が好ましく、10個以下がより好ましく、1個以下が更に好ましい。有機物量(TOC)は、1リットル中に10mg以下が好ましく、1mg以下がより好ましく、0.2mg以下が更に好ましい。
【0049】
上記の水質の水を得る方法としては、活性炭法、蒸留法、イオン交換法、フィルター濾過法、逆浸透法、紫外線殺菌法等があるが、これらの方法を複数組み合わせて用い、要求される水質まで高めることが望ましい。これらの微粒子、微生物、有機物をより低減させることで、洗浄後のシリンダーの品質を向上させることが可能となる。
【0050】
本発明において、洗浄工程で用いられる界面活性剤の濃度は、濃すぎると液跡によるシミが発生してしまい、堆積膜の剥れ等の原因となる。また、薄すぎると脱脂効果、皮膜効果が小さく、本発明の効果が充分得られない。このため、珪酸塩を含有した界面活性剤の濃度は、0.1質量%以上、20質量%以下が好ましく、1質量%以上、10質量%以下がより好ましく、2質量%以上、8質量%以下が更に好ましい。
【0051】
本発明において、洗浄工程で用いられる界面活性剤のpHは、高すぎると液跡によるシミが発生してしまい、堆積膜の剥れ等の原因となる。また、薄すぎると脱脂効果、皮膜効果が小さく、本発明の効果が充分得られない。このため、界面活性剤のpHは、8以上、12.5以下が好ましく、9以上、12以下がより好ましく、10以上、11.5以下が更に好ましい。
【0052】
本発明の洗浄工程で、超音波を用いることは本発明の効果を出す上で有効である。超音波の周波数は、好ましくは100Hz以上、10MHz以下、より好ましくは1kHz以上、5MHz以下、更に好ましくは10kHz以上、100kHz以下である。超音波の出力は、好ましくは0.1W/リットル以上、1kW/リットル以下であり、より好ましくは1W/リットル以上、100W/リットル以下である。
【0053】
本発明では、シリンダーを洗浄液で洗浄する洗浄工程と、該シリンダーを純水に浸漬する純水浸漬工程とを含むことが必須であるが、洗浄工程と純水浸漬工程との間に、必要に応じて皮膜形成工程を設けても良い。皮膜を形成することにより、よりピットが発生しにくくなるため好ましい。具体的には、ケイ酸塩、特に珪酸カリウム(KSiO3)を含んだ水溶液で処理することが好ましい。ケイ酸塩による皮膜は、アモルファスシリコン系の感光体に対して悪影響も及ぼさず、高いピット抑制能力を持つため、好ましい。
【0054】
前記皮膜形成を行なう場合の、水に含まれる珪酸塩の濃度は、濃すぎると液跡によるシミが発生してしまい、堆積膜の剥れ等の原因となる。また、薄すぎると脱脂効果、皮膜効果が小さく本発明の効果が十分に得られない。このため、水に含まれる珪酸塩の濃度は、0.05質量%以上、2質量%以下が好ましく、0.1質量%以上、1.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上、1質量%以下が更に好ましい。
【0055】
本発明において、シリンダー上に形成される皮膜の膜厚は薄くては効果が現れず、厚過ぎるとシリンダーとの導電性が下がる。このため、皮膜の膜厚としては、0.5nm以上、15nm以下が好ましく、1nm以上、13nm以下がより好ましく、1.5nm以上、12nm以下が更に好ましい。
【0056】
本発明において、シリンダー上に形成されるAl−Si−O皮膜の組成比としては、SiやOが少なくてはAlの成分が多く皮膜として不十分であり、多くても導電性が下がるため適さない。Alを1とした時に、Siは0.1以上、0.5以下が好ましく、0.15以上、0.4以下がより好ましく、0.2以上、0.35以下が更に好ましい。またAlを1とした時に、Oは1以上、5以下が好ましく、1.5以上、4以下がより好ましく、2以上、3.5以下が更に好ましい。
【0057】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、前記シリンダーの洗浄方法によるシリンダーの洗浄を含む。アルミニウム等からなる電子写真感光体用シリンダーの洗浄を前記シリンダーの洗浄方法により行うことで、突起成長の原因となるダストの付着やピットの発生を抑制することができるため、画像不良を低減可能な電子写真感光体を得ることができる。
【0058】
前記シリンダーの洗浄方法によるシリンダーの洗浄の後、以下のような方法により電子写真感光体を得ることができる。
【0059】
図7は、電子写真感光体の膜の堆積を行なう製造装置である、電源周波数としてRF帯を用いた高周波プラズマCVD装置(RF−PCVDとも略記する)の一例を示す模式的な構成図である。
【0060】
図7に示す装置の構成は以下の通りである。
【0061】
この装置は大別すると、堆積装置7100、原料ガスの供給装置7200、反応容器7111内を減圧にするための排気装置(図示せず)から構成されている。堆積装置7100中の反応容器7111はカソード電極を兼ねており、その内部にはシリンダー7112、シリンダー加熱用ヒーター7113、原料ガス導入管7114が設置されている。さらにシリンダー7112にはこれを回転させるモーター7121が接続され、反応容器7111には高周波マッチングボックス7115を介して高周波電源7120が接続されている。反応容器7111は中空構造をとり、冷媒導入機構を用いて内部に冷却用の冷媒を強制的に流すことで冷却してもよい。具体的には、例えば水を循環させる事で冷却すればよい。
【0062】
原料ガス供給装置7200は、SiH4、H2、CH4、B26、CF4、N2、O2、NO、He、Ar等から選ばれる必要な原料ガスのボンベ7221〜7226とバルブ7231〜7236、7241〜7246、7251〜7256及びマスフローコントローラー7211〜7216から構成される。各原料ガスのボンベは補助バルブ7260を介して反応容器7111内のガス導入管7114に接続されている。
【0063】
この装置を用いたプラズマ処理は、例えば以下のように行うことができる。
【0064】
先ず、反応容器7111内にシリンダー7112を設置し、不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)により反応容器7111内を排気する。
【0065】
堆積膜形成用の原料ガスを反応容器7111に流入させるには、ガスボンベのバルブ7231〜7236、反応容器のリークバルブ7117が閉じられていることを確認する。また、ガス流入バルブ7241〜7246、流出バルブ7251〜7256、補助バルブ7260が開かれていることを確認して、まずメインバルブ7118を開いて反応容器7111及び原料ガス配管内7116を排気する。
【0066】
次に、真空計7119の読みが約0.1Pa以下になった時点で補助バルブ7260、ガス流出バルブ7251〜7256を閉じる。その後、ガスボンベ7221〜7226より所望のガスを原料ガスボンベバルブ7231〜7236を開いて導入し、圧力調整器7261〜7266により所望のガスラインの圧力を0.2MPaに調整する。次に、ガス流入バルブ7241〜7246を徐々に開けて、所望のガスをマスフローコントローラー7211〜7216内に導入する。
【0067】
同装置を用いた堆積膜の形成は、例えば以下のように行うことができる。
【0068】
先ず、反応容器7111内にシリンダー7112を設置し、不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)により反応容器7111内を排気する。続いて、シリンダー加熱用ヒーター7113によりシリンダー7112の温度を150℃乃至350℃の所定の温度に制御する。また、膜形成の均一化を図るために、層形成を行なっている間、シリンダー7112をモーター7121によって所定の速度で回転させる。
【0069】
以上のようにして成膜の準備が完了した後、以下の手順で各層の形成を行う。
【0070】
シリンダー7112が所定の温度になったところで流出バルブ7251〜7256のうちの必要なもの及び補助バルブ7260を徐々に開き、ガスボンベ7221〜7226から所定のガスを、原料ガス導入管7114を介して反応容器7111内に導入する。次にマスフローコントローラー7211〜7216によって各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器7111内の圧力が1×102Pa以下の所定の圧力になるように真空計7119を見ながらメインバルブ7118の開口を調整する。内圧が安定したところで、周波数13.56MHzのRF電源7120を所望の電力に設定して、高周波マッチングボックス7115を通じて反応容器7111内にRF電力を導入し、グロー放電を生起させる。
【0071】
高周波放電のエネルギーによって反応容器内に導入された原料ガスが分解され、シリンダー7112上に所定の堆積膜が形成されるところとなる。所望の膜厚の形成が行われた後、RF電力の供給を止め、流出バルブを閉じて反応容器へのガスの流入を止め、堆積膜の形成を終える。
【0072】
同様の操作を複数回繰り返すことによって、所望の積層構造の電子写真感光体が形成される。それぞれの層を形成する際には必要なガス以外の流出バルブはすべて閉じられていることは言うまでもない。また、それぞれのガスが反応容器7111内、流出バルブ7251〜7256から反応容器7111に至る配管内に残留することを避けるために、まず、流出バルブ7251〜7256を閉じ、補助バルブ7260を開く。さらにメインバルブ7118を全開にして系内を一旦高真空に排気する操作を必要に応じて行う。
【0073】
さらに、上述のガス種及びバルブ操作は各々の層の作製条件に従って変更が加えられることは言うまでもない。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]
精密切削用のエアダンパー付旋盤(PNEUMO PRECLSION INC.製)に、ダイヤモンドバイト(商品名:「ミラクルバイト」、東京ダイヤモンド製)をセットする。次に、この旋盤の回転フランジに、アルミニウムの純度が99.95%のシリンダーを真空チャックする。付設したノズルから白燈油噴霧、同じく付設した真空ノズルから切り粉の吸引を併用しつつ、周速1000m/min、送り速度0.01mm/回転の条件で外径が84mmとなるように鏡面切削を施す。
【0076】
切削が終了したシリンダー表面を、図6に示したような洗浄装置を用いて洗浄する。シリンダー洗浄装置内部では、まず基板は図1に示したアーム103と台座104からなるシリンダー搬送用の機構に装着されたのち、ロボットハンド107によって複数の槽601、602、105の間を搬送される。まず界面活性剤を用いた洗浄槽601において2分間洗浄を行い、ロボットハンド107によって搬送される。実施例1では、洗浄槽601を経てから直ちに純水槽105に30秒間浸漬し、図3(a)に示したようなリングブローにより乾燥して取り出される。このとき、図2(a)のように、吐出口の中心が成す面208は水平面に平行である。また、シリンダーの中心軸211を水平面212に対して垂直な直線との角度αを0.45度、0.50度、1.0度、2.5度、4.9度、5.0度、それぞれ傾けて、リングブローにより乾燥を行った。乾燥に使った気体は窒素であり、露点は−40℃であった。窒素の温度は20℃、純水の水温は25℃であり、洗浄装置周囲の雰囲気温度は25℃、湿度40%であった。シリンダーを引き上げる際の吐出口の中心が成す面とシリンダーとの相対速度は20mm/sとし、リングブローの吐出面からの俯角βは30度とした。
【0077】
前記6種類の角度αで乾燥工程を行ったシリンダーについて、次の2つの評価を行った。
【0078】
(1)顕微鏡による検査
シリンダー上の軸方向中央付近の任意の点を選び、金属顕微鏡を用い50倍の視野にて表面観察を行った。2.8mm2の面積中にピットがいくつあるかをカウントした。
【0079】
(2)目視によるシミ等の有無の検査
シリンダー全体の検査だが、特に下部や端部におけるシミ、下部における飛び散りに起因するウォーターマークの有無を目視により調べた。
【0080】
これらの検査によって、以下のように総合判定を行った。
【0081】
☆ 微視的な表面状態が極めて良好(ピット数が2.8mm2で1個以下)で、目視検査でシミ、ウォーターマーク等が全く見つからない
◎ 微視的な表面の状態が非常に良好(ピット数が2.8mm2で9個以下)で、目視検査でシミ、ウォーターマーク等が全く見つからない
○ 微視的な表面状態が良好(2.8mm2で19個以下)で、目視検査で微小なシミ等が端部にのみ存在する(電子写真感光体形成後には画像形成に影響しない)
△ 微視的な表面状態が比較的良好(2.8mm2で29個以下)で、目視検査で微小なシミ等が端部以外にも若干存在するが、実用上問題なし
× 微視的な表面状態がやや劣る状態(2.8mm2で30個以上)で、目視検査でシミ等が端部以外にも存在し、場合によっては画像不良の原因になる可能性がある。
【0082】
以上をまとめ、実験条件の一覧を表1に、得られた結果は比較例1の結果と合わせて表2に示す。
【0083】
[比較例1]
実施例1と同様のシリンダーを用い、同様の切削を行った後、以下のような洗浄、乾燥を行い実施例1と比較した。
【0084】
a)実施例1同様に洗浄工程、純水浸漬工程を行った後、50℃の純水中に20秒間浸漬し、60秒かけて引き上げることで温水乾燥を行った。
【0085】
b)乾燥工程において、シリンダーを直立(角度αが0度)させ、吹きつける窒素の温度を27℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0086】
c)乾燥工程において、角度αを0.4度とする以外は実施例1と同様に行った。
【0087】
d)乾燥工程において、角度αを27度とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0088】
実験条件の一覧を表1に示した。
【0089】
得られた結果は実施例1の結果と合わせて表2に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
表2の結果から、比較例1a)の温水乾燥では、シミ等がなく目視検査では良好であったが、顕微鏡観察によりピットが多数あることが確認された。このことは温度の高い水に長時間つけられている間にピットが成長していることを示している。一方、温水乾燥を行わずリングブローによって乾燥した場合、吹き付ける窒素の温度によってピットの数に差が見られた。比較例1b)では実施例1に比べてやや多い結果となった。この結果は、窒素の温度が純水の温度より高く、シリンダー上についた水滴は窒素が吹きつけられると同時に暖められ、ピットの成長がそれだけ促進されたためと考えられる。
【0093】
目視検査では、比較例1b)において、下端においてシミや飛び散りが多数確認された。また、比較例1c)においては、実用上は、問題は少ないものの、画像形成部下部までかかる範囲にシミや飛び散りの跡が若干残る結果となった。この結果から、シリンダーとリングブローとを傾けずに配置した場合や、傾け方が小さすぎる場合には、窒素の吹き付け終了時において、水滴や気流が乱れ、シミや飛び散り跡が生じたと考えられる。一方、実施例1では全ての場合において目視検査でも良好であった。なお、角度αが0.45度、5.0度では1箇所シミやウォーターマークが見られたが、画像形成部外であり実用上影響のない範囲であった。一方、傾きが5.0度、25度と比較的大きい場合、当り始めでの時間差が空き過ぎて上端に乾燥ムラが起こったり、下部に水滴がたまりやすくなることによる乾燥ムラが発生する場合があることを示している。いずれにしてもこの程度であれば軽微であり、問題はない。
【0094】
比較例1d)においては下部において特異的なシミが見られた。シリンダーの特定の周方向角度において、軸方向にまっすぐにシミが残った。これは傾きが27度と大きいため、水滴が円周上の最低部位置に集中して残り、傾けたシリンダーを下から見た場合、線状にシミが残ったと考えられる。このように、明らかに傾けすぎた場合にも問題が発生することがわかった。
【0095】
以上より、室温より低い温度で充分露点の低い気体を吹きつけて乾燥をする際、吐出口の中心が成す面に対して垂直な直線とシリンダー中心軸との角度が0.45度以上、25度以下であれば、ピットの発生も少なく、端部におけるシミや飛び散りが発生しない。吐出口の中心が成す面に対して垂直な直線とシリンダー中心軸との角度αの好ましい範囲は、0.50度以上、5.0度未満である。
【0096】
[実施例2]
実施例1と同様の切削を行ったシリンダー表面を、実施例1と同様の洗浄装置を用いて洗浄した。洗浄槽で2分間洗浄を行い、純水槽に30秒間浸漬し、図3(b)に示したような吐出口が複数集合した形態のリングブローを用い、乾燥して取り出される。このとき、図2(b)のように、シリンダーの中心軸は水平面に垂直であり、吐出口の中心が成す面208と水平面212との角度αを0.45度、0.50度、1.0度、2.5度、4.9度、5.0度、それぞれ傾けてリングブローにより乾燥を行った。乾燥に使った気体は乾燥空気であり、露点は−65℃であった。乾燥空気の温度は15℃、純水の水温は25℃であり、洗浄装置周囲の雰囲気温度は25℃、湿度40%であった。シリンダーを引き上げる際の吐出口の中心が成す面とシリンダー201との相対速度は10mm/sとし、吐出口の中心が成す面208からの吐出角度の俯角βは45度とした。
【0097】
前記6種類の角度αで乾燥工程を行ったシリンダーについて、実施例1と同様の評価を行った。
【0098】
実験条件の一覧を表3に、得られた結果を表4に示す。
【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
表4の結果から、実施例2では全ての場合において目視検査は良好であった。0.45度、5.0度では1箇所シミやウォーターマークが見られた。これは、傾きが小さすぎると、シリンダー下部において水滴や気流の乱れが生じる場合があることを示している。一方、傾きが大きすぎる場合、時間差が空き過ぎることによる乾燥ムラが発生する場合があることを示している。いずれにしてもこの程度であれば軽微であり、問題はない。
【0102】
したがって、純水の水温より低い温度で充分露点の低い気体を吹きつけて乾燥する際、シリンダー中心軸が水平面と垂直に配置されている場合、吐出口の中心が成す面が水平面から傾いていれば、ピットの発生も少なく端部におけるシミや飛び散りが発生しない。前記角度αのより好ましい範囲は、0.50度以上、5.0度未満である。
【0103】
[実施例3]
実施例1と同様の切削を行ったシリンダー表面を、実施例1と同様の洗浄装置を用いて洗浄した。洗浄槽で2分間洗浄を行い、ロボットハンド107によって搬送され、図2(a)に示したような純水槽に30秒間浸漬し、図3(a)に示したようなリングブローにより乾燥して取り出される。このとき、図2(a)のように、吐出口の中心が成す面208は水平面に平行であり、シリンダーの中心軸と水平面に対して垂直な直線との角度αを2.0度としてリングブローにより乾燥を行った。乾燥に使った気体は窒素であり、露点は−65℃であった。純水の水温は25℃、洗浄装置周囲の雰囲気温度は25℃、湿度40%であった。シリンダーを引き上げる際の吐出口の中心が成す面とシリンダーとの相対速度は15mm/sとし、リングブローの吐出角度βは40度とした。
【0104】
ここで窒素の温度を、9℃、10℃、15℃、20℃、21℃の各条件で乾燥工程を行い、実施例1と同様の方法で評価を行った。実験条件の一覧を表5に、得られた結果を表6に示す。
【0105】
【表5】

【0106】
【表6】

【0107】
表6から、窒素の温度が純水の水温よりも低ければ、どの温度でも良好なシリンダーが得られた。なお、9.0℃の窒素を吹きつけた場合、シリンダーの温度が下がり、上部の僅かな部分に曇りが発生した。その後短時間で消失し、表面の目視検査でも確認されなかった。しかし、安定的な処理のためにはこのような曇りが発生しないことが好ましい。
【0108】
また、21℃の窒素でブローした場合、目視検査では外観良好であったが、顕微鏡観察では、実用上問題ないものの、軽微ながらピット数の増加が見られた。比較例1(b)の例でもわかるように、窒素温度が低い方がピットの成長が遅れるため好ましい。
【0109】
以上の点から、純水の温度より吹きつける窒素の温度が低ければ本発明の効果が得られる。好ましくは、窒素の温度が10℃以上、20℃以下である。
【0110】
[実施例4]
実施例1と同様の切削を行ったシリンダー表面を、実施例1と同様の洗浄装置を用いて洗浄した。洗浄槽で2分間洗浄を行い、ロボットハンド107によって搬送され図2(a)に示したような純水槽に30秒間浸漬し、図3(a)に示したようなリングブローにより乾燥して取り出される。このとき、図2(a)のように、吐出口の中心が成す面208は水平面に平行であり、シリンダーの中心軸を水平面から3.0度傾けてリングブローにより乾燥を行った。乾燥に使った気体は窒素であり、露点は−40℃、温度は18℃であった。純水の水温は25℃、洗浄装置周囲の雰囲気温度は25℃、湿度30%であった。シリンダーを引き上げる際の吐出口の中心が成す面とシリンダーとの相対速度は15mm/sとした。
【0111】
ここで吐出口の中心が成す面に対する窒素の吐出角度βを、18度、20度、30度、50度、60度、62度と変化させて窒素の吹きつけを行った。次に実施例1と同様の方法で評価を行った。実験条件の一覧を表7に、得られた結果を表8に示す。
【0112】
【表7】

【0113】
【表8】

【0114】
表8から明らかなように、実施例4の範囲内では、どの吐出角度βにおいても良好なシリンダーが得られた。なお、吐出角度βが18度の場合、下部にて一部にシミが残っていることから、吐出角度が浅い場合には、異なる方向から吹き付けられる気体が干渉し、気流が乱れるため飛び散りが一部生じたと推測される。一方、吐出角度が62度の場合には、干渉は抑制される傾向にあるが、シリンダー側面に対して垂直方向への力が不足すれば、水滴に与える運動量も小さくなる。このとき、特に上端付近で水滴の押し出しが不足して水滴が残り、ウォーターマークになる場合がある。
【0115】
以上の点から、吐出角度βは特に限定されないが、20度以上、60度以下の範囲においては、ピット数も少なく、かつ外観検査においてもシミや飛び散り等がなく、良好な乾燥処理をする上で好ましい。
【0116】
[実施例5]
実施例1と同様の切削を行ったシリンダー表面を、実施例1と同様の洗浄装置を用いて洗浄した。洗浄槽で2分間洗浄を行い、ロボットハンド107によって搬送され図2(a)に示したような純水槽に30秒間浸漬し、図3(a)に示したようなリングブローにより乾燥して取り出される。このとき、図2(a)のように、吐出口の中心が成す面208は水平面に平行であり、シリンダーの中心軸211を水平面212に対して垂直な直線から2.5度傾けてリングブローにより乾燥を行った。乾燥に使った気体は窒素であり、露点は−65℃、温度は15℃であった。純水の温度は25℃、洗浄装置周囲の雰囲気温度は25℃、湿度30%であった。吐出口の中心が成す面に対する窒素の吐出角度βは35度とした。
【0117】
また、シリンダーを引き上げる際の、吐出口の中心が成す面とシリンダーとの相対速度を2.9mm/s、3.0mm/s、10mm/s、30mm/s、90mm/s、100mm/sとした。次に実施例1と同様の方法で評価を行った。実験条件の一覧を表9に、得られた結果を表10に示す。
【0118】
【表9】

【0119】
【表10】

【0120】
表10から明らかなように、実施例5の範囲内における相対速度では、良好なシリンダーが得られた。なお、相対速度が2.9mm/sの場合、丁寧に水滴を掃き集める能力はあるが、場合によっては下部において先に水分が乾くことがあり、処理の安定性としては2.9mm/sを超える速度であることが好ましい。また、処理時間がかかりすぎるために、ピット成長の反応が進む可能性もあり、顕微鏡観察でも若干ではあるがピットの数が増加傾向であった。
【0121】
一方、100mm/sでは、特に下部に集中した水滴を乾燥できない場合がある。このことから、やはり安定した処理を行うためには、相対速度が100mm/s未満であることが好ましい。
【0122】
以上の点から、シリンダーとリングブローとの相対速度としては、特に限定されないが、3mm/s以上、100mm/s未満であれば安定して良好な処理が出来るため、好ましい。
【0123】
[実施例6]
実施例1と同様の切削を行ったシリンダー表面を、実施例1と同様の洗浄装置を用いて洗浄した。洗浄槽で2分間洗浄を行い、ロボットハンド107によって搬送し、純水槽に移す前に皮膜形成槽を経由したものと経由しないものの2種類を作成した。皮膜形成には、ケイ酸カリウム水溶液(0.5質量%)を用いた。
【0124】
純水浸漬以降は同様の処理とした。純水槽に30秒間浸漬し、図3(a)に示したようなリングブローにより乾燥して取り出される。このとき、図2(a)のように、吐出口の中心が成す面208は水平面に平行であり、シリンダーの中心軸を水平面から2.0度傾けてリングブローにより乾燥を行った。乾燥に使った気体は乾燥空気であり、露点は−65℃、温度は18℃であった。純水の温度は25℃、洗浄装置周囲の雰囲気温度は25℃、湿度40%であった。吐出口の中心が成す面に対する乾燥空気の吐出角度は45度とした。シリンダーを引き上げる際の吐出口の中心が成す面とシリンダーとの相対速度を15mm/sとした。
【0125】
次に、皮膜形成を行った場合と、行わない場合の乾燥後のシリンダーについて、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0126】
実験条件の一覧を表11に、得られた結果を表12に示す。
【0127】
【表11】

【0128】
【表12】

【0129】
表12では、ピット数が更に低減しているため、4倍の面積でのピット数をカウントして評価したが、皮膜ありの場合、ピット数は非常に少なかった。また、シミ等は確認されず、外観検査上問題がなかった。
【0130】
以上の結果から、洗浄工程と純水浸漬工程の間に、シリンダー表面に皮膜形成を行う皮膜形成工程を行うことで、ピット低減効果が更に向上することが示された。
【0131】
[実施例7]
実施例6において作成した皮膜有り、皮膜なしのシリンダーを、図7に示したプラズマCVD装置の内部に設置し、表13に示した条件で下部注入阻止層、光導電層、表面層を順次積層し、電子写真感光体を作成した。得られた電子写真感光体を、電子写真装置(キヤノン製電子写真装置iRC6800)に設置して画像を出力し、画像評価を行った。具体的には、A3全面白、A3全面各色一色塗りつぶし(黒、シアン、マゼンタ、イエロー)、A3全面各色ハーフトーンの画像を出力し、画像上にシミ、微小な点、線状の跡などの画像不良があるかどうかを確認した。
【0132】
実施例6の条件で洗浄を行ったシリンダーを用いて作成した電子写真感光体は、皮膜あり、なしとも、問題となるような画像不良は認められなかった。
【0133】
【表13】

【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の洗浄工程に用いる洗浄装置、特に純水槽、リングブロー部材、搬送器を示す模式的構成図である。
【図2】本発明における、シリンダーとリングブローとの相対的な角度関係を示す模式図である。
【図3】本発明のリングブローの構造を示す模式図である。
【図4】本発明における、シリンダーを保持する台座部分の模式的構造図である。
【図5】本発明における、台座を用いずにシリンダーを保持する方法を示した模式的説明図である。
【図6】本発明における洗浄装置全体の模式的構成図である。
【図7】本発明の電子写真感光体の製造に使用することが可能な、プラズマCVD堆積装置の好適な構成の一例を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0135】
101 シリンダー
102 リングブロー
103 アーム
104 台座
105 純水槽
106 純水
107 ロボットアーム
108 吐出口の中心が成す面
109 オーバーフロー排出口
110 新液導入口
111 シリンダー中心軸
112 水平面
201 シリンダー
202 リングブロー
203 アーム
204 台座
208 吐出口の中心が成す面
211 シリンダー中心軸
212 水平面
301 リング状の管
302 穴
303 吐出口
401 プレート
402 ナイフエッジ
501 シリンダー
502 リングブロー
507 ロボットアーム
601 洗浄槽
602 皮膜形成槽
603 界面活性剤水溶液
604 ケイ酸塩水溶液
605 投入用部材
606 取り出し用部材
7100 堆積装置
7111 反応容器
7112 シリンダー
7113 シリンダー加熱用ヒーター
7114 原料ガス導入管
7115 高周波マッチングボックス
7116 原料ガス配管
7117 反応容器リークバルブ
7118 メイン排気バルブ
7119 真空計
7120 RF電源
7121 モーター
7211〜7216 マスフローコントローラー
7221〜7226 原料ガスのボンベ
7231〜7236 原料ガスボンベバルブ
7241〜7246 ガス流入バルブ
7251〜7256 ガス流出バルブ
7260 補助バルブ
7261〜7266 圧力調整器
α シリンダー中心軸と吐出口の中心が成す面に対して垂直な直線との傾斜角
β リングブロー吐出角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを主成分として含む金属を表面に有するシリンダーの洗浄方法であって、
少なくとも、
前記シリンダーを洗浄液で洗浄する洗浄工程と、
該シリンダーを純水に浸漬する純水浸漬工程と、
該シリンダーの表面に、該シリンダーの周囲にリング状に配置された複数の吐出口から乾燥した気体を吹き付ける乾燥工程とを有し、
前記純水浸漬工程における純水の温度が20℃以上、25℃以下であり、
前記乾燥工程において吹き付ける気体の温度が、前記純水浸漬工程における純水の温度よりも低い温度であり、
かつ、前記シリンダーの周囲で各吐出口の中心が一つの面を成し、該面に対して垂直な直線と、該シリンダーの中心軸とが成す角度が0.45度以上、25度以下の角度とすることを特徴とするシリンダーの洗浄方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において吹き付ける気体が、−40℃以下の露点を有する気体である請求項1に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項3】
前記乾燥工程において吹き付ける気体が、10℃以上、20℃以下である請求項1又は2に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項4】
前記吐出口の中心が成す面に対して垂直な直線と、前記シリンダーの中心軸とが成す角度が、0.5度以上、5.0度未満である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項5】
前記吐出口の中心が成す面が、水平面と平行であり、前記シリンダーの中心軸が鉛直方向から傾けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項6】
前記乾燥工程において、前記シリンダーが台座上に載置されており、該台座が前記シリンダーの中心軸を鉛直方向から傾ける部材を有している請求項5に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項7】
前記シリンダーの中心軸が鉛直方向であり、前記吐出口の中心が成す面が水平面から傾けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項8】
前記乾燥工程において気体を吐出する複数の吐出口が、前記吐出口の中心が成す面に対して各吐出口から気体が所定の俯角をもって吐出されるように設けられている請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項9】
前記俯角が、20度以上、60度以下である請求項8に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項10】
前記乾燥工程において、気体の吹き付けを前記シリンダーの鉛直方向上部から下部に向かって移動させる請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項11】
前記気体の吹き付けの移動速度が、3mm/s以上、100mm/s未満である請求項10に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項12】
前記乾燥工程において、前記シリンダーを周方向に120rpm以下の速度で回転させる請求項1乃至11のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項13】
前記洗浄工程と前記純水浸漬工程との間に、前記シリンダー表面に皮膜を形成する皮膜形成工程を有する請求項1乃至12のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項14】
前記皮膜形成工程で形成される皮膜が、ケイ酸塩を含むことを特徴とする請求項13に記載のシリンダーの洗浄方法。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のシリンダーの洗浄方法により、電子写真感光体用シリンダーを洗浄する工程を含む電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−229527(P2009−229527A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71553(P2008−71553)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】