説明

シリンダ錠構造および自転車用錠

【課題】構造の複雑化を避けつつ、積極的な排水を図ることができる防錆性の高いシリンダ錠構造およびこの構造を備えた自転車錠の提供を図る。
【解決手段】収納空洞14を有するアウターケース12と、収納空洞14内で回転可能に配置されたシリンダ21とを備える。シリンダ21には、その前端面から後端側に向けて鍵挿入孔24が形成されたシリンダ本体22と、シリンダ本体22から後方に突出する27とを備える。シリンダ本体22の後端側はアウターケース12の後方に突出しており、この突出したシリンダ本体22の後端側と鍵挿入孔24とを結ぶように水抜き孔37が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、シリンダ錠構造、および、シリンダ錠構造を備えた自転車用錠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自転車用錠には、特許文献1や2に記載のシリンダ錠が搭載されている。ところが、自転車は戸外を走行したり置かれたりするため、雨水がシリンダ錠内に侵入して錆の原因となることが指摘されている。
【0003】
この問題に対して、特許文献1にあっては、鍵穴にシャッター設けた錠構造を開示している。特許文献2にあっては、シリンダ錠が外部に露出する鍵穴などから侵入する流水が、シリンダ錠のアウターケースとシリンダのピン孔を通って排出される構造を開示している。ところが、特許文献1にあっては、シャッターという別部材を必要とし、構造が複雑化するとともに、シャッター自体が故障する可能性を有する。特許文献2にあっては、シリンダ錠の通常の構造をそのまま利用するもので、積極的に排水の構造を備えていないといって過言でない。また自転車錠以外のシリンダ錠である特許文献3にあっては、アウターケースに水抜き孔を設けるものの、シリンダ本体には特別な構造を設計していない。
【0004】
他方、従来シリンダ錠のシリンダ本体は、防錆性を考慮して切削加工された真鍮製が主流であった。ところが、今日のコストダウンの要請から、本願発明者は、シリンダ本体を鋼製のダイキャストで製造することを検討した。この素材にあっては、防錆性が真鍮製よりも劣るため、より積極的な防錆対策が必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−188338号公報
【特許文献2】特開2003−41830号公報
【特許文献3】特開平8−93281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明の目的は、構造の複雑化を避けつつ、積極的な排水を図ることができる構造を開発することにより防錆性の高いシリンダ錠構造に提供を図ることにある。特に、雨水の対策が必要な自転車錠において、有効な水抜手段を開発し、防錆性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、収納空洞を有するアウターケースと、前記収納空洞内で回転可能に配置されたシリンダとを備え、前記シリンダにはその前端面から後端側に向けて鍵挿入孔が形成されたシリンダ錠構造において、前記内部空洞は、前端側開口と後端側開口と備え、
【0008】
前記前端側開口を通して、前記シリンダの前端面の少なくとも前記鍵挿入孔が鍵穴として露出しており、前記後端側開口から前記シリンダの後端側が突出しており、このアウターケースの前記内部空洞から突出した前記シリンダの後端側と、前記鍵挿入孔とを結んだ水抜き孔が、前記シリンダに形成されたことを特徴とするシリンダ錠構造を提供する。
【0009】
前記シリンダは、実質的に円柱状のシリンダ本体と、前記シリンダ本体の後端面からさらに後方に突出する作動部を備え、前記作動部は、錠装置の閂用部材に係合して前記錠装置の閂の作動を規制する係合部分を備え、前記作動部は、前記シリンダ本体の後端面から突出する突出部分と、前記突出部分の後方に設けられた前記係合部分とを備え、前記突出部分は前記シリンダ本体の断面積よりも小さく、前記突出部分のない後端面に前記水抜き孔の後端が開口しており、前記水抜き孔の前端が前記鍵挿入孔に開口していることを特徴とするものとして実施することができる。
【0010】
また、本願発明は、ケーシングと、ケーシングに配置された閂用部材とを備え、前記閂用部材は自転車のスポークに係合可能な施錠位置と係合不能な開錠位置との間を移動する閂と、前記閂を移動させる作動部材とを備え、上記のシリンダ錠構造が前記ケーシングに配置され、前記施錠位置にある前記閂用部材に前記係合部分が前記閂用部材に係合して、前記閂を前記施錠位置にて動かないようにすることを特徴とする自転車用錠を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本願発明は、アウターケースの後端側開口からシリンダの後端側が突出しており、このアウターケースの内部空洞から突出したシリンダの後端側と、シリンダの鍵挿入孔とを結ぶ水抜き孔が形成されているため、鍵穴から鍵挿入孔に侵入した雨水などの水は、アウターケースの外部にスムーズに排出される。これによって、構造の複雑化を避けつつ、積極的な排水を図ることができ防錆性の高いシリンダ錠構造を提供することができたものである。特に、雨水の対策が必要な自転車において、有用なシリンダ錠付きの自転車錠を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の実施の形態に係るシリンダ錠の後方側からの斜視図。
【図2】同シリンダ錠の前方側からの斜視図。
【図3】同シリンダ錠のシリンダの後方側からの斜視図。
【図4】同シリンダ錠のシリンダの前方側からの斜視図。
【図5】同シリンダ錠の中央縦断面図。
【図6】本願発明の実施の形態に係るシリンダ錠を備えた自転車用錠の後方側からの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本願発明の実施の形態を説明する。
【0014】
この実施の形態に関するシリンダ錠11は、アウターケース12と、アウターケース12に設けられた収納空洞14内に回転可能に配置されたシリンダ21とを備える。
(アウターケース12について)
【0015】
アウターケース12は、実質的に円筒状の筒状部13と、筒状部13の軸方向に沿って形成されたタンブラ保持部17とを備える。筒状部13の内部には、その軸芯に沿って収納空洞14が形成されている。この収納空洞14は、筒状部13の前端面に開口する前端側開口15と、筒状部13の後端面に開口する後端側開口16とを備える。タンブラ保持部17には、複数のタンブラ保持孔18が、シリンダ本体22の軸方向に配列形成されている。このタンブラ保持孔18には、タンブラピン31と、タンブラピン31の基端側を先端側に向けて付勢するスプリング32が収納されている。タンブラ保持部17には、押さえ板(図示せず)が設けられ、スプリング32の基端を押さえている。タンブラ保持孔18の後方側には、規制ピン保持孔19が形成されている。
このアウターケース12の材質は特に制限はないく、鋼や真鍮などの金属を採用できるが、防錆性やコストダウンの観点から合成樹脂の成形品が有利である。
(シリンダ21について)
【0016】
シリンダ21は、シリンダ本体22と、その後端側に設けられた作動部27とを備える。シリンダ本体22は、実質的に円柱状をなしており、収納空洞14の内部にてスムーズに回転するように収納されている。組み付けに際しては、後端側開口16から収納空洞14内に挿入されて、シリンダ本体22の前端面35が前端側開口15から露出する状態となる。この例では、前端側開口15の周囲に径内側に張り出す張り出し部20を設けて、その開口径をシリンダ本体22の前端よりも小さくすることで、上記の挿入が止まるようにしている。
【0017】
シリンダ本体22の長さは収納空洞14の長さと略等しいか収納空洞14より長くしている。これによって、シリンダ本体22の後端面36は後端側開口16から後方に露出している。
【0018】
シリンダ本体22には、その軸方向に鍵挿入孔24が形成されている。この鍵挿入孔24は、シリンダ本体22の前端面35に開口しており、この開口が鍵穴23となる。鍵挿入孔24の後端側は、シリンダ本体22の後端面36で閉じられている。この鍵挿入孔24から外周方向には複数のタンブラピン孔25が形成されている。タンブラピン孔25はシリンダ本体22の軸方向に配列して形成されているもので、シリンダ本体22の回転によって、タンブラピン孔25とタンブラ保持孔18とが合致する。タンブラピン孔25の後方には規制溝26が形成されている。この規制溝26は、シリンダ本体22の回転角度を規制するとともに、アウターケース12とシリンダ21との軸方向の位置決めをなすためのもので、シリンダ本体22の外周に周方向に所定長さ(角度)に渡って形成されている。組み付け状態で、規制溝26には、前述の規制ピン保持孔19に装着された規制ピン34の先端が位置する。この規制ピン34の規制を受けて、シリンダ21はアウターケース12に対して軸方向に移動不能となり、規制溝26の範囲内で、収納空洞14内で回動可能となる。
【0019】
シリンダ本体22の後端面36からさらに後方には、作動部27が突出形成されている。詳しくは、作動部27は、シリンダ本体22の後端面36から突出する突出部分28と、突出部分28の後方に設けられた係合部分29とを備える。突出部分28はシリンダ本体22のシリンダ本体22の断面積よりも小さく設定されている。これにより、シリンダ本体22の後端には、突出部分28と、突出部分28のない後端面36とが存在することになる。係合部分29は、後述の自転車錠41の閂用部材43に係合して閂44の作動を規制するためのものである。
【0020】
以上の構造のシリンダ錠11に、水抜き孔37が形成されている。この水抜き孔37は、その前端が鍵挿入孔24に開口し、その後端が後端面36に開口している。この後端面36は、前記収納空洞14の後端側開口16から後方側に露出しているため、鍵穴23から鍵挿入孔24内に入った水は、シリンダ本体22からアウターケース12の外部へきわめてスムーズに排出される。なお、水抜き孔37の後端は、シリンダ本体22の外周面に開口してもよいが、その開口位置はアウターケース12の後端側開口16よりも後方に突出した部分であることが望ましい。このように、アウターケース12の外側に水抜き孔37が開口することによって、鍵挿入孔24内の水は、直接シリンダ錠11の外に排出され、鍵挿入孔24は勿論シリンダ21と収納空洞14と間に溜まったりすることを防止できる。
【0021】
最後に、このシリンダ錠11と自転車錠41との関係を説明する。まずこの実施の形態の自転車錠41は、図4に示すように、いわゆる馬蹄錠で、周知の形態を備える。具体的には、一部が切り欠かかれた環状のケーシング42と、閂用部材43とを備える。閂用部材43は、ケーシング42内外を出没可能に配置された閂44と、この閂44をケーシング42内に引き入れて開錠状態にするためのスプリングと、スプリングの付勢に抗して人が閂44を引き出すためのつまみ45と、引き出した閂44を施錠状態位置に一時固定する固定部材47とを備える。この自転車錠41は、背面に設けられた取り付け金具によって、自転車のシートステイ51に対して、取り付けられる。そして、上記のシリンダ錠11は、その鍵穴23が正面を向くように組み付けられる。この取り付け状態では、自転車のシートステイが前上方から後下方に斜めに配置されているため、鍵穴23が自転車錠41の正面を向くように組み付けられる結果、鍵挿入孔24は、後上方から前下方に伸びるように配置される。そして、この鍵挿入孔24の奥に水抜き孔37の前端が開口しているため、鍵挿入孔24内の水は自重によって自然と水抜き孔37から外部に排出されるものである。なお、このシリンダ錠11は、その鍵穴23が自転車錠41の上面を向くように組み付けることもできる。この場合においても、水抜き孔37は下方に位置することになり、自重により自然と排出される。また、シリンダ錠11は、馬蹄錠に限らず他の形式の自転車錠にも適用でき、さらに、自転車錠に限らずチェーン錠やワイヤー錠などの他の錠前にも適用できる。
【符号の説明】
【0022】
11シリンダ錠
12アウターケース
13筒状部
14収納空洞
15前端側開口
16後端側開口
17タンブラ保持部
18タンブラ保持孔
19規制ピン保持孔
20張り出し部
21シリンダ
22シリンダ本体
23鍵穴
24鍵挿入孔
25タンブラピン孔
26規制溝
27作動部
28突出部分
29係合部分
30蓋部材
31タンブラピン
32スプリング
33押さえ板
34規制ピン
35前端面
36後端面
37水抜き孔
41自転車錠
42ケーシング
43閂用部材
44閂
45つまみ
47固定部材
51シートステイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納空洞を有するアウターケースと、前記収納空洞内で回転可能に配置されたシリンダとを備え、前記シリンダにはその前端面から後端側に向けて鍵挿入孔が形成されたシリンダ錠構造において、
前記内部空洞は、前端側開口と後端側開口と備え、
前記前端側開口を通して、前記シリンダの前端面の少なくとも前記鍵挿入孔が鍵穴として露出しており、
前記後端側開口から前記シリンダの後端側が突出しており、このアウターケースの前記内部空洞から突出した前記シリンダの後端側と、前記鍵挿入孔とを結んだ水抜き孔が、前記シリンダに形成されたことを特徴とするシリンダ錠構造。
【請求項2】
前記シリンダは、実質的に円柱状のシリンダ本体と、前記シリンダ本体の後端面からさらに後方に突出する作動部を備え、
前記作動部は、錠装置の閂用部材に係合して前記錠装置の閂の作動を規制する係合部分を備え、
前記作動部は、前記シリンダ本体の後端面から突出する突出部分と、前記突出部分の後方に設けられた前記係合部分とを備え、
前記突出部分は前記シリンダ本体の断面積よりも小さく、
前記突出部分のない後端面に前記水抜き孔の後端が開口しており、前記水抜き孔の前端が前記鍵挿入孔に開口していることを特徴とする請求項1記載のシリンダ錠構造。
【請求項3】
ケーシングと、ケーシングに配置された閂用部材とを備え、前記閂用部材は自転車のスポークに係合可能な施錠位置と係合不能な開錠位置との間を移動する閂と、前記閂を移動させる作動部材とを備え、
請求項1又は2記載のシリンダ錠構造が前記ケーシングに配置され、前記施錠位置にある前記閂用部材に前記係合部分が前記閂用部材に係合して、前記閂を前記施錠位置にて動かないようにすることを特徴とする自転車用錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−28906(P2013−28906A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164005(P2011−164005)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000166672)株式会社ゴリン (2)