説明

シリンダ錠

【課題】キーロータ内への異物の混入を抑制してタンブラ動作に悪影響を及ぼす虞を解消することができるシリンダ錠を提供する。
【解決手段】シリンダ錠1は、キー挿入側の端面に開口するカバー挿通孔9aを有するロータケース9と、ロータケース9内に回転可能に収容され、キー照合用のタンブラ5を移動可能に保持するタンブラ保持孔31を有するキーロータ3と、キーロータ3のキー挿入側端部に装着され、カバー挿通孔9aを挿通して外部に露出する露出部302aを有するロータカバー302とを備え、ロータカバー302は、露出部302aに正規キーKを挿通させるキー挿通孔303が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ錠に関し、特に車両用ドアパネル等のドアロック機構を施錠・解錠するためのシリンダ錠に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車等の車両には、例えばドアパネルのドアロック機構を施錠・解錠するためのシリンダ錠が組み込まれている。
【0003】
従来、この種のシリンダ錠には、ドアロック機構にリンクを介して連結され、マッチキー(正規キー)の差し込み(挿入)回転操作によって回転するキーロータを備えたものがある(特許文献1)。
【0004】
キーロータは、正規キーを挿抜するキー挿抜孔、及びキー照合用のタンブラを移動可能に保持するタンブラ保持孔を有し、ロータケース内に回転可能に保持され、かつキー挿入側端部がロータカバーによって覆われている。
【0005】
ロータケースは、キーロータを収容する収容空間を内部に有する円筒体によって形成されている。ロータケースには、そのキー挿入側端部をロータカバーの表側で覆うケースカバーが装着されている。
【0006】
通常、このようなシリンダ錠においては、キーロータのキー挿抜孔に正規キーが挿入された場合にキーロータの回転が許容されるが、正規キー以外の異物(例えばスクリュードライバ等)が挿入された場合にはタンブラの作用によってキーロータの回転が不能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−295933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すシリンダ錠によると、正規キーのキー挿抜孔への挿入に伴いキーロータがキー挿入方向に移動し、ロータカバーのキー挿入側端面(表面)とケースカバーのキー挿入側端面と反対側の端面(裏面)との間に空隙が形成される。この結果、キー挿入時に糸屑,塵埃等の異物が空隙からキーロータ内に混入し易くなり、キーロータ内への異物の滞留によってタンブラ動作に悪影響を及ぼす虞がある。
【0009】
従って、本発明の目的は、キーロータ内への異物の混入を抑制することができ、もってタンブラ動作に悪影響を及ぼす虞を解消することができるシリンダ錠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(3)のシリンダ錠を提供する。
【0011】
(1)キー挿入側の端面に開口するカバー挿通孔を有するロータケースと、前記ロータケース内に回転可能に収容され、キー照合用のタンブラを移動可能に保持するタンブラ保持孔を有するキーロータと、前記キーロータのキー挿入側端部に装着され、前記カバー挿通孔を挿通して外部に露出する露出部を有するロータカバーとを備え、前記ロータカバーは、前記露出部に正規キーを挿通させるキー挿通孔が設けられているシリンダ錠。
【0012】
(2)上記(1)に記載のシリンダ錠において、前記ロータカバーは、前記キー挿通孔の内面に突出し、かつ正規キーのキー溝に適合する凸部を有する。
【0013】
(3)上記(1)に記載のシリンダ錠において、前記ロータカバーは、前記キー挿通孔が正規キーに適合する内面を有する貫通孔によって形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、キーロータ内への異物の混入を抑制することができ、タンブラ動作に悪影響を及ぼす虞を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るシリンダ錠の全体を説明するために示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施の形態に係るシリンダ錠に対する正規キーの挿入回転操作を説明するために示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係るシリンダ錠に対する不正キーの挿入回転操作を説明するために示す断面図。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係るシリンダ錠の要部を説明するために示す正面図とA−A断面図。(a)は正面図を、また(b)は断面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[実施の形態]
〔シリンダ錠の全体構成〕
図1はシリンダ錠を示す。図1において、符号1で示すシリンダ錠は、外装部材としてのロータケース2と、正規キーK(図2に示す)の挿入回転操作によって回転するキーロータ3と、このキーロータ3の回転によって回転可能な第1スリーブ4と、この第1スリーブ4に係脱可能なキー照合部材としての複数のタンブラ5(図2に示す)と、これら複数のタンブラ5の第1スリーブ4に対する係合状態において第1スリーブ4の回転によってキー挿入側と反対側に移動するスライド部材6と、このスライド部材6のキー挿入側と反対側への移動によってキーロータ3から離脱される第2スリーブ7と、この第2スリーブ7の回転に連動して回転するレバー部材8(図2に示す)とから大略構成されている。
【0017】
(ロータケース2の構成)
図2及び図3はシリンダ錠へのキー挿入状態を示す。図2及び図3に示すように、ロータケース2は、各内外径が互いに異なる3つの第1胴部20〜第3胴部22、及びこれら第1胴部20〜第3胴部22のうち第1胴部20の周囲に突出する取付用フランジ23を有し、正規キーKの挿入側(図2では左方向)及びこの挿入側と反対側(図2では右方向)に開口する略円筒体によって形成されている。そして、ロータケース2は、例えば車両用ドアパネル(図示せず)に取付用フランジ23を介して取り付けられている。
【0018】
ロータケース2には、キー挿入側と反対側(レバー部材側)を指向し、かつスライド部材6のキー挿入側開口端面(摺動面)に対向する段状面24が円周方向に沿って設けられている。
【0019】
段状面24は、第1胴部20の内周面と第2胴部21の内周面との間に介在して配置されている。段状面24には、円周方向に等間隔(180°)をもって互いに並列する一対の凸部25が設けられている。
【0020】
一対の凸部25の各円周方向両端面は、その幅方向寸法がキー挿入側からその反対側に向かって小さくなる傾斜面でそれぞれ形成されている。各凸部25の先端面は、スライド部材6の摺動面(後述)を摺動可能に支持する支持面としての扁平面で形成されている。
【0021】
ロータケース2のキー挿入側端部にはキー挿入側端面に開口するカバー挿通孔9aを有するケースカバー9が、またロータケース2のキー挿入側端部と反対側の端部にはスイッチユニット10がそれぞれ装着されている。
【0022】
(キーロータ3の構成)
キーロータ3は、ロータケース2内にその軸線回りに回転可能に収容され、全体が略円筒状の例えば亜鉛ダイキャスト部材によって形成されている。そして、キーロータ3は、正規キーKの挿入回転操作によって回転するように構成されている。なお、図3において、符号Bは不正キーを示す。
【0023】
キーロータ3には、キー挿入側の端面に軸線に沿って開口し、かつ正規キーKを挿抜可能なキー挿抜孔30が設けられている。また、キーロータ3には、軸線方向に並列し、かつ径方向に開口する複数のタンブラ保持孔31が設けられている。
【0024】
複数のタンブラ保持孔31のうち互いに隣り合う2つのタンブラ保持孔は、キーロータ3の軸線方向に互いにずれ、かつ円周方向に等間隔(180°)をもって配置されている。
【0025】
キーロータ3の外周面には、その径方向に突出し、かつ円周方向に等間隔(180°)をもって互いに並列する一対のスリーブ連結用の凸部32が設けられている。また、キーロータ3の外周面には、一対の凸部32のキー挿入側にキーロータ抜け止め用のプレート300に嵌合する環状の第1凹溝33、及び一対の凸部32のキー挿入側と反対側にレバー部材抜け止め用のワッシャ301に嵌合する環状の第2凹溝34が設けられている。
【0026】
キーロータ3のキー挿入側端部には、そのキー挿入側端面を覆うロータカバー302が、またこのロータカバー302の裏面(内面)側からキー挿通孔303を開閉可能なシャッタ部材304がそれぞれ装着されている。
【0027】
シャッタ部材304は、復帰用スプリング305によってキー挿通孔303を閉塞する方向のばね力が付与されている。ロータカバー302の詳細については後述する。
【0028】
(第1スリーブ4の構成)
第1スリーブ4は、ロータケース2の内周面とキーロータ3の外周面との間に軸線回りに回転可能に配置され、全体が段状の略円筒体によって形成されている。
【0029】
第1スリーブ4のキー挿入側端部には、複数のタンブラ5を係脱するタンブラ係合孔40(図1に示す)が設けられている。第1スリーブ4のキー挿入側端部と反対側の端部には、円周方向に等間隔(180°)をもって並列し、かつスライド部材6を軸線方向に案内する一対のガイド41(一方のみ示す)が設けられている。また、第1スリーブ4のキー挿入側端部と反対側の端部には、キーロータ抜け止め用のプレート300を挿通させるプレート挿通孔42が設けられている。
【0030】
(複数のタンブラ5の構成)
複数のタンブラ5は、それぞれがタンブラ係合孔40(図1に示す)に係脱可能に配置され、かつタンブラ保持孔31に移動可能に保持されている。そして、複数のタンブラ5は、第1スリーブ4(タンブラ保持孔31)に対して係合する方向に復帰用スプリング(図示せず)のばね力が付与されている。
【0031】
複数のタンブラ5には、正規キーKに対応する挿通孔(図示せず)、及びこの挿通孔の内面に突出する凸部(図示せず)が設けられている。これにより、正規キーKがキーロータ3のキー挿抜孔30への挿入操作によってタンブラ5の各挿通孔に挿通されると、これら各挿通孔内の凸部に対する正規キーK(キー溝壁)の押し付けによってタンブラ5がキーロータ3の径方向(軸線側)に移動してタンブラ係合孔40との係合を解除し、キーロータ3と第1スリーブ4とが互いに独立して移動可能な状態となる。また、正規キーKがキーロータ3のキー挿抜孔30からの引き抜き操作によってタンブラ5の各挿通孔から引き抜かれると、これら各挿通孔内の凸部に対する正規キーK(キー溝壁)の押し付け解除によってタンブラ5がキーロータ3の径方向(軸線から離間する側)に移動してタンブラ係合孔40に係合し、キーロータ3と第1スリーブ4とが互いに従属して移動可能な状態となる。
【0032】
(スライド部材6の構成)
スライド部材6は、第2スリーブ7のキー挿入側に配置され、かつ第1スリーブ4の外周面に軸線方向に移動可能に保持され、全体がキー挿入側に開口する有底略円筒体によって形成されている。そして、スライド部材6は、タンブラ5が第1スリーブ4のタンブラ係合孔40に係合された状態において第1スリーブ4の回転によって回転し、復帰用スプリング307のばね力に抗して軸線方向(レバー部材側)に移動して第2スリーブ7を押し付け、キーロータ3(凸部32)から第2スリーブ7を離脱するように構成されている。また、スライド部材6は、第1スリーブ4の回転復帰によって回転し、復帰用スプリング307のばね力によって軸線方向(レバー部材8と反対側)に移動して第2スリーブ7に対する押し付けを解除し、キーロータ3(凸部32)に第2スリーブ7を係止するように構成されている。
【0033】
スライド部材6には、その底部を軸線方向両側に沿って開口し、かつキーロータ3を挿通させるキーロータ挿通孔60が設けられている。スライド部材6の内周部には、円周方向に互いに並列し、かつ第1スリーブ4の各ガイド41に移動可能に嵌合する一対の凹溝61(図1に示す)が設けられている。
【0034】
スライド部材6のキー挿入側開口端面は、ロータケース2の段状面24(凸部25の扁平面)に対向する摺動面62で形成されている。スライド部材6のキー挿入側開口端部には、各凹溝61から円周方向に等間隔(90°)をもって互いに並列し、かつロータケース2(段状面24)の凸部25にそれぞれ嵌合可能な一対の切り欠き凹部63が設けられている。
【0035】
切り欠き凹部63の円周方向内面は、ロータケース2(凸部25)の傾斜面と共にカム機構(第1スリーブ4の回転によって第2スリーブ7をキーロータ3から離脱する方向にスライド部材6を移動させる機構)として機能する傾斜面で形成されている。
【0036】
(第2スリーブ7の構成)
第2スリーブ7は、ロータケース2内に回転・移動可能に配置され、かつキーロータ3のキー挿入側端部と反対側の端部に係脱可能に連結され、全体がキーロータ3を挿通させる略円筒体によって形成されている。そして、第2スリーブ7は、タンブラ5が第1スリーブ4(タンブラ係合孔40)から離脱された状態において、第1スリーブ4(キーロータ3)の回転による回転によって施錠・解錠用のレバー部材8を回転させるように構成されている。また、第2スリーブ7は、タンブラ5が第1スリーブ4(タンブラ係合孔40)に係合された状態において、第1スリーブ4の回転によってスライド部材6のレバー部材側端面をキー挿入側開口端面に摺接させ、スライド部材6を第1スリーブ4及びキーロータ3と共に回転(空回り)させるように構成されている。
【0037】
第2スリーブ7のキー挿入側開口内部には、その内周面及びキー挿入側に開口し、かつキーロータ3の凸部32に嵌合可能なキーロータ連結用の切り欠き凹部70(図1に示す)が設けられている。第2スリーブ7のキー挿入側端部には、その外周面に突出する環状のフランジ71が突設されている。フランジ71の外周縁には、第2スリーブ7の外周面及び軸線方向に開口し、かつロータケース2(第3胴部22)の凸部(図示せず)に嵌合可能な位置決め用の切り欠き72(図1に示す)が設けられている。
【0038】
第2スリーブ7のキー挿入側端部と反対側の端部には、キー挿入側と反対側に突出し、かつレバー部材8に回転力(駆動力)を伝達する3つの回転力伝達片73(2個のみ図示)が円周方向に等間隔(120°)をもって並設されている。
【0039】
(レバー部材8の構成)
レバー部材8は、ロータケース2内に回転可能に収容され、かつキーロータ3のキー挿入側端部と反対側の端部にワッシャ301によって装着されている。そして、レバー部材8は、第2スリーブ7の回転によって回転し、連結部83を介して車両等のドアロック機構(図示せず)の施錠・解錠を行うように構成されている。
【0040】
レバー部材8の中央部にはキーロータ3のキー挿入側端部と反対側の端部を挿通させるキーロータ挿通孔80が、またこのキーロータ挿通孔80の周囲には第2スリーブ7の回転力伝達片73を挿入する受孔81(1個のみ示す)がそれぞれ設けられている。
【0041】
レバー部材8の端縁には、円周方向に所定の間隔をもって互いに並列し、かつスイッチユニット10をスイッチON・OFF状態とする一対のスイッチ接触子82(1個のみ図示)が突設されている。
【0042】
レバー部材8の底面と第2スリーブ7のレバー部材側フランジ端面との間には、第2スリーブ7の外周囲に位置し、かつスライド部材6に対してその摺動面62をロータケース2の段状面24に接近させる方向のばね力を付与する復帰用スプリング307が装着されている。
【0043】
次に、ロータカバー302につき、図4(a)及び(b)を用いて説明する。図4(a)及び(b)はロータカバーを示す。図4(a)及び(b)に示すように、ロータカバー302は、キーロータ3の装着部に対応する被装着部としての基部302a、カバー挿通孔9aを挿通して外部に露出する露出部302b、及び露出部302bと基部302aとの間に介在する段状部302cを有し、全体がキー挿入方向に開口する有底略円筒体によって形成されている。
【0044】
基部302aは、露出部302bの外径よりも大きい外径をもつ弾性変形可能な円筒部によって形成されている。
【0045】
露出部302bは、カバー挿通孔9aの内周面に適合する外周面をもつキャップ部によって形成されている。
【0046】
露出部302bには、正規キーKを挿通させるキー挿通孔303が設けられている。これにより、図4(b)に二点鎖線で示すように、正規キーKのキー挿抜孔30への挿入に伴いキーロータ3がキー挿入方向に移動し、ロータカバー302のキー挿入側端面(表面)とケースカバー9のキー挿入側端面と反対側の端面(裏面)との間に空隙Gが形成されても、キー挿通孔303の内周面と露出部302bの外周面との間に形成される空隙g(g<G)が小さいため、キー挿入時に糸屑,塵埃等の異物が空隙gを通過し難くなり、空隙gからキーロータ3内への異物の混入が抑制される。
【0047】
キー挿通孔303は、正規キーKの断面形状に適合する開口面形状をもつ貫通孔によって形成されている。このため、キー挿通孔303には、その内面に突出し、かつ正規キーKのキー溝kに適合する凸部303aが形成されている。これにより、キー挿入時にキー溝k内の異物を凸部303aでキー挿入方向と反対の方向に掻き出すことができる。
【0048】
凸部303aは、突出高さがキー溝kの溝深さに、幅がキー溝kの溝幅に、また長さがキー挿通孔303の軸線方向長にそれぞれ設定されている。
【0049】
段状部302cは、そのキー挿入側端面がケースカバー9におけるカバー挿通孔9aの裏側開口周縁に対向する略扁平部によって形成されている。
【0050】
〔シリンダ錠1の動作〕
次に、本発明の実施の形態に係るシリンダ錠の動作につき、図2及び図3を用いて説明する。
【0051】
ドアロック機構(図示せず)を施錠状態から解錠状態に切り替えるには、正規キーKをロータケース2(ロータカバー302)のキー挿通孔303に挿通させるとともに、キーロータ3のキー挿抜孔30に挿入する。この場合、正規キーKがキーロータ3のキー挿抜孔30に挿入されると、タンブラ5が第1スリーブ4のタンブラ係合孔40に対する係合状態からキーロータ3の径方向(係合状態を解除する方向)に移動して第1スリーブ4のタンブラ係合孔40から離脱され、キーロータ3が第1スリーブ4から独立して回転可能な状態となる。
【0052】
次に、ドアロック機構の施錠状態を解除する方向に正規キーKを回転操作する。この場合、正規キーKが回転すると、この回転力が第2スリーブ7及びレバー部材8等を介してドアロック機構に伝達され、これに伴いドアロック機構が施錠状態から解錠状態に切り替えられる。
【0053】
ここで、ドアロック機構の施錠状態において、キーロータ3のキー挿抜孔30に例えば不正キーBやドリルが挿入され、この状態で不正キーB等によってキーロータ3を回転操作すると、タンブラ5が第1スリーブ4のタンブラ係合孔に対する係合状態が維持されたままであるため、第1スリーブ4がキーロータ3と共に回転される。
【0054】
この場合、第1スリーブ4が回転すると、スライド部材6が第1スリーブ4と共に回転するため、スライド部材6の切り欠き凹部63がロータケース2の凸部25に対する嵌合状態からロータケース2の凸部25に対する嵌合を解除する離脱状態となる位置に向かって円周方向に変位し、これに伴い切り欠き凹部63の傾斜面がロータケース2(凸部25)の傾斜面上を凸部25の扁平面(先端面)に向かって変位する。これにより、スライド部材6がロータケース2の段状面24から離間する方向に第1スリーブ4の外周面上をガイド41に沿って(復帰用スプリング307のばね力に抗して)移動し、第2スリーブ7をレバー部材側(キーロータ3から離脱する方向)に押し付ける。
【0055】
次に、第2スリーブ7がスライド部材6からレバー部材側に押し付け力を受けると、その押し付け方向(キー挿入方向)に移動してキーロータ3の凸部32と第2スリーブ7の切り欠き凹部70との嵌合状態が解除される。
【0056】
そして、ロータケース2(凸部25)の先端面にスライド部材6の摺動面62が乗り上げ、この状態で第1スリーブ4がロータケース2に対して回転すると、スライド部材6がその摺動面62をロータケース2(凸部25)の先端面上に摺接させて第1スリーブ4と共に第2スリーブ7(レバー部材8)に対して空回りする。これにより、レバー部材8が回転されないため、ドアロック機構の施錠・解錠が行われない。この場合、キーロータ3が第1スリーブ4と共に回転するため、不正キーB等の回転によってタンブラ5に過負荷が加わらず、タンブラ5の変形(破壊)発生が防止される。
【0057】
一方、ドアロック機構(図示せず)を解錠状態から施錠状態に切り替えるには、ドアロック機構を施錠状態から解錠状態に切り替える場合と同様に正規キーKをロータケース2(ロータカバー302)のキー挿通孔303に挿通させるとともに、キーロータ3のキー挿抜孔30に挿入する。この場合、正規キーKがキーロータ3のキー挿抜孔30に挿入されると、タンブラ5が第1スリーブ4のタンブラ係合孔40に対する係合状態からキーロータ3の径方向(係合状態を解除する方向)に移動して第1スリーブ4のタンブラ係合孔40から離脱され、キーロータ3が第1スリーブ4から独立して回転可能な状態となる。
【0058】
次に、ドアロック機構を施錠する方向に正規キーKを回転操作する。この場合、正規キーKが回転すると、この回転力が第2スリーブ7及びレバー部材8等を介してドアロック機構に伝達され、これに伴いドアロック機構が解錠状態から施錠状態に切り替えられる。
【0059】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0060】
(1)空隙gからキーロータ3内への異物の混入が抑制され、タンブラ動作に悪影響を及ぼす虞を解消することができる。
【0061】
(2)キー挿入時にキー溝k内の異物を凸部303aでキー挿入方向と反対の方向に掻き出すことができ、キーロータ3内への異物の混入を一層効果的に抑制することができる。
【0062】
以上、本発明のシリンダ錠を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0063】
上記実施の形態では、凸部303aの長さがキー挿通孔303の軸線方向長に設定されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、キー挿通孔の軸線方向長よりも小さい長さをもつ凸部であってもよい。この場合、キー溝の異物を外部に効果的に掻き出すためには、キー挿通孔のキー挿入側に凸部が設けられていることが好ましい。
【0064】
また、上記実施の形態では、自動車用ドアパネルにおけるドアロック機構に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、他のドアパネルにおけるドアロック機構に適用する場合であってもよく、またドアロック機構以外のロック機構にも上記実施の形態と同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…シリンダ錠、2…ロータケース、20…第1胴部、21…第2胴部、22…第3胴部、23…取付用フランジ、24…段状面、25…凸部、3…キーロータ、30…キー挿抜孔、31…タンブラ保持孔、32…スリーブ連結用の凸部、33…第1凹溝、34…第2凹溝、4…第1スリーブ、40…タンブラ係合孔、41…ガイド、42…プレート挿通孔、5…タンブラ、6…スライド部材、60…キーロータ挿通孔、61…凹溝、62…摺動面、63…切り欠き凹部、7…第2スリーブ、70…切り欠き凹部、71…フランジ、72…切り欠き、73…回転力伝達片、8…レバー部材、80…キーロータ挿通孔、81…受孔、82…スイッチ接触子、83…連結部、9…ケースカバー、9a…カバー挿通孔、10…スイッチユニット、300…キーロータ抜け止め用のプレート、301…レバー部材抜け止め用のワッシャ、302…ロータカバー、302a…基部、302b…露出部、302c…段状部、303…キー挿通孔、303a…凸部、304…シャッタ部材、305,307…復帰用スプリング、G,g…空隙、K…正規キー、k…キー溝、B…不正キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キー挿入側の端面に開口するカバー挿通孔を有するロータケースと、
前記ロータケース内に回転可能に収容され、キー照合用のタンブラを移動可能に保持するタンブラ保持孔を有するキーロータと、
前記キーロータのキー挿入側端部に装着され、前記カバー挿通孔を挿通して外部に露出する露出部を有するロータカバーとを備え、
前記ロータカバーは、前記露出部に正規キーを挿通させるキー挿通孔が設けられている
シリンダ錠。
【請求項2】
前記ロータカバーは、前記キー挿通孔の内面に突出し、かつ正規キーのキー溝に適合する凸部を有する請求項1に記載のシリンダ錠。
【請求項3】
前記ロータカバーは、前記キー挿通孔が正規キーに適合する内面を有する貫通孔によって形成されている請求項1に記載のシリンダ錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31649(P2012−31649A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172611(P2010−172611)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)