説明

シロップの製造方法

【課題】アラビノキシランとβ−グルカンを共に含むシロップを製造できる方法を提供すること。
【解決手段】アラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップの製造方法であって、穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱して、前記穀類由来原料に含まれるアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化工程を備える、シロップの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦等の穀類を主原料とするシロップ(水飴)は、甘みと旨みのバランスが良い自然食品であり、発酵食品等の加工食品やアルコール飲料等の飲料の原料として利用されている。このようなシロップとしては、例えば、大麦を原料とする、高濃度のアミノ酸を含有する大麦シロップ(特許文献1)や、β−グルカンに富む大麦シロップ(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−262839号公報
【特許文献2】特開2009−050231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
β−グルカンに加え、穀類の細胞壁構成成分である中性デタージェント繊維(ヘミセルロースやリグニン等)の主要成分であるアラビノキシランをも含むシロップは、β−グルカンの機能性に加えて、アラビノキシランの機能性をも有することが期待される。しかしながら、これまで、アラビノキシランとβ−グルカンを共に可溶化する方法は知られていない。
【0005】
そこで本発明は、アラビノキシランとβ−グルカンを共に含むシロップを製造できる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップの製造方法であって、穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱して、上記穀類由来原料に含まれるアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化工程を備える、シロップの製造方法を提供する。
【0007】
上記製造方法によって、可溶化したアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に含むシロップの製造が可能となる。また、上記可溶化工程は、0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱するという簡易な操作のみで構成されているため、製造コストを低減することができる。
【0008】
上記製造方法においては、上記穀類由来原料は、上記穀類の種子を含むことが好ましい。穀類の種子にはアラビノキシラン及びβ−グルカンが多く含まれているため、より効率よくアラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップを製造することができる。
【0009】
上記製造方法においては、上記穀類が大麦であることが好ましい。大麦に代表されるイネ科植物には、アラビノキシランが多く含まれているため、さらに効率よくアラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップを製造することができる。
【0010】
上記可溶化工程における加熱は、オートクレーブで行われることが好ましい。本発明の製造方法は、植物繊維を加水分解する酵素を使用していないため、生体分子の機能が阻害されるような高温に加熱することが可能である。オートクレーブでこのような高温の加熱を行うことにより、より短時間でアラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップを製造することが可能となる。
【0011】
さらに、本発明は、穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱することを含む、上記穀類由来原料中のアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化方法ということもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アラビノキシランとβ−グルカンを共に可溶化することができ、簡易な操作で、アラビノキシランとβ−グルカンを共に含むシロップを製造することができる。
【0013】
また、本発明の製造方法は、可溶化工程において酵素を使用する必要がないため、生命活動を超えた温度での処理が可能である。さらに、可溶化工程は、0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱するという簡易な操作のみで構成されているため、シロップの製造コストを著しく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例3の沈澱の乾燥重量、アラビノキシラン量及びβ−グルカン濃度の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例4の沈澱の乾燥重量、アラビノキシラン量及びβ−グルカン濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本発明のアラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップの製造方法は、穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱して、上記穀類由来原料に含まれるアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化工程を備えるものである。
【0017】
アラビノキシランの可溶化を、アラビノキシランやキシランを加水分解する酵素であるキシラナーゼや、ヘミセルラーゼ(ペクチナーゼ、キシラナーゼを含む)を用いて酵素的に行うと、可溶性β−グルカンが得られないという問題がある。この原因は明らかではないが、混在するβ−グルカナーゼ活性により、β−グルカンがグルコース単位にまで分解されることによるものと考えられる。これは、酵素によってアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化することが非常に困難であることを意味している。
【0018】
本発明の製造方法は、可溶化工程において、穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱することにより、アラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化することができるものであり、酵素を使用する必要がない。このため、酵素が活性を喪失するような、生命活動を超えた温度での加熱処理が可能である。
【0019】
アルカリは、水に溶解して水酸化物イオンを生成するものであればよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムとすることができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウムであることが好ましい。
【0020】
アルカリは0.02N以上であれば、アラビノキシラン及びβ−グルカンと共に可溶化することができる。アラビノキシランの可溶化量を増加させる観点からは、アルカリは0.04N以上であることが好ましく、0.05N以上であることがより好ましく、1.0N以上であることが更に好ましい。一方、アラビノキシランとβ−グルカンの可溶化量を同程度にするという観点からは、アルカリは1.0N以下であることが好ましく、また、0.04N以上であることが好ましい。
【0021】
加熱の方法には特に限定はなく、例えば、穀類由来原料及びアルカリを含む水溶液を、大気圧下で、温度を40℃以上にすることによって行うことができる。温度には特に限定はなく、40℃以上沸点以下で任意に設定することができるが、温度が高い程、アラビノキシラン及びβ−グルカンの可溶化に要する時間を短縮することができ、また、可溶化効率を向上させることができる。したがって、温度は、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃又は上記水溶液の沸点であることが更に好ましい。
【0022】
また、上述の大気圧下での加熱方法では、可溶化工程における加熱時間は、温度、反応スケール等に合わせて適宜調整すればよい。例えば、温度60℃で加熱する場合は、加熱時間を1時間以上とすることができ、アラビノキシランとβ−グルカンの可溶化量をより増やす観点からは、加熱時間を3時間以上とすることが好ましい。
【0023】
加熱はまた、オートクレーブを用いて行うことが好ましい。オートクレーブは、水を加熱して高圧の水蒸気とするため、加熱の温度を100℃を超えるものにすることができる。例えば、2気圧の飽和水蒸気によって温度を121℃にすることができる。これにより、対象物の水分を保持したまま、大気圧下よりも短時間で効率よく可溶化工程を実施することができる。
【0024】
オートクレーブを用いる場合、温度には、特に限定はなく、例えば、100℃〜121℃の間で任意に設定することができるが、温度が高い程、アラビノキシラン及びβ−グルカンの可溶化に要する時間を短縮することができ、また、可溶化効率を向上させることができる。したがって、温度は、105℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。また、加熱時間は、5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、30分以上であることが更に好ましい。オートクレーブによる加熱は、例えば、120℃で30分との条件で行うことができる。
【0025】
可溶化工程に供する穀類由来原料の濃度は、アルカリ水溶液全量に対して、好ましくは0.5〜8.4質量%、より好ましくは1.0〜5.0質量%、更に好ましくは2.0〜4.0質量%である。濃度が高すぎると可溶化効率が低下する傾向にあり、また濃度が低すぎるとスループットが低下する傾向にある。
【0026】
可溶化工程は、バッチ式でも連続式でもよい。バッチ式の場合、可溶化工程中、適宜攪拌するのが好ましい。連続式の場合、予め穀類由来原料及びアルカリ水溶液を混合し、ポンプで送液しながら所定の温度、滞留時間で加熱することによって行うことができる。
【0027】
本発明の製造方法は、上記可溶化工程の前に穀類由来原料を粉末状になるように粉砕処理する前処理工程を備えていてもよい。粉砕処理は、穀類由来原料が所望の大きさ以下の粒状又は粉状(微粉末状)になるように穀類由来原料を砕けばよく、粉砕機を用いて行うこともできるし、手動で行うこともできる。例えば、粉砕機として岩谷産業(株)製、Labo Milser,IFM−800,LM−PLVSを用い、粉砕容器に入れた穀類を、30秒間粉砕−10秒間休止を1サイクルとして5回繰り返すこと等により、穀類由来原料を微粉末化することができる。前処理工程を備えることにより、可溶化工程において、アラビノキシラン及びβ−グルカンの可溶化効率がより向上する。
【0028】
本発明の製造方法はまた、可溶化工程で得られたシロップから不溶部を除去する後処理工程を備えていてもよい。不溶部の除去は、遠心分離、濾過又はフィルタープレスにより行うことができる。加えて、可溶部に対してケイソウ土、活性炭等を助剤とした濾過を行ってもよい。さらに、その後、可溶部の精密濾過を行って精製してもよい。
【0029】
また、本発明の製造方法によって得られたシロップは、適宜処理して用途に適した状態とすることができる。このような処理としては、例えば、pH調整、濃縮処理や殺菌・粉末化処理が挙げられる。
【0030】
本発明の製造方法によって得られるシロップは、β−グルカンに加え、アラビノキシランを含む。また、高濃度のアラビノキシランを含むものとすることができる。このため、β−グルカンの機能性に加えて、アラビノキシランの機能性も付与されたシロップとすることができ、これらの機能性に基づいて、例えば、コレステロール低減、腹腔内脂肪蓄積抑制、腹腔内脂肪細胞肥大化抑制等のために用いることができる。
【0031】
本発明の製造方法によって得られるシロップは、β−グルカンとアラビノキシランとを、質量比で、1:0.5〜1:5.0で含むものとすることができる。シロップに含まれるアラビノキシランの量は、可溶化工程におけるアルカリ濃度で調節することもでき、例えば、アルカリを1N以上で調節することによって、β−グルカンとアラビノキシランとを、質量比で、1:2.0〜1:4.5で含むシロップとすることができる。また、例えば、アルカリを1N未満で調節することによって、β−グルカンとアラビノキシランとを、質量比で、1:0.5〜1:2.0で含むシロップとすることができる。
【0032】
上記シロップは、例えば、パン、ヨーグルト、チーズ、菓子、スナック類等の固形食材、味醂、酢、味噌、醤油、バター等の調味料、及び清涼飲料水、清酒、ビール、発泡酒、焼酎等の飲料等の食品に添加して用いることができる。
【0033】
また、上記シロップは、発酵培地として用いることで、原料となる穀類の機能性物質を活かした新たな発酵食品を製造することができる。
【0034】
本発明の製造方法に用いる穀類由来原料としては、例えば、穀類の種子、茎、葉、根を含むものとすることができる。中でも、β−グルカン及びアラビノキシランを多く含むことから、種子を含むものであることが好ましい。穀類由来原料は、これらを複数含むものであってもよい。
【0035】
また、穀類としては、アラビノキシランをヘミセルロースとして多く含むことから、イネ科植物に由来するものが好ましい。例えば、穀類として、麦芽、大麦、米、コーン等が挙げられる。
【0036】
本発明はまた、穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱することを含む、上記穀類由来原料中のアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化方法にも関する。上述した本発明の製造方法の実施形態は、適宜本発明の可溶化方法にも適用することができる。例えば、上記可溶化方法においては、上述したシロップの製造方法と同様に、穀物由来原料を予め粉砕処理しておいてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0038】
〔比較例1〕
ヘミセルロース分解酵素によって、アラビノキシラン及びβ−グルカンの可溶化を行った。
【0039】
(大麦種子の粉砕)
大麦種子約20gを粉砕容器に入れ、粉砕機(岩谷産業(株)製,Labo Milser,IFM−800,LM−PLVS)で30秒間粉砕−10秒間休止のサイクルを5回繰り返した。得られた微粉末を大麦粉砕物とした。
【0040】
(シロップの製造)
大麦粉砕物(3.75g)に蒸留水(30ml)、α−アミラーゼ(3.75mg)、β−アミラーゼ(3.75mg)、プロテアーゼ(3.75mg)、プルラナーゼ(SBP)(4μl)及びヘミセルロース分解酵素(表1参照)を加え、120rpmで攪拌しながら60℃で24時間保温した。酵素処理後、スラリーを8,000rpmで遠心分離して不溶物を除去した後、上清を東洋濾紙#2で濾過して得られた濾液をシロップとした。なお、ヘミセルロース分解酵素は、Pectinex ULTRAとPectinex 3000XLは各10μl、その他は各3.75mg添加した。
【表1】

【0041】
(アラビノキシランの測定)
製造したシロップを3倍量の冷99%エタノールを加えて氷冷中に1時間保持した。5,000rpm、20分間遠心分離して、生成した不溶物の沈殿を得た。沈殿を冷99%エタノールで2度洗浄した。得られた沈殿は60℃、18時間乾燥後、アラビノキシラン含量の測定に供した。沈殿1gに5N塩酸30ml、99%エタノール2mlを加え、95℃、1時間保温した。反応終了後不溶物を東洋濾紙No.2にて濾過し、濾液を試料とした。ろ液0.4mlに水1.4ml、5N塩酸に溶かした0.1%塩化第2鉄溶液を5ml、99%エタノールに溶かした1%オルシノール溶液を0.5ml加え95℃、30分間呈色反応させた。日立U−3210形自記分光光度計で660nmと590nmの吸光度差を測定し、標準の検量線から含量を求めた。なお標準アラビノキシランは、MegaZyme社製Wheat Arabinoxylanを用いた。
【0042】
(β−グルカンの測定)
製造したシロップを0.45μmフィルターで濾過した後に、20℃の測定室で、以下の装置を用いてβ−グルカン濃度を測定した。
・高圧ポンプ2台:
Shodex(昭和電工社)DS−4(水1.0mL/分);
HITACHI L−6000 Pump(反応液2.0mL/分)
・オートサンプラー:
No.1:システムインスツルメンツ社 オートサンプラ モデルAS−09;
No.2:システムインスツルメンツ社 オートサンプラ モデル33
・蛍光検出器:島津高速液体クロマトグラフ用分光蛍光検出器RF−10AXL(励起波長360nm,蛍光波長420nm)
・カラム恒温槽:Shodex(昭和電工社) OVEN AO−30C
・脱気装置:イーアールシー社 ERC−3215
・データ処理機:システムインスツルメンツ社 Chromatocorder21
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのテフロン(登録商標)チューブを径7cmに丸巻き
・ゲル濾過カラム:Shodex SUGAR BT−603
カラムサイズ:6φ×50mm
カラム末端接続ネジ:オシネジ型,No.10−32UNF
カラム材質:SUS 316
充填剤:ポリヒドロキシメタクリレート
排除限界分子量:1×10(プルラン)
【0043】
種々のヘミセルロース分解酵素添加によって可溶化した、シロップ中のアラビノキシラン濃度、β-グルカン濃度を表2に示した。
【表2】

【0044】
水可溶性のβ−グルカンは、Pentopan MONO添加(2.62mg/ml)、Pectinex ULTRA添加(0.01mg/ml)の場合のみ有意に検出され、これら以外のヘミセルロース分解酵素添加の場合には検出限界以下であった。
【0045】
水可溶性のアラビノキシランは、セルロシンHC−100添加(1.27mg/ml)とセルロシンTP−25添加(1.16mg/ml)の場合のみ有意に検出され、これら以外のヘミセルロース分解酵素添加の場合には検出限界以下であった。
【0046】
以上の通り、ヘミセルロース分解酵素を用いた方法では、水可溶性のβ−グルカン及びアラビノキシランを同時に可溶化することはできなかった。
【0047】
〔実施例1〕
アルカリ(水酸化カリウム)水溶液中で加熱することによってアラビノキシラン及びβ−グルカンの可溶化を行った。
【0048】
(シロップの製造)
大麦粉砕物(1.25g)に種々の濃度の水酸化カリウム溶液(15ml)を加え、120℃、30分間オートクレーブした。冷却し、試料に水を15ml加え、8,000rpm、10分間遠心分離して不溶物を除去した後、上清を東洋濾紙#2で濾過して得られた濾液をシロップとした。このシロップに対し、上述した方法により、アラビノキシラン濃度及びβ−グルカン濃度を測定した。
【0049】
結果を表3に示した。
【表3】

【0050】
水酸化カリウム濃度が0.02N以上のときに、水可溶性アラビノキシランが得られた。水酸化カリウム濃度が1.0Nのときに水可溶性アラビノキシランの濃度が最大値12.7mg/mlを示し、3.0N(12.0mg/ml)、5.0N(12.2mg/ml)と濃度を上げても水可溶性アラビノキシランの濃度は増加しなかった。一方、水可溶性β−グルカンは水酸化カリウム全濃度において得られ、水酸化カリウム濃度が0.1Nのときに最大値4.82mg/mlを示し、それ以上の濃度のときに若干低下した。この水可溶性β−グルカンの減少は、β−グルカン分子が熱アルカリ処理中に分解(低分子化)されたものと考えられる。
【0051】
また、大麦種子全体に含まれるアラビノキシランは、約13.8%(w/w)であったことから、1.0N水酸化カリウムを用いた熱処理によって、種子全体に含まれるアラビノキシランの94%程度が抽出され、可溶化された。得られた可溶性アラビノキシランは、70%エタノール沈澱による沈澱画分への分配率が98%であった。このことは、得られた可溶性アラビノキシランはほとんどが高分子として存在していることを示している。
【0052】
〔実施例2〕
アルカリを1N水酸化ナトリウム、1N水酸化カリウム、1N水酸化カルシウム、1N炭酸カリウムとした以外は実施例1と同様にしてシロップを製造した。得られたシロップを70%エタノール沈澱し、沈澱の乾燥重量、沈澱に含まれるアラビノキシラン量、上清中に含まれるβ−グルカンの濃度を測定した。
【0053】
表4に、沈澱の乾燥重量(シロップ製造に用いた大麦粉砕物の重量に対する沈澱の乾燥重量の比)、アラビノキシラン量(沈澱の乾燥重量に対する沈澱に含まれるアラビノキシランの重量の比)、アラビノキシラン回収率(シロップ製造に用いた大麦粉砕物の重量に対する沈澱に含まれるアラビノキシランの重量の比)、上清中に含まれるβ−グルカンの濃度を示した。
【表4】

【0054】
収量に差は見られるものの、用いるアルカリの種類によらず、アラビノキシランとβ−グルカンを同時に可溶化できることが示された。
【0055】
〔実施例3〕
アルカリを1N水酸化カリウムとし、加熱方法をオートクレーブから、常圧で60℃にて加熱する方法に換えた以外は実施例1と同様にしてシロップを製造した。得られたシロップに30mlの水を加えてスラリーとした後、5,000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。これにエタノールを加えて、70%エタノール沈澱を行い、実施例2と同様にして、沈澱の乾燥重量、アラビノキシラン量、上清中に含まれるβ−グルカンの濃度を求めた。また、加熱時間は0,3,6,9,24時間とした。
【0056】
結果を図1に示した。3時間の加熱により、アラビノキシランとβ−グルカンを可溶化できた。また、加熱時間を6,9,24時間とした場合、沈澱の乾燥重量に変化は見られなかったものの、アラビノキシランとβ−グルカン共に可溶化量が漸増した。
【0057】
〔実施例4〕
アルカリを1N炭酸カリウムとした以外は実施例3と同様にしてシロップを製造し、沈澱の乾燥重量、アラビノキシラン量、上清中に含まれるβ−グルカンの濃度を求めた。
【0058】
結果を図2に示した。3時間の加熱により、アラビノキシランとβ−グルカンを可溶化できた。また、加熱時間を6,9,24時間としても、アラビノキシランとβ−グルカン共に可溶化量に大きな変化は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビノキシラン及びβ−グルカンを含むシロップの製造方法であって、
穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱して、前記穀類由来原料に含まれるアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化工程を備える、シロップの製造方法。
【請求項2】
前記穀類由来原料が前記穀類の種子を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記穀類が大麦である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱が、オートクレーブで行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
穀類由来原料を0.02N以上のアルカリ水溶液中で加熱することを含む、前記穀類由来原料中のアラビノキシラン及びβ−グルカンを共に可溶化する可溶化方法。

【図1】
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【図2】
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