説明

シンクロトロン加速器の加速制御装置

【課題】自動同調装置を備えないキャビティを採用したシンクロトロン加速器において加速周波数に応じて加速電圧を適切に制御することのできるシンクロトロン加速器の加速制御装置を提供すること。
【解決手段】シンクロトロン加速器を構成する高周波加速空洞に印加され荷電粒子ビームを加速する加速電圧の目標値となる加速電圧基準を入力する基準パターン入力手段21と、前記高周波加速空洞およびその電源装置からなる高周波加速装置の特性を記録する加速パターン補正テーブル22と、前記加速電圧基準と前記加速パターン補正テーブルのデータ22とを用いて前記高周波加速装置1に与える補正加速電圧基準を算出する加速パターン計算手段23と、前記補正加速電圧基準を記録し出力するパターンメモリ装置24とを備えている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクロトロン加速器において荷電粒子ビームを加速する高周波電圧を制御する加速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シンクロトロン加速器においては、荷電粒子にエネルギーを与えるために高周波加速装置が設けられている。この高周波加速装置は、高周波加速空洞(キャビティ)と高周波電力発生装置(高電圧系)および加速制御電子回路(低電圧系)より構成されている。キャビティは、入力された高周波電力の周波数に共振(同調ともいう)して効果的に荷電粒子ビームに加速電圧が印加されるように構成されている。イオンシンクロトロン加速器においては、ビーム加速の過程でビーム速度の変化に従って加速周波数を変化させる必要がある。このような場合、キャビティは加速周波数の変化に対応して共振周波数も変化させる(特許文献1,非特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特公平7−105280号公報
【非特許文献1】放射線医学総合研究所 重粒子線がん治療装置建設総合報告書(1995年NIRS-M-109)
【非特許文献2】東芝レビュー VOL.54 No.1 (1999年) p.19 「イオン用高周波加速空洞」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したイオンシンクロトロン加速器のキャビティは、共振周波数を連続可変にするため自動同調装置を備える必要がある。しかし、自動同調装置を用いるキャビティを採用すると高周波加速装置が複雑となり運転が繁雑となるという課題がある。一方、自動同調装置を用いないキャビティ(無同調キャビティと称する)を採用する場合には高周波加速装置における加速電圧のフィードバック制御が精度良く動作できず、目標値として与えられた加速電圧基準値と実際に発生した加速電圧値の間に大きな誤差を生じるという課題がある。
【0004】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、自動同調装置を備えないキャビティを採用したシンクロトロン加速器において加速周波数に応じて加速電圧を適切に制御することのできるシンクロトロン加速器の加速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のシンクロトロン加速器の加速制御装置は、シンクロトロン加速器を構成する高周波加速空洞に印加され荷電粒子ビームを加速する加速電圧の目標値となる加速電圧基準を入力する基準パターン入力手段と、前記高周波加速空洞およびその電源装置からなる高周波加速装置の特性を記録する加速パターン補正テーブルと、前記加速電圧基準と前記加速パターン補正テーブルのデータとを用いて前記高周波加速装置に与える補正加速電圧基準を算出する加速パターン計算手段と、前記補正加速電圧基準を記録し出力するパターンメモリ装置とを備えている構成とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自動同調装置を備えないキャビティを採用したシンクロトロン加速器において加速周波数に応じて加速電圧を適切に制御することのできるシンクロトロン加速器の加速制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の第1および第2の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置を図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施の形態)
図1ないし図7を用いて第1の実施の形態を説明する。図1に示すように、本実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置2は、高周波加速空洞(CAV)11と高周波電力発生装置(HV)12と加速制御電子回路(LLE)13からなる高周波加速装置1に制御信号を供給するように構成されている。加速制御装置2は、加速電圧の目標値となる加速電圧基準をパターンとして入力する基準パターン入力手段21と、高周波加速装置1の特性を記録する加速パターン補正テーブル22と、前記加速電圧基準と前記加速パターン補正テーブル22のデータとを用いて高周波加速装置1に与える補正加速電圧基準を算出する加速パターン計算手段23と、前記加速パターン計算手段23により算出した補正加速電圧基準を記録して出力するパターンメモリ装置24とから構成されている。
【0009】
このように構成された本実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置において、基準パターン入力手段21は、図2および図3に示すように、加速電圧基準VCrefと周波数fの時間変化パターンを上位制御系(図では省略)より受取って保持している。図2は加速電圧基準のパターンであり、このように運転すべきことを示している。また図3は、加速周波数がこのような時間変化となることを示している。
【0010】
図4はキャビティ特性を含む高周波加速装置1の特性を示すグラフであり、周波数fを変化させたときに、加速電圧VCがどのように変化するかを示している。このグラフは入力となる加速電圧基準VCrefを一定として周波数f(横軸)に対する加速電圧VC(縦軸)である。
【0011】
図4のグラフをもとに、図5に示すように周波数fの変化に対して加速電圧VCが一定となるような加速電圧補正係数kを求めて、図6に示すテーブルとして記録する。この加速電圧補正係数kは図4の曲線の最大値をVCmaxとし、
k=VCmax/VC …(1)
として算出される。
【0012】
加速パターン計算手段23は、基準パターン入力手段21から得た各時刻における周波数fと加速電圧基準VCrefをもとに、VCref=VCとおき、これと周波数fとから図6に示す加速パターン補正テーブルを参照して補正係数kを求め、補正後の加速電圧基準VCrefmは、
VCrefm=k×VCref …(2)
として計算される。加速パターン補正テーブル22に一致する数値がなければ、近い点の間で補間計算を行う。
【0013】
図7に示すように、補正後の加速電圧基準VCrefmを時系列にパターンメモリ装置24に加速電圧基準パターンデータとして記録する。このとき、高周波加速装置1の都合によりデータを整数値に変換する。パターンメモリ装置24は、このデータを上位制御系より与えられるクロック信号により先頭から順次出力して高周波加速装置1に与える。
【0014】
本実施の形態によれば、高周波加速装置1の加速電圧特性に従って加速電圧基準VCrefを加速パターン補正テーブル22および加速パターン計算手段23を用いて補正するので、無同調キャビティを採用する高周波加速装置1から要求される加速電圧基準を適切に供給することができる。
【0015】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置を図8から図10を用いて説明する。なお第1の実施の形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
本実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置は、図8に示すように、加速電圧の目標値となる加速電圧の基準のパターンを入力する基準パターン入力手段21と、高周波加速装置1に与える補正後の加速電圧基準値を記録する加速パターン補正テーブル22aと、加速電圧基準の補正計算を行う加速パターン計算手段23aと、加速パターン計算手段23aから補正された加速電圧基準を受取って記録し、そのパターンデータを出力するパターンメモリ装置24と、高周波加速空洞11に実際に発生する加速電圧VCを入力する加速電圧入力手段25と、その加速電圧VCと加速電圧基準とを併せて表示する表示手段26と、加速パターン補正テーブル22aのデータを書き替える入力手段27とを備えている。
【0017】
加速パターン補正テーブル22aには予め初期データとして加速電圧基準値に対する補正データとして0データが書かれている。加速パターン計算手段23aは、基準パターン入力手段21から入力されたデータに対して前記の加速パターン補正テーブル22aから得られる補正データを加えて加速電圧基準の補正後の値を算出する。この補正後の加速電圧基準値はパターンメモリ装置24に書き込まれる。パターンメモリ装置24は、図8では省略している上位制御系からのタイミング信号によってこのパターンデータを出力して高周波加速装置1に与える。
【0018】
高周波加速空洞11に印加された実際の加速電圧VCが測定されて加速電圧入力手段25により表示手段26に入力され、表示手段26により図9に示すようにグラフ表示される。また、基準パターン入力手段21によって入力したデータVCrefを併せて表示手段26に表示する。これらの表示データが一致していれば、加速電圧制御は適切に行われたと判断できる。不一致の場合には、補正データ入力手段27により加速パターン補正テーブル22aを加速電圧基準値VCrefと実際値VCとの差が小さくなるよう書き替える(図10)。この加速パターン補正テーブル22aから得られる補正データにより加速パターン計算手段23aは補正加速電圧基準値VCrefmを計算しなおし、パターンメモリ装置24はデータを書き替える。シンクロトロン加速器の運転にともなって上記のデータ補正を繰返すことにより、加速電圧基準パターンと、実際の電圧パターンの誤差を小さくすることができる。
【0019】
本実施の形態によれば、高周波加速装置1の加速電圧特性に従って加速電圧基準VCrefを加速パターン補正テーブル22aおよび加速パターン計算手段23aを用いて補正し、また、表示手段26と補正データ入力手段27とを用いて補正幅を修正することができるので誤差が小さくなり、無同調キャビティを採用する高周波加速装置1から要求される加速電圧パターンを適切に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の構成を示すブロック図。
【図2】加速電圧基準のパターンを示し、本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の動作を説明する図。
【図3】周波数変化のパターンを示し、本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の動作を説明する図。
【図4】高周波加速装置の特性を示し、本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の動作を説明する図。
【図5】加速電圧補正係数を示し、本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の動作を説明する図。
【図6】本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置を構成する加速パターン補正テーブルに貯えられているデータを示す図。
【図7】本発明の第1の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置を構成するパターンメモリ装置に記憶されているデータを示す図。
【図8】本発明の第2の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の構成を示すブロック図。
【図9】加速電圧基準および加速電圧のパターンを示し、本発明の第2の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置の動作を説明する図。
【図10】本発明の第2の実施の形態のシンクロトロン加速器の加速制御装置を構成する加速パターン補正テーブルに貯えられているデータを示す図。
【符号の説明】
【0021】
1…高周波加速装置、11…高周波加速空洞(CAV)、12…高周波電力発生装置(HV)、13…加速制御電子回路(LLE)、2…加速制御装置、21…基準パターン入力手段、22,22a…加速パターン補正テーブル、23,23a…加速パターン計算手段、24…パターンメモリ装置、25…加速電圧入力手段、26…表示手段、27…補正データ入力手段、VC…加速電圧、VCref…加速電圧基準、VCrefm…補正後の加速電圧基準。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクロトロン加速器を構成する高周波加速空洞に印加され荷電粒子ビームを加速する加速電圧の目標値となる加速電圧基準を入力する基準パターン入力手段と、前記高周波加速空洞およびその電源装置からなる高周波加速装置の特性を記録する加速パターン補正テーブルと、前記加速電圧基準と前記加速パターン補正テーブルのデータとを用いて前記高周波加速装置に与える補正加速電圧基準を算出する加速パターン計算手段と、前記補正加速電圧基準を記録し出力するパターンメモリ装置とを備えていることを特徴とするシンクロトロン加速器の加速制御装置。
【請求項2】
前記加速電圧基準および前記高周波加速空洞に実際に印加されている加速電圧を表示する表示手段と、前記加速パターン補正テーブルのデータを書き替える補正データ入力手段とを備えていることを特徴とする請求項1記載のシンクロトロン加速器の加速制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−47438(P2008−47438A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222523(P2006−222523)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】