説明

シングルスクリュー圧縮機

【課題】シングルスクリュー圧縮機の圧縮効率の向上。
【解決手段】シングルスクリュー圧縮機(1)は、流体室(23)を形成する複数の螺旋溝(41)が外周面に形成されたスクリューロータ(40)と、ゲートロータ(50)と、スクリューロータ(40)及びゲートロータ(50)を収容するケーシング(10)とを備え、ケーシング(10)の内部には、ケーシング(10)へ吸い込まれた圧縮前の低圧ガス冷媒が流入し且つスクリューロータ(40)の端面に開口する螺旋溝(41)の始端に連通する低圧空間(S1)が設けられている。ケーシング(10)は、その内部に、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の低圧ガス冷媒が逆流するのを阻止するための逆流阻止片(72)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルスクリュー圧縮機の効率向上対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒や空気を圧縮する圧縮機としてシングルスクリュー圧縮機が用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
また、図13〜図15に示すように、シングルスクリュー圧縮機(a)は、1つのスクリューロータ(b)と2つのゲートロータ(c)とを備えている。スクリューロータ(b)は、概ね円柱状に形成されており、その外周部に複数条の螺旋溝(d)が刻まれている。各螺旋溝(d)は、スクリューロータ(b)の外周面に形成されている。また、各螺旋溝(d)の始端は、スクリューロータ(b)の一方の端面に開口している。ゲートロータ(c)は、概ね平板状に形成されており、スクリューロータ(b)の側方に配置されている。このゲートロータ(c)には、複数の長方形状のゲート(e)が放射状に設けられている。ゲートロータ(c)は、その回転軸(f)がスクリューロータ(b)の回転軸(g)と直交する姿勢で設置され、ゲート(e)がスクリューロータ(b)の螺旋溝(d)と噛み合わされる。
【0004】
このシングルスクリュー圧縮機(a)では、スクリューロータ(b)とゲートロータ(c)がケーシング(h)に収容されている。また、ケーシング(h)内には、圧縮前の低圧流体が流入する低圧空間が形成される。スクリューロータ(b)を電動機等で回転駆動させると、スクリューロータ(b)の回転に伴ってゲートロータ(c)が回転する。そして、ゲートロータ(c)のゲート(e)が、螺旋溝(d)の始端(吸入側の端部)から終端(吐出側の端部)へ向かって相対的に移動する。
【0005】
図16に示すように、スクリューロータ(b)の螺旋溝(d)によって形成される流体室(i)へ低圧流体が吸入される吸入工程では、スクリューロータ(b)の外周面側と端面側から流体室(i)へ低圧流体が流入する。その後、図17に示すように、流体室(i)は、スクリューロータ(b)の外周面を覆うケーシング(h)の仕切り壁部(j)と、螺旋溝(d)へ進入してきたゲート(e)とによって低圧空間から仕切られる。そして、流体室(i)内の流体が圧縮される圧縮行程では、ゲート(e)が螺旋溝(d)の始端から終端へ向かって相対的に移動することによって流体室(i)の容積が縮小し、流体室(i)内の流体が圧縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−042474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したシングルスクリュー圧縮機(a)の吸入行程では、スクリューロータ(b)の螺旋溝(d)にゲート(e)が進入し始めると、このゲート(e)によって低圧流体が流体室(i)へ押し込まれる。そして、ゲート(e)が進入し始めてから螺旋溝(d)を閉じ切るまでの間に、上記ゲート(e)に押し込まれた低圧流体が螺旋溝(d)の始端から低圧空間へ押し出されていた。このため、流体室(i)へ流入して圧縮される流体の量が減少し、シングルスクリュー圧縮機(a)の効率の低下を招くという問題があった。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、シングルスクリュー圧縮機において、流体室へ流入して圧縮される流体の量を増加させ、シングルスクリュー圧縮機の運転効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、流体室(23)を形成する複数の螺旋溝(41)が外周面に形成されたスクリューロータ(40)と、該スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)と噛み合わされる複数のゲート(51)が放射状に形成されたゲートロータ(50)と、上記スクリューロータ(40)及びゲートロータ(50)を収容するケーシング(10)とを備え、上記ケーシング(10)の内部には、該ケーシング(10)へ吸い込まれた圧縮前の低圧流体が流入し且つ上記スクリューロータ(40)の端面に開口する螺旋溝(41)の始端に連通する低圧空間(S1)が設けられたシングルスクリュー圧縮機であって、上記ケーシング(10)は、その内部に、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の低圧流体が逆流するのを阻止するための逆流阻止部材(72)を備えている。
【0010】
上記第1の発明では、スクリューロータ(40)とゲートロータ(50)と逆流阻止部材(72)とがケーシング(10)内に収容される。ケーシング(10)内には、低圧空間(S1)が形成される。低圧空間(S1)は、スクリューロータ(40)の端面に開口する螺旋溝(41)の始端と連通している。吸入工程では、対象となる流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の内部に、低圧空間(S1)から上記螺旋溝(41a)の始端を介して低圧流体が流入する。
【0011】
吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)には、スクリューロータ(40)の端面側(即ち、螺旋溝(41a)の始端側)から低圧空間(S1)内の低圧流体が流入する。
【0012】
次に、上記スクリューロータ(40)が回転すると、スクリューロータ(40)に形成された螺旋溝(41)が移動する。吸入工程中の流体室(23a)へは、それを形成する螺旋溝(41a)の始端側から低圧流体が流入し続ける。そして、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)へゲート(51a)が進入する。
【0013】
ここで、従来のシングルスクリュー圧縮機では、吸入工程中の螺旋溝内に進入してきたゲートによって螺旋溝内の低圧流体が、その始端から低圧空間へ押し出される。
【0014】
ところが、本発明に係るシングルスクリュー圧縮機(1)では、吸入工程中の螺旋溝(41a)内の低圧流体が、進入してきたゲート(51a)に押し出されても、逆流阻止部材(72)によって螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)に流出するのを阻止している。
【0015】
その後、吸入工程中の流体室(23a)は、それを形成する螺旋溝(41a)へ進入してきたゲート(51a)によって低圧空間(S1)から仕切られる。そして、スクリューロータ(40)が更に回転してゲート(51a)が移動すると、低圧空間(S1)から仕切られた流体室(23a)の容積が減少し、この流体室(23a)内の流体が圧縮される。
【0016】
つまり、ケーシング(10)の内部では、逆流阻止部材(72)が吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)への低圧流体の流出を阻止している。
【0017】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記逆流阻止部材(72)は、上記ゲート(51a)が上記螺旋溝(41a)の内部に進入してから上記流体室(23a)を閉じきるまでの間において、スクリューロータ(40)の軸方向から視て、上記螺旋溝(41a)の始端の少なくとも一部を覆うよう構成されている。
【0018】
上記第2の発明では、スクリューロータ(40)が回転すると、該スクリューロータ(40)に形成された螺旋溝(41)が移動する。吸入工程中の流体室(23a)へは、それを形成する螺旋溝(41a)の始端側から低圧流体が流入し続ける。
【0019】
そして、ゲート(51a)が螺旋溝(41a)内に進入し始めると、逆流阻止部材(72)が、ゲート(51a)が螺旋溝(41a)を閉じ切るまでの間の少なくとも一部において、スクリューロータ(40)の軸方向から視た螺旋溝(41a)の始端を覆う。これにより、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)への低圧流体の流出を阻止している。
【0020】
その後、吸入工程中の流体室(23a)は、それを形成する螺旋溝(41a)へ進入してきたゲート(51a)によって低圧空間(S1)から仕切られる。そして、スクリューロータ(40)が更に回転してゲート(51a)が移動すると、低圧空間(S1)から仕切られた流体室(23a)の容積が減少し、この流体室(23a)内の流体が圧縮される。
【0021】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記逆流阻止部材(72)は、上記ゲート(51a)が上記螺旋溝(41a)の内部に進入してから上記流体室(23a)を閉じ切るまでの間において、スクリューロータ(40)の軸方向から視て、上記螺旋溝(41a)の始端の全てを覆うよう構成されている。
【0022】
上記第3の発明では、スクリューロータ(40)が回転すると、スクリューロータ(40)に形成された螺旋溝(41)が移動する。吸入工程中の流体室(23a)へは、それを形成する螺旋溝(41a)の始端側から低圧流体が流入し続ける。
【0023】
そして、ゲート(51a)が螺旋溝(41a)内に進入し始めると、逆流阻止部材(72)が、ゲート(51a)が螺旋溝(41a)を閉じきるまでの間の全てにおいて、スクリューロータ(40)の軸方向から視た螺旋溝(41a)の始端を覆う。これにより、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)への低圧流体の流出を阻止している。
【0024】
その後、吸入工程中の流体室(23a)は、それを形成する螺旋溝(41a)へ進入してきたゲート(51a)によって低圧空間(S1)から仕切られる。そして、スクリューロータ(40)が更に回転してゲート(51a)が移動すると、低圧空間(S1)から仕切られた流体室(23a)の容積が減少し、この流体室(23a)内の流体が圧縮される。
【0025】
第4の発明は、上記第1〜第3の何れか1つの発明において、上記スクリューロータ(40)は、流体の吸入側の端部(49)がテーパ状に形成され、上記逆流阻止部材(72)は、その外形形状のうち、上記スクリューロータ(40)の端部(49)に沿う面が該端部(49)のテーパ形状に沿って形成されている。
【0026】
上記第4の発明では、流体の吸入側のスクリューロータ(40)の端部(49)はテーパ状に形成されている。そして、逆流阻止部材(72)は、螺旋溝(41)の始端側であるスクリューロータ(40)の流体の吸入側に設けられる。逆流阻止部材(72)の外形形状のうち、スクリューロータ(40)の端部(49)と沿う面が、該端部(49)のテーパ形状に沿って形成されている。これにより、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)への低圧流体の流出量が低減する。
【0027】
第5の発明は、上記第1〜第4の何れか1つの発明において、上記ケーシング(10)の内部には、上記螺旋溝(41)により形成される流体室(23)が上記低圧空間(S1)から仕切られるように上記スクリューロータ(40)の外周面を覆う仕切り壁部(30)が設けられ、上記逆流阻止部材(72)は、仕切り壁部(30)に対して一体に設けられている。
【0028】
上記第5の発明では、スクリューロータ(40)とゲートロータ(50)と逆流阻止部材(72)とがケーシング(10)内に収容される。スクリューロータ(40)の外周面は仕切り壁部(30)によって覆われている。この仕切り壁部(30)によってスクリューロータ(40)の外周面側において螺旋溝(41)により形成される流体室(23)が低圧空間から仕切られる。一方、逆流阻止部材(72)は、上記仕切り壁部(30)に一体に取り付けられている。そして、逆流阻止部材(72)は、吸入工程中の流体室(23a)が形成され、且つスクリューロータ(40)の軸方向から視た螺旋溝(41a)の始端から低圧流体の逆流を阻止している。
【0029】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記仕切り壁部(30)には、上記スクリューロータ(40)の外周面の一部を上記低圧空間(S1)に露出させるための吸入用開口(36)が形成されており、上記低圧空間(S1)から低圧流体が流入する吸入工程中の流体室(23a)は、該流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)が上記吸入用開口(36)に臨む位置から上記仕切り壁部(30)に覆われる位置へ移動した後に、上記螺旋溝(41a)へ進入した上記ゲート(51a)によって上記低圧空間(S1)から仕切られる。
【0030】
上記第6の発明では、上記仕切り壁部(30)には、吸入用開口(36)が形成される。吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)が吸入用開口(36)に臨む位置に在る状態において、この吸入工程中の流体室(23a)へは、スクリューロータ(40)の端面側からだけではなく、スクリューロータ(40)の外周面側からも低圧流体が流入する。
【0031】
スクリューロータ(40)が回転すると、スクリューロータ(40)に形成された螺旋溝(41a)が移動する。吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)は、吸入用開口(36)に臨む位置から仕切り壁部(30)によって覆われる位置へ移動する。この螺旋溝(41a)が仕切り壁部(30)によって覆われる状態となってから暫くの間において、吸入工程中の流体室(23a)へは、それらを形成する螺旋溝(41a)の始端側から低圧流体が流入し続ける。その後、吸入工程中の流体室(23a)は、それらを形成する螺旋溝(41a)を覆う仕切り壁部(30)と、それを形成する螺旋溝(41a)へ進入してきたゲート(51a)とによって低圧空間から仕切られる。そして、さらにスクリューロータ(40)が回転してゲート(51a)が移動すると、低圧空間(S1)から仕切られた流体室(23a)の容積が減少し、この流体室(23a)内の流体が圧縮される。
【0032】
第7の発明は、上記第5又は第6の発明において、上記仕切り壁部(30)には、その周方向の端部に上記ゲートロータ(50)の一部を覆うゲートシール部(32)が一体に設けられている
上記第7の発明では、上記仕切り壁部(30)には、その周方向の端部に上記ゲートロータ(50)の一部を覆うゲートシール部(32)が一体に設けられている。そして、逆流阻止部材(72)は、ゲートシール部(32)及び仕切り壁部(30)に一体に設けられている。
【発明の効果】
【0033】
上記第1の発明では、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)から低圧流体が逆流するのを阻止する逆流阻止部材(72)を設けた。このため、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)内にゲート(51a)が進入して流体室(23a)内の低圧流体が押し出されても、逆流阻止部材(72)によって螺旋溝(41a)の始端からの低圧空間(S1)への流出を阻止することができる。これにより、流体室(23a)へ流入して圧縮される流体の量を増加させることができる。この結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0034】
上記第2の発明では、螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく過程において、螺旋溝(41a)によって形成された流体室(23a)へは、ゲート(51a)によって低圧流体が押し込まれてゆく。そして、ゲート(51a)が吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)へ進入してから流体室(23a)を閉じ切るまでの間の一部における、スクリューロータ(40)の軸方向から視た吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端が逆流阻止部材(72)によって覆われている。このため、ゲート(51a)によって流体室(23a)へ押し込まれた低圧流体は、螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)へ漏れ出すことなく流体室(23a)へ留まる。これにより、流体室(23a)へ流入して圧縮される流体の量を増加させることができる。この結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0035】
上記第3の発明では、螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく過程において、螺旋溝(41a)によって形成された流体室(23a)へは、ゲート(51a)によって低圧流体が押し込まれてゆく。そして、ゲート(51a)が吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)へ進入してから流体室(23a)を閉じきるまでの全てにおいて、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端がスクリューロータ(40)の軸方向から視て、逆流阻止部材(72)によって覆われている。このため、ゲート(51a)によって流体室(23a)へ押し込まれた低圧流体は、螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)へ漏れ出すことなく流体室(23a)へ留まる。これにより、流体室(23a)へ流入して圧縮される流体の量を増加させることができる。この結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0036】
上記第4の発明によれば、逆流阻止部材(72)の外形形状のうち、スクリューロータ(40)の端部(49)に沿う面をスクリューロータ(40)のテーパ状の端部(49)に沿って形成したため、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)への低圧流体の流出量を低減させることができる。これにより、流体室(23a)へ流入して圧縮される流体の量を増加させることができる。この結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0037】
上記第5の発明では、吸入工程中の流体室(23a)が仕切り壁部(30)によって覆われた状態では、スクリューロータ(40)の回転に起因する遠心力が流体室(23a)内の流体に作用しても、仕切り壁部(30)が流体室(23a)からの流体の流出を阻止する。このため、遠心力を受けて流体室(23a)からスクリューロータ(40)の外周側へ漏れてゆく流体の量を削減することができ、吸入工程中の流体室(23a)へ吸入される流体量を増加させることができる。その結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0038】
また、逆流阻止部材(72)を仕切り壁部(30)と一体に形成した。仕切り壁部(30)は、螺旋溝(41)が形成されたスクリューロータ(40)の外周面を覆っているため、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端をスクリューロータ(40)の軸方向から視て覆うように仕切り壁部(30)に対して逆流阻止部材(72)を取り付け易くすることができる。
【0039】
上記第6の発明では、吸入工程中の流体室(23a)が仕切り壁部(30)によって覆われる状態となった後においても、この流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく。螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく過程において、螺旋溝(41a)によって形成された流体室(23a)は、ゲート(51a)によって低圧流体が押し込まれてゆく。そして、この時、吸入工程中の流体室(23a)が仕切り壁部(30)によって低圧空間(S1)から仕切られている。このため、ゲート(51a)によって流体室(23a)へ押し込まれた低圧流体は、スクリューロータ(40)の外周側へ漏れ出すことなく流体室(23a)へ留まる。一方、逆流阻止部材(72)がスクリューロータ(40)の軸方向から視た螺旋溝(41a)の始端から流体室(23a)の低圧流体が低圧空間(S2)に漏れるのを阻止している。これにより、流体室(23a)へ流入して圧縮される流体の量を増加させることができる。この結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0040】
上記第7の発明によれば、仕切り壁部(30)とゲートシール部(32)と逆流阻止部材(72)とを一体に形成したため、ケーシング(10)内に逆流阻止部材(72)を容易に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の概略構成図である。
【図2】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の要部の構成を示す縦断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面を示す断面図である。
【図4】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の要部を抜き出して示す斜視図である。
【図5】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の要部を上方から視た状態を示す概略の一部断面図である。
【図6】図5におけるB−B断面を示す概略断面図である。
【図7】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の要部の構造を示す図である。
【図8】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の要部を上方から視た状態を模式的に示す図である。
【図9】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の要部を軸方向から視た状態を模式的に示す図である。
【図10】実施形態に係るスクリューロータ及び円筒壁の展開図である。
【図11】実施形態に係るシングルスクリュー圧縮機の圧縮機構の動作を示す平面図であり、(A)は吸入工程を示し、(B)は圧縮行程を示し、(C)は吐出工程を示す。
【図12】実施形態に係るスクリューロータの回転角と圧縮容積との関係を示すグラフである。
【図13】従来例のシングルスクリュー圧縮機の要部の構造を示す図である。
【図14】従来例のシングルスクリュー圧縮機の要部を上方から視た状態を模式的に示す図である。
【図15】従来例のシングルスクリュー圧縮機の要部を軸方向から視た状態を模式的に示す図である。
【図16】従来例のスクリューロータ及び円筒壁において、吸入工程中の流体室が仕切り壁部によって低圧空間から仕切られた状態を示す展開図である。
【図17】従来例のスクリューロータ及び円筒壁において、流体室が円筒壁とゲートの両方によって低圧空間から仕切られた状態を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0043】
図1に示すように、本実施形態のシングルスクリュー圧縮機(1)(以下、単にスクリュー圧縮機という)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられて冷媒を圧縮するためのものである。
【0044】
スクリュー圧縮機(1)では、圧縮機構(20)とそれを駆動する電動機(15)とが1つのケーシング(10)に収容されている。このスクリュー圧縮機(1)は、半密閉型に構成されている。
【0045】
ケーシング(10)は、横長の円筒状に形成されている。ケーシング(10)の内部空間は、ケーシング(10)の一端側に位置する低圧空間(S1)と、ケーシング(10)の他端側に位置する高圧空間(S2)とに仕切られている。ケーシング(10)には、低圧空間(S1)に連通する吸入口(11)と、高圧空間(S2)に連通する吐出口(12)とが設けられている。冷媒回路の蒸発器から流れてきた低圧ガス冷媒(即ち、本発明に係る低圧流体)は、吸入口(11)を通って低圧空間(S1)へ流入する。また、圧縮機構(20)から高圧空間(S2)へ吐出された圧縮後の高圧ガス冷媒は、吐出口(12)を通って冷媒回路の凝縮器へ供給される。
【0046】
ケーシング(10)内では、低圧空間(S1)に電動機(15)が配置され、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)の間に、圧縮機構(20)が配置されている。圧縮機構(20)の駆動軸(21)は、電動機(15)に連結されている。また、高圧空間(S2)には、油分離器(16)が配置されている。油分離器(16)は、圧縮機構(20)から吐出された冷媒から冷凍機油を分離する。上記電動機(15)は、商用電源(101)に接続されて電力供給されている。
【0047】
図2及び図3に示すように、圧縮機構(20)は、ケーシング(10)内に形成された円筒壁(30)と、該円筒壁(30)の中に配置された1つのスクリューロータ(40)と、該スクリューロータ(40)に噛み合う2つのゲートロータ(50,50)とを備えている。上記円筒壁(30)は、スクリューロータ(40)の外周面を覆うように設けられている。円筒壁(30)の詳細については後述する。
【0048】
上記スクリューロータ(40)には、駆動軸(21)が挿通されている。スクリューロータ(40)と駆動軸(21)は、キー(22)によって連結されている。駆動軸(21)は、スクリューロータ(40)と同軸上に配置されている。駆動軸(21)の先端部は、圧縮機構(20)の高圧側(図2における駆動軸(21)の軸方向を左右方向とした場合の右側)に位置する軸受ホルダ(60)に回転自在に支持されている。この軸受ホルダ(60)は、玉軸受(61)を介して駆動軸(21)を支持している。
【0049】
図4に示すように、スクリューロータ(40)は、概ね円柱状に形成された金属製の部材である。スクリューロータ(40)は、円筒壁(30)に回転可能に挿入されている。スクリューロータ(40)には、スクリューロータ(40)の一端から他端へ向かって螺旋状に延びる螺旋溝(41)が複数(本実施形態では6本)形成されている。各螺旋溝(41)は、スクリューロータ(40)の外周面に形成されており、流体室(23)を形成する。
【0050】
スクリューロータ(40)の各螺旋溝(41)は、図6における左端が始端となり、同図における右端が終端となっている。また、スクリューロータ(40)は、同図における左の端部(49)(吸入側の端部)がテーパ状に形成されている。図6に示すスクリューロータ(40)では、テーパ面状に形成されたその左端面に螺旋溝(41)の始端が開口する一方、その右端面に螺旋溝(41)の終端は開口していない。各螺旋溝(41)では、スクリューロータ(40)の回転方向に前方に位置する側壁面が前方壁面(42)となり、スクリューロータ(40)の回転方向の後方に位置する側壁面が後方壁面(43)となっている。
【0051】
スクリューロータ(40)の外周面では、隣り合う二つの螺旋溝(41)に挟まれた部分が周方向シール面(45)を構成している。周方向シール面(45)では、その周縁のうちスクリューロータ(40)の回転方向の前方に位置する部分が前縁(46)となり、その周縁のうちスクリューロータ(40)回転方向の後方に位置する部分が後縁(47)となっている。また、スクリューロータ(40)の外周面では、螺旋溝(41)の終端に隣接する部分が軸方向シール面(48)を構成している。また、この軸方向シール面(48)は、スクリューロータ(40)の端面に沿った円周面となっている。
【0052】
上述したように、スクリューロータ(40)は、円筒壁(30)に挿入されている。そして、スクリューロータ(40)の周方向シール面(45)及び軸方向シール面(48)は、円筒壁(30)の内側面(35)と摺接する。
【0053】
尚、スクリューロータ(40)の周方向シール面(45)及び軸方向シール面(48)と円筒壁(30)の内側面(35)とは、物理的に接触している訳ではなく、両者の間には、スクリューロータ(40)をスムーズに回転させるために必要な最小限のクリアランスが設けられている。そして、スクリューロータ(40)の周方向シール面(45)及び軸方向シール面(48)と円筒壁(30)の内側面(35)との間には冷凍機油からなる油膜が形成され、この油膜によって流体室(23)の気密性が確保される。
【0054】
各ゲートロータ(50)は、長方形状に形成された複数(本実施形態では、11枚)のゲート(51)が放射状に設けられた樹脂製の部材である。各ゲートロータ(50)は、円筒壁(30)の外側に、スクリューロータ(40)の回転中心軸周りに等角度間隔(本実施形態では180°間隔)で配置されている。各ゲートロータ(50)の軸心は、スクリューロータ(40)の軸心と直交している。各ゲートロータ(50)は、ゲート(51)が円筒壁(30)の一部を貫通してスクリューロータ(40)螺旋溝(41)に噛み合うように配置されている。
【0055】
スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)に噛み合ったゲート(51)は、その両端部が螺旋溝(41)の前方壁面(42)又は後方壁面(43)と摺接し、その先端部が螺旋溝(41)の底壁面(44)と摺接する。尚、螺旋溝(41)に噛み合ったゲート(51)とスクリューロータ(40)との間には、スクリューロータ(40)をスムーズに回転させるために必要な最小限のクリアランスが設けられている。螺旋溝(41)に噛み合ったゲート(51)とスクリューロータ(40)との間には冷凍機油からなる油膜が形成され、この油膜によって流体室(23)の気密性が確保される。
【0056】
ゲートロータ(50)は、金属製のロータ支持部材(55)に取り付けられている(図3、図4を参照)。ロータ支持部材(55)は、基部(56)とアーム部(57)と軸部(58)とを備えている。基部(56)は、やや肉厚の円板状に形成されている。アーム部(57)は、ゲートロータ(50)のゲート(51)と同数だけ設けられており、基部(56)の外周面から外側へ向かって放射状に延びている。軸部(58)は、棒状に形成されて基部(56)に立設されている。軸部(58)の中心軸は、基部(56)の中心軸と一致している。ゲートロータ(50)は、基部(56)及びアーム部(57)における軸部(58)とは反対側の面に取り付けられている。各アーム部(57)は、ゲート(51)の裏面に当接している。
【0057】
ゲートロータ(50)が取り付けられたロータ支持部材(55)は、円筒壁(30)に隣接してケーシング(10)内に区画形成されたゲートロータ室(90)に収容されている(図3を参照)。図3におけるスクリューロータ(40)の右側に配置されたロータ支持部材(55)は、ゲートロータ(50)が下端側となる姿勢で配置されている。一方、同図におけるスクリューロータ(40)の左側に配置されたロータ支持部材(55)は、ゲートロータ(50)が上端側となる姿勢で配置されている。各ロータ支持部材(55)の軸部(58)は、ゲートロータ室(90)内の軸受ハウジング(91)に玉軸受(92,93)を介して回転自在に支持されている。尚、各ゲートロータ室(90)は、低圧空間に連通している。
【0058】
スクリュー圧縮機(1)には、容量制御機構としてスライドバルブ(65)が設けられている。このスライドバルブ(65)は、円筒壁(30)がその周方向の2箇所において径方向外側に膨出したスライドバルブ収納部(31)内に設けられている。スライドバルブ(65)は、内面が円筒壁(30)の内周面の一部を構成すると共に、円筒壁(30)の軸方向にスライド可能に構成されている。
【0059】
スライドバルブ(65)が高圧空間寄り(図2における駆動軸の軸方向を左側とした場合の右側寄り)へスライドすると、スライドバルブ収納部(31)の端面(P1)とスライドバルブ(65)の端面(P2)との間に軸方向隙間が形成される。この軸方向隙間は、流体室(23)から低圧空間(S1)へ冷媒を戻すためのバイパス通路(33)となっている。スライドバルブ(65)を移動させてバイパス通路(33)の開度を変更すると、圧縮機構(20)の容積が変化する。また、スライドバルブ(65)には、流体室(23)と高圧空間(S2)とを連通させるための吐出ポート(25)が形成されている。
【0060】
上記スクリュー圧縮機(1)には、スライドバルブ(65)をスライド駆動させるためのスライドバルブ駆動機構(80)が設けられている。このスライドバルブ駆動機構(80)は、軸受ホルダ(60)に固定されたシリンダ(81)と、該シリンダ(81)内に装填されたピストン(82)と、該ピストン(82)のピストンロッド(83)に連結されたアーム(84)と、該アーム(84)とピストンロッド(83)とを連結する連結ロッド(85)と、アーム(84)を図2の右方向(アーム(84)をケーシング(10)から引き離す方向)に付勢するスプリング(86)とを備えている。
【0061】
図2に示すように、スライドバルブ駆動機構(80)では、ピストン(82)の左側空間(ピストン(82)のスクリューロータ(40)側の空間)の内圧が、ピストン(82)の右側空間(ピストン(82)のアーム(84)側の空間)の内圧よりも高くなっている。そして、スライドバルブ駆動機構(80)は、ピストン(82)の右側空間の内圧(即ち、右側空間内のガス圧)を調節することによって、スライドバルブ(65)の位置を調節するように構成されている。
【0062】
スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(65)では、その軸方向の一方に圧縮機構(20)の吸入圧が、他方に圧縮機構(20)の吐出圧がそれぞれ作用する。このため、スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(65)には、常にスライドバルブ(65)の低圧空間(S1)側へ押す方向の力が作用する。従って、スライドバルブ駆動機構(80)におけるピストン(82)の左側空間及び右側空間の内圧を変更すると、スライドバルブ(65)を高圧空間(S2)側へ引き戻す方向の力の大きさが変化し、その結果、スライドバルブ(65)に位置が変化する。
【0063】
次に、円筒壁(30)の詳細について図5〜図10を参照しながら説明する。
【0064】
図5に示すように、円筒壁(30)は、スクリューロータ(40)の外周面を覆うように設けられている。また、円筒壁(30)には、スクリューロータ(40)の外周面の一部を低圧空間(S1)に露出させるための吸入用開口(36)が形成されている。この吸入用開口(36)は、円筒壁(30)の周方向における幅が図5におけるスクリューロータ(40)の左端から右端へ向かって次第に狭まる形状の開口である。尚、図5では、円筒壁(30)のうちスクリューロータ(40)の上側を覆う部分に形成された吸入用開口(36)が図示されているが、円筒壁(30)のうちスクリューロータ(40)の下側を覆う部分にも吸入用開口(36)が形成されている(図3を参照)。円筒壁(30)のうちスクリューロータ(40)の下側を覆う部分に形成された吸入用開口(36)の形状は、スクリューロータ(40)の回転軸に対して、円筒壁(30)のうちスクリューロータ(40)の上側を覆う部分に形成された吸入用開口(36)と軸対称な形状となっている。
【0065】
円筒壁(30)の内側面(35)では、吸入用開口(36)に臨む縁部が開口側縁部(37)となっている。図10に示すように、円筒壁(30)の内側面(35)の開口側縁部(37)は、スクリューロータ(40)の周方向シール面(45a)の前縁(46a)と平行な曲線を描く形状となっている。この開口側縁部(37)は、その全長に亘って周方向シール面(45a)の前縁(46a)と平行になっている。つまり、この開口側縁部(37)は、スクリューロータ(40)の回転に伴って移動する周方向シール面(45a)の前縁(46a)と、その全長に亘って重なり合うことが可能な形状となっている。また、この開口側縁部(37)の位置は、開口側縁部(37)が周方向シール面(45a)の前縁(46a)と重なり合った時点において、この前縁(46a)に隣接する螺旋溝(41a)に進入してきたゲート(51a)が未だ螺旋溝(41a)の後方壁面(43a)と接触しない状態となるように設定されている。
【0066】
図6に示すように、円筒壁(30)では、吸入用開口(36)に臨む壁面(即ち、その内側面(35)の開口側縁部(37)から円筒壁(30)の外周側へ延びる壁面)が、開口側壁面(38)となっている。この開口側壁面(38)は、スクリューロータ(40)側を向いた斜面となっている。つまり、この開口側壁面(38)は、同図の左側から右側へ進むにつれてスクリューロータ(40)に近づくような斜面となっている。
【0067】
図7〜図9に示すように、円筒壁(30)には、その周方向の端部にゲートロータ(50)を覆う周端縁部(32)が形成されている。この周端縁部(32)は、円筒壁(30)の各ゲートロータ(50,50)の手前に位置する周端からゲートロータ(50)の軸部(58)側に突出して形成されている。この周端縁部(32)は、上方側から視てゲートロータ(50)の一部と重なる位置に形成されている。尚、上記周端縁部(32)は、本発明に係るゲートシール部を構成している。
【0068】
また、円筒壁(30)には、開口側縁部(37)の低圧ガス冷媒の吸入側の端部に延長縁部(71)が形成されている。この延長縁部(71)は、開口側縁部(37)から低圧ガス冷媒の吸入側で、且つスクリューロータ(40)の軸方向に沿って延びている。そして、さらに延長縁部(71)は、その内周面が上記円筒壁(30)の内周面の周方向に沿って形成されている。したがって、延長縁部(71)の周端は上記周端縁部(32)と繋がって形成されている。そして、この延長縁部(71)には、逆流阻止片(72)が形成されている。
【0069】
上記逆流阻止片(72)は、流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)内の冷媒が低圧空間(S1)に逆流するのを阻止するものであって、本発明に係る逆流阻止部材を構成している。この逆流阻止片(72)は、スクリューロータ(40)の軸方向から視て、略四角形状に形成された片部材である。逆流阻止片(72)は、上記延長縁部(71)の内周面に沿って形成されている。逆流阻止片(72)は、その外形に、内側面(72b)と、内側斜面(72a)とが形成されている。
【0070】
上記内側面(72b)は、逆流阻止片(72)のうち、駆動軸(21)と対向する面に、駆動軸(21)の外周形状に沿うように形成されている。上記内側斜面(72a)は、逆流阻止片(72)のうち、スクリューロータ(40)の端部(49)と対向する面に、該端部(49)のテーパ形状に沿うように形成されている。上記内側斜面(72a)は、内側面(72b)の端部から延びている。そして、逆流阻止片(72)は、スクリューロータ(40)の軸方向から視ると、その螺旋溝(41a)の開口を覆うように形成されている。
【0071】
−運転動作−
次に、スクリュー圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0072】
スクリュー圧縮機(1)において電動機(15)を起動すると、駆動軸(21)が回転するのに伴ってスクリューロータ(40)が回転する。このスクリューロータ(40)の回転に伴ってゲートロータ(50)も回転し、圧縮機構(20)が吸入工程、圧縮行程および吐出行程を繰り返す。ここでは、図11においてドットを付した流体室(23)に着目して説明する。
【0073】
図11(A)において、ドットを付した流体室(23)は、低圧空間(S1)に連通している。また、この流体室(23)を形成する螺旋溝(41)は、同図の下側に位置するゲートロータ(50)のゲート(51)と噛み合わされている。スクリューロータ(40)が回転すると、このゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって相対的に移動し、それに伴って流体室(23)の容積が拡大する。その結果、低圧空間(S1)の低圧ガス冷媒が流体室(23)へ吸い込まれる。
【0074】
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図11(B)の状態となる。同図において、ドットを示した流体室(23)は、閉じきり状態となっている。つまり、この流体室(23)が形成されている螺旋溝(41)は、同図の上側に位置するゲートロータ(50)のゲート(51)と噛み合わされ、このゲート(51)によって低圧空間(S1)から仕切られている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって相対的に移動すると、流体室(23)の容積が次第に縮小する。その結果、流体室(23)内のガス冷媒が圧縮される。
【0075】
上記スクリューロータ(40)が更に回転すると、図11(C)の状態となる。同図において、ドットを付した流体室(23)は、吐出ポート(25)を介して高圧空間(S2)と連通した状態となっている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって相対的に移動すると、圧縮された冷媒ガスが流体室(23)から高圧空間(S2)へ押し出されてゆく。
【0076】
上記流体室(23)へ低圧ガス冷媒が流入する吸入工程について、図10を参照しながら詳細に説明する。
【0077】
図10では、螺旋溝(41a)に隣接する周方向シール面(45a)の前縁(46a)が円筒壁(30)の内側面(35)の開口側縁部(37)と重なり合う。そして、図10に示す状態となった時点では、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の全体が円筒壁(30)によって覆われる。つまり、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)は、スクリューロータ(40)の外周面の開口部が円筒壁(30)によって完全に閉塞され、円筒壁(30)によって低圧空間(S1)から仕切られる。尚、このとき流体室(23a)は図12に示す最大容積となる。
【0078】
この状態において、螺旋溝(41a)へ進入しつつあるゲート(51a)は、螺旋溝(41a)の後方壁面(43a)とは摺接していない。このため、吸入工程中の流体室(23a)は、スクリューロータ(40)の外周面側の開口部が円筒壁(30)によって低圧空間(S1)から仕切られる一方、スクリューロータ(40)の端面側では依然として低圧空間(S1)に連通した状態となっている。そして、この状態おいて、流体室(23a)へは、スクリューロータ(40)の端面側(即ち、スクリューロータ(40)の軸方向から視た螺旋溝(41a)の始端側)だけから低圧ガス冷媒が流入する。
【0079】
そして、さらにゲート(51a)が螺旋溝(41a)内へ進入すると、該螺旋溝(41a)が形成する流体室(23a)内の低圧ガス冷媒がゲート(51a)に押し込まれて螺旋溝(41a)の始端(吸入側)へ戻される。しかしながら、この逆流する低圧ガス冷媒は、逆流阻止片(72)によってスクリューロータ(40)の軸方向から視た螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)へ漏れるのが阻止される。
【0080】
さらに、スクリューロータ(40)が回転すると、周方向シール面(45a)の前縁(46a)は、円筒壁(30)の内側面(35)の開口側縁部(37)を通過する。円筒壁(30)の内側面(35)の開口側縁部(37)は、周方向シール面(45)の前縁(46a)と、後縁(47a)の間に位置している。
【0081】
その後、螺旋溝(41a)へ進入してきたゲート(51a)は、螺旋溝(41a)の後方壁面(43a)と摺接し始める。つまり、ゲート(51a)が螺旋溝(41a)の前方壁面(42a)と後方壁面(43a)と底壁面(44a)の全てと摺接し、流体室(23a)がゲート(51a)によって低圧空間(S1)から仕切られる。その結果、流体室(23a)が円筒壁(30)とゲート(51a)の両方によって低圧空間(S1)から仕切られた閉空間となり、吸入工程が終了する。尚、このとき流体室(23a)は図12に示す圧縮開始(閉じきり)となる。
【0082】
そして、吸入工程が終了し、さらにスクリューロータ(40)が回転すると、流体室(23a)の容積が減少して冷媒が圧縮される圧縮行程となる。尚、圧縮行程において、流体室(23a)では、図12に示すように、スクリューロータ(40)の回転に伴って、その容積が減少する。
【0083】
−実施形態の効果−
上記本実施形態によれば、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)から低圧ガス冷媒が逆流するのを阻止する逆流阻止片(72)を設けた。このため、上記流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)内にゲート(51a)が進入して流体室(23a)内の低圧ガス冷媒が押し出されても、逆流阻止片(72)によって螺旋溝(41a)の始端からの低圧空間(S1)への流出するのを阻止することができる。
【0084】
また、螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく過程において、螺旋溝(41a)によって形成された流体室(23a)へは、ゲート(51a)によって低圧ガス冷媒が押し込まれてゆく。そして、ゲート(51a)が上記流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)へ進入してから流体室(23a)を閉じ切るまでの間において、流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端がスクリューロータ(40)の軸方向から視て、逆流阻止片(72)によって覆われている。このため、ゲート(51a)によって流体室(23a)へ押し込まれた低圧ガス冷媒は、螺旋溝(41)の始端から低圧空間(S1)へ漏れ出すことなく流体室(23a)へ留まる。これらにより、流体室(23a)へ流入して圧縮される冷媒の量を増加させることができる。これらの結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0085】
次に、逆流阻止片(72)の外形形状のうち、スクリューロータ(40)の端部(49)に沿う面をスクリューロータ(40)のテーパ状の端部(49)に沿って形成したため、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端から低圧空間(S1)への低圧ガス冷媒の流出量を低減させることができる。これにより、流体室(23)へ流入して圧縮される冷媒の量を増加させることができる。この結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0086】
また、吸入工程中の流体室(23a)が円筒壁(30)によって覆われた状態では、スクリューロータ(40)の回転に起因する遠心力が流体室(23a)内の流体に作用しても、円筒壁(30)が流体室(23a)からの冷媒の流出を阻止する。このため、遠心力を受けて流体室(23a)からスクリューロータ(40)の外周側へ漏れてゆく冷媒の量を削減することができ、吸入工程中の流体室(23a)へ吸入される流体量を増加させることができる。その結果、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0087】
さらに、吸入工程中の流体室(23a)が円筒壁(30)によって覆われる状態となった後においても、この流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく。螺旋溝(41a)の始端へゲート(51a)が進入してゆく過程において、螺旋溝(41a)によって形成された流体室(23a)へは、ゲート(51a)によって低圧ガス冷媒が押し込まれてゆく。そして、ゲート(51a)が吸入工程中の流体室(23a)へ低圧ガス冷媒を押し込む時点において、吸入工程中の流体室(23a)が円筒壁(30)によって低圧空間(S1)から仕切られている。このため、ゲート(51a)によって流体室(23a)へ押し込まれた低圧ガス冷媒は、スクリューロータ(40)の外周側へ漏れ出すことなく流体室(23a)へ留まる。したがって、ゲート(51a)が流体室(23a)へ低圧ガス冷媒を押し込むことによっても、吸入工程中の流体室(23a)へ流入する冷媒の量を増加することができ、シングルスクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0088】
また、逆流阻止片(72)を円筒壁(30)と一体に形成し、且つ円筒壁(30)と周端縁部(32)と逆流阻止片(72)とを一体に形成したため、ケーシング(10)内に逆流阻止片(72)を容易に設置することができる。
【0089】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0090】
上記実施形態では、スクリューロータ(40)の軸方向から視て吸入工程中の螺旋溝(41a)の始端の全体を覆うように逆流阻止片(72)を設置したが、本発明に係る逆流阻止片(72)は、スクリューロータ(40)の軸方向から視た吸入工程中の螺旋溝(41a)の始端の少なくとも一部を覆うようにしてもよい。
【0091】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、シングルスクリュー圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0093】
10 ケーシング
23 流体室
30 円筒壁
32 周端縁部
36 吸入用開口
40 スクリューロータ
41 螺旋溝
49 (スクリューロータの)端部
50 ゲートロータ
51 ゲート
72 逆流阻止片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体室(23)を形成する複数の螺旋溝(41)が外周面に形成されたスクリューロータ(40)と、該スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)と噛み合わされる複数のゲート(51)が放射状に形成されたゲートロータ(50)と、上記スクリューロータ(40)及びゲートロータ(50)を収容するケーシング(10)とを備え、上記ケーシング(10)の内部には、該ケーシング(10)へ吸い込まれた圧縮前の低圧流体が流入し且つ上記スクリューロータ(40)の端面に開口する螺旋溝(41)の始端に連通する低圧空間(S1)が設けられたシングルスクリュー圧縮機であって、
上記ケーシング(10)は、その内部に、吸入工程中の流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)の低圧流体が逆流するのを阻止するための逆流阻止部材(72)を備えている
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記逆流阻止部材(72)は、上記ゲート(51a)が上記螺旋溝(41a)の内部に進入してから上記流体室(23a)を閉じ切るまでの間において、スクリューロータ(40)の軸方向から視て、上記螺旋溝(41a)の始端の少なくとも一部を覆うよう構成されている
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。
【請求項3】
請求項1において、
上記逆流阻止部材(72)は、上記ゲート(51a)が上記螺旋溝(41a)の内部に進入してから上記流体室(23a)を閉じ切るまでの間において、スクリューロータ(40)の軸方向から視て、上記螺旋溝(41a)の始端の全てを覆うよう構成されている
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つにおいて、
上記スクリューロータ(40)は、流体の吸入側の端部(49)がテーパ状に形成され、
上記逆流阻止部材(72)は、その外形形状のうち、上記スクリューロータ(40)の端部(49)に沿う面が該端部(49)のテーパ形状に沿って形成されている
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1つにおいて、
上記ケーシング(10)の内部には、上記螺旋溝(41)により形成される流体室(23)が上記低圧空間(S1)から仕切られるように上記スクリューロータ(40)の外周面を覆う仕切り壁部(30)が設けられ、
上記逆流阻止部材(72)は、仕切り壁部(30)に対して一体に設けられている
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。
【請求項6】
請求項5において
上記仕切り壁部(30)には、上記スクリューロータ(40)の外周面の一部を上記低圧空間(S1)に露出させるための吸入用開口(36)が形成されており、
上記低圧空間(S1)から低圧流体が流入する吸入工程中の流体室(23a)は、該流体室(23a)を形成する螺旋溝(41a)が上記吸入用開口(36)に臨む位置から上記仕切り壁部(30)で覆われる位置へ移動した後に、上記螺旋溝(41a)へ進入した上記ゲート(51a)によって上記低圧空間(S1)から仕切られる
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。
【請求項7】
請求項5又は6において、
上記仕切り壁部(30)には、その周方向の端部に上記ゲートロータ(50)の一部を覆うゲートシール部(32)が一体に設けられている
ことを特徴とするシングルスクリュー圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−97590(P2012−97590A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243742(P2010−243742)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)