説明

シンチレータおよび抗散乱グリッドの配置

本発明は、抗散乱グリッド(20)とシンチレータセルの配置とを有するシンチレータシステムの製作に関する。第1の処理ステップでは、シンチレータ結晶(10)の上面に、スロットの矩形状パターン(11、12)が切り込まれる。次に、前記スロットの一端に、抗散乱グリッド(20)が挿入され、接着剤により、抗散乱グリッド(20)がそこに固定される。最後に上層(厚さd)がシンチレータ結晶(10)から分離され、所望のシンチレータシステムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別のシンチレータセルの配置と抗散乱グリッドとを有するシンチレータシステムを製造する方法に関する。また、本発明は、そのようなシンチレータシステムおよびX線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
X線検出器は、例えば、CT(コンピュータ断層撮影装置)、PET(ポジトロン放射断層撮影装置)、SPECT(単一光子放射コンピュータ断層撮影装置)、核結像装置等の、医療用結像装置に使用される。いわゆる間接変換型のX線検出器は、入射X線を別のエネルギーの二次放射線、例えば可視光子に変換するシンチレータを有する。その後、二次放射線は、例えば光センサのような適当なセンサユニットによって検出される。また、検出器の画質を向上させるため、抗散乱グリッド(ASG)を使用することが知られている。ASGは、入射放射線を強く吸収する材料で製作され、格子グリッドは、直線溝を有し、通常の場合、この溝は、相互に平行に配置され、あるいは放射線源に向かって収束するように配置される。ASGは、前記溝と協働して、そのような放射線のみを透過させ、これにより、ASGの後方のセンサユニット用のサイトの明確なラインが提供される。
【0003】
米国特許第6,553,092B1号により、2つの異なるシンチレーション材料の連続層を有するX線検出器が知られている。この文献に記載されているいくつかの実施例では、外方シンチレーション層は、セレン化亜鉛で構成され、クロストークを防止するため、および一次元抗散乱グリッドのプレート用の取り付けスロットを提供するため、その表面に平行溝を有する。下部シンチレーション層は、別の直方体セルで構成され、このセルは、シンチレータ内で生じる可視光子のクロストークを防止するため、反射性コーティング層で被覆されている。
【特許文献1】米国特許第6,553,092B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、妥当なコストで製作することが可能な、高画質の検出器用のシンチレータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1に記載の製造方法、請求項8および9に記載のシンチレータシステム、ならびに請求項10に記載のX線検出器によって達成される。好適な実施例は、従属請求項に記載されている。
【0006】
第1の態様では、本発明により、(複数部の)個別のシンチレータセルの配置と抗散乱グリッドとを有するシンチレータシステムの製造方法が提供される。当該方法は、少なくとも以下のステップを有する:
a)結晶がいくつかのピースに分離されないように、シンチレータ結晶にスロットを切り込むステップ。これは、スロットを有するシンチレータ結晶が一つの統合物として残存し、統合物を一つの部品として取り扱うことが可能であることを意味する。
【0007】
b)前述のスロットに放射線吸収材料のプレートを挿入するステップであって、好ましくは、一つの各スロットに、一つのプレートが挿入されるステップ。特に、シンチレータ結晶は、X線を可視光子に変換する材料で構成されても良く、プレートは、X線を強く吸収する材料で構成されても良い。従って、プレートは、最終配置内に抗散乱グリッドを構成する。また、スロットは、直線状であり、プレートは、平坦であることが好ましいが、当然のことながら、より複雑な曲線形状とすることも可能である。
【0008】
c)シンチレータ結晶の最終切断を実施するステップであって、所望の配置の個別のシンチレータセルが得られるステップ。これは、最終切断によって、それまで一つのパーツから構成されていたシンチレータ結晶が、複数の異なるピース、または「シンチレータセル」に分割されることを意味する。
【0009】
前述の方法を用いることにより、複数のシンチレータセルと、抗散乱グリッドとを統合的に有するシンチレータシステムを得ることができる。前記シンチレータシステムは、いくつかの利点を有する。まず、ステップc)での最終切断が実施されるまで、シンチレータ結晶を一つのピース部品として取り扱うことができるため、前記システムの製造が容易になる。第2に、抗散乱グリッドのプレートおよびシンチレータセルは、高精度で相互に「自動的に」整列され、これにより、そのようなシンチレータシステムを用いて得られる画質が向上する。また、異なるシンチレータセルを、プレートで相互に完全に分離することにより、シンチレータセル同士の間でのクロストークが抑制された配置を提供することが可能となる。
【0010】
当該方法の別の効果では、スロットおよび/またはプレートは、プレートが挿入される前に、すなわち、a)およびb)のステップ間に、少なくとも一部が接着剤でコーティングされる。そのようなコーティングは、例えば、シンチレータ結晶および/またはプレートを、少なくとも部分的に液体接着剤中に浸漬することにより得ることができる。次に、接着剤によって吸収材料のプレートがシンチレータ結晶に接合され、両者が固定される。ステップc)での最終切断の後、分離されたシンチレータセルが、接着剤によってプレートに固定され、これによりシンチレータシステム全体に密着性が提供される。接着剤は、ステップb)でプレートがスロット内に挿入されてから、最終切断ステップc)が実施される前に硬化されることが好ましい。
【0011】
前述の実施例の更なる効果によれば、接着剤は、(少なくともそれが硬化状態では)あるスペクトルの電磁放射線に対して反射性である。そのような反射性は、例えば、適当な反射特性を有する粒子を、従来の接着剤またはのり剤に添加することにより発現させても良い。接着剤は、シンチレータ結晶において生じる種類の二次放射線に対して反射性であることが好ましく、例えば、X線感応シンチレータ結晶によって生じる可視光子に対して、反射性であることが好ましい。接着剤の反射性により、一つのシンチレータセルで生じた光子が隣接セルに移動することが抑制される。従って、クロストークが抑制され、検出過程において光子の損失は生じず、装置の感度が向上する。
【0012】
原理上、ステップa)では、シンチレータ結晶が故意にいくつかのピースに分割されない限り、シンチレータ結晶にスロットの切り込みを入れることができる。スロットは、例えば、2または3以上の異なる方向から、シンチレータ結晶に切り込みを入れることで形成される。好適実施例では、シンチレータ結晶は、一つの平坦表面を有し、その平面内に、全てのスロットが切り込まれる。シンチレータ結晶は、例えば、円筒または直方体の形状を有し、その一つの平坦面は、ステップa)での垂直方向のスロットによって構造化される。
【0013】
別の実施例では、スロットは、規則的なパターンで切り込まれ、特に、第1の方向での平行スロットと、第1のスロットに対して直交する第2の方向での平行スロットとの矩形状パターンで切り込まれる。
【0014】
ステップc)での最終切断によって得られるシンチレータセルは、直方体セルであることが好ましい。この場合、2つの対向するセル面は、それぞれ、一次放射線(例えばX線)の導入および誘起二次放射線(例えば可視光子)の放射に使用されても良い。直方体の残りの面は、隣接するシンチレータセルとの間のクロストークを抑制する吸収材料のプレートと接しても良い。
【0015】
別の好適実施例では、吸収材料のプレートは、少なくとも一部が、あるスペクトルの電磁放射線に対して反射性の材料で被覆されても良い。例えば、プレートは、隣接するシンチレータセルに逆向きに光子を反射する白色コーティング層を有しても良く、これにより、前述の反射性接着剤と同様の有意な効果が提供される。
【0016】
さらに本発明は、個別のシンチレータセルの配置と抗散乱グリッドとを有するシンチレータシステムに関し、このシンチレータシステムでは、抗散乱グリッドの溝内に、シンチレータセルの少なくとも一部が完全に配置されている。抗散乱グリッドは、一次元であっても良いが、二次元であることが好ましい。通常の場合、シンチレータセルは、溝の全長に対して(小さな)割合で、溝の一端から延伸している。
【0017】
前述のシンチレータシステムの別の効果では、シンチレータセルは、同じ単一のシンチレータ結晶を起源とし、前記結晶内での相対位置に一致する相対位置に設置される。そのようなシンチレータシステムは、特に、前述の種類の方法によって製作されても良い。
【0018】
最後に、本発明は、
例えば光ダイオード、光セル等のような光センサ(画素)の配列と、
前記配列の上部に配置された前述の種類のシンチレータシステムと、
を有するX線検出器を有する。光センサとシンチレータセルは、各シンチレータセルの下側に、一つの光センサのみが配置するように整列されることが好ましい。
【0019】
前述のシンチレータシステムおよびX線検出器の特徴は、前述の方法の特徴と同様である。従って、シンチレータシステムおよび検出器のより詳細な情報、改良法ならびに利点は、前記方法の記載を参照することにより得られる。
【0020】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以下に記載の実施例から、およびこれらを参照することにより明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、一例としての添付図面を参照して、本発明を説明する。
【0022】
従来のX線検出器の製造の際、検出器チップ上の光センサまたは画素の配列、シンチレータセルの配置、および一次元または二次元の抗散乱グリッドは、相互に別々に組み立てられ、整列される。この手順は、極めて大変であり、別個の整列ステップからの誤差が蓄積される傾向にある。従って、より簡単で整列誤差がより問題となりにくい、別の製造方法について以下説明する。
【0023】
提案のシンチレータシステムの製造は、シンチレータ結晶およびASGの調製から始まる。結晶は、例えばCdWO4またはGOS(Gd2O2S)のような、いかなる適当なシンチレータ材料で構成されても良く、特に、平坦で平行な上面および底面を有する円筒状の形状を有しても良い。これらの表面の一つ、例えば上面は、必要に応じて、研磨または同様の工程で調製される。次に前記表面は、第1の方向に平行スロットの切り込みを入れ、直交する第2の方向に平行スロットの切り込みを入れることにより、矩形パターンで構造化される。この得られた切り込みを図1に示すが、この図には、上面に、直交する方向のスロット11、12を有する円筒状のシンチレータ結晶10が示されている。例えばスロットは、高精度切断機(ブレードまたはワイヤ)を用いて、表面に切り込まれ、深さdは、例えば10μm乃至5mmである。スロット11、12の誤差は、数μm以内であり、スロットの幅は、通常10から20μmの範囲である。
【0024】
さらに図1には、予め製作された二次元抗散乱グリッド20を示すが、このグリッドは、第1の方向の平行プレート21の矩形状パターンを有し、この平行プレート21は、第1の方向と直交する第2の方向の平行プレート22と交差している。プレート21、22は、X線を強く吸収する材料で構成され、通常は、原子重量ZがZ>50のタングステン(W)またはモリブデン(Mo)のような重金属である。
【0025】
ASG20内の金属プレート21、22の間隔は、シンチレータ結晶10の表面のスロット11、12の間隔に対応しており、スロット11、12の幅は、プレート21、22の厚さと等しくなっている(あるいはプレート21、22の厚さよりも僅かに大きい)。従って図2に示すように、ASG20の下側端部は、スロットに挿入することができる。この挿入を行う前に、構造化されたシンチレータ結晶10には、(少なくとも構造化上面に)反射性接着剤がコーティングされ、このコーティングは、例えば浸漬コーティング処理によって行われる。これに加えてまたはこれとは別に、ASG20の下側端部にも、同様に接着剤のコーティングが設置されても良い。ASG20がシンチレータ結晶10のスロットに挿入された後、例えば、紫外線によってもしくは炉内熱処理によって、接着剤の硬化が開始されおよび/または加速される。
【0026】
接着剤の硬化後に、ASG20は、シンチレータ結晶10に恒久的に固定される。次の処理ステップでは、上面と平行な切断によって、厚さdの層がシンチレータ結晶10から分離され、これにより、図3に示すような、シンチレータセルのディスク状配置13とASG20の組み合わせが得られる。
【0027】
最後に、ASG20の矩形ベース上に突出したシンチレータディスクのセグメントが切断分離される。図4には、二次元抗散乱グリッド20を有する、得られたシンチレータシステムを示すが、この二次元抗散乱グリッド20は、ASG20のプレートの間に配置された個別の直方体シンチレータセル15の矩形状配置14と統合的に組み合わされている。最終切断の後、シンチレータ配置14の底部表面には、使用目的のため必要に応じて、更なる処理(例えば、研磨処理)が実施されても良い。
【0028】
以上、シンチレータシステムの好適製造方法について示したが、全般に本発明は、その製造方法とは無関係に、図4に示すような、(一次元または二次元の)ASGの溝内に個別のシンチレータセル15が設置された、いかなるシンチレータシステムを有しても良い。そのようなシンチレータシステムは、単一の一つのピース部品として取り扱うことが可能であり、シンチレータセル15とASG20の間の追加の位置合わせは不要である。そのようなシンチレータシステムは、抗散乱グリッドとシンチレータが必要となる全ての機器に使用することができ、例えばX線CT用または核医学用の検出器に使用することができる。また、図4に示したいくつかのシンチレータシステムは、適宜大面積が被覆されるように、並べて配置しても良い。
【0029】
最後に、本願において、「有する」という言葉は、他の素子またはステップを排斥するものではなく、「一つの」という言葉は、複数の存在を否定するものではなく、単一のプロセッサまたは他のユニットが、いくつかの手段の役割を果たしても良いことを指摘しておく。さらに、請求項内の参照符号は、それらの範囲を限定するものとして解してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】結晶の一つの表面にスロットを切り込んだ後の、シンチレータ結晶と、抗散乱グリッド(ASG)との斜視図である。
【図2】ASGをスロットに挿入した後の図1の構成部品を示す図である。
【図3】第1の最終切断後の図2の構成部品を示す図である。
【図4】さらに最終切断を行った後の図3の構成部材を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別のシンチレータセルの配置と抗散乱グリッドとを有するシンチレータシステムの製造方法であって、
a)シンチレータ結晶をいくつかのピースに切断しないで、シンチレータ結晶にスロットを切り込むステップと、
b)前記スロットに放射線吸収材料のプレートを挿入するステップと、
c)個別のシンチレータセルの所望の配置が得られるように、前記シンチレータ結晶の最終切断を実施するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記スロットおよび/または前記プレートは、該プレートが前記スロットに挿入される前に、少なくとも一部が接着剤でコーティングされ、前記接着剤は、好ましくはステップc)での前記最終切断を実施する前に、硬化されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接着剤は、反射性であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記シンチレータ結晶は、少なくとも一つの平坦表面を有し、該平坦表面に、前記スロットが切り込まれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記スロットは、規則的なパターンで切り込まれ、好ましくは矩形状パターンで切り込まれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップc)での前記最終切断を実施するステップでは、前記シンチレータ結晶から直方体セルが分離されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プレートは、少なくとも一部が反射性材料でコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
個別のシンチレータセルの配置と抗散乱グリッドとを有するシンチレータシステムであって、
前記シンチレータセルの少なくとも一部は、前記抗散乱グリッドの溝内に完全に配置されていることを特徴とするシンチレータシステム。
【請求項9】
前記シンチレータセルは、同一のシンチレータ結晶を起源としており、前記結晶内での相対位置に一致する相対位置に設置されていることを特徴とする請求項8に記載のシンチレータシステム。
【請求項10】
光センサの配列と、
該配列の上部に配置された、請求項8または9に記載のシンチレータシステムと、
を有するX線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−510131(P2008−510131A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525427(P2007−525427)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052623
【国際公開番号】WO2006/016341
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】