説明

シンバスタチンの製造方法

【課題】 高純度のシンバスタチンを高収率で、簡便かつ工業的に有利な方法で製造する。
【解決手段】 非プロトン性極性溶剤及び炭化水素系溶剤中、水存在下、一般式(3);
【化14】


で表される化合物に酸を作用させることにより、シンバスタチンを製造する。好ましくは、トリオール酸をアセトニド化し、得られたアセトニド体をアシル化し、さらにアシル体の脱アセトニド、及び、ラクトン化して得られたシンバスタチンを、芳香族炭化水素系溶剤及び脂肪族炭化水素系溶剤を用いた晶析、及び/又は、ケトン系溶剤もしくは含窒素系溶剤及び水の混合溶剤を用いた晶析に付すことにより、シンバスタチンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂血症の治療薬として知られるシンバスタチンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンバスタチンの製造法としては、例えば、以下の方法が知られている。
(I)ロバスタチンの2−メチルブチレート側鎖の脱保護、ヒドロキシ基の選択的シリル化、8位のアシル化、及び4−ヒドロキシ基の脱保護、で構成される方法。(特許文献1)
(II)ロバスタチンのメチルブチレート側鎖のα−炭素を金属アルキルアミド及びメチルハライドを用いて直接アルキル化する方法。(特許文献2)
(III)ロバスタチンのモノアルキルアミドを直接メチル化する方法。(特許文献3)
(IV)一般式(1);
【0003】
【化5】

で表されるトリオール酸のケタール化、8位のアシル化、及びケタールの加水分解及びラクトン化、で構成される方法。(特許文献4)
【特許文献1】US4444784
【特許文献2】US4582915
【特許文献3】US4820850
【特許文献4】WO00/34264
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記(I)の方法に関しては、選択的シリル化以降の工程の反応選択性が十分高くなく、総収率は満足できるほど高くない。
【0005】
上記(II)の方法に関しては、出発物質を効率よく変換する為には、アミド塩基メチルハライドを繰り返し付加する必要がある。また、メチル化及び加水分解工程中に多くの不純物が発生し、上記(III)の方法に関しては、超低温で反応を行わなければならないため、いずれも工業生産には適していない。
【0006】
さらに、上記(IV)の方法に関しては、簡便な方法であるが、得られたシンバスタチンの純度に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題に鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、下記式(4);
【0008】
【化6】

で表されるシンバスタチンが高品質、高収率で製造できる方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、非プロトン性極性溶剤及び炭化水素系溶剤中、水存在下、下記式(3);
【0010】
【化7】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す)で表される化合物に酸を作用させることを特徴とする前記式(4)で表されるシンバスタチンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高品質のシンバスタチンを、工業的規模において高い収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における全工程は、以下に示す工程(a)〜(c)および単離精製法(d)で表すことができる:
(a)トリオール酸(1)をアセトニド体(2)に変換する工程、
(b)アセトニド体(2)をアシル体(3)に変換する工程、
(c)アシル体(3)をシンバスタチン(4)に変換する工程、
(d)シンバスタチン(4)を単離・精製する工程。
【0013】
【化8】

【0014】
これらについて、以下順を追って詳細に説明する。
【0015】
1.工程(a)
工程(a)においては、下記式(1);
【0016】
【化9】

で表されるトリオール酸を、酸存在下に2,2−ジアルコキシプロパンと反応させて、下記式(2);
【0017】
【化10】

で表されるアセトニド体(2)を製造する。
【0018】
前記式(2)においてRは炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基があげられる。好ましくはメチル基である。2,2−ジアルコキシプロパンとしては、特に限定されないが、例えば、ジメトキシプロパン、ジエトキシプロパン、ジプロポキシプロパン、ジブトキシプロパン等が挙げられる。
【0019】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、WO02/020453記載の方法で得ることができる。
【0020】
本発明の反応(a)は、普通、溶剤中で実施される。溶剤としては、本質的に反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限されないが、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤及び含窒素系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。
【0021】
アルコール系溶剤としては、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等を挙げる事ができる。
【0022】
エーテル系溶剤としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
エステル系溶剤としては、特に制限されないが、好ましくは炭素数2〜8、より好ましくは炭素数3〜6のエステルであり、具体的には、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸tert−ブチル等が挙げられる。
【0024】
芳香族炭化水素系溶剤としては、特に制限されないが、好ましくは炭素数6〜12、より好ましくは炭素数6〜10、さらに好ましくは炭素数6〜8の芳香族炭化水素であり、具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等を挙げる事ができる。
【0025】
ケトン系溶剤としては、特に限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0026】
含窒素系溶剤としては、特に限定されないが、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶剤、N,N−ジメチルアミド等のアミド系溶剤を挙げる事ができる。
【0027】
なお、言うまでもなく上記反応溶剤は単独で用いても良いが、2種以上併用する事もできる。
【0028】
反応温度としては、特に限定されないが、普通、−20〜100℃が好ましく、0〜50℃がより好ましい。
【0029】
本発明(a)の反応において使用する酸としては、特に限定されないが、例えば、塩化水素や臭化水素などのハロゲン化水素;硫酸、燐酸等の鉱酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、1−フェニルエタンスルホン酸等のスルホン酸;蟻酸、酢酸、プロパン酸、2−メチルプロパン酸、ピバル酸、ブタン酸、2−メチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、ペンタン酸、2−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、ヘキサン酸、2−メチルへキサン酸、2,2−ジメチルへキサン酸、ヘプタン酸、2−メチルヘプタン酸等の脂肪族カルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよいが、2種以上併用しても良い。
【0030】
酸の使用量は、特に限定されないが、一般にトリオール酸(1)に対して、0.01〜10モル%が好ましく、より好ましくは0.1〜5モル%である。
【0031】
この反応液から生成物を取得する為には、一般的な後処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液を塩基で処理して中和し、水を加えた後、生成物を有機層に抽出する方法が挙げられる。
【0032】
上記塩基としては、特に限定されないが、無機塩基または有機塩基が挙げられる。
【0033】
無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等を挙げることができ、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩であり、さらに好ましくはアルカリ金属炭酸水素塩である。
【0034】
有機塩基としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアニリン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアミルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ピリジン、ルチジン、イミダゾール、4−ジメチルアミノピリジン等の3級アミンを挙げる事ができる。
【0035】
塩基を用いた処理方法としては、特に限定されないが、塩基を有機溶媒や水に一旦溶解させて添加してもよいし、直接添加しても良い。なお、塩基の使用量は、酸成分を中和できる量であれば、特に限定されない。
【0036】
塩基で処理した後は、必要に応じて水洗等を実施してもよい。その後、減圧加熱等の操作により反応溶媒および抽出溶媒を留去すると、目的物が得られる。溶媒を留去する温度条件としては、特に限定されないが、普通、−20〜100℃が好ましく、より好ましくは−10〜60℃であり、さらに好ましくは0〜40℃である。このようにして得られる目的物は、ほぼ純粋なものであるが、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な手法により精製を加え、さらに純度を高めても良い。
【0037】
また、本反応は、普通、不活性ガス下に実施されるが、さらに反応液や後工程の溶液中の溶存酸素を除去してもよい。
【0038】
2.工程(b)
本発明の工程(b)においては、アセトニド体(2)に対して、塩基存在下に2,2−ジメチルブタン酸クロリドを作用させて、8位の水酸基をアシル化し、下記式(3);
【0039】
【化11】

で表されるアシル体を製造する。前記式(3)においてRは前記に同じである。
【0040】
本発明の工程(b)で使用する2,2−ジメチルブタン酸クロリドに関しては、試薬メーカー等から調達する事もできるが、別途2,2−ジメチルブタン酸を塩素化して使用することもできる。以下、2,2−ジメチルブタン酸の塩素化方法について説明する。
【0041】
2,2−ジメチルブタン酸の塩素化は、文献公知の一般的な方法にて実施する事ができる。例えば、2,2−ジメチルブタン酸を、塩化チオニル及び塩基性化合物とを作用させる事により達成しうる。
【0042】
上記反応における塩化チオニルの使用量は、普通、1倍モル量以上で好適に実施しうる。
【0043】
上記反応において、使用する塩基性化合物としては特に限定されないが、好ましくは、有機塩基、アミド基含有化合物、4級アンモニウムハロゲン化物が挙げられる。
【0044】
上記有機塩基の具体例としては、前述のものをあげることができる。
【0045】
アミド基含有化合物としては、具体的には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド等を挙げる事ができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
4級アンモニウムハロゲン化物としては、具体的には、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラn−ブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリn−ブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラn−ブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリn−ブチルアンモニウム等を挙げる事ができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
上記反応において、上記塩基性化合物の使用量は特に限定されないが、2,2−ジメチルブタン酸に対して、0.01モル%〜5モル%である。
【0048】
上記反応は、用いる塩基性化合物によっては無溶媒下に実施することができるが、反応に悪影響を及ぼさない範囲で適宜、溶媒を使用してもよい。
【0049】
反応温度としては、−20〜120℃が好ましく、より好ましくは0〜80℃であり、さらに好ましくは10〜60℃である。
【0050】
この反応液から2,2−ジメチルブタン酸クロリドを取得する方法としては、濃縮または蒸留を挙げることができる。
【0051】
尚、2,2−ジメチルブタン酸クロリドの蒸留又は精留は、減圧下に行うのが好ましい。また、このようにして得られる目的物はほぼ純粋なものであり、このままアセトニド体(2)と反応させてもよいが、カラムクロマトグラフィー等の一般的な手法により精製を加え、さらに純度を高めても良い。
【0052】
次に、塩基存在下、2,2−ジメチルブタン酸クロリドを用いて、アセトニド体(2)の8位の水酸基をアシル化する方法について説明する。
【0053】
アセトニド体(2)は、前述の工程(a)の方法で得られたものを用いてもよいし、別途調製したものを用いてもよい。
【0054】
2,2−ジメチルブタン酸クロリドの使用量は、普通、アセトニド体(2)に対して、1倍モル以上用である。
【0055】
本反応は、普通、溶剤中で実施される。溶剤としては、本質的に反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限されないが、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤又は芳香族炭化水素系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。具体例としては前述のものがあげられる。なお、言うまでもなく上記反応溶剤は単独で用いても良いが、2種以上併用する事もできる。
【0056】
上記塩基としては、無機塩基、有機塩基を問わず前述のものを使用することができるが、好ましくは有機塩基であり、とりわけ3級アミンが好ましい。
【0057】
これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0058】
塩基の使用量としては、特に限定されないが、普通、アセトニド体(2)に対して0.05〜50倍モル量であり、好ましくは0.1〜20倍モル量である。
【0059】
反応温度に関しては、普通、20〜130℃にて好適に実施しうる。
【0060】
反応時間に関しては特に限定されないが、普通、100時間以下、好ましくは48時間以下である。
【0061】
この反応液から生成物を取得するためには、一般的な後処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液に水を加え、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、へキサン等の一般的な抽出溶媒を用いて抽出操作を行うことができる。得られた有機層は、適宜、水、酸性水および/又は塩基性水を用いて洗浄することができる。
【0062】
上記有機層を酸性水で洗浄する際の酸としては、有機酸や無機酸を問わず使用することができるが、具体的には、塩酸や硫酸等の鉱酸、クエン酸、蟻酸、酢酸等のカルボン酸、メタンスルホン酸やp-トルエンスルホン酸等のアルキルスルホン酸を挙げることができる。
【0063】
上記有機層を塩基性水で洗浄する際の塩基としては、特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、並びに、2級アミン、3級アミン等の有機塩基を挙げる事ができる。アルカリ金属水酸化物、2級アミン、3級アミンとしては前述のものがあげられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を挙げる事ができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
上記無機塩基は、操作性等の観点から水溶液として使用するのが好ましく、普通、例えば、0.01〜20mol/L、好ましくは0.1〜10mol/Lのアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いるのが好ましい。これらの塩基は、系中を適切なpHに維持する速度で逐次添加しながら行う事ができる。なお、生成物の安定性等を勘案すると、pH7〜13の範囲で実施するのが好ましい。
【0065】
また、前記塩基条件化での洗浄を実施した後に、酸性条件下で水洗することで系中に残存する塩基を水層側へ除去することもできる。このときのpHは特に限定されないが、強酸性条件下でのアシル体(3)の安定性を考慮すると、pH1〜6が好ましい。
【0066】
得られた抽出液から目的物であるアシル体(3)を取得する為には、減圧加熱等の操作により反応溶媒及び抽出溶媒を除去するとよい。溶媒を留去する際の温度は、普通、0〜100℃、好ましくは10〜60℃である。
【0067】
このようにして得られる目的物は、ほぼ純粋なものであるが、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な手法により精製を加え、さらに純度を高めても良い。
【0068】
また、本発明の工程(b)においても、前記工程(a)で述べたように、不活性ガス存在下に実施するのが好ましい。
【0069】
3.工程(c)
本発明の工程(c)は、酸の存在下にアシル体(3)を処理して、下記式(4);
【0070】
【化12】

で表されるシンバスタチンに変換する工程である。
【0071】
本工程に使用するアシル体(3)は前述の方法で製造したものを用いてもよいし、別途取得したものを用いてもよい。
【0072】
使用する酸としては、特に限定されないが、例えば、塩化水素や臭化水素等のハロゲン化水素、硫酸や燐酸等の鉱酸、メタンスルホン酸やp−トルエンスルホン酸等のスルホン酸を挙げることができる。
【0073】
上記酸の使用量は、特に限定されないが、一般にアシル体(3)に対して0.01〜5倍モル量が好ましい。
【0074】
本発明の工程(c)は、非プロトン性極性溶剤および炭化水素系溶剤中、水存在下に実施する。
【0075】
水の使用量は、通常、アシル体(3)に対して、1〜50倍モル程度にて好適に実施しうる。
【0076】
上記非プロトン性極性溶剤としては特に限定されず、前述のエーテル系溶剤;エステル系溶剤;ケトン系溶剤;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶剤;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、ジメチルブチルアミド等の含窒素系溶剤を挙げる事ができる。上記炭化水素系溶剤としては特に限定されないが、例えば、前述の芳香族炭化水素系溶剤;へキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0077】
非プロトン性極性溶剤と炭化水素系溶剤の混合比は特に制限されないが非プロトン性極性溶剤と炭化水素系溶剤の合計に対する非プロトン性極性溶剤の割合として、下限は、好ましくは20wt%以上であり、さらに好ましくは30wt%以上である。上限は100wt%であるが、好ましくは80wt%以下であり、さらに好ましくは60wt%以下である。
【0078】
本反応は、普通、−20〜60℃にて好適に実施しうる。
【0079】
なお、本工程におけるラクトン化はエステル交換反応であるため、反応で副生したメタノールを濃縮等の操作により適宜系外に留去することにより原料と生成物の平衡を生成物側に傾けることができ、これにより反応収率を高め得る。
【0080】
反応後は一般的な後処理を行えばよい。例えば、反応液に水を加えて抽出する方法や反応液を濃縮工程に付す方法などを挙げることができる。上記反応液はそのまま用いてもよいし、一旦塩基で処理して前記酸を中和した後に、抽出や濃縮工程に付しても良い。
【0081】
本発明の工程(c)において、反応後に塩基を用いて酸を中和する場合、用いる塩基としては、無機塩基、有機塩基を問わず使用することができ、具体例としては前述のものが挙げられる。
【0082】
上記塩基の使用量は、反応に用いた酸に対して1倍モル以上が好ましい。
【0083】
濃縮操作を行う場合の方法は特に限定されないが、普通、減圧下に実施される。
【0084】
上記反応から後処理操作に関しては、適宜記載の操作を組み合わせることで、収率の最大化や不純物制御を有利に行うこともできる。
【0085】
また、本発明の工程(c)においても、上記反応(a)で述べたように、不活性ガス存在下に実施するのが好ましい。
【0086】
4.単離・精製工程(d)
次に、シンバスタチン(4)の単離・精製法について説明する。
【0087】
本発明の工程(a)〜(c)により得られるシンバスタチン(4)は、普通、二量体(5)を不純物として含有する。
【0088】
【化13】

【0089】
上記不純物を除去して、高純度のシンバスタチン(4)を取得するためには、有機溶剤を用いて晶析するのが好ましい。具体的には、芳香族炭化水素系溶剤と脂肪族炭化水素系溶剤を用いた晶析、及び/又は、ケトン系溶剤もしくは含窒素系溶剤、及び水を用いた晶析を行うのが好ましい。なお、本方法は、工程(a)〜(c)以外の方法で得られたシンバスタチンを精製する際にも有効に使用しうる。
【0090】
晶析に用いる有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、置換基を有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素系溶剤、置換基を有していてもよい炭素数5〜12の脂肪族炭化水素系溶剤等の炭化水素系溶剤、非プロトン性水溶性溶剤を挙げることができる。
【0091】
上記芳香族炭化水素溶剤よしては特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0092】
上記脂肪族炭化水素溶剤としては特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等を挙げることができる。
【0093】
上記非プロトン性水溶性溶剤としては、テトラヒドロフランや1,4-ジオキサン等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、ジメチルブチルアミド等の含窒素系溶剤を挙げる事ができる。
【0094】
上記晶析に際しては、シンバスタチン(4)は、本発明の工程(a)〜(c)の方法により得られた抽出液、又は濃縮液を用いることができる。晶析方法としては、特に限定されないが、貧溶媒添加晶析法、冷却晶析法、濃縮晶析法、溶媒置換晶析法等をもちいることができる。言うまでもないが、これらの晶析法は、適宜組み合わせて用いる事ができる。
【0095】
また、晶析に際しては、必要に応じ、種晶を添加してもよい。
【0096】
なお、前記晶析に際しては、あらかじめシンバスタチン(4)の溶液を活性炭等の吸着剤を用いて処理しておいてもよい。
【0097】
晶析濃度は特に限定されないが、溶剤容量に対するシンバスタチン(4)の重量として、一般に0.5〜30wt/v%が好ましく、2〜20wt/v%がより好ましい。
【0098】
晶析温度は特に限定されないが、シンバスタチン(4)の安定性や得られる結晶の品質を考慮すると、0〜60℃が好ましく、0〜40℃がより好ましい。
【0099】
ケトン系溶剤もしくは含窒素系溶剤及び水を用いて晶析する方法は、例えば、前記方法により得られたシンバスタチン(4)をケトン系溶剤もしくは含窒素系溶剤に溶解し、水を添加することにより実施できるが、さらに、冷却晶析法、濃縮晶析法や溶媒置換晶析法等を適宜組み合わせて実施することができる。晶析に際しては、必要に応じ、種晶を添加することができる。ケトン系溶剤もしくは含窒素系溶剤としては、前述のものが挙げられる。
【0100】
水溶性非プロトン性溶媒に対する水の容量比として、一般に0.5〜1.5が好ましいが、シンバスタチン(4)の精製効果、及び得られる結晶の物性を勘案して、適宜、変量する事ができる。
【0101】
晶析温度に関しては、シンバスタチン(4)の熱安定性を考慮し、一般的に上限40℃で実施するのが好ましい。下限は系の固化温度以上であるが、普通、0℃以上、さらに好ましくは5℃以上である。
【0102】
晶析濃度は特に限定されないが、溶剤容量に対するシンバスタチン(4)の重量として、一般に1〜40wt/v%が好ましく、5〜20wt/v%がより好ましい。
【0103】
また、本発明の単離精製法においても、上記反応(a)で述べたように、不活性ガス存在下に実施するのが好ましい。
【0104】
本発明で得られるシンバスタチン(4)の結晶は、遠心分離、加圧濾過、減圧濾過の一般的な固液分離法を用いて結晶を採取することができる。得られた結晶は、更に必要に応じて、例えば、減圧乾燥することにより乾燥結晶として取得する事ができる。
【0105】
本発明にかかる製造方法によれば、高品質のシンバスタチン(4)の結晶を高い収率で取得する事ができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。これらの実施例は無論本発明を何ら限定するものではない。
【0107】
(実施例1)
2,2−ジメチル−6(R)−(2−8(S)−ヒドロキシ−2(S)、6(R)−ジメチル−1,2,6,7,8,8a(R)−ヘキサヒドロナフチル−1(S))エチル)−4(R)−(メチルオキシカルボニル)メチル−1,3−ジオキサン(2)(以下、アセトニド体と略す)の製造法
窒素置換したフラスコに、トリオール酸(1)を12.0g(純度:96.3%)、トルエン120gを入れ、攪拌下に溶解した。これに2,2−ジメチルブタン酸(0.3g)、ジメトキシプロパン(16.6g)、及びp−トルエンスルホン酸・一水和物(0.17g)を添加し、室温下に攪拌した。ピリジンを添加した後、5%重曹水および水で洗浄し、次いで、ロータリーエバポレーターで濃縮し、表題の化合物を13.9g含有するトルエン溶液を得た(収率100%)。
【0108】
(実施例2)
2,2−ジメチルブチリルクロリドの製造法
窒素置換したフラスコに2,2−ジメチルブタン酸(19g)、及びトリエチルアミンを仕込んだ後、攪拌下、室温にて発熱に注意しながら塩化チオニル(21.4g)をゆっくり添加した。反応終了後、反応液を減圧下に蒸留し、表題の化合物を得た。
【0109】
(実施例3)
2,2−ジメチル−6(R)−(2−(8(S)−(2,2−ジメチルブチリルオキシ)−2(S)、6(R)−ジメチル−1,2,6,7,8,8a(R)−ヘキサヒドロナフチル−1(S))エチル)−4(R)−(メチルオキシカルボニル)メチル−1,3−ジオキサン(3)(以下、アシル体と略す)の製造法
窒素置換したフラスコに、アセトニド体(2)13.8gを含有するトルエン溶液、ピリジン28.0g、及び4−ジメチルアミノピリジン0.87gを入れた。これに実施例2の方法で調製した2,2−ジメチルブタン酸クロリド9.5gを添加した後、110℃にて攪拌した。室温付近まで冷却後、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。トルエンを添加後、有機層を希硫酸水および水で洗浄し、ロータリーエバポレーターで濃縮してアシル体(3)を17.2含有するトルエン溶液を得た(収率99.0%)。
【0110】
(実施例4)
シンバスタチン(4)の製造法
窒素置換したフラスコに、アシル体(3)1.2gを含有するトルエン溶液、アセトニトリル10g、水0.3g、及びメタンスルホン酸0.06gを入れた後、室温にて攪拌した。反応終了後、ピリンジン0.06gを加え減圧下に一部濃縮した。濃縮液にトルエンを添加し、水で洗浄した後、減圧濃縮して表題化合物を0.9g含有する濃縮液を得た(収率:90%)。
【0111】
(実施例5)
シンバスタチン(4)の製造法
窒素置換したフラスコに、シンバスタチン(4)10.0g(二量体:0.85%)を含有するトルエン溶液、活性炭0.5gを加えた後、これを懸濁し、室温下で30分攪拌した。桐山ロートで活性炭を濾過した後、濾液をロータリーエバポレーターで一部濃縮した。次いで、攪拌しながらヘプタンを添加(途中シンバスタチンの種晶を接種)した後、冷却し、氷浴下に30分攪拌した。スラリーを桐山ロートでろ過した後、湿ケーキを減圧下に加温しつつ乾燥し、シンバスタチン(4)の結晶9.6gを得た(収率:94.5%)。HPLCで分析したところ、純度は97.5wt%、二量体含量は0.36%であった。
【0112】
(実施例6)
窒素置換したフラスコに、別途取得したシンバスタチン(4)1.8g(純度:91.1wt%)を加えて、アセトン5.5gに溶解した後、この溶液に氷浴下に水6.5gをゆっくり添加した。得られたスラリーを2時間攪拌した後、桐山ロートでろ過し、得られた湿ケーキを減圧下に加温しつつ乾燥し、シンバスタチン(4)の結晶1.6gを得た(収率:88%)。HPLCで分析したところ、純度は99.5wt%、二量体含量は0.35%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性有機溶剤及び炭化水素系有機溶剤中、水存在下、下記式(3);
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す)で表される化合物に酸を作用させることを特徴とする下記式(4);
【化2】

で表されるシンバスタチンの製造方法。
【請求項2】
前記式(3)で表される化合物が、下記式(2);
【化3】

(式中、Rは前記に同じ)で表されるアセトニド体と2,2−ジメチルブタン酸クロリドを塩基存在下に反応させて得られたものである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(2)で表される化合物が、下記式(1);
【化4】

で表される化合物と2,2−ジアルコキシプロパンを酸存在下に反応させて得られたものである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
得られた前記式(4)で表されるシンバスタチンを晶析工程に付すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
芳香族炭化水素系溶剤、及び脂肪族炭化水素系溶剤を用いて晶析することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
ケトン系溶剤または含窒素系溶剤、及び水を用いて晶析することを特徴とする請求項4記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−114121(P2009−114121A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288651(P2007−288651)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】