説明

シートクッション及びその製造方法

【課題】シートクッションにおいて、アルデヒドキャッチャー剤の使用量を抑えながら、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを効果的に低減させられるようにする。
【解決手段】座面2a、座面2aの周縁から下方に向けて形成される側面2b、及び各側面2bの下端を周縁として形成される裏面2cを有するポリウレタンフォーム製のシート用パッド2と、シート用パッド2の座面2a及び各側面2bを覆う表皮材3とを備えたシートクッションにおいて、シート用パッド2の裏面2cのみにアルデヒドキャッチャー剤が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒドを低減させるシートクッション及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本自動車工業会では車室内VOC(揮発性有機化合物)に関して自主規制を行っており、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドは自主規制の規制物質になっている。一般的に、自動車用のシートクッションにはポリウレタンフォーム製のシート用パッドが用いられているが、このシート用パッドが、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドの発生源の一つであることが知られている。例えば特許文献1には、軟質ポリウレタンフォームからなるシート用パッドであって、その表面に、アルデヒドを捕捉するアルデヒドキャッチャー剤を塗布する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−124743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあるようにシート用パッドの表面全体にアルデヒドキャッチャー剤を塗布すると、アルデヒドキャッチャー剤の使用量が増えるとともに、乾燥時間が長くなって作業性が悪くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、アルデヒドキャッチャー剤の使用量を抑えながら、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを効果的に低減させられるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシートクッションは、座面、前記座面の周縁から下方に向けて形成される側面、及び前記各側面の下端を周縁として形成される裏面を有するポリウレタンフォーム製のシート用パッドと、前記シート用パッドの座面及び各側面を覆う表皮材とを備え、前記シート用パッドの裏面のみにアルデヒドキャッチャー剤が塗布されていることを特徴とする。
本発明のシートクッションの製造方法は、座面、前記座面の周縁から下方に向けて形成される側面、及び前記各側面の下端を周縁として形成される裏面を有するポリウレタンフォーム製のシート用パッドと、前記シート用パッドの座面及び各側面を覆う表皮材とを備えたシートクッションの製造方法であって、前記シート用パッドの裏面にアルデヒドキャッチャー剤を塗布する手順を有することを特徴とする。
また、本発明のシートクッションの製造方法の他の特徴とするところは、前記アルデヒドキャッチャー剤は有効成分を溶解又は分散させた溶液であり、前記アルデヒドキャッチャー剤を塗布する手順の後に乾燥させる手順を有する点にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シート用パッドの表面のうち、表皮材で覆われない裏面のみにアルデヒドキャッチャー剤を塗布するので、アルデヒドキャッチャー剤をシート用パッドの表面全体に塗布するのに比べて、アルデヒドキャッチャー剤の使用量を抑えることができる。しかも、シートクッションに対する乗員の着座、起立によって、シート用パッド内の空気が裏面を介して押し出されたり、外部の空気が裏面を介して吸い込まれたりするので、裏面に塗布したアルデヒドキャッチャー剤により、シート用パッドで発生するアルデヒド及び外部に放散しているアルデヒドの両方を効率的に捕集することができる。また、アルデヒドは空気より重いため下方に多く放散しており、下方に位置する裏面にアルデヒドキャッチャー剤を塗布することにより、放散しているアルデヒドを効率的に捕集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用可能な自動車用のシートクッションの例を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用可能な自動車用のシートクッションの断面を簡略化して示す図である。
【図3】シートクッションに対する乗員の着座、起立によるポンプ作用を説明するための図である。
【図4】試験1に用いた試料の概要を示す図である。
【図5】試験1の概要を説明するための図である。
【図6】試験1の結果である各試料のアセトアルデヒド低減率を示す特性図である。
【図7】試験2に用いた試料の概要を示す図である。
【図8】試験2の結果である各試料のアセトアルデヒド低減率を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明のシートクッション及びその製造方法に係る好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用可能な自動車用のシートクッション1の例を示す斜視図である。また、図2は、シートクッション1の断面を簡略化して示す図である。シートクッション1は、乗員が着座する座面2a、座面2aの周縁から下方に向けて形成される側面2b、及び各側面2bの下端を周縁として形成される裏面2cを有するポリウレタンフォーム製のシート用パッド2と、シート用パッド2の座面2a及び各側面2bを覆う表皮材3とにより構成される。
【0010】
ここで、シート用パッド2の座面2a及び各側面2bにはアルデヒドキャッチャー剤を塗布せずに、表皮材3で覆われない裏面2cのみにアルデヒドキャッチャー剤を塗布する。アルデヒドキャッチャー剤は、アルカノールアミン等のアミン類化合物、尿素、グアニジン塩類、アミノグアニジン塩類、ヒドラジン、モノヒドラジン類、ジヒドラジド類、ジシアンジアミド等を有効成分として、それらを水又はアルコール系溶媒に溶解又は分散させた溶液のことをいう。アルデヒドキャッチャー剤は、シート用パッド2の裏面2cに対して例えばスプレー塗布される。この場合に、シート用パッド2の裏面2cの全面にアルデヒドキャッチャー剤を均一に塗布するのが好ましい。
【0011】
シート用パッド2の裏面2cにアルデヒドキャッチャー剤を塗布した後、それを乾燥させる。
【0012】
以上述べたように、シート用パッド2の表面のうち、表皮材3で覆われない裏面2cのみにアルデヒドキャッチャー剤を塗布するので、アルデヒドキャッチャー剤をシート用パッドの表面全体に塗布するのに比べて、アルデヒドキャッチャー剤の使用量を抑えることができる。
【0013】
しかも、図3(a)に示すように、シートクッション1に乗員が着座すると、図中の矢印に示すように、シート用パッド2内の空気が裏面2cを介して下方に押し出される。このとき、裏面2cに塗布したアルデヒドキャッチャー剤により、シート用パッド2で発生するアルデヒドを効率的に捕集することができる。また、図3(b)に示すように、シートクッション1から乗員が立ち上がると、図中の矢印に示すように、ポリウレタンフォームの反発性により車室内の空気が裏面2cを介して吸い込まれる。このとき、裏面2cに塗布したアルデヒドキャッチャー剤により、車室内に放散しているアルデヒドを効率的に捕集することができる。
【0014】
また、シート用パッド2の裏面2cにアルデヒドキャッチャー剤を塗布しているので、アルデヒドキャッチャー剤が裏面2c付近に滞在し、より多くの有効成分が外部雰囲気に接しやすくなる。したがって、シート用パッド2自体からの発生分に加え、車室内に放散しているアルデヒドの捕集も効率的に行うことができ、より高いアルデヒドの低減効果が得られる。特にアルデヒドは空気より重いため車室内のフロア(下)付近に多く放散しており、車室内のフロア(下)側に位置するシート用パッド2の裏面2cにアルデヒドキャッチャー剤を塗布することにより、車室内に放散しているアルデヒドを効率的に捕集することができる。
【0015】
(実験1)
図4に、試験1に用いた試料101の概要を示す。実際に車両に搭載されるポリウレタンフォーム製のシート用パッド2を切り出して、縦10[cm]×横10[cm]×高さ(厚さ)5[cm]のブロック形状とした(以下、ポリウレタンフォームブロック102と呼ぶ)。また、実際に車両に搭載される表皮材3を切り出して、ポリウレタンフォームブロック102の上面(座面)102aを覆う部分(10[cm]×10[cm])、及び各側面102bを覆う4つの部分(10[cm]×5[cm])を持つ表皮材103を形成した。
【0016】
ポリウレタンフォームブロック102及び表皮材103を室温にて10〜18日間養生させた。そして、測定前日にアルデヒドキャッチャー剤を塗布して、一晩自然乾燥させた後、ポリウレタンフォームブロック102及び表皮材103をステープラで組み合わせた。表1にアルデヒドキャッチャー剤の塗布条件を示す。表1に示すように、試料Aとして、アルデヒドキャッチャー剤を全く塗布しないものを用意した。また、試料Bとして、アルデヒドキャッチャー剤をポリウレタンフォームブロック102の裏面102cのみに塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積100[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。また、試料Cとして、アルデヒドキャッチャー剤をポリウレタンフォームブロック102の表面全体、即ち上面102a、各側面102b及び裏面102cに塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積400[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。
【0017】
【表1】

【0018】
以上のようにした試料(101)A〜Cに対し、JASO M 902「自動車部品−内装材−揮発性有機化合物(VOC)放散測定方法」のサンプリングバッグ試験方法に準じてアセトアルデヒド発生量(μg/unit)の測定を行った。具体的には、図5(b)に示すように、接触面積をできるだけ小さくした治具104の上に各試料(101)A〜Cをそれぞれ載置して、10[l]のサンプルバッグ105に入れて密封し、サンプルバッグ105内の空気を窒素5[l]で置換した。そして、65[℃]に加熱した乾燥機106に入れて、2時間経過後、実際のシートクッションに対する乗員の着座、起立を想定して試料101の上面102aを20回押してから、サンプルバッグ105内の気体を捕集して分析した。
【0019】
表2及び図6に試験結果を示す。なお、アセトアルデヒド低減率は下式として定義する。アルデヒドキャッチャー剤を塗布することにより(試料B、C)、アセトアルデヒドを大幅に低減させられることがわかる。そして、アルデヒドキャッチャー剤を塗布する場合に、表皮材103で覆われない裏面102cのみにアルデヒドキャッチャー剤を塗布した試料Bの方が、表面全体にアルデヒドキャッチャー剤を塗布した試料Cに比べれば、同量のアルデヒドキャッチャー剤を使用した場合に、アセトアルデヒドの低減率を高められることがわかる。なお、一般的にホルムアルデヒドよりもアセトアルデヒドの方がアルデヒドキャッチャー剤との反応性が劣るため捕集しにくいが、そのアセトアルデヒドに対して低減率を効果的に高めることが可能であった。
【0020】
【表2】

【0021】
【数1】

【0022】
(実験2)
図7に、試験2に用いた試料201の概要を示す。実際に車両に搭載されるポリウレタンフォーム製のシート用パッド2を切り出して、縦10[cm]×横10[cm]×高さ(厚さ)5[cm]のブロック形状とした(以下、ポリウレタンフォームブロック202と呼ぶ)。また、実際に車両に搭載される表皮材3を切り出して、ポリウレタンフォームブロック202の上面(座面)202aを覆う部分(10[cm]×10[cm])を持つ表皮材203を形成した。
【0023】
ポリウレタンフォームブロック202及び表皮材203を室温にて10〜18日間養生させた。そして、測定前日にアルデヒドキャッチャー剤を塗布して、一晩自然乾燥させた後、ポリウレタンフォームブロック202及び表皮材203をステープラで組み合わせた。表3にアルデヒドキャッチャー剤の塗布条件を示す。表3に示すように、試料aとして、アルデヒドキャッチャー剤を全く塗布しないものを用意した。また、試料bとして、アルデヒドキャッチャー剤をポリウレタンフォームブロック202の上面202aのみに塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積100[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。また、試料cとして、アルデヒドキャッチャー剤を表皮材203の裏面のみに塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積100[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。また、試料dとして、アルデヒドキャッチャー剤をポリウレタンフォームブロック202の上面202a及び表皮材203の裏面に塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積200[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。また、試料eとして、アルデヒドキャッチャー剤をポリウレタンフォームブロック202の表面全体、即ち上面202a、各側面202b及び裏面202cに塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積400[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。また、試料fとして、アルデヒドキャッチャー剤をポリウレタンフォームブロック202の裏面202cのみに塗布したものを用意した。塗布量は、塗布面積100[cm2]に対して、アルデヒドキャッチャー剤の有効成分が0.01[g]となるようにした。
【0024】
【表3】

【0025】
以上のようにした試料(201)a〜fに対し、JASO M 902「自動車部品−内装材−揮発性有機化合物(VOC)放散測定方法」のサンプリングバッグ試験方法に準じてアセトアルデヒド発生量(μg/unit)の測定を行った。試験2の概要は、図5に示した試験1と同様であるが、試験2では、試料201を入れたサンプルバッグ105を65[℃]に加熱した乾燥機106に入れて、2時間経過後に、試料201の上面202aの押圧は行わずにサンプルバッグ105内の気体を捕集して分析した。
【0026】
表4及び図8に試験結果を示す。試料b及びcと試料fとを比べると、同じ面積に同量のアルデヒドキャッチャー剤を塗布するのであれば、表皮材203で覆われている上面202aや表皮材203の裏面に塗布するよりも、表皮材203で覆われない裏面202cに塗布する方が有効であることがわかる。
【0027】
また、試験2においては、ポリウレタンフォームブロック202の表面全体にアルデヒドキャッチャー剤を塗布した試料dと、ポリウレタンフォームブロック202の裏面202cのみにアルデヒドキャッチャー剤を塗布した試料fとでは、アセトアルデヒドの低減率にさほど差が認められない。しかしながら、試験1で述べたように、上面102aの押圧を繰り返したところ、アセトアルデヒドの低減率に差が生じ、表皮材103で覆われない裏面102cのみにアルデヒドキャッチャー剤を塗布した試料Bの方が、表面全体にアルデヒドキャッチャー剤を塗布した試料Cよりもアセトアルデヒドの低減率が高くなっている。この結果からも、図3で説明したように、シートクッションに対する乗員の着座、起立によるポンプ作用が、アルデヒドの捕集に効果を奏することがわかる。
【0028】
【表4】

【符号の説明】
【0029】
1:シートクッション、2:シート用パッド、2a:座面、2b:側面、2c:裏面、3:表皮材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面、前記座面の周縁から下方に向けて形成される側面、及び前記各側面の下端を周縁として形成される裏面を有するポリウレタンフォーム製のシート用パッドと、
前記シート用パッドの座面及び各側面を覆う表皮材とを備え、
前記シート用パッドの裏面のみにアルデヒドキャッチャー剤が塗布されていることを特徴とするシートクッション。
【請求項2】
座面、前記座面の周縁から下方に向けて形成される側面、及び前記各側面の下端を周縁として形成される裏面を有するポリウレタンフォーム製のシート用パッドと、前記シート用パッドの座面及び各側面を覆う表皮材とを備えたシートクッションの製造方法であって、
前記シート用パッドの裏面にアルデヒドキャッチャー剤を塗布する手順を有することを特徴とするシートクッションの製造方法。
【請求項3】
前記アルデヒドキャッチャー剤は有効成分を溶解又は分散させた溶液であり、
前記アルデヒドキャッチャー剤を塗布する手順の後に乾燥させる手順を有することを特徴とする請求項2に記載のシートクッションの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−135354(P2012−135354A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288111(P2010−288111)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】