説明

シートモジュールと車椅子

【課題】車椅子の使用中における臀部の前方へのズレや仙骨座り、ズッコケ座り等と称される不自然な姿勢になることを回避する。
【解決手段】シート11とバックレスト12の間の境目14の部分を除く左右の端縁をフレーム桿13・13に密着係止して、布帛をシート11からバックレスト12まで連続させて左右のフレーム桿13とフレーム桿13に掛け渡す。シートとバックレストと境目14からバックレストの腰椎部19に至る布帛の左右の端縁は、左右のフレーム桿に係止されない自由縁20とする。シート11の後半部17の10%伸長時の伸長力Fbを前半部16の伸長力Ffに比して弱くし、使用中に体重Wが作用してシートの後半部17が前半部16に比して深く沈み込み、後半部17と前半部16の間にステップ21が発生し、そのステップ21に臀部が引っ掛かる恰好になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを縁取る左右のフレーム桿とフレーム桿、および、バックレストを縁取る左右のフレーム桿とフレーム桿に掛け渡した布帛によってシートとバックレストが構成され、主として車椅子に適用されるシートモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車椅子は、被介護者の移動時に使用される言わば台車の如きものとの見方が強く、シートやバックレストには布帛が張設されているものの、決して座り心地のよいものとは言えず、その長時間の使用は苦痛に耐えず、長期にわたる使用は体形を崩し、又、褥瘡の原因にもなっている。この点を考慮し、布帛としてクッション性のよい立体メッシュ地(ダブルラッシェル経編地)の使用が試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−33529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、立体メッシュ地は、目粗な表裏の編地を連結糸によって連結して編成され、その連結糸が表裏の編地に直立してクッション性を発揮するとしても、その表裏の編地が目粗なことからして直立している連結糸も疎らで押し潰され易く、長期使用においてはクッション性を失い、単に稍々厚手のメッシュ編地に過ぎないものになってしまうので、格別な効果は期待されない。そして、立体メッシュ地に限らず、凡そ通常の布帛は、長期使用によって表面がスベスベして滑り易くなり、そのシートに腰を載せて使用すると、臀部が前方にズレ易く、仙骨座り、或いは、ズッコケ座り等と称される不自然な姿勢になり、身体への負荷が増えて疲れ易く、苦痛を伴い、長時間の使用に耐え難くなる。
尤も、布帛の表面に防滑性樹脂を塗着して滑り難くする方法も考えられるが、それでは布帛の通気性が損なわれて褥瘡を惹起し易く、又、その防滑性樹脂を介して身体が車椅子に密着固定された恰好になり、自由な身動きが妨げられ、窮屈なものとなる。そして、座布団その他の厚手のクッション材の重ね敷き使用は、蒸れによる褥瘡の原因となる。
【0004】
そこで本発明は、長期・長時間の使用において心地よく、姿勢を正しく保つことが出来、体形を崩すことなく、長時間の使用が褥瘡を惹起せず、疲労や苦痛、或いは、窮屈感を与えず、自然態が安定に保たれ、長期・長時間の使用によって変形することがなく、座り心地のよいシートモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシートモジュールは、(a) シートを縁取る左右のフレーム桿13とフレーム桿13、および、バックレストを縁取る左右のフレーム桿13とフレーム桿13に掛け渡した布帛によってシート11とバックレスト12が構成されており、(b) それらのシート11とバックレスト12の布帛は、シート11とバックレスト12の間で連続しており、(c) その布帛のシート11とバックレスト12の間の境目14の近傍部分を除く左右の端縁は、それぞれ左右のフレーム桿13・13に密着して係止した固定縁15となっており、(d) シートとバックレストとの境目14から続くバックレストの腰椎部19の左右の端縁は、左右のフレーム桿に係止されない自由縁20となっており、(e) シート11の幅方向における布帛の10%伸長時の伸長力Fが150〜600(N/5cm)(150≦F≦600)であることを第1の特徴とする。
【0006】
本発明に係るシートモジュールの第2の特徴は、上記第1の特徴に加え、シートの奥行き方向の後半部17の幅方向における10%伸長時の伸長力Fbを、前半部16の幅方向における10%伸長時の伸長力Ffに比して弱く(Ff>Fb)、慨して、前半部16の伸長力Ffの0.3〜0.9倍(Fb=0.3Ff〜0.9Ff)にした点にある。
【0007】
本発明に係るシートモジュールの第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加え、バックレストの腰椎部19の左右の自由縁(20・20)に向き合う左右のフレーム桿13とフレーム桿13の間に、バックアップ材22が、バックレスト12の背面に向かい合わせに張設されている点にある。
【0008】
本発明に係るシートモジュールの第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加え、布帛の通気度を150cc/cm2 ・sec以上にした点にある。
【0009】
本発明に係る車椅子は、上記第1、第2、第3、第4の何れかの特徴を有するシートモジュールによって主要部が構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、シート11の幅方向における布帛の10%伸長時の伸長力Fが150〜600(N/5cm)(150≦F≦600)であり、シート11がバックレスト12へと連続した布帛によって構成されているので、体重が作用して沈むシート11をバックレスト12が吊り上げる恰好になり、従ってシート11が大きく沈み込むことがなく、身動きする度にシート11やバックレスト12が身動きに追随して伸縮変動し、自由な身動きが束縛されることなく、解放感を与え、座り心地のよいシートモジュールが得られる。
【0011】
特に、本発明のシートモジュールは、シート11とバックレスト12の間の境目14の近傍部分を除く布帛の左右の端縁がフレーム桿13・13に密着係止されているが、シートとバックレストの境目からバックレストの腰椎部19に至る布帛の左右の端縁がフレーム桿に係止しない自由縁20になっており、その境目の近傍部分が身動きする臀部と共に左右に振動することになるので、自然態での身動きが妨げられず、窮屈感を与えない。
【0012】
そして、シートの奥行き方向の後半部17の幅方向における10%伸長時の伸長力Fbを、前半部16の幅方向における10%伸長時の伸長力Ffに比して弱く、慨して前半部16の伸長応力Ffの0.3〜0.9倍としたので、体重Wが作用してシートの後半部17が前半部16に比して深く沈み込み、後半部17と前半部16の間にステップ21が発生し、そのステップ21に臀部が引っ掛かる恰好になる。このため、臀部の前方へのズレ、仙骨座り、或いは、ズッコケ座りと言った不自然な姿勢が強いられることはなく、使用中に受ける身体への負荷も軽減し、苦痛に感じられることもなく、その使用が体形を崩すこともなく、身体が長時間にわたって安定に支えられる。
【0013】
15%伸長後の弾性回復率が90%以上となる弾性糸を、その長さ方向をその張設されるシートモジュールの幅方向に向けて布帛に織編込むと、その弾性糸によってシート11やバックレスト12がクッション性に富むものとなり、長期使用においてシート11やバックレスト12に弛み皺が発生せず、上記の効果が長期安定に維持される。
【0014】
バックアップ材22を、バックレストの腰椎部19の左右の自由縁(20・20)に向き合う左右のフレーム桿とフレーム桿の間に、バックレスト12の背面に向かい合わせに張設したシートモジュールでは、バックアップ材の長さを体重や体形に応じて調節し、撓み(へこみ)量を加減してバックレストのフィット性を調整することが出来る。
【0015】
このように、シートモジュールがクッション性とフィット性に富み、座布団その他の厚手のクッション材の重ね敷きを必要とせず、而も、布帛の通気度が150cc/cm2 ・sec以上になっているので褥瘡を惹起せす、軽量で扱い易い車椅子が得られる。
【0016】
本発明によると、シートモジュールが上記の通り構成されており、長期・長時間の使用において心地よく、姿勢を正しく保つことが出来、体形を崩すことなく、長時間の使用が疲労や苦痛、窮屈感、或いは、蒸れ感を与えず、クッション性を有し、体圧がシート全体に分散し、褥瘡を惹起せず、自然態が安定に保たれ、身体によくフィットし、自然態での身動きの妨げとならず、長期・長時間の使用によって変形することがなく、座り心地のよい車椅子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
シート11やバックレスト12に使用する布帛は織物でも編物でもよく、又、それらは立体メッシュ地のように表地と裏地を連結糸で連結した立体的二重構造を成すものであってもよい。特に、編地では、糸条が一直線状に編み込まれている緯糸挿入編地を用いるとよい。布帛は、複数枚の布帛を縫合してシート11からバックレスト12まで連続するように仕立てられたものであってもよい。従って、シート11の後半部17の10%伸長時の伸長力Fbを前半部16の伸長力Ffに比して弱くするために、一枚の布帛の前半部16となる部分に補強用布帛を重ね合わせることも出来、又、一枚の布帛の一端を折り返してシート11の前半部16を二重にし、前半部16の10%伸長時の伸長力Ffを後半部17の伸長力Ffの2倍にすることも出来る。
【0018】
糸条としては、破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上の弾性糸、例えば、ポリエーテル系エステル繊維糸条を使用するとよい。その弾性糸の長さ方向を車椅子の幅方向に向けて織編込んだ布帛としては、その弾性糸を緯糸に使用した織物や緯糸挿入編地を、シート11やバックレスト12に使用するとよい。その場合、緯糸には非弾性糸である通常の紡績糸やマルチフィラメント糸を併用することも出来る。そのように非弾性糸を併用すると、非弾性糸によって布帛の伸度が抑えられ、シート11やバックレスト12の沈み込みを所定の範囲に設定し易くなる。
【0019】
体重Wが作用して後半部と前半部の間に発生するステップ21に臀部が触れ易くするためには、シート11の前半部16の奥行き方向の寸法Mと後半部17の奥行き方向の寸法Nの比率(M:N)は7〜5対3〜5(M:N=7〜5:3〜5)にするとよい。
【0020】
シート11やバックレスト12が身動きに追随して伸縮変動し易くするためには、バックレスト12の背凭れ部18の高さ方向の寸法Pと腰椎部19の高さ方向の寸法Qの比率(P:Q)は3〜5対7〜5(P:Q=3〜5:7〜5)にするとよく、又、自由縁20をシート11の後半部17の寸法Nの0.5〜1.5割(0.05N〜0.15N)となる部分からバックレスト12の腰椎部19の端縁へと連続させるとよい。
【0021】
バックレスト12の腰椎部19は、シート11の後半部17と同様に、その幅方向における10%伸長時の伸長力Fpをバックレスト12の背凭れ部18の幅方向における10%伸長時の伸長力Fqに比して弱く、慨して、背凭れ部18の伸長力Fqの0.3〜0.9倍(Fp=0.3Fq〜0.9Fq)にするとよい。そうすると、バックレストの腰椎部19を含むシート11との境目14の部分が臀部と共に左右に振動し易く、脚部を中心とする身動きが自由になり、窮屈感を与えないシートモジュールが得られる。
【0022】
シートモジュールはそのまま車椅子の一部として使用することが出来、その場合、シートモジュールのフレームは車椅子のフレームを構成することにもなる。
【0023】
バックアップ材22には、織物、編物、不織布などの布帛類、合成皮革、人工皮革、天然皮革、ゴムシート地、プラスチックシート地等の可撓な面状資材が使用される。バックアップ材22は、それを左右のフレーム桿13・13の間で2分割し、その片側のベルト片23の先端に他の片側のベルト片24を把持する把持具25を取り付け、その把持具25の把持するベルト片24の位置を変えて長さが調節自在なベルトに調製するとよい。
【実施例】
【0024】
経糸にトータル繊度300dtexのポリエステルマルチフィラメント糸を使用し、緯糸に単糸繊度2080dtex、破断伸度160%、10%伸長時の伸長力7.2Nの鞘成分を熱融着性ポリマーとするポリエステル系芯鞘複合熱融着性弾性モノフィラメント糸(A)、単糸繊度2080dtex、破断伸度180%、10%伸長時の伸長力4.6Nの鞘成分を熱融着性ポリマーとするポリエステル系芯鞘複合熱融着性弾性モノフィラメント糸(B)、および、花糸(パイル)と芯(軸)糸を含むトータル繊度2040dtexの、破断伸度21%、10%伸長時の伸長力4.8Nのモール糸を使用し、シート11の前半部16とバックレスト12の背凭れ部18に該当する織物の部分には、破断伸度160%、10%伸長時の伸長力7.2Nのポリエステル系芯鞘複合熱融着性弾性モノフィラメント糸(A)2本につきモール糸1本の割合で緯糸を織り込み、シート11の後半部17とバックレスト12の腰椎部19に該当する織物の部分には、破断伸度180%、10%伸長時の伸長力4.6Nのポリエステル系芯鞘複合熱融着性弾性モノフィラメント糸(B)2本につきモール糸1本の割合で緯糸を織り込んで織成した経糸密度12本/cm、緯糸密度13.5本/cmの織物を190℃にて3分間熱融着セット処理し、その緯糸方向を車椅子の幅方向に合わせ、幅40cm、シート11の前半部の寸法25cm、シート11の後半部の寸法15cm、バックレスト12の背凭れ部の寸法15cm、バックレスト12の腰椎部の寸法25cmのシート地に縫製し、車椅子のフレーム桿13・13に張設すると共に、腰椎部の背面に向かい合わせに3本のベルト22をフレーム桿13・13に掛け渡して車椅子を調製した。織物の通気度は182.3cc/cm2 ・secであった。
【0025】
シート11の前半部16とバックレスト12の背凭れ部18に該当する織物の幅方向における10%伸長時の伸長応力Fb・Fpは、388(N/5cm)であった。
シート11の後半部17とバックレスト12の腰椎部19に該当する織物の幅方向における10%伸長時の伸長応力Ff・Fqは、276(N/5cm)であった。
その調製した車椅子は、長期・長時間の試用において心地よく、姿勢を正しく保つことが出来、体形を崩すことなく、長時間の試用が褥瘡を惹起せず、疲労や苦痛、或いは、窮屈感を与えず、自然態が安定に保たれ、長期・長時間の試用によって変形することがなく、座り心地のよいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る車椅子の斜視図である。
【図2】本発明に係る車椅子の要部側面図である。
【図3】本発明に係る車椅子の要部背面図である。
【図4】本発明に係る車椅子の要部斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
11:シート
12:バックレスト
13:フレーム桿
14:境目
15:固定縁
16:前半部
17:後半部
18:背凭れ部
19:腰椎部
20:自由縁
21:ステップ
22:バックアップ材(ベルト)
23・24:ベルト片
25:把持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) シートを縁取る左右のフレーム桿(13)とフレーム桿(13)、および、バックレストを縁取る左右のフレーム桿(13)とフレーム桿(13)に掛け渡した布帛によってシート(11)とバックレスト(12)が構成されており、
(b) それらのシート(11)とバックレスト(12)の布帛は、シート(11)とバックレスト(12)の間で連続しており、
(c) その布帛のシート(11)とバックレスト(12)の間の境目(14)の近傍部分を除く左右の端縁は、それぞれ左右のフレーム桿(13・13)に密着して係止した固定縁(15)となっており、
(d) シートとバックレストとの境目(14)から続くバックレストの腰椎部(19)の左右の端縁は、左右のフレーム桿に係止されない自由縁(20)となっており、
(e) シート(11)の幅方向における布帛の10%伸長時の伸長力Fが150〜600(N/5cm)(150≦F≦600)であるシートモジュール。
【請求項2】
シート(11)の奥行き方向の後半部(17)の幅方向における10%伸長時の伸長力Fbが、前半部(16)の幅方向における10%伸長時の伸長力Ffに比して弱い(Ff>Fb)前掲請求項1に記載のシートモジュール。
【請求項3】
バックレストの腰椎部(19)の左右の自由縁(20・20)に向き合う左右のフレーム桿(13)とフレーム桿(13)の間に、バックアップ材(22)がバックレスト(12)の背面に向かい合わせに張設されている前掲請求項1と請求項2の何れかに記載のシートモジュール。
【請求項4】
布帛の通気度が150cc/cm2 ・sec以上である前掲請求項1と請求項2と請求項3の何れかに記載のシートモジュール。
【請求項5】
前掲請求項1と請求項2と請求項3と請求項4の何れかに記載のシートモジュールによって主要部が構成されている車椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−296706(P2006−296706A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121973(P2005−121973)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)