説明

シート体

【課題】 ハロゲン系難燃剤を用いることなく、高い難燃性を有し、さらに、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性および風合いなどの物性の高いシート体を提供することを目的とする。
【解決手段】 繊維構造物12と難燃層13とを備え、繊維構造物12上に難燃層13が形成されたシート体11である。難燃層13は、膨張黒鉛14および樹脂15を含み、難燃層13の厚みAが、膨張黒鉛14の長径Bより小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性のシート体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布などの繊維構造物を基材としたシートに難燃性を付与するために、テトラブロモフタル酸、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素系、テトラクロロフタル酸、塩化パラフィンなどの塩素系などのハロゲン系難燃剤を分散させた樹脂を被覆している。しかしながら、このようにハロゲン系難燃剤を使用した場合、シートを焼却した際に、発生するガスにより焼却炉が腐食されたり、ダイオキシンが発生したりする。このため、ハロゲン系難燃剤の使用は環境上問題点が多く、使用が禁止されているものがある。
【0003】
したがって、ハロゲン系難燃剤に代わって、非ハロゲン系難燃剤を使用することが提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。非ハロゲン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、水溶性リン酸アンモニウム、リン酸エステルなどの非ハロゲン系リン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの非ハロゲン系金属水和物などが知られている。しかしながら、これらの非ハロゲン系難燃剤は、充分な難燃性を発揮させるためには、繊維構造物を被覆する樹脂に多量に添加する必要があり、難燃効果に必要な量を添加すると、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性、風合いの低下およびコスト高騰、難燃剤の経時安定性などに問題がある。
【0004】
そこで、他の典型的な従来の技術として、非ハロゲン系難燃剤である膨張黒鉛を難燃剤として用いた技術が後述の特許文献に記載されている。特許文献3には、膨張黒鉛を分散させた水溶液に、不織布などの繊維を含浸させて得られる難燃性繊維シートが記載されている。特許文献4には、膨張黒鉛と水とを含む水性裏打ち材を布地の裏面に塗布して乾燥させた難燃性布地が記載されている。特許文献5には、膨張黒鉛を分散させた合成樹脂を被覆した難燃性製品が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−295841号公報
【特許文献2】特開2001−262466号公報
【特許文献3】特開2005−97816号公報
【特許文献4】特開2001−73275号公報
【特許文献5】国際公開第03/066956号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3によると、難燃性繊維シートは、高温に晒されると膨張黒鉛が膨張して、自己消火性を発揮することができ、難燃性を有する。しかしながら、難燃性繊維シートは、膨張黒鉛を分散させた水溶液を繊維に含浸させて得られるので、粒径の小さい膨張黒鉛しか付着させることができない。膨張黒鉛は、粒径が大きいほど防炎効果が高いので、粒径の小さい膨張黒鉛しか付着させることができない場合、難燃性を充分に高めることができない。
【0007】
また、充分な難燃性を発揮させるためには、膨張黒鉛を多量に付着させる必要があり、充分に高い難燃性を発揮することができるのに必要な量を添加すると、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性、風合いの低下およびコスト高騰、難燃剤の経時安定性などに問題がある。さらに、粒径の大きな膨張黒鉛は、溶媒に分散させる際などに、破壊されないように加工することが困難であり、破壊されてしまうと、高い防炎効果を付与することができなくなる。また、難燃性繊維シートは、膨張黒鉛を分散させた水溶液を繊維に含浸させて得られるので、両面に膨張黒鉛が付着するので、風合いが低下する。
【0008】
特許文献4によると、難燃性布地は、適度な柔軟性を有し、さらに難燃性を有する。しかしながら、上記と同様、粒径の小さい膨張黒鉛しか付着させることができず、難燃性を充分に高めることができない。また、充分な難燃性を発揮させるためには、膨張黒鉛を多量に付着させる必要があり、充分に高い難燃性を発揮することができるのに必要な量を添加すると、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性、風合いの低下およびコスト高騰、難燃剤の経時安定性などに問題がある。また、粒径の小さい膨張黒鉛を含む水性裏打ち材は、裏抜けし、膨張黒鉛を付着させようとする面とは反対側の面にも膨張黒鉛が付着され、風合いが低下する。
【0009】
特許文献5によると、難燃性製品は、膨張黒鉛が付着されているので、難燃性を有する。しかしながら、鱗片状である膨張黒鉛の長辺が、ファスナーの表面に略垂直に配置されると、難燃性をあまり高めることができない。膨張黒鉛を付着させる方法として、膨張黒鉛を分散させた樹脂溶液をファスナーに塗布させるだけで、膨張黒鉛が付着される配置などを一定にする工夫がなされていない。よって、膨張黒鉛は、様々な方向に向かって配置されており、難燃性をあまり高めることができないような配置で付着されている膨張黒鉛が存在し、難燃性が充分に高いとは言えない。
【0010】
本発明の目的は、ハロゲン系難燃剤を用いることなく、高い難燃性を有し、さらに、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性および風合いなどの物性の高いシート体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、繊維構造物と、
膨張黒鉛および樹脂を含む難燃層とを備え、
前記難燃層は、前記繊維構造物上に形成され、
前記難燃層の厚みが、前記膨張黒鉛の長径より小さいことを特徴とするシート体である。
【0012】
また本発明は、前記難燃層は、前記繊維構造物の片面に形成されることを特徴とする。
また本発明は、前記膨張黒鉛の長径は、200μm以上900μm以下であり、
前記難燃層の厚みは、50μm以上500μm以下であることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記繊維構造物は、不織布であることを特徴とする。
また本発明は、前記樹脂は、ポリウレタンであることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記繊維構造物は、撥水性を付与した繊維構造物であることを特徴とする。
また本発明は、前記難燃層は、さらにリン系難燃剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繊維構造物と、膨張黒鉛および樹脂を含む難燃層とを備え、この難燃層は、繊維構造物上に形成されるシート体である。そうすると、シート体が高温に晒されると、繊維構造物上に形成される難燃層に含まれる膨張黒鉛が膨張して、自己消火性を発揮することができ、難燃性を有する。
【0016】
鱗片状である膨張黒鉛は、長辺が繊維構造物に略垂直に配置されると、難燃性をあまり高めることができない。シート体は、難燃層の厚みが、難燃層に含まれる膨張黒鉛の長径より小さい。よって、膨張黒鉛の長辺が、繊維構造物の表面に対して沿うように配置されるので、少量の膨張黒鉛で繊維構造物表面を覆うことができ、高い難燃性を発揮することができる。また、少量の膨張黒鉛で高い難燃性を発揮することができるので、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性および風合いなどの繊維構造物の有する物性を低下させることがない。
【0017】
以上より、シート体は、ハロゲン系難燃剤を用いることなく、高い難燃性を有し、さらに、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性および風合いなどの物性が高い。
【0018】
また本発明によれば、難燃層は、繊維構造物の片面に形成されるので、難燃層を形成しない面では、繊維構造物の有する風合いなどを全く低下させることがない。
【0019】
また本発明によれば、膨張黒鉛の長径は、200μm以上900μm以下であり、難燃層の厚みは、50μm以上500μm以下である。長径が700μm以上900μm以下である膨張黒鉛は、難燃性を高めるのに好ましく、この膨張黒鉛を含む難燃層は、難燃性が高い。また、難燃性を高めるのに好ましい長径が200μm以上900μm以下である膨張黒鉛の長辺が、繊維構造物の表面に対して沿うように配置され、高い難燃性を発揮することができる。
【0020】
また本発明によれば、繊維構造物は、不織布である。そうすると、繊維構造物と難燃層とが絡みやすく、剥離されにくくなる。
【0021】
また本発明によれば、樹脂は、ポリウレタンである。そうすると、ポリウレタンは耐熱性が高いので、シート体の難燃性がより高い。
【0022】
また本発明によれば、繊維構造物は、撥水性を付与した繊維構造物である。そうすると、繊維構造物が有する撥水性を損なうことなく、難燃性を付与することができる。
【0023】
また本発明は、難燃層は、さらにリン系難燃剤を含む。そうすることによって、難燃層に含まれる樹脂の難燃性を高めることができ、より難燃性の高いシート体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、難燃性を有するシート体であり、航空機用および車両用の座席シートに好適に用いられる。
【0025】
図1は、本発明であるシート体11の概略断面図である。シート体11は、繊維構造物12上に難燃層13が形成されるシート体である。難燃層13は、膨張黒鉛14および樹脂15を含む。
【0026】
膨張黒鉛は、鱗片状黒鉛の層間に化学品を挿入したものである。膨張黒鉛は、たとえば、以下のようにして製造される。鱗片状黒鉛は、主に中国で産出される。天然鉱山から採取された鱗片状黒鉛は、採掘後、粉砕、水分級の工程によって、カーボン含有量約95%以上の黒鉛になる。不純物を取り除くために強酸で洗浄、高温下アルカリ中で焼結する。再度、洗浄することにより、カーボンの含有量を高めることができる。
【0027】
次に、鱗片状黒鉛は、化学品を挿入し易くするために、オゾンなどの酸化剤、硝酸および過マンガン酸カリウムによって、処理し、処理後、中和工程を通って、さらに洗浄工程、ドライ工程を施す。そして、処理した鱗片状黒鉛の層間に化学品を挿入する。
【0028】
難燃剤としての膨張黒鉛は、含有している化学品が熱によってガスを発生し、その結果、鱗片状の黒鉛が膨張していく。その結果、熱などに安定した層であるチャーを形成することによって難燃効果をもたらす。
【0029】
難燃層13は、膨張黒鉛14を含む。よって、シート体11が高温に晒されると、繊維構造物12上に形成される難燃層13に含まれる膨張黒鉛14が膨張して、自己消火性を発揮することができ、難燃性を有する。鱗片状である膨張黒鉛14は、長辺が繊維構造物に略垂直に配置されると、難燃性をあまり高めることができない。
【0030】
シート体11は、難燃層13の厚みAが、難燃層13に含まれる膨張黒鉛14の長径Bより小さい。よって、膨張黒鉛14の長辺が、繊維構造物12の表面に対して沿うように配置されるので、少量の膨張黒鉛14で高い難燃性を発揮することができる。また、少量の膨張黒鉛14で高い難燃性を発揮することができるので、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性および風合いなどの繊維構造物の有する物性を低下させることがない。
【0031】
以上より、シート体11は、ハロゲン系難燃剤を用いることなく、高い難燃性を有し、さらに、加工適性、樹脂の被膜強度、耐熱性、耐光性および風合いなどの物性が高い。
【0032】
また、難燃層13は、繊維構造物12の両面に形成されていてもよいが、繊維構造物12の片面に形成されるほうが好ましい。そうすることによって、難燃層13を形成しない面では、繊維構造物12の有する風合いなどを全く低下させることがない。たとえば、シート体11を航空機用および車両用の座席シートに用いる場合、難燃層13を形成した面を裏面として利用すると、高い難燃性と良好な風合いとを有するシート材となり、好ましい。
【0033】
繊維構造物12は、繊維から構成される構造物であればよく、たとえば、織物、編物および不織布などが挙げられ、不織布が好ましい。そうすると、繊維構造物12と難燃層13とが絡みやすく、剥離されにくくなる。不織布としては、たとえば、目付が200〜600g/mのものが適用できる。
【0034】
繊維構造物12を構成する繊維としては、公知の繊維を用いることができる。たとえば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン6(ポリカプロラクタム)およびナイロン66(ポリヘキサメチレンアジポアミド)などのポリアミドなどの合成繊維、酢酸セルロース(アセテートセルロース)などの半合成繊維などが挙げられ、ポリエステルが好ましい。繊維は、単独で使用してもよいし、複数の繊維を混合して使用してもよい。
【0035】
膨張黒鉛14は、長径が200μm以上900μm以下である大粒径の膨張黒鉛を含むことが好ましく、300μm以上600μm以下である大粒径の膨張黒鉛を含むことがより好ましい。長径が200μm未満であると、難燃効果を充分に発揮することができない場合があり、900μmを超えると、膨張黒鉛が破壊されてしまう場合がある。膨張黒鉛14として、このような大粒径の膨張黒鉛を含む場合、難燃層13の厚みは、50μm以上500μm以下であることが好ましい。長径が200μm以上900μm以下である大粒径の膨張黒鉛は、難燃性を高めるのに好ましく、この大粒径の膨張黒鉛を含む難燃層は、難燃性が高い。また、大粒径の膨張黒鉛の長辺が、繊維構造物の表面に対して沿うように配置され、高い難燃性を発揮することができる。また、長径が200μm未満の小粒径の膨張黒鉛を含んでいてもよい。そうすると、大粒径の膨張黒鉛と大粒径の膨張黒鉛との間に、小粒径の膨張黒鉛が入り込み、より難燃性を高めることができる。
【0036】
樹脂15は、公知の樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル樹脂などが挙げられ、熱硬化樹脂としては、ポリウレタンなどが挙げられる。その中でも熱可塑性樹脂であるポリウレタンが好ましい。ポリウレタンは耐熱性が高いので、シート体の難燃性がより高くなる。
【0037】
また、難燃層13は、さらにリン系難燃剤を含んでいてもよい。そうすることによって、難燃層13に含まれる樹脂15の難燃性をより高めることができ、より難燃性の高いシート体が得られる。
【0038】
次に、シート体11の製造方法について説明する。膨張黒鉛14、樹脂15および有機溶媒を含む塗工液16を、繊維構造物12に塗工して、乾燥させることによって、繊維構造物12上に難燃層13を形成される。そうすることによって、シート体11を製造する。
【0039】
塗工液16は、膨張黒鉛14、樹脂15および有機溶媒をプロペラ式の攪拌器で撹拌して、膨張黒鉛14を破壊しないように分散させて、得られる。有機溶媒は、ハロゲンを含まない溶媒であれば、公知の有機溶媒を用いることができ、たとえば、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、ヘキサン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエンなどが挙げられる。たとえば、熱可塑性樹脂であるポリウレタンを用いた場合は、MEKが好ましく、溶媒の揮発量を調整するために、適宜、トルエンを混合したMEKがより好ましい。また、アクリル樹脂を用いた場合は、トルエンや酢酸エチルが好ましい。
【0040】
また、繊維構造物12は、撥水性を付与した繊維構造物であってもよい。塗工液16に水ではなく、有機溶媒を含むので、繊維構造物12が撥水性を有していても、難燃層13を作成することができる。そうすると、繊維構造物12が有する撥水性を損なうことなく、シート体11に難燃性を付与することができる。
【0041】
塗工液16は、コンマコータを用いて塗工する。図2は、コンマコータ21を用いた塗工方法を説明するための概略断面図である。コンマコータ21は、ローラ22と、コンマ刃23と、バット24とを備える。ローラ22は、回転することによって、繊維構造物12を搬送する。コンマ刃23の中心軸線は、ローラ22の中心軸線と平行である。コンマ刃23は、ローラ22と離間して設けられる。バット24は、板状の部材であり、繊維構造物12に一辺が接しており、塗工液16の貯留部を形成する。
【0042】
コンマコータ21は、ローラ22を回転させて、塗工液16の貯留部に繊維構造物12を通過させる。そうすることによって、繊維構造物12上に塗工液16が塗布される。このようなコンマコータでは、繊維構造物12の厚みと塗布された塗工液の厚みとを合わせた総厚みは、コンマ刃23とローラ22との距離であるクリアランスDによって規制され、総厚みとクリアランスDとが等しいものとみなすことができる。したがって、塗布された塗工液の厚み、すなわち難燃層の厚みAは、クリアランスDから繊維構造物12の厚みCを引いた値(A=D−C)となる。
【0043】
クリアランスDは、コンマ刃23の位置を調整することによって適宜変えることができるので、繊維構造物12の厚みCを考慮すれば、クリアランスDを調整することによって難燃層の厚みAを制御することができる。
【0044】
そこで、難燃層の厚みAが膨張黒鉛の長径Bよりも小さくなるように(D−C<Bとなるように)クリアランスDを設定して塗工する。そうすることによって、膨張黒鉛の長辺が、繊維構造物12の表面に対して沿うように配置されるので、少量の膨張黒鉛で繊維構造物表面を覆うことができ、高い難燃性を発揮することができる。また、膨張黒鉛14を破壊することなく、膨張黒鉛14を繊維構造物12に均一に付着させることができる。
【0045】
その後、繊維構造物12上の塗工液16を乾燥させる。そうすることによって、繊維構造物12上に難燃層13を形成することができる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
繊維構造物12としては、撥水加工した不織布(目付400g/m、厚み1000μm)を用いた。撥水加工は、フッ素系撥水剤4%owsおよび含リングアニジン系難燃剤10%owsを用いて行った。
【0047】
塗工液16としては、以下の組成のものを用いた。
エステル系ウレタン樹脂 70重量部
膨張黒鉛 30重量部
メチルエチルケトン 15重量部
トルエン 15重量部
【0048】
繊維構造物12に塗工液16を図2に示すようなコンマコータで塗工した。クリアランスは、1300μmとした。難燃層の厚みAは、繊維構造物12の厚みCが1000μmであることから、300μmである。塗工量は、200g/mであった。また、膨張黒鉛は、長径約800μmの大粒径膨張黒鉛と長径約330μmの中粒径膨張黒鉛と長径約120μm小粒径膨張黒鉛との混合物であり、膨張黒鉛の厚みは、長径にかかわらず、10μm〜55μmであった。その後、繊維構造物12上の塗工液16を乾燥させることによって、繊維構造物12上に難燃層13を形成することができる。
【0049】
(実施例2)
繊維構造物12としては、撥水加工していない不織布(目付400g/m、厚み1000μm)を用いた。
【0050】
塗工液16としては、以下の組成のものを用いた。
エステル系ウレタン樹脂 70重量部
膨張黒鉛 30重量部
メチルエチルケトン 15重量部
【0051】
繊維構造物12に塗工液16を図2に示すようなコンマコータで塗工した。クリアランスは、1300μmとした。難燃層の厚みAは、繊維構造物12の厚みCが1000μmであることから、300μmである。塗工量は、200g/mであった。また、膨張黒鉛は、長径約800μmの大粒径膨張黒鉛と長径約330μmの中粒径膨張黒鉛と長径約120μm小粒径膨張黒鉛との混合物であり、膨張黒鉛の厚みは、長径にかかわらず、10μm〜55μmであった。その後、繊維構造物12上の塗工液16を乾燥させることによって、繊維構造物12上に難燃層13を形成することができる。
【0052】
(比較例1)
クリアランスを1500μmにしたこと以外、実施例1と同様である。
【0053】
(比較例2)
国際公開第03/066956号パンフレットの実施例1に基づいて、スライドファスナーチェーン(シート体)を作製した。具体的には、以下のように作製した。ポリアミド樹脂100部と、難燃剤(水酸化マグネシウム25質量%、熱膨張性黒鉛50質量%、ポリリン酸メラミン25質量%)10部よりなる難燃性ポリアミド樹脂ペレットを、押出機にて押出されたストランドを切断することにより作製した。得られたペレットをファスナーテープに加工し、エレメントとしては、上記処方と同じ難燃性ポリアミド樹脂材料からなるコイル状エレメント、難燃性付与剤を全く含まない合成樹脂製コイル状エレメント、個々の合成樹脂製エレメントを射出成形すると同時にファスナーテープの縁部に止着する射出タイプエレメント、あるいは金属製エレメントを用いてスライドファスナーチェーンを作製した。
【0054】
(比較例3)
特開2001−73275号公報の実施例1に基づいて、難燃性布地(シート体)を作製した。具体的には、以下のように作製した。撹拌機、滴下ロート、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、イオン交換水237g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2gおよびイタコン酸5gを仕込み、50℃に加熱して溶解させた。容器内を窒素ガスで置換した後、反応温度を60℃に昇温し、その温度を維持しながら、ブチルアクリレート175g、エチルアクリレート256g、アクロニトリル50g、メタクリル酸5gおよびジアセトンアクリルアミド4gの混合液、イオン交換水125g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム7.2g、アクリルアミド5gの混合液、3%過硫酸カリウム40g、6%重亜硫酸ナトリウム16gを4時間かけて連続的に添加し、乳化重合を行ってエマルジョンを得た。このエマルジョンをアンモニア水で中和し、アジピン酸ヒドラジッド2.2gを加えた。最終的に得られたエチレン系共重合体エマルジョンは、乳白色、固形物50%、pH6.5、粘度100mPa・s(30rpm/25℃)、Tg−20℃のものであった。得られたエチレン系共重合体エマルジョン100重量部(固形分として)に、膨張黒鉛(8099H、住友ケミカル(株)製)30重量部、ポリアクリル酸ナトリウム5重量部、12.5%アンモニア水5重量部および水を加え、固形分50%、PH8.5、粘度3,000mPa・s(10rpm/20℃)の難燃性裏打ち材を得た。この難燃性裏打ち材をポリエステル製織布(目付350g/m)に、200g/m(乾燥重量)をドクターナイフで塗布し、150℃、10分間乾燥、さらに20℃、65%RHの雰囲気中で24時間放置して難燃性布地(シート体)を得た。
【0055】
(比較例4)
膨張黒鉛の配合量を40重量部にすること以外、比較例3と同様である。特開2001−73275号公報の実施例2記載の難燃性布地(シート体)である。
【0056】
(比較例5)
膨張黒鉛の配合量を50重量部にすること以外、比較例3と同様である。特開2001−73275号公報の実施例3記載の難燃性布地(シート体)である。
【0057】
(比較例6)
膨張黒鉛の配合量を60重量部にすること以外、比較例3と同様である。特開2001−73275号公報の実施例4記載の難燃性布地(シート体)である。
【0058】
[電子顕微鏡写真]
実施例1および比較例1であるシート体を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察した。図3は、実施例1であるシート体のSEM写真を示す図面である。図4は、比較例1であるシート体のSEM写真を示す図面である。SEMは、日立製作所製S−2250Nを用いて、WD(ワーキングディスタンス)15mm、加速電圧5kV、倍率50倍で観察した。
【0059】
難燃層の厚みが、膨張黒鉛の長径より小さいシート体(実施例1)は、図3に示すように、膨張黒鉛の長辺が、繊維構造物12の表面に対して沿うように配置され、難燃層の厚みが、膨張黒鉛の長径より大きいシート体(比較例1)は、繊維構造物12の表面に対して略垂直に配置されている膨張黒鉛が存在する。
【0060】
また、SEM写真から求めた、膨張黒鉛の被覆率は、実施例1が、47%であり、比較例1が、44%である。実施例1は、難燃層13が薄く、膨張黒鉛の量が少ないにもかかわらず、膨張黒鉛の被覆率が比較例1より高い。このことからも、実施例1は、膨張黒鉛の長辺が、繊維構造物12の表面に対して沿うように配置されていることがわかる。膨張黒鉛の被覆率は、SEM写真の膨張黒鉛の領域を切り取ったものの重量と、SEM写真の重量とから、算出したものである。
【0061】
[燃焼試験]
製造されたシート体について、下記の各種燃焼試験を行い、その結果を示した。
【0062】
(鉄道車両用材料に基づく方法)
製造されたシート体を、運輸省鉄道車両用非金属材料試験法(車材試験)により燃焼試験を行い、その結果を、難燃性規格とともに表1に示す。試験片としては、B5判(182mm×257mm)に裁断したものを用いた。
【0063】
【表1】

【0064】
表1より、難燃層の厚みが、膨張黒鉛の長径より小さいシート体(実施例1)は、車材試験によれば難燃性を示すことがわかる。
【0065】
(FMVSS)
製造されたシート体を、米国連邦自動車安全基準(FMVSS)−302により燃焼試験を行い、その結果を表2に示す。FMVSS−302による燃焼試験における表示は、次のとおりである。
【0066】
試験片に着火しない場合、燃焼が標線Aに達しないで自消した場合、燃焼速度を、「0」と表示し、燃焼距離および燃焼時間を、「−」と表示し、「不燃性」と区分する。
【0067】
燃焼が標線Aを越えて、50.8mm以内でかつ60秒以内に自消した場合、燃焼速度を、「SE」と表示し、燃焼距離および燃焼時間を表示し、「自消性」と区分する。
【0068】
不燃性および自消性以外に区分された場合は、燃焼速度を表示し、燃焼距離および燃焼時間を、「−」と表示し、「−」と区分する。
【0069】
【表2】

【0070】
表2より、難燃層の厚みが、膨張黒鉛の長径より小さいシート体(実施例1)は、FMVSS−302によれば、不燃性を示すことがわかる。それに対して、難燃層の厚みを制御しておらず、膨張黒鉛の含有量が少ないシート体(比較例3,4)は、不燃性を示さない。難燃層の厚みを制御していなくても、膨張黒鉛の含有量が多いシート体(比較例5,6)は、不燃性を示すが、膨張黒鉛の付着量が多く、良好な風合いを有しているとは言えない。
【0071】
(旅客機内装材の耐火性試験に基づく方法)
製造されたシート体を、旅客機内装材の耐火性試験(材料区分:座席クッション、カーテン、カーペットなど)により燃焼試験を行い、その結果を、耐火性基準とともに表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3より、難燃層の厚みが、膨張黒鉛の長径より小さいシート体(実施例2)は、旅客機内装材の耐火性試験(材料区分:座席クッション、カーテン、カーペットなど)の耐火性基準を満たすことがわかる。また、難燃層の厚みを制御していないシート体(比較例2)は、実施例2の評価より悪く、特に滴下物の残炎時間が長かった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明であるシート体11の概略断面図である。
【図2】コンマコータ21を用いた塗工方法を説明するための概略断面図である。
【図3】実施例1であるシート体のSEM写真を示す図面である。
【図4】比較例1であるシート体のSEM写真を示す図面である。
【符号の説明】
【0075】
11 シート体
12 繊維構造物
13 難燃層
14 膨張黒鉛
15 樹脂
16 塗工液
21 コンマコータ
22 ローラ
23 コンマ刃
24 バット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造物と、
膨張黒鉛および樹脂を含む難燃層とを備え、
前記難燃層は、前記繊維構造物上に形成され、
前記難燃層の厚みが、前記膨張黒鉛の長径より小さいことを特徴とするシート体。
【請求項2】
前記難燃層は、前記繊維構造物の片面に形成されることを特徴とする請求項1記載のシート体。
【請求項3】
前記膨張黒鉛の長径は、200μm以上900μm以下であり、
前記難燃層の厚みは、50μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のシート体。
【請求項4】
前記繊維構造物は、不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のシート体。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリウレタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のシート体。
【請求項6】
前記繊維構造物は、撥水性を付与した繊維構造物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のシート体。
【請求項7】
前記難燃層は、さらにリン系難燃剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のシート体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate