説明

シート搬送装置、及び画像読取装置

【課題】搬送対象となるシートの搬送方向先端を揃えることが可能な構造を備え、その構造が従来品よりも簡素な構造とされたシート搬送装置、及び画像読取装置の提供。
【解決手段】フィルム部材31は、一部が原稿台16側に固定された固定部31B、固定部31Bに連設された別の一部が固定部31Bとの境界部分で当該境界部分の屈曲状態が変化するのに伴って第一位置と第二位置との間を変位可能な変位部31Aとされている。変位部31Aが第一位置にある場合には、原稿台16に積載される原稿Dの搬送方向先端部を変位部31Aに当接させることにより、原稿Dの搬送方向先端部を所定の位置に揃えるための位置決め部材として利用できる。原稿台16から供給される原稿Dを搬送方向へ搬送するために分離ローラ12を正回転させた際には、変位部31Aが第一位置から第二位置へと変位して、原稿Dの搬送を妨げない状態になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート搬送装置、及び画像読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動原稿送り装置(Automatic Document Feeder;以下、ADFと略称する。)を備えた画像読取装置において、原稿の搬送経路上流端付近に可動式のシャッタを設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この自動原稿送り装置において、原稿を原稿台にセットする際には、原稿の搬送経路を遮る位置へシャッタを移動させ、そのシャッタに原稿の搬送方向先端を当接させることで、原稿の先端位置を揃えることができる。また、原稿を搬送経路に沿って搬送する際には、原稿の搬送経路を遮らない位置へシャッタを待避させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−199079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術では、シャッタを作動させるためにスプリングクラッチを利用しており、相応に複雑な可動機構が構成されている。より具体的には、シャッタはアーム部を介してリバースローラの回転軸に支持されており、そのリバースローラの回転軸にスプリングクラッチが挿入され、さらにアーム部には溝部を有する連結部が形成され、その溝部にスプリングクラッチの爪が係合されている。
【0006】
そのため、シャッタそのもの以外に、スプリングクラッチなどの組み付けも必要となり、部品点数が増えるのはもちろんのこと、相応に組立工数が増えることになり、これらすべてが製造コストの増大を招く要因となる。
【0007】
また、シャッタがアーム部を介して回動可能に支持されているので、回転中心から最も離れた位置にある部分は、相応に大きな範囲を移動することになる。そのため、そのようなシャッタの移動を妨げない程度の可動空間を確保すると、シャッタを配設するために、相応に大きなスペースが占有されてしまう、という問題もある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、搬送対象となるシートの搬送方向先端を揃えることが可能な構造を備え、その構造が従来品よりも簡素な構造とされたシート搬送装置と、そのようなシート搬送装置を備えた画像読取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
請求項1に記載のシート搬送装置は、搬送対象となるシートが積載される積載面を有するシート積載部と、前記シート積載部から供給されるシートを所定の搬送方向へと搬送する分離ローラと、前記分離ローラによって前記搬送方向へと送り出されるシートに対し、前記分離ローラが接触する面とは反対側の面において接触して、当該接触箇所に摩擦抵抗を付与することにより、前記分離ローラによって送り出される前記シートを、前記分離ローラと協働して1枚ずつに分離させる分離片と、一部は所定の箇所に固定された固定部、当該固定部に連設された別の一部は前記固定部との境界部分で当該境界部分の屈曲状態又は湾曲状態が変化するのに伴って第一位置と第二位置との間を変位可能な変位部とされており、前記変位部が前記第一位置にある場合には、前記シート積載部に積載されるシートの搬送方向先端部を前記変位部に当接させることにより、前記シートの搬送方向先端部を所定の位置に揃えるための位置決め部材として利用可能で、しかも、前記シート積載部から供給されるシートを前記搬送方向へ搬送するために前記分離ローラを正回転させた際には、前記変位部が前記第一位置から前記第二位置へと変位して、前記シートの搬送を妨げない状態になるフィルム部材とを備えることを特徴とする。
【0010】
このように構成されたシート搬送装置によれば、フィルム部材の変位部が第一位置にある場合には、シートの搬送方向先端部を所定の位置に揃えることができる。したがって、シートの搬送方向先端部が揃っていない状態で搬送を開始するものに比べ、重送や空送の発生を抑制することができる。
【0011】
また、分離ローラを正回転させた際には、固定部と変位部との境界部分でフィルム部材の屈曲状態又は湾曲状態が変化して、フィルム部材の変位部が第一位置から第二位置へと変位して、シートの搬送を妨げない状態になる。したがって、例えば、支軸と軸受で構成されるような回動機構などを利用しなくても、フィルム部材の屈曲状態又は湾曲状態を変化させるというきわめて簡素な構成で、所期のシート搬送を実施できる状態に切り替えることができる。
【0012】
請求項2に記載のシート搬送装置は、請求項1に記載のシート搬送装置において、前記分離ローラは、前記シートの搬送経路を挟んで、前記シート積載部の積載面とは反対側となる位置に配設されており、前記分離片及び前記フィルム部材は、前記シートの搬送経路に対し、前記シート積載部の積載面と同じ側となる位置に配設されていることを特徴とする。
【0013】
このように構成されたシート搬送装置によれば、前記シート積載部に積載されたシートを上から順に搬送することができる。
請求項3に記載のシート搬送装置は、請求項1又は請求項2に記載のシート搬送装置において、前記フィルム部材は、前記分離ローラを前記正回転させた際に、前記分離ローラ又は前記分離ローラに追従して動作する可動部から力を受けて前記境界部分の屈曲状態又は湾曲状態が変化することにより、前記変位部が前記第一位置から前記第二位置へと変位して、前記シートの搬送を妨げない状態になることを特徴とする。
【0014】
このように構成されたシート搬送装置によれば、分離ローラ又は可動部がフィルム部材の屈曲状態又は湾曲状態を変化させることで、フィルム部材の変位部を第二位置へ変位させることができるので、屈曲も湾曲もしないシャッターをメカ的な専用機構で作動させる場合に比べ、複雑な専用機構が不要となる。
【0015】
請求項4に記載のシート搬送装置は、請求項3に記載のシート搬送装置において、前記フィルム部材は、前記分離ローラを前記正回転とは逆向きに逆回転させた際に、前記分離ローラ又は前記可動部から力を受けて前記境界部分の屈曲状態又は湾曲状態が変化することにより、前記変位部が前記第二位置から前記第一位置へと変位して、前記位置決め部材として利用可能な状態になることを特徴とする。
【0016】
このように構成されたシート搬送装置によれば、分離ローラ又は可動部がフィルム部材を作動させて、フィルム部材の変位部を第一位置へ復帰させることができる。
請求項5に記載のシート搬送装置は、請求項4に記載のシート搬送装置において、前記分離ローラは、前記シート積載部に積載されているシートの搬送を完了した際に、前記逆回転することにより、前記フィルム部材の前記変位部を前記第二位置から前記第一位置へと変位させることを特徴とする。
【0017】
このように構成されたシート搬送装置によれば、シートの搬送を完了した際には、フィルム部材の変位部が第一位置へ復帰するので、次にシート積載部にシートを積載する際には、特に事前に準備をしなくても、フィルム部材を利用してシートの搬送方向先端部を揃えることができる。
【0018】
請求項6に記載のシート搬送装置は、請求項4又は請求項5に記載のシート搬送装置において、前記分離ローラは、電源投入後のイニシャライズ動作の際に、前記逆回転することにより、前記フィルム部材の前記変位部を前記第二位置から前記第一位置へと変位させることを特徴とする。
【0019】
このように構成されたシート搬送装置によれば、電源投入後のイニシャライズ動作の際には、フィルム部材の変位部が第一位置へ復帰するので、電源投入後にシート積載部にシートを積載する際には、特に事前に準備をしなくても、フィルム部材を利用してシートの搬送方向先端部を揃えることができる。
【0020】
請求項7に記載のシート搬送装置は、請求項4又は請求項5に記載のシート搬送装置において、前記フィルム部材及び前記分離片は、互いに重ならない位置に配設されていることを特徴とする。
【0021】
このように構成されたシート搬送装置によれば、フィルム部材及び分離片は、互いの機能を阻害しないので、フィルム部材及び分離片それぞれについて最適化を行うだけで、容易に所期の性能を発揮させることができる。
【0022】
請求項8に記載のシート搬送装置は、請求項4又は請求項5に記載のシート搬送装置において、前記フィルム部材及び前記分離片は、互いに重なる位置に配設されていることを特徴とする。
【0023】
このように構成されたシート搬送装置によれば、フィルム部材及び分離片は、互いに重なる位置に配設されているので、配設場所に関して省スペース化を達成できる。また、シートの搬送方向に垂直な方向且つシートの表裏面に平行な方向であるシートの幅方向について、単一のフィルム部材及び単一の分離片を、双方とも前記幅方向中央に配置できるので、前記幅方向中央を挟んで両側に離れた位置に、一対のフィルム部材や一対の分離片を配置しなくても、前記幅方向について対称な構造を容易に形成することができる。
【0024】
請求項9に記載のシート搬送装置は、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のシート搬送装置において、前記フィルム部材において、前記固定部と前記変位部との前記境界部分は、上下方向について、前記シート積載部の積載面と同一位置、又は前記積載面よりも下方となる位置に設けられていることを特徴とする。
【0025】
このように構成されたシート搬送装置によれば、フィルム部材において、変位部の変位に伴って屈曲又は湾曲する箇所は、シート積載部の積載面と同一位置、又は積載面よりも下方となる位置に設けられているので、屈曲又は湾曲する箇所がシート積載部の積載面よりも上方となる位置に設けられている場合に比べ、シート搬送の際にシートがフィルム部材に引っかかるのを抑制できる。
【0026】
請求項10に記載の画像読取装置は、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のシート搬送装置によって、読取対象となる原稿を搬送可能に構成されていることを特徴とする。
【0027】
このように構成された画像読取装置によれば、読取対象となる原稿を搬送する際に、上記シート搬送装置について述べた通りの作用、効果を期待でき、原稿の搬送方向先端部が揃っていない状態で搬送を行うものに比べ、重送や空送の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】複合機の斜視図。
【図2】複合機が備えるイメージスキャナ部を示す図であり、(a)は原稿供給トレイを閉じた状態を示す縦断面図、(b)は原稿供給トレイを開いた状態を示す縦断面図。
【図3】(a)は、第一実施形態のフィルム部材とその周辺の構成を示す斜視図、(b)は、図3(a)中に示したA部の拡大図。
【図4】第一実施形態のフィルム部材の挙動を示す説明図。
【図5】ADF部に関連する制御系を示すブロック図。
【図6】ADF部に関連する処理を示すフローチャート。
【図7】(a)は、第二実施形態のフィルム部材とその周辺の構成を示す斜視図、(b)は、図7(a)中に示したB部の拡大図。
【図8】第三実施形態のフィルム部材の挙動を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について、いくつかの具体例を挙げて説明する。
〔1〕第一実施形態
[複合機の構造]
図1に示す複合機1は、画像読取装置としての機能(スキャン機能)に加え、その他の機能(例えば、プリント機能、コピー機能、ファクシミリ送受信機能など)を兼ね備えたものである。なお、以下の説明においては、複合機1が備える各部の相対的な位置関係をわかりやすく説明するため、図中に併記した上下左右前後の各方向を利用する。
【0030】
複合機1は、プリンタ部2と、プリンタ部2の上部に搭載されたスキャナ部3と、プリンタ部2の上部でスキャナ部3の前方に配設された操作部4とを備えている。プリンタ部2は、電子写真方式で被記録媒体に画像を形成可能な画像形成機構が内蔵されている。また、プリンタ部2の下部には、前方へ引き出すことができる給紙カセット6が配設され、プリンタ部2の上部には、画像形成済みの被記録媒体が排出される被記録媒体排出部7が設けられている。
【0031】
スキャナ部3は、フラットベッド(以下、FBと略称する。)型イメージスキャナに対しADFが付加された構造とされたもので、FB本体部3Aと、このFB本体部3Aの上面側を覆うADF部3Bとを備えている。ADF部3Bは、後端側を回動中心にして前端側が上下に変位する方向へ回動可能に構成され、これにより、FB本体部3A上面にある原稿載置面を覆う位置又は同原稿載置面を露出させる位置へと変位可能な構造とされている。
【0032】
また、ADF部3Bには、図2(a)及び同図(b)に示すように、動力源から伝達される動力で駆動されるローラとして、供給ローラ11、分離ローラ12、メイン搬送ローラ13、及び排出ローラ14などを備えている。
【0033】
供給ローラ11は、分離ローラ12の回転中心と同一の軸線を中心に回動可能な供給ホルダ15によって保持されており、供給ホルダ15を回動させることで、供給ローラ11と原稿台16との距離を変更可能に構成されている。
【0034】
分離ローラ12の下方には、分離片17が配設されている。この分離片17は、分離ローラ12によって搬送方向下流側へと送り出される原稿に対し、分離ローラ12が接触する面とは反対側の面において接触し、当該接触箇所に摩擦抵抗を付与する部材である。このような分離片17を設けることにより、分離ローラ12によって送り出される原稿を、分離ローラ12と分離片17が協働して1枚ずつに分離させる。
【0035】
これらの供給ローラ11、分離ローラ12、メイン搬送ローラ13、及び排出ローラ14は、原稿台16に載せられた原稿を、図2(b)中に二点鎖線で示した略U字形状の搬送経路に沿って原稿排出部18へと搬送する搬送機構を構成している。
【0036】
原稿台16の一部は、図2(a)に示す閉位置、及び図2(b)に示す開位置へ回動可能に構成され、閉位置へ移動させた際には、ADF部3B上部の一部分を覆うカバーとして機能し、開位置へ移動させた際に原稿台として利用可能となる。
【0037】
上述の略U字形状の搬送経路を構成する対向している経路部分の一方側に沿う位置には、第一原稿ホルダ21が配設されている。この第一原稿ホルダ21は、上述の搬送経路を搬送される原稿をFB本体部3A側にある第一ADFガラス(図示略)に押し当てる部材である。
【0038】
なお、FB本体部3Aには、FB本体部3Aの内部を往復移動可能に構成された第一イメージセンサ(図示略)が配設されている。この第一イメージセンサを、第一ADFガラスを挟んで第一原稿ホルダ21に対向する位置へと移動させると、上述の搬送経路を搬送される原稿から、第一イメージセンサで画像を読み取ることができる。
【0039】
また、上述の略U字形状の搬送経路沿いとなる位置で、第一原稿ホルダ21が配設された位置とは反対側(搬送方向上流側)の経路部分に沿う位置には、第二原稿ホルダ22が配設されている。この第二原稿ホルダ22は、上述の搬送経路を搬送される原稿を第二ADFガラス24に押し当てる部材である。
【0040】
ADF部3Bの内部で、第二ADFガラス24を挟んで第二原稿ホルダ22に対向する位置には第二イメージセンサ26が設けられ、この第二イメージセンサ26を利用しても上述の搬送経路を搬送される原稿から画像を読み取ることができる。すなわち、この複合機1では、上述の第一イメージセンサと第二イメージセンサを利用して、搬送経路を搬送される原稿の表裏両面から画像を読み取り可能となっている。
【0041】
さらに、図3(a)及び同図(b)に示すように、分離ローラ12よりも搬送方向上流側となる位置には、フィルム部材31が設けられている。このフィルム部材31は、弾性変形可能なプラスチックフイルムによって形成されたものである。
【0042】
フィルム部材31の一部は、第一位置(図4(a)及び同図(b)に示す位置)、及び第二位置(図4(c)及び同図(d)に示す位置)へ変位可能な変位部31Aとなっている。また、この変位部31Aに連設された部分は、原稿台16側に固定された固定部31Bとなっている。
【0043】
変位部31Aの先端は、分離ローラ12に当接する状態にあり、分離ローラ12が回転した際には、変位部31Aの先端が分離ローラ12に追従して変位し、それに伴い、変位部31Aと固定部31Bの境界部分でフィルム部材31の屈曲状態が変化して、変位部31Aが第一位置又は第二位置へ変位する。
【0044】
また、フィルム部材31の近傍で、フィルム部材31よりも原稿搬送方向上流側となる位置には、図4(a)〜同図(d)に示すように、原稿検知センサ33が設けられている。
【0045】
この原稿検知センサ33は、回動することにより、図4(a)に示す位置又は図4(b)に示す位置へ変位可能で、一方の位置から他方の位置へ変位する際にオン・オフが切り替わるように構成されている。また、原稿検知センサ33は、図示しないばねによって図中時計回りとなる方向へ付勢されている。
【0046】
原稿台16に原稿が積載されていない状態において、原稿検知センサ33は、ばねから付勢力を受けて図中時計回りに回動し、図4(a)に示す位置へと変位した状態となる。また、詳しくは後述するが、原稿台16に原稿が積載されていない状態においては、分離ローラ12を所定量だけ逆回転(図4(a)において反時計回りに回転)させる制御が行われ、フィルム部材31の変位部31Aは、図4(a)に示す第一位置へ変位させられた状態となる。
【0047】
このような状態において、図4(b)に示すように、原稿台16に原稿Dを積載すると、原稿検知センサ33は、原稿から荷重を受けて図中反時計回りに回動する。また、原稿台16に原稿Dを積載する際には、原稿Dの搬送方向先端をフィルム部材31に当接させることにより、原稿Dの先端位置を揃えることができる。すなわち、フィルム部材31の変位部31Aが第一位置にある場合、フィルム部材31は、原稿Dの搬送方向先端部を所定の位置に揃えるための位置決め部材として機能する。
【0048】
原稿台16に積載された原稿Dの搬送を開始する際には、分離ローラ12を正回転(図4(b)において時計回りに回転)させる制御が行われ、フィルム部材31の変位部31Aは、図4(b)に示す第一位置から図4(c)に示す第二位置へと変位する。
【0049】
変位部31Aが第二位置へ変位した状態において、供給ローラ11によって送り出される原稿Dは、図4(c)に示すように、変位部31Aに遮られることなく分離ローラ12に到達する。すなわち、フィルム部材31は、原稿Dの搬送を妨げない状態になる。
【0050】
そして、原稿台16に積載された原稿Dすべてが搬送されると、原稿検知センサ33は、図4(c)に示す位置から図4(d)に示す位置まで図中時計回りとなる方向へ回動して、原稿台16の原稿載置面よりも上方へ突出する状態に戻る。これにより、原稿Dの搬送完了が検知され、分離ローラ12を所定量だけ逆回転(図4(a)において反時計回りに回転)させる制御が行われる。その結果、フィルム部材31の変位部31Aは、図4(a)に示す第一位置へ変位させられた状態に復帰する。
【0051】
[ADF部に関連する制御系及び制御]
さらに、複合機1は、ADF部3Bに関連する制御系として、図5に示すように、制御部41と、制御部41によって制御されるADF用モーター43と、ADF用モーター43からの動力を供給ローラ11、分離ローラ12、メイン搬送ローラ13、及び排出ローラ14に伝達する動力伝達機構45とを備えている。
【0052】
制御部41は、周知のCPU、ROM、RAM等を備えるマイクロコンピュータを中心に構成され、CPUがROMやRAMに記憶された制御プログラムに従った制御を実行することにより、複合機1の各部に対する制御を実行する。
【0053】
この制御部41には、上述した原稿検知センサ33も接続されている。なお、この他、プリンタ部2、スキャナ部3、及び操作部4などに内蔵された各種装置も、制御部41によって制御されるが、これらは本発明の作用、効果を説明する上では不要なので、図5では図示を省略する。
【0054】
次に、複合機1において制御部41が実行するADF部3Bに関連する制御について、図6のフローチャートに基づいて説明する。図6に示す処理は、複合機1の電源オンに伴って開始される処理である。なお、複合機1では、図6に示した処理以外の別処理も順次あるいは並行して実行される場合があるが、それらの図示は省略してある。
【0055】
複合機1の電源がオンにされると、制御部41は、ADF部3Bのイニシャライズ処理として、ADF部3Bの作動を開始させる(S10)。これは、ADF部3Bに原稿が残留している状態のまま複合機1の電源がオフとされている可能性があるので、そのような原稿を排出するために実行される制御である。
【0056】
そして、残留原稿の排出に必要なだけADF部3Bを作動させたら、制御部41は、ADF部3Bの作動を停止させ(S20)、分離ローラ12を所定量だけ逆回転させる(S30)。これにより、フィルム部材31は、図4(d)に示すような第二位置にある状態から、図4(a)に示すような第一位置にある状態に復帰する。
【0057】
その後、制御部41は、原稿台16に原稿がセットされて、操作部4での操作等(例えば、スタートボタンの押下)により、画像読取指令が入力されるまで待機する(S40)。原稿台16に原稿がセットされた場合、原稿検知センサ33が、図4(a)に示す位置から図4(b)に示す位置へ回動してオン/オフが切り替わるので、この状態変化から原稿がセットされたことを検出できる。
【0058】
その後、画像読取指令が入力されたら、制御部41は、分離ローラ12を所定量だけ正回転させる(S50)。これにより、フィルム部材31は、図4(b)に示すような第一位置から図4(c)に示すような第二位置へ変位する。
【0059】
その状態で、制御部41は、ADF部3Bの作動を開始させ(S60)、これにより、原稿の搬送が開始されるので、以降は、原稿検知センサ33で原稿搬送完了が検知されるまで待機する(S70)。
【0060】
原稿搬送に伴って原稿台16から原稿が無くなると、原稿検知センサ33が、図4(c)に示す位置から図4(d)に示す位置へ回動してオン/オフが切り替わるので、この状態変化から原稿台16から原稿が無くなったことを検出できる。原稿台16から原稿が無くなった後、所定時間だけ原稿搬送を継続すると原稿搬送が完了するので、その時点で制御部41は、ADF部3Bの作動を停止させる(S80)。このとき、分離ローラ12の正回転も停止することになる。
【0061】
その後、制御部41は、分離ローラ12を所定量だけ逆回転させる(S90)。これにより、フィルム部材31は、図4(d)に示すような第二位置にある状態から、図4(a)に示すような第一位置にある状態に復帰することになる。
【0062】
[効果]
以上説明したように、上記複合機1によれば、フィルム部材31の変位部31Aが第一位置にある場合には、原稿の搬送方向先端部を所定の位置に揃えることができる(図4(b)参照。)。したがって、原稿の搬送方向先端部が揃っていない状態で搬送を開始してしまうADFに比べ、重送や空送の発生を抑制することができる。
【0063】
また、分離ローラ12を正回転させた際には、変位部31Aと固定部31Bとの境界部分でフィルム部材31の屈曲状態が変化して、フィルム部材31の変位部31Aが第一位置から第二位置へと変位して、原稿の搬送を妨げない状態になる(図4(c)参照。)。
【0064】
したがって、例えば、支軸と軸受で構成されるような回動機構などを利用しなくても、フィルム部材31の屈曲状態を変化させるというきわめて簡素な構成で、所期の原稿搬送を実施できる状態に切り替えることができる。
【0065】
また、上記複合機1によれば、分離ローラ12からフィルム部材31へ直接力を伝達して、フィルム部材31の変位部31Aを変位させているので、フィルム部材31専用の動力伝達機構を用意しなくても変位部31Aを変位させることができる。
【0066】
さらに、上記複合機1によれば、原稿搬送を完了した時点で、S90によりフィルム部材31の変位部31Aを第二位置から第一位置へ変位させるので、次に原稿台16に原稿を積載する際には、特に事前に準備をしなくても、フィルム部材31を利用して原稿の搬送方向先端部を揃えることができる。
【0067】
また、上記複合機1によれば、電源投入後のイニシャライズ動作の際にも、S30によりフィルム部材31の変位部31Aを第二位置から第一位置へ変位させるので、原稿台16に原稿を積載する際には、特に事前に準備をしなくても、フィルム部材31を利用して原稿の搬送方向先端部を揃えることができる。
【0068】
また、上記複合機1において、フィルム部材31は、図3(a)及び同図(b)に示すように、分離片17を挟む両側の位置にあり、フィルム部材31及び分離片17は、互いに重ならない位置に配設されている。したがって、フィルム部材31及び分離片17は、互いの機能を阻害しないので、フィルム部材31及び分離片17それぞれについて特性の最適化を行うだけで、それぞれに所期の性能を容易に発揮させることができる。
【0069】
加えて、上記複合機1によれば、フィルム部材31において、変位部31Aの変位に伴って屈曲する箇所は、図4(a)などに示されるように、原稿台16の積載面と同一位置、又は積載面よりも下方となる位置に設けられている。したがって、屈曲箇所が原稿台16の積載面よりも上方となる位置に設けられている場合に比べ、原稿搬送の際に原稿がフィルム部材31に引っかかるのを抑制できる。
【0070】
〔2〕第二実施形態
次に、第二実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態においては、第一実施形態との相違点を中心に詳述し、共通部分に関しては、第一実施形態と同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0071】
第二実施形態では、図7(a)及び同図(b)に示すように、第一実施形態で示した分離ローラ12の回転中心と同一軸線を中心に回転するローラ51を設け、このローラ51にフィルム部材53を当接させてある。このような構造を採用しても、フィルム部材53は、第一実施形態で示したフィルム部材31と同様に機能する。
【0072】
したがって、一対のフィルム部材53の間隔を、第一実施形態よりも拡大したい場合には、第二実施形態のような構成を採用するのも一案である。また、第一実施形態の場合、専用のローラ51を設けなくても、分離ローラ12でフィルム部材31を変位させることができるので、部品点数の削減を図ることができるが、第二実施形態の場合、ローラ51には分離ローラとしての特性は要求されないので、フィルム部材53を変位させることのみを目的として、ローラ51の特性を容易に最適化することができる。
【0073】
〔3〕第三実施形態
次に、第三実施形態について説明する。
第三実施形態では、いわゆる下取り給紙を行う機構を採用しており、具体的には、図8(a)〜同図(d)に示すように、供給ローラ61及び分離ローラ62の上方に分離片63を配設し、原稿台64に積載される原稿を、下側から1枚ずつ搬送するように構成してある。
【0074】
この場合でも、フィルム部材65の変位部65Aはその先端が分離ローラ62に当接し、固定部65Bは搬送経路を挟んで分離片63と同じ側に配設される。ただし、第一実施形態とは異なり、固定部65Bは搬送経路を挟んで原稿台64とは反対側の位置に配設されることになる。すなわち、フィルム部材65の配設位置は、原稿台64側になるとは限らない。
【0075】
なお、図8(a)〜同図(d)に示す各状態は、それぞれ図4(a)〜同図(d)に示す各状態に対応するので、これらの状態遷移についての説明は、第三実施形態においては省略する。
【0076】
〔4〕変形例等
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0077】
例えば、上記実施形態では、フィルム部材31,53と分離片17は、互いに重ならない位置に配設されていたが、フィルム部材31と分離片17を、互いに重なる位置に配設してもよい。このようにすれば、フィルム部材31と分離片17それぞれが占有していた面積を低減し、より省スペース化を図ることができる。ただし、この場合は、分離片17にフィルム部材31が重なることを前提に、分離片17が所期の性能を発揮するように分離片17の特性を最適化する必要がある。
【0078】
また、上記実施形態では、画像読取装置としての機能(スキャン機能)、画像形成装置としての機能(プリント機能)を兼ね備えた複合機1を例示したが、画像読取装置としての機能のみを備えた単機能のイメージスキャナ装置においても本発明を採用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1・・・複合機、2・・・プリンタ部、3・・・スキャナ部、3A・・・FB本体部、3B・・・ADF部、4・・・操作部、6・・・給紙カセット、7・・・被記録媒体排出部、11,61・・・供給ローラ、12,62・・・分離ローラ、13・・・メイン搬送ローラ、14・・・排出ローラ、15・・・供給ホルダ、16,64・・・原稿台、17,63・・・分離片、18・・・原稿排出部、21・・・第一原稿ホルダ、22・・・第二原稿ホルダ、24・・・第二ADFガラス、26・・・第二イメージセンサ、31,53,65・・・フィルム部材、31A,65A・・・変位部、31B,65B・・・固定部、33・・・原稿検知センサ、41・・・制御部、43・・・ADF用モーター、45・・・動力伝達機構、51・・・ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送対象となるシートが積載される積載面を有するシート積載部と、
前記シート積載部から供給されるシートを所定の搬送方向へと搬送する分離ローラと、
前記分離ローラによって前記搬送方向へと送り出されるシートに対し、前記分離ローラが接触する面とは反対側の面において接触して、当該接触箇所に摩擦抵抗を付与することにより、前記分離ローラによって送り出される前記シートを、前記分離ローラと協働して1枚ずつに分離させる分離片と、
一部は所定の箇所に固定された固定部、当該固定部に連設された別の一部は前記固定部との境界部分で当該境界部分の屈曲状態又は湾曲状態が変化するのに伴って第一位置と第二位置との間を変位可能な変位部とされており、前記変位部が前記第一位置にある場合には、前記シート積載部に積載されるシートの搬送方向先端部を前記変位部に当接させることにより、前記シートの搬送方向先端部を所定の位置に揃えるための位置決め部材として利用可能で、しかも、前記シート積載部から供給されるシートを前記搬送方向へ搬送するために前記分離ローラを正回転させた際には、前記変位部が前記第一位置から前記第二位置へと変位して、前記シートの搬送を妨げない状態になるフィルム部材と
を備えることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記分離ローラは、前記シートの搬送経路を挟んで、前記シート積載部の積載面とは反対側となる位置に配設されており、
前記分離片及び前記フィルム部材は、前記シートの搬送経路に対し、前記シート積載部の積載面と同じ側となる位置に配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記フィルム部材は、前記分離ローラを前記正回転させた際に、前記分離ローラ又は前記分離ローラに追従して動作する可動部から力を受けて前記境界部分の屈曲状態又は湾曲状態が変化することにより、前記変位部が前記第一位置から前記第二位置へと変位して、前記シートの搬送を妨げない状態になる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシート搬送装置。
【請求項4】
前記フィルム部材は、前記分離ローラを前記正回転とは逆向きに逆回転させた際に、前記分離ローラ又は前記可動部から力を受けて前記境界部分の屈曲状態又は湾曲状態が変化することにより、前記変位部が前記第二位置から前記第一位置へと変位して、前記位置決め部材として利用可能な状態になる
ことを特徴とする請求項3に記載のシート搬送装置。
【請求項5】
前記分離ローラは、前記シート積載部に積載されているシートの搬送を完了した際に、前記逆回転することにより、前記フィルム部材の前記変位部を前記第二位置から前記第一位置へと変位させる
ことを特徴とする請求項4に記載のシート搬送装置。
【請求項6】
前記分離ローラは、電源投入後のイニシャライズ動作の際に、前記逆回転することにより、前記フィルム部材の前記変位部を前記第二位置から前記第一位置へと変位させる
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のシート搬送装置。
【請求項7】
前記フィルム部材及び前記分離片は、互いに重ならない位置に配設されている
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のシート搬送装置。
【請求項8】
前記フィルム部材及び前記分離片は、互いに重なる位置に配設されている
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のシート搬送装置。
【請求項9】
前記フィルム部材において、前記固定部と前記変位部との前記境界部分は、上下方向について、前記シート積載部の積載面と同一位置、又は前記積載面よりも下方となる位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のシート搬送装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のシート搬送装置によって、読取対象となる原稿を搬送可能に構成されている
ことを特徴とする画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−158428(P2012−158428A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18704(P2011−18704)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】