説明

シート搬送装置およびプリンタ

【課題】 使用するシートの特性によらず湾曲部において安定したシート搬送を実現する。
【解決手段】 湾曲部を有する搬送経路と、搬送経路に沿ってシートを搬送する搬送機構とを備えたシート搬送装置において、搬送経路に沿って搬送されるシートの先端(3a)と前記湾曲部において接触して、シートの先端(3a)の移動と共に限られた範囲をスライド移動するスライダ(20)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタに適用可能なシート搬送装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
シートを搬送してシート上にプリントを行なうプリンタは、より一層の小型化が求められている。小型化の追求には、シートを搬送する搬送経路に湾曲部を設けることが避けられず、湾曲の曲率も小さくなりがちである。この湾曲部でのシートの曲がり量が大きいほど、湾曲部でのガイド面とシートとの摺動摩擦が大きくなり、シートの搬送負荷が大きくなる。これはシート搬送精度を劣化させる要因になる。
【0003】
この問題に対して、特許文献1に開示の装置では、搬送経路の湾曲部でのガイド面を摩擦抵抗の小さい合成樹脂で形成することで、摺動摩擦を低減する構成を提案している。
【特許文献1】特開2007−182264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用するシートが、芯部の周りに連続シートが巻き固められロールシートである場合は、通常、ロールの外側の面がプリント面であり、ロールから引き出したシートは、プリント面が凸面となるような方向にカール(巻き癖)が付いている。
【0005】
プリンタにロールシートをセットした際には、プリント位置よりも高い位置でロールシートを保持して、湾曲部を有する搬送経路を経てプリント位置までシートを搬送する構成が一般的である。この場合、搬送経路の湾曲の方向は、シートのカール方向とは逆向きとなる。そのため、湾曲部を進行するシートはカールとは逆向きの反りを強いられることになり、とくにシート先端の搬入時にはシートと湾曲部のガイド面との間で大きな抵抗が発生する。この抵抗は、使用するシートのカール具合、剛性、厚み、切断面のバリ、表面状態などのさまざまな特性により変化する。そのため、たとえ特許文献1のようにガイド面を摩擦抵抗の小さい材質にしたとしても、使用するシートの特性によっては、シートの搬入不良を引き起こして搬送トラブルとなる畏れが残る。
【0006】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、湾曲した搬送経路を有するシート搬送装置やこれを備えたプリンタにおいて、使用するシートの特性によらず安定したシート搬送を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決する本発明のシート搬送装置は、湾曲部を有する搬送経路と、前記搬送経路に沿ってシートを搬送する搬送機構と、前記搬送経路に沿って搬送されるシートの先端と前記湾曲部において接触して、前記シートの先端の移動と共に限られた範囲をスライド移動するスライダとを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、使用するシートの特性によらず安定したシート搬送を実現したシート搬送装置やこれを備えたプリンタを提供することができる。言い換えれば、さまざまな特性のシートに適合した汎用性の高い装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示する。ただしこの実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する主旨のものではない。
【0010】
以下、インクジェット方式のプリンタを例に挙げて説明するが、本発明のプリンタは、複写機能やスキャン機能を持った複合機、いわゆるマルチファンクションプリンタにも適用可能である。インクジェット方式は、発熱体を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式など、さまざまな方式を用いることができる。また、インクジェット方式に限らず、電子写真方式、サーマル方式など、別の方式のプリンタにも適用可能である。また、カラーフィルタ基板、回路基板、布地などのさまざまなメディアに対して、プリントや加工を行なう各種製造装置にも適用可能である。本明細書では、これら製造装置も含めてプリンタと称する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態のインクジェットプリンタの主要部の構成を示す断面図である。使用者がロールシート1を装置にセットする際には、ロールシート1の芯部をシートホルダ2で保持させる。そして、使用者がロールシート1からシート3を引き出して先端を導入ローラ7に挟持させる。導入ローラ7の搬送駆動によって、シート3は、ガイド及びローラによって形成される搬送経路に沿って移動する。搬送経路を形成するガイドは、2つの内ガイド4と、第1外ガイド5、第2外ガイド6、及びプラテン10を有する。第1外ガイド5と内ガイド4の1つは対向して搬送経路を形成し、第2外ガイド6と内ガイド4のもう一方が対向して搬送経路を形成する。この第1外ガイド5と第2外ガイド6は、それぞれのガイド面が所定の角度をなしており、ここにおいて搬送経路が湾曲して湾曲部を形成している。なお、本明細書では、連続した曲率を持った曲線、直線が交わった屈曲も含めて、経路の方向が変化するものを湾曲と呼ぶものとする。
【0012】
2つの内ガイド4の間には従動ローラ14を有し、これも湾曲部での内側のガイドとしての機能を果たす。また、シート搬送機構として、搬送経路の上流から下流に沿って、シートを搬送するための回転駆動力を持った、導入ローラ7、搬送ローラ8、排出ローラ11を順に設けている。また、第2外ガイド6は、搬送方向に沿った方向(図中左右方向)に移動自在なスライダ20を保持している。このスライダ20の詳細については後に詳述する。
【0013】
搬送経路において、搬送ローラ8と排出ローラ11の間にはプリント部を有する。プリント部において、キャリッジ9はプリントヘッド12を搭載し、プラテン10に対してシート搬送方向と直交する方向(紙面垂直方向)に往復移動して、1ライン分のプリントを行なう。コントローラ15は、CPU16、メモリ17、各種I/Oインターフェースを備え、装置全体の各種制御を司るもので、装置本体に内蔵されている。コントローラ15の制御によって、最初は導入ローラ7で搬送経路に沿ってシート3を搬入して移動させ、搬送ローラ8に達してシートを挟持したら搬送ローラ8が搬送を支配する。プリント動作は、搬送ローラ8による1ライン分のシート搬送(副走査)とキャリッジ9の往復移動(主走査)による1ライン分のプリントを繰り返して、シート上に二次元の画像をプリントする。なお、プリントヘッド12をラインヘッドとすれば、キャリッジ9の往復移動は不要となる。プリントの済んだシートは、排出ローラ11で外に排出する。
【0014】
図2は、搬送経路の湾曲部を中心とした主要部の構成を示す。導入ローラ7によって搬入されるシート3は、ロールシートの巻き方向の関係で、湾曲部の湾曲方向とは逆向きにカールしている。そのため、シート3はシート先端3aが、第1外ガイド5に接触しながら進行してスライダ20に到る。すなわち、カールしたシート3の凸面側が内ガイド4や従動ローラ14に接触するよりも前に、シート先端3aがスライダ20の上面20aに乗り上げているようになっている。
【0015】
スライダ20は、第2外ガイド6の上に形成した平面状の保持面6aの上で、湾曲後のシート搬送方向(図2の水平方向)にスライド移動自在に保持されている。移動するシート先端3aがスライダ20に接触して押圧することで、シート先端3aの移動と共に、従動してスライダ20も一緒になってシート搬送方向に、所定の限られた範囲でスライド移動する。スライダ20が移動可能な範囲の両端を、第1位置、第2位置とすると、初期位置は第1位置(図2に示す位置)である。
【0016】
シート先端3aの搬送に従動してスライダ20がスライド移動するので、湾曲部でのシート先端3aの搬送負荷は、主として、スライダ20の下面と保持面6aとの間の摩擦抵抗によって決まる。従って、搬送付加を低減するためには、この摩擦抵抗を小さくすることが有効となる。なお、搬送経路内でのシート全体が受ける搬送抵抗は、シート3と第1外ガイド、従動ローラ14、上ガイド4などとの接触による抵抗も加わる。
【0017】
上記摩擦抵抗を小さくするために、スライダ20と保持面6aの少なくとも一方(好ましくは両方)を低摩擦面として、両者の間の摩擦抵抗を小さくしている。好ましくは、低摩擦面として滑りのよい合成樹脂からなる平滑面とするのが、同程度に低摩擦であれば材質や面形状はこの限りではない。なお、スライダ20の下面と保持面6aの間に、シートの移動方向に沿って低抵抗で回転自在なコロを有する構成としてもよく、更なる搬送抵抗の低減が期待できる。
【0018】
また、スライダ20を上方から見たときに櫛歯形状として、更に、保持面6a上の一部にもガイド機能を果たす櫛歯部6bを設けている。そして、スライダ20が保持面6a上を第1位置から第2位置にスライド移動した際に、上方から見たときに両者の櫛歯同士が非接触で噛み合う構造にしている。これにより、スライダ20が第1位置にある際には、搬送されるシート3は第2外ガイド側に形成した櫛歯部6bの上でもガイドされる。つまり、第2外ガイド6での実質のガイド範囲が長くなるので、段差無く安定性の高い搬送が可能となる。
【0019】
弾性体21はバネやゴムなどからなり、スライダ20を第2の位置から第1位置の方向(図面右方向)に引張って戻すための引張力を与えている。この引張力は、シートの押圧によって引張力に抗してスライダ20がスライド移動し、且つ押圧が無くなったら引張力によってスライダ20が元に戻る程度の力とする。
【0020】
スライダ20は、シート先端3aと接触する上面20aが、保持面6aに対して、搬送経路での搬送方向の下流側が上流側よりも高くなるように傾いている。また、スライダ20の上面20aは、下流側の高さが第2外ガイド6のガイド面よりも僅かに高くなるようにして、シート先端3aがスライダの上面20aを越えて第2外ガイド6に移動する際の引っかかりをなくして、スムーズな移動を実現している。
【0021】
図3は、搬入されたシートがシート搬送経路に沿って進行する状態を時系列に示す。図3(a)は、シート先端3aが第1外ガイド5に接触しながらスライダ20に近づいていく状態を示している。シート3が接触する搬送経路の部材は第1外ガイド5だけなので、摩擦力による搬送負荷力は小さい。なお、この状態では、スライダ20は弾性体21で引張られて第1位置(初期位置)にある。
【0022】
図3(b)は、シート先端3aが搬送経路の湾曲部に到達して、スライダ20の表面に当接した状態を示す。当接の後に、シート3のプリント面側が、ガイド機能を果たす従動ローラ14に接触する。シート先端3aはスライダ20の上面に接触して、ここまでシートを搬入してきた方向にスライダ20を、搬入してきた方向に押圧する。湾曲部によって搬送方向が変化する。押圧の力は水平成分と垂直成分に分解され、水平成分の力によって、スライダ20はシート先端3aの移動に従動して、湾曲後のシート搬送方向にスライド移動する。
【0023】
図3(c)は、押圧によりスライダ20が搬送方向の上流側(第1位置)から下流側(第2位置)にスライド移動した状態を示す。この移動の際のシート先端3aの搬送負荷は、スライダ20と第2外ガイド6との間の摺動による摩擦抵抗が主である。仮に、スライダ20が移動せずスライダ20とシートとが直接摺動した場合の摩擦抵抗に較べると低い値となる。そのため、湾曲部においてスムーズに搬送が行なわれ、搬送不良を引き起こすトラブルの発生を軽減することができる。なお、上述したように、スライダ20が第2位置にあるこの状態では、スライダ20の櫛歯と第2下ガイド6の保持面上に設けた櫛歯部とが、上方から見たときに非接触で噛み合っている。
【0024】
図3(d)は、シート先端3aが更に先に進んで、スライダ20から離れて、第2外ガイド6のガイド面に乗り上げた状態を示している。シートは主として第1外ガイド5、従動ローラ14、第2外ガイド6の3箇所でガイドされ、スライダ20とは接触しない。シート先端3aがスライダ20から離れた時点で、スライダ20は弾性体21による引張力で第1位置に戻る。そのままシートの搬送を続けると、シート先端3aは搬送ローラ8に達し、搬送ローラ8で挟持される。その後は、搬送ローラ8の駆動によりシートの搬送を行なう。そして、シート先端から順にプリント部でプリント動作を行なって、プリント後のシートは外に排出する。この段階では、シート3とスライダ20との接触は起きない。すなわち、スライダ20はシート先端3aを湾曲部においてスムーズに搬送するためだけに機能し、その後の搬送では邪魔にならないように自動的に退避するものである。
【0025】
図4は、搬送負荷について本実施形態の優位性を説明するためのモデル図である。湾曲部での湾曲の角度を60°として、シートXの先端はガイド41の面に対して60°の角度で突入するものとする。(A)はスライダを設けない場合である。シートXの先端とガイド41の表面とが直接摺動する。ガイド41の上面は低摩擦抵抗の合成樹脂で形成する。この時に必要なシートXの押し込み力Faがシート先端の搬送負荷となる。(B)はスライダ42を設けた場合である。スライダ42の下面とガイド41の上面とが擦動する。両方の面を上記と同じ材質の合成樹脂で形成する。この時に必要なシートXの押し込み力Fbがシート先端の搬送負荷となる。(C)はスライダ42とガイド41との間に、ガイド41の案内方向(湾曲後のシートが移動する方向)に沿って回転自在なコロ43を設けた場合である。この時に必要なシートXの押し込み力Fcがシート先端の搬送負荷となる。
【0026】
上記(A)(B)(C)の各々について、実際に押し込み力を計測して、それらの比率を求めたところ、Fa:Fb:Fc=1:0.88:0.63となった。この結果から、従来の(A)に較べて本実施形態の(B)及び(C)が搬送負荷に関して優位であることが判る。すなわち、本実施形態によれば、従来に較べて安定したシート搬送を実現することができる。言い換えれば、多種多様な特性を持ったシートに対してもフレキシブルに対応して、安定したシート搬送を実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】インクジェットプリンタの主要部の構成を示す断面図
【図2】搬送経路の湾曲部を中心とした主要部の構成を示す図
【図3】シートが搬送経路に沿って進行する状態を時系列に示す図
【図4】搬送負荷について本実施形態の優位性を説明するためのモデル図
【符号の説明】
【0028】
1 ロールシート
2 シートホルダ
3 シート
4 内ガイド
5 第1外ガイド
6 第2外ガイド
7 導入ローラ
8 搬送ローラ
9 キャリッジ
10 プラテン
11 排出ローラ
12 プリントヘッド
14 従動ローラ
15 コントローラ
20 スライダ
21 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲部を有する搬送経路と、
前記搬送経路に沿ってシートを搬送する搬送機構と、
前記搬送経路に沿って搬送されるシートの先端と前記湾曲部において接触して、前記シートの先端の移動と共に限られた範囲をスライド移動するスライダと
を有することを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記搬送経路を形成するガイドを有し、前記ガイドの一部に設けた保持面の上で、前記スライダを第1位置と第2位置との間で前記シートの先端の移動に従動して移動するように保持することを特徴とする、請求項1記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記スライダの下面と、前記ガイドの前記保持面の少なくとも一方は低摩擦面を有することを特徴とする、請求項2記載のシート搬送装置。
【請求項4】
前記スライダの下面と、前記ガイドの前記保持面の間に、前記シートの移動方向に沿って回転自在なコロを有することを特徴とする、請求項2記載のシート搬送装置。
【請求項5】
前記シートと共に前記第1位置から前記第2位置に移動した前記スライダを、前記第1位置に戻すための力を前記スライダに与える弾性体を有することを特徴とする、請求項2乃至4いずれか記載のシート搬送装置。
【請求項6】
前記スライダは、シートと接触する面が、前記保持面に対して、前記搬送経路での下流側が上流側よりも高くなるように傾いていることを特徴とする、請求項2乃至5のいずれか記載のシート搬送装置。
【請求項7】
前記スライダは上方から見たときに櫛歯形状である共に、前記保持面の上にもガイド機能を果たす櫛歯部を設け、前記スライダが移動した際に櫛歯同士が非接触で噛み合う構造を有することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか記載のシート搬送装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか記載のシート搬送装置と、搬送するシートにプリントを行なうプリント部を有することを特徴とするプリンタ。
【請求項9】
前記プリント部は、インクジェット方式のプリントを行なうことを特徴とする、請求項8記載のプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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