説明

シート搬送装置およびプリント装置

【課題】 使用するシートにかかわらず精度の高いシート搬送を行うことができるシート搬送装置やプリント装置の提供。
【解決手段】 搬送ローラとピンチローラの間にシートをニップして搬送するシート搬送装置であって、前記ピンチローラは、回転軸方向に関して隣り合う第1ローラ部と第2ローラ部を含み、前記搬送ローラに対する前記第1ローラ部の押圧力と前記搬送ローラに対する前記第2ローラ部の押圧力との差を可変にする機構を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント装置での使用に好適なシート搬送装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ローラを含む搬送機構によってシートを搬送するプリント装置が開示されている。シートは搬送ローラと従動ローラからなるローラ対でニップされて、ローラ対の回転によりシートが搬送される。従動ローラは回転軸方向に沿って複数(3つ)の小ローラに分割されている。分割された複数のローラは単一の押圧手段を用いてまとめて押圧され、シートの進行に伴ってニップ圧力を変化させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−208923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置の構成では、ニップ圧力を変化させるために付与される力は、分割された複数の従動ローラに対して一律に作用し、個別に調整することはできない。そのため以下のような課題を有している。
【0005】
プリント装置では様々なサイズ(シート幅)のシートに適用できることが求められている。使用するシートのサイズが異なると、複数の従動ローラの中でも端部に位置するローラは、ローラの回転軸方向において、(1)シートにローラの全部が接触する状態、(2)シートにローラの一部だけが接触する状態、が生じ得る。
【0006】
図4(b)は状態(2)の様子を説明するための模式図である。ローラのシートのエッジに乗り上げた部分がローラの直径方向に持ち合がって傾きが生じる。すると、シート幅方向においてシートの端部に外側から内側にシートを移動させる力(矢印方向の力f)がローラから作用する。そのため、シートの端部は内側に移動し、シートの一部が持ち上がってしわや波打ちが発生する可能性がある。あるいはシートの進行方向が本来の方向からずれるいわゆる斜行が発生する可能性がある。これらは、シートにプリントされる画像の品質の低下につながる。
【0007】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的のひとつは、使用するシートにかかわらず精度の高いシート搬送を行うことができるシート搬送装置やプリント装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシート搬送装置は、搬送ローラとピンチローラの間にシートをニップして搬送するシート搬送装置であって、前記ピンチローラは、回転軸方向に関して隣り合う第1ローラ部と第2ローラ部を含み、前記搬送ローラに対する前記第1ローラ部の押圧力と前記搬送ローラに対する前記第2ローラ部の押圧力との差を可変にする機構を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピンチローラに含まれる第1ローラ部と第2ローラ部それぞれの押圧力の差を可変にすることができるので、使用するシートにかかわらず精度の高いシート搬送を行うことができるシート搬送装置やプリント装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態のプリント装置の構成を示す概略図
【図2】制御部のブロック図
【図3】プリント部のプリントヘッドとローラ対との位置関係を示す断面図
【図4】サイズの異なるシートに対するピンチローラの姿勢の変化を示す模式図
【図5】ピンチローラの別の成分の傾きを示す模式図
【図6】ピンチローラのニップ圧力の調整機構の詳細な構造を示す斜視図である。
【図7】調整機構が有するカム機構の構造を示す断面図
【図8】ピンチローラのニップ圧力の設定値の例
【図9】シートに応じたピンチローラのニップ圧力の設定値の例
【図10】調整機構の別の形態の構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、インクジェット方式を用いたプリント装置の実施形態を説明する。本例のプリント装置は、長尺で連続したシート(搬送方向において繰り返しのプリント単位(1ページあるいは単位画像という)の長さよりも長い連続シート)を使用し、片面プリントおよび両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタである。例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントの分野に適している。
【0012】
本発明はプリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置、各種デバイスの製造装置など、インクを用いて乾燥が必要なプリント装置に広く適用可能である。また、本発明は感光材料が付与されたシートにレーザ等で潜像を描画して液体現像方式でプリントを行なうプリント装置にも適用可能である。また、本発明はプリント処理に限らず、シートに種々の処理(記録、加工、塗布、照射、読取、検査など)を行なうシート処理装置にも適用可能である。
【0013】
図1はプリント装置の内部構成を示す断面の概略図である。本実施形態のプリント装置は、ロール状に巻かれたシートを用いて、シートの第1面と第1面の背面側の第2面に両面プリントすることが可能となっている。プリント装置内部には、大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、制御部13の各ユニットを備える。排出部12はソータ部11を含んで排出処理を行なうユニットを指す。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。なお、シート供給から排出までのシート搬送経路の任意の位置において、シート供給部1に近い側を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0014】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを保持して供給するためのユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、択一的にシートを引き出して供給する構成となっている。なお、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。また、連続したシートであれば、ロール状に巻かれたものに限らない。例えば、単位長さごとのミシン目が付与された連続したシートがミシン目ごとに折り返されて積層され、シート供給部1に収納されるものでもよい。
【0015】
デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの搬送ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させて通過させることでデカール力を作用させてカールを軽減させる。
【0016】
斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。斜行矯正部3では、搬送されるシートにループが形成される。
【0017】
プリント部4は、搬送されるシートに対して上方からプリントヘッド14によりシート上にプリント処理を行なって画像を形成するシート処理部である。つまり、プリント部4はシートに所定の処理を行なう処理部である。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラも備えている。プリントヘッド14は、複数のプリントヘッドが搬送方向に沿って平行に並べられている。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのライン型プリントヘッドを有する。なお、色数およびプリントヘッドの数は7つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0018】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査例や画像をスキャナによって光学的に読み取って、プリントヘッドのノズルの状態、シート搬送状態、画像位置等を検査して画像が正しくプリントされたかを判定するためのユニットである。スキャナはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを有する。
【0019】
カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さに切断するカッタを有するユニットである。カッタはシートに形成された画像と画像の間の余白領域および最後にプリントした画像の後ろでシートを切断する。
【0020】
情報記録部7は、切断されたシートの非プリント領域にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報(固有の情報)を記録するユニットである。記録はインクジェット方式、熱転写方式などで文字やコードをプリントすることで行なわれる。
【0021】
乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させるためのユニットである。乾燥部8の内部では通過するシートに対して少なくとも下面側から熱風を付与してインク付与面を乾燥させる。なお、乾燥方式は熱風を付与する方式に限らず、電磁波(紫外線や赤外線など)をシート表面に照射する方式であってもよい。
【0022】
以上のシート供給部1から乾燥部8までのシート搬送経路を第1経路と称する。第1経路はプリント部4から乾燥部8までの間にUターンする形状を有し、カッタ部6はUターンの形状の途中に位置している。
【0023】
反転部9は両面プリントを行う際に表面プリントが終了した連続シートを一時的に巻き取って表裏反転させるためのユニットである。反転部9は、乾燥部8を通過したシートを再びプリント部4に供給するための、乾燥部8からデカール部2を経てプリント部4に到る経路(ループパス)(第2経路と称する)の途中に設けられている。反転部9はシートを巻き取るための回転する巻取回転体(ドラム)を備えている。表面のプリントが済んで切断されていない連続シートは巻取回転体に一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取回転体が逆回転して巻き取り済みシートは巻き取りのときとは逆順に送り出されてデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。シート供給部1を第1のシート供給部とすると、反転部9は第2のシート供給部とみなすことができる。両面プリントのより具体的な動作については後述する。
【0024】
排出搬送部10は、カッタ部6で切断され乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。排出搬送部10は、反転部9が設けられた第2経路とは異なる経路(第3経路と称する)に設けられている。第1経路を搬送されてきたシートを第2経路と第3経路のいずれか一方に選択的に導くために、経路の分岐位置(「排出分岐位置」と呼ぶ。)には可動フラッパを有する経路切替機構が設けられている。
【0025】
ソータ部11を含む排出部12は、シート供給部1の側部で且つ第3経路の末端に設けられている。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に仕分けるためのユニットである。仕分けられたシートは排出部12が有する複数のトレイに排出される。このように、第3経路はシート供給部1の下方を通過して、シート供給部1を挟んでプリント部4や乾燥部8とは逆側にシートを排出するレイアウトとなっている。
【0026】
以上のように、シート供給部1から乾燥部8までが第1経路に順に設けられている。乾燥部8の先は第2経路と第3経路に分岐され、第2経路は途中に反転部9が設けられ反転部9の先は第1経路に合流する。第3経路の末端には排出部12が設けられている。
【0027】
制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、記憶装置、各種制御部を備えたコントローラ、外部インターフェース、およびユーザが入出力を行なう操作部15を有する。プリント装置の動作は、コントローラまたはコントローラに外部インターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等のホスト装置16からの指令に基づいて制御される。
【0028】
図2は制御部13の概念を示すブロック図である。制御部13に含まれるコントローラ(破線で囲んだ範囲)は、CPU201、ROM202、RAM203、HDD204、画像処理部207、エンジン制御部208、個別ユニット制御部209から構成される。CPU201(中央演算処理部)はプリント装置の各ユニットの動作を統合的に制御する。ROM202はCPU201が実行するためのプログラムやプリント装置の各種動作に必要な固定データを格納する。RAM203はCPU201のワークエリアとして用いられたり、種々の受信データの一時格納領域として用いられたり、各種設定データを記憶させたりする。HDD204(ハードディスク)はCPU201が実行するためのプログラム、プリントデータ、プリント装置の各種動作に必要な設定情報を記憶読出することが可能である。操作部15はユーザとの入出力インターフェースであり、ハードキーやタッチパネルの入力部、および情報を提示するディスプレイや音声発生器などの出力部を含む。
【0029】
高速なデータ処理が要求されるユニットについては専用の処理部が設けられている。画像処理部207は、プリント装置で扱うプリントデータの画像処理を行う。入力された画像データの色空間(たとえばYCbCr)を、標準的なRGB色空間(たとえばsRGB)に変換する。また、画像データに対し解像度変換、画像解析、画像補正等、様々な画像処理が必要に応じて施される。これらの画像処理によって得られたプリントデータは、RAM203またはHDD204に格納される。エンジン制御部208は、CPU201等から受信した制御コマンドに基づいてプリントデータに応じてプリント部4のプリントヘッド14の駆動制御を行なう。エンジン制御部208は更にプリント装置内の各部の搬送機構の制御も行なう。個別ユニット制御部209は、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12の各ユニットを個別に制御するためのサブコントローラである。CPU201による指令に基づいて個別ユニット制御部209によりそれぞれのユニットの動作が制御される。外部インターフェース205は、コントローラをホスト装置16に接続するためのインターフェース(I/F)であり、ローカルI/FまたはネットワークI/Fである。以上の構成要素はシステムバス210によって接続されている。
【0030】
ホスト装置16は、プリント装置にプリントを行わせるための画像データの供給源となる装置である。ホスト装置16は、汎用または専用のコンピュータであってもよいし、画像リーダ部を有する画像キャプチャ、デジタルカメラ、フォトストレージ等の専用の画像機器であってもよい。ホスト装置16がコンピュータの場合は、コンピュータに含まれる記憶装置にOS、画像データを生成するアプリケーションソフトウェア、プリント装置用のプリンタドライバがインストールされる。なお、以上の処理の全てをソフトウェアで実現することは必須ではなく、一部または全部をハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0031】
次に、プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントモードと両面プリントモードとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
【0032】
片面プリントモードでは、シート供給部1から供給されたシートがプリントされて排出部12に排出されるまでの搬送経路を太線で示している。シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3でそれぞれ処理されたシートは、プリント部4において表面(第1面)のプリントがなされる。長尺の連続シートに対して、搬送方向における所定の単位長さの画像(単位画像)を順次プリントして複数の画像を並べて形成していく。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において単位画像ごとに切断される。切断されたカットシートは、必要に応じて情報記録部7でシートの裏面にプリント情報が記録される。そして、カットシートは1枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10を経由して、ソータ部11の排出部12に順次排出され積載されていく。一方、最後の単位画像の切断でプリント部4の側に残されたシートはシート供給部1に送り戻されて、シートがロールR1またはR2に巻き取られる。後述するように、この送り戻しの際には、デカール部2でのデカール力が小さくなるよう調整され、且つプリントヘッド14がシートから退避するようになっている。このように、片面プリントにおいては、シートは第1経路と第3経路を通過して処理され、第2経路は通過しない。
【0033】
両面プリントモードでは、表面(第1面)プリントシーケンスに次いで裏面(第2面)プリントシーケンスを実行する。最初の表面プリントシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6では切断動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路(第3経路)ではなく、反転部9の側の経路(第2経路)にシートが導かれる。第2経路においてシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転する反転部9の巻取回転体に巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端が切断される。切断位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経て反転部9でシート後端(切断位置)まで全て巻き取られる。一方、反転部9での巻取りと同時に、切断位置よりも搬送方向上流側(プリント部4の側)に残された連続シートは、シート先端(切断位置)がデカール部2に残らないように、シート供給部1に送り戻されて、シートがロールR1またはR2に巻き取られる。この送り戻し(バックフィード)によって、以下の裏面プリントシーケンスで再び供給されるシートとの衝突が避けられる。後述するように、この送り戻しの際には、デカール部2でのデカール力が小さくなるよう調整され、且つプリントヘッド14がシートから退避するようになっている。
【0034】
上述の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。反転部9の巻取回転体が巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)は、図の破線の経路に沿ってデカール部2に送り込まれる。デカール部2では巻取回転体で付与されたカールの矯正がなされる。つまり、デカール部2は第1経路においてシート供給部1とプリント部4の間、ならびに第2経路において反転部9とプリント部4の間に設けられて、いずれの経路においてもデカールの働きをする共通のユニットとなっている。シートの表裏が反転したシートは、斜行矯正部3を経て、プリント部4に送られて、シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎に切断される。カットシートは両面にプリントされているので、情報記録部7での記録はなされない。カットシートは1枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10を経由して、ソータ部11の排出部12に順次排出され積載されていく。このように、両面プリントにおいて、シートは第1経路、第2経路、第1経路、第3経路の順に通過して処理される。
【0035】
図3は、プリント部のプリントヘッドと上流・下流の2つのローラ対との位置関係を示す断面図である。シートSがプリント中に搬送される方向(矢印方向)において、プリントヘッド14の上流側には第1ローラ対、下流側には第2ローラ対が設けられている。これらのローラ対によりプリント部におけるシートSの搬送が行われる。
【0036】
第1ローラ対は、回転駆動力が与えられた搬送ローラ101と、従動回転するピンチローラ102からなる。さらに、搬送ローラ101に対するピンチローラ102のニップ圧力を個別に可変に調整するための調整機構110が設けられている。第2ローラ対は、回転駆動力が与えられた搬送ローラ103と、従動回転するピンチローラ104からなる。
第1ローラ対、第2ローラ対がシートを搬送する搬送力については、次の式1の関係を満たすよう設定されている。
第1ローラ対 > 第2ローラ対 (式1)
ローラ対の搬送力はピンチローラのニップ圧力により決定される。これはニップ圧力が大きいほどシートとローラ表面の間のスリップが生じ難くなるためである。ニップ圧力はピンチローラを搬送ローラに対して押圧するバネのバネ圧により決定される。このような関係にすることにより、シート搬送精度に関して、第1ローラ対の支配力が最も大きくなる。
【0037】
各ローラ対の搬送速度(搬送ローラの周速度)については、次の式2の関係を満たすよう設定されている。
第2ローラ対 > 第1ローラ対 (式2)
搬送力(式1)と搬送速度(式2)の関係により、メインの搬送手段である第1ローラ対のニップ位置(搬送ローラ101とシートSの間)ではほとんどスリップが生じない。第2ローラ対の各ニップ位置(搬送ローラ103とシートSの間)では速度差によるスリップを生じる。
【0038】
以上の関係を満たすことで、第1ローラ対がプリント部における全体としての搬送精度を支配する。第1ローラ対と第2ローラ対の間においてシートSは、搬送速度がより大きい第2ローラ対によって下流側に引っ張られながら搬送される。そのため、シートSにはテンションが付与された状態となり局所的なシートの浮きが生じることが抑止されるので、プリントヘッド14とシートSの距離が一定に保たれて高いプリント精度が維持される。
【0039】
上流側の第1ローラ対のピンチローラ102は、その回転軸方向(図3の紙面垂直方向)に沿って複数(4つ)の小ローラに分割されており、各々の小ローラは互いに独立して従動回転することができる。
ピンチローラ102を複数に分割した理由は次のとおりである。
上流側の第1ローラ対が搬送を支配するので、第1ローラ対は第2ローラ対よりも、シートをシート幅方向全体に渡って均等なニップ圧で支持することが求められる。
【0040】
もし、ピンチローラ102を分割されていない1本のローラ体にすると、仮に回転軸が僅かに傾いてもシートに対するニップ圧力の分布に勾配を生じてしまう。この圧力勾配は、シートの進行方向が本来の方向からずれるいわゆる斜行が発生させる要因になる。ピンチローラを複数に分割することで、独立してニップ圧力を付与することができるので、シート幅方向のニップ圧の勾配は生じにくくなる。
【0041】
また、ローラが撓みやすくシートの両端部にニップ圧が集中的にかかることで、両端のニップ圧の差が生じてシートに対して不安定に力がかかるため、しわやたるみ、シートの斜行などを発生させやすい。
本実施形態のプリント装置は、様々なサイズのシートを使用することができる。使用するシートの幅方向のサイズが異なると、第1ローラ対が有するピンチローラ102を構成する分割された複数のピンチローラの中でも端部に位置するローラは、ローラの回転軸方向において、(1)シートにローラの全部が接触する。(2)シートにローラの一部だけが接触する。(3)シートにまったく接触しない。という3つの状態が生じ得る。なお、ここでいう「全部」または「一部」とは、回転するローラがシートと接触する概ね直線状の狭い領域の全部または一部を意味するものであり、ローラの全周に渡る面を意味するものではない。
【0042】
図4はその様子を説明するための模式図であり、サイズの異なるシートに対するピンチローラの姿勢の変化を示す。図4(a)は状態(3)を、図4(b)は状態(2)を、図4(c)は状態を(1)それぞれ示す。ピンチローラ102は端から順にローラ102a、102b、102c、102dの4つに分割されている。プリント中にシートは紙面に対して垂直方向に搬送される。シートはシート幅方向において、そのサイズに拘わらずシート中心が同じ位置を通過する、いわゆるセンター中心と呼ばれる手法で供給される。図4の例では、いかなるサイズのシートもシート中心はローラ102bとローラ102cの中間を通過する。
【0043】
本明細書においては、回転軸方向に関して、シートの中央からより離れた外側のローラ102a、102dを第1ローラ部と呼び、これと隣り合うシート中央により近い側の内側のローラ102b、102cを第2ローラ部と呼ぶことにする。
【0044】
図4(a)は、使用が想定される最小サイズのシートS1を用いた場合である。シートS1は内側の2つのローラ102b、102cを合わせた長さとほぼ同じシート幅を有しており、これらの両脇の外側のローラ102a、102dはシートS1に接触しない。したがって、外側のローラ102a、102dはいずれも状態(3)となっている。
図4(b)は、使用が想定されるシートのうち、シート幅が最小サイズのシートS1より大きく且つ最大サイズよりは小さい、中サイズのシートS2を用いた場合である。シートS2は内側の2つのローラ102b、102cを合わせた長さよりも大きなシート幅を有しており、外側のローラ102a、102dはそれぞれシートS2、S3にローラの内側の一部が接触し且つ残る外側の一部は非接触となる。したがって、外側のローラ102a、102dはいずれも状態(2)となっている。
図4(c)は、使用が想定される最大のシートS3を用いた場合である。シートS3は4つのローラ102b〜102dをすべて合わせた長さとほぼ同じもしくはそれよりも大きなシート幅を有しており、外側のローラ102a、102dはシートS3に全部が接触する。したがって、外側のローラ102a、102dはいずれも状態(1)となっている。
【0045】
状態(1)あるいは状態(3)では、外側のローラ102a、102dは傾くことなく、内側のローラ102b、102cと同じ姿勢を保った状態で回転する。これに対して状態(2)では、外側のローラ102a、102dはその一部がシートに接触するので、ローラに僅かな姿勢の変化が生じて傾く(図4(b)参照)。そのため、状態(1)と状態(2)を比較すると、外側のローラ102a、102dからシートに対して作用する力の作用する方向および強さが異なる。なお、内側のローラ102b、102cに関しては、いずれの状態にあっても姿勢の変化はない。
【0046】
状態(2)におけるローラの傾きは主に2方向に発生する。第1のローラの傾きは、ローラのシートのエッジに乗り上げた部分がローラの直径方向に持ち合がって傾きが生じる。図4(b)はその様子を誇張して描いたものである。第1の傾きが生じると、シート幅方向においてシートの端部に外側から内側にシートを移動させる力がローラから作用する。具体的には、図4(b)に示すように、シートS2の両端部にはそれぞれ、接触するローラからシートの内側に向けて矢印方向の力fが作用する。そのため、シートの端部は内側に移動し、シートの一部が持ち上がってしわや波打ちが発生する可能性がある。力fはローラとシートの間のニップ圧力の分力であるので、ニップ圧力が大きくなるほど力fも大きくなって、しわや波打ちが発生しやすくなる。
【0047】
第2のローラの傾きは、シートが搬送される方向に発生する。ローラのシートに接する一部が移動するシートに下流から引っ張られるようにして傾きが生じる。図5はその様子を誇張して描いたものである。上述したように、上流側の第1ローラ対よりも下流側の第2ローラ対の方がローラの周速度(搬送速度)が大きいので、ピンチローラ102の位置ではシートS2は下流側から引っ張られた状態になる。このため、シートS2に引きずられるようにして、内側のローラ102b、102cは下流側にわずかに変位する。ただし変位しても回転軸の向きは変わらない。一方、外側のローラ102a、102dについて、ローラのシートに接する部位だけが下流側から引っ張られるので、回転軸が本来の方向に対して斜めに傾いた状態となる。これが第2のローラの傾きである。このように、外側のローラ102a、102dに傾きが生じると、ローラに接触するシートの部位に局所的な捩れが生じて、これもしわを発生させる要因となり得る。また、第1の傾き、第2の傾きは、シートの進行方向が本来の方向からずれるいわゆる斜行が発生させる要因にもなり得る。
【0048】
シートのしわや波打ちが発生、あるいはシート搬送に斜行が発生すると、シートにプリントされる画像の品質の低下につながる。このような技術課題に鑑みて、本実施形態では、使用するシートにかかわらず精度の高いシート搬送を行うことができる解決手段を提供する。本実施形態の基本的な技術思想は、使用するシートに応じて、搬送ローラ101に対するピンチローラに含まれる第1ローラ部の押圧力と、搬送ローラ101に対する第2ローラ部の押圧力との差もしくは比を、調整機構110により可変にするものである。これを実現するための具体的な構成および動作について、以下説明していく。
【0049】
図6は第1ローラ対の詳細な構造を示す斜視図である。ピンチローラ102を構成する4つのローラ102a〜102dそれぞれと、搬送ローラ101との間のニップ圧力は、これらローラ対の上方に設けられた調整機構110によって個別に調整される。調整機構110の構造について以下説明する。
【0050】
4つのローラ102a〜102dは、それぞれ対応する4つのホルダ154a〜154dによって保持され、回転軸112を中心に回転自在になっている。ホルダ154a〜154dにそれぞれ対向して、4つの板部材113が共通の基準固定部123に固設されている。ホルダ154a〜154dと対応する板部材113のそれぞれの間はロッド115および弾性部材であるバネが介在している。バネはロッド115の周りにつる巻きバネとして設けられた主バネ114aと、その両側の補助バネ(2本)の計3本のバネからなる。3本のバネは回転軸112の軸方向に沿って並べられている。
【0051】
ホルダ154a〜154dをそれぞれ上下動させるための駆動機構としてカム機構150が4カ所に設けられている。カム機構150それぞれカムとカムレバーからなり、カムの変位をカムレバーの上下動に変換する。ロッド115は、一端がカムレバーの先端部に固定され、他端がホルダ154a〜154dに形成された孔を貫通してホルダから抜けないように固定されている。ロッド115に支えられながら主バネ114aはカムレバーとホルダの間で圧縮されている。また、補助バネ114bは、一端が板部材113の裏面に固定され、他端がホルダ154a〜154dの上面に固定され、両者の間で圧縮されている。主バネの両脇に対称的に補助バネが設けられているので、仮にローラが傾こうとしても傾きを解消する力が補助バネにより作用する。
【0052】
カム機構150によってカムレバーを上下させると、ロッド115を介してホルダ154a〜154dがそれぞれ上下動する。上下動方向におけるカムレバーのポジションおよび圧縮された状態で介在する3本のバネ圧の合計により、ローラ102a〜102dのニップ圧力が個別に調整される。
【0053】
図7は、4つのうち任意の1つのカム機構150の構造を示す断面図である。図7(a)はロッド115が押し下げられたニップ状態、図7(b)はロッド115を持ち上げたリリース状態に示す。回転するカムシャフト121に対してカム120は偏芯して固定されている。4か所のカム120に対してカムシャフト121は共通の一本としている。カムレバー117は支軸118を中心に回動可能に支持されている。カムレバー117の一端はカム120の表面に当接している。カムレバー117の他端の先端には、ロッド115の上端がピン116で回動可能に固定されている。ロッドの上端側は板部材113に形成した孔を貫通して、孔によってロッドに位置ずれが生じないように支えられている。ロッド115の下端側はホルダ154に形成された孔を貫通して、孔によってロッドに位置ずれが生じないように支えられている。ロッド下端には孔よりも径が大きい留め金152が設けられている。留め金152によりロッド115はホルダ154の孔から抜けることが防止される。ホルダ154は支軸119を中心に回動可能に固定されている。ピンチローラ102はホルダ154の側面の2カ所で軸支された回転軸112を中心に回転自在に保持されている。
【0054】
この構成において、カムシャフト121を回転させるとカム120の位相が変化して、カムレバー117の高さが変わる。それに応じてロッド115が上下動して、ホルダ154も上下動する。その結果、高さが固定された搬送ローラ101に対するピンチローラ102の高さが変化して、ニップ状態とリリース状態を切り替えることができる。カム120は、ピンチローラ102a、102dに対応したカムと、ピンチローラ102b、102cに対応したカムとでは位相が異なる。そのため、カムシャフト121を回転させると、ピンチローラに応じて異なる上下動となる。
【0055】
制御部13の指令に基づいて、カム機構を駆動し、弾性部材である主バネおよび補助バネを介してホルダを押し込む距離を変えることでニップ圧力が決定される。
各々のローラ102a〜102dが、搬送ローラ101に対して押圧する押圧力(ニップ圧力)はカム機構150によりロッド115を押し込む量(カムレバー117のポジション)により変えることができる。図8は設定の一例を示すもので、4つのローラ102a〜102dには、順に1000gf、1500gf、1500gf、1000gfの力が作用する。第1バネ部であるローラ102aおよびローラ102dにはそれぞれ、主バネの付勢力aと、2つの補助バネの付勢力2bの合計の力a+2cが作用する。例えばa=600gf、c=200gf、合計圧力1000gfである。第2バネ部であるローラ102bおよびローラ102cにはそれぞれ、主バネの付勢力bと、2つの補助バネの付勢力2dの合計の力b+2dが作用する。例えば。例えばb=500gf、d=500gf、合計圧量k1500gfである。ピンチローラ102全体としては、これら4つの力の合計が搬送ローラ101に対してニップ圧力として作用し、この例では総圧5000gfとなる。
【0056】
本実施形態の装置では、使用するシートの条件(サイズやシート剛性など)に適したニップ圧力に切り替える。図9はニップ圧力の設定値についての5つの例(例1〜例5)を示す。制御部13がカムシャフトを回転させるモータを回転させ所定位置に停止させるよう制御することで、5つの例のうち所望の圧力を得ることができる。
【0057】
例1は、シート幅方向のサイズが大で、且つ相対的に大きなシート剛性を有するシートに適した設定である。ここでいうサイズが大とは、図4(a)のように、外側の2つのローラ102a、102dがすべてシートの両端に接触するようなサイズである。4つのローラ102a〜102dに、順に1500gf、1500gf、1500gf、1500gfと一律の等しい力が作用するように設定される。ニップ圧力の総圧は6000gfである。ニップ圧力を高くすると、シート表面とローラ表面との間でのスリップが少なくなるので、より高精度なシート搬送が可能である。使用するシートが十分に大きなシート剛性を持っている場合にはニップ圧力を高めてもシートの変形が少ないので、例1では4つのピンチローラ102の4つのローラに最大の押圧力を与えている。4つのローラはいずれも、ローラの回転軸方向においてローラの全部が均等にシートに接触するので、4つの押圧力は等しく設定している。
【0058】
例2は、シート幅方向のサイズが中で、且つ相対的に大きなシート剛性を有するシートに適した設定である。ここでいうサイズが中とは、図4(b)のように、外側の2つのローラ102a、102dの一部のみがシートの両端に接触するようなサイズである。4つのローラ102a〜102dに、順に1000gf、1500gf、1500gf、1000gfと非一律の力が作用するように設定される。ニップ圧力の総圧は5000gfであり、図8に示した例と同じである。上述したように、外側の2つのローラ102a、102dは、その一部のみがシートに接触するためローラに傾きが生じ、その結果、シートのしわや波打ちが発生あるいはシート搬送に斜行が発生する可能性がある。しわや波打ちの発生はニップ圧力が大きいほどに顕著となる。図4(b)に示したように、力fはローラとシートの間のニップ圧力の分力であるので、ニップ圧力が大きくなるほど力fも大きくなるためである。そこで、外側の2つのローラ102a、102dについては、例1よりも押圧力を弱めている。なお、2つのローラ102b、102cについてはスリップをなるべく小さくするために、シート剛性に合わせて例1と同じ最大の押圧力としている。このように、例1と例2では、第1ローラ部と第2ローラ部それぞれの押圧力の差もしくは比を、調整機構110により変化させるものである。つまり、第1ローラ部の全部でシートをニップする第1状態と、第1ローラ部の一部でシートをニップする第2状態とでは、第2状態の方が第1状態のときよりも第1ローラ部の押圧力を小さくするよう設定される。
【0059】
例2は、シート幅方向のサイズが大で、且つ相対的に小さなシート剛性を有するシートに適した設定でもある。ここでは、シートの両端が外側のローラ102a、102dよりもさらにはみ出すようなシートサイズであった場合を想定する。シート剛性が例1よりも小さい場合には、ローラ102a、102dのニップ圧力が最大であると、はみ出した部分が上方に反り上がってしまう場合がある。反り上がりが大きいとプリントヘッドに接触してしまう可能性がある。例2のように、外側のローラ102a、102dのニップ圧力を、内側のローラよりもりも小さく設定することは、ローラで押さえ切れないシート端部の反り上がりの抑制に効果的である。
【0060】
例3は、シート幅方向のサイズが中で、且つ相対的に小さなシート剛性を有するシートに適した設定である。4つのローラ102a〜102dには、順に200gf、1000gf、1000gf、200gfと非一律の力が作用するように設定される。ニップ圧力の総圧は2400gfである。同じ中サイズのシートであってもシート剛性が例2の場合よりも小さいので、ニップ圧によるシートの変形を抑止するために、全体のニップ圧力を例2よりも弱めている。ピンチローラ102の内側のローラと外側のローラとで押圧力を変えることで、シートのしわや波打ちや斜行の発生も抑えている。
【0061】
例4は、シート幅方向のサイズが小であるシートに適した設定である。ここでいうサイズが小とは、図4(a)のように、外側の2つのローラ102a、102dが全くシートに接触しないようなサイズである。4つのローラ102a〜102dには、順にリリース、1500gf、1500gf、リリースと力が作用するように設定される。ニップ圧力の総圧は3000gfである。シートは内側の2つのローラ102b、102cで搬送されるので、これらのローラの押圧力をシート剛性に適した値とすればよい。この例ではシート剛性が大のシートを想定して最大の押圧量を与えている。外側の2つのローラ102a、102dはシート搬送には影響を与えないので押圧力は任意でよく、この例ではリリースして押圧力をゼロとしている。
【0062】
例5は、プリント後のシートの巻き戻し、またシート搬送ジャムが発生してメンテナンスを行う際に適した設定である。4つのローラ102a〜102dはいずれも搬送ローラ101から浮かせてリリース状態にするように設定される。4つのローラ102a〜102dには作用する力はすべて0gf、つまりニップ圧力の総圧0gfである。
【0063】
図10は調整機構の別の形態の構造を示す断面図である。上述したようなカム機構でなくリードスクリューを用いて調整機構を構成している。モータ125の回転駆動力は、ギア列130を介して基準固定部123に支持されたリードスクリュー131に伝達される。ピンチローラ102を構成する4つに分割されたローラ102a〜102dは、それぞれホルダ111に回転可能に支持されている。バネストッパ132とホルダ111の間にはバネ133が圧縮された状態で介在している。この構成において、モータ125を回転させると、リードスクリュー131が回転し、その回転はバネストッパ132の上下移動に変換される。バネストッパ132が上下移動することで、バネ133を介してローラ102a〜102dのニップ圧を個別に可変にすることができる。
【0064】
以上は、シートのサイズやシート剛性など、使用するシートの状態に応じてニップ圧力を個別に調整するものであるが、これに限らず別の条件のシートの状態に応じてニップ圧力を調整するようにしてもよい。例えば、上述したように、シートの両面に連続してプリントを行う場合に、第1面へのプリントの際と第2面へのプリントの際で、搬送ローラに対する第1ローラ部と第2ローラ部の少なくとも一方の押圧力を異なるようにしてもよい。第1面へのプリントと第2面へのプリントとではシートの状態が異なる場合がある。例えば、第1面にプリントされたシートはインクを吸収して膨潤するので、2面プリントの際には第1面プリントの際よりもシート剛性が小さくなる可能性がある。この場合、第2面プリントでは第1面プリントの際によりも、第1ローラ部および第2ローラ部が付与するニップ圧力を小さくする設定することが好ましい。また、第1面に画像プリントされたシートはインクを吸収して表面の摩擦係数が変化する可能性がある。この場合、スリップを考慮して第1面プリントと第2面プリントとではニップ圧力を異ならせることが好ましい。これにより、両面プリントにおいて第1面と第2面とでシートの搬送状態を同じにすることができ、シートの表裏にプリントされた画像の位置ズレを軽減することができる。
【0065】
以上説明したように、ピンチローラ102は隣り合う第1ローラ部と第2ローラ部を含む複数のローラに分割されている。そして、搬送ローラ101に対する第1ローラ部と前2ローラ部それぞれの押圧力の差もしくは比を可変にする調整機構110を設けている。そして、使用シートの幅方向のサイズに応じて第1ローラ部の押圧力が変更される。加えて、使用するシートのシート剛性が小さいほど第1ローラ部の押圧力を小さくするよう設定される。これにより、使用するシートにかかわらず精度の高いシート搬送を行うことができるシート搬送装置やプリント装置が実現する。
【0066】
図3に示すように、プリント部は、第2ローラ対は第1ローラ対よりもローラの周速度(シートを搬送しようとする速度)が大きく、且つトータルのニップ圧力が小さい関係を有している。このような系では、第1ローラ対は第2ローラ対に比べてより大きくシート搬送(搬送速度や搬送精度)を支配する。そこで、第2ローラ対よりもより大きな効果が期待できる、第1ローラ対のニップローラを分割して使用するシートに応じてニップ圧力を個別に調整することで、精度の高いシート搬送ひいては優れたプリント品質を得ることができるプリント装置が実現する。
【符号の説明】
【0067】
4 プリント部
14 プリントヘッド
101 搬送ローラ
102 ピンチローラ
102a〜102d 分割されたローラ
110 調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ローラとピンチローラの間にシートをニップして搬送するシート搬送装置であって、
前記ピンチローラは、回転軸方向に関して隣り合う第1ローラ部と第2ローラ部を含み、
前記搬送ローラに対する前記第1ローラ部の押圧力と前記搬送ローラに対する前記第2ローラ部の押圧力との差を可変にする機構を有していることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
使用されるシートに応じて、前記機構により前記第1ローラ部の前記押圧力と前記第2ローラ部の前記押圧力との差が変更されることを特徴とする、請求項1記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記第1ローラ部は前記第2ローラ部よりも、シートの幅方向においてシートの中央から離れた距離に設けられており、
使用されるシートに応じて、前記機構により前記第1ローラ部の前記押圧力が変更されることを特徴とする、請求項2記載のシート搬送装置。
【請求項4】
前記幅方向において、前記第1ローラ部の全部でシートをニップする第1状態と、前記第1ローラ部の一部でシートをニップする第2状態とでは、前記第2状態の方が前記第1状態のときよりも前記第1ローラ部の前記押圧力を小さくすることを特徴とする、請求項3記載のシート搬送装置。
【請求項5】
使用されるシートのシート剛性が小さいほど、前記第1ローラ部および前記第2ローラ部の前記押圧力を小さくすることを特徴とする、請求項2から4のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項6】
前記第1ローラ部は第1ホルダに保持され、第2ローラ部は第2ホルダに保持され、
前記機構は、前記第1ホルダと前記第2ホルダに対して、弾性部材を介して前記搬送ローラに近づく方向に可変の押圧力を付与する機構を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項7】
前記機構は、カム機構によって回動するレバーと、前記レバーと前記第1ホルダまたは前記第2ホルダとの間を接続するロッドと、前記第1ホルダまたは前記第2ホルダに対して付勢力を付与する前記弾性部材とを有し、前記カム機構の駆動により前記押圧力が可変とされることを特徴とする。請求項6記載のシート搬送装置。
【請求項8】
プリントヘッドと、
プリントの際のシートの搬送方向において前記プリントヘッドの上流に設けられ、シートをニップして搬送する第1ローラ対を含む第1搬送部と、
前記搬送方向において前記プリントヘッドの下流に設けられ、シートをニップして搬送する第2ローラ対を含む第2搬送部と、
を備え、前記第1ローラ対は前記第2ローラ対に比べてより大きくシート搬送を支配するものであり、前記第1搬送部は請求項1から7のいずれ1項に記載のシート搬送装置を有していることを特徴とするプリント装置。
【請求項9】
前記第2ローラ対は前記第1ローラ対よりもローラの周速度が大きく、且つトータルのニップ圧力が小さい関係を有していることを特徴とする、請求項8記載のプリント装置。
【請求項10】
連続したシートの第1面に複数の画像を前記プリントヘッドにより順次プリントし、次いで、シートの前記第1面の背面側の第2面に複数の画像を前記プリントヘッドにより順次プリントするものであり、
前記第1面へのプリントの際と前記第2面へのプリントの際で、前記搬送ローラに対する前記第1ローラ部と前記第2ローラ部の少なくとも一方の押圧力が異なることを特徴とする、請求項8または9に記載のプリント装置。
【請求項11】
前記プリントヘッドはインクジェット方式のライン型プリントヘッドであることを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載のプリント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−166891(P2012−166891A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28715(P2011−28715)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】