説明

シート材搬送装置及びこれを備えた画像形成装置

【課題】シート材の表面にガイド部材を当接させることなく、支持ローラに巻き付いた無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更することを課題とする。
【解決手段】用紙搬送ベルト3Aの外周面上の用紙をベルト内周面側から吸引して吸着搬送するための貫通孔3Bが用紙搬送ベルトに分布しており、その貫通孔のベルト無端移動方向長さL1は、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL2よりも長く形成されている。吸引ダクト5,6は、そのベルト湾曲部分のベルト無端移動方向上流側及び下流側の各隣接箇所で貫通孔を介した吸引を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルトに分布する複数の貫通孔を介して吸引手段により無端ベルト外周面上のシート材を吸引して無端ベルト外周面上にシート材を吸着させて搬送するシート材搬送装置及びこれを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のシート材搬送装置としては、例えば、画像が形成される画像記録シートを搬送する画像形成装置の搬送手段に用いられるものが知られている(特許文献1〜3)。一般に、無端ベルトの外周面にシート材を吸引により吸着させて搬送する場合、安定した搬送を実現する上では、無端ベルトの無端移動にシート材を追従させるために吸着無端ベルトの外周面とシート材との密着性が重要となる。2つの支持ローラ間に張架された無端ベルト平坦部にシート材を吸着させて搬送する場合には、吸引により十分な密着性を得ることは容易である。しかしながら、無端ベルト平坦部に吸着搬送されているシート材の搬送方向を、無端ベルト平坦部に平行な方向から別の方向へ変更する場合、その搬送方向変更箇所においてシート材を湾曲させる必要がある。シート材を湾曲させると、シート材は自らのコシによって湾曲状態を真っ直ぐな状態に戻そうとする復元力を発揮する。この復元力は、シート材が吸引によって吸着している無端ベルトの外周面からシート材を離間させる離間力となる。そのため、このような搬送方向変更箇所がシート材搬送経路上に存在すると、その箇所又はその近傍でシート材が無端ベルトの外周面から浮いてしまい、その浮き上がりによる曲がりスキューやジャム等の搬送不良が生じる場合がある。
【0003】
特許文献1に記載のシート材搬送装置においては、そのシート材搬送経路中に、エアー吸引により無端ベルト平坦部に吸着して搬送されているシート材を、無端ベルト外周面に対向配置されたガイド板によって、無端ベルト外周面外方に向けて約90°搬送方向を変更する箇所が存在する。この搬送方向変更箇所を通過中のシート材は湾曲した状態になるため、そのシート材には、自らのコシによって、湾曲した状態から真っ直ぐの状態へ復元しようとする復元力が作用する。そのため、シート材の湾曲部分が徐々に真っ直ぐの状態へ戻ることに伴い、その湾曲部分よりもシート材後端側で無端ベルト平坦部に吸着しているシート材後端側部分に無端ベルト外周面から離れる方向への離間力が働く。その結果、シート材後端側部分が無端ベルト外周面から浮いてジャム等の搬送不良が生じる場合があるという不具合が生じ得る。特許文献1に記載のシート材搬送装置は、コシが強いシート材ほどこの不具合が起きやすいことに着目し、シート材の厚さが厚いほどシート材を無端ベルト上に吸着させるための吸引力を強める制御を行う。シート材が同じ材質であれば、一般に、シート材の厚さが厚いほどコシが強くなるので、特許文献1に記載のシート材搬送装置によれば、上記不具合の発生率を低下させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、装置レイアウトの関係などから、上記特許文献1に記載のシート材搬送装置のように無端ベルト平坦部に吸着して搬送されているシート材を無端ベルト外周面外方に向けて約90°搬送方向を変更するのではなく、無端ベルトの内周面側から支持する支持ローラに巻き付いた無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更したい場合がある。このような搬送方向の変更を行う場合、その湾曲部分においてシート材は自らのコシによって無端ベルト外周面から離れる方向への離間力を発揮する。しかも、その湾曲部分の無端ベルト内周面側にはベルト幅方向にわたって支持ローラが存在するため、その湾曲部分の無端ベルト外周面上のシート材をベルト内周面側から吸引することができない。よって、シート材が無端ベルト湾曲部分の外周面から浮いてしまい、その無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向が変更できず、ジャム等の搬送不良が生じてしまう。そのため、無端ベルトの内周面側から無端ベルト外周面に分布する複数の貫通孔を介して吸引手段により無端ベルト外周面上のシート材を吸引して無端ベルト外周面上にシート材を吸着させて搬送するシート材搬送装置においては、シート材搬送経路中に、支持ローラに巻き付いた無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更するような箇所を設けることができず、装置レイアウトが大きく制限されるという問題があった。そして、この問題は、上記特許文献1に記載のシート材搬送装置のように吸引力を強める制御を行う方法では解決することができない。
【0005】
なお、支持ローラに吸引用の貫通孔を設け、その貫通孔を介してその湾曲部分の無端ベルト外周面上のシート材をベルト内周面側から吸引することは不可能ではない。しかしながら、支持ローラには、無端ベルトを張架支持するための十分な強度が必要とされる。そのため、強度低下の要因となる吸引用の貫通孔を支持ローラに設けることは、現実的ではない。また、そのような吸引用の貫通孔を有する支持ローラの製造することは製造コストの高騰を引き起こすことからも、吸引用の貫通孔を支持ローラに設けることは現実的ではない。
また、無端ベルトの湾曲部分において無端ベルトの外周面側からシート材に当接してシート材をその湾曲部分に沿ってガイドするガイド部材を設けることで、無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更することも考えられる。しかしながら、一般に、無端ベルトを用いてシート材を吸引搬送するシート材搬送装置は、無端ベルト外周面に接していない側のシート材面(シート材の表面)に何の部材も当接させずにシート材を搬送できる点に特徴がある。そのため、このようなシート材搬送装置の多くは、例えばトナーやインク等の画像形成剤が表面に付着した画像記録シートを搬送する場合などに利用される。したがって、実際の使用目的等を考慮すると、シート材の表面にガイド部材を当接させることなく、無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更する新たな方法が望まれる。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、シート材の表面にガイド部材を当接させることなく、支持ローラに巻き付いた無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更することができるシート材搬送装置及びこれを備えた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、複数の支持ローラに内周面側から張架支持された無端ベルト上に分布する複数の貫通孔を介して該無端ベルトの内周面側に配置された吸引手段により該無端ベルトの外周面上のシート材を吸引して該無端ベルトの外周面上に該シート材を吸着させ、該無端ベルトを無端移動させることにより、可撓性のあるシート材をベルト無端移動方向へ搬送するシート材搬送装置において、シート材搬送経路上には、上記複数の支持ローラの少なくとも1つの支持ローラに巻き付いた無端ベルトの湾曲部分に沿って上記シート材の搬送方向が変更される搬送方向変更箇所が存在しており、上記複数の貫通孔のうちの少なくとも1つの貫通孔のベルト無端移動方向長さを、該少なくとも1つの支持ローラに巻き付いた無端ベルトの湾曲部分のベルト無端移動方向長さよりも長く形成し、上記吸引手段は、上記無端ベルトの上記湾曲部分のベルト無端移動方向上流側及び下流側の各隣接箇所で上記複数の貫通孔を介した吸引を行うことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1のシート材搬送装置において、上記少なくとも1つの貫通孔はベルト無端移動方向に長い長尺な孔であることを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1又は2のシート材搬送装置において、上記複数の貫通孔が分布する無端ベルトの外周面の少なくとも一部は、ベルト無端移動方向に対して直交する方向で各貫通孔の一部が互いに隣接するように貫通孔が千鳥状に分布していることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート材搬送装置において、上記搬送方向変更箇所は、上記シート材の搬送方向が水平方向から斜め下方向へ変更される箇所であることを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、搬送手段により画像記録シートを搬送するとともに、該画像記録シート上に画像を形成する画像形成装置において、上記搬送手段として、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート材搬送装置を用いることを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、搬送手段により画像記録シートを搬送するとともに、画像形成手段により該画像記録シート上に画像を形成する画像形成装置において、上記搬送手段として、請求項4のシート材搬送装置を用い、上記画像形成手段は、上記無端ベルトの外周面が略水平面に平行となる箇所に吸着した画像記録シートに対して画像を形成するものであり、上記搬送方向変更箇所は、該画像形成手段により画像記録シートに画像形成が行われる箇所よりもベルト無端移動方向下流側に位置することを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、支持ローラに巻き付いた無端ベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さよりも長いベルト無端移動方向長さを有する貫通孔が設けられている。この貫通孔が無端ベルト湾曲部分を通過する間、その貫通孔のベルト無端移動方向上流側及び下流側の少なくとも一方の部分が、支持ローラに塞がれることなく、常に無端ベルトの内周面側に開口した状態になる。そして、本発明では、無端ベルト湾曲部分のベルト無端移動方向上流側及び下流側の各隣接箇所でベルト内周面側から吸引を行う。そのため、当該貫通孔が無端ベルト湾曲部分を通過する間は、常に、その貫通孔全体を介してシート材を吸引することができる。したがって、上記のようなベルト無端移動方向長さを有する貫通孔を無端ベルト上に適切に分布させることで、シート材の表面にガイド部材を当接させなくても、無端ベルト湾曲部分においてシート材が無端ベルト外周面から離間することを阻止できる。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によれば、シート材の表面にガイド部材を当接させることなく、支持ローラに巻き付いた無端ベルト湾曲部分に沿ってシート材の搬送方向を変更することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るインクジェットプリンタの主要部の概略構成を示す説明図である。
【図2】同プリンタの用紙搬送ベルトの外周面の一部を示す説明図である。
【図3】同用紙搬送ベルトの貫通孔の先頭部分が従動ローラに巻き付いたベルト湾曲部分に差し掛かったときの、第2水平面エアー吸引ダクトと第1斜面エアー吸引ダクトとによる吸引の様子を示す説明図である。
【図4】同用紙搬送ベルトの貫通孔の先頭部分が従動ローラに巻き付いたベルト湾曲部分を抜けたときの、第2水平面エアー吸引ダクトと第1斜面エアー吸引ダクトとによる吸引の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、画像形成装置であるインクジェットプリンタの用紙搬送装置に適用した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの主要部の概略構成を示す説明図である。
このインクジェットプリンタは、4色のライン型インクジェットヘッド21〜24を有する画像形成ヘッドユニット2と、第1給紙装置32又は第2給紙装置33から給紙されるシート材としての用紙を搬送するための搬送手段であるシート材搬送装置としての用紙搬送装置3とを備えている。画像形成ヘッドユニット2は、用紙搬送装置3によって水平方向に搬送される用紙の表面に対し、画像情報に応じた箇所へ各インクジェットヘッドから単色インクを吐出する。これにより、表紙の表面にフルカラーのインク画像が形成される。なお、単色又は2色若しくは3色のインクを用いた画像形成モードで画像を形成してもよい。画像形成ヘッドユニット2としては、インクジェットプリンタに用いられている公知のものを広く利用することができる。
【0012】
用紙搬送装置3は、最大用紙幅よりも幅広の無端ベルトである用紙搬送ベルト3Aを備えており、この用紙搬送ベルト3Aは支持ローラである駆動ローラ10及び3本の従動ローラ11,12,13に張架支持されている。本実施形態において、用紙搬送ベルト3Aは、その外周面側からテンションローラ14によって所定の張力が与えられている。駆動ローラ10が図示しない駆動装置によって回転駆動すると、これにより用紙搬送ベルト3Aが図中矢印方向に無端移動する。
【0013】
図2は、本実施形態における用紙搬送ベルト3Aの外周面の一部を示す説明図である。
用紙搬送ベルト3Aには、図2に示すように、その外周面に多数の貫通孔3Bが分布して形成されている。用紙搬送装置3は、用紙搬送ベルト3Aの貫通孔3Bを介して空気(エアー)を吸引することで用紙の裏面をベルト外周面上に吸着させる。これにより、用紙搬送ベルト3Aの無端移動に追従して用紙を搬送することができる。この吸引を実現する構成として、用紙搬送装置3は、用紙搬送ベルト3Aの内周面に沿って、画像形成ヘッドユニット2が対向するベルト平坦部で吸引を行うための第1水平面エアー吸引ダクト4と、そのベルト無端移動方向下流側に隣接する第2水平面エアー吸引ダクト5と、従動ローラ12を挟んで第2水平面エアー吸引ダクト5のベルト無端移動方向下流に位置する第1斜面エアー吸引ダクト6と、そのベルト無端移動方向下流側に隣接する第2斜面エアー吸引ダクト7と、従動ローラ13を挟んで第2斜面エアー吸引ダクト7のベルト無端移動方向下流に位置する第3斜面エアー吸引ダクト8と、そのベルト無端移動方向下流側に隣接する第4斜面エアー吸引ダクト9とを有している。これらの各吸引ダクト4〜9の内部には、それぞれ図示しない独立した吸引用ブロア装置によってエアー吸引力が発生するように構成されている。
【0014】
第1給紙装置32から給紙分離搬送された1枚の用紙は、第1縦搬送ローラ対41,42及び第2縦搬送ローラ対43,44によって搬送され、レジストローラ対15,16に先端が突き当たって一時停止し、スキューが補正される。そこから所定のタイミングでレジストローラ対15,16が回転駆動することで用紙が送り出される。レジストローラ対15,16から送り出された用紙は、2つの従動ローラ11,12に張架されている用紙搬送ベルト3Aのベルト平坦部の上に載せられ、第1水平面エアー吸引ダクト4の吸引力により、用紙搬送ベルト3Aの外周面に吸着する。これにより、用紙は、用紙搬送ベルト3Aの無端移動に追従してベルト平坦部のベルト無端移動方向(図中左方向)へ搬送される。
【0015】
画像形成ヘッドユニット2のライン型インクジェットヘッド21〜24は、レジストローラ対15,16から送り出された用紙の先端部がセンサ46で検知されるタイミングに同期して駆動し、各ヘッド先端のノズルから各色インクが順次吐出されることによって用紙の表面にフルカラー画像が形成される。このようにして、画像が形成された用紙は、そのままベルト平坦部のベルト無端移動方向に沿って水平方向へ搬送される。そして、そのまま機外へ排紙する場合には、その用紙搬送方向を変更することなく水平方向へ搬送し、機外へ排紙する。しかしながら、本実施形態におけるインクジェットプリンタ1では、画像が形成された用紙をそのまま機外へ排紙しない場合には、その用紙の搬送方向を、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分において、水平方向から斜め下方へ変更する必要がある。従来は、このようなベルト湾曲部分では従動ローラ12の存在により吸引を行うことができなかったため、そのベルト湾曲部分に用紙裏面を吸着させることができず、このような用紙搬送方向の変更を実現することは困難であった。しかしながら、本実施形態では、以下に説明するように、このようなベルト湾曲部分でも吸引を行ってそのベルト湾曲部分に用紙裏面を吸着させることができる。
【0016】
図3及び図4は、従動ローラ12のベルト無端移動方向上流側及び下流側の各隣接箇所に配置された第2水平面エアー吸引ダクト5と第1斜面エアー吸引ダクト6による吸引の様子を示す説明図である。
本実施形態において、用紙搬送ベルト3Aの貫通孔3Bは、図2に示したように、すべて、そのベルト無端移動方向長さL2が、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL1よりも長く形成されている。ここで、貫通孔3Bのベルト無端移動方向長さL2とは、その貫通孔3Bが従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分に位置するときの当該貫通孔3Bのベルト内周面側開口のベルト無端移動方向長さを意味する。また、ベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL1とは、用紙搬送ベルト3Aの内周面が従動ローラ12の外周面に接触している接触領域のベルト無端移動方向長さを意味する。本実施形態では、このような貫通孔3Bが、図2に示すように、用紙搬送ベルト3A上に千鳥状に多数分布している。
【0017】
図3に示すように、貫通孔3Bのベルト無端移動方向下流側部分(以下「先頭部分」という。)がベルト湾曲部分に差し掛かると、その内周面側開口が従動ローラ12の外周面によって塞がれる。この状態でも、貫通孔3Bのベルト無端移動方向上流側部分(以下「後尾部分」という。)については、その内周面側開口が第2水平面エアー吸引ダクト5と連通している。したがって、第2水平面エアー吸引ダクト5の吸引力により、その貫通孔3B全体に吸引力を及ぼすことができ、ベルト湾曲部分に差し掛かっている先頭部分も含めて、その貫通孔3B全体で用紙Pを吸引することができる。
【0018】
その後、用紙搬送ベルト3Aが無端移動して、貫通孔3Bがベルト無端移動方向下流側へと移動するにつれて、貫通孔3Bの内周面側開口が従動ローラ12の外周面によって徐々に塞がれていく。ここで、本実施形態において、貫通孔3Bのベルト無端移動方向長さL2は、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL1よりも長く形成されている。そのため、図4に示すように、貫通孔3Bの最後尾部分の内周面側開口が従動ローラ12の外周面に塞がれる前に、貫通孔3Bの先頭部分の内周面側開口が第1斜面エアー吸引ダクト6と連通することになる。よって、貫通孔3Bの最後尾部分の内周面側開口が従動ローラ12の外周面に塞がれる前に、第1斜面エアー吸引ダクト6の吸引力によって、その貫通孔3B全体に吸引力を及ぼすことができる。その結果、本実施形態においては、貫通孔3Bが従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分を通過する間は、その貫通孔3Bの全域に、常時、吸引力を及ぼすことができる。
【0019】
しかも、本実施形態においては、図2に示すように、すべての貫通孔3Bが上述したベルト無端移動方向長さL2を有するように構成し、これらの貫通孔3Bを千鳥状に分布させている。これにより、ベルト無端移動方向に対して直交する方向(ベルト幅方向)で各貫通孔3Bの一部が互いに隣接することになる。これにより、以下に説明する理由により、ベルト湾曲部分における安定した吸着性を得ることができる。
すなわち、貫通孔3Bがベルト湾曲部分から抜けた直後は、そのベルト無端移動方向上流側に隣接する次の貫通孔3Bとの間のベルト部分がベルト湾曲部分に位置することになる。このとき、当該次の貫通孔がベルト湾曲部分に差し掛かっていない場合には、その貫通孔ではそのベルト湾曲部分上の用紙を吸引することができないし、当該次の貫通孔の先頭部分がベルト湾曲部分に差し掛かっていたとしても、その貫通孔ではそのベルト湾曲部分上の用紙を十分に吸引することができない場合がある。このような場合でも、貫通孔3Bが千鳥状に分布した本実施形態であれば、当該貫通孔3Bに対してベルト幅方向から隣接する2つの貫通孔の吸引力により、当該貫通孔3Bの吸引不足を補うことができる。その結果、ベルト湾曲部分上の用紙のベルト幅方向全体に対して常に十分な吸引力を発揮することができる。
【0020】
このようにして、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分において搬送方向が水平方向から斜め下方へ変更された用紙は、次に、従動ローラ13に巻き付いたベルト湾曲部分でも、更に搬送方向が更に下方に向けて変更される。この従動ローラ13に巻き付いたベルト湾曲部分でも、上記従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分と同様、第2斜面エアー吸引ダクト7及び第3斜面エアー吸引ダクト8の吸引力によって、貫通孔3Bの全域に、常時、吸引力を及ぼすことができる。すなわち、本実施形態の貫通孔3Bのベルト無端移動方向長さL2は、従動ローラ13に巻き付いたベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さよりも長く形成されている。したがって、従動ローラ13に巻き付いたベルト湾曲部分においても、用紙の浮き上がりを生じさせずに、用紙の搬送方向を安定して変更することができる。
【0021】
本実施形態においては、用紙先端が従動ローラ13のベルト湾曲部分を過ぎて搬送されたかどうかを、センサ47によって検出するようにしている。ここまでは、画像形成ヘッドユニット2によって形成された画像が形成された用紙の画像面は、何らの部材とも接触しないまま搬送される。ここまで搬送されるまでの時間で、用紙画像面上のインクはほぼ乾燥して用紙に定着した状態になる。したがって、この先の用紙搬送においては、その用紙画像面に部材を当接させて搬送することが可能となる。ただし、この時点でもインクの定着が十分に進んでいない場合もあるため、用紙を挟持搬送する反転搬送ローラ対28,29の用紙画像面側に接触するローラ29は、その外表面に多数の砥粒が接着されたものを用い、用紙画像面に点接触するような構造になっている。
【0022】
用紙の後端部が反転搬送ローラ対28,29まで搬送されると、反転搬送ローラ対28,29は、駆動を一時停止した後、逆転駆動する。これにより、用紙はそれまで後端側であった端部が先端側となって搬送される。このとき、用紙を送り込む用紙搬送経路は2つ存在する。一方の経路は、図1中左上方向に向かう経路であり、もう一方の経路は図1中右横方向に向かう経路である。この経路の切り替えは、第2経路切り替え爪49の移動によって行う。
【0023】
右横方向に向かう経路は、両面印刷用の用紙搬送経路である。この両面印刷用経路に送り込まれた用紙は、第1両面搬送ローラ対35,36、第2両面搬送ローラ対37,38、第3両面搬送ローラ対39,40によって搬送される。ここでも、用紙画像面側に当たるローラ35,37,39には、その外表面に多数の砥粒が接着されたものを用い、用紙画像面に点接触をするような構造になっている。このことにより、画像面の乱れや汚れが発生しにくくなる。そして、このようにして両面印刷用経路を搬送された用紙は、第1縦搬送ローラ対41,42及び第2縦搬送ローラ対43,44によって、レジストローラ対15,16へと搬送される。そして、レジストローラ対15,16から送り出された用紙は、その画像面が裏面側となって用紙搬送ベルト3Aのベルト平坦部の上に載せられ、第1水平面エアー吸引ダクト4の吸引力により、用紙搬送ベルト3Aの外周面に吸着する。そして、上述したように、その用紙の表面(画像面とは反対側の面)に画像が形成される。
【0024】
こうして両面印刷が行われた用紙は、第1経路切り替え爪48が図中点線の位置に移動することで、そのままベルト平坦部のベルト無端移動方向に沿って水平方向へ搬送される。このときには、少なくとも第1斜面エアー吸引ダクト6はエアーを吸引しないように制御しておく。そして、両面印刷された用紙は、2つのローラ17,18に掛け渡された穴あき無端ベルト19とエアー吸引ダクト50とで、その用紙裏面を穴あき無端ベルト19の外周面に吸着させながら搬送される。したがって、用紙表面には何ら部材を接触させることなく、排紙手段34に向けて搬送することができる。その後、排出ローラ対51,52を通って機外の排紙手段34へ排紙されるが、両面印刷時には、排出ローラ対のうち上ローラ51は、図1の点線位置に移動し、用紙表面側に接触しない状態としている。
【0025】
片面印刷の場合でも、排紙手段34にページ順印刷積載または裏面積載をしたい場合には、両面印刷の場合と同様、片面に画像が形成された用紙の搬送方向を、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分において、水平方向から斜め下方へ変更する必要がある。この場合も、第2水平面エアー吸引ダクト5と第1斜面エアー吸引ダクト6による吸引によって、従動ローラ12に巻き付いたベルト湾曲部分に用紙を密着させることができるので、その用紙搬送方向の変更ができる。そして、用紙の後端部が反転搬送ローラ対28,29まで搬送されたところで、反転搬送ローラ対28,29の駆動を一時停止させた後、逆転駆動させる。このときは、両面印刷の場合と異なり、第2経路切り替え爪49が図1中実線のように移動して、更に、第3経路切り替え爪53が図1中点線のように移動して、用紙を左上方向の経路へ案内する。このようにして案内された用紙は、反転縦搬送ローラ対30,31によって更に上方へ搬送される。この反転縦搬送ローラ対30,31の用紙画像面に接触するローラ31も、その外表面に多数の砥粒が接着されて用紙画像面に点接触をするような構造になっている。その後、用紙は、排出ローラ対51,52で挟まれて排紙手段34に向けて排出される。
【0026】
以上、本実施形態に係るインクジェットは、搬送手段である用紙搬送装置3によりシート材としての画像記録シートである用紙を搬送するとともに、画像形成手段としての画像形成ヘッドユニット2により用紙上に画像を形成する画像形成装置である。この用紙搬送装置3は、複数の支持ローラ10〜13に内周面側から張架支持された無端ベルトである用紙搬送ベルト3A上に分布する複数の貫通孔3Bを介して用紙搬送ベルト3Aの内周面側に配置された吸引手段である吸引ダクト4〜9により用紙搬送ベルト3Aの外周面上の用紙を吸引して用紙搬送ベルト3Aの外周面上に用紙を吸着させ、用紙搬送ベルト3Aを無端移動させることにより用紙をベルト無端移動方向へ搬送するシート材搬送装置である。この用紙搬送装置3においては、用紙搬送経路上に、支持ローラ10〜13の少なくとも1つの支持ローラである従動ローラ12,13に巻き付いた用紙搬送ベルト3Aの湾曲部分に沿って用紙の搬送方向が変更される搬送方向変更箇所が存在している。そして、貫通孔3Bのベルト無端移動方向長さL1は、従動ローラ12,13に巻き付いた用紙搬送ベルト3Aのベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL2よりも長く形成されており、吸引手段である第2水平面エアー吸引ダクト5及び第1斜面エアー吸引ダクト6と第2斜面エアー吸引ダクト7及び第3斜面エアー吸引ダクト8とは、そのベルト湾曲部分のベルト無端移動方向上流側及び下流側の各隣接箇所で貫通孔3Bを介した吸引を行う。これにより、貫通孔3Bがベルト湾曲部分を通過する間は、常に、その貫通孔全体を介して用紙を吸引することができる。したがって、用紙表面に何らの部材を当接させなくても、そのベルト湾曲部分において用紙がベルト外周面から離間することを阻止でき、そのベルト湾曲部分に沿って用紙搬送方向を変更することができる。
また、本実施形態においては、貫通孔3Bがベルト無端移動方向に長い長尺な孔である。これにより、貫通孔3Bをベルト幅方向長さを大きくしないまま、貫通孔3Bのベルト無端移動方向長さL1をベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL2よりも長くできる。その結果、ベルト幅方向により多くの貫通孔を配置することが可能となり、より安定した搬送を実現できる。
また、本実施形態において、用紙搬送ベルト3Aの外周面には、ベルト幅方向で各貫通孔3Bの一部が互いに隣接するように貫通孔3Bが千鳥状に分布している。これにより、各貫通孔3Bがベルト湾曲部分で用紙を吸引できない又は吸引が不十分となる時期には、その貫通孔にベルト幅方向から隣接する貫通孔の吸引力で用紙を吸引できる。その結果、ベルト湾曲部分における安定した吸着性を得ることができ、より安定した搬送を実現できる。
また、本実施形態において、画像形成ヘッドユニット2は、用紙搬送ベルト3Aの外周面が略水平面に平行となる箇所であるベルト平坦部に吸着した用紙に対して画像を形成し、その画像形成ヘッドユニット2による画像形成箇所よりもベルト無端移動方向下流側に位置するベルト湾曲部分に沿って、用紙搬送方向を水平方向から斜め下方向へ変更することができる。この画像形成箇所のベルト無端移動方向下流側では、その用紙表面に画像が形成されているため、その用紙表面側に何らかの部材が接触すると、画像を乱したり汚したりしてしまう場合がある。しかしながら、本実施形態においては、用紙表面側に何らかの部材を接触させることなく、用紙の搬送方向を変更できるので、装置レイアウトの自由度が向上する。
【0027】
なお、本実施形態では、すべての貫通孔3Bのベルト無端移動方向長さL1がベルト湾曲部分のベルト無端移動方向長さL2よりも長く形成されているが、必ずしもすべての貫通孔3Bをこのように形成する必要はなく、そのベルト湾曲部分に沿って用紙搬送方向を変更できる吸着力が得られるようであれば、一部の貫通孔3Bだけ上記のように形成してもよい。
また、本実施形態では、貫通孔3Bが千鳥状に均一分布しているが、ベルト湾曲部分に沿って用紙搬送方向を変更できる吸着力が得られるようであれば、不均一な分布を含め、その分布方法はこれに限られない。
また、本実施形態では、インクジェットプリンタを例に挙げて説明したが、本発明は、 電子写真方式などの他の画像形成装置の用紙搬送装置としても適用可能であるし、画像形成装置以外の装置において可撓性のあるシート材を搬送するシート材搬送装置にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 インクジェットプリンタ
2 画像形成ヘッドユニット
3 用紙搬送装置
3A 用紙搬送ベルト
3B 貫通孔
4 第1水平面エアー吸引ダクト
5 第2水平面エアー吸引ダクト
6 第1斜面エアー吸引ダクト
7 第2斜面エアー吸引ダクト
8 第3斜面エアー吸引ダクト
9 第4斜面エアー吸引ダクト
10 駆動ローラ
11,12,13 従動ローラ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開平09−301592号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の支持ローラに内周面側から張架支持された無端ベルト上に分布する複数の貫通孔を介して該無端ベルトの内周面側に配置された吸引手段により該無端ベルトの外周面上のシート材を吸引して該無端ベルトの外周面上に該シート材を吸着させ、該無端ベルトを無端移動させることにより、可撓性のあるシート材をベルト無端移動方向へ搬送するシート材搬送装置において、
シート材搬送経路上には、上記複数の支持ローラの少なくとも1つの支持ローラに巻き付いた無端ベルトの湾曲部分に沿って上記シート材の搬送方向が変更される搬送方向変更箇所が存在しており、
上記複数の貫通孔のうちの少なくとも1つの貫通孔のベルト無端移動方向長さを、該少なくとも1つの支持ローラに巻き付いた無端ベルトの湾曲部分のベルト無端移動方向長さよりも長く形成し、
上記吸引手段は、上記無端ベルトの上記湾曲部分のベルト無端移動方向上流側及び下流側の各隣接箇所で上記複数の貫通孔を介した吸引を行うことを特徴とするシート材搬送装置。
【請求項2】
請求項1のシート材搬送装置において、
上記少なくとも1つの貫通孔はベルト無端移動方向に長い長尺な孔であることを特徴とするシート材搬送装置。
【請求項3】
請求項1又は2のシート材搬送装置において、
上記複数の貫通孔が分布する無端ベルトの外周面の少なくとも一部は、ベルト無端移動方向に対して直交する方向で各貫通孔の一部が互いに隣接するように貫通孔が千鳥状に分布していることを特徴とするシート材搬送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート材搬送装置において、
上記搬送方向変更箇所は、上記シート材の搬送方向が水平方向から斜め下方向へ変更される箇所であることを特徴とするシート材搬送装置。
【請求項5】
搬送手段により画像記録シートを搬送するとともに、該画像記録シート上に画像を形成する画像形成装置において、
上記搬送手段として、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート材搬送装置を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
搬送手段により画像記録シートを搬送するとともに、画像形成手段により該画像記録シート上に画像を形成する画像形成装置において、
上記搬送手段として、請求項4のシート材搬送装置を用い、
上記画像形成手段は、上記無端ベルトの外周面が略水平面に平行となる箇所に吸着した画像記録シートに対して画像を形成するものであり、
上記搬送方向変更箇所は、該画像形成手段により画像記録シートに画像形成が行われる箇所よりもベルト無端移動方向下流側に位置することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190034(P2011−190034A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57250(P2010−57250)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】