説明

シート用表皮の耐久試験装置

【課題】シート用表皮の耐久性を簡単な装置によって迅速かつ正確に測定することができ、しかも回転運動やねじり運動等の実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うことができるシート用表皮の耐久試験装置を提供すること。
【解決手段】台座1上にセットしたシート用表皮の表面側を押圧しながら移動する摩擦子2と、この摩擦子2を移動させる移動機構を有するシート用表皮の耐久試験装置において、前記シート用表皮はシートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬したパッドの全周を包み込むように固定されたものであり、このシート用表皮に対し、前記摩擦子2を円弧の軌跡で当接させるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート用表皮の耐久性を簡単な装置によって迅速かつ正確に測定することができるシート用表皮の耐久試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車などに用いられているシートでは、乗り降りの際に隆起した形状となっているシートクッションのサイド部が乗客の臀部に擦れるため、長期間使用していると表皮に皺や毛倒れが発生する場合がある。このため、シートメーカーには擦れによる皺や毛倒れの発生のない耐久性に優れた表皮の開発が要望されている。
【0003】
このようなシート用表皮の耐久試験装置として、従来から特許文献1に示されるように、シートの試作品を準備したうえ、これに乗客と同等の荷重および動きをする摩擦子をシートクッションのサイド部に作用させることにより表皮の耐久性を測定するものが広く普及している。この場合は実際のシートモードに酷似した状態で測定ができるという利点を有するものの、試作品の製作に長時間を要し、表皮が不合格であると再度試作品を製作する必要があり、評価期間の長期化を招くという問題点があった。
【0004】
一方、事前にシート用表皮のみの耐久試験を行ない、この中から合格品だけを用いて試作品を製作し上記の耐久試験を行なうことも提案されている。しかしながら、この場合は特許文献2に示されるように、真っ直ぐにセットしたシート用表皮に対して摩擦子を前後に摺動させて測定するものであるため、このシート用表皮を用いた試作品を製作して上記の耐久試験装置にかけると不合格になる場合があり、測定結果の信頼性に劣るという問題点があった。これは、シート用表皮のみの耐久試験の場合は、真っ直ぐなシート用表皮に対して測定するのに対して、実際のシートモードに酷似した試作品では凹凸のある形状に対して測定するため、シート用表皮の擦れる度合いが異なることによるものと推測される。
【0005】
そこで、本件出願人はニーズが多様化する車両用シートに対して迅速に対応が可能で、かつ試験期間の短縮とコストの低減を図ることができるシート用表皮の耐久試験装置として、台座上にセットしたシート用表皮の表面側を押圧しながら移動する摩擦子と、この摩擦子を移動させる移動機構を有するシート用表皮の耐久試験装置において、前記シート用表皮はシートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬した形状であり、このシート用表皮と台座との間には前記シート用表皮に対応する部分のパッド材を介在させた状態でセットされるものであり、前記台座にはシート用表皮の引張力を可変とする固定部材を設け、シート用表皮の両端部を前記固定部材に固定する構造としたシート用表皮の耐久試験装置開発し、先に特願2005−320605号として出願した。
【0006】
しかしながら、実際に乗員が乗り降りする場合は斜め運動であったり、回転運動であったり、ねじり運動であったりと極めて複雑であるのに対し、先の出願のものでは摩擦子が左右に往復運動する構造であり、実際の乗降モードに十分に対応することは困難であった。
【特許文献1】特開2002−131194号公報
【特許文献2】特開平4−353742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決して、シート用表皮の耐久性を小型かつ簡単な装置により短時間で測定することができ、しかも実際のシートモードに酷似した状態で正確に測定することができて、多様化するニーズに対して迅速かつ低コストで対応することができるシート用表皮の耐久試験装置を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明のシート用表皮の耐久試験装置は、台座上にセットしたシート用表皮の表面側を押圧しながら移動する摩擦子と、この摩擦子を移動させる移動機構を有するシート用表皮の耐久試験装置において、前記シート用表皮はシートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬したパッドの全周を包み込むように固定されたものであり、このシート用表皮に対し、前記摩擦子を円弧の軌跡で当接させるものとしたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、摩擦子を移動させる移動機構は、回転軸と、この回転軸から水平方向に延びるアームと、このアームの先端部に装着された摩擦子からなり、回転軸を中心に摩擦子が水平面内で回転運動することを特徴とするとするものである。
請求項3に係る発明は、アームは回転軸を中心に放射状に複数本設けられており、各アームの先端部に設けた摩擦子に対してシート用表皮が水平面内で所定角度ずつずらせた状態で装着してあることを特徴とするものである。
請求項4に係る発明は、アームは回転軸の軸方向に複数段設けられており、各段の摩擦子がアームに対して垂直面内で所定角度ずつずらせた状態で装着してあることを特徴とするものである。
請求項5に係る発明は、パッドは、摩擦子の回転軌跡上において水平面内および垂直面内のいずれの方向にも角度を自在に設定して設置できるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る本発明のシート用表皮の耐久試験装置においては、シート用表皮はシートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬したパッドの全周を包み込むように固定されたものであり、このシート用表皮に対し、前記摩擦子を円弧の軌跡で当接させるものとしたので、従来のようにシート全体の試作品を製作することなく簡単なテストサンプルの製作のみでシート用表皮の耐久性を簡単かつ短時間に測定することができ、しかも回転運動やねじり運動等の実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うことができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、摩擦子を移動させる移動機構は、回転軸と、この回転軸から水平方向に延びるアームと、このアームの先端部に装着された摩擦子からなり、回転軸を中心に摩擦子が水平面内で回転運動するものとしたので、表皮に対し簡単な構造で摩擦子を円弧の軌跡で当接させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明では、アームは回転軸を中心に放射状に複数本設けられており、各アームの先端部に設けた摩擦子に対してシート用表皮が水平面内で所定角度ずつずらせた状態で装着してあるものとしたので、表皮に対し摩擦子の当たり方を水平面内で種々に、しかも簡単に変化させることができ、実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うことができる。
【0013】
請求項4に係る発明では、アームは回転軸の軸方向に複数段設けられており、各段の摩擦子がアームに対して垂直面内で所定角度ずつずらせた状態で装着してあるものとしたので、表皮に対し摩擦子の当たり方を垂直面内で種々に変化させることができ、実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うことができる。
【0014】
請求項5に係る発明では、パッドは、摩擦子の回転軌跡上において水平面内および垂直面内のいずれの方向にも角度を自在に設定して設置できるものとしたので、一度にあらゆる方向の当たり方を設定することができ、より実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図面は、本発明を自動車用シートにおける表皮の耐久性を試験するのに適用した場合を示すものであって、図1は本発明の耐久試験装置を示す正面図、図2はその平面図、図3は摩擦子と表皮の当接状態を示す斜視図である。
【0016】
図において、1は台座、2はこの台座上にセットしたシート用表皮の表面側を押圧しながら移動する摩擦子であり、この摩擦子2をシート用表皮の表面側を押圧しながら移動させることで表皮の耐久性を測定するが、本発明では摩擦子2を円弧の軌跡で当接させるものとした点に特徴を有する。即ち、摩擦子2をシート用表皮の表面を左右に往復動させるのみであった従来装置に比べて、円弧の軌跡で当接させることで、より実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うのである。
【0017】
前記摩擦子2は、図3に示すように、摩擦子本体2aを綿帆布とともにクランプ2bに固定した構造であり、摩擦子本体2aの材質、ストローク量、押圧力、綿帆布の種類等を任意に設定することで、より現実の状態に近い摩耗テストを再現し正確な耐久性の測定を可能にしている。
【0018】
また、20はテスト用サンプルであり、本発明ではシートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬したパッドと、このパッドの全周を包み込むシート用表皮からなり、該シート用表皮をパッドの全周にわたってバンド状の固定枠4で固定したテスト用サンプル20を準備し、これを台座1上にセットしたものとなっている。
即ち、本発明ではシート全体の試作品を準備するのに代えて、試作品シートと同一の材質および同一の断面形状で構成した部分的なテスト用サンプル20を用いることにより、表皮の耐久性を簡単に、しかも実際のシートモードに酷似した状態で正確に測定することができるようにしたものである。
【0019】
また、図4に示すように、シートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬した同様のパッド21と、このパッド21の全周を包み込むシート用表皮22を台座1上にセットして、表皮22の前後端部22a、22bを台座1の前後に設けた固定部材1a、1bにより強く引張ったり、表皮を余らせぎみに弱く引張ったりと任意の力で引張った状態に固定することもできる。
なお、パッド21の内部にシートフレームを模擬した硬質材からなるフレーム部材23を装着しておくこともでき、この場合はよりシートモードに酷似した状態で表皮の耐久性を測定することが可能となる。
【0020】
本発明における摩擦子2を移動させる移動機構3は、図1〜図2に示すように、回転軸5と、この回転軸5から水平方向に延びるアーム6と、このアーム6の先端部に装着された摩擦子2からなり、回転軸5を中心に摩擦子2が水平面内で回転運動するよう構成されている。このように、回転軸5を中心にして摩擦子2を水平面内で回転運動させることにより、テスト用サンプル20に対し円弧の軌跡で当接させることができ、より実際の乗降モードに酷似した状態で表皮の耐久試験を行うのである。
【0021】
なお、図示のものでは、アーム6は回転軸5を中心に放射状に4本設けられており、更に先端部の摩擦子2がアーム6に対して水平面内で所定角度(例えば、22.5度)ずつずらせた状態で装着してあり、アーム6が1回転すれば摩擦子2が0度から90度まで徐々にひねった状態で、シート用表皮と円弧の軌跡で当接することが可能となる。また、このアーム6の本数および所定角度については任意に設定することができることは勿論である。
【0022】
更に、前記アーム6は回転軸5の軸方向に3段設けられており、各段の摩擦子2がアーム6に対して垂直面内で所定角度(例えば、22.5度)ずつずらせた状態で装着してあり、一度に0度から45度までの角度でシート用表皮に当接することが可能となる。なお、このアーム6の段数および所定角度についても任意に設定できることは勿論である。
図5および図6に、アーム6の装着機構の一例を示すが、回転軸5の軸方向に多数の孔5aが形成されており、任意の孔5aにアーム6の固定用ピン6aを差し込んだり、摩擦子2の取り付け部とアーム6の先端部とを任意の孔7で位置合わせしてネジ止め等することにより、摩擦子2を任意の位置に装着することができる。
【0023】
また、前記テスト用サンプル20は、摩擦子の回転軌跡上において水平面内および垂直面内のいずれの方向にも角度を自在に設定して設置できる構造となっている。これにより、一度にあらゆる方向の当たり方を設定することができ、実際の乗降モードに酷似した種々のパターンを想定することができる。
図7に、その一例を示すが、例えば台座1をジャッキ8等で高さ調整自在とすることができる。
【0024】
以上のような試験装置によれば、シートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬したパッドの全周を包み込むように固定されたシート用表皮に対し、摩擦子2を円弧の軌跡で当接させる構造であり、単に横方向に往復動するだけでなく、実際のシートモードに酷似した状態で摩擦子2を接触させることができるため、きわめて正確に表皮の耐久性を測定することができることとなる。
【0025】
なお、以上の説明ではシートクッション部における表皮の耐久性試験について説明したが、シートバック部におけるサイド部とメイン部の表皮の耐久性試験にも同様に適用することができることは勿論である。また、本発明の装置はコンパクトな設計であるため全体として小型化されているので、例えば恒温槽内に設置して試験を行うことが可能であり、この場合には周りの環境の影響(例えば、温度、湿度など)を受けることなく、安定した状態で試験を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す平面図である。
【図3】摩擦子と表皮の当接状態を示す斜視図である。
【図4】テスト用サンプルの設置状態の位置例を示す分解斜視図である。
【図5】アームの装着機構の一例を示す斜視図である。
【図6】摩擦子の装着機構の一例を示す斜視図である。
【図7】テスト用サンプルの設置構造の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 台座
2 摩擦子
3 移動機構
4 固定枠
5 回転軸
6 アーム
20 テスト用サンプル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座上にセットしたシート用表皮の表面側を押圧しながら移動する摩擦子と、この摩擦子を移動させる移動機構を有するシート用表皮の耐久試験装置において、前記シート用表皮はシートクッションのサイド部からメイン部を部分的に模擬したパッドの全周を包み込むように固定されたものであり、このシート用表皮に対し、前記摩擦子を円弧の軌跡で当接させるものとしたことを特徴とするシート用表皮の耐久試験装置。
【請求項2】
摩擦子を移動させる移動機構は、回転軸と、この回転軸から水平方向に延びるアームと、このアームの先端部に装着された摩擦子からなり、回転軸を中心に摩擦子が水平面内で回転運動することを特徴とする請求項1に記載のシート用表皮の耐久試験装置。
【請求項3】
アームは回転軸を中心に放射状に複数本設けられており、各アームの先端部に設けた摩擦子に対してシート用表皮が水平面内で所定角度ずつずらせた状態で装着してあることを特徴とする請求項2に記載のシート用表皮の耐久試験装置。
【請求項4】
アームは回転軸の軸方向に複数段設けられており、各段の摩擦子がアームに対して垂直面内で所定角度ずつずらせた状態で装着してあることを特徴とする請求項2に記載のシート用表皮の耐久試験装置。
【請求項5】
パッドは、摩擦子の回転軌跡上において水平面内および垂直面内のいずれの方向にも角度を自在に設定して設置できるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシート用表皮の耐久試験装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−192632(P2007−192632A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10067(P2006−10067)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】