説明

シート間仕切り装置

【課題】
原子力発電所の原子炉建物における大物搬入口の開け忘れや閉じ忘れによるトラブルを解消する。
【解決手段】
原子力発電所の原子炉建物内には、燃料取替え床Fに大物搬入口6が水平な開口として開かれている。その大物搬入口6の開口を被う透明ビニュール製のシート1がロールから引き出されて開口沿いの堰7に設けたフック4に引っ掛けられて固定される。これにより、その大物搬入口6は閉鎖される。シート1には、切り込み5が施されているので、大物搬入口6を開け忘れていても、事故時にシートの上下方向の圧力差で切り込み5からシート1が裂けて圧力が大物搬入口6を通じて逃がされる。大物搬入時には、シート1をフック4からは外してロール2に巻き取ることで大物搬入口6を通じて物品の搬入を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所原子炉建物内の燃料取替え床に設置している床開口を開閉するシート間仕切り装置(或いはシートシャッターとも言う。)に関し、特には、大物搬出入用の床開口に適用して有益なものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の原子炉建屋(原子炉建物とも言う。)の燃料取替え床には、外部から運び込まれた大型物品を燃料取替え床へ引上げるために大物搬入口として水平に開口した大物搬出入用の床開口を備えている。
【0003】
この床開口は、2つの機能を有する。1つは、燃料取替え床等への物品の搬出入のための開口の役割であり、もう一つは、原子炉建物内での高エネルギー配管破断事故の時に、破断箇所からの漏洩圧力を他の階へ逃がすための開口の役割である。
【0004】
このような役割のある大物搬入用の床開口は、原子炉の運転を停止して行う定期検査時は汚染区分けのため閉じたり、物品搬出入のために開けたりし、また原子炉の運転時は高エネルギー配管破断時の圧力を逃がすため開けておく必要がある。
【0005】
このように、開閉頻度が高く、また搬入口の機能を知らない者が閉め忘れ又は開け忘れがあるとその役割が果たせないというトラブルにつながる。
【0006】
大物搬出入用の床開口ではないが、建屋の壁に設けた開口に切れ込みを入れた鋼板を設置し常時は気密を保ち、建屋内の圧力の急増で、急増した圧力が加わると破断して圧力を外部へ逃がすブロウアウトパネルというものが業者の間で知られている。
【0007】
ブロウアウトパネルは壁パネルとしての強度をある程度要求されるので、鋼製で重量が大きくて扱いが困難である上、機器の搬入に際して開閉する目的も有していない。
【0008】
一方、垂直な壁に開けた開口に設置するシートシャッターは、一般の冷凍室や冷蔵室といった低温の倉庫や、食品加工工場や電子部品生産工場,自動車工場,病院等に設置されている。これらは温度を逃がさない、ほこりやゴミ,虫の侵入を遮断する、また防音性能を備えたものが使用される。
【0009】
シートシャッターは、シートをシャッターとして用いるので、軽量で扱いが容易である。シート状の部材を領域の区画手段として用いた例としては、下記の特許文献1〜5が知られている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−83579号公報
【特許文献2】特開2002−193162号公報
【特許文献3】特開2002−147067号公報
【特許文献4】特開2000−246207号公報
【特許文献5】特開平8−162771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
原子力発電所の原子炉建屋の燃料取替え床に水平に開口した床開口に採用される蓋は、開閉の頻度が多く、蓋の重量が大きいと開閉作業や開閉装置が大掛かりとなる。
【0012】
シート状のシャッターを原子力発電所の原子炉建屋の燃料取替え床に水平に開口した床開口に採用することは考えられていなかった。
本発明の目的は、原子力発電所の原子炉建屋の燃料取替え床に水平に開口した床開口に採用される取扱いの容易なシート間仕切り装置(シートシャッター)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のシート間仕切り装置は、原子力発電所原子炉建物内の燃料取替床に水平に開口した床開口を被うシートを前記床開口に対して開閉自在に備えることを特徴とし、間仕切り装置のシャッターにシートを採用することで、取扱いが軽くて人力でも高速開閉が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上述したように本発明のシート間仕切り装置は、軽く高速開閉できるので、通常閉めた状態では気密を確保でき、事故時の圧力の逃しに際してはその圧力を燃料取替え床上のエリアから他エリアへ迅速に逃がすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図1,図2に基づいて説明する。原子力発電所の原子炉建物の内部は、複数階層の建屋構造を有する。その内の比較的上方の階には、上方に広い室内空間を有する燃料取替え床Fが存在している。その燃料取替え床Fは、原子炉建物内の格納容器内に納められた原子炉圧力容器内の原子燃料を取替えたり置き換えたりする作業に用いられる。
【0016】
原子力発電所では、その原子炉圧力容器内で発生させた高温高圧蒸気を別建屋内の蒸気タービンに送る主蒸気配管が原子炉格納容器内から原子炉建物内を通って別建屋にまで配管されている。
【0017】
その主蒸気配管から高温高圧蒸気が原子炉建屋に漏れ出て原子炉建屋内の圧力が増大する事故を起こした場合には、その圧力を燃料取替え床F上の広い空間や原子炉建物内である程度吸収するようにしてある。更には、原子炉建屋内の圧力が過剰に増大した場合には、原子炉建屋壁に設置したブローアウトパネルが破れて圧力が外部へ逃されるようになっている。
【0018】
その圧力を燃料取替え床F上の広い空間へ下階から導きいれるために燃料取替え床Fには、大物搬入口6が水平に開口されている。その開口は、事故時における圧力を逃す通路として用いる他に、普段は、地上に近い階から大型の物品を燃料取替え床Fに吊上げる際の搬入通路として用いるので、大物搬入口6とも、或いは床に開口しているので床開口とも称されている。
【0019】
大物搬入口6の周囲縁には、燃料取替え床Fから上方へ立ち上げた堰7が燃料取替え床Fと一体に設けられている。その堰7の外周側壁面には、シートの固定手段としてフック4が複数個設置されている。
【0020】
この大物搬入口6の開口の開口面積を超える大きさのシート1がその開口を開閉するためのシートシャッターの部材として採用される。そのシート1は、透明なビニールシートが採用される。そのシート1の縁に沿った複数箇所には、フック4に引っ掛けられる鳩目或いはフック掛け用穴3が設けられている。
【0021】
この鳩目或いはフック掛け用穴3をフック4に掛けたり外したりすることで、シート1が堰7に対して係合及び係合解除可能とされる。
【0022】
そのシート1を大物搬入口6の開口で移動させる駆動手段が大物搬入口6の開口の堰7の一辺に沿って配置されている。その駆動手段は、堰7の一辺に沿って配置されているシート1を巻き取るロール2と、そのロール2を燃料取替え床Fから回転自在に支持するスタンドと、そのロール2を回転させるハンドル8とを備えている。そのロール2にはシート1がロール2に巻き取れるように巻きつけられている。
【0023】
シート1の一部分には、他部分に比較してシート1が裂けやすい構成を備えている。シート1が裂けやすい構成は次のように成っている。即ち、シート1の一部分が他部分に比べて薄くなるように切り込み5が入れられている構成である。その切り込み5は図1のようにシート1の対角線上にクロスするように施され、切り込み5の深さはシート1の厚みの100%に至らないように気をつけて行ってある。
【0024】
もう一つのシート1が裂けやすい構成は、シート1の対角線上に切れ目がクロスするようにシート1を切断し、その切れ目をマジックファスナー(登録商標)で接着して補修した構成である。この構成の場合には、マジックファスナー(登録商標)で切れ目を補修しておくが、補修強度がシートの健全部分よりも弱くなるようにして、シートが裂ける際に、補修箇所が先に裂けるようマジックファスナー(登録商標)の接着強度を設定してある。
【0025】
このようなシート式間仕切り装置においては、大物搬入口6を開く際には、ハンドル8を手動で回転してロール2を回転させると、シート1は大物搬入口6でロール2側に移動させられて、シート1がロール2に巻き取られる。シート1は、鋼板の蓋などと比較して軽いので、シート1をロール2に巻き取って大物搬入口6を開く作業が容易且つ高速にて行える。
【0026】
大型の物品を下方から燃料取替え床Fへ搬入する際には、大物搬入口6を上記の要領で開いた状態で吊上げてその物品を大物搬入口6に通過させて行う。逆に搬出する状況が生じた場合には、物品を大物搬入口6を通過させて吊降ろす。
【0027】
大型の物品の搬出入が無い場合には、シート1で大物搬入口6を被って閉鎖する。その際には、シート1をロール2から引き出して、図2のように、シート1のフック掛け用穴3をフック4に引っ掛けて、シート1で堰7の上端縁を巻き込むようにする。このようにしてシート1による大物搬入口6の密閉を確実に行って、気密効果を向上させる。この作業も鋼板の蓋を採用するのに比較してシート1が軽量で扱い易いので迅速に行える。
【0028】
原子力発電所の定期検査時には、大型の物品の搬出入が無い期間では、シート1で大物搬入口6が閉鎖され、検査時の塵埃や雰囲気が燃料取替え床F側から大物搬入口6を通じて下階側へ漏洩することを阻止する。
【0029】
原子力発電所の原子炉運転時には、シート1で大物搬入口6が閉鎖された状態のままとして、従来運転状態においては建物内の圧力増大を伴う事故に対応すべく大物搬入口6を開放しておくという必要作業を行わないままとする。
【0030】
事故によって燃料取替え床Fの下階の空間圧力が増大した際には、シート1の切り込み5の箇所がその圧力を受けて裂ける。そのため、燃料取替え床Fの下階の空間から圧力が燃料取替え床F上の空間に伝播して一旦吸収され、最終的には、原子炉建物の壁に設置したブローアウトパネルが圧力によって破れて外界へ圧力が放出され、原子炉建物内の圧力が低下させられる。
【0031】
このように、シート1に設けた切り込み5は、大物搬入口6設置床よりも下の階で、想定の圧力以上の圧力がシート1に加わったときに切り込み5が裂け、圧力を燃料取替え床の階に逃がすことで下階の機器設備の損傷を抑えることができる。
【0032】
シート1に設けた切り込み5が、裂けた場合は、新しいシートと交換する。尚、マジックファスナー(登録商標)で切断部を接着固定したシート1を使用する場合は、事故時の圧力でマジックファスナー(登録商標)による接着が解かれてシート1自体は損傷していないので、マジックファスナー(登録商標)で切り目を再度接着することで、シート1を復旧する。
【0033】
このように、大物搬入口6は、シート1で常時閉めておき、大型の物品を搬出入するときだけ開放すれば良く、検査時や運転時での閉め忘れや開け忘れによるトラブルは解消できる。シート1で大物搬入口6が閉められていても、シート1を透明な部材にしてあるから、開閉作業せずにシート1を通して下階の状況を見ることが出来る。そのため、開け閉めする合図が上下階の作業員で目視できる。
【0034】
シート1に施す切り込み5は、シート1の上下間の差圧が事故時以外の通常時に生じる差圧程度では裂けないように施される。同じく、シート1の切れ目に施すマジックファスナー(登録商標)による補修強度はシート1の上下間の差圧が事故時以外の通常時に生じる差圧程度ではマジックファスナー(登録商標)による接着が解除されないように設定される。
【0035】
また、この実施例では、シート1を巻き取るロール2を回転駆動するのにハンドル8を用いた手動としたが、電動で巻き取り巻き出しが出来るようにしてもよい。
【0036】
本実施例のシート式間仕切り装置は、シャッターをシートにすることで、軽量となり人力で開閉が可能となることから、操作性が良く安価に製作できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、原子力発電所の原子炉建物の大物搬入口の開閉手段としての利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例によるシート式間仕切り装置の全体を表した鳥瞰図である。
【図2】本発明の実施例によるシート式間仕切り装置のシートと大物搬入口の堰との間での係合状態を示した断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 シート
2 ロール
3 フック掛け用穴
4 フック
5 切り込み
6 大物搬入口
7 堰
F 燃料取替え床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所原子炉建物内の燃料取替床に水平に開口した床開口を被うシートを前記床開口に対して開閉自在に備えるシート間仕切り装置。
【請求項2】
請求項1において、前記シートの一部分に他部分よりも前記シートが裂けやすい構成を備えていることを特徴とするシート間仕切り装置。
【請求項3】
請求項2において、前記裂けやすい構成は、前記シートの一部分が他部分に比べて薄くなるように切り込みが入れられている構成である事を特徴とするシート間仕切り装置。
【請求項4】
請求項2において、前記裂けやすい構成は、前記シートの一部分を切り裂いて、その切り裂き跡を前記シートの他部分よりも裂けやすい様に補修してある構成である事を特徴とするシート間仕切り装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項3又は請求項4の何れかにおいて、前記シートを前記床開口の周りに着脱可能に係合する固定手段を有することを特徴とするシート間仕切り装置。
【請求項6】
請求項5において、前記床開口周りに前記床から上方に突き出た堰を有し、前記シートは前記堰の上端を被った状態にて前記固定手段に係合されていることを特徴とするシート間仕切り装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項において、前記シートを前記床開口で移動させる駆動手段を備えていることを特徴とするシート間仕切り装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−128140(P2009−128140A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302489(P2007−302489)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)