説明

シーリング材組成物

【課題】耐久性、硬化後の接着性を低下することなく、シーリング材の施工時にスリップ現象が生じにくいシーリング材組成物を提供すること。
【解決手段】分子内に加水分解性シリル基を有し、その主鎖骨格がポリアルキレンエーテル、又は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体である重合体(A)100重量部に対し、
分子内に水酸基を含有するシリコーン系界面活性剤(B)0.1〜5重量部、
脂肪酸系、樹脂酸系、又は脂肪酸エステル系表面処理剤で表面処理された平均粒子径が0.05μm以下0.01μm以上である炭酸カルシウム(C)40〜100重量部、
疎水性シリカ(D)1〜10重量部、
硬化触媒(E)0.5〜15重量部
を含有することを特徴とするシーリング材組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ現象が生じにくく、耐久性、硬化後の接着性に優れた建築用シーリング材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シーリング材を壁面等の目地部に施工した場合、シーリング材の自重や粘度に起因してシーリング材が硬化する前に目地部から形を保ったまま滑り落ちてしまう「スリップ現象」が見られることがあり、このスリップ現象の防止が望まれていた。
このスリップ現象を防止するために、多価アルコールの添加(特許文献1)やポリブテンなどの石油樹脂系を含む合成樹脂系粘着付与剤の添加(特許文献2)、ロジン系を含む天然樹脂系粘着付与剤の添加(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−187764号公報
【特許文献2】特開2001−192547号公報
【特許文献3】特開2001−192556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら従来の技術では効果が不十分であるため、本発明の課題は、耐久性、硬化後の接着性を低下することなく、シーリング材の施工時にスリップ現象が生じにくいシーリング材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、何故スリップ現象が発生するのかをいろいろと検討し、シーリング材組成物を垂直面の目地部に施工した際のスリップ現象について以下のように考え、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明者らは、まずスリップ現象とは、シーリング材組成物自体に保形性がない、すなわちミクロ的に流動するために自重を支えきれなくなり発生するものであると考えた。そこで、本発明者らは、スリップ現象の低減のためには、シーリング材組成物を、高粘度、高チクソ性にすればよいと考えた。そこで、高粘度、高チクソ性に調製したシーリング材組成物で検証したところ、シーリング材組成物は形状を保ったまま垂直の目地部を滑り落ちてしまうことがわかった。また、高粘度、高チクソ性に調製したシーリング材組成物では、耐久性に支障が生じやすいことが明らかとなった。
【0007】
そこで、本発明者らはさらに一歩考えを進め、スリップ現象とは、さらに接着面に対するシーリング材組成物の吸着力にも起因するのではないかと考え、シーリング材組成物と目地を構成する部材との接触界面での相互作用力に着目した。すなわち、シーリング材が滑り落ちないようにするためには、目地の構成部材との接触界面における相互作用力(親和性)を高めればよいと考え、目地の構成部材に対して親和力を持たせる物質をシーリング材組成物に加えることを着想した。
より効率的に接触界面での親和力を発揮させるためには、シーリング材組成物を目地部に施工した後、シーリング材組成物とは馴染みにくく接触界面に移行しやすいシリコーン系界面活性剤を選択すればよいと考えた。また、これらのなかでも分子内に水酸基を含有するものを選択することにより、目地の構成部材とシーリング材組成物中の該シリコーン系界面活性剤の水酸基によって、接着界面で共有結合や水素結合又は、ファン・デル・ワールス力が働き、スリップ現象を止めることができることを知見した。
【0008】
このような設計思想で調製されたシーリング材組成物を目地部に充てんして検証したところ、スリップ現象の低減効果がみられた。すなわち、スリップ現象の低減には、(1)シーリング材組成物の保形性(粘度及びチクソ性)と、(2)接触界面での相互作用力とを、ともに向上させることが重要であり、より効率的に前記(1)〜(2)を向上できる手法を見出し、ついに本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の第1〜4の発明から構成される。
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
第1の発明は、分子内に加水分解性シリル基を有し、その主鎖骨格がポリアルキレンエーテル、又は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体である重合体(A)100重量部に対し、水酸基を含有するシリコーン系界面活性剤(B)0.1〜5重量部、脂肪酸系、樹脂酸系、又は脂肪酸エステル系表面処理剤で表面処理された平均粒子径が0.05μm以下0.01μm以上である炭酸カルシウム(C)40〜100重量部、疎水性シリカ(D)1〜10重量部、硬化触媒(E)0.5〜15重量部を含有することを特徴とするシーリング材組成物に関するものである。
水酸基を含有するシリコーン系界面活性剤(B)を特定範囲で含有することによって、目地部材との接触界面における相互作用力が効率的に向上するとともに、脂肪酸系、樹脂酸系、又は脂肪酸エステル系表面処理剤で表面処理された平均粒子径が0.05μm以下0.01μm以上である炭酸カルシウム(C)と疎水性シリカ(D)を特定範囲で含有することによって、シーリング材組成物の保形性が保たれる結果、スリップ現象が生じにくくなるとともに、硬化後の接着性・耐久性が優れたシーリング材組成物が得られる。
【0010】
第2の発明は、上記シリコーン系界面活性剤(B)が、ポリエーテル変性ポリアルキルシロキサンであることを特徴とする、第1の発明に係るシーリング材組成物に関するものである。
シリコーン系界面活性剤(B)が、その分子内に水酸基を有することに加えて、ポリエーテル変性されたポリアルキルシロキサンであると、さらに一段のスリップ現象が低減できる。
【0011】
第3の発明は、上記炭酸カルシウム(C)が、脂肪酸系表面処理剤で表面処理された炭酸カルシウムであることを特徴とする、第1の又は第2の発明に係るシーリング材組成物に関するものである。
上記炭酸カルシウム(C)が、脂肪酸系表面処理剤で表面処理された炭酸カルシウムであると、シーリング材組成物に対してより効率的に保形性を付与できるため好ましい。
【0012】
第4の発明は、さらに、分子内にアミノ基又は脂肪酸エステル基を有するシリコーン系界面活性剤(F)0.5〜2重量部を含有することを特徴とする、第1〜第3のいずれかの発明に係るシーリング材組成物に関するものである。
上記の(A)〜(D)の成分に加えて、さらに、分子内にアミノ基又は脂肪酸エステル基を有するシリコーン系界面活性剤(F)を含有することにより、さらにスリップ現象が低減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシーリング材組成物を用いれば、耐久性、硬化後の接着性を低下することなく、シーリング材組成物の施工時にスリップ現象が生じにくくなるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0015】
[重合体(A)について]
本発明における、分子内に加水分解性シリル基を有し、その主鎖骨格がポリアルキレンエーテル、又は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体である重合体(A)(以下単に「重合体(A)」と表記することがある)は、作業性などの面から、室温で液状であることが好ましい。また、重合体(A)は、所望の性能に合わせて、1種単独で使用してもよいし2種以上併用してもよい。
【0016】
上記重合体(A)は、その分子内に下記一般式(1)で表される加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂である。
−SiR13-a(OR2a ・・・式(1)
(但し、R1は炭素数1〜20個の炭化水素基を、R2はフェニル基、炭素数1〜20のアルキル基、及び、2−(ブトキシ)エチル基等に代表されるような炭素数1〜20の有機基から選ばれる一種以上の基を、aは1、2又は3を、それぞれ示す)
【0017】
上記加水分解性シリル基の珪素原子については、主鎖との結合手以外に加水分解性基としてアルコキシル基(OR2)が1〜3個結合すると共に、残りの結合手として炭化水素基(R1)が2〜0個結合している。
ここで、アルコキシル基(OR2)としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であるのが好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であるのがより好ましい。珪素原子の残りの結合手に結合している炭化水素基(R1)としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0018】
また、重合体(A)の加水分解性シリル基は、アルキルジアルコシキシリル基(a=2)又はトリアルコキシシリル基(a=3)であることが、入手の容易さ、硬化物のモジュラス等の点から好ましく、アルキルジアルコシキシリル基(a=2)あることが、硬化物物性と硬化速度のバランスが取りやすいため特に好ましい。
【0019】
上記重合体(A)の主鎖骨格は、ポリアルキレンエーテル又は(メタ)アクリル酸エステル系重合体である。これらの主鎖骨格を有する重合体(A)は、入手の容易さや硬化物の皮膜物性等の点から好ましい。
主鎖がポリアルキレンエーテルである場合には、主鎖が炭素数1〜4のポリアルキレンエーテルであるのが好ましく、ポリプロピレンエーテルであるのが特に好ましい。また、主鎖が(メタ)アクリル酸エステル系重合体である場合には、特に、リビングラジカル重合法で製造された(メタ)アクリル酸エステル系重合体であることが好ましい。重合体(A)の中にこれらの主鎖構造が単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0020】
上記重合体(A)の分子量は特に制限されないが、1,000〜80,000が好ましく、1,500〜60,000がより好ましく、2,000〜40,000が特に好ましい。分子量が1,000を下回ると、架橋密度が高くなり過ぎることから得られる硬化物が脆い物性となりシーリング材には不向きとなる傾向にあり、分子量が80,000を上回ると、粘度が高くなり作業性が悪くなるため溶剤や希釈剤が多量に必要になるなど配合が制限される場合がある。
【0021】
上記重合体(A)としては、市販品を用いてもよい。重合体(A)のうち、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンエーテルとしては、いわゆる「変成シリコーン」と呼ばれるものが市販されている。このような市販品としては、S203、S303、S810(商品名、カネカ社製)、ES−S2410、ES−S2420、ES−S3430、ES−S3630(商品名、旭硝子社製)等が挙げられ、これらは、通常市販されているものをそのまま用いることができる。
また、上記重合体(A)のうち、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体としては、特許第3806475号等の文献にその製造方法が開示されている。このような市販品としては、より具体的には、SA100S、SA310S、XX009S(商品名、カネカ社製)等が挙げられ、これらは、通常市販されているものをそのまま用いることができる。
【0022】
[シリコーン系界面活性剤(B)について]
本発明における、分子内に水酸基を含有するシリコーン系界面活性剤(B)(以下単に「シリコーン系界面活性剤(B)」と表記することがある)は、側鎖又は分子末端に水酸基を有し、主鎖主骨格がポリアルキルシロキサンであるような化合物である。その化学構造の一例を示すと下記(2)〜(4)のような一般式で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。下記一般式(2)〜(4)においてXは水酸基を有した有機基(例えばカルビノール、ポリエーテルアルコール、フェノール、シラノール等)を、Rは有機基(例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシアルキル基、アリール基等)を表し、m及びnは1以上の整数である。シリコーン系界面活性剤(B)としては、水酸基価5〜100mgKOH/g(好ましくは10〜70mgKOH/g)のものを好適に用いることができる。ここで、水酸基価(mgKOH/g)とは、試料1g中に含まれる水酸基をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数である。
【0023】
【化1】

【0024】
上記シリコーン系界面活性剤(B)としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、より具体的には、BYK−370(商品名、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)、BYK−375(商品名、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)、BYK−377(商品名、ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)、X−22−4039、X−22−4015(商品名、側鎖にカルビノール変性由来の水酸基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)、X−22−160AS、KF−6001、KF−6002、KF−6003(商品名、分子鎖両末端にカルビノール変性由来の水酸基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)、X−22−170BX、X−22−170DX(商品名、分子鎖片末端にカルビノール変性由来の水酸基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)、X−22−4952、X−22−4272、X−22−6266(商品名、分子鎖両末端にポリエーテル変性由来の水酸基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)、SF8428(商品名、側鎖にカルビノール変性由来の水酸基を有するポリアルキルシロキサン、東レ・ダウコーニング社製)、BY16−201、BY16−004、SF8427(商品名、分子鎖両末端にカルビノール変性由来の水酸基を有するポリアルキルシロキサン、東レ・ダウコーニング社製)等が挙げられ、これらは、通常市販されているものをそのまま用いることができる。これらのなかでも、シリコーン系界面活性剤(B)が、その分子内に水酸基を有することに加えて、ポリエーテル変性されたポリアルキルシロキサン(すなわち、上記式中のXがポリエーテルアルコールであるような、ポリエーテル変性由来の水酸基とポリエーテル骨格とを分子内に有するポリアルキルシロキサン)であると、さらに一段のスリップ現象が低減できることから特に好ましい。
【0025】
シリコーン系界面活性剤(B)の配合量は、重合体(A)100重量部に対し0.1〜5重量部(特に好ましくは、0.5〜2重量部)である。上記シリコーン系界面活性剤(B)を特定範囲で含有することによって、目地部材との接触界面における相互作用力が効率的に向上し、スリップ現象の低減に寄与する。本発明者らはスリップ現象が低減する機構について以下のように推察している。本発明における重合体(A)とシリコーン系界面活性剤(B)とは基本的に馴染みにくいため、シーリング材組成物を目地部に施工した後、シリコーン系界面活性剤(B)は目地部構成部材との接触界面に移行しやすいものと考えられる。しかし一方では重合体(A)は加水分解性シリル基を有しているためにシリコーン系界面活性剤(B)のポリアルキルシロキサン構造とある程度の親和性を有している。また、シリコーン系界面活性剤(B)は分子内に水酸基を含有しているために目地構成部材とも共有結合や水素結合又は、ファン・デル・ワールス力が働きやすい。これらのことから、シリコーン系界面活性剤(B)はより効率的にシーリング材組成物と目地構成部材との接触界面の親和性を高めることができ、結果としてスリップ現象を低減できるものと考える。シリコーン系界面活性剤(B)の含有量が0.1重量部未満ではスリップ現象の低減効果が乏しくなる傾向にあり、5重量部を超えるとシーリング材組成物と目地部材との接触界面への界面活性剤の移行が進みすぎてシーリング材の硬化後に目地構成部材との接着性が低下する傾向にある。
【0026】
[炭酸カルシウム(C)について]
本発明における、脂肪酸系、樹脂酸系、又は脂肪酸エステル系表面処理剤で表面処理された平均粒子径が0.05μm以下0.01μm以上である炭酸カルシウム(C)(以下単に「炭酸カルシウム(C)」と表記することがある)としては、炭酸カルシウムの表面に従来公知の方法で脂肪酸系、樹脂酸系、又は脂肪酸エステル系表面処理剤を吸着させたものを用いることができるが、高粘度、高チクソ性になり良好なスリップ現象の低減効果、揺変性(作業性)が得られる平均粒子径が0.05μm以下0.01μm以上(好ましくは0.04μm以下0.02μm以上)のものが好ましい。
【0027】
上記炭酸カルシウム(C)としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、より具体的には、脂肪酸系表面処理剤で表面処理された炭酸カルシウムとして、カルファインN−40(脂肪酸系表面処理剤/平均粒子径0.04μm)、カルファインN−350(脂肪酸系表面処理剤/平均粒子径0.04μm)(いずれも商品名、丸尾カルシウム社製)、ビスコエクセル30(脂肪酸系表面処理剤/平均粒子径0.03μm)、ビスコエクセル30K(脂肪酸系表面処理剤/平均粒子径0.03μm)(いずれも商品名、白石工業社製)等が挙げられ、これらは、通常市販されているものをそのまま用いることができる。ここで、平均粒子径とは、電子顕微鏡により観察される一次粒子径の平均値を指す。
【0028】
炭酸カルシウム(C)の配合量は、重合体(A)100重量部に対して40〜100重量部(特に好ましくは、40〜80重量部)である。上記炭酸カルシウム(C)を特定範囲で含有することによって、シーリング材組成物の保形性が保たれ、スリップ現象の低減に寄与する。炭酸カルシウム(C)の含有量が40重量部未満ではスリップ現象の低減効果が乏しくなる傾向にあり、100重量部を超えると作業性が悪くなる傾向にある。
【0029】
[疎水性シリカ(D)について]
本発明における、疎水性シリカ(D)としては、四塩化珪素を酸水素炎中で高温加水分解させて得られるヒュームドシリカ(BET比表面積が50〜350m2/g、好ましくは80〜300m2/g)の表面を表面処理剤で処理し疎水性にしたものである。表面処理剤としては、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0030】
上記疎水性シリカ(D)としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、より具体的には、アエロジルRY200、アエロジルRY200S、アエロジルRY300、アエロジルRX200、アエロジルRX300、アエロジルRA200H、アエロジルRA200HS、アエロジルNX90、アエロジルR202、アエロジルR711、アエロジルR805、アエロジルR812、アエロジルR812S、アエロジルR972、アエロジルR974、アエロジルR976、アエロジルR976S(いずれも商品名、日本アエロジル社製)、CAB−O−SIL TS−382、TS−530、TS−610、TS−612、TS−620(いずれも商品名、CABOT社製)、HDK H15、H2000(いずれも商品名、旭化成ワッカーシリコーン社製)等が挙げられ、これらは、通常市販されているものをそのまま用いることができる。これらのなかでも、特に表面処理剤がジメチルジクロロシラン又はヘキサメチルジシラザンであるものを好適に用いることができる。
【0031】
上記疎水性シリカ(D)の配合量は、重合体(A)100重量部に対して1〜10重量部(特に好ましくは、1〜6重量部)である。上記疎水性シリカ(D)を特定範囲で含有することにより、さらに一段とスリップ現象が低減される。含有量が10重量部を超えると作業性が悪くなる傾向にある。
【0032】
[硬化触媒(E)について]
本発明における硬化触媒(E)としては、公知の化合物を使用できる。具体例としては、有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機亜鉛化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ビスマス化合物等の有機金属化合物、アミン化合物等の塩基性化合物、リン酸系化合物、ルイス酸等の酸性化合物等が挙げられる。上記ルイス酸としては、金属ハロゲン化物、三フッ化ホウ素及び/又はその錯体からなる化合物が好適に用いられる。これらは一種単独または2種以上を併用してもよい。
【0033】
なかでも、有機金属系化合物及び/又は塩基性化合物が入手のしやすさの点からも好ましく、具体的には、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレエート、ジブチルスズフタレート、オクチル酸第一スズ、ジブチルスズメトキシド、ジブチルスズジアセチルアセテート、ジブチルスズジバーサテート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズオキサイドとフタル酸ジエステルとの反応生成物等の有機スズ化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトネート、トリエタノールアミンチタネート等の有機チタン化合物、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛等の有機亜鉛化合物、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムモノアセチルアセテート等の有機ジルコニウム化合物、ラウリルアミン、ステアリルアミン等の塩基性化合物を用いることが特に好ましい。
【0034】
上記硬化触媒(E)としては市販品を用いてもよい。このような市販品としては、例えば、有機スズ化合物としては、スタンBL、スタンNo.918、U202H、U−220H、U303、U700、U700ES、U−28等(いずれも商品名、日東化成社製)、有機チタン化合物としては、A−1、B−1、B−2、B−4(いずれも商品名、日本曹達社製)、TC−100、TC−401、TC−750等(いずれも商品名、マツモトファインケミカル社製)、有機亜鉛化合物としては、ナフテックスZn、ニッカオクチックスZn(いずれも商品名、日本化学産業社製)、有機ジルコニウム系化合物としては、ZA−40、ZA−60、ZC−540、ZC−570等(いずれも商品名、マツモトファインケミカル社製)、TyzorNBZ(デュポン社製)、塩基性化合物としては、ファーミン20D(商品名、花王ケミカル社製、ラウリルアミン)、ファーミン80(商品名、花王ケミカル社製、ステアリルアミン)等が挙げられる。
【0035】
上記硬化触媒(E)の含有量は、上記重合体(A)100重量部に対して、0.5〜15重量部であり、好ましくは1〜10重量部である。0.5重量部より少ないとシーリング材組成物が硬化不良となる可能性があり、15重量部より多いとシーリング材組成物の貯蔵安定性が低下したり、可使時間が短くなったりする等の不具合を生じる可能性がある。
【0036】
[シリコーン系界面活性剤(F)]
本発明における、分子内にアミノ基又は脂肪酸エステル基を有するシリコーン系界面活性剤(F)(以下単に「シリコーン系界面活性剤(F)」と表記することがある)は、側鎖又は分子末端に、アミノ基又は脂肪酸エステル基を有し、主鎖主骨格がポリアルキルシロキサンであるような化合物である。その化学構造の一例は上記(2)〜(4)と同様の一般式で表されるが、上記一般式(2)〜(4)におけるXがアミノ基又は脂肪酸エステル基を有する有機基であるような化合物である。
【0037】
上記シリコーン系界面活性剤(F)としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、より具体的には、BY16−871、BY16−853U(商品名、分子鎖両末端にアミノ基を有するポリアルキルシロキサン、東レ・ダウコーニング社製)、BY16−205、FZ−3760、SF8417、BY16−849、BY16−892、FZ−3785、BY16−213、BY16−890、BY16−891、BY16−893、FZ−3789(商品名、側鎖にアミノ基を有するポリアルキルシロキサン、東レ・ダウコーニング社製)、KF−868、KF−865、KF−864、KF−859、KF−393、KF−860、KF−880、KF−8004、KF−8002、KF−8005、KF−867、X−22−3820W、KF−869、KF−861、X−22−3939A(商品名、側鎖にアミノ基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)、PAM−E、KF−8010、X−22−161A、X−22−161B、KF−8012、KF−8008、X−22−1660B−3(商品名、分子鎖両末端にアミノ基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)、KF−910、X−22−715(商品名、側鎖に脂肪酸エステル基を有するポリアルキルシロキサン、信越化学工業社製)等が挙げられ、これらは、通常市販されているものをそのまま用いることができる。
【0038】
上記シリコーン系界面活性剤(F)の配合量は、重合体(A)100重量部に対して0.5〜2重量部(特に好ましくは、0.5〜1.5重量部)である。上記シリコーン系界面活性剤(F)を特定範囲で含有することにより、さらにスリップ現象が低減できる。含有量が0.5重量部未満ではスリップ現象の低減効果が乏しくなる傾向にあり、2重量部を超えるとシーリング材組成物表面への界面活性剤の移行が進みすぎてシーリング材の硬化後に目地構成部材との接着性が低下する傾向にある。
【0039】
[その他の成分について]
本発明に係るシーリング材組成物は、上記構成のものであるが、本発明の目的・効果を損なわない範囲で更に従来公知の任意成分が含有されていてもよい。例えば、重質炭酸カルシウム、炭酸カルシウム(C)以外の表面処理炭酸カルシウム、ガラスバルーン、プラスチックバルーン、カオリン、クレー、タルク、珪砂等の充てん剤、酸化チタン、カーボンブラック、その他の染料或いは顔料等の着色剤、フタル酸系エステルや水添フタル酸系エステル、アジピン酸系エステル等の可塑剤、エポキシ樹脂、ケトン類、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の希釈剤、粘接着付与剤、増粘剤、シランカップリング剤、光硬化性アクリル系オリゴマー、顔料分散剤、消泡剤、チタンカップリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等の任意成分が含有されていてもよい。
【0040】
本発明のシーリング材組成物は、1成分形シーリング材組成物として使用してもよく、必要に応じて、硬化触媒(E)を別にし使用時に混合する2成分形としてもよい。
本発明のシーリング材組成物の製造方法について、一例を挙げれば、密閉型の高粘度製品を混練加工できる加工釜に、上記重合体(A)を仕込み、シリコーン系界面活性剤(B)や、炭酸カルシウム(C)、疎水性シリカ(D)等の充てん剤、1成分形の場合は硬化触媒(E)、可塑剤、着色剤、老化防止剤、生石灰等の脱水剤を適宜配合して均一に混合する。
また、粘度調整等が必要な場合は、脂肪族系炭化水素及び芳香族系炭化水素、二塩基酸エステル等の高沸点溶剤を配合することもできる。
【0041】
本発明のシーリング材組成物の目地部への施工方法を2成分形の場合を例に挙げて説明する。本発明のシーリング材組成物のうち、硬化触媒(E)を抜いた「基剤」と、硬化触媒(E)を主成分として構成される「硬化剤」を、建築現場、工事現場等においてシーリング材用混合機で均一に混合し、コーキングガン等の器具を用いて各種目地等に充てん施工すれば、最終的に反応・硬化してゴム状のシーリング材組成物となる。
【0042】
実現場での充てん施工にあたっては、建物目地部の構成部材となる被着体は多種多様であり、更に表面塗装、あるいは表面処理された被着体を加えるとその種類は無数にあるのが現状である。また、シーリング材組成物単独では一般に自着性に乏しいため、充填に先立って目地部へプライマーを塗布することがされている。プライマー組成物としては、合成ゴム、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、オルガノシラン、有機チタネート等の主成分を溶剤に溶解・分散させたものが用いられる。特に本発明のシーリング材組成物においては、シリコーン系界面活性剤(B)と相互作用力が大きいと考えられるウレタン樹脂系又はシリコーン樹脂系のプライマーを特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[使用原料の準備]
原料として以下の市販品(いずれも商品名又は化合物名)を準備した。
〈重合体(A)〉
・S810:加水分解性シリル基を有するポリアルキレンエーテル、カネカ社製
・SAX220:加水分解性シリル基を有するポリアルキレンエーテル、カネカ社製
・XX−009S:加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体、
カネカ社製
【0044】
〈シリコーン系界面活性剤(B)〉
・BYK−377:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、水酸基価約45mgKO
H/g、ビックケミー・ジャパン社製
・X−22−170DX:分子鎖末端に水酸基を有するポリジメチルシロキサン、水酸基
価約12mgKOH/g、信越化学工業社製
〈シリコーン系界面活性剤(F)〉
・FZ−3789:分子鎖側鎖にアミノ基を有する直鎖状シロキサン・ポリエーテルブロ
ック共重合体、東レ・ダウコーニング社製
・X−22−715:分子鎖側鎖に脂肪酸エステル基を有するポリジメチルシロキサン、
信越化学工業社製
〈その他のシリコーン系界面活性剤〉
・X−22−163C:分子鎖末端にエポキシ基を有するポリジメチルシロキサン、信越
化学工業社製
・X−22−164E:分子鎖末端にメタクリル基を有するポリジメチルシロキサン、信
越化学工業社製
【0045】
〈表面処理された炭酸カルシウム(C)〉
・カルファインN−40:脂肪酸系表面処理剤、平均粒子径0.04μm、丸尾カルシウ
ム社製
・カルファインN−350:脂肪酸系表面処理剤、平均粒子径0.04μm、丸尾カルシ
ウム社製
〈その他充てん材〉
・スーパーS:無処理重質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製
・ビスコライトSV:脂肪酸系表面処理剤で表面処理された炭酸カルシウム、平均粒径
0.08μm、白石工業社製
〈疎水性シリカ(D)〉
・アエロジルRX200:ヘキサメチルジシラザン処理シリカ、平均一次粒子径14nm
、日本アエロジル社製
・アエロジルR972:ジメチルジクロロシラン処理シリカ、平均一次粒子径14nm、
日本アエロジル社製
【0046】
〈親水性シリカ〉
・サイリシア350:平均粒子径3.9μm、富士シリシア化学社製
〈硬化触媒(E)〉
・ネオスタンU−28:オクチル酸スズ、日東化成社製
・ファーミン20D:ラウリルアミン、花王ケミカル社製
〈その他成分〉
・ジイソノニルフタレート:可塑剤
・サンソサイザーE−PS:可塑剤、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2−エチルヘキシ
ル、新日本理化社製
【0047】
[シーリング材組成物の調製]
加熱、撹拌、減圧、窒素気流装置を備えた5Lプラネタリーミキサー(商品名プラネタリーミキサーPLM5:井上製作所製)に、表1に示す配合割合で各原料を仕込み、50Torrの減圧下で室温にて撹拌を30分間行い、2成分形シーリング材の基剤を調製した。
また、別の密閉式混合撹拌機に、ジイソノニルフタレートを12重量部、スーパーSを
20重量部、硬化触媒(E)としてネオスタンU−28を3重量部及びファーミン20Dを0.5重量部仕込み(総量35.5重量部)、室温にて30分間撹拌し、2成分形シーリング材の硬化剤を調製した。
以下の試験においては、上記で得られた基剤と硬化剤の混合比率は、基剤中の重合体(A)100重量部に対して、硬化剤が35.5重量部(うち硬化触媒が3.5重量部)となるようにした。
【0048】
[評価方法]
表1に示す配合割合で調製された各シーリング材組成物(基剤と硬化剤の混合物)の混合粘度、スリップ性、耐久性及び接着性は、次の試験方法により調査し、評価した。
〔混合粘度〕
基剤と硬化剤とを所定の混合比率で混合後、23℃でBS型回転粘度計(ローターNo.7)を使用し、2回転/分での粘度を測定した。
※判定基準
○ : 900〜1800Pa・s
× : 900Pa・s以下、又は、1800Pa・s以上
【0049】
〔スリップ性〕
縦21mm×横23mm×長さ500mmのアルミチャンネルにシーリング材組成物を長さ400mm充てんし、直ちに垂直に立てて35℃で24時間放置し、スリップした距離を測定した。試験は、上記アルミチャンネルにプライマー(ボンド シールプライマー#9、ウレタン樹脂系、コニシ社製)を刷毛で塗布して行った。
※判定基準
○ : 0〜10mm
× : 10mm以上
【0050】
〔耐久性〕
硬化後の弾性シーリング材について、「JIS A 1439−2010 5.17 耐久性試験 耐久性区分9030」に準じた試験方法により耐久性試験を行った。
※判定基準
○ : 合格(3個の試験体について、試料の溶解、膨潤、ひび割れ、被着体からの
はく離などの明確な異常がないこと)
× : 不合格
【0051】
〔接着性〕
アクリル電着塗装アルミにプライマー(ボンド シールプライマー#9、ウレタン樹脂系、コニシ社製)を刷毛で塗布した後、シーリング材組成物を施工し、「国土交通省公共建築工事標準仕様書建築工事編(平成19年度版)9.6.5(1)簡易接着性試験」に準じた試験方法により接着性試験を行った。この接着性試験は、仮に硬化前のスリップ現象が低減されていたとしても、硬化後に目地への接着性が得られないのであればシーリング材としての本来の役割を果たせないため、硬化後のシーリング材組成物と目地部の構成部材(ここではプライマー層)との接着性を評価するものである。
※判定基準
○ : シーリング材の凝集破壊また薄層凝集破壊
× : シーリング材の界面はく離
【0052】
表1に実施例及び比較例のシーリング材組成物の基剤の配合処方と、上記各種試験での結果及び判定結果を示す。なお、硬化剤(E)については表中には記載されていないが、上述のようにシーリング材組成物の硬化剤に配合されている。
表1の結果から明らかなように、少なくとも本発明の構成要件(A)〜(E)を備えた
実施例ではスリップ性、作業性、耐久性及び接着性のいずれの試験においても良好な評価であった。また、実施例4と実施例13とを比較すると、構成要件(F)を備えることによって、さらに一段とスリップ現象が低減されることがわかる。
一方、シリコーン系界面活性剤(B)を配合しないもの(比較例1、3、4)ではスリップ現象が見られ、含有量が多いもの(比較例2)ではスリップ現象は低減されるものの硬化後の目地部材との接着性が阻害された。また、炭酸カルシウム(C)の含有量が少ないもの(比較例5)では保形性(表1の※参照)が十分ではなく、粒子径が範囲外のもの(比較例6:ビスコライトSV含有)ではスリップ現象が見られ、含有量が多いもの(比較例7)では作業性及び耐久性が悪かった。疎水性シリカの含有量が多いもの(比較例8)では作業性及び耐久性が悪く、疎水性シリカに代えて親水性シリカを用いたもの(比較例9)ではスリップ現象が見られた。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るシーリング材組成物は、耐久性、硬化後の接着性を低下することなく、シーリング材組成物の施工時にスリップ現象が生じにくくなるという効果を奏するものであり、産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に加水分解性シリル基を有し、その主鎖骨格がポリアルキレンエーテル、又は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体である重合体(A)100重量部に対し、
分子内に水酸基を含有するシリコーン系界面活性剤(B)0.1〜5重量部、
脂肪酸系、樹脂酸系、又は脂肪酸エステル系表面処理剤で表面処理された平均粒子径が0.05μm以下0.01μm以上である炭酸カルシウム(C)40〜100重量部、
疎水性シリカ(D)1〜10重量部、
硬化触媒(E)0.5〜15重量部
を含有することを特徴とするシーリング材組成物。
【請求項2】
上記シリコーン系界面活性剤(B)が、ポリエーテル変性ポリアルキルシロキサンであることを特徴とする、請求項1に記載のシーリング材組成物。
【請求項3】
上記炭酸カルシウム(C)が、脂肪酸系表面処理剤で表面処理された炭酸カルシウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシーリング材組成物。
【請求項4】
さらに、分子内にアミノ基又は脂肪酸エステル基を有するシリコーン系界面活性剤(F)0.5〜2重量部を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシーリング材組成物。

【公開番号】特開2012−57002(P2012−57002A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199513(P2010−199513)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【特許番号】特許第4672809号(P4672809)
【特許公報発行日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】