説明

シールドケーブル及びその製造方法

【課題】機械強度の確保と細径化とを低コストで実現する。
【解決手段】複数の絶縁被覆付き信号線2,2とドレン線5とを撚り合わせてその外周をシールド層6と絶縁性シース7とで順に被覆してなり、下記(1)〜(3)の要件を満たすシールドケーブルとする。
(1)信号線2の導体3の断面積が0.13mm以下、ドレン線5の断面積が0.22mm以下であること。
(2)ドレン線5の引張伸び率が、信号線2の導体3の引張伸び率を下回ること。
(3)信号線2の導体3及びドレン線5は銅合金で形成され、焼き鈍し処理を施したものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において電装品等の電気的接続のために用いられるシールドケーブルとその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
シールドケーブルは、複数の絶縁被覆付き信号線(以下単に「信号線」という)とドレン線(接地用電線)とを金属箔等のシールド層で被覆し、このシールド層の外側を絶縁性シースで被覆してなり(特許文献1,2参照)、例えば自動車の電装品に電気的接続されて通信に使用される。
また、シールドケーブルの信号線の導体やドレン線には軟銅線がよく用いられている。これは、シールドケーブルの可撓性及び耐熱性の向上を意図したもので、断面積は、信号線の導体が0.22mm、ドレン線の断面積が0.38mmとなっている(特許文献2参照)。このサイズは、シールドケーブルの機械強度(破断強度及び屈曲特性)を確保するのに必要で、このサイズを下回ると機械強度が不足して断線のおそれがあり、車両への搭載が不可能となる。
【0003】
しかし、シールドケーブルでは、組み付けの容易性向上や省スペース化のため、信号線の導体及びドレン線の細径化が求められる。そこで、特許文献3では、並設した信号線の一側方にドレン線を、他側方にダミー線を夫々配置したフラットシールドケーブルとすることで、機械強度を維持しつつ細径化を可能とする方法が提案されている。ここでは信号線の導体の断面積が0.08mm、ドレン線の断面積が0.22mmまで細径化されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−242840号公報
【特許文献2】特開2005−32583号公報
【特許文献3】特開2003−223816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献3のフラットシールドケーブルでは、信号線やドレン線に加えてダミー線が新たに必要となるため、コストアップの要因となる上、ケーブルの形態が帯状となることで、車両内で引き回しできない場合もあって使用に制限を受けてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、機械強度の確保と細径化とを低コストで実現でき、車両内での使用にも支障を与えないシールドケーブルとその製造方法とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、複数の絶縁被覆付き信号線とドレン線とを撚り合わせてその外周をシールド層と絶縁性シースとで順に被覆してなり、下記(1)〜(3)の要件を満たすことを特徴とするシールドケーブルとしたものである。
(1)前記信号線の導体の断面積が0.13mm以下、前記ドレン線の断面積が0.22mm以下であること。
(2)前記ドレン線の引張伸び率が、前記信号線の導体の引張伸び率を下回ること。
(3)前記信号線の導体及びドレン線は銅合金で形成され、焼き鈍し処理を施したものであること。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、破断強度と屈曲特性との好適なバランスを得るために、(2)におけるドレン線の引張伸び率と信号線の導体の引張伸び率との比を略1:2としたものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の目的に加えて、シールド層とドレン線との電気的接触を安定状態とするために、信号線とドレン線との仕上げ外径を同一にしたものである。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、線状の導体に絶縁被覆を外装して信号線を形成し、複数の前記信号線と、線状の導体であるドレン線とを撚り合わせてその外周をシールド層で被覆し、さらに前記シールド層の外周を絶縁性シースで被覆するシールドケーブルの製造方法であって、前記信号線の導体及びドレン線に下記(1)〜(3)の要件を満たすものを使用することを特徴とするものである。
(1)前記信号線の導体の断面積が0.13mm以下、前記ドレン線の断面積が0.22mm以下であること。
(2)前記ドレン線の引張伸び率が、前記信号線の導体の引張伸び率を下回ること。
(3)前記信号線の導体及びドレン線が銅合金で形成され、焼き鈍し処理を施したものであること。
請求項5に記載の発明は、請求項4の目的に加えて、破断強度と屈曲特性との好適なバランスを得るために、(2)におけるドレン線の引張伸び率と信号線の導体の引張伸び率との比を略1:2としたものである。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5の目的に加えて、シールド層とドレン線との電気的接触を安定状態とするために、信号線とドレン線との仕上げ外径を同一にしたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1及び4に記載の発明によれば、信号線の導体とドレン線との断面積及び引張伸び率の設定により、ダミー線を用いたりケーブルの形態を変えたりすることなく、必要な破断強度と屈曲特性とを確保しつつ細径化が達成可能となる。よって、車両内での引き回しも容易に行える。また、銅合金を採用して焼き鈍し処理を施すことで、耐熱性の向上とコストダウンが期待できる上、機械強度や伸び率の調質も容易となる。
請求項2及び5に記載の発明によれば、請求項1及び4の効果に加えて、引張伸び率の比の設定により、破断強度と屈曲特性との好適なバランスを得ることができる。
請求項3及び6に記載の発明によれば、請求項1,2及び4,5の効果に加えて、シールド層とドレン線との電気的接触が安定状態となって良好な信号の供給が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のシールドケーブルの一例を示す説明図、図2はシールドケーブルの横断面図で、シールドケーブル1は、線状の導体3を絶縁体4で被覆して得られる複数(ここでは2本)の信号線2,2と、同じく線状の導体であるドレン線5とを撚り合わせて、その外周を金属箔のシールド層6で被覆し、さらにシールド層6の外周を絶縁性シース7で被覆してなる。特にここでは、絶縁体4を含む信号線2の仕上げ外径とドレン線5の外径とを同一にしている。これは、シールド層6とドレン線5との電気的接触を安定状態とするためで、これによって良好な信号の供給が可能となる。
また、シールドケーブル1において、信号線2の導体3は、銅合金を用い、これを断面積0.13mm以下に伸線して焼き鈍し処理を行ったものが使用される。また、ドレン線5も、同じく銅合金を用い、これを断面積0.22mm以下に伸線して焼き鈍し処理を行ったものが使用される。絶縁体4や絶縁性シース7には、ポリ塩化ビニルやポリエチレン等の周知の樹脂材料が使用される。
【0011】
信号線2の導体3及びドレン線5の断面積の設定は、細径化の要請に応えるためである。但し、このままでは機械強度、特に屈曲特性が低下してしまうため、ここでは、ドレン線5の引張伸び率が信号線2の導体3の引張伸び率を下回るように両者を調質している。このように引張伸び率の関係を設定することで、屈曲時の荷重を引張伸び率の低いドレン線5側で負担させて、信号線2側では破断強度が低くくなっても断線が防止可能となる。すなわち、信号線2の導体3の細径化を維持しつつ、屈曲特性の向上が図られる。この場合、ドレン線5の引張伸び率と信号線2の導体3の引張伸び率とは特に略1:2の比で設定するのが望ましい。破断強度と屈曲特性との好適なバランス維持のためである。
【0012】
また、併せて信号線2の導体3とドレン線5とに焼き鈍し処理を行うことで、引張伸び率や破断強度の調質が容易となっている。ここで、焼き鈍しによる破断強度の調質は、信号線2の導体3においては硬質の導体強度(破断荷重140〜145N)の50%程度、ドレン線5においては95%程度となるように行うのが望ましい。ドレン線5側での強度確保のためである。なお、焼き鈍し処理は、線材を還元ガス雰囲気の加熱炉内で加熱処理する方法や、通電によって加熱処理する方法等の周知の方法が採用される。
特に銅合金の採用により、耐熱性の向上とコストダウンが期待できる。銅合金はTPC銅(タフピッチ銅)に比べて軟化特性が緩やかで、屈曲特性も良好であるので、車両のドア部にも使用されるシールドケーブルに好適となる。表1に、0.7%のスズ入り銅合金とTPC銅との屈曲特性(回数)の比較を示す。なお、この屈曲特性は、断面積0.57mmの電線を用いて、後述する実施例での屈曲特性試験と同様の手順で得たものである。
【0013】
【表1】

【実施例】
【0014】
表2に、本発明に基づいて線径及び破断強度、引張伸び率を調質したシールドケーブルである実施例A及びBと、線径は実施例と同等で引張伸び率を信号線の導体とドレン線とで等しくした比較例C及びDとを提示する。なお、何れも導体材質は0.7%のスズ入り銅合金であるが、本発明では0.2〜2.0%のスズ入り銅合金が好適に使用可能である。
【0015】
【表2】

【0016】
《引張伸び試験》
表2に示す信号線及びドレン線の破断強度及び引張伸び率は、以下の試験によって得ている。
23±5℃の室温で、引張試験機(JISB77212に準拠)を用い、約400mmの長さの素線(中央部に250mm間隔の標線を記す)の両端を試験機のチャックで把持させて、100mm/minの速さで切断するまで引っ張り、切断時の荷重及び標線間の長さを測定したものである。
破断強度TS(Mpa)は、TS=F/Aで算出している。
(F:最大引張荷重(N)、A:断面積(mm))
引張伸び率EL(%)は、EL=(L−L)/L×100で算出している。
(L:切断後に突き合わせた標線間の長さ、L:元の標線距離)
【0017】
《屈曲特性試験》
また、シールドケーブルの屈曲特性は、以下の試験によって得ている。
23℃の室内で、屈曲試験機を用い、約1000mmの長さのシールドケーブルの下端をU字状にしてそのU字状部に荷重(3.92N)を下向きに加えた状態で、鉛直方向の中間部にφ25mmのマンドレルを水平に当接させて、シールドケーブル内部の電線に通電させ、シールドケーブルのマンドレルより上側部分を90度屈曲させて再び鉛直方向に起立させる動作を毎分50〜60回のサイクルで繰り返して、導通がなくなった時を屈曲回数としたものである。
ここでの屈曲回数の評価は、背景技術で説明した特許文献2に開示されているシールドケーブル(信号線の導体が0.22mm、ドレン線が0.38mm)の屈曲回数と同程度以下のものを不可、2倍程度のものを良、3倍以上のものを優としている。
【0018】
このように、上記シールドケーブル及びその製造方法によれば、信号線の導体とドレン線との断面積及び引張伸び率の設定により、ダミー線を用いたりケーブルの形態を変えたりすることなく、必要な破断強度と屈曲特性とを確保しつつ細径化が達成可能となる。よって、車両内での引き回しも容易に行える。また、銅合金を採用して焼き鈍し処理を施すことで、耐熱性の向上とコストダウンが期待できる上、機械強度や伸び率の調質も容易となる。
【0019】
なお、上記形態では信号線とドレン線との仕上げ外径を同一としているが、信号線の数によってはドレン線の外径を信号線より小さくしてもよい。
また、信号線の導体とドレン線との断面積や引張伸び率も上記実施例の数値に限らず、本発明の要件を満たすものであれば適宜変更可能である。
さらに、信号線の導体とドレン線とは単線でも撚り線でも差し支えないが、撚り線の場合は素線の断面積の合計を本発明の設定にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】シールドケーブルの説明図である。
【図2】シールドケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1・・シールドケーブル、2・・信号線、3・・導体、4・・絶縁体、5・・ドレン線、6・・シールド層、7・・絶縁性シース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁被覆付き信号線とドレン線とを撚り合わせてその外周をシールド層と絶縁性シースとで順に被覆してなり、下記(1)〜(3)の要件を満たすことを特徴とするシールドケーブル。
(1)前記信号線の導体の断面積が0.13mm以下、前記ドレン線の断面積が0.22mm以下であること。
(2)前記ドレン線の引張伸び率が、前記信号線の導体の引張伸び率を下回ること。
(3)前記信号線の導体及びドレン線は銅合金で形成され、焼き鈍し処理を施したものであること。
【請求項2】
(2)におけるドレン線の引張伸び率と信号線の導体の引張伸び率との比が略1:2である請求項1に記載のシールドケーブル。
【請求項3】
信号線とドレン線との仕上げ外径を同一にした請求項1又は2に記載のシールドケーブル。
【請求項4】
線状の導体に絶縁被覆を外装して信号線を形成し、複数の前記信号線と、線状の導体であるドレン線とを撚り合わせてその外周をシールド層で被覆し、さらに前記シールド層の外周を絶縁性シースで被覆するシールドケーブルの製造方法であって、前記信号線の導体及びドレン線に下記(1)〜(3)の要件を満たすものを使用することを特徴とするシールドケーブルの製造方法。
(1)前記信号線の導体の断面積が0.13mm以下、前記ドレン線の断面積が0.22mm以下であること。
(2)前記ドレン線の引張伸び率が、前記信号線の導体の引張伸び率を下回ること。
(3)前記信号線の導体及びドレン線が銅合金で形成され、焼き鈍し処理を施したものであること。
【請求項5】
(2)におけるドレン線の引張伸び率と信号線の導体の引張伸び率との比が略1:2である請求項4に記載のシールドケーブルの製造方法。
【請求項6】
信号線とドレン線との仕上げ外径を同一にした請求項4又は6に記載のシールドケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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