説明

ジ−tert−ブチルシランの製造方法

【構成】 ジクロロシランと下記一般式(1)
(CH33CMgX ・・・(1)
(但し、式中Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)で示されるグリニャール試薬とを銅化合物の存在下に反応させることを特徴とするジ−tert−ブチルシランの製造方法。
【効果】 本発明のジ−tert−ブチルシランの製造方法によれば、安全で取扱が容易である上安価なグリニャール試薬を用いているので、工業的に有利である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、還元剤として有用であると共に、ジ−tert−ブチルジクロロシランやジ−tert−ブチルジメトキシシランなどの製造原料として有用なジ−tert−ブチルシランの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】ジ−tert−ブチルシランは、それ自体優れた還元剤であり、また、ジ−tert−ブチルジクロロシランあるいはジ−tert−ブチルジメトキシシランの合成原料として有用であることが知られている。
【0003】従来、ジ−tert−ブチルシランを良好な収率で得ることができる製造方法としては、ジクロロシランをtert−ブチルリチウムと反応させる方法が知られている(特開昭57−139085号公報)。
【0004】しかしながら、この方法で用いるtert−ブチルリチウムは極めて反応性が高く、空気と接触するだけで自然発火してしまい、大量に取り扱う場合には危険度が高く、また、高価でもあり、このため工業的な製造には適さない方法である。
【0005】このようなtert−ブチルリチウムの代わりに安価でかつ自然発火することがなく、取扱が容易なグリニャール試薬を使用する方法が考えられるが、グリニャール試薬は、tert−ブチルリチウムと比較して反応性が低いため、ジクロロシランに対しては目的物を得ることはできないものであった。
【0006】本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、安全で取扱が容易な上、安価なグリニャール試薬を用いてジ−tert−ブチルシランを製造できる方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ジクロロシランと下記一般式(1)
(CH33CMgX ・・・(1)
(但し、式中Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)で示されるグリニャール試薬とを反応させる場合、銅化合物を触媒として用いることにより、容易に反応が進行し、高収率でジ−tert−ブチルシランが得られることを見い出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】従って、本発明は、ジクロロシランと上記一般式(1)で示されるグリニャール試薬とを銅化合物の存在下に反応させることを特徴とするジ−tert−ブチルシランの製造方法を提供する。
【0009】本発明のジ−tert−ブチルシランの製造方法は、出発原料としてジクロロシランと(CH33C−MgXのグリニャール試薬を用いる。
【0010】この場合、上記グリニャール試薬は、金属マグネシウム及び臭素又はヨウ素をテトラヒドロフラン等の溶媒に仕込み、これに窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、ジ−tert−ブチルクロライドを滴下、反応させるなどの方法で得ることができる。
【0011】本発明においては、かかるグリニャール試薬を用いてジクロロシランと反応させる際、触媒として銅化合物を使用するものである。
【0012】かかる銅化合物としては、塩化銅、塩化第二銅、臭化銅、臭化第二銅、ヨウ化銅、シアン化銅などの塩、あるいはLi2CuCl4、LiCu(CN)Clなどの錯化合物を挙げることができる。銅化合物の使用量は触媒量であるが、ジクロロシランに対して0.01〜10モル%、特に0.5〜5モル%の範囲が好ましい。
【0013】本反応は、有機溶媒中で行うことが好ましく、この有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、あるいはヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒などの不活性溶媒を挙げることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0014】また、この反応は、ジクロロシラン1モルに対して式(1)で示されるグリニャール試薬を2〜3モルの割合で使用し、10〜150℃、特に40〜100℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0015】なお、反応系に酸素が存在すると、この反応段階でグリニャール試薬が酸素と反応して収率低下の原因となるので、この反応は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気で行うことが望ましい。
【0016】本発明の製造方法によって得られるジ−tert−ブチルシランは、それ自体優れた還元剤であると共に、ジ−tert−ブチルジクロロシランやジ−tert−ブチルジメトキシシランの合成原料として有用である。
【0017】上記ジ−tert−ブチルジクロロシランは、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンワニス等のシリコーン系ポリマーの原料として、あるいは樹脂改質剤、シリル化剤等として有用な化合物である。このジ−tert−ブチルジクロロシランは、ジ−tert−ブチルシランを用いて、これを塩素と反応させる方法、あるいは塩化パラジウム等の金属塩化物やパラジウム等の金属触媒の存在下に四塩化炭素と反応させる方法により合成することができる。
【0018】また、ジ−tert−ブチルジメトキシシランは、各種シリコーン製品の製造原料、オレフィン重合における触媒成分、シランカップリング剤、樹脂改質剤等の用途を持つ有用な化合物であり、ジ−tert−ブチルシランを用いて、これを、ナトリウムメトキシド等の金属アルコキシドあるいはパラジウム等の金属触媒の存在下、メタノールと反応させる方法等によって合成することができる。
【0019】
【発明の効果】本発明のジ−tert−ブチルシランの製造方法によれば、安全で取扱が容易である上安価なグリニャール試薬を用いているので、工業的に有利である。
【0020】
【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0021】[実施例1]撹拌機、還流冷却器、温度計及び滴下ロートを備えた500mlのフラスコ中に、金属マグネシウム12.2g(0.5モル)、テトラヒドロフラン300ml及び少量のヨウ素を仕込み、窒素ガス雰囲気下に滴下ロートよりtert−ブチルクロライド50.9g(0.55モル)を内温40〜50℃で1時間滴下し、さらに55℃で1時間撹拌したところ、グリニャール試薬としてのtert−ブチルマグネシウムクロライドが得られた。
【0022】次に、滴下ロートをガスフィード管に取り替え、上で得られた反応液中に臭化銅0.72g(5ミリモル)を添加した後、ガスフィード管より50℃でジクロロシラン24.3g(0.24モル)を1時間かけてフィードして、そのまま2時間撹拌した。
【0023】この反応液を減圧下にろ過して塩を除去した後、減圧留去することにより、46〜50℃/45mmHgの沸点を有する溜分としてジ−tert−ブチルシラン22.2gを得た。収率は64%であった。
【0024】得られたジ−tert−ブチルシランについて分析を行った結果、赤外吸収スペクトル(IR)は、2100cm-1にSi−Hの吸収を示し、また、質量スペクトル(MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)の測定結果を次の通りであり、得られた化合物がジ−tert−ブチルシランであることを確認した。
*質量スペクトル(MS):m/z(帰属)
144 (分子イオン(M+)ピーク)
87 ((M−tert−ブチル)+ ピーク)
*核磁気共鳴スペクトル(NMR):δ(ppm)
1.07(シングレット,C−C3,18H)
3.40(シングレット,Si−,2H)
【0025】[実施例2]撹拌機、還流冷却器、温度計及び滴下ロートを備えた500mlのフラスコ中に、金属マグネシウム12.2g(0.5モル)、テトラヒドロフラン150ml及び少量のヨウ素を仕込み、窒素ガス雰囲気下に滴下ロートよりtert−ブチルクロライド50.9g(0.55モル)を内温40〜50℃で1時間滴下し、さらに55℃で1時間撹拌したところ、グリニャール試薬としてのtert−ブチルマグネシウムクロライドが得られた。
【0026】次に、滴下ロートをガスフィード管に取り替え、上で得られた反応液中にシアン化銅0.45g(5ミリモル)及びo−キシレン150mlを添加した後、ガスフィード管より50℃でジクロロシラン24.3g(0.24モル)を1時間かけてフィードして、そのまま2時間撹拌した。
【0027】この反応液を減圧下にろ過して塩を除去した後、減圧留去することにより、46〜50℃/45mmHgの沸点を有する溜分としてジ−tert−ブチルシラン20.8gを得た。収率は60%であった。
【0028】得られたジ−tert−ブチルシランについて赤外吸収スペクトル(IR)、質量スペクトル(MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定したところ、実施例1と同様の結果であった。
【0029】[比較例]触媒である臭化銅を使用しない以外は、実施例1と同様の方法で反応を行ったところ、ジ−tert−ブチルシランが全く生成していないことをガスクロマトグラフィーの分析で確認した。
【0030】[参考例]撹拌機、還流冷却器、温度計及び滴下ロートを備えた200mlのフラスコ中にナトリウムメトキシド0.27g(5ミリモル)及びメタノール64.0gを仕込み、窒素ガス雰囲気下に滴下ロートよりジ−tert−ブチルシラン14.4g(0.1モル)を内温55〜60℃で1時間滴下し、さらに還流下に5時間撹拌した。この反応液を減圧留去することにより沸点87〜88℃/20mmHgの溜分としてジ−tert−ブチルジメトキシシラン18.4gを得た。収率は90%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ジクロロシランと下記一般式(1)
(CH33CMgX ・・・(1)
(但し、式中Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)で示されるグリニャール試薬とを銅化合物の存在下に反応させることを特徴とするジ−tert−ブチルシランの製造方法。