説明

ジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤

【課題】種々の溶媒に対して、ゲル化能を有するゲル化剤の提供。
【解決手段】下記式I
(式中、R及びRは、各々独立に、a)−n-C2n+1(式中、nは10〜16の整数を示す);b)−(CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、mは3〜9の整数を示す);c)−CH−ph−CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、phは置換されてもよいフェニル基を示す);及びd)式dで表される基(式d中、rは3〜6の整数を示す);からなる群から選ばれる基である)で表されるジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤により、上記課題を解決する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子ゲル化剤は、ゲル化剤分子が分子間力による自己組織化により集まった繊維が絡み合って3次元の網目状構造を作り、その中に溶媒分子を保持することで、溶媒を固定化する。このようにしてできる低分子ゲル化剤は油の固化による処理のような単純な利用法(例えば特許文献1を参照のこと)から、分離膜やセンサー、さらには、電子、バイオなど様々な分野での応用が期待されている。
ゲル化剤ごとにゲル化出来る溶媒は異なっており、様々な分子間相互作用が有効に働く非極性溶媒のみに作用するゲル化剤の報告が多い。
【0003】
一方、通常のジアルキルスルファミドは、水素結合により強固なシート状構造を作ることが知られている(非特許文献1)。今まで報告されてきたジアルキルスルファミドは基本的に高い結晶性を有するため、有機溶媒中では沈殿が起こるのみであり、ゲルに関する報告は無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−256303号公報。
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B. Gong et al., Org. Lett. 2000, 2, 3273。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、種々の溶媒に対して、即ち極性溶媒に対しても非極性溶媒に対してもゲル化能を有するゲル化剤はないか、その報告がほとんどなく、そのようなゲル化剤が要望されている。
そこで、本発明の目的は、種々の溶媒に対して、ゲル化能を有するゲル化剤を提供することにある。
具体的には、本発明の目的は、種々の溶媒に対して、ゲル化能を有する、ジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ジアルキルスルファミド誘導体について研究し、水素結合により形成されるシート状構造の表面に位置するアルキル鎖の形状や末端に導入する置換基を変化させることにより、結晶性を下げるとともに、シートの性質を変えて溶媒への親和性を制御することが可能となり、ゲル化剤として作用することが分かった。
即ち、本発明者らは、次の発明を見出した。
【0008】
<1> 下記式I
(式中、R及びRは、各々独立に、
a)−n-C2n+1(式中、nは10〜16、好ましくは12〜14の整数を示す);
b)−(CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、mは3〜9、好ましくは6〜8の整数を示す);
c)−CH−ph−CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、phは置換されてもよいフェニル基を示す);及び
d)式dで表される基(式d中、rは3〜6、好ましくは3の整数を示す);からなる群から選ばれる基である)
で表されるジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤。
【0009】
【化1】

【0010】
<2> 上記<1>において、ゲル化の対象溶媒が、水、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数5〜12、好ましくは炭素数6〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0011】
<3> 上記<1>又は<2>において、R及びRの双方がa)の基であり、nが12〜14の整数であるのがよい。
この際、特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数5〜12、好ましくは炭素数6〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0012】
<4> 上記<1>又は<2>において、R及びRのうち一方がa)の基であり、他方がb)の基であり、nが12〜14の整数であり、mが6〜8の整数であるのがよい。特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数1〜12、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数5〜12、好ましくは炭素数6〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0013】
<5> 上記<1>又は<2>において、R及びRのうち一方がa)の基であり、他方がc)の基であり、nが12〜14の整数であるのがよい。特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0014】
<6> 上記<1>又は<2>において、R及びRの双方がc)の基であるのがよい。特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数6〜8の芳香族炭化水素であるのがよい。
【0015】
<7> 上記<1>又は<2>において、R及びRのうち一方がa)の基であり、他方がd)の基であり、nが12〜14の整数であり、rが3であるのがよい。特に、ゲル化の対象溶媒が、水、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、種々の溶媒に対して、ゲル化能を有するゲル化剤を提供することができる。
具体的には、本発明により、種々の溶媒に対して、ゲル化能を有する、ジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、下記式Iで表されるジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤を提供する。
【0018】
【化2】

【0019】
式I中、R及びRは、各々独立に、以下のa)〜d)からなる群から選ばれる1種を示す。
a)炭素数10〜16、好ましくは12〜14の直鎖アルキル基、即ち−n-C2n+1(式中、nは10〜16、好ましくは12〜14の整数を示す。なお、Cの前の「n-」は直鎖であることを明記する意図である);
b)−(CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、mは3〜9、好ましくは6〜8の整数を示す);
c)−CH−ph−CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、phは置換されてもよいフェニル基を示す);及び
d)式dで表される基(式d中、rは3〜6、好ましくは3の整数を示す)。
【0020】
【化3】

【0021】
式Iで表されるジアルキルスルファミド誘導体は、上述のように、水素結合によりシート状構造が形成される。また、この構造の表面に位置するR及び/又はRの形状や末端に導入する置換基を変化させることにより、結晶性を下げるとともに、シートの性質を変えて溶媒への親和性を制御することが可能となり、ゲル化剤として作用させることができる。
【0022】
本発明のゲル化剤は、種々の溶媒をゲル化させることができ、例えば、水;炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール;炭素数5〜12、好ましくは炭素数6〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素;炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素;及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素;からなる群から選ばれる1種以上の溶媒をゲル化させることができる。
【0023】
特に、本発明のゲル化剤は、R及びRの双方がa)の基であり、nが12〜14の整数であるのがよい。
この際、特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数5〜12、好ましくは炭素数6〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0024】
特に、本発明のゲル化剤は、R及びRのうち一方がa)の基であり、他方がb)の基であり、nが12〜14の整数であり、mが6〜8の整数であるのがよい。
この際、特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数1〜12、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数5〜12、好ましくは炭素数6〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0025】
特に、本発明のゲル化剤は、R及びRのうち一方がa)の基であり、他方がc)の基であり、nが12〜14の整数であるのがよい。
この際、特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0026】
特に、本発明のゲル化剤は、R及びRの双方がc)の基であるのがよい。
この際、特に、ゲル化の対象溶媒が、炭素数6〜8の芳香族炭化水素であるのがよい。
【0027】
特に、本発明のゲル化剤は、R及びRのうち一方がa)の基であり、他方がd)の基であり、nが12〜14の整数であり、rが3であるのがよい。
この際、特に、ゲル化の対象溶媒が、水、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であるのがよい。
【0028】
本発明のゲル化剤、特に式Iで表されるジアルキルスルファミド誘導体は、次のように、調製することができる。
即ち、RとRが同じである場合、該Rに対応するアミンと塩化スルフリルを、溶媒中で、低温、例えば−78℃で反応させ、その後、溶媒除去し、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:例えばクロロホルム-エタノール)および再結晶により精製することにより、調製することができる。
また、RとRとが異なる場合、塩化スルフリルにアミンを順次導入する手法が用いられる。具体的には、Fettesらの手法(J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 2002, 485.)に準じて反応を進めて、調製することができ、パラニトロフェノールによる保護を介してテトラデシルアミンを1本導入し、その後極性部位を持つアミンを導入することで目的物を得ることができる。
なお、反応に用いる溶媒、温度などは、用いるアミンなどに依存する。
【0029】
本発明のゲル化剤、特に式Iで表されるジアルキルスルファミド誘導体は、上述のように、塩化スルフリルと、RとRに対応するアミンとを混合することにより容易に作成することができるので、用いるアミンを変えるだけで、多様な溶媒に対するゲル化剤を容易に調製することができる。
【0030】
本発明のゲル化剤は、廃油の固化による処理;刺激応答によるセンサー;薬剤の徐放など;さまざまな分野での応用が考えられる。多様な溶媒をゲル化できることは、溶媒が変化してもゲル状態を保つことにつながり、このような応用を行っていく上での利点となる。
【0031】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
<化合物1〜5の合成>
以下に示す化合物1〜5を調製した。
なお、化合物1は、R及びRの双方が−n-C1429で表される基であり、
化合物2は、R及びRの一方が−n-C1429で表される基であり且つR及びRの他方が−(CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CHで表される基であり、
化合物3は、R及びRの一方が−n-C1429で表される基であり且つR及びRの他方が−CH−ph−CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CHで表される基であり、
化合物4は、R及びRの双方が−CH−ph−CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CHで表される基であり、
化合物5は、R及びRの一方が−n-C1429で表される基であり且つR及びRの他方が−(CH−O−CH−CH(OH)−CH−OHで表される基である。
【0033】
【化4】

【0034】
化合物1及び4については、対応するアミンと塩化スルフリルを−78℃にて反応させ、溶媒除去後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒: クロロホルム-エタノール) および再結晶により精製した。
また、化合物2、3及び5については、塩化スルフリルにアミンを順次導入するために、Fettesらの手法(J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 2002, 485.)に準じて反応を進めた。すなわち、パラニトロフェノールによる保護を介してテトラデシルアミンを1本導入し、その後極性部位を持つアミンを導入することで目的物を得た。
【0035】
<ゲル化能の測定>
サンプル瓶に化合物1〜5で表される、いずれかのスルファミド型ゲル化剤0.05gを量り取り、各溶媒0.95gを加えて溶媒の沸点以下の温度で加熱し、5wt%溶液とした。静置により室温まで冷却した際に、下端にある試料を逆さまにしても溶媒が流下しないことをもって、ゲル化が起こったと判定した(inversion method)。ゲル化能ありと判定されたものについてはその濃度を減らして同様の実験を行い、ゲル化がみられる最低の濃度を最低ゲル化濃度とした。
その他のゲル化剤も同様の手法を用いてゲル化能の有無および最低ゲル化濃度の測定を行った。
その結果を表1に示す。表1中、「S」は溶液状であること、「I」は不溶であること、「P」は沈殿物が生成したこと、「V」は5wt%で粘性液状であること、をそれぞれ示す。また、各数値は、ゲル化が生じたことを示すと共に、該ゲル化が生じた最小ゲル化濃度を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から、化合物1〜5は各々、ゲル化可能な溶媒が異なるものの、種々の溶媒に対してゲル化できることがわかる。特に、化合物1は、水以外でゲル化が生じ、種々の溶媒に対してゲル化能を有することがわかる。また、化合物5は、ヘキサン以外でゲル化が生じ、種々の溶媒に対してゲル化能を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I
(式中、R及びRは、各々独立に、
a)−n-C2n+1(式中、nは10〜16の整数を示す);
b)−(CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、mは3〜9の整数を示す);
c)−CH−ph−CH−O−CH−CH−O−CH−CH−O−CH(式中、phは置換されてもよいフェニル基を示す);及び
d)式dで表される基(式d中、rは3〜6の整数を示す);からなる群から選ばれる基である)
で表されるジアルキルスルファミド誘導体を有するゲル化剤。
【化1】

【請求項2】
ゲル化の対象溶媒が、水、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルコール、炭素数5〜12の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素、炭素数1〜4のハロゲン化脂肪族炭化水素、及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載のゲル化剤。
【請求項3】
及びRの双方が前記a)の基であり、nが12〜14の整数である請求項1又は2記載のゲル化剤。
【請求項4】
及びRのうち一方が前記a)の基であり、他方が前記b)の基であり、
nが12〜14の整数であり、mが6〜8の整数である請求項1又は2記載のゲル化剤。
【請求項5】
及びRのうち一方が前記a)の基であり、他方が前記c)の基であり、
nが12〜14の整数である請求項1又は2記載のゲル化剤。
【請求項6】
及びRの双方が前記c)の基である請求項1又は2記載のゲル化剤。
【請求項7】
及びRのうち一方が前記a)の基であり、他方が前記d)の基であり、
nが12〜14の整数であり、rが3である請求項1又は2記載のゲル化剤。