説明

ジチエニルスルフィド化合物の製造方法

【課題】
ジチエニルスルフィド化合物を簡便に高収率、高純度で製造する方法を提供すること。
【解決手段】
式(1):
【化1】


(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数4〜10のアリールチオ基、置換基を有していてもよい単環式炭素環基または置換基を有していてもよい単環式複素環基を示す。)で表されるジチエニルスルホキシド化合物を酸の存在下、還元剤を用いて還元する式(2):
【化2】


(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるジチエニルスルフィド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体デバイスとして有用なオリゴ(チエニレンスルフィド)やポリ(チエニレンスルフィド)、また光酸発生剤あるいは光カチオン重合開始剤として有用なトリアリールスルホニウム塩の原料に用いられるジチエニルスルフィド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジチエニルスルフィド化合物を製造する方法としては、2−ブロモチオフェンと2−チオフェンチオールとを酸化銅(I)の存在下に塩基性条件で反応させる方法(非特許文献1)や、2−ヨードチオフェンと2−チオフェンチオールとをヨウ化銅(I)およびネオクプロイン触媒の存在下で反応させる方法(非特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.0rg.Chem.,1996,61,7608
【非特許文献2】0rg.Lett.,2002,4,2803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2−ブロモチオフェンと2−チオフェンチオールとを酸化銅(I)の存在下に塩基性条件で反応させる方法においては、反応を進行させるために、加熱条件下に長時間攪拌する必要があり、さらに反応後、酸化銅や副生物のろ過に長時間を要するため、工業的に有利な製造方法とは言い難い。また、2−ヨードチオフェンと2−チオフェンチオールとをヨウ化銅(I)およびネオクプロイン触媒の存在下で反応させる方法においては、触媒が高価であることや、ヨウ化銅や副生物のろ過に長時間を要するなどの不具合がある。
【0005】
本発明の目的は、有機半導体デバイスとして有用なオリゴ(チエニレンスルフィド)やポリ(チエニレンスルフィド)、また光酸発生剤あるいは光カチオン重合開始剤として有用なトリアリールスルホニウム塩の原料となるジチエニルスルフィド化合物を簡便に高収率、高純度で製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(1):
【0007】
【化1】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数4〜10のアリールチオ基または置換基を有していてもよい単環式炭素環基または置換基を有していてもよい単環式複素環基を示す。)で表されるジチエニルスルホキシド化合物を酸の存在下、還元剤を用いて還元する式(2):
【0008】
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるジチエニルスルフィド化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
ジチエニルスルフィド化合物を簡便に高収率、高純度で製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いられるジチエニルスルホキシド化合物は下記式(1)で表される。
【0011】
【化3】

【0012】
式中、2個のRは、同じ基を示し、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数4〜10のアリールチオ基、置換基を有していてもよい単環式炭素環基または置換基を有していてもよい単環式複素環基を示す。
【0013】
前記式(1)において、Rで示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基およびデシル基等が、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等が、炭素数1〜20のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、デシルチオ基およびオクタデシルチオ基等が、炭素数4〜10のアリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基およびチエニルチオ基等が、置換基を有していてもよい単環式炭素環基としては、例えば、フェニル基および置換基を有するフェニル基等が、置換基を有していてもよい単環式複素環基としては、例えば、チエニル基および置換基を有するチエニル基等が挙げられる。
【0014】
前記置換基を有していてもよい単環式炭素環基および置換基を有していてもよい単環式複素環基の置換基としては、例えば、水酸基、アセトキシ基、フェニル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基およびハロゲン原子等が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基およびデシル基等が、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ等が、炭素数1〜4のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基およびブチルチオ基等が、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。
【0015】
前記式(1)において、Rで示される基の中でも、原料の入手性、経済性の観点から、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基および炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基がより好ましい。
【0016】
式(1)で表されるジチエニルスルホキシド化合物の具体例としては、例えば、2,2’−ジチエニルスルホキシド、2,2’−ビス−5−メチルチエニルスルホキシド、2,2’−ビス−5−エチルチエニルスルホキシド、2,2’−ビス−5−プロピルチエニルスルホキシド、2,2’−ビス−5−ブチルチエニルスルホキシドおよび2,2’−ビス−5−ペンチルチエニルスルホキシド等が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられるジチエニルスルホキシド化合物は、市販されているものをそのまま使用してもよいし、適宜製造したものを使用してもよい。
【0018】
ジチエニルスルホキシド化合物の製造方法としては、例えば、特許文献(特開平7−215930)を参考にして行うことができる。例えば、2,2’−ジチエニルスルホキシドを製造する場合は、2−ブロモチオフェンより調製したチオフェングリニャール試薬に塩化チオニルを滴下することにより製造することができる。
【0019】
本発明において、前記式(1)で表されるジチエニルスルホキシド化合物を酸の存在下に還元して式(2):
【0020】
【化4】

で表されるジチエニルスルフィド化合物を得ることができる。式(2)中、Rは、式(1)におけるRと同じ基を示す。
【0021】
式(2)で表されるジチエニルスルフィド化合物の具体例としては、例えば、2,2’−ジチエニルスルフィド、2,2’−ビス−5−メチルチエニルスルフィド、2,2’−ビス−5−エチルチエニルスルフィド、2,2’−ビス−5−プロピルチエニルスルフィド、2,2’−ビス−5−ブチルチエニルスルフィドおよび2,2’−ビス−5−ペンチルチエニルスルフィド等が挙げられる。
【0022】
前記ジチエニルスルホキシド化合物の還元に用いられる還元剤は、例えば、亜鉛、鉄および錫などの金属を挙げることができる。これらの中でも経済性、および環境負荷を軽減する観点から鉄を用いることが好ましい。なお、これら還元剤は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
前記還元剤の使用割合は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、ジチエニルスルホキシド化合物1モルに対して、0.4〜5モルであることが好ましく、0.5〜3モルであることがより好ましい。
【0024】
本発明に用いられる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸およびリン酸等の鉱酸、酢酸、シュウ酸および安息香酸等の有機カルボン酸並びにメタンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸等が挙げられる。
【0025】
前記酸の使用割合は、特に限定されないが、収率を向上させる観点および経済性の観点から、前記還元剤1モルに対して、1〜10モルであることが好ましく、4〜7モルであることがより好ましい。
【0026】
前記還元に用いられる溶媒は、当該反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、キシレンおよびシクロペンチルメチルエーテル等を挙げることができる。
【0027】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、ジチエニルスルホキシド化合物100重量部に対して、100 〜 10000重量部であることが好ましく、200〜5000重量部であることがより好ましい。
【0028】
前記還元の反応温度は、特に限定されないが、0〜100℃であることが好ましく、20〜60℃であることがより好ましい。反応温度が100℃を超えると、副反応が起こり収率が低下するおそれがあり、0℃未満であると、反応速度が実用上、遅くなりすぎるおそれがある。反応時間は、反応温度によって異なるため、一概には言えないが、0.5〜24時間であることが好ましく、1〜10時間であることがより好ましい。
【0029】
このようにして得られたジチエニルスルフィド化合物の単離、精製は、例えば、減圧蒸留、再結晶またはカラム精製等、通常の有機化合物の合成反応において用いられる方法と同様の方法を用いることができる。
【0030】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0031】
合成例1
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた2L容の四つ口フラスコに、削り状マグネシウム29.2g(1.2モル)、シクロペンチルメチルエーテル500gを仕込み、20〜50℃で、撹拌しながら2−ブロモチオフェン163.0g(1.0モル)を2時間かけて滴下した後、さらに同温度で1時間撹拌し、チオフェングリニャール試薬を調製した。その後、前記チオフェングリニャール試薬を20℃に保温し、攪拌しながら塩化チオニル59.5g(0.5モル)を2時間かけて滴下し、希塩酸で洗浄した後、濃縮し、カラム精製により2,2’−ジチエニルスルホキシド91.1gを得た。2,2’−ジチエニルスルホキシドの塩化チオニルに対する収率は、85.5%であった。
【0032】
実施例1
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた2L容の四つ口フラスコに、合成例1の方法に従って取得した2,2’−ジチエニルスルホキシド91.1g(0.43モル)と、モノクロロベンゼン430gとを仕込み、50℃で攪拌しながら35%塩酸516.0g(5.0モル)と鉄粉46.4g(1.72モル)を加え、さらに50℃で4時間撹拌を続けた。その後、反応液を濾過し、有機層を分液した後、濃縮し、減圧蒸留により、2,2’−ジチエニルスルフィド78.9gを得た。2,2’−ジチエニルスルフィドの2,2’−ジチエニルスルホキシドに対する収率は92.5%であった。2,2’−ジチエニルスルフィドの純度は高速液体クロマトグラフ測定の結果、99.7%であった。
【0033】
実施例2
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた2L容の四つ口フラスコに、削り状マグネシウム29.2g(1.2モル)、シクロペンチルメチルエーテル500gを仕込み、20〜50℃で、撹拌しながら2−ブロモチオフェン163.0g(1.0モル)を2時間かけて滴下した後、さらに同温度で1時間撹拌し、チオフェングリニャール試薬を調製した。その後、前記チオフェングリニャール試薬を20℃に保温し、攪拌しながら塩化チオニル59.5g(0.5モル)を2時間かけて滴下し、希塩酸で洗浄した後、2,2’−ジチエニルスルホキシド溶液を得た。
次いで、35%塩酸600.0g(5.8モル)と鉄粉54.0g(2.0モル)を加え、50℃で4時間撹拌を続け、反応液を得た。その後、前記反応液を濾過し、有機層を分液した後濃縮し、減圧蒸留により、2,2’−ジチエニルスルフィド74.5gを得た。2,2’−ジチエニルスルフィドの塩化チオニルに対する収率は76.0%であった。2,2’−ジチエニルスルフィドの純度は高速液体クロマトグラフ測定の結果、99.3%であった。
【0034】
実施例3
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた2L容の四つ口フラスコに、削り状マグネシウム29.2g(1.2モル)、シクロペンチルメチルエーテル500gを仕込み20〜50℃で、撹拌しながら2−ブロモ−5−メチルチオフェン177.1g(1.0モル)を2時間かけて滴下した後、さらに同温度で1時間撹拌し、メチルチオフェングリニャール試薬を調製した。その後、メチルチオフェングリニャール試薬を20℃に保温し、攪拌しながら塩化チオニル59.5g(0.5モル)を2時間かけて滴下し、希塩酸で洗浄した後2,2’−ビス−5−メチルチエニルスルホキシド溶液を得た。
次いで35%塩酸600.0g(5.8モル)と鉄粉54.0g(2.0モル)を加え、50℃で4時間撹拌を続け、反応液を得た。その後、前記反応液を濾過し、有機層を分液した後濃縮し、減圧蒸留し、2,2’−ビス−5−メチルチエニルスルフィド85.2gを得た。2,2’−ビス−5−メチルチエニルスルフィドの塩化チオニルに対する収率は75.3%であった。2,2’−ビス−5−メチルチエニルスルフィドの純度は高速液体クロマトグラフ測定の結果、99.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数4〜10のアリールチオ基、置換基を有していてもよい単環式炭素環基または置換基を有していてもよい単環式複素環基を示す。)で表されるジチエニルスルホキシド化合物を酸の存在下、還元剤を用いて還元する式(2):
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるジチエニルスルフィド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤が、亜鉛、鉄および錫からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属である請求項1に記載のジチエニルスルフィド化合物の製造方法。